説明

バラスト水処理装置及び処理方法

【課題】バラスト水中の細菌類とプランクトンを確実に死滅し、かつ有害物の排出を防止できるバラスト水の処理装置および処理方法を提供する。
【解決手段】船舶のバラストタンクに注水する海水に塩素殺菌剤を供給する塩素殺菌剤供給装置5と、塩素殺菌剤が供給された海水を所定時間滞留させる滞留槽7と、該滞留槽7の下流側に設けられて滞留槽7にて所定時間滞留した海水に過酸化水素を供給する過酸化水素供給装置8と、を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶のバラストタンクに積み込むバラスト水に含まれる有害細菌類とプランクトン及び微生物を効率的に殺滅するための装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、空荷または積荷が少ない状態の船舶は、プロペラ没水深度の確保、空荷時における安全航行の確保等の必要性から、出港前にバラスト水の注水を行う。逆に港内で積荷をする場合には、バラスト水の排出を行う。
ところで、環境の異なる荷積み港と荷下し港との間を往復する船舶によりバラスト水の注排水が行われると、バラスト水に含まれる微生物の差異により沿岸生態系に悪影響を及ぼすことが懸念されている。
そこで、船舶のバラスト水管理に関する国際会議において2004年2月に船舶のバラスト水及び沈殿物の規制及び管理のための国際条約が採択され、バラスト水の処理が義務付けられることとなった。
【0003】
バラスト水の処理基準として国際海事機構(IMO)が定める基準(IMOバラスト水処理基準)は、船舶から排出されるバラスト水に含まれる50μm以上の生物(主に動物プランクトン)の数が1m中に10個未満、10μm以上50μm未満の生物(主に植物プランクトン)の数が1ml中に10個未満、コレラ菌の数が100ml中に1cfu未満、大腸菌の数が100ml中に250cfu未満、腸球菌の数が100ml中に100cfu未満となっている。
【0004】
バラスト水の処理技術としては、現在開発中のものが多いが、従来技術としては、バラストタンクへ注水中のバラスト水に塩素系殺菌剤または過酸化水素を混入することにより有害藻類のシストを死滅させて殺菌する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
そして、特許文献1に記載の方法においては、バラスト水を排出する際に曝気装置によりバラスト水に空気を吹き込んで残留塩素を無害化するようにしている。
【特許文献1】特開平4−322788号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1においては、バラスト水に塩素系殺菌剤または過酸化水素を添加することにより有害藻類のシストを死滅させて殺菌し、残留塩素についてはバラスト水排出時に曝気装置によりバラスト水に空気を吹き込んで残留塩素を無害化するとしている。
しかしながら、特許文献1に記載の方法のうち塩素系殺菌剤を添加する方法では、バラスト水に塩素系殺菌剤を添加して有害藻類のシストを死滅させとしてもその後、残留塩素がバラスト水中の有機物と反応して有害なトリハロメタンが生成する。ところが、特許文献1においてはこのトリハロメタンに関しては何らの考慮もされていない。トリハロメタンは曝気装置によりバラスト水に空気を吹き込んでも、極一部は気相に移行するものの大部分は残留して無害化されないため、バラスト水とともに排出され環境に悪影響を与えるという問題がある。
また、過酸化水素を添加する方法の場合には、過酸化水素によってバラスト水中の細菌類をIMOバラスト水処理基準を充足する程度まで死滅させることは困難であるという問題がある。
【0006】
本発明は、かかる状況を鑑み、バラスト水中のプランクトンと細菌類を確実に死滅させ、かつ有害物の排出を防止できるバラスト水の処理装置および処理方法を提供することを目的する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題に鑑み船舶のバラスト水に含まれるプランクトン、細菌類を除去、殺滅するに際し、塩素系殺菌剤を使用した場合においてトリハロメタンの生成を抑制して、環境に悪影響を与えることのないバラスト水処理装置および処理方法を提供するべく鋭意研究を行った結果、本発明を完成するに至ったものであり、具体的には以下の構成を有する。
【0008】
(1)本発明に係るバラスト水処理装置は、船舶のバラストタンクに注水する海水に塩素殺菌剤を供給する塩素殺菌剤供給装置と、塩素殺菌剤が供給された海水を所定時間滞留させる滞留器と、該滞留器の下流側に設けられて滞留器にて所定時間滞留した海水に過酸化水素を供給する過酸化水素供給装置と、過酸化水素が供給された海水をバラストタンクに送水する送水装置と、を備えたことを特徴とするものである。
【0009】
海水中に塩素殺菌剤を供給することによってプランクトンと細菌類を死滅させることができるが、細菌類の殺菌後に残留した塩素殺菌剤が海水中の有機物と反応してトリハロメタンが生成される。図2は塩素殺菌剤注入後の海水中のトリハロメタン濃度の時間変化を示すグラフであり、縦軸がトリハロメタン濃度(mg/l)を示し、横軸が経過時間(分)を示している。
図2に示すグラフにおいては、塩素殺菌剤を有効塩素の重量濃度が5mg/l、10mg/l、50mg/l、100mg/lとなるように注入した4つの場合について測定したものが示されているが、図2から分かるようにトリハロメタンの生成量は塩素殺菌剤の供給量が異なってもほとんど差がない。
【0010】
図2に示されるように、残留塩素がなくなるまでトリハロメタンの生成は続き、トリハロメタン濃度は時間の経過とともに増大する。図2に示した例においては、塩素殺菌剤を添加してから1分後ではトリハロメタンの生成量は総生成量の1/10程度以下である。このことから、塩素殺菌剤を供給して細菌類を死滅した後、直ちに塩素還元剤を供給して還元処理を行ない残留塩素を失効させればトリハロメタンの生成は抑制できることが分かる。
