説明

バーナ

【課題】バーナ近傍における高温場の形成を抑制し、熱応力によるき裂や高温腐食を防止すること。
【解決手段】搬送気体により搬送される粉体燃料を噴出する燃料ノズル3と、燃料ノズル3と同軸に外周を包囲して設けられ、酸化剤を噴出する酸化剤供給管路9と、酸化剤供給管路の外周を包囲して設けられた冷却水管路13とを備え、酸化剤供給管路9と冷却水管路13との間に、酸化剤を含まないガスを供給する環状の供給管路(11)を同軸に介装する。また、搬送気体により搬送される粉体燃料を固気分離器53に導いて固気分離し、分離後の粉体燃料の濃度が高い方の気体を燃料ノズルの基端側に供給し、粉体燃料の濃度が低い方の気体を環状の供給管路に供給する手段を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微粉炭、チャーなどの粉体燃料をガス化炉等に噴射する内部水冷式のバーナに関する。
【背景技術】
【0002】
各種ボイラやガス化炉等の燃焼装置においては、微粉炭や可燃性ガス、油等の燃料を噴射するためのバーナを備えている。このバーナは、一般に炉外から炉壁の貫通孔を通じて挿入され、挿入されたバーナの先端部が炉内に突出した状態で取り付けられている。バーナの先端部分には、燃料を噴射する燃料噴出孔と、燃料噴出孔の周囲に配置され、空気等の酸化材を噴出する複数の酸化剤供給孔が設けられている。
【0003】
従来のガス化炉用の一例として、バーナが設けられた石炭ガス化炉の断面を図6の左図に示す。ガス化炉101は、バーナ103、ガス化部105、冷却部107、クエンチ部109を備えている。ガス化部105に設けられるバーナ103から炉内に噴出された微粉炭等の粉体燃料と酸化剤は、高温下で反応することにより、COと水素を主成分とする生成ガスが生じると共に微粉炭中に含まれる灰分が溶融状態となる。生成ガスは上方の冷却部107に移動して熱回収され、排気口111から炉外へ排出された後、後方のガスタービンや燃料電池等の燃料として使用される。
【0004】
バーナ103は、図6の右図(横断面図)に示すように、円筒状のガス化炉内に旋回流を形成するため、炉の中心に対して軸の向きをずらして配置されている。炉内で旋回流が生じることにより、炉内に供給された微粉炭中の灰分は、旋回流によってガス化炉の内壁113に付着する。この内壁113に付着した灰分は、溶融灰となって内壁113を伝って下方のクエンチ部109に流下し、冷却水プール115で水砕された後、スラグとして炉外へ排出される。
【0005】
このようなガス化炉に設置されるバーナとしては、例えば、中央に微粉炭燃料を供給する供給路を備え、これを包囲するように酸化剤を供給する供給路を配置し、さらにその外周側に冷却水の供給路を備えたバーナの構造が開示されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭63−142095号公報
【特許文献2】特開平2−206687号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、このようにガス化炉にバーナを設置する構造においては、炉内で生成された可燃性ガス(CO、H等)及びチャー等がバーナの近傍で気流に巻き込まれ、酸化剤ガスと混合されることにより、発熱反応(燃焼)を生じさせることがある。このようにしてバーナの近傍に発熱反応に伴う高温場が形成されると、炉内に突出するバーナの先端側は加熱されて高温となり、熱応力によるき裂や高温腐食が発生するおそれがある。
【0008】
本発明は、バーナ近傍における高温場の形成を抑制し、熱応力によるき裂や高温腐食を防止することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するため、搬送気体により搬送される粉体燃料を噴出する燃料ノズルと、この燃料ノズルと同軸に外周を包囲して設けられ、酸化剤を噴出する酸化剤供給管路と、酸化剤供給管路の外周を包囲して設けられた冷却水管路とを備えてなるバーナにおいて、酸化剤供給管路と冷却水管路との間に、酸化剤を含まないガスを供給する環状の供給管路を同軸に介装したことを特徴とする。
