説明

バランサ

【課題】作業スペースへの粉塵の落下を防止できるバランサを提供する。
【解決手段】電動ドライバ130を吊り下げるワイヤ30と、ワイヤ30を巻き取るバランサ本体20と、を備え、ワイヤ30が自在に引き出され、あるいは、ワイヤ30を自在に巻き取ることが可能であるバランサ10であって、バランサ本体20の下方を被装する下カバー42を備え、ワイヤ30が無負荷滑車61及び有負荷滑車62を経由してバランサ本体20の側方から引き出される、あるいは、巻き取られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バランサの技術に関する。
【背景技術】
【0002】
バランサは、自動車の組立工場等で使用されている装置である。バランサは、作業スペースの上方から工具またはワークを吊るす装置である。より詳しくは、バランサは、工具またはワークを吊り下げるワイヤと、ワイヤを巻き取る巻き取り装置と、を備え、ワイヤが自在に引き出される、あるいは、ワイヤを自在に巻き取る装置である(例えば、特許文献1)。
【0003】
バランサは、工具またはワーク(以下、工具等とする)を吊り下げる際に、工具等の重量とバランスする反力を工具等に作用させ、作業者が工具等を保持する際の重量、並びに、作業者が保持する工具等の操作重量を低減し、作業者の作業効率の向上を図っている。また、バランサは、ワイヤが自在に引き出される、あるいは、ワイヤを自在に巻き取るように構成することによって、ワイヤが作業者の足元に垂れ下がる、あるいは、ワイヤが作業者の手元に絡むことを防止して、作業者の作業効率の向上を図っている。
【0004】
バランサにおいては、巻き取り装置からワイヤが自在に引き出され、あるいは、巻き取り装置にワイヤを自在に巻き取る。巻き取り装置は、巻き取りドラムと、巻き取りドラムを付勢するコイルバネと、を備えている。バランサのワイヤは、作業者がワイヤに連結されている工具等を使用するために工具等を引っ張った際に、巻き取りドラムから引き出され、作業者が工具の使用後に工具等を手放した際に、コイルバネによって巻き取りドラムが巻き取り方向に回動されることで巻き取られる。
【0005】
ワイヤと巻き取りドラムとの材質強度を比較すると、ワイヤの材質強度よりも巻き取りドラムの材質強度が弱い構成とされている。なぜなら、ワイヤの材質強度よりも巻き取りドラムの材質強度を強くすると、ワイヤの引き出し、あるいは、巻き取りに伴いワイヤが巻き取り部によって削られ、工具等が落下するおそれがあるからである。そのため、巻き取り装置によって、ワイヤが引き出される、あるいは、ワイヤを巻き取るときには、巻き取りドラムとワイヤの摺動摩耗によって必然的に巻き取りドラムの粉塵が発生する。
【0006】
特許文献1に代表される従来のバランサは、ワイヤがバランサの下方から引き出され、あるいは、ワイヤを巻き取る構成のため、ワイヤが引き出される、あるいは、ワイヤを巻き取るときには、巻き取りドラムから発生した粉塵が作業スペースに落下するおそれがある。作業スペースに落下した粉塵は、作業スペースにて組立中の製品に混入するおそれがある。
【0007】
ここで、巻き取りドラムの材質は、通常ステンレスとされている。そのため、巻き取りドラムとワイヤとの摺動摩耗によって発生する粉塵は導電性を有するものである。バランサの下方の作業スペースにおいて、例えば、電気品ユニットの組立作業が行われていた場合には、電気品ユニット内に導電性の粉塵が侵入するおそれがある。電気品ユニットのプリント基板に導電性の粉塵が落下した場合には、製品の誤動作の原因となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平6−262544号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の解決しようとする課題は、作業スペースへの粉塵の落下を防止できるバランサを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0011】
即ち、請求項1においては、工具またはワークを吊り下げるワイヤと、前記ワイヤを巻き取る巻き取り装置と、を備え、前記ワイヤが自在に引き出される、あるいは、前記ワイヤを自在に巻き取ることが可能なバランサであって、前記巻き取り装置の下方を被装する下カバーを備え、前記ワイヤが前記巻き取り装置の側方から引き出される、あるいは、巻き取られるものである。
【0012】
請求項2においては、請求項1記載のバランサであって、前記ワイヤが滑車を経由して前記巻き取り装置の側方から引き出される、あるいは、巻き取られるものである。