他方、塩素殺菌剤によって細菌類と50μm未満のプランクトンを短時間でほとんど死滅させることができるが、50μm以上のプランクトンも死滅させるためには、有効塩素をある程度の時間海水中に残留させなければならない。しかし、50μm以上のプランクトンを死滅させるために、有効塩素を長時間海水中に残留させると、トリハロメタンの生成量が増加してしまう。
【0011】
そこで、本発明においては、塩素殺菌剤により細菌類を死滅させるための有効塩素との接触時間を適切に確保すると共に、長時間塩素が残留することによるトリハロメタン生成を抑制するため、バラスト水に塩素殺菌剤を供給後、有効塩素による細菌類の死滅処理に必要とされる所定時間だけ海水を滞留させて殺菌処理を行う滞留器を設け、滞留器から排出される海水に過酸化水素を供給して残留塩素を還元して失効させ、トリハロメタンの生成を抑制し、さらに塩素殺菌剤による処理だけでは完全に死滅されずに残存する50μm以上のプランクトンを過酸化水素により死滅させ、細菌類とともにプランクトンも死滅処理された海水をバラストタンクに送水させるようにしている。
すなわち、海水に塩素殺菌剤を供給後、細菌類を死滅させるのに十分な時間で、かつトリハロメタン生成を抑制できるような時間、有効塩素を残留させた海水を滞留させて、その後、残留塩素を還元処理するために過酸化水素を供給して、残留塩素を還元し失効させてトリハロメタンの生成を抑制する。
【0012】
残留遊離塩素に過酸化水素を添加すると次式の通り遊離塩素が還元される。
Cl2 +2e- → 2Cl-
H2O2 → 2H+ + O2 +2e-
Cl2 + H2O2 →2H+ + 2Cl- + O2
残留遊離塩素に対して、残留遊離塩素の重量濃度の0.5倍量の過酸化水素が反応して還元して失効させて、トリハロメタンの生成を抑制する。
【0013】
さらに、残存する50μm以上のプランクトンを過酸化水素により死滅させる。
過酸化水素の細菌類の殺菌作用は塩素殺菌剤に比べて穏和であるが、トリハロメタン生成を抑制できる条件で塩素殺菌剤による細菌類の殺菌を行い、塩素殺菌剤処理だけでは残存する50μm以上のプランクトンを過酸化水素により死滅させるというように、塩素殺菌剤処理の後に過酸化水素処理を行うという複合処理によって細菌類とプランクトンの死滅処理を行うことにより、IMOバラスト水処理基準を充足できる処理が可能となり、トリハロメタンの生成も抑制できる。
さらに、死滅処理を行った海水をバラストタンクに送水して、バラスト水中に過酸化水素を残存させて貯留することにより、IMOバラスト水処理基準を充足するように維持することができる。
【0014】
ここで滞留とは、海水に塩素殺菌剤を供給した後、過酸化水素を供給するまでの所定時間、塩素殺菌剤が供給された海水を塩素殺菌剤による殺菌状態に置くことをいい、海水の流れの状態は問わない。つまり、海水を槽内に貯留して全く流れない状態にしたり、配管内を一定の流速で流れる状態にすることを含む。よって、滞留器とは、海水を貯留する滞留槽や海水を一定の速度で流す滞留配管などを含む。
なお、塩素殺菌剤としては次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カルシウム、塩素ガスが用いられ、いずれも海水中で次亜塩素酸または次亜塩素酸イオンの形態で有効塩素として存在する。
また、過酸化水素としては、過酸化水素水が用いられる。
【0015】
(2)また、上記(1)に記載のものにおいて、過酸化水素が供給されバラストタンクに貯留された海水を海洋に排出する前に又は排出するときに、海水に過酸化水素分解剤を供給する過酸化水素分解剤供給装置を備えたことを特徴とするものである。
【0016】
バラストタンクに貯留された海水中に残留する過酸化水素を、過酸化水素分解剤を供給することによって分解し、海洋に排出しても影響を及ぼさないようにする。過酸化水素分解剤としては、カタラーゼ、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウムなど過酸化水素を還元分解するものが用いられる。
【0017】
(3)また、上記(1)または(2)の滞留器は、塩素殺菌剤を供給してから過酸化水素を供給するまでの時間を0.05〜10分とする滞留が可能であることを特徴とするものである。
【0018】
滞留器での滞留時間は、細菌類を死滅させるのに十分な時間で、かつトリハロメタン生成をできるだけ抑制できる時間であることが必要である。
この点、図2のグラフに示されるように、塩素殺菌剤を供給した後の経過時間を10分以下にすれば、すなわち滞留時間を10分以下にすれば、生成されるトリハロメタン濃度は日本の飲料水基準である0.1mg/l以下である。よって、トリハロメタン生成を抑制するという観点からは、滞留時間を10分以下にするのが好ましい。
【0019】
他方、細菌類を死滅させるという観点からは、細菌死滅に必要な時間の滞留が必要になる。そこで、以下においては細菌死滅に必要な滞留時間について検討した。
IMOのバラスト水処理基準では、細菌残存数は、コレラ菌については100ml中に1cfu未満、大腸菌については100ml中に250cfu未満、腸球菌については100ml中に100cfu未満となることが求められている。
そこで、この基準を満たすために必要な海水中の残留塩素濃度と、残留有効塩素の接触時間との関係を求めた。
【0020】
図3は、海水中の残留塩素濃度と、残留有効塩素の接触時間との関係を両対数グラフで表したものであり、縦軸が残留塩素濃度(mg/l)を示し、横軸が接触時間(分)を示している。処理対象海水中の細菌数の大小により、目標とする細菌残存率は異なるが、図3においては細菌残存率を10-5、10-3とした場合について表している。細菌数の多い処理対象海水では目標細菌残存率を小さくすることになる。
