説明

バルジング検知装置の校正方法およびダミーバー

【課題】鋳片の生産効率を維持したままバルジング検知装置の校正を行なうことができるバルジング検知装置の校正方法およびこれに用いるダミーバーを提供する。
【解決手段】連続鋳造において引き抜かれる鋳片Sの短辺に発生するバルジングを検知するためのバルジング検知装置10の校正方法であって、前記鋳片を引き抜くためのダミーバー1の該鋳片の短辺側の面に形成した凹凸パターンを、ミリ波信号を用いて、距離計ヘッド11,12,21,22と各距離計ヘッドが面する鋳片の短辺との距離を測定し、該測定結果をもとに前記バルジング検知装置の校正を行なう。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続鋳造において引き抜かれている鋳片におけるバルジングの発生およびその量を検知するためのバルジング検知装置の校正方法およびこれに用いるダミーバーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
連続鋳造中に鋳片の凝固層が破れて未凝固の溶鋼が漏れ出すブレークアウトは、発生すると大きな損害となる。特にこのブレークアウトが、鋳型から出た後の工程で発生すると、ロール等の周辺機器に重大な損害をもたらす。
【0003】
この様な鋳型外で発生するブレークアウトは、鋳片の凝固層の厚みの不足から発生するが、ブレークアウト直前には、バルジング量が大きくなることが知られている。バルジングとは、鋳片内部の未凝固溶鋼の圧力により、外部からの支えのないロール間の位置において、凝固層が外側に膨らむ現象である。この現象は、溶鋼流動により凝固層に熱供給が行われて凝固層が再溶解し、これによって凝固層が薄くなるために起こると考えられている。そして、凝固層が薄くなる確率は、鋳片の長辺側よりも短辺側において高く、それゆえバルジングも鋳片の短辺側において特に顕著に発生する。そこで、従来より、鋳片短辺のバルジングの発生およびその量を検知して、ブレークアウトを未然に防ぐ技術が開示されている。
【0004】
従来のバルジング検知技術としては、光学式、超音波式、接触式等がある。たとえば光学式としては、特許文献1のようにバルジング部分を挟むように投光器、受光器を設けてその投影からバルジング量を計測する方法や、特許文献2のようにレーザ距離計を使用して計測する方法がある。また、超音波式としては、特許文献3のように水柱方式の超音波距離計を使用して計測する方法がある。また、接触式としては、特許文献4のように接触子によって計測する方法がある。
【0005】
【特許文献1】特開昭58−176510号公報
【特許文献2】特開2007−319929号公報
【特許文献3】特開昭60−6260号公報
【特許文献4】特開2006−130549号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、バルジングが発生する位置は鋳型直下の冷却帯付近であるため、一般的に水蒸気や水流、スケールや粉塵が多く、また1000℃以上の高温であるという厳しい環境である。したがって、バルジングの検知精度を維持するために、適時にバルジング検知装置の校正を行いたいという要求がある。
【0007】
しかしながら、バルジング検知装置の校正のために連続鋳造機の操業を停止すると、鋳片の生産効率が低下するので好ましくない。そこで、連続鋳造機の操業を停止せずに、鋳片の生産効率を維持したままバルジング検知装置の校正を行なう方法が求められていた。
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、鋳片の生産効率を維持したままバルジング検知装置の校正を行なうことができるバルジング検知装置の校正方法およびこれに用いるダミーバーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係るバルジング検知装置の校正方法は、連続鋳造において引き抜かれる鋳片の短辺に発生するバルジングを検知するためのバルジング検知装置の校正方法であって、前記鋳片を引き抜くためのダミーバーの該鋳片の短辺側の面に形成した凹凸パターンを、前記バルジング検知装置を用いて測定し、該測定結果をもとに前記バルジング検知装置の校正を行なうことを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係るバルジング検知装置の校正方法は、上記の発明において、前記凹凸パターンは、前記ダミーバーの面の厚さ方向略中央部に凸部を有するように形成されていることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係るバルジング検知装置の校正方法は、上記の発明において、前記凹凸パターンは、前記ダミーバーの面を厚さ方向に横断する段差を有するように形成されていることを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係るダミーバーは、上記の発明の校正方法で用いるダミーバーであって、厚さ方向略中央部に凸部が形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ダミーバーに形成した凹凸パターンを用いてバルジング検知装置の校正を行なうので、連続鋳造機の操業を停止せずに、鋳片の生産効率を維持したまま校正を行なうことができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、図面を参照して本発明に係るバルジング検知装置の校正方法およびこれに用いるダミーバーの実施の形態を詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0015】
(実施の形態1)
図1は、本実施の形態1において用いるダミーバーの模式図である。図1に示すように、このダミーバー1は、鋳型から引き抜かれるべき鋳片Sに接合する本体部に、複数の棒状部材が連結されて屈曲可能とされた多関節部1aが接続された構成を有している。
【0016】
図2は、図1に示すダミーバー1の紙面右側の側面を拡大して示した図である。また、図3は、図1に示すダミーバー1を紙面右側の側面側から見た図である。図2、3に示すように、このダミーバー1の側面、すなわち鋳片Sの短辺側の面は、鋳片Sの短辺と略同一平面上に位置する基準面1bと、基準面1bに対して高さh1の段差を有するように形成された段差部1cと、段差部1cから高さh2だけ突出するように形成された凸部1dとを有している。すなわち、このダミーバー1の鋳片Sの短辺側の面には凹凸パターンが形成されている。なお、ダミーバー1の紙面左側の側面にも、同様の基準面、段差部、凸部が形成されている。
【0017】
また、図3に示すように、基準面1bは、長さl1と、鋳片Sの厚さと同じ厚さd1を有する。また、段差部1cは、長さl2、厚さd1を有する。すなわち、段差部1cは、ダミーバー1の側面を厚さ方向に横断するように形成されている。また、凸部1dは、長さl3、厚さd2を有している。また、凸部1dは、段差部1cの厚さ方向および長さ方向の略中央に位置している。また、上記各長さl1〜l3、高さh1、h2、厚さd1、d2の値は、たとえば以下の通りである。すなわち、長さl1、l3の値はいずれも100mmであり、長さl2の値は300mmである。また、長さ方向において凸部1dの端から段差部1cの端までの長さは100mmである。また、高さh1、h2の値はいずれも5mmであり、厚さd1、d2の値はそれぞれ250mm、100mmである。この値は、バルジングを検知するために必要となる測定分解能や精度を考慮して、適宜設定されればよい。
【0018】
つぎに、図1〜3に示すダミーバー1を用いたバルジング検知装置の校正方法について説明する。はじめに、校正をすべきバルジング検知装置、このバルジング検知装置を適用すべき鋳片、および連続鋳造機について説明し、その後このバルジング検知装置の校正方法について説明する。
【0019】
