説明

バナジウムのモノシクロペンタジエニル錯体の製造方法

【課題】毒性ガス、劇物等に指定されている塩素を使用しないバナジウムのモノシクロペンタジエニル錯体の製造方法を提供すること。
【解決手段】式(1):
CpVCl (1)
(式中、Cpはシクロペンタジエン骨格を有する炭化水素基を表す。)で示されるバナジウムのビスシクロペンタジエニル錯体をオキシ三塩化バナジウムと反応させることを特徴とする式(2):
CpVOCl (2)
(式中、Cpは前記に同じ。)で示されるバナジウムのモノシクロペンタジエニル錯体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オレフィン類及びジオレフィン類の重合用触媒として有用な化合物である、式(2):
CpVOCl (2)
(式中、Cpはシクロペンタジエン骨格を有する炭化水素基を表す。)で示されるバナジウムのモノシクロペンタジエニル錯体(以下、モノシクロペンタジエニル錯体(2)という。)の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、モノシクロペンタジエニル錯体(2)の製造方法としては、式(1):
CpVCl (1)
(式中、Cpは前記に同じ。)で示されるバナジウムのビス(シクロペンタジエニル)錯体(以下、ビスシクロペンタジエニル錯体(1)という。)を酸素及び/又は水の共存下で塩素と反応させる方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。この方法では、毒性ガス、劇物等に指定されている塩素を用いなければならないため、安全面での十分な対応が必要となり、製造工程が煩雑となる。したがって、本製造方法は、モノシクロペンタジエニル錯体(2)の工業的な製造方法として満足できるものではない。
【特許文献1】特開2003−155294号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記のように、従来のモノシクロペンタジエニル錯体(2)の製造方法は、工業的製造方法として満足すべきものでなかった。すなわち、本発明は上記問題を解決するモノシクロペンタジエニル錯体(2)の新規な製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らが、上記課題を解決するために鋭意検討したところ、塩素を用いることなく、ビスシクロペンタジエニル錯体(1)を毒性ガス、劇物等に指定されていないオキシ三塩化バナジウムと反応させることによりモノシクロペンタジエニル錯体(2)を製造することができる新規な方法を見出し、本発明を完成するに至った。
【0005】
即ち、本発明は、ビスシクロペンタジエニル錯体(1)をオキシ三塩化バナジウムと反応させることを特徴とするモノシクロペンタジエニル錯体(2)の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、製造工程で塩素を使用することなく、従来の製造方法に比べて簡便にビスシクロペンタジエニル錯体(1)からモノシクロペンタジエニル錯体(2)が製造できるので、本発明の製造方法は工業的利用価値が高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
前記式(1)及び式(2)中、Cpはシクロペンタジエン骨格を有する炭化水素基であり、シクロペンタジエニル基、置換シクロペンタジエニル基、インデニル基、置換インデニル基、フルオレニル基、置換フルオレニル基等が挙げられる。中でもシクロペンタジエニル基が好ましい。
【0008】
Cpが置換基を有する場合、置換基としては炭素数1〜10のアルキル基、ベンジル基又はトリアルキルシリル基が挙げられる。炭素数1〜10のアルキル基としては、例えばメチル基,エチル基,n−プロピル基,iso−プロピル基,n−ブチル基,iso−ブチル基,sec−ブチル基,tert−ブチル基,n−ペンチル基,n−ヘキシル基,n−オクチル基等が挙げられる。またトリアルキルシリル基としては、例えばトリメチルシリル基,トリエチルシリル基等が挙げられる。該置換基は2つ以上有していてもよい。
【0009】
ビスシクロペンタジエニル錯体(1)の具体例としては、ビス(シクロペンタジエニル)バナジウムジクロリド、ビス(メチルシクロペンタジエニル)バナジウムジクロリド、ビス(1,2−ジメチルシクロペンタジエニル)バナジウムジクロリド、ビス(1,3−ジメチルシクロペンタジエニル)バナジウムジクロリド、ビス(1,2,3−トリメチルシクロペンタジエニル)バナジウムジクロリド、ビス(1,2,4−トリメチルシクロペンタジエニル)バナジウムジクロリド、ビス(テトラメチルシクロペンタジエニル)バナジウムジクロリド、ビス(ペンタメチルシクロペンタジエニル)バナジウムジクロリド、ビス(1−メチル−2−エチルシクロペンタジエニル)バナジウムジクロリド、ビス(1−メチル−3−エチルシクロペンタジエニル)バナジウムジクロリド、ビス(1−メチル−2−プロピルシクロペンタジエニル)バナジウムジクロリド、ビス(1−メチル−3−プロピルシクロペンタジエニル)バナジウムジクロリド、ビス(エチルシクロペンタジエニル)バナジウムジクロリド、ビス(1,2−ジエチルシクロペンタジエニル)バナジウムジクロリド、ビス(1,3−ジエチルシクロペンタジエニル)バナジウムジクロリド、ビス(n−プロピルシクロペンタジエニル)バナジウムジクロリド、ビス(1,2−ジ−n−プロピルシクロペンタジエニル)バナジウムジクロリド、ビス(1,3−ジ−n−プロピルシクロペンタジエニル)バナジウムジクロリド、ビス(iso−プロピルシクロペンタジエニル)バナジウムジクロリド、ビス(1,2−ジ−iso−プロピルシクロペンタジエニル)バナジウムジクロリド、ビス(1,3−ジ−iso−プロピルシクロペンタジエニル)バナジウムジクロリドバナジウムジクロリド、ビス(n−ブチルシクロペンタジエニル)バナジウムジクロリド、ビス(1,2−ジ−n−ブチルシクロペンタジエニル)バナジウムジクロリド、ビス(1,3−ジ−n−ブチルシクロペンタジエニル)バナジウムジクロリド、ビス(tert−ブチルシクロペンタジエニル)バナジウムジクロリド、ビス(1,3−ジ−tert−ブチルシクロペンタジエニル)バナジウムジクロリド、ビス(n−ペンチルシクロペンタジエニル)バナジウムジクロリド、ビス(n−へキシルシクロペンタジエニル)バナジウムジクロリド、ビス(n−オクチルシクロペンタジエニル)バナジウムジクロリド、ビス(ベンジルシクロペンタジエニル)バナジウムジクロリド、ビス(トリメチルシリルシクロペンタジエニル)バナジウムジクロリド、ビス(ビス(トリメチルシリル)シクロペンタジエニル)バナジウムジクロリド、ビス(トリエチルシリルシクロペンタジエニル)バナジウムジクロリド、
【0010】
ビス(インデニル)バナジウムジクロリド、ビス(2−メチルインデニル)バナジウムジクロリド、ビス(2−エチルインデニル)バナジウムジクロリド、ビス(2−n−プロピルインデニル)バナジウムジクロリド、ビス(インデニル)バナジウムジクロリド、ビス(2−iso−プロピルインデニル)バナジウムジクロリド、ビス(2−n−ブチルインデニル)バナジウムジクロリド、ビス(2−tert−ブチルインデニル)バナジウムジクロリド、ビス(2−トリメチルシリルインデニル)バナジウムジクロリド、
【0011】
ビス(フルオレニル)バナジウムジクロリド、ビス(9−メチルフルオレニル)バナジウムジクロリド、ビス(9−エチルフルオレニル)バナジウムジクロリド、ビス(9−n−プロピルフルオレニル)バナジウムジクロリド、ビス(9−n−ブチルフルオレニル)バナジウムジクロリド等が挙げられる。
【0012】
かかるビスシクロペンタジエニル錯体(1)は、市販しているものをそのまま又は再結晶等の適当な方法により精製して用いてもよいし、第4版実験化学講座18(日本化学会編)、101頁に記載の方法により製造したものをそのまま又は再結晶等の適当な方法により精製して用いてもよい。
【0013】
モノシクロペンタジエニル錯体(2)の具体例としては、(シクロペンタジエニル)バナジウムオキシジクロリド、(メチルシクロペンタジエニル)バナジウムオキシジクロリド、(1,2−ジメチルシクロペンタジエニル)バナジウムオキシジクロリド、(1,3−ジメチルシクロペンタジエニル)バナジウムオキシジクロリド、(1,2,3−トリメチルシクロペンタジエニル)バナジウムオキシジクロリド、(1,2,4−トリメチルシクロペンタジエニル)バナジウムオキシジクロリド、(テトラメチルシクロペンタジエニル)バナジウムオキシジクロリド、(ペンタメチルシクロペンタジエニル)バナジウムオキシジクロリド、(1−メチル−2−エチルシクロペンタジエニル)バナジウムオキシジクロリド、(1−メチル−3−エチルシクロペンタジエニル)バナジウムオキシジクロリド、(1−メチル−2−プロピルシクロペンタジエニル)バナジウムオキシジクロリド、(1−メチル−3−プロピルシクロペンタジエニル)バナジウムオキシジクロリド、(エチルシクロペンタジエニル)バナジウムオキシジクロリド、(1,2−ジエチルシクロペンタジエニル)バナジウムオキシジクロリド、(1,3−ジエチルシクロペンタジエニル)バナジウムオキシジクロリド、(n−プロピルシクロペンタジエニル)バナジウムオキシジクロリド、(1,2−ジ−n−プロピルシクロペンタジエニル)バナジウムオキシジクロリド、(1,3−ジ−n−プロピルシクロペンタジエニル)バナジウムオキシジクロリド、(iso−プロピルシクロペンタジエニル)バナジウムオキシジクロリド、(1,2−ジ−iso−プロピルシクロペンタジエニル)バナジウムオキシジクロリド、(1,3−ジ−iso−プロピルシクロペンタジエニル)バナジウムオキシジクロリド、(n−ブチルシクロペンタジエニル)バナジウムオキシジクロリド、(1,2−ジ−n−ブチルシクロペンタジエニル)バナジウムオキシジクロリド、(1,3−ジ−n−ブチルシクロペンタジエニル)バナジウムオキシジクロリド、(tert−ブチルシクロペンタジエニル)バナジウムオキシジクロリド、(1,3−ジ−tert−ブチルシクロペンタジエニル)バナジウムオキシジクロリド、(n−ペンチルシクロペンタジエニル)バナジウムオキシジクロリド、(n−へキシルシクロペンタジエニル)バナジウムオキシジクロリド、(n−オクチルシクロペンタジエニル)バナジウムオキシジクロリド、(ベンジルシクロペンタジエニル)バナジウムオキシジクロリド、(トリメチルシリルシクロペンタジエニル)バナジウムオキシジクロリド、((トリメチルシリル)シクロペンタジエニル)バナジウムオキシジクロリド、(トリエチルシリルシクロペンタジエニル)バナジウムオキシジクロリド、
【0014】
(インデニル)バナジウムジクロリド、(2−メチルインデニル)バナジウムオキシジクロリド、(2−エチルインデニル)バナジウムオキシジクロリド、(2−n−プロピルインデニル)バナジウムオキシジクロリド、(インデニル)バナジウムオキシジクロリド、(2−iso−プロピルインデニル)バナジウムオキシジクロリド、(2−n−ブチルインデニル)バナジウムオキシジクロリド、(2−tert−ブチルインデニル)バナジウムオキシジクロリド、(2−トリメチルシリルインデニル)バナジウムオキシジクロリド、
【0015】
(フルオレニル)バナジウムオキシジクロリド、(9−メチルフルオレニル)バナジウムオキシジクロリド、(9−エチルフルオレニル)バナジウムオキシジクロリド、(9−n−プロピルフルオレニル)バナジウムオキシジクロリド、(9−n−ブチルフルオレニル)バナジウムオキシジクロリド等が挙げられる。
【0016】
次にビスシクロペンタジエニル錯体(1)をオキシ三塩化バナジウムと反応させる方法について説明する。その反応方法は特に制限されないが、例えばビスシクロペンタジエニル錯体(1)の溶液又はスラリーにオキシ三塩化バナジウムを添加することにより反応することができる。オキシ三塩化バナジウムの添加方法としては特に制限されないが、そのまま添加してもよいし、後述する溶媒に溶解した溶液を添加してもよい。
【0017】
オキシ三塩化バナジウムは通常市販品が用いられる。オキシ三塩化バナジウムの使用量はビスシクロペンタジエニル錯体(1)1モルに対して、通常1.0モル以上、好ましくは1.0〜6.0モル、より好ましくは1.0〜4.0モルである。
【0018】
反応は、無溶媒で行ってもよいが、通常は溶媒の存在下で行われる。溶媒を用いる場合には、用いる溶媒が反応に不活性であれば特に制限されないが、例えばジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素溶媒、トルエン、キシレン、メシチレン、クロロベンゼン等の芳香族炭化水素溶媒、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素溶媒等が挙げられ、これらは混合して用いることもできる。溶媒の使用量はビスシクロペンタジエニル錯体(1)1重量部に対して、通常0.5〜50重量部であり、好ましくは1〜30重量部、より好ましくは1〜20重量部である。
【0019】
反応温度は、通常0〜150℃であり、好ましくは20〜120℃、より好ましくは30〜100℃である。また、反応は通常不活性ガス雰囲気下で行われ、使用される不活性ガスとしては、例えば窒素ガス、アルゴンガス等が挙げられる。
【0020】
反応終了後の反応混合物からモノシクロペンタジエニル錯体(2)を取り出す方法としては、例えば得られた反応混合物を濃縮し、濃縮残渣に溶媒を加えて抽出後、抽出液を濃縮する方法等が挙げられる。このようにして取り出したモノシクロペンタジエニル錯体(2)は、再結晶等の通常の精製手段により、さらに精製することができる。
【実施例】
【0021】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はそれらの実施例に限定されるものではない。なお、すべての操作は窒素雰囲気下で行った。
【0022】
実施例1
ビス(シクロペンタジエニル)バナジウムジクロリド1.0gをトルエン10mLに懸濁し、その懸濁液に室温でオキシ三塩化バナジウム1.1mLを加えた後、80℃に昇温した。同温度で22時間反応し、得られた反応液を室温まで冷却、減圧下で濃縮し、残渣にトルエン20mLを加えて抽出し、さらに同抽出操作をもう一度繰り返した。得られた抽出液を濾過し、濾液を合わせて減圧下で濃縮、残渣にトルエン1mLを室温で加えた後、同温度でヘキサン3mLを加えて晶析することにより、(シクロペンタジエニル)バナジウムオキシジクロリド0.15g(収率18.5%)を得た。
【0023】
実施例2
反応溶媒としてクロロベンゼンを用いた以外は、実施例1と同様にして反応し(シクロペンタジエニル)バナジウムオキシジクロリドを得た。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1):
CpVCl (1)
(式中、Cpはシクロペンタジエン骨格を有する炭化水素基を表す。)で示されるバナジウムのビスシクロペンタジエニル錯体をオキシ三塩化バナジウムと反応させることを特徴とする式(2):
CpVOCl (2)
(式中、Cpは前記に同じ。)で示されるバナジウムのモノシクロペンタジエニル錯体の製造方法。
【請求項2】
Cpがシクロペンタジエニル基である請求項1に記載の製造方法