【0021】
図3のグラフに示されるように、いずれの細菌残存率の場合においても残留塩素濃度を大きくすれば接触時間を短くできる。そこで、本実験で得た結果としては、例えば目標細菌残存率が10-3の場合、残留塩素濃度を20mg/lとすれば、接触時間は0.05分で足りる。なお、接触時間を10分とすると、必要な残留塩素濃度は0.1mg/lとなる。
また、目標細菌残存率が10-5の場合、残留塩素濃度を100mg/lとすれば、接触時間は0.05分で足りる。なお、接触時間を10分とすると、必要な残留塩素濃度は0.4mg/lとなる。
【0022】
図3のグラフに示される検討結果から、滞留器での滞留時間すなわち細菌と残留有効塩素との接触時間は、残留塩素濃度を大きくすれば極めて短時間に設定することができることが分かった。しかし、大量の海水をバラストタンクに送水する途中に滞留器を設けるという実際の実施の観点からは、本実験で行った0.05分を下限値とすることが好ましい。
以上のように、接触時間を0.05〜10分とすれば、処理対象とする海水に応じて塩素殺菌剤の残留有効塩素濃度を0.1〜100mg/lの範囲で適宜調整して、トリハロメタンの発生を抑制して細菌類を死滅させることができる。
したがって、接触時間を0.05〜10分とすることが可能になるように、塩素殺菌剤を供給してから過酸化水素を供給するまでの時間、すなわち滞留時間を0.05〜10分とする滞留が可能である滞留器を備えることにより、細菌類を処理基準にまで死滅させることができる。
【0023】
(4)上記(1)〜(3)に記載の滞留器は、バラストタンク内に形成されていることを特徴とするものである。
【0024】
バラストタンクの一部を滞留器として用いることにより、滞留器を新たに備える必要がなく、既存船舶への適用が容易であり、設備費を低減できる。
【0025】
塩素殺菌剤供給装置の上流側に海水をろ過して水生生物を捕捉するろ過装置を備えるようにするとさらに好適である。
ろ過装置を設けることによって、ろ過装置によって海水中の動物性プランクトン等比較的大型の水生生物を捕捉して除去できるため、ろ過装置を設けない場合に比べて塩素殺菌剤の供給量を低減でき、また過酸化水素の供給量を低減でき、さらに滞留器を小さくすることができる。
なお、ろ過装置としては、目開きが10〜200μmのものを用いるのが好ましく、特に目開き20〜35μm程度のものを用いるのが、捕捉率と逆流洗浄頻度とを最適に設定できるので、特に好ましい。
【0026】
(5)本発明に係るバラスト水処理方法は、船舶のバラストタンクに注水する海水に塩素殺菌剤を供給する塩素殺菌剤供給工程と、塩素殺菌剤が供給された海水を所定時間滞留させる滞留工程と、所定時間滞留された海水に過酸化水素を供給する過酸化水素供給工程と、を備えたことを特徴とするものである。
【0027】
(6)また、上記(5)における滞留工程の滞留時間を0.05〜10分に設定したことを特徴とするものである。
ここに言う滞留時間とは、海水に塩素殺菌剤を供給してから過酸化水素を供給するまでの時間をいう。
【0028】
(7)また、上記(5)または(6)に記載のものにおいて、海水中の有効塩素量の重量濃度を0.1〜100mg/lの範囲内で適宜調整して塩素殺菌剤を供給することを特徴とするものである。
【0029】
海水中の有効塩素量の重量濃度を0.1〜100mg/lの範囲内で適宜調整して塩素殺菌剤を供給することにより、海水の水質(有機物濃度等)や生息するプランクトンや細菌類の種類、数量が異なっていても、細菌類を処理基準にまで死滅させることができる。さらに、海水中の有効塩素量の重量濃度を滞留工程の滞留時間に対応するように0.1〜100mg/lの範囲内で適宜調整して塩素殺菌剤を供給することにより、トリハロメタンの発生を抑制して細菌類を死滅させることができる。
なお、塩素殺菌剤を供給して海水中の有効塩素量の重量濃度が0.1mg/lより小さいと有効塩素が水中の還元性物質、有機物と反応して残留せず、細菌類やプランクトンを死滅できないし、100mg/lより大きいと腐食の問題や塩素殺菌剤の費用や塩素殺菌剤貯留槽が大きくなり高コストとなる等の問題があり、不具合が生じる。
【0030】
(8)また、上記(5)〜(7)に記載のものにおいて、海水中の過酸化水素の重量濃度を0.1〜200mg/lとするように過酸化水素を供給することを特徴とするものである。
【0031】
海水中の過酸化水素の重量濃度が0.1〜200mg/lとなるように過酸化水素を供給することにより、貯留工程の後の海水中の残留有効塩素を還元して、トリハロメタンの発生を抑制するとともに、塩素殺菌剤による死滅処理後も残存するプランクトンを処理基準にまで死滅させることができる。さらに、バラストタンクに貯留されるバラスト水中に過酸化水素を残留させ、バラスト水処理基準を維持することができる。
なお、海水中の過酸化水素の重量濃度が0.1mg/lより小さいと残留有効塩素を十分に還元することができず、またプランクトンを死滅できないし、200mg/lより大きいとバラスト水を排出する際に供給する過酸化水素分解剤量が多くなり高コストとなる等の問題があり、不具合が生じる。
【発明の効果】
【0032】
本発明においては、船舶のバラストタンクに注水する海水に塩素殺菌剤を供給し、所定時間滞留させた後、過酸化水素を供給するようにしたので、海水中のプランクトンと細菌類を死滅させて、IMOバラスト水処理基準を充足する有害生物を含まない海水をバラスト水として供給でき、かつ、塩素殺菌剤によるトリハロメタンの生成を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
[実施の形態1]
以下、図面を用いて、本発明に係るバラスト水処理装置について、最良の形態の一例を具体的に説明する。