【0010】
このようにすれば、炉内に噴出される酸化剤ガスの外側に、酸化剤を含まないガスによるカーテン状の膜が形成されるため、可燃性ガスと酸化剤ガスとの接触を抑制することができる。これにより、可燃性ガスと酸化剤ガスとの接触に伴う発熱反応が抑制され、バーナ近傍の高温場の発生を抑えることができるため、バーナの先端側の温度を低く保持することができ、バーナの熱応力によるき裂や高温腐食を防止することができる。酸化剤を含まないガスとしては、窒素又は水蒸気を用いることができる。
【0011】
この場合において、搬送気体により搬送される粉体燃料を固気分離器に導いて固気分離し、この分離後の粉体燃料の濃度が高い方の気体を燃料ノズルの基端側に供給し、粉体燃料の濃度が低い方の気体を環状の供給管路に供給する手段を備えて構成してもよい。このようにすれば、燃料ノズルに供給する気体の供給系と環状の供給管路に供給する気体の供給系を共通化できるため、気体の供給構造を簡素化することができる。
【0012】
また、冷却水管路を画成する管路部材の先端部分は、半球状に突出して環状に形成され、その先端部分の内部は冷却水を折り返す構造をなしていてもよい。このようにすれば、炉内側に突出する冷却水管路の先端部分において、冷却水のよどみが生じることなく、流れが円滑になるため、冷却効果を改善することができる。また、先端部分の断面を半球状の構造にすれば、発生する熱応力を分散できるため、熱応力の発生を最小限にすることができ、その結果、繰り返しの熱による熱疲労割れを抑制することが可能となる。
【0013】
ところで、従来、冷却水管路の管路部材の先端部分には、耐熱性(耐酸化性)を考慮して、Cr含有量18〜50%のオーステナイト鋼が使用されている。しかし、バーナより噴出される微粉炭燃料の種類等によっては火炎の大きさが不安定となり、火炎からの熱輻射が大きく変動することがある。この変動が続くとバーナの先端側の表面温度が繰り返し上下し、例えば、燃料ノズルの肉厚方向に繰り返し温度差が発生し、熱疲労(熱衝撃)が生じてノズル表面に多数のき裂が生じるおそれがある。
【0014】
そのため、本発明では、冷却水管路を画成する管路部材の先端部分を、Cr含有量9〜17%のフェライト鋼で形成するものとする。このように最も熱疲労が問題となる冷却水管路の先端部分を、オーステナイト鋼やNi基合金よりも熱伝導率が大きく線膨張係数が小さいフェライト鋼で形成することにより、先端部分に発生する熱応力を小さく抑えることができ、バーナの熱疲労寿命を長くすることができる。
【0015】
この場合において、冷却水管路を画成する管路部材の先端部分以外の残りの部分をCr含有量18%以上のオーステナイト鋼で形成し、先端部分と残りの部分を、溶接材料を用いて周溶接構造で接合するとともに、その接合部分を、先端部分が炉外から炉壁を通して炉内に挿入された状態で、炉壁内面よりも炉外側となる位置に設けるようにしてもよい。さらに、冷却水管路を画成する管路部材の先端部分以外の残りの部分と燃料ノズルを含むすべての構造部材をCr含有量9〜17%のフェライト鋼で形成するようにしてもよい。
【0016】
一方、高温かつ燃焼ガス成分が充満した還元性雰囲気の炉内にバーナの冷却水管路が長時間曝された場合、上記のフェライト鋼で形成される冷却水管路の先端部分には、硫化及び酸化減肉等の不具合により高温腐食が進行し、耐熱疲労寿命が低下するおそれがある。
【0017】