図4は、校正をすべきバルジング検知装置10の概略構成、およびこのバルジング検知装置10を適用すべき鋳片Sと連続鋳造機100とを模式的に示した図である。なお、符号Wは、連続鋳造機100の外壁である。連続鋳造工程の開始時には、連続鋳造機100の鋳型101にダミーバー1を挿入し、つぎにダミーバー1の上方から鋳型101内に溶鋼を流し込む。ダミーバー1上で溶鋼が凝固したら、鋳型101から鋳片Sを引き抜く。鋳片Sは、ガイドロール102に支持されながら、ダミーバー1によって矢印Arの方向へ引き抜かれていく。鋳型101の直下には冷却帯Aがあり、この冷却帯Aにおいて鋳片Sの凝固層の成長が制御される。その後、ダミーバー1は鋳片Sから切り離される。そして、鋳造すべき鋼種の変更をする等のために鋳込みを行なう際には再び鋳型101にダミーバー1を挿入し、同様に鋳片の引抜きを行なう。すなわち、ダミーバー1は、連続鋳造工程において鋳込みの度に使用される。
【0020】
つぎに、バルジング検知装置10について説明する。このバルジング検知装置10は、周波数が30GHz〜300Gzのミリ波を用いたものであり、図4に示すように、距離計ヘッド11、12、21、22と、バルジング検知手段としてのミリ波距離計13と、ミリ波用の導波管14a、14b、15a、15bとを備えている。
【0021】
距離計ヘッド11、12、21、22は、冷却帯Aの下方に配置されている。また、距離計ヘッド11、21は、鋳片Sの一方の短辺に面して配置され、距離計ヘッド12、22は、鋳片Sの他方の短辺に面して配置されている。また、ミリ波距離計13は、連続鋳造機100の外部に設置されている。また、導波管14a、14bは、距離計ヘッド11、21とミリ波距離計13とを接続するためのものであり、導波管15a、15bは、距離計ヘッド12、22とミリ波距離計13とを接続するためのものである。
【0022】
このバルジング検知装置10は、ミリ波信号を用いて、距離計ヘッド11、12、21、22と、各距離計ヘッドが面する鋳片Sの短辺との距離を測定し、その測定値の変動をもとに、バルジングの発生およびその量を検知するものである。
【0023】
つぎに、このバルジング検知装置10の校正方法について説明する。上述したように、連続鋳造工程において、鋳片Sはダミーバー1によって引き抜かれるが、この際に、ダミーバー1は距離計ヘッド11、12、21、22の前を通過する。このとき、バルジング検知装置10は、ダミーバー1の側面に形成された基準面1b、段差部1c、凸部1dからなる凹凸パターンまでの距離を測定する。このダミーバー1の基準面1b、段差部1c、凸部1dの長さおよび高さは既知であるから、基準面1b、段差部1c、凸部1dの既知の長さおよび高さを基準として、バルジング検知装置10の校正を行うことができる。ダミーバー1は連続鋳造工程において鋳込みの度に使用されるものであるから、このダミーバー1を用いて校正を行なうことによって、連続鋳造機100の操業を停止せずに、その生産効率を維持したまま校正を行なうことができる。
【0024】
以下、このバルジング検知装置10の校正方法について、バルジング検知装置10の詳細構成とともにさらに具体的に説明する。図5は、距離計ヘッド11、22の詳細構成、配置、およびその動作を説明する説明図である。なお、図5において、符号Dは鋳片Sの引き抜き方向を示しており、鋳片Sは、紙面の表側から裏側に向かって引き抜かれている。また、図5においては、ダミーバー1の段差部1cが、ちょうど距離計ヘッド11、21の前を通過している状態を示している。図5に示すように、この距離計ヘッド11は、断面が矩形のホーンアンテナを用いた送信アンテナ11aと、送信アンテナ11aの近傍に配置された受信アンテナ11bを有しており、鋳片Sの短辺に面して、短辺から所定の距離だけ離隔した状態で配置されている。また、導波管14aは送信アンテナ11aに接続し、導波管14bは受信アンテナ11bに接続している。
【0025】
一方、距離計ヘッド21も、断面が矩形のホーンアンテナを用いた送信アンテナ21a、受信アンテナ21bを有しており、鋳片Sの短辺に面して、距離計ヘッド11と同じ距離だけ短辺から離隔した状態で配置されている。また、導波管14a、導波管14bの途中にはそれぞれ切替スイッチ27a、27bが設けられており、導波管24aは送信アンテナ21aと切替スイッチ27aとに接続し、導波管24bは受信アンテナ21bと切替スイッチ27bとに接続している。なお、切替スイッチ27a、27bは、このように連続鋳造機100の内部に設けてもよいし、連続鋳造機100の外部やミリ波距離計13の内部に設けてもよい。
【0026】