図1は本実施の形態に係るバラスト水の処理装置を示す図である。本実施の形態に係るバラスト水処理装置は、図1に示すように、海水を船内に取り込むための海水取水ライン1、海水取水ライン1によって取水された海水中の粗大物を除去する粗ろ過装置2、海水を取り込むため、あるいは後述のバラストタンク11のバラスト水を海洋に排出するためのポンプ3、粗ろ過装置2によって粗大物が除去された海水中に存在するプランクトン類を除去するろ過装置4、ろ過装置4でろ過された海水に細菌類を死滅させる塩素殺菌剤を供給する塩素殺菌剤供給装置5、ろ過装置4でろ過されたろ過水と塩素殺菌剤供給装置5から供給される塩素殺菌剤の供給を受けてろ過水に塩素殺菌剤を拡散させる第1の拡散器6、塩素殺菌剤を添加された海水を所定時間滞留させる滞留槽7、滞留槽7から導出された海水に過酸化水素を供給する過酸化水素供給装置8、滞留槽7から導出された海水と過酸化水素供給装置8から供給される過酸化水素の供給を受けて前記海水に過酸化水素を拡散させる第2の拡散器9、過酸化水素が添加された処理水を後述のバラストタンク11に送水する処理水送水管10、処理水送水管10から送水される処理水を貯留するバラストタンク11、バラストタンク11に貯留されたバラスト水に対してその排水時に過酸化水素分解剤を供給する過酸化水素分解剤供給装置13、排水されるバラスト水と過酸化水素分解剤の供給を受けて前記バラスト水に過酸化水素分解剤を拡散させる第3の拡散器15、を備えている。
【0034】
上記の各機器類は配管によって接続されているが、特に、粗ろ過装置2とポンプ3は配管17によって、ポンプ3とろ過装置4とは配管19によって、バラストタンク11とポンプ3は配管21及び配管17によって、ポンプ3と第3の拡散器15は配管19及び配管23によって、それぞれ接続されている。
また、配管17には開閉弁25が、配管19には開閉弁27が、配管21には開閉弁29が、配管23には開閉弁31が、それぞれ設けられている。そして、これら開閉弁25、27、29、31の開閉操作によって、海水をバラストタンク11へ給水する給水ラインとバラストタンク11のバラスト水を海に排水する排水ラインが構成される。
以下、各装置をさらに詳細に説明する。
【0035】
<粗ろ過装置>
粗ろ過装置2は、船側部に設けられたシーチェスト(海水吸入口)から取水され、ポンプ3によって海水取水ライン1を通して取水される海水中に含まれる大小様々な夾雑物、水生生物のうち10mm程度以上の粗大物を除去するためのものである。
粗ろ過装置2としては10mm程度の孔を設けた筒型ストレーナ(こし器)、水流中の粗大物を比重差により分離するハイドロサイクロン、回転スクリーンにより粗大物を捕捉し掻揚げ回収する装置等を用いることができる。
【0036】
<ろ過装置>
ろ過装置4は粗ろ過装置2によって粗大物が除去された海水中に存在するプランクトン類を除去するものであり、目開き10〜200μmのものを用いる。
目開きを10〜200μmにしたのは動物性プランクトン、植物性プランクトンの捕捉率を一定のレベルに保ちつつ、逆流洗浄頻度を少なくして寄港地でのバラスト水処理時間を短縮するためである。逆に言えば、目開きが200μmより大きいと動物プランクトン、植物プランクトンの捕捉率が著しく低くなるし、目開きが10μmより小さいと逆流洗浄頻度が多くなり寄港地でのバラスト水処理時間が長くなるので好ましくない。特に目開き20〜35μm程度のものを用いるのが、捕捉率と逆流洗浄頻度とを最適に設定できるので、好ましい。
また、ろ過装置4は、ろ過面積1mあたり1日200m以上のろ過速度が得られることが望ましい。ただし、ろ過モジュールの集積によって、より小型化が可能な場合には特に限定しない。
【0037】
ろ過装置4の具体例としては、ノッチワイヤフィルタまたはウェッジワイヤフィルタを用いることが好ましい。
ノッチワイヤフィルタとは、ノッチ(突起)を設けたワイヤを枠体に巻きつけてノッチによりワイヤ同士の間隔を保持してろ過通路寸法を10〜200μmにした筒型のエレメントをケーシング内に保持し、送水と逆洗浄のためのバルブと配管を設けたものである。このノッチワイヤフィルタの具体例としては、神奈川機器工業製ノッチワイヤフィルタがある。
このノッチワイヤフィルタをろ過エレメントとして複数備え、逆洗手段を備えたものが特開2001−170416に開示されている。ろ過エレメント集合基板や、それぞれのろ過エレメントに小型超音波振動子を取り付け、逆洗時に超音波振動を付加することにより、逆洗浄効果を増大させ、逆洗浄の間隔を延ばしてろ過効率を高めることができる。
ウェッジワイヤフィルタとは、断面が三角形のワイヤを枠体に巻きつけてワイヤ同士の間隔を調整してろ過通路寸法を10〜200μmにした筒型のエレメントをケーシング内に保持し、送水と逆洗浄のためのバルブと配管を設けたものである。このウェッジワイヤフィルタの具体一例としては、東洋スクリーン工業製ウェッジワイヤフィルタがある。
【0038】
また、ろ過装置4の他の好ましい具体例として積層ディスク型ろ過器がある。積層ディスク型ろ過器とは、両面に複数の斜状溝を形成したドーナツ型のディスクを軸方向に圧締して積層して環状にしたものであり、隣接するディスクの溝によって形成される間隙に通水して、水生生物をろ過するものである。斜状溝の寸法を適宜設定することにより目開きを10〜200μmに設定してろ過する。
なお、積層ディスク型ろ過器においては、逆洗時にはディスクの圧締を解除して、間隙を大きくしてろ過残渣を除去する。この積層ディスク型ろ過器の具体例としては、Arkal Filtration Systems製のSpin Klin Filter Systemsがる。
【0039】
なお、ろ過装置4としては、上記の2種類のろ過装置の他、例えば密閉型砂ろ過器、ろ布ろ過器、金属繊維ろ過器など他の種々のろ過装置を用いることができる。
【0040】