そこで、冷却水管路を画成する管路部材の先端部分は、Cr含有量9〜17%のフェライト鋼に代えて、AlとTiを強化元素として添加しないNi基合金で形成されるものとする。高強度Ni基合金は、一般にAlとTiを添加することによりγ´相を析出させて強化しているが、長時間使用すると時効硬化により感受性が高くなり、溶接割れ等が発生することがある。このため、本発明者らは、AlとTiを強化元素として添加しないNi基合金について高温腐食性を評価したところ、耐高温腐食性がCr含有量9〜17%のフェライト鋼よりも格段に優れていることを知見した。
【0018】
このAlとTiを強化元素として添加しないNi基合金で形成される冷却水管路の先端部分は、フェライト鋼よりも熱伝導率が小さく線膨張係数が大きいが、冷却水管路の先端部分に発生する硫化及び酸化減肉等による耐熱疲労性の著しい低下を抑制することができ、かつ、熱疲労寿命はオーステナイト鋼よりも優れている。したがって、Cr含有量9〜17%のフェライト鋼よりも高温腐食性の過酷な環境下で使用するバーナの寿命を一層向上させることができる。
【0019】
この場合において、冷却水管路を画成する管路部材の先端部分以外の残りの部分は、Cr含有量18%以上のオーステナイト鋼又はCr含有量9〜17%のフェライト鋼のいずれかで形成され、先端部分と残りの部分が溶接材料を用いて周溶接構造で接合されるとともに、その接合部分は、先端部分が炉外から炉壁を通して炉内に挿入された状態で、炉壁内面よりも炉外側となる位置に設けられているものとする。
【0020】
すなわち、接合部分は異材溶接部であり、大きな温度変化があると他の部分よりも大きな熱応力が発生するが、本発明の構成によれば、接合部分および冷却水管路の先端部分以外の残りの部分がバーナから噴射された燃料により形成される火炎の輻射熱を直接受けることがないため、これらの部分の熱疲労に伴う劣化を抑制することができる。なお、接合部分の位置は、炉壁の内面よりも炉外側であってもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、バーナ近傍における高温場の形成を抑制し、熱応力によるき裂や高温腐食を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明を適用してなる第1の実施形態のバーナの構成を示す縦断面図である。
【図2】図1のA−A矢視断面図である。
【図3】本発明を適用してなるバーナの他の構成を示す縦断面図である。
【図4】本発明を適用してなる第2の実施形態のバーナの先端側の一部を示す図である。
【図5】Alloy625の高温硫化腐食試験の結果を示す線図である。
【図6】従来のガス化炉の構成を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
(第1の実施形態)
以下、本発明を適用してなる微粉炭燃料噴出バーナ(以下、バーナと略す。)の第1の実施形態について図面を参照して説明する。図1は、本実施形態のバーナの構成を示す縦断面図、図2は、図1のA−A矢視断面図である。
【0024】
本実施形態のバーナ1は、ガス化炉の炉壁71の貫通孔に挿入され、先端側を炉壁71から炉内側に突き出した状態で炉壁71に装着されている。このバーナ1は、図1に示すように、窒素ガスにより搬送される微粉炭燃料を噴出する円筒状の燃料ノズル3と、燃料ノズル3の外側を同軸に包囲して設けられる円筒状の酸化剤供給管5と、酸化剤供給管5の外側を同軸に包囲して設けられる円環状の冷却管7を備えて構成される。燃料ノズル3の外周面と酸化剤供給管5の内周面との間には、酸化剤ガスが流れる円環状の酸化剤供給管路9が形成されている。酸化剤供給管5の外周面と冷却管7の内周面との間には、窒素ガスが流れる円環状の窒素ガス供給管路11が形成されている。冷却管7は、その内部に円環状の冷却水管路13が形成されている。
【0025】
