説明

バルコニーの排水構造とそれに用いる排水溝ユニット

【課題】縦樋をバルコニーの建物外壁側端部近傍に設けた排水構造において、呼び樋(横引き配管)を省略し、スラブ下のすっきりした美麗な外観が得られるにもかかわらず、建物外壁側スラブ下へのクラック発生を防止できるようにする。
【解決手段】縦樋8をバルコニー7の建物外壁側端部近傍に設けた排水構造であって、バルコニーの床部における縦樋配置箇所に、建物外壁側端部からバルコニーの先端立上り部に至る開口10が形成され、開口には、床面の先端立上り部側の側溝に集められた雨水を縦樋に排水するための排水溝ユニット1が嵌め込まれている。排水溝ユニットは、排水溝2が形成されたガラス繊維補強セメント製のユニット本体3と、排水溝の水下側端部において上下に貫通する状態にユニット本体と一体化されたルーフドレーン4と、ユニット本体の両側面から突出した複数本の位置決め用鉄筋5とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、多層集合住宅、ホテルや病院等のバルコニーの排水構造に関する。
【背景技術】
【0002】
多層集合住宅等のようなバルコニーの付いた建物においては、バルコニーの床部上面に外下がりの排水勾配aが付けられ、バルコニーに降り込んだ雨水を先端立上り部(パラペット部)に沿って形成された床面の側溝に集めるように構成されている。そして、図11や特許文献1に示すように、側溝7cの一部にスラブを貫通する状態に設けられた集水口(ルーフドレーン4)から、バルコニー7のスラブ下に設けられた呼び樋(横引き配管)Xを経て、下階の建物外壁側端部近傍に設けられた縦樋(縦配管)8へと排水する排水構造が採用されている。
【0003】
しかしながら、このようなバルコニーの排水構造では、建物を外部から見上げた際、スラブ下の呼び樋(横引き配管)Xが目について、外観がすっきりしないというデザイン上の問題があった。また、バルコニー7のスラブ下に呼び樋(横引き配管)Xを取り付ける際、バルコニー端部での上向きの高所作業が必要となり、安全確保に厳重な配慮が要求され、施工性にも難があった。
【0004】
縦樋をバルコニーの先端側に設け、側溝内に設置したルーフドレーンから縦樋に直接雨水が流れ込むように構成することによって、スラブ下の呼び樋(横引き配管)を省略したバルコニーの排水構造も、特許文献2によって提案されている。しかし、このバルコニーの排水構造では、縦樋がバルコニーの先端側に設けられるため、縦樋をバルコニーの建物外壁側端部近傍(外壁に沿った位置)に設けた場合よりも、縦樋が目立つことになり、同様にデザイン上の問題が生じる。
【0005】
尚、縦樋をバルコニーの建物外壁側端部近傍に設けた排水構造において、スラブ下の呼び樋(横引き配管)を省略する手法としては、バルコニーの床部上面に住戸側が低くなるような内下がりの排水勾配を付けて、側溝を建物外壁側端部に設ける案や、外下がりに傾斜したバルコニーの一部に、逆向きの排水勾配を付けた排水溝を形成し、バルコニー先端側の側溝に集められた雨水をこの排水溝によって建物外壁側の縦樋へと流下案内するように構成する案が考えられる。
【0006】
しかし、前者による場合は、排水勾配や側溝のために、最も耐力を必要とするバルコニーの建物外壁側端部のスラブ厚が薄くなり、クラックを生じる懸念がある。後者による場合も、バルコニーの床部上面の一部に逆勾配の排水溝を形成することによって、排水溝の位置では、スラブ厚が薄くなり、クラックを生じる懸念がある。そのため、縦樋をバルコニーの建物外壁側端部近傍に設けた排水構造においては、外観デザインを犠牲にしても、呼び樋形式とせざるを得なかったのが実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−193393号公報
【特許文献2】特開2001−241152号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の問題点を踏まえてなされたものであって、その目的とするところは、
縦樋をバルコニーの建物外壁側端部近傍に設けた排水構造において、呼び樋(横引き配管)を省略し、スラブ下のすっきりした美麗な外観が得られるにもかかわらず、建物外壁側スラブ下へのクラック発生を防止できるようにした施工性の良いバルコニーの排水構造と、それに用いるのに好適な排水溝ユニットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明が講じた技術的手段は、次の通りである。即ち、請求項1に記載の発明は、縦樋をバルコニーの建物外壁側端部近傍に設けた排水構造であって、バルコニーの床部における縦樋配置箇所に、建物外壁側端部からバルコニーの先端立上り部に至る開口が形成され、当該開口には、床面の先端立上り部側に形成された側溝に集められた雨水を前記縦樋に排水するための排水溝ユニットが嵌め込まれていることを特徴としている。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のバルコニーの排水構造に用いる排水溝ユニットであって、上面に排水溝が形成されたユニット本体と、排水溝の水下側端部において上下に貫通する状態にユニット本体と一体化され、上下に縦樋を連結可能なルーフドレーンと、ユニット本体の両側面から突出した複数本の位置決め用鉄筋とを備えて成ることを特徴としている。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の排水溝ユニットであって、ユニット本体が、肉厚内部に発泡スチロールの充填された空洞部を有するガラス繊維補強セメント成型品であることを特徴としている。