<塩素殺菌剤供給装置>
塩素殺菌剤供給装置5はろ過装置4によってろ過されて第1の拡散器6に供給される海水に細菌類を死滅させる塩素殺菌剤を供給するものである。供給する塩素殺菌剤としては、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カルシウム、塩素ガスが使用できる。
【0041】
なお、塩素殺菌剤は海水中の有効塩素量の重量濃度を0.1〜100mg/lとするように供給することが好ましい。
その理由は、塩素殺菌剤を供給して海水中の有効塩素量の重量濃度が0.1mg/lより小さいと有効塩素が水中の還元性物質、有機物と反応して残留せず、細菌類やプランクトンを死滅できないし、100mg/lより大きいとトリハロメタン生成量が増大し、また腐食の問題や塩素殺菌剤の費用や塩素殺菌剤貯留槽が大きくなり高コストとなる等の問題があり、不具合が生じるからである。
塩素殺菌剤は第1の拡散器6の上流側および/または第1の拡散器6に供給される。
【0042】
<拡散器>
第1の拡散器6は、ろ過装置4でろ過されたろ過水と塩素殺菌剤供給装置5から供給される塩素殺菌剤の供給を受けて海水(ろ過水)に塩素殺菌剤を拡散させる。
第1の拡散器6として、ベンチュリ管を用いることが好ましい。
第1の拡散器6としてベンチュリ管を用いた場合には、ベンチュリ管は塩素殺菌剤を海水中に拡散させると共に、ろ過装置4を通過したプランクトンに対してキャビテーションにより損傷を与えるか殺滅する作用を発揮することができる。
【0043】
ここで、ベンチュリ管の構造および作用を説明する。
ベンチュリ管は、管路断面積が徐々に小さくなる絞り部、最小断面積部であるのど部、徐々に管路断面積が広がる広がり部(ディフューザ部)からなる。のど部での流速の急上昇に伴う静圧の急激な低下によりキャビテーション気泡が発生し、広がり部での流速の低下に伴う急激な圧力上昇により成長したキャビテーション気泡が急激に崩壊するようなキャビテーションが発生する。
【0044】
キャビテーションによって海水中に塩素殺菌剤を急速に拡散させて塩素殺菌剤による細菌類の殺菌作用を促進させる。このようにキャビテーションの拡散作用により塩素殺菌剤の海水中への混合が促進されるため、塩素殺菌剤を注入するだけの場合に比べて塩素殺菌剤の供給量を低減でき、塩素殺菌剤を還元して無害化するための過酸化水素の供給量を低減できると共にトリハロメタンの生成量を低減して環境への影響を低減できる。
また、海水中の水生生物はキャビテーション気泡が崩壊することによる衝撃圧、せん断力、高温、酸化力の強いOHラジカルの作用などにより、損傷を与えられるか破壊されて殺滅される。このベンチュリ管のキャビテーションによれば、特に、比較的固い殻を有する原虫類、動物プランクトンの外殻を破壊し、塩素殺菌剤や滞留槽7から導出された海水に供給する過酸化水素の浸透を促進して死滅させることができる。
【0045】
なお、ベンチュリ管に海水を供給する際には、ベンチュリ管ののど部における海水の流速を10〜40m/secとするように海水を送水するのが好ましい。
この理由は以下の通りである。海水を取水してバラストタンクに通水する配管の途中にバラスト水処理装置を設置した場合、配管内の海水の流速がベンチュリ管入り口では通常2〜3m/sであるが、ベンチュリ管のど部の流速が10m/secより小さいと、のど部での流速の上昇比率が十分でなくこれに伴う静圧の急激な低下が十分でないため、大気圧下においてもキャビテーションが発生しない。
一方、ベンチュリ管のど部の流速が40m/sより大きいとキャビテーション現象が過剰に発生しベンチュリ管通過に伴う圧力損失が過大となり送水のために消費されるエネルギーが過大となるため、ポンプ動力が過大となり高コストとなる。
【0046】
また、ベンチュリ管に海水を供給する際には、ベンチュリ管の圧力損失水頭を5〜40mとするように海水を送水することが好ましい。
この理由は、損失水頭が5mより小さいとキャビテーションを発生させる事が出来ず、40mより大きいと船舶に備えられているバラスト水ポンプとして用いられている大流量ポンプでは対応できなくなり不具合が生じるからである。
【0047】
第1の拡散器6としてベンチュリ管を用いた場合には、塩素殺菌剤はベンチュリ管の上流側および/またはベンチュリ管ののど部に供給される。
塩素殺菌剤をベンチュリ管の上流側に供給する利点としては以下の点が挙げられる。塩素殺菌剤をベンチュリ管の上流側に供給した場合、塩素殺菌剤がキャビテーションが発生するベンチュリ管ののど部に達するまでに塩素殺菌剤を流路内において海水にある程度拡散させておくことができる。そして、ある程度拡散した塩素殺菌剤がベンチュリ管ののど部に達したときにキャビテーションにより塩素殺菌剤の拡散、混合をさらに進めることができる。このため、塩素殺菌剤の細菌類への浸透をより促進することが可能となり、塩素殺菌剤の殺滅効果をより促進できる。
塩素殺菌剤をベンチュリ管の上流側に供給するためには、ベンチュリ管よりも上流側の流路内に塩素殺菌剤の注入口を設けておけばよい。
なお、塩素殺菌剤をベンチュリ管ののど部に供給する場合には、ベンチュリ管のエジェクタ作用により自吸されるので塩素殺菌剤の供給ポンプが不要となる。
【0048】
上記の説明では第1の拡散器6としてベンチュリ管を例に挙げたが、第1の拡散器6のベンチュリ管以外のものとして、海水流路内に攪拌流れを生じさせるスタティックミキサや攪拌翼を回転させる撹拌器を用いてもよい。
【0049】
<滞留槽>
滞留槽7は、塩素殺菌剤から発生する塩素を、細菌類に所定時間接触させるために、塩素殺菌剤が添加され拡散された海水を滞留させるものである。所定時間とは、細菌類が死滅するのに十分な時間で、かつ、トリハロメタンの生成を抑制できる時間である。このように、過酸化水素供給までの所定時間海水が滞留するようにするために、滞留槽7の寸法や形状を定め、また所定の速度で海水を流すようにする。
例えば、槽内に複数の仕切りを設けることによって長流路を形成して槽内での滞留時間を確保するようにしてもよい。
あるいは、滞留槽7は単なる貯留槽から構成し、海水を貯留後所定時間が経過すると排出ゲートを開ける若しくは排水ポンプを稼動させて排出するようなものでもよい。また、海水を送水する配管を滞留槽として用いることができるように送水を制御してもよい。
また、滞留槽7はバラストタンク11の一部を改造したものであってもよい。バラストタンク11の一部を滞留槽7として用いることにより、滞留槽7を新たに設ける必要がなく、既存船舶への適用が容易であり、設備費を低減できる。
【0050】
<過酸化水素供給装置>
過酸化水素供給装置8は、塩素殺菌剤が添加され滞留槽7で所定時間滞留した海水に過酸化水素を供給して海水中に残存する有効塩素を還元して失効させ、トリハロメタンの発生を抑制するものである。
過酸化水素を供給するために、図1に示すように、滞留槽7から海水を排出する流路内に第2の拡散器9を設けてこれに供給するようにするのが好ましい。第2の拡散器9は、滞留槽7から導出された海水と過酸化水素供給装置8から供給される過酸化水素の供給を受けて前記海水に過酸化水素を拡散させる。
第2の拡散器9としては、前述した第1の拡散器6と同様のものを用いると拡散効果が大きく、またキャビテーションによるプランクトンの殺滅効果もあるため好ましい。
なお、供給する過酸化水素としては過酸化水素水を用いる。
【0051】
第2の拡散器9を設けないで、滞留槽7から海水を排出する流路内に過酸化水素の注入口を設けておいてもよい。
【0052】
<過酸化水素分解剤供給装置>
過酸化水素分解剤供給装置13は、バラストタンク11に貯留されたバラスト水に対してその排水時に過酸化水素分解剤を供給するものである。
バラスト水に対して過酸化水素分解剤を供給することにより、バラストタンク11に貯留された海水中に残留する過酸化水素を分解し、海洋に排出しても影響を及ぼさないようにする。過酸化水素分解剤としては、カタラーゼ、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウムなど過酸化水素を還元分解するものが用いられる。
過酸化水素分解剤を供給するために、図1に示すように、バラストタンク11から海水を排出する流路内に第3の拡散器15を設けてこれに供給するようにするのが好ましい。第3の拡散器15は、バラストタンク11から導出された海水と過酸化水素分解剤供給装置13から供給される過酸化水素分解剤の供給を受けて前記海水に過酸化水素分解剤を拡散させる。
第3の拡散器15としては、前述した第1の拡散器6と同様のものを用いると拡散効果が大きく好ましい。
【0053】
以上のように構成された本実施の形態の動作を、バラストタンク11へ海水を給水する給水時の動作と、バラストタンク11のバラスト水を海に排水する排水時の動作に分けて説明する。
【0054】
<給水時の動作>
開閉弁25、27を開、開閉弁29、31を閉にする。この状態で、ポンプ3を稼動することによって、海水取水ライン1から海水が船内に取りこまれる。その際、まず粗ろ過装置2によって海水中に存在する大小様々な夾雑物、水生生物のうち10mm程度以上の粗大物が除去される。
粗大物が除去された海水はろ過装置4に供給され、ろ過装置4の目開きに応じた大きさの動物性プランクトン、植物性プランクトン等が除去される。
粗ろ過装置2及びろ過装置4で捕捉された水生生物等は、粗ろ過装置2及びろ過装置4のフィルタ等を逆洗することにより洗い流されて海に戻される。ろ過装置4で捕捉された水生生物等を海に戻しても同一の海域なので生態系に悪影響はない。つまり、この例ではバラスト水を積み込む際に処理をしているので、粗ろ過装置2及びろ過装置4の逆洗水をそのまま放流できるのである。
【0055】
ろ過装置4でろ過された海水には、第1の拡散器6であるベンチュリ管の例えば上流側において、塩素殺菌剤供給装置5から塩素殺菌剤が供給され、塩素殺菌剤が供給された海水は第1の拡散器6であるベンチュリ管に供給される。
ベンチュリ管において、上述したメカニズムによりキャビテーションが発生して、塩素殺菌剤の海水中への拡散が促進され細菌類の殺滅効果が増進される。さらに、キャビテーションにより海水中の水生生物に衝撃圧、せん断力、高温、酸化力の強いOHラジカルが作用し、プランクトンに損傷を与えるかあるいはプランクトンを破壊して殺滅する。
【0056】
ベンチュリ管で塩素殺菌剤が拡散された海水は滞留槽7に導かれ所定時間滞留して、塩素殺菌剤から発生する有効塩素により細菌類が死滅される。滞留槽7内に海水を滞留させる滞留時間は、滞留中に細菌類が十分に死滅し、かつ残留塩素により発生するトリハロメタンができるだけ少ないように0.05〜10分の範囲で設定される。
【0057】
滞留槽7から所定時間滞留して排出される海水に過酸化水素供給装置8によって過酸化水素を供給し残留塩素を失効させ、トリハロメタンの生成を抑制し、残存するプランクトンを死滅する処理を行う。第2の拡散器9であるベンチュリ管のキャビテーションによるプランクトンの殺滅と、キャビテーションによってプランクトンに損傷を与えて過酸化水素の浸透を促進して殺滅効果を向上させることも行われる。
その後、海水は処理水送水管10を通じてバラストタンク11に貯留される。バラストタンク11内に貯留されたバラスト水中には過酸化水素が残留しており、IMOバラスト水処理基準が維持される。
【0058】
<排水時の動作>
開閉弁25、27を閉、開閉弁29、31を開にする。この状態で、ポンプ3を稼動することによって、バラストタンク11に貯留されていたバラスト水が配管21、17、19、23を介して海に排出される。
バラストタンク11から排出されるバラスト水には過酸化水素分解剤供給装置13から過酸化水素分解剤が供給され、第3の拡散器15によって過酸化水素分解剤が拡散混合され、バラスト水中に残留する過酸化水素が分解され、海に排出される。
【0059】
以上のように、本実施の形態においては、ろ過装置4で10〜200μm以上の動物性プランクトン、植物性プランクトンを除去し、塩素殺菌剤を供給して所定時間滞留させることにより細菌類を死滅させ、さらに過酸化水素を供給して残留塩素を還元し失効させ、プランクトンを死滅させるようにしたので、確実にIMOバラスト水処理基準を満たすバラスト水の処理が実現でき、残留塩素から発生するトリハロメタンの生成を抑制できる。
【0060】
また、塩素殺菌剤や過酸化水素を供給した海水を拡散器であるベンチュリ管に供給することにより、塩素殺菌剤や過酸化水素が十分に拡散されて細菌類とプランクトンの殺滅効果が増進され、さらにキャビテーションによる殺滅が行われ、体内への塩素殺菌剤や過酸化水素の浸透を促進して殺滅効果が増進される。このため、塩素殺菌剤や過酸化水素に対して耐性の強い細菌類とプランクトン種類に対しても殺滅することができ、塩素殺菌剤や過酸化水素を単独で使用する場合と比較して少ない添加量で殺滅することが可能である。
【0061】
なお、上記の説明においては、塩素殺菌剤をベンチュリ管の上流側および/またはベンチュリ管ののど部に供給するとしたが、これらに加えてベンチュリ管の下流側にも塩素殺菌剤を供給してもよい。
ベンチュリ管の下流側にも塩素殺菌剤を供給する場合には以下の効果がある。すなわち、キャビテーションによりプランクトン等に付着している細菌類が剥されるため、ベンチュリ管の下流側で塩素殺菌剤を供給することで、この剥された細菌類に塩素殺菌剤を作用させることで細菌類の殺滅効果を促進できる。
また、キャビテーションにより外殻に損傷を負いながら死滅しないプランクトンの体内に塩素殺菌剤を浸透させることができ塩素殺菌剤の殺滅効果を促進できる。このため、塩素殺菌剤耐性の強い種類に対しても殺滅することができ、塩素殺菌剤を単独で使用する場合と比較して少ない塩素殺菌剤添加量で殺滅することが可能である。
また、過酸化水素を供給するときにも、ベンチュリ管の下流側にも供給することにより同様の効果を奏することができる。
【0062】
また、上記の例は、バラスト水の無害化処理を取水時に行うことを想定しているが、取水時、排水時のいずれか、あるいは両方で無害化処理をすることもできる。無害化処理をどのタイミングで行うかは、取水する海域に生息する微生物量や船舶の運航条件によって定めることができる。
海水をバラストタンク11に積み込む際には処理をしないで、バラストタンク11から排出する際に処理する場合には以下のようにすればよい。
バラストタンクから未処理のバラスト水をろ過装置4に供給して、以降は上記説明と同様に塩素殺菌剤の供給から過酸化水素の供給までの処理を行い、さらに過酸化水素分解剤を供給する処理を行う。もっとも、この場合には、過酸化水素を残留させてバラストタンク内のバラスト水が処理基準を維持するようにする必要がないので、過酸化水素の供給量は、残留塩素を還元しプランクトンを死滅させるのに十分な供給量でよい。
【0063】
上述したように、海水をバラストタンク11に積み込む際とバラストタンク11から排出する際との両方でバラスト水中のプランクトンの殺滅処理を行うようにしてもよく、その場合にはバラスト水の排出時の処理は軽度でよい。
【0064】
ところで、細菌類を死滅させるために供給する塩素殺菌剤は海水中の還元性物質によっても消費されるが、バラスト水として取水する海水は海域によって水質が異なり、還元性物質の含有率も異なる。このため、細菌類を十分に死滅させるためには塩素殺菌剤の供給量を水質に適合した量に調整する必要がある。
そこで、塩素殺菌剤供給装置5から供給する塩素殺菌剤の量を制御する塩素殺菌剤供給量制御手段を設けてもよい。塩素殺菌剤供給量制御手段の一例として、塩素殺菌剤が供給された海水の酸化還元電位を測定して、該酸化還元電位の測定値に基づいて塩素殺菌剤供給量を調整する塩素殺菌剤供給量制御装置を備えるようにする。
【0065】
塩素殺菌剤の供給量を水質に適合した量に調整する具体的方法として以下のようにする。塩素殺菌剤を供給した海水の酸化還元電位を測定して、酸化還元電位を銀/塩化銀電極に対して800mV以上とするように調整する。酸化還元電位を800mV以上とすることにより、海水中に残留する塩素濃度を細菌類の死滅に十分な濃度にすることができる。
このように、海水または海水中の還元性物質の量に応じて塩素殺菌剤供給量を調整することにより細菌類を確実に死滅させることができると共に過剰な塩素殺菌剤供給を防止できる。
【0066】
塩素殺菌剤供給量制御手段の他の例として、滞留槽7から排出される塩素殺菌剤が供給されて細菌類とプランクトンの死滅処理が行われた海水の残留塩素濃度を測定して、該残留塩素濃度の測定値に基づいて塩素殺菌剤供給量を調整する塩素殺菌剤供給量制御装置を備えるようにしてもよい。このようにしても塩素殺菌剤の供給量を水質に適合した量に調整することができる。
【0067】
なお、上記の実施の形態において塩素殺菌剤供給装置5が供給する塩素殺菌剤として次亜塩素酸ナトリウムの場合もある旨を述べたが、この場合には海水を直接電気分解することによって次亜塩素酸ナトリウムを発生させる装置を用いればコストを低減できる。
【0068】
また、次亜塩素酸ナトリウムは30℃以上の高温で分解して濃度が低下することがあるため、次亜塩素酸ナトリウムの貯留槽に次亜塩素酸ナトリウムの分解を防止するために、次亜塩素酸ナトリウムの温度が上昇するのを防止する温度上昇防止手段を設けることが好ましい。
これにより、次亜塩素酸ナトリウムの分解を防止でき、次亜塩素酸ナトリウムの消費量を抑制してバラスト水の処理費用を抑制することができる。
温度上昇防止手段の具体例として、例えば次亜塩素酸ナトリウム溶液の貯留槽を断熱して航行中に貯留槽内の次亜塩素酸ナトリウムの温度が上昇するのを防止する貯留槽断熱装置がある。
【0069】
なお、次亜塩素酸ナトリウム溶液を予め冷却しておき、貯留槽断熱装置を備えた貯留槽に貯留するようにすれば、次亜塩素酸ナトリウムの温度管理を確実にでき、次亜塩素酸ナトリウムの分解をより確実に防止できる。
また、温度上昇防止手段の他の例として、貯留槽に設けられて貯留槽内の次亜塩素酸ナトリウム溶液を冷却する冷却熱交換器が挙げられる。冷却熱交換器には冷媒として冷却水を用いることもできるが、冷媒として海水を用いるようにすれば、冷却のための運転費を抑制できる。
【0070】
なお、上記の例はいずれも次亜塩素酸ナトリウムの分解を防止するためのものであるが、海水、あるいは次亜塩素酸ナトリウムの分解によって生成した塩化ナトリウムを電解して次亜塩素酸ナトリウムを生成または再生する電解装置を備えるようにすれば、分解により減少した次亜塩素酸ナトリウムの濃度を回復させることができる。
【0071】
また、塩素殺菌剤供給工程の前に酸供給工程を備え、塩素殺菌剤が供給される海水のpHを5〜7にすることにより、細菌類の死滅効力を増大することができる。
塩素殺菌剤が供給される海水に酸を供給して海水のpHを5〜7にすると、塩素殺菌剤を供給した海水中の遊離残留塩素の形態が次亜塩素酸(HOCl)がほとんどとなり、殺菌効力が高いため好ましい。海水のpHが5より低いと遊離残留塩素の形態は次亜塩素酸とClとなりpHが7より高いと遊離残留塩素の形態は次亜塩素酸と次亜塩素酸イオン(OCl-)となり、いずれも殺菌効力が他にくらべて100倍高い次亜塩素酸の割合が低くなり、殺菌効力が低下する。また、海水のpHを5〜7にすると、トリハロメタンの生成を抑制する効果もある。
なお、供給する酸としては塩酸または硫酸を用いる。
【実施例】
【0072】
実施の形態のバラスト水処理装置を用いて、海水中のプランクトンと細菌類の死滅処理実験を行った。塩素殺菌剤として次亜塩素酸ナトリウムを有効塩素量20mg/lとなるように供給し、滞留槽で0.5分滞留した後、過酸化水素を60mg/l供給した。
処理前の海水原水中には50μm以上の動物プランクトンが1.7×105個/m3、大腸菌が1.2×105cfu/100ml生息しているが、上記の処理後には動物プランクトンが4個/m3に、大腸菌が検出限界の1cfu/100ml未満に減少し、IMOバラスト水基準を満たす処理が行えた。
また、トリハロメタン濃度は滞留槽出口の海水中では0.002mg/l程度と極めて低濃度であり、過酸化水素供給後5時間経過した海水中では0.002mg/lと極めて低濃度のまま維持されており、環境への影響が問題ないことを確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の実施の形態に係るバラスト水処理装置の説明図である。
【図2】塩素殺菌剤注入後の海水中のトリハロメタン濃度の時間変化を示すグラフである。
【図3】IMOバラスト水処理基準を満たすために必要な海水中の残留塩素濃度と、死滅対象となるプ細菌類と有効塩素との接触時間との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0074】
2 粗ろ過装置、3 ポンプ、4 ろ過装置、5 塩素殺菌剤供給装置、6 第1の拡散器、7 滞留槽、8 過酸化水素供給装置、11 バラストタンク、13 過酸化水素分解剤供給装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶のバラストタンクに注水する海水に塩素殺菌剤を供給する塩素殺菌剤供給装置と、塩素殺菌剤が供給された海水を所定時間滞留させる滞留器と、該滞留器の下流側に設けられて滞留器にて所定時間滞留した海水に過酸化水素を供給する過酸化水素供給装置と、過酸化水素が供給された海水をバラストタンクに送水する送水装置と、を備えたことを特徴とするバラスト水処理装置。
【請求項2】
過酸化水素が供給されバラストタンクに貯留された海水を海洋に排出する前に又は排出するときに、前記海水に過酸化水素分解剤を供給する過酸化水素分解剤供給装置と、を備えたことを特徴とする請求項1に記載のバラスト水処理装置。
【請求項3】
滞留器は、塩素殺菌剤を供給してから過酸化水素を供給するまでの時間を0.05〜10分とする滞留が可能であることを特徴とする請求項1または2に記載のバラスト水処理装置。
【請求項4】
滞留器は、バラストタンク内に形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のバラスト水処理装置。
【請求項5】
船舶のバラストタンクに注水する海水に塩素殺菌剤を供給する塩素殺菌剤供給工程と、塩素殺菌剤が供給された海水を所定時間滞留させる滞留工程と、所定時間滞留された海水に過酸化水素を供給する過酸化水素供給工程と、を備えたことを特徴とするバラスト水処理方法。
【請求項6】
滞留工程における滞留時間を0.05〜10分に設定したことを特徴とする請求項5に記載のバラスト水処理方法。
【請求項7】
海水中の有効塩素量の重量濃度を0.1〜100mg/lの範囲内で適宜調整して塩素殺菌剤を供給することを特徴とする請求項5または6に記載のバラスト水処理方法。
【請求項8】
海水中の過酸化水素の重量濃度を0.1〜200mg/lとするように過酸化水素を供給することを特徴とする請求項5〜7のいずれか一項に記載のバラスト水処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−216181(P2007−216181A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−41919(P2006−41919)
【出願日】平成18年2月20日(2006.2.20)
【出願人】(000004123)JFEエンジニアリング株式会社 (1,044)
【Fターム(参考)】