【0013】
請求項3においては、請求項1または2記載のバランサであって、鉛直軸周りに回動可能に支持されるものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明のバランサによれば、作業スペースへの粉塵の落下を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態に係る作業スペースを示す模式図。
【図2】本発明の実施形態であるバランサを示す側面図。
【図3】同じく巻き取り装置を示す側面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1を用いて、作業スペース100について説明する。
作業スペース100は、本発明のバランサが使用される作業スペースである。作業スペース100は、自動車の組立ラインに設けられた作業スペースとする。組立ラインでは、製品の組立工程及び作業者Pの配置がライン化され、ベルトコンベア120により搬送されるワークに部品の取り付けや小加工等の作業が行われるものとする。
【0017】
作業スペース100は、自動車の組立ラインにおいて、ラック110によって区画されている。作業スペース100では、作業者Pが、電動ドライバ130によって、ベルトコンベア120にて搬送される電気品ユニット(ワークW)のネジ止め作業を行うものとする。
【0018】
作業スペース100では、バランサ10によって、上方から電動ドライバ130が吊るされている。バランサ10は、作業スペース100の上方にて、ラック110に支持されている。電動ドライバ130は、バランサ10のワイヤ30によって吊るされ、電源コード131によって図示せぬ電源から電源供給されている。
【0019】
作業スペース100では、バランサ10によって、電動ドライバ130を吊り下げている。バランサ10は、電動ドライバ130を吊り下げられることによって、電動ドライバ130の重量とバランスする反力を電動ドライバ130に作用させている。バランサ10は、電動ドライバ130の重量とバランスする反力を電動ドライバ130に作用させることによって、作業者Pが電動ドライバ130を保持する際の重量、並びに、作業者Pが保持する電動ドライバ130の操作重量を低減している。このようにして、バランサ10は、作業者Pの作業効率の向上を図っている。
【0020】
バランサ10のワイヤ30は、バランサ10から自在に引き出される、あるいは、バランサ10に自在に巻き取ることが可能となっている。バランサ10は、ワイヤ30が自在に引き出される、あるいは、ワイヤ30が自在に巻き取られるように構成することによって、ワイヤ30が作業者Pの足元に垂れ下がる、あるいは、ワイヤ30が作業者Pの手元に絡むことを防止している。このようにして、バランサ10は、作業者Pの作業効率の向上を図っている。
【0021】
図2を用いて、バランサ10について説明する。
なお、図2(A)は、バランサ10の左側面図を示し、図2(B)は、バランサ10の正面図を示している。
【0022】
バランサ10は、本発明のバランサの実施形態である。バランサ10は、作業スペース100の上方から電動ドライバ130をワイヤ30によって吊るし、ワイヤ30が自在に引き出され、あるいは、ワイヤ30を自在に巻き取るように構成したものである。
【0023】
バランサ10の構成について説明する。
バランサ10は、巻き取り装置としてのバランサ本体20と、ワイヤ30と、カバー40と、支持部50と、取り出し部60と、を具備している。
【0024】
バランサ本体20は、内部に巻き取られたワイヤ30が自在に引き出され、あるいは、引き出されたワイヤ30を自在に巻き取るものである。本実施形態のバランサ本体20は、従来の汎用品のバランサを採用している。また、バランサ本体20の左側部には、バランサ本体20内から外部へワイヤ30を引き出すための開口部である窓25Aが形成されている。なお、バランサ本体20について、詳細は後述する。
【0025】
ワイヤ30は、電動ドライバ130を吊るすものである。ワイヤ30は、バランサ本体20の窓25Aから延出しており、バランサ本体20から引き出される、あるいは、巻き取られるものである。ワイヤ30は、後述する取り出し部60を経由して、バランサ本体20から引き出され、または、巻き取られるものである。ワイヤ30の材質は、ステンレスとされている。
【0026】
カバー40は、バランサ本体20を被装するものである。カバー40は、上カバー41と、下カバー42と、から構成されている。上カバー41と下カバー42とは、それぞれの右側面及び背面において接合されている。本実施形態では、下カバー42の高さは、上カバー41の高さの略1/5とされている。
【0027】
上カバー41は、正面、左側面及び底面が開放された箱体とされている。上カバー41の背面の略中央には、バランサ本体20が取り付けられている。上カバー41の背面の左側面側には、取り出し部60が取り付けられている。上カバー41の上面の略中央には、支持部50が取り付けられている。
【0028】
下カバー42は、上面が開放された箱体とされている。下カバー42は、バランサ本体20の下方を被装している。
【0029】
支持部50は、バランサ10をラック110に支持するものである。支持部50は、上カバー41の上面の略中央に取り付けられている。支持部50には、ベアリング51が内蔵され、支持部50自体が鉛直軸周りに回動可能に構成されている。
【0030】
取り出し部60は、ワイヤ30がバランサ本体20から引き出され、あるいは、ワイヤ30をバランサ本体20に巻き取るときに、ワイヤ30がカバー40の左側面から下方に向けて取り出される、あるいは、ワイヤ30を下方からカバー40の左側面へ取り込む箇所である。つまり、バランサ本体20から左水平方向へ延出するワイヤ30は、取り出し部60においてその延出方向が変換され、取り出し部60から下方へ向けて延出している。取り出し部60は、上カバー41の背面にて左側面側に取り付けられている。取り出し部60は、無負荷滑車61と、有負荷滑車62と、支持部材63と、を具備している。
【0031】
無負荷滑車61は、ワイヤ30の張力が作用しない滑車とされている。無負荷滑車61は、ワイヤ30が取り出される、あるいは、取り込まれるときには、ワイヤ30の動きに伴って回動する。無負荷滑車61の材質は、樹脂とされている。有負荷滑車62は、ワイヤ30の張力が作用する滑車とされている。有負荷滑車62は、ワイヤ30が取り出される、あるいは、取り込まれるときには、ワイヤ30の動きに伴って回動する。有負荷滑車62の材質は、ステンレスとされている。支持部材63は、無負荷滑車61及び有負荷滑車62を隣接させて回動可能に支持するものである。
【0032】
図3を用いて、バランサ本体20の詳細について説明する。
なお、図3(A)は、バランサ本体20の平面断面図を示し、図3(B)は、バランサ本体20の正面図を示している。
【0033】
バランサ本体20は、ワイヤ30が自在に引き出され、あるいは、ワイヤ30を自在に巻き取るものである。バランサ本体20は、巻き取りドラム21と、コイルバネ22と、支持軸23と、ケース25と、を具備している。
【0034】
ケース25は、中空の略碗形状に形成されている。ケース25には、巻き取りドラム21が収容されている。ケース25の左方には、窓25Aが開口されている。ケース25の窓25Aは、ワイヤ30が引き出され、または、ワイヤ30を巻き取るときに、ワイヤ30が通過する箇所である。
【0035】
巻き取りドラム21は、ケース25の略碗形状に対応する略円錐台形状に形成され、ワイヤ30を巻き取り可能に構成されている。巻き取りドラム21の外周には、ワイヤ30が巻き付けられている。巻き取りドラム21は、支持軸23によって、ケース25に対して回転自在に支持されている。巻き取りドラム21の材質は、ステンレスとされている。ただし、巻き取りドラム21の材質は、ワイヤ30の材質強度よりも弱いステンレスとされている。
【0036】
支持軸23は、ケース25の正面視にて略中心を貫通している。
【0037】
コイルバネ22は、巻き取りドラム21の内部に形成された空間に配置されている。コイルバネ22は、一端が巻き取りドラム21に掛止され、他端が支持軸23に掛止され、巻き取りドラム21をワイヤ30の巻戻し方向に付勢している。
【0038】
なお、上述したように、本実施形態のバランサ本体20は、従来の汎用品のバランサを採用している。言い換えれば、本実施形態のバランサ10は、従来の汎用品のバランサ(バランサ本体20)に、カバー40、支持部50及び取り出し部60等を取り付けたものである。
【0039】
また、バランサ本体20は、窓25Aが左側を向くようにカバー40に配置されている。言い換えれば、ケース25の窓25Aが、取り出し部60が取り付けられたカバー40の左側面側を向くように、カバー40に配置されている。
【0040】
バランサ10の作用について説明する。
バランサ10では、巻き取りドラム21の材質がワイヤ30の材質強度よりも弱いステンレスとされ、ワイヤ30が巻き取りドラム21によって擦り切れることを防止している。そのため、ワイヤ30がバランサ本体20からよって引き出される、あるいは、ワイヤ30をバランサ本体20に巻き取るときには、ワイヤ30と巻き取りドラム21との摺動摩耗によって粉塵が発生する。特に、ワイヤ30をバランサ本体20に巻き取るときに、多くの粉塵が発生する。