【0012】
請求項4に記載の発明は、請求項2又は3に記載の排水溝ユニットであって、ユニット本体に対する現場でのモルタル塗り作業によって排水溝に排水勾配を付けるようにしたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に記載の発明によれば、縦樋をバルコニーの建物外壁側端部近傍に設けた排水構造であるにもかかわらず、床部の開口に嵌め込まれた排水溝ユニットによって、床面の先端立上り部(パラペット部)側に形成された側溝から前記縦樋へと雨水を排水するので、スラブ下の呼び樋(横引き配管)が省略され、スラブ下のすっきりした美麗な外観が得られる。
【0014】
それでいて、バルコニーの床部に、建物外壁側端部からバルコニーの先端立上り部に至る開口を形成することにより、バルコニーを構造的に開口部扱いとし、開口に排水溝ユニットを嵌め込むので、スラブ厚が薄くなることに起因する建物外壁側スラブ下へのクラック発生を防止できる。
【0015】
また、スラブ下に呼び樋(横引き配管)を取り付けるためのバルコニー端部における上向きの高所作業が無くなるので、施工性が良く、安全性も向上することになる。
【0016】
請求項2に記載の発明によれば、上面に排水溝が形成されたユニット本体と、排水溝の水下側端部において上下に貫通する状態にユニット本体と一体化され、上下に縦樋を連結可能なルーフドレーンと、ユニット本体の両側面から突出した複数本の位置決め用鉄筋とを備えて成る排水溝ユニットであるから、この排水溝ユニットを用いることにより、請求項1に記載の発明に係るバルコニーの排水構造を容易に実現し得る。
【0017】
即ち、排水溝ユニットを、バルコニー用型枠の所定位置に配置し、ユニット本体の両側面から突出した位置決め用鉄筋でスラブ筋に固定した状態で、バルコニーのスラブコンク
リートを打設することにより、排水溝ユニットが開口に嵌め込まれた状態に打ち込まれ、バルコニーと一体化されることになる。従って、バルコニーの床部に開口を形成するための型枠やその脱型作業が不要であり、さらに、上面に排水溝が形成されたユニット本体と、排水溝の水下側端部においてユニット本体を上下に貫通するルーフドレーンとが一体化されているため、バルコニーに対する個別的な取付け作業が不要で、施工性が良く、安定した高い品質が確保される。これらの結果として、請求項1に記載の発明に係るバルコニーの排水構造を容易に実現し得るのである。
【0018】
請求項3に記載の発明によれば、ユニット本体が、肉厚内部に発泡スチロールの充填された空洞部を有するガラス繊維補強セメント成型品であるため、軽量かつ堅牢であり、排水溝ユニットの取扱いが容易である。
【0019】
請求項4に記載の発明によれば、ユニット本体に対する現場でのモルタル塗り作業によって排水溝に排水勾配を付けるので、ユニット本体の設置レベルに多少の誤差があっても所定の排水勾配を付けることができ、外観的にもスラブのコンクリートに良く馴染み、違和感を与えないで済む。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る排水溝ユニットの斜視図である。
【図2】排水溝ユニットの平面図である。
【図3】図2のA−A断面図である。
【図4】図2のB−B断面図である。
【図5】図2のC−C断面図である。
【図6】上記の排水溝ユニットを用いたバルコニーの排水構造の概略縦断側面図である。
【図7】排水溝ユニットの設置方法を説明する斜視図である。
【図8】バルコニーの排水構造における要部の平面図である。
【図9】バルコニーの排水構造における要部の縦断側面図である。
【図10】バルコニーの排水構造における要部の縦断正面図である。
【図11】従来例を示すバルコニーの排水構造の概略縦断側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係るバルコニーの排水構造とそれに用いる排水溝ユニットを例示図に基づいて説明する。図1〜図5において、1は排水溝ユニットを示す。この排水溝ユニット1は、上面に排水溝2が形成されたユニット本体3と、排水溝2の水下側端部において上下に貫通する状態にユニット本体3と一体化されたルーフドレーン4と、ユニット本体3の両側面から突出した3本の位置決め用鉄筋5とを備えている。ユニット本体3は、ガラス繊維補強セメント成型品であり、図3、図5に示すように、軽量化のために、肉厚内部に発泡スチロール6の充填された空洞部を有している。位置決め用鉄筋5としては、例えば、D10のステンレス鋼線が使用される。図6において、7は多層集合住宅等の建物におけるバルコニーを示す。
【0022】
ルーフドレーン4の上下には、図6、図9に示すように、バルコニー7の建物外壁側端部(住戸側端部)近傍に設けた縦樋(共用の縦配管)8を連結可能に構成され、排水溝2からルーフドレーン4を経て縦樋8へと雨水を流下させるように構成されている。排水溝ユニット1をバルコニー7に設置する以前の状態においては、ユニット本体3の排水溝2に排水勾配bが付けられておらず、ユニット本体3に対する現場でのモルタル塗り作業によって排水溝3に排水勾配bを付けるように構成されている。9は、ユニット本体3に打ち込まれた塩ビの鞘管である。