一方、距離計ヘッド12、22も、それぞれ距離計ヘッド11、21と同様に、断面が矩形のホーンアンテナを用いた送信アンテナ、受信アンテナを有しており、鋳片Sの反対側の短辺に面して、この短辺から所定の距離だけ離隔した状態で配置されている。また、導波管15a、15bは、距離計ヘッド12の送信アンテナ、受信アンテナにそれぞれ接続している。また、導波管15a、導波管15bの途中にはそれぞれ切替スイッチが設けられている。距離計ヘッド21の送信アンテナは、所定の導波管を介して、導波管15aに設けた切替スイッチに接続しており、距離計ヘッド21の受信アンテナは、別の所定の導波管を介して、導波管15bに設けた切替スイッチに接続している。
【0027】
なお、距離計ヘッド11、21、12、22とそれぞれが面している鋳片Sの短辺との間の離隔距離は、たとえば約200mmであるが、連続鋳造機100内の他の機器と干渉しないようにすれば特に限定されない。
【0028】
つぎに、図5を用いてバルジング検知装置10の動作を説明する。まず、ミリ波距離計13は、導波管14aを通して送信アンテナ11aに所定の信号パターンを有するミリ波信号W1を供給する。一方、ミリ波距離計13は、導波管14aを通して、ミリ波信号W1と同一または異なる所定の信号パターンを有するミリ波信号W2も供給する。ここで、切替スイッチ27aは所定の切替タイミングにより適宜に切り替わり、ミリ波信号W2は送信アンテナ21aに供給される。このミリ波信号W1、W2としては、たとえば単一パルス状のものを用いる。つぎに、送信アンテナ11aは、前方を通過しているダミーバー1の段差部1cの厚さ方向の略中央部Cに向かってミリ波信号W1を送信する。その一方で、送信アンテナ21aは、ダミーバー1の段差部1cの厚さ方向の略端部Eに向かってミリ波信号W2を送信する。なお、ミリ波信号W1、W2の段差部1c上でのスポットサイズはたとえば20mm〜30mmとする。
【0029】
すると、ミリ波信号W1が中央部Cによって反射して反射ミリ波信号RW1が発生する。受信アンテナ11bは、この反射ミリ波信号RW1を受信する。その一方で、受信アンテナ21bが、ミリ波信号W2が端部Eによって反射して発生した反射ミリ波信号RW2を受信する。導波管14bは、受信アンテナ11bが受信した反射ミリ波信号RW1をミリ波距離計13へと導波する。その一方で、導波管24bは、切替スイッチ27a、導波管14bを介して、受信アンテナ21bが受信した反射ミリ波信号RW2をミリ波距離計13へと導波する。ミリ波距離計13は、反射ミリ波信号RW1、RW2を受け付ける。
【0030】
そして、ミリ波距離計13は、送信アンテナ11aの送信時刻と、受信アンテナ11bの受信時刻との時間差にもとづき、距離計ヘッド11とダミーバー1の段差部1cの中央部Cとの距離を測定する。また、一方で、ミリ波距離計13は、送信アンテナ21aの送信時刻と、受信アンテナ21bの受信時刻との時間差にもとづき、距離計ヘッド21とダミーバー1の段差部1cの端部Eとの距離を測定する。たとえば、上記時間差とミリ波信号W1の速度との積を2で除算して上記距離とする。
【0031】
図6は、単一パルス状のミリ波信号を用い、距離計ヘッド11とダミーバー1の段差部1cとの距離が約203mmである場合の測定距離の一例を模式的に示した図である。図6において、横軸は測定した距離、縦軸は反射ミリ波信号の強度を示している。なお、ここで、横軸の距離は、ミリ波信号W1の送信時刻と反射ミリ波信号RW1の受信時刻との時間差にミリ波信号W1の速度を積算し、これを2で除算して算出している。図6に示すように、反射ミリ波信号RW2の強度の最大値は、距離計ヘッド11とダミーバー1の段差部1cとの距離に対応し、線L1が示す約203mmの位置に現われている。したがって、ミリ波距離計13は、この強度の最大値の位置をもとに、距離の変動を測定することができる。
【0032】
つぎに、ダミーバー1がさらに鋳片Sを引き抜き、図7に示すように、ダミーバー1の凸部1dが、ちょうど距離計ヘッド11、21の前を通過する状態について説明する。この場合、距離計ヘッド11は凸部1dまでの距離を測定するので、その測定距離は短くなるように変動する。しかし、距離計ヘッド21は段差部1cまでの距離を測定するので、その測定距離は変動しない。
