説明

バランス機構を備えた工作機械のホルダ構造

【課題】 主軸の中心軸からツールを移動偏心することが出来、該ツールの偏心とバランスするバランス機構を備えた工作機械のホルダ構造の提供。
【解決手段】 ツール6を取付けたツール移動台8をガイド23に沿って移動する為のスクリューネジ22をホルダ5の中心軸7に対して垂直を成して設け、該スクリューネジ22の両側にはプーリ27a,27a,27b,27bに巻き掛けられて走行するタイミングベルト26a,26bを配置すると共に、タイミングベルト26a,26bには上記ツール移動台8を連結し、そして上記バランスウエイト24もタイミングベルト26a,26bに連結することでツール移動台8の移動方向とバランスウエイト24の移動方向を反対向きとし、上記スクリューネジ22を回転する為にサブモータを用い、該サブモータの回転をギヤ機構を介してスクリューネジを回転駆動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は主軸中心に対して偏心した位置にツールを取付け、このツールが高速回転する場合に発生する遠心力を打ち消すことが出来るバランス機構を備えた工作機械のホルダ構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
被加工物にドリルでストレート穴をあける場合であれば、該ドリルは主軸の中心に取着される為に高速回転してもアンバランスに基づく遠心力が発生することはない。ただし、加工される穴がストレートでなく、その深さによって内径が変化する形状の穴を加工する場合には、主軸中心から偏心した位置にツールを取着し、このツールの位置が変化するように制御される。
【0003】
また、ストレートの穴であってもその内径が大きくなれば、ドリル加工することは出来ない為に、ツールを主軸中心から偏心した位置に取着して回転する。すなわち、ツールによって穴内周が切削加工される。
このように、主軸中心から偏心した位置にツールを取着して高速回転するならば、その遠心力によって主軸は振れて加工精度は低下する。また、遠心力によってホルダ内部機構の潤滑油(グリース)が飛散して摺動面が摩耗したり、潤滑油自体が偏ってアンバランスを生じる。従って、一般には高速回転を行なわないで加工している。
【0004】
主軸を高速回転する場合には、ツールのアンバランスを解消する為に該ツールと対称位置にバランスウエイトを設け、該ツールの動きに対称的に追従させる機構としている。例えば、特開平9−300103号に係る「バランス調整機構付せり出し主軸構造」は、刃物のせり出しを行なうせり出し機構部のアンバランスをなくし、高速加工,高精度加工を可能とし、寿命および耐久性の向上を図るバランス調整機構付せり出し主軸構造である。すなわち、クイルに枢支される主軸内の回転軸にはせり出し機構部とバランス調整機構部が係合する。両機構部は対称位置に配置され、刃物を支持するスライダとカウンタウエイトは逆方向に夫々同期して移動する。これにより回転軸まわりのアンバランス力が解消される。
【0005】
このように、刃物を支持するスライダとカウンタウエイトは逆方向に夫々同期して移動することで、回転軸まわりのアンバランスは解消されるが、外径が大きく成って加工作業がし難くなる。
【特許文献1】特開平9−300103号に係る「バランス調整機構付せり出し主軸構造」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、バランス機構を備えた工作機械には上記のごとき問題がある。本発明が解決しようとする課題はこの問題点であって、ホルダ本体の外径を抑えることが出来、加工作業に支障を来たすことがなく、またケース内にウエイトを配置して安全に高速回転加工を行うことが出来るバランス機構を備えた工作機械を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る工作機械のホルダは主軸モータによって回転駆動され、ホルダは主軸に連結すると共に該ホルダにはツールが取付けられ、このツールは主軸中心に対して半径方向へ移動することが出来るように構成している。すなわち、ホルダには主軸中心軸に対して偏心した位置へ移動するツール移動台を有し、このツール移動台の先端にツールが取付けられる。そして、ツール移動台を移動する為にサブモータを有し、主軸回転とサブモータの回転量(回転角)を変化させることでギヤ機構を介してツールの位置が変位するように構成している。
【0008】
ホルダには中心軸と垂直を成してスクリューネジが設けられ、該スクリューネジに螺合して回転と共にガイドに沿って移動するツール移動台が設けられている。そして、ツール移動台はプーリに巻き掛けられているタイミングベルトと連結し、またツール移動台と対向してバランスウエイトがタイミングベルト及びツール移動台の上側に取付けられ、このバランスウエイトもプーリに巻き掛けられた上記タイミングベルトと連結している。
【0009】
上記サブモータにてギヤ機構を介してスクリューネジが回転し、該スクリューネジの回転に伴ってツール移動台及びツールが移動・偏心し、ツール移動台の移動と共にタイミングベルトが走行する。そして、タイミングベルトの走行と共にバランスウエイトが移動する。しかも、ツール移動台とバランスウエイトの移動方向は反対方向となり、その結果、ツール移動台及びツールとバランスする位置にバランスウエイトが常に配置される。
一方、サブモータの回転をスクリューネジへ伝達する為に、間にギヤ機構を介在しているが、スクリューネジ、ツール移動台のガイド、バランスウエイトのガイドレール、及び歯形の接触面並びに摺動面はコーティングされている。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るバランスウエイトを備えた工作機械は、主軸中心に対してツールが移動して偏心した場合、ホルダに取付けたバランスウエイトが反対方向へ移動するバランス機構を備えている。従って、偏心したツールが高速回転してもアンバランス状態にはならず、高速で加工することが出来る。従って、高速回転するホルダ及び主軸の振れはなく、加工されるワークの精度は高くなる。また、バランスウエイトはホルダ本体内に収容されている為に、加工作業時に半径外方向へ移動するバランスウエイトがホルダ本体内から突出することはなく、高速回転に伴って故障しても安全性は確保される。しかも、バランスウエイトはタイミングベルト及びツール移動台の上側に配置されることでホルダの外径を抑えることが出来る。
【0011】
一方、ツール移動台のガイド、ツール移動台のネジ穴及びネジ穴に螺合するスクリューネジ、及びサブモータの回転をスクリューネジに伝達する為のギヤ機構の歯形接触面並びに摺動面はコーティングされている。従って、高速回転に伴って潤滑油が飛散する場合であっても、潤滑油切れが原因となる接触面並びに摺動面の摩耗を抑制することが出来、ホルダの寿命は向上する。また、潤滑油自体の偏りによるアンバランスも発生しない。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】ワーク中心軸部に逆台形円錐の穴を形成した場合。
【図2】本発明に係るホルダ構造を示す実施例。
【図3】ツール移動台とバランスウエイトを反対方向へ移動する為の具体例を示すホルダ断面の平面図。
【図4】ツール移動台とバランスウエイトを反対方向へ移動する為の具体例を示すホルダ断面の正面図。
【図5】ツール移動台とバランスウエイトを反対方向へ移動する為の具体例を示すホルダ断面の側面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は円柱状のワーク1の中心に穴2を加工した断面を示している。穴2の形状は概略逆台形円錐を成し、中心軸3に対して上方の内径を大きくした内周面4はテーパと成っている。このような形状の穴2を加工する場合、ツールは工作機械の主軸中心から偏心して回転し、その偏心量は穴2の深さと共に小さくなるように制御される。
【0014】
ところで、主軸の回転速度が低い場合であればツールの偏心による遠心力が小さく、ツールはスムーズに回転して上記ワーク1の穴2を加工するが、高速回転する場合にはツール及び該ツールが取付けられる台とバランスすることが出来るバランスウエイトが必要になる。勿論、穴2を加工する場合に限らず、ワーク1の外周を切削加工する場合も同じである。本発明のホルダ構造はバランス機構を備え、ツールを移動偏心すると同時にバランスウエイトが正確に移動するように構成している。
【0015】
図2はバランス機構を備えたホルダ構造を示す本発明の実施例である。同図の5はホルダ、6はツールをそれぞれ表している。ホルダ5は主軸回転用モータ(図示なし)によって回転駆動され、ホルダ5の回転によって下端に取着されているツール6が回転する。ツール6はホルダ5の中心軸7から距離Mだけ偏心し、その為に遠心力が発生する。本発明ではこの遠心力を打ち消すことが出来るバランスウエイトを備えている。
【0016】
しかも、該バランスウエイトはツール6及びツール6を取着しているツール移動台8の移動方向と反対方向へ移動するように連動した構造と成っている。ツール移動台8の移動はサブモータ(図示なし)が駆動することで行なわれるが、主軸モータの回転角とサブモータによって回転するリングギヤの回転角度の差に応じてツール移動台が移動する構造と成っている。
サブモータはサブ軸9と共にサブ軸プーリ10が回転し、サブ軸プーリ10に巻き掛けられているタイミングベルト11を介して主軸側のプーリ12が回転する。該プーリ12にはリングギヤ13が取着され、リングギヤ13はプーリ12と共にサブ側モータにて回転駆動することが出来る。
【0017】
そして、リングギヤ13の中心にはサンギヤ14が同心をなして取付けられ、リングギヤ13とサンギヤ14の間にはホルダ5と繋がっている遊星ギヤ15が介在して互いに噛み合っている。サンギヤ14を取着した軸16は主軸中心にベアリングを介して軸支され、そして、軸16の下端にはギヤ17が取着され、ギヤ17はギヤ18と噛み合い、ギヤ18の軸19の下端にはかさ歯車20が取付けられている。そして、該かさ歯車20にはかさ歯車21が噛み合い、該かさ歯車21はスクリューネジ22に取着されている。
【0018】
ホルダ5には遊星ギヤ15が、プーリ12にはリングギヤ13が、そして軸16にはサンギヤ14が取着されている為に、ホルダ5の回転角度とリングギヤ13の回転角度の差に基づいてサンギヤ14が回転し、そしてスクリューネジ22が回転することでツール移動台8が移動する。ホルダ5は主軸側モータの回転にて一定速度で回転駆動され、この主軸回転とは独立してサブモータはプーリ12を回転し、そして、リングギヤ13、遊星ギヤ15、サンギヤ14、ギヤ17,18、かさ歯車20,21を介してスクリューネジ22が回転することが出来る。ここで、ギヤ機構の具体的な構造は限定せず、図2に示すギヤ機構はあくまでも1具体例である。
【0019】
従って、ツール6はサブモータによってその偏心量を自由に制御することが可能であり、このツール6及び該ツール6が取着されているツール移動台8に対して均衡するバランスウエイト24がホルダ5の内部に装着されている。すなわち、該バランスウエイト24はツール6及びツール移動台8に対して反対方向へ移動することが出来る機構を備えている。
【0020】
図3、図4、図5はホルダ5の内部構造を示し、バランスウエイト24とツール6及びツール移動台8が移動する機構を表している。図3には横断面(スクリューネジの中心線の左側はバランスウエイトを取除いてタイミングベルト全体を透視している図)を示すように、スクリューネジ22が中心軸7と垂直を成して中心に配置され、このスクリューネジ22にはツール移動台8が取付けられてスクリューネジ22の回転に伴って移動することが出来る。移動は図4に示すようにホルダ側に形成したガイド23に沿って行なわれる。そして、ツール移動台8の下側にはツール取着部25が下方へ延び、ツール6は該ツール取着部25に嵌って固定される。
【0021】
ところで、図3に示すようにスクリューネジ22の左右側にはタイミングベルト26a,26bがプーリ27a,27a,27b,27bに巻き掛けられて配置されている。そして、上記ツール移動台8は左右側のタイミングベルト26a,26bのスクリューネジ側(内側)にネジ止めにて連結し、その為にスクリューネジ22の回転によってツール移動台8が移動するならば、タイミングベルト26a,26bはツール移動台8と共に走行し、そして、プーリ27a,27a、27b、27bは回転する。
【0022】
ここで、タイミングベルト26a,26bとツール移動台8との連結手段は限定しないが、図3,4に示す実施例では両挟持板28a,28bに挟まれてツール移動台8はタイミングベルト26a,26bにネジ止めされている。従って、ツール移動台8の移動はタイミングベルト26a,26bを走行させ、プーリ27a,27a,27b,27bを回転させる。
【0023】
一方、両タイミングベルト26a,26bに跨って配置されるバランスウエイト24はタイミングベルト26a,26bの外側で両挟持板30a.30bに挟まれ、挟持板30aとバランスウエイト24がネジ止めにて連結している。タイミングベルト26a,26bのスクリューネジ側(内側)と連結したツール移動台8に対して、プーリ27a,27a,27b,27bに巻き掛けられて走行するタイミングベルト26a,26bの外側に連結したバランスウエイト24は、その移動方向がツール移動台8とは逆向きとなる。
【0024】
ツール移動台8及びツール6の重量とバランスウエイト24の重量は等しく、その為に両者の移動方向が反対方向となることで、ツール移動台8及びツール6の重心とバランスウエイト24の重心は主軸中心軸に対して常に等距離にあり、ホルダ5の回転に伴う遠心力は互いに打ち消され、ホルダ5が高速回転しても振れることはない。
【0025】
そして、タイミングベルト26a,26bの外側にはガイドレール29a,29bがスクリューネジ22と平行に沿設され、バランスウエイト24をネジ止めしている両挟持板30a、30aはこのガイドレール29a,29bにガイドされて移動する。すなわち、ツール移動台8に対してタイミングベルト26a,26bを介してバランスウエイト24を追従させると共に、該バランスウエイト24はタイミングベルト26a,26bとツール移動台8の上側に配置することで、ホルダ5の外径を抑えることが出来る。そして、バランスウエイト24はホルダ本体内に配置されることで、高速回転に伴って故障が発生しても安全である。
【0026】
一方、ホルダ5にはバランスウエイト24が取付けられることで、ツール6及びツール移動台8とバランスして遠心力は打ち消されるが、ツール移動台8を移動する為に設けたギヤ機構を構成するギヤの歯形、並びにスクリューネジ、ツール移動台のガイド摺動面、及びバランスウエイトのガイドレールなどにはDLC系のコーティングが施されている。従って、高速回転に伴って潤滑油飛散による潤滑不足は無く、ギヤやスクリューネジの接触面及びガイド並びにガイドレールの摺動面の摩耗を抑制することが出来る。
【符号の説明】
【0027】
1 ワーク
2 穴
3 中心軸
4 内周面
5 ホルダ
6 ツール
7 中心軸
8 ツール移動台
9 サブ軸
10 サブ軸プーリ
11 タイミングベルト
12 プーリ
13 リングギヤ
14 サンギヤ
15 遊星ギヤ
16 軸
17 ギヤ
18 ギヤ
19 軸
20 かさ歯車
21 かさ歯車
22 スクリューネジ
23 ガイド
24 バランスウエイト
25 ツール取着部
26 タイミングベルト
27 プーリ
28 挟持板
29 ガイドレール
30 挟持板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主軸の中心軸からツールを移動偏心することが出来、該ツールの偏心とバランスすることが出来る工作機械のホルダ構造において、ツールを取付けたツール移動台をガイドに沿って移動する為のスクリューネジを主軸の中心軸に対して垂直を成して設け、該スクリューネジの両側にはプーリに巻き掛けられて走行するタイミングベルトを配置すると共に、タイミングベルトの内側又は外側には上記ツール移動台を連結し、そしてバランスウエイトをタイミングベルトの外側又は内側に連結することでツール移動台の移動方向とバランスウエイトの移動方向を反対向きとし、バランスウエイトがホルダ本体内から突出することがないようにしたことを特徴とするバランス機構を備えた工作機械のホルダ構造。
【請求項2】
上記スクリューネジを回転する為に主軸回転用モータとは別にサブモータを用い、該サブモータの回転をギヤ機構を介してスクリューネジを回転駆動するようにした請求項1記載のバランス機構を備えた工作機械のホルダ構造。
【請求項3】
ホルダの外周にはプーリを回転可能に軸支し、該プーリをサブモータにて回転させ、該プーリにはリングギヤを取着すると共にリングギヤと同心をなすサンギヤ間には遊星ギヤを介在し、そしてサンギヤの回転をスクリューネジに伝達することが出来るギヤ機構とした請求項1、又は請求項2記載のバランス機構を備えた工作機械のホルダ構造。
【請求項4】
上記バランスウエイトはタイミングベルトに連結すると共にガイドレールに沿って移動可能とした請求項1、請求項2、又は請求項3記載のバランス機構を備えた工作機械のホルダ構造。
【請求項5】
上記バランスウエイトをタイミングベルト及びツール移動台の上側に配置した請求項1、請求項2、請求項3、又は請求項4記載のバランス機構を備えた工作機械のホルダ構造。
【請求項6】
ツール移動台を移動する為のガイド、スクリューネジ、スクリューネジ穴、バランスウエイトが移動するガイドレール、及びギヤ機構のギアをコーティング処理した請求項1、請求項2、請求項3、請求項4、又は請求項5記載のバランス機構を備えた工作機械のホルダ構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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