【0041】
ケース25内にてワイヤ30と巻き取りドラム21との摺動摩耗によって発生した粉塵は、ワイヤ30が巻き取りドラム21から引き出されることに伴って、ケース25の窓25Aからケース25の外部へ放出される。ケース25の窓25Aから放出された粉塵は、カバー40内に落下し、下カバー42によって捕集される。
【0042】
また、ワイヤ30は、取り出し部60において、無負荷滑車61及び有負荷滑車62に接触する。しかし、無負荷滑車61及び有負荷滑車62は、ワイヤ30が取り出される、または、ワイヤ30を取り込むときには、ワイヤ30の動きに伴って回動する。そのため、ワイヤ30と無負荷滑車61と、ならびに、ワイヤ30と有負荷滑車62とは、摺動することがなく、摺動摩耗によって粉塵が発生することもない。
【0043】
さらに、バランサ10とラック110とを接続する支持部50が鉛直軸周りに回動可能に構成されているため、バランサ10がラック110に対して鉛直軸周りに回動自在に支持されている。
【0044】
バランサ10の効果について説明する。
従来のバランサ(バランサ本体20)は、ワイヤ30がバランサの下方から引き出され、あるいは、ワイヤ30をバランサの下方から巻き取る構成のため、ワイヤ30が引き出される、あるいは、ワイヤ30を巻き取るときには、巻き取りドラム21から発生した導電性を有する粉塵が作業スペース100に落下するおそれがあった。作業スペース100において、例えば、電気品ユニットの組立作業が行われていた場合には、電気品ユニット内に導電性の異物が侵入するおそれがあった。電気品ユニットのプリント基板に導電性の粉塵が落下した場合には、製品の誤動作の原因となっていた。
【0045】
本実施形態のバランサ10によれば、バランサ10からの粉塵が作業スペース100下部のワークWに落下することを防止できる。すなわち、ケース25の窓25Aから放出された粉塵が下カバー42によって捕集されるため、作業スペース100の下部にまで落下することはない。また、バランサ10から水平方向に延出するワイヤ30を下方に導く無負荷滑車61及び有負荷滑車62は、ワイヤ30の動きに伴って回動するため、摺動摩耗によって粉塵が発生することはない。
【0046】
また、バランサ10が支持部50によってラック110に鉛直軸周りに回動自在に支持されているため、作業者Pがワイヤ30を引き出す方向を自在に変更できる。つまり、作業者Pの作業性を向上できる。
【0047】
さらに、バランサ10が従来の汎用品のバランサ(バランサ本体20)にカバー40、支持部50及び取り出し部60等を取り付けた簡易な構成であるため、低コストでバランサ10を製作できる。
【0048】
本実施形態では、バランサ10に電動ドライバ130が吊るされる構成としたが、これに限定されない。その他の工具、あるいは、ワーク等の重量物を吊るす構成としても良い。
【0049】
本実施形態では、ステンレス製のワイヤ30と、ステンレス製の巻き取りドラム20との摺動摩耗による粉塵を捕集する構成としたが、これに限定されない。ゴムで被装された電源コードと、樹脂製の巻き取りドラムとの摺動による異物、塵を捕集する構成としても良い。
【符号の説明】
【0050】
10 バランサ
20 バランサ本体(巻き取り装置)
30 ワイヤ
40 カバー
42 下カバー
50 支持部
60 取りだし部
61 無負荷滑車
62 有負荷滑車
100 作業スペース
110 ラック
130 電動ドライバ(工具)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
工具またはワークを吊り下げるワイヤと、前記ワイヤを巻き取る巻き取り装置と、を備え、前記ワイヤが自在に引き出される、あるいは、前記ワイヤを自在に巻き取ることが可能なバランサであって、
前記巻き取り装置の下方を被装する下カバーを備え、
前記ワイヤが前記巻き取り装置の側方から引き出される、あるいは、巻き取られることを特徴とする、
バランサ。
【請求項2】
請求項1記載のバランサであって、
前記ワイヤが滑車を経由して前記巻き取り装置の側方から引き出される、あるいは、巻き取られることを特徴とする、
バランサ。
【請求項3】
請求項1または2記載のバランサであって、
鉛直軸周りに回動可能に支持される、
バランサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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