【0033】
ここで、バルジングは、鋳片Sの短辺の中央部を中心として現われ、短辺の端部の表面形状は変化しない。したがって、この凸部1dは、鋳片Sにおいてバルジングが発生した状態を擬似的に再現したものとなる。このように、ダミーバー1の側面の凸凹パターンが、ダミーバー1の側面の略中央部に凸部を有するように形成されていれば、実際にバルジングが発生した状態と近い状態で校正を行なうこととなるので、より正確な校正が実現される。
【0034】
なお、このバルジング検知装置10においては、距離計ヘッド21の測定距離を基準距離として、距離計ヘッド11の測定距離と、基準距離との差分をバルジング量として検知する。したがって、この場合は、凸部1dの段差部1cからの高さh2をバルジング量として検知する。ゆえに、バルジング検知装置10が検知したバルジング量と、実際の凸部1dの高さh2とを比較することによって、バルジング検知装置10の校正を実施できる。
【0035】
また、ダミーバー1がさらに鋳片Sを引き抜くと、ダミーバー1の基準面1bが、ちょうど距離計ヘッド11、21の前を通過する状態になる。この場合は、距離計ヘッド11、21の測定距離はいずれも長くなるように変動する。したがって、この段差部1cと基準面1bとは、鋳片Sが蛇行してその短辺の位置全体が変動する状態を擬似的に再現したものとなる。このように、ダミーバー1の側面の凸凹パターンが、ダミーバー1の側面を厚さ方向に横断する段差を有するように形成されていれば、鋳片Sが蛇行した状態と近い状態で校正を行なうこととなるので、より正確な校正が実現される。
【0036】
同様に、ミリ波距離計13は、導波管15a、15bを介して距離計ヘッド12、22との間で所定のミリ波信号の供給と反射ミリ波信号の受け付けとを行い、距離計ヘッド12、22と、ダミーバー1の反対側の短辺の中央部および端部との距離をそれぞれ測定するので、この測定した距離の差分と、実際の凸部の高さとを比較することによって、バルジング検知装置10の校正を実施できる。
【0037】
その後、ダミーバー1がさらに鋳片Sを引き抜くと、鋳片Sの短辺が、距離計ヘッド11、21、12、22の前を通過していく。バルジング検知装置10は、校正された状態で鋳片Sまでの短辺を測定し、正確にバルジングの検知を行うことができる。
【0038】
つぎに、図8は、バルジング検知装置10による測定距離の校正前後での違いを例示した図である。なお、図8においては、距離計ヘッド11、21から鋳片Sの短辺またはダミーバー1の基準面1bまでの距離を約193mmとしている。また、図8において、横軸は、距離計ヘッド11、21が距離の測定を行なっている位置を、ダミーバー1の先頭を基準として示している。また、左縦軸に対して、線L2は、ダミーバー1の側面中央部までの実際の距離を示し、線L3は、距離計ヘッド11が測定した距離を示している。一方、右縦軸に対して、線L4は、ダミーバー1の側面端部までの実際の距離を示し、線L5は、距離計ヘッド21が測定した距離を示している。図8に示すように、ダミーバー1の先頭からの位置が200mmまでは、測定した距離は、中央部において2mm程度だけ、端部において3mm程度だけ、実際の距離からドリフトしている。ここで、ダミーバー1の先頭から200mmの位置Pが距離計ヘッド11、21の前を通過した時に零点校正を行なったので、その後実際の距離と測定した距離とがよく一致している。
【0039】
つぎに、図9は、バルジング検知装置10により検知したバルジング量の校正前後での違いを示した図である。図9において、線L6は、図8に示すダミーバー1により擬似的に再現されたバルジング量を示し、線L7は、図8に示した距離計ヘッド11、21の測定にもとづき検知したバルジング量を示している。図8と同様に、零点校正を行なった位置P以降は、擬似的なバルジング量と検知したバルジング量とがよく一致している。
【0040】
なお、ダミーバーの長さ、厚さや、ダミーバーに形成する凹凸パターンについては上記実施の形態1のものに限られない。たとえば、鋳片の厚さはたとえば200〜300mmであるから、ダミーバーの厚さは、鋳片の厚さに応じて適宜設定される。また、ダミーバーの長さをさらに長くして、高さ5mm、10mm、15mmの段差部、あるいは凸部をさらに設けたり、凹部を設けたりしてもよい。また、実施の形態1に係るダミーバー1では、段差部1cや凸部1dの側面が基準面1bに対して垂直になっているが、傾斜させてもよい。
【0041】
また、上記実施の形態1では、ミリ波を用いたバルジング検知装置10を校正する例について説明したが、バルジング検知装置10と同様の構成を有し、周波数が300GHz〜3THzのテラヘルツ波や、3GHz〜30GHzのマイクロ波を用いたバルジング検知装置を校正することもできる。また、このような、周波数がおおよそ3GHz〜3THzの範囲の高周波の電波を用いたバルジング検知装置に限らず、特許文献1〜4に示したバルジング検知技術や他の技術を用いた装置に対しても、本発明の校正方法は適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】実施の形態1において用いるダミーバーの模式図である。
【図2】図1に示すダミーバーの紙面右側の側面を拡大して示した図である。
【図3】図1に示すダミーバー1を紙面右側の側面側から見た図である。
【図4】校正をすべきバルジング検知装置の概略構成、およびこのバルジング検知装置を適用すべき鋳片と連続鋳造機とを模式的に示した図である。
【図5】距離計ヘッドの詳細構成、配置、およびその動作を説明する説明図である。
【図6】単一パルス状のミリ波信号を用い、距離計ヘッドとダミーバーの段差部との距離が約203mmである場合の測定距離の一例を模式的に示した図である。
【図7】ダミーバーの凸部が、ちょうど距離計ヘッドの前を通過する状態を示した図である。
【図8】バルジング検知装置による測定距離の校正前後での違いを例示した図である。
【図9】バルジング検知装置により検知したバルジング量の校正前後での違いを示した図である。
【符号の説明】
【0043】
1 ダミーバー
1a 多関節部
1b 基準面
1c 段差部
1d 凸部
10 バルジング検知装置
11、12、21、22 距離計ヘッド
11a、21a 送信アンテナ
11b、21b 受信アンテナ
13 ミリ波距離計
14a、14b、15a、15b、24a、24b 導波管
27a、27b 切替スイッチ
100 連続鋳造機
101 鋳型
102 ガイドロール
A 冷却帯
Ar 矢印
C 中央部
d1、d2 厚さ
D 引き抜き方向
E 端部
h1、h2 高さ
l1〜l3 長さ
L1〜L7 線
P 位置
RW1、RW2 反射ミリ波信号
S 鋳片
W 外壁
W1、W2 ミリ波信号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続鋳造において引き抜かれる鋳片の短辺に発生するバルジングを検知するためのバルジング検知装置の校正方法であって、
前記鋳片を引き抜くためのダミーバーの該鋳片の短辺側の面に形成した凹凸パターンを、前記バルジング検知装置を用いて測定し、該測定結果をもとに前記バルジング検知装置の校正を行なうことを特徴とするバルジング検知装置の校正方法。
【請求項2】
前記凹凸パターンは、前記ダミーバーの面の厚さ方向略中央部に凸部を有するように形成されていることを特徴とする請求項1に記載のバルジング検知装置の校正方法。
【請求項3】
前記凹凸パターンは、前記ダミーバーの面を厚さ方向に横断する段差を有するように形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載のバルジング検知装置の校正方法。
【請求項4】
請求項1の校正方法で用いるダミーバーであって、厚さ方向略中央部に凸部が形成されていることを特徴とするダミーバー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−142856(P2010−142856A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−324641(P2008−324641)
【出願日】平成20年12月19日(2008.12.19)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】