図1,2に示すように、燃料ノズル3の先端部分(炉内側)には、燃料噴出孔15が設けられ、燃料噴出孔15の外周側には、酸化剤ガスを噴出する酸化剤噴出孔17が周方向に複数(8個)設けられている。燃料ノズル3の先端部分には外周面を拡径させた大径の拡径部19が形成され、この拡径部19には、拡径部19の軸中心側に向かって斜めに貫通する酸化剤噴出孔15が設けられ、これにより噴出速度を高める構造になっている。
【0026】
酸化剤供給管5は、その先端部分の内周面に燃料ノズル3の拡径部19の外周面が内接されており、基端側の外周面には全周方向に張り出したフランジ部21が形成されている。燃料ノズル3の基端側の外周面には、この外周面から全周方向に張り出した板状の面により一端側が封止されると共に燃料ノズル3を同軸で包囲する円筒管23が連結されており、この円筒管23の他端側の開口部の周縁から全周方向に張り出して形成されるフランジ部25がフランジ部21と締結されるようになっている。
【0027】
酸化剤供給管5の基端側の外周面には、酸化剤供給管5を同軸で包囲する円筒管27が連結されており、この円筒管27は、酸化剤供給管5の外周面から全周方向に張り出した板状の面により一端側が封止され、他端側の開口端が冷却管7の端面と連結されている。
【0028】
冷却管7は、内部の冷却水管路13が仕切り壁29により内側流路31と外側流路33に区画された2重管構造となっており、先端側と基端側が封止された状態で、炉壁71に固定される構造になっている。すなわち、冷却管7の外周面にはフランジ部35が全周方向に張り出して形成され、このフランジ部35は、炉壁71の貫通孔の内面から炉外側に突出した筒状の金属板の先端から全周方向に張り出して形成されるフランジ部37とガスケット39を介して締結されている。
【0029】
冷却管7の炉内側に突き出した先端部分41は、炉内側に半球状に突出して形成され、その内側を冷却水が折り返す構造となっている。冷却管7の炉外側の外周面には、冷却水が供給される冷却水供給口43と冷却水を排出する冷却水排出口45が設けられ、冷却水供給口43から供給された冷却水が内側流路31を流れて炉内の先端部分で折り返し、外側流路33を経由して冷却水排出口45から排出されるようになっている。冷却管7の先端部分41は、燃料ノズル3の炉内に位置する拡径部17の端面とほぼ同じ位置に配置されている。
【0030】
このように、炉壁71、冷却管7、円筒管27、酸化剤供給管5は、互いに連結された構造体となっているため、燃料ノズル3と連結された円筒管23を酸化剤供給管5に着脱自在に取り付けることにより、燃料ノズル3を支持する構造となっている。
【0031】
円筒管27には、窒素ガスが供給される窒素ガス供給口47が設けられている。これにより、窒素ガス供給口47から供給された窒素ガスは、円筒管27を介して酸化剤供給管5の外周面と冷却管7の内周面との間に形成される窒素ガス供給管路11を通流し、窒素ガス噴出口49より炉内に噴出されるようになっている。窒素ガス噴出口49は、例えば、図2に示すように、酸化剤噴出孔17を外側から取り囲むように環状に形成されている。
【0032】
円筒管23には、酸化剤ガスが供給される酸化剤ガス供給口51が設けられている。これにより、酸化剤ガス供給口51から供給された酸化剤ガスは、円筒管23を介して燃料ノズル3の外周面と酸化剤供給管5の内周面との間に形成される酸化剤供給管路9を通流し、酸化剤噴出孔17より炉内に噴出されるようになっている。
【0033】
燃料ノズル3の基端には、固気分離器53が連設されている。固気分離器53は、燃料ノズル3の基端部を同軸に延在させた筒状の容器からなり、基端側に向かって内径を徐々に拡径する胴部55を有し、胴部55の基端側の端面は封止されている。この端面には、配管57の一端側が貫設した状態で固定されており、配管57の他端側は、窒素ガス供給口47と接続されている。固気分離器53の側面には、導入口59が設けられている。
【0034】
このように構成されるバーナ1において、窒素ガスに同伴された微粉炭燃料は、導入口59から固気分離器53内に導かれ、旋回流が形成されることにより、窒素ガスとの固気分離が行われる。固気分離器53内で分離された大部分の微粉炭燃料を含む窒素ガスは、燃料ノズル3に供給され、燃料噴出孔15より炉内に噴出される。一方、微粉炭燃料を殆ど含まない窒素ガスは、配管57を通じて窒素ガス供給管路11内に供給され、窒素ガス噴出口49より炉内に噴出される。また、酸化剤ガスは、酸化剤ガス供給口51から酸化剤供給管路9内に導入され、酸化剤供給管路9を通じて拡径部19の酸化剤噴出孔17より炉内に噴出される。
【0035】
炉内では、微粉炭燃料と酸化剤とが接触してガス化反応(部分酸化反応)を開始する。このガス化反応により生成されるCOや水素ガスを主成分とする高温の可燃性ガスは、バーナ近傍で酸化剤ガスと混合されやすく、高温場を形成する要因となる。本実施形態のバーナ構造によれば、酸化剤ガスを外側から筒状に取り囲むように、窒素ガスによるカーテン状の膜を形成することができるため、炉内に噴出された酸化剤ガスと炉内で生成された可燃性ガスとの接触を抑え、バーナ近傍における発熱反応の開始を抑制することができる。
【0036】
本実施形態のバーナ1によれば、炉内におけるバーナ近傍の高温場の発生を抑制し、バーナ1の先端部分の温度を低く保つことができるため、先端部分の熱変形、摩耗、溶損等といった問題を解消することができ、バーナ1の寿命改善を図ることができる。これにより、バーナ交換等に伴うメンテナンス費用を低減することができ、経済性を向上させることができる。
【0037】
また、本実施形態では、固気分離器53を設けているため、窒素ガス供給管路11と燃料ノズル3に別々の気体を同時に供給する手段を簡単化することができ、コンパクトなバーナを実現することができる。本実施形態では、窒素ガス供給管路11より噴出させる酸化剤を含まないガスとして、窒素ガスを用いる例を説明したが、これに限られるものではなく、他の不活性ガス、例えば、水蒸気等を用いるようにしてもよい。なお、本実施形態では、固気分離器53として旋回方式のものを説明したが、分離方式はこの例に限られるものではない。
【0038】
また、上記の実施形態のノズルに代えて、例えば、図3に示すように、図1のバーナから固気分離器53を除いた構成のバーナを用いることもできる。これによれば、窒素ガス供給管路11に供給する窒素は直接供給方式となるが、基本的に図1のバーナ1と同様の効果を得ることができる。さらにこの構成によれば、例えば、燃料ノズル3に供給する微粉炭燃料を窒素ガスに同伴させて供給すると共に、窒素ガス供給管路11には窒素ガス以外の水蒸気等を供給することができるため、供給ガスの選択の自由度を高めることができる。
【0039】
本実施形態のバーナ1において、燃料ノズル3を変更する際は、円筒管23のフランジ部25と酸化剤供給管5のフランジ部21との接続部分、及び配管57の接続部分(フランジ部分)61の締結をそれぞれ解除して分離し、燃料ノズル3を炉外側に抜き出すようにする。このとき、拡径部19は、酸化剤供給管5の内側を摺動しながら移動する。一方、燃料ノズル5を取り付ける際は、これと反対の動作を行えばよい。このように、バーナ1は、冷却管7を炉壁71に固定したままの状態で、燃料ノズル3をバーナ本体から容易に挿脱することができるため、燃料ノズル3の交換作業の負担が少なくて済む。
【0040】
また、図1、図3のバーナにおいて、拡径部19の酸化剤供給管5に内接する面には、断面が例えば半円状の溝を周方向に形成し、その溝内にオーリングなどを装着させるようにしてもよい。このようにオーリングを介在させることにより、拡径部19と酸化剤供給管5との隙間をより気密に保つことができ、酸化剤の漏洩を防ぐことができる。この場合、オーリングは、できるだけ炉内側から離れた位置、好ましくは、冷却管7の冷却効果により、オーリングの表面温度が200℃以下となる位置に配置するのがよい。これにより、耐熱温度の低い一般的なシール材を用いても長時間にわたってシール機能を保つことができる。なお、オーリングの材質としては、例えば、耐熱温度200℃のフッ素樹脂製のものを用いることができる。
【0041】
さらに、拡径部19と酸化剤供給管5との隙間部分に位置する拡径部19の表面には、伝熱促進剤を装着するようにしてもよい。このようにすれば、バーナ1の先端部分の冷却効果を向上させることができる。この伝熱充填剤としては、伝熱セメント、セラミック系コーティング剤等を用いることができる。
【0042】
なお、特開平10−288311号公報によれば、中央の燃料ノズルの外周を包囲するように酸化剤供給路を形成し、その酸化剤供給路の外周を包囲するように円環状に形成された冷却管を配置し、さらに冷却管の外周側から不活性ガスを周状に噴出させる構造のバーナが開示されている。しかし、このような構造の場合、炉内に噴出された不活性ガスと酸化剤との間に、炉内で生成された可燃性ガスが入り込むため、可燃性ガスの遮断効果が十分ではない。これに対し、本実施形態のバーナ構造によれば、冷却管7と酸化剤供給管路9との間に窒素ガス供給管路11が配置されているため、不活性ガスによる可燃性ガスの遮断効果を高めることができる。
【0043】
(第2の実施形態)
以下、本発明を適用してなるバーナの第2の実施形態について図面を参照して説明する。図4は、本実施形態を説明するためのバーナの先端側を拡大して示す図である。なお、図4において、第1の実施形態と同様の構成については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0044】
本実施形態では、第1の実施形態で説明したバーナの構造において、特に冷却管の先端部分の材質を所定のフェライト鋼製としたことを特徴とするものである。
【0045】
図4に示すように、ノズル1は、特に冷却管7の先端部分41が炉内で高温に晒されるため、従来は、耐熱性(耐酸化性)を考慮して、Cr含有量18〜50%のオーステナイト鋼の素材が用いられていた。ここで、冷却管7は内部に冷却水が循環する水冷構造としてバーナの温度上昇を抑える構造となっている。ところが、微粉炭燃料によっては、火炎の大きさが不安定で火炎からの熱輻射が大きく変動する場合がある。この変動が続くと、バーナ1の先端部分の表面温度が繰り返し上下して冷却管等の肉厚方向に繰り返し温度差が生じ、熱疲労(熱衝撃)で表面にき裂が生じる場合がある。
【0046】
耐熱性に優れる材料として、例えば、高価なNi基耐熱合金或いは線膨張係数の低い特殊な高Cr材料(Cr:65%フェライト鋼)を用いる例が報告(例えば、特開平2−33503号公報)されている。しかし、時間経過とともにき裂は発生し、そのまま放置すると、き裂が進展して貫通に至るおそれがあるため、比較的短時間でバーナを交換する必要があった。また熱応力の観点からすると、熱伝導率が大きく、線膨張係数の小さい前述のフェライト鋼を用いることが好ましいが、耐熱性が劣るため、高温の火炎やガスに晒されるバーナには使用できないという問題があった。
【0047】
そこで、本実施形態では、冷却管の先端部分41を除く部分(以下、本体部分という。)は、従来と同様の18%Crオーステナイト鋼製とし、先端部分41は、Cr含有量9〜17%のフェライト鋼、具体的には9Cr−1Mo−Nb−V鋼を用いるようにした。ここで、先端部分41とは、少なくとも半球状に突出して形成される冷却管7の球面部分を含み、好ましくは、その先端部分41とその他の本体部分との周溶接による溶接部分(接合部)を、完全に炉壁71の内部に位置するようにする。つまり球面部分から炉壁内部の所定の位置までの広い範囲を先端部分41としてもよい。これはバーナ1から噴射される燃料で形成される火炎からの輻射熱を溶接部分が直接受けないようにするためである。また溶接部分は、異材溶接部であり、大きな温度変化があると他の部分よりも大きな熱応力が発生するため、それを避けるためでもある。なお、溶接部分の位置は、炉壁71の内面よりも炉外側であってもよい。
【0048】
溶接部分の溶接材料としては、一般の9Cr鋼用或いはオーステナイト鋼用の溶接材料ではなく、線膨張係数が両者の中間的な値を示すNi基耐熱鋼用の溶接材料を用いるのがよい。
【0049】
本実施形態では、最も熱疲労が問題となる先端部分41に熱疲労寿命に優れるフェライト鋼を用いているため、従来構造に比べて大幅なバーナの寿命改善が得られる。しかし、使用温度条件が過酷で長時間の使用によって酸化が進行したり微細き裂が発生したりした場合は、溶接部分で切断し、その切断された先端部分41のみ交換すればよいため、保守も容易である。ここで、先端部分41を除く本体部分は、耐酸化性、耐腐食性のよいオーステナイト鋼であるため、ほぼ半永久的に使用でき、保守面での経済性の観点からも効果が大きい。
【0050】
また、本実施形態では、先端部分41のみフェライト鋼を用いているが、その他の部分、例えば、冷却管7や燃料ノズル5、拡径部17等の一部又は全部を同一材料のフェライト鋼(9Cr−1Mo−Nb−V鋼)とすることもできる。これは、炉外側の温度が低く、耐久性がそれほど問題にならない場合に適したもので、上記の例と同様の効果を得ることができる。
【0051】
(第3の実施形態)
以下、本発明を適用してなるバーナの第3の実施形態について説明する。本実施形態では、冷却管7の先端部分41の材質について、第2の実施形態と異なる素材を用いる場合について説明する。
【0052】
第2の実施形態で説明したように、冷却管7の先端部分41は、Cr含有量9〜17%のフェライト鋼で形成することにより、先端部分41に発生する熱応力を小さくし、バーナの熱疲労寿命を大幅に長くすることができる。しかしながら、高温の炉内で燃焼ガス成分が満たされた還元性雰囲気において、先端部分41が長時間曝されると、フェライト鋼では耐高温腐食性が十分ではないため、先端部分41に硫化及び酸化減肉等の不具合が発生し、高温腐食が進行することがある。これにより、熱疲労が蓄積し、長時間連続運転が困難となる場合がある。
【0053】
そこで、本実施形態では、このような問題を解決するため、フェライト鋼に代えて、AlとTiを強化元素として添加しないNi基合金を用いて、冷却管19の先端部分41を形成するようにしている。
【0054】
一般に、高強度Ni基合金は、AlとTiを添加してγ´相を析出させることにより強化しているが、長時間使用すると時効硬化により感受性が高くなり、溶接割れが発生することがある。そこで、本発明者らは、AlとTiを強化元素として添加しないNi基合金について、冷却管7の素材としての適否を検討した。具体的には、AlとTiを強化元素として添加しないNi基合金として、Alloy625を用いた所定形状のブランクを作製すると共にCr含有量9%のフェライト鋼を用いたブランクを比較用として作製した。そして、これらのブランクを600℃の還元性の腐食環境中に放置し、時間毎の減肉量を測定した。このときの時間と減肉量の関係を図5に示す。また、Alloy625の組成を表1に示す。
【表1】

【0055】
図5に示すように、Cr含有量9%のフェライト鋼を用いたブランクは、時間経過と共に減肉量が増大するのに対し、Alloy625を用いたブランクは100時間経過してもブランクの減肉は進行せず、減肉量はゼロであった。このことから、Alloy625は、Cr含有量9%のフェライト鋼と比べて優れた耐高温腐食性を示すことが判明した。
【0056】
このように、AlとTiを強化元素として添加しないNi基合金は、フェライト鋼よりも熱伝導率が小さく線膨張係数が大きいが、硫化及び酸化減肉等による耐熱疲労性の著しい低下を抑制することができ、かつ、熱疲労寿命はオーステナイト鋼よりも優れている。したがって、AlとTiを強化元素として添加しないNi基合金を用いて冷却管7等を形成することにより、Cr含有量9〜17%のフェライト鋼よりも高温腐食における過酷な環境下で使用するバーナの寿命を長くすることができる。
【0057】
本実施形態では、AlとTiを強化元素として添加しないNi基合金として、Alloy625を示したが、これに限られるものではなく、他の添加元素の含有率についても特に制限はない。ここで、Ni基合金においてAlとTiが強化元素となるのは、組織中にγ´相が析出されて素材の強度向上が発現されるまでこれらの元素を添加した場合に限られる。したがって、AlとTiが不可避的に含まれるNi基合金についても、AlとTiを強化元素として添加しないNi基合金に含まれる。
【0058】
一方、冷却管7の先端部分41を除く部分(以下、本体部分という。)は、Cr含有量18%以上のCrオーステナイト鋼、又はCr含有量9〜17%のフェライト鋼で形成するものとする。また、先端部分41と本体部分との周溶接による溶接部分は、例えば、線膨張係数がフェライト鋼とオーステナイト鋼の両者の中間的な値を示すNi基合金用溶材を溶接材料として用いるのがよい。
【0059】
また、先端部分41は、バーナ1から噴射される燃料で形成される火炎からの輻射熱を溶接部分が直接受けないようにするため、少なくとも半球状に突出して形成される冷却管19の球面部分を含み、好ましくは、その先端部分41と本体部分との溶接部分は、完全に炉壁71の内部に位置するようにする。つまり球面部分から炉壁内部の所定の位置までの広い範囲を先端部分41としてもよい。尚、溶接部分の位置は、炉壁71内部の内面より炉外側であってもよい。
【0060】
このように、本実施形態によれば、冷却管19の先端部分を、耐熱疲労性や耐高温腐食性に優れたAlとTiを強化元素として添加しないNi基合金で形成しているため、高温腐食が生じやすい還元性雰囲気の環境においても、バーナの寿命を格段に向上させることができる。また、冷却管7の先端部分の材質は時効効果が生じなく、溶接割れの感受性が低いため、万一き裂が発生しても、溶接部分で切断し、先端部分41のみの交換を簡単に行うことができる。さらに、貴金属のNi基合金が先端部分だけに使用されるため、保守面での経済性を向上させることができる。
【符号の説明】
【0061】
1 バーナ
3 燃料ノズル
5 酸化剤供給管
7 冷却管
9 酸化剤供給管路
11 窒素ガス供給管路
13 冷却水管路
15 燃料噴出孔
17 酸化剤噴出孔
19 拡径部
21,25,35,37 フランジ部
23,27 円筒管
41 先端部分
43 冷却水供給口
45 冷却水排出口
47 窒素ガス供給口
49 窒素ガス噴出口
51 酸化剤ガス供給口
53 固気分離器
59 導入口
71 炉壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送気体により搬送される粉体燃料を噴出する燃料ノズルと、該燃料ノズルと同軸に外周を包囲して設けられ、酸化剤を噴出する酸化剤供給管路と、該酸化剤供給管路の外周を包囲して設けられた冷却水管路とを備えてなるバーナにおいて、
前記酸化剤供給管路と前記冷却水管路との間に、前記酸化剤を含まないガスを供給する環状の供給管路を同軸に介装したことを特徴とするバーナ。
【請求項2】
前記酸化剤を含まないガスは、窒素又は水蒸気であることを特徴とする請求項1に記載のバーナ。
【請求項3】
前記搬送気体により搬送される前記粉体燃料を固気分離器に導いて固気分離し、分離後の前記粉体燃料の濃度が高い方の気体を前記燃料ノズルの基端側に供給し、前記粉体燃料の濃度が低い方の気体を前記環状の供給管路に供給する手段を備えることを特徴とