説明

バナナ作物における真菌増殖を制御するためのポリエン抗生物質

本発明は、ポリエン抗生物質が植物体に適用される、疾患に対してバナナ植物体を処置するプロセスに関する。特に、プロセスは、甚大な被害をもたらすシガトカおよびパナマ病からバナナ作物を保護するために記載されている。その意味では、バナナ植物体は、カビ増殖、特に、M.フィジェンシス(M.fijensis)およびフザリウム・オキシスポラム f sp.キューベンセ(Fusarium oxysporum f sp. cubense)を防止あるいは阻害するために所定の量のポリエン抗生物質を含んでなる調製物で処置される。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、バナナ植物体におけるミコスファエレラ(Mycosphaerella)およびフザリウム(Fusarium)の増殖を制御するための方法に関する。いわゆる黒シガトカ病(black Sigatoka)およびパナマ病の原因となるミコスファエレラ・フィジエンシス(Mycosphaerella fijiensis)およびフザリウム・オキシスポラム f sp.キューベンセ(Fusarium oxysporum f sp. cubense)は、高度の損失を生じ、バナナ種の生存に対し真の脅威を示す。
【0002】
フザリウム・オキシスポラム f sp.キューベンセ(Fusarium oxysporum f. sp. cubense)によって生じる萎ちょう病(パナマ病)は、最も広範に広がっており、歴史的に、バナナの最も重要な疾患である。周知の伝染病は、1900年代中ごろまで基部を有する輸出プランテーションに甚大な被害を及ぼし、世界各地で、地元消費される品種が影響を受け続けている。熱帯地方における耐性キャベンディッシュ(Cavendish)品種の導入は、1960年代の国際的なバナナの輸出貿易産業を救った。しかし、1970年代では、キャベンディッシュ(Cavendish)バナナは、南アフリカなどの亜熱帯諸国において疾患に侵された。
【0003】
疾患は、豪州、南アフリカおよびアジアの一部におけるプランテーションを介して広がった。それが中南米諸国およびカリブ海域諸国における商業的生産の中枢に到達するのも時間の問題である。疾患に対処するのに有効である制御ストラテジーは見出されておらず、ほとんどの成功は、感染植物体の単離および疾患の存在しないフィールドにおける組織培養植物体の植栽などの防止手段によって達成されている。しかし、今日では、パナマ病は再度、世界のバナナ生産を脅かしている。
【0004】
それにもかかわらず、バナナの生産は、ミコスファエレラ・フィジエンシス(Mycosphaerella fijiensis)によって生じるシガトカ病または「黒斑点病」により最も危険にさらされている。
【0005】
数十年間の間、ミコスファエレラ・ムシコラ(Mycosphaerella musicola)に起因する危険性の低い黄シガトカ病(yellow Sigatoka)−真菌病がバナナプランテーションにおいて発生した。疾患は、収穫期までの全成長期間中に葉を攻撃する。それは、最初に、葉表面に斑点および病班が生じ、葉組織の壊死および萎縮を招く。疾患の経過は、通常、緩徐であるが、活動的な葉の表面の減少は、植物体の脆弱化およびそれに関連する収量の消失をもたらす。その緩徐な発達のため、植物体に鉱油または鉱油と殺真菌剤との混合物を噴霧することによって、疾患を制御することが可能であった。
【0006】
黒シガトカ病(M.フィジェンシス(M.fijensis))は、約30年前、いくつかの中央アメリカ諸国においてはじめて発生した。10年以内に、黒シガトカ病は、中南米、中央および西アフリカならびにアジアの広範な地域のすべての重要なバナナ生育地域への自己加速的な(self−accelarating)広がりを伴うバナナにおける優勢な葉疾患となった。
【0007】
黒シガトカ病は、極めてより活動的に発症し、疾患サイクルが2倍の速さである点で、黄シガトカ病とは異なる。形成中であっても若葉に感染し、4〜5週間内に衰弱する。すべての世界的に重要なバナナテーブルの多様性を攻撃することに加えて、疾患はまた、広範な熱帯地域における原住民の食事を構成するプラインテーンフルーツ(plaintain fruit)を攻撃する。黒シガトカ病は、最も重要なバナナの生育地域で黄シガトカ病と完全に入れ代わっている。
【0008】
特に、それらの高い降水量を伴うアメリカ、アフリカおよびアジアの熱帯生育領域における黒シガトカ病の攻撃的(agressing)および流行的発生は、バナナ植物体の迅速な破壊をもたらす。感染した葉は黒変し、壊死し、衰弱する。黒シガトカ病に対する適切な保護を伴わないバナナの計画された生産は、もはや不可能となる。
【0009】
バナナ植物体に化学物質を噴霧することが、現在、適用されている。1980年代の初めに導入されたベンゾイミダゾール殺真菌剤は、2〜3週間の間隔で噴霧される場合、極めて有効であった。しかし、このクラスの製品の作用機序およびそれらの頻繁な適用のため、黒シガトカ病は、数年間でベンゾイミダゾール誘導体(deverivates)に対してほぼ完全な耐性を発達させた。
【0010】
いくつかの年数の間に、トリアゾール殺真菌剤は、黒シガトカ病に対する良好な成果を伴って使用されている。しかし、1年間あたりの噴霧適用回数は、耐性の発達を防止するため、それらの市場への導入以来、厳しく制限されている。このような手段にもかかわらず、感受性の大きな低下が既に観察されている。
【0011】
世界で最も人気の果物であり、途上地域の数億人の人々の基本的な主食−バナナ−が厳しい脅威に立たされていることが認識されている。M.フィジェンシス(M.fijensis)およびフザリウム・オキシスポラム f sp(Fusarium oxysporum f sp)は、10年間以内にバナナの絶滅を引き起こすことが可能である。このことは、バナナの生産に依存する5億人のアフリカ人およびアジア人にとって大惨事であり得る。
【0012】
農薬を与えることができる生産者は、1年間に50回まで耕作地に噴霧する。これは、先進国の集約農業の植物体において適用される平均的な頻度の10倍と同等である。噴霧は、生産コストの4分の1を構成し、高価であるだけでなく、労働者への深刻な危険性および環境への脅威を提示する。
【0013】
農薬の集約的な使用の次に、それほど積極的でない制御の方法が、栽培方法の改善である。黒シガトカ病を制御するための早期の加温システムが開発されている。システムは、若葉植物体に対する症状の週ごとの観察に基づく。殺真菌剤の適用の標的にするのは、疾患の重度が増加し始め、環境条件が疾患の発達に好都合である場合の特定の期間である。
【0014】
栽培方法は、疾患の発達のための条件を減少するのに重要な役割を果たす。しかし、これらの制御手段にもかかわらず、食用バナナ種の生存は、シガトカおよびパナマ病によって、かなり脅かされる。耐性の発達のリスクを伴わずに、かつ暴露されるヒトの健康および環境への危険を伴わない、バナナ植物体に対する真菌の増殖、特に、M.フィジェンシス(M.fijensis)およびフザリウム・オキシスポラム f sp.キューベンセ(Fusarium oxysporum f sp. cubense)の増殖を防止する有効な方法は、現在知られていない。
【0015】
本発明は、甚大な被害をもたらすシガトカおよびパナマ病からバナナ作物を保護するための解決方法を提供する。本発明に従えば、バナナ植物体は、カビ増殖、特に、M.フィジェンシス(M.fijensis)およびフザリウム・オキシスポラム f sp.キューベンセ(Fusarium oxysporum f sp. cubense)を防止あるいは阻害するのに有効な量のポリエン抗生物質を含んでなる調製物で処置される。
【0016】
ポリエン抗生物質の適切な例として、ナタマイシン、ナイスタチン、ルセンソマイシン(lucensomycin)またはアムホテリシンBがある。好適な化合物はナタマイシンである。処置はまた、2つもしくはそれ以上の上記の化合物の、または他の殺真菌剤との組み合わせによって適用することができる。本発明には、ポリエン殺真菌剤の誘導体、例えば、ポリエン殺真菌剤の塩(例えば、ナタマイシンのカルシウムおよびバリウム塩)、ポリエンの溶媒和物(例えば、ナタマイシンのメタノール溶媒和物)ならびにポリエン殺真菌剤の結晶修飾物(例えば、欧州特許公開第670676号明細書(1995年)に記載の通り)も含まれる。
【0017】
予想外にも、本発明者らは、M.フィジェンシス(M.fijensis)およびフザリウム・オキシスポラム f sp.キューベンセ(Fusarium oxysporum f sp. cubense)種が低濃度のナタマイシンに感受性であったことを見出した。
【0018】
ナタマイシンは、チーズおよびソーセージにおける真菌の生育を防止するために、30年を超えて使用されている。そのような食品は、水中のナタマイシン懸濁液への浸漬または該懸濁液による噴霧によって処置される。あるいは、チーズおよびソーセージは、ナタマイシンを含有する水中ポリマーのエマルジョンによって、被覆され得る。通常、浸漬または噴霧処置のための水性懸濁液は、0.1%〜0.2%w/vのナタマイシンを含有する一方、被覆目的のためのポリマーエマルジョンは、0.01%〜0.05%w/vナタマイシンを含有する。ナタマイシンについてのほとんどの真菌のMIC(最小阻害濃度)は、20ppm未満である一方、水へのその溶解度は30〜50ppmである。
【0019】
ナタマイシンの溶解画分のみが抗真菌活性を有する。溶解したナタマイシンの変性は、一般に、結晶として存在するナタマイシンの溶解および混入の部位への溶解したナタマイシンの拡散によって、十分に補正される。
【0020】
長年の抗真菌剤の連続使用後に、ナタマイシン耐性真菌は一度も見出されていない。そのため、普通の条件下では、ナタマイシンは、真菌の攻撃に対して、十分に、バナナ植物体のような植物作物を保護する。
【0021】
ポリエン殺真菌剤、例えば、ナタマイシンは、感染の危険性が高い場合、バナナ作物に対して定期的に噴霧することができる。感染の危険性がより低い場合、雨季以外は、噴霧間隔はより長くてもよい。ナタマイシンは、防止的に噴霧することができる。ナタマイシンの特定の利点は、低濃度でのその有効性および頻回の暴露後であっても微生物耐性の発達が認められないことにある。
【0022】
さらに、ナタマイシンは、暴露されたヒトの健康および環境に対する危険要素を何ら提示しない。従って、それは、改善された栽培手段による組み合わされた制御ストラテジーに特に適切である。M.フィジェンシス(M.fijensis)およびフザリウム・オキシスポラム f sp(M. fijensis and Fusarium oxysporum f sp)によるバナナ植物体の混入は、10年間以内に、バナナの絶滅を引き起こす可能性があることが認識されている。このことは、バナナの生産に依存する5億人のアフリカ人およびアジア人にとって大惨事であり得る。抗真菌化合物の最小有効量を決定するための方法については、実施例1に記載されている。本発明者らは、ナタマイシンがM.フィジェンシス(M.fijensis)およびフザリウム・オキシスポラム f sp.(Fusarium oxysporum f sp.)の増殖に対して特に有効であることを見出した。本発明は、シガトカおよびパナマ病からのバナナ植物体の保護に特に適切である。
【0023】
適切な担体およびアジュバントは、固体であってもまたは液体であってもよく、鉱物性物質、溶媒、分散剤、湿潤剤、増粘剤、結合剤、界面活性剤、安定剤、消泡剤および抗酸化剤ならびに特別な効果を得るための他の任意の天然の化合物を含む、処方技術において通例用いられる適切な物質に対応する。
【0024】
実施例1
本実施例は、バナナ生産の莫大な消失の原因となり、バナナ植物体の生存を危険にさらすM.フィジェンシス(M.fijensis)およびフザリウム・オキシスポラム f sp(Fusarium oxysporum f sp)に対するナタマイシンの抗真菌効果を実証する。
【0025】
これらのカビの最小阻害濃度または抗真菌化合物の最小有効量を、当該分野において周知である寒天拡散法を使用して決定した。カビ胞子を、異なる濃度のナタマイシンを含有する寒天プレート上で生育させた。目視で生育が観察できなかったナタマイシンの濃度を、特定のカビの株に対する最小阻害濃度(MIC)とみなした。M.フィジェンシス(M.fijensis)およびフザリウム・オキシスポラム f sp(Fusarium oxysporum f sp)胞子の生育は、3〜7ppmの間のナタマイシン濃度(contration)によって阻害されたことが見出された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエン抗生物質が植物体に適用される、疾患に対してバナナ植物体を処置するプロセス。
【請求項2】
ナタマイシンが使用される、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
ポリエン抗生物質が植物体に噴霧される、請求項1または2に記載のプロセス。
【請求項4】
ミコスファエレラ・フィジェンシス(Mycosphaerella fijensis)またはフザリウム・オキシスポラム(Fusarium oxysporum)を処置するためのポリエン抗生物質の使用。
【請求項5】
ミコスファエレラ・フィジェンシス(Mycophaerella fijensis)またはフザリウム・オキシスポラム(Fusarium oxysprorum)を処置するためのナタマイシンの使用。
【請求項6】
ミコスファエレラ・フィジェンシス(Mycophaerella fijensis)またはフザリウム・オキシスポラム(Fusarium oxysporum)が植物体、好ましくは、バナナ植物体に存在する、請求項4または5に記載の使用。

【公表番号】特表2007−520516(P2007−520516A)
【公表日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−551799(P2006−551799)
【出願日】平成17年1月31日(2005.1.31)
【国際出願番号】PCT/EP2005/001052
【国際公開番号】WO2005/074687
【国際公開日】平成17年8月18日(2005.8.18)
【出願人】(503220392)ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ. (873)
【Fターム(参考)】