【0023】
図6〜図10は、上記の排水溝ユニット1を用いて構成されたバルコニーの排水構造を示す。図示のバルコニー7は、コンクリートの現場打ちによる鉄筋コンクリート造であって、床部7aの上面には、外下がりの排水勾配aが付けられ、先端立上り部(パラペット部)7bに沿って側溝7cが形成されている。7dは先端立上り部(パラペット部)7bの上面に立設した手摺である。
【0024】
バルコニー7の床部7aには、縦樋8の配置箇所ごとに、夫々、建物外壁側端部からバルコニー7の先端立上り部7bに至る開口10が形成され、バルコニー7を構造的に開口
部扱いとしている。そして、各々の開口10には、前述した排水溝ユニット1が嵌め込まれ、これらの排水溝ユニット1によって側溝7cから縦樋8へと雨水を排水するように構成してある。雨水の他、バルコニー7に設置された洗濯機や掃除用流し等からの雑排水も排水される場合もある。
【0025】
具体的には、図7に示すように、排水溝ユニット1をバルコニー用型枠(図示せず)の所定位置に配置し、ユニット本体3の両側面から突出した位置決め用鉄筋5でスラブ筋11に固定した状態で、バルコニー7のスラブコンクリートを打設することにより、排水溝ユニット1を開口10に嵌め込まれた状態に打ち込み、バルコニー7と一体化してある。しかる後、図9、図10に示すように、ユニット本体3の排水溝2にモルタル12を塗布して、バルコニー7の床部7a上面とは逆方向の排水勾配bを付け、側溝7cに集められた雨水を排水溝2によって建物外壁側へと流下案内し、ルーフドレーン4を経て縦樋8へと排水するように構成してある。排水溝2の底面(モルタル12の上面)には塗膜防水(図示せず)が施され、ユニット本体3と開口10の縁部との間には、シール材13が施されている。
【0026】
上記の構成によれば、縦樋8をバルコニー7の建物外壁側端部近傍に設けた排水構造であるにもかかわらず、床部7aの開口10に嵌め込まれた排水溝ユニット1によって、床面の先端立上り部(パラペット部)7b側に形成された側溝7cから前記縦樋8へと雨水を排水するので、スラブ下の呼び樋(横引き配管)が省略され、スラブ下のすっきりした美麗な外観が得られることになる。
【0027】
それでいて、バルコニー7の床部7aに、建物外壁側端部からバルコニー7の先端立上り部7bに至る開口10を形成することにより、バルコニー7を構造的に開口部扱いとし
、開口10に排水溝ユニット1を嵌め込むので、スラブ厚が薄くなることに起因する建物外壁側スラブ下へのクラック発生を防止できる。
【0028】
また、スラブ下に呼び樋(横引き配管)を取り付けるためのバルコニー端部での上向きの高所作業が無くなるので、施工性が良く、安全性も向上することになる。
【0029】
尚、上記の実施形態では、バルコニー7をコンクリートの現場打ちによる鉄筋コンクリート造としたが、本発明は、バルコニー7をプレキャストコンクリート製やハーフプレキャストコンクリート製とする場合にも、適用可能である。
【符号の説明】
【0030】
1 排水溝ユニット
2 排水溝
3 ユニット本体
4 ルーフドレーン
5 位置決め用鉄筋
6 発泡スチロール
7 バルコニー
7a 床部
7b 先端立上り部
7c 側溝
7d 手摺
8 縦樋
9 鞘管
10 開口
11 スラブ筋
12 モルタル
13 シール材
a 排水勾配
b 排水勾配
X 呼び樋(横引き配管)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
縦樋をバルコニーの建物外壁側端部近傍に設けた排水構造であって、バルコニーの床部における縦樋配置箇所に、建物外壁側端部からバルコニーの先端立上り部に至る開口が形成され、当該開口には、床面の先端立上り部側に形成された側溝に集められた雨水を前記縦樋に排水するための排水溝ユニットが嵌め込まれていることを特徴とするバルコニーの排水構造。
【請求項2】
請求項1に記載のバルコニーの排水構造に用いる排水溝ユニットであって、上面に排水溝が形成されたユニット本体と、排水溝の水下側端部において上下に貫通する状態にユニット本体と一体化され、上下に縦樋を連結可能なルーフドレーンと、ユニット本体の両側面から突出した複数本の位置決め用鉄筋とを備えて成ることを特徴とする排水溝ユニット。
【請求項3】
ユニット本体が、肉厚内部に発泡スチロールの充填された空洞部を有するガラス繊維補強セメント成型品であることを特徴とする請求項2に記載の排水溝ユニット。
【請求項4】
ユニット本体に対する現場でのモルタル塗り作業によって排水溝に排水勾配を付けるようにしたことを特徴とする請求項2又は3に記載の排水溝ユニット。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2012−92530(P2012−92530A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−239209(P2010−239209)
【出願日】平成22年10月26日(2010.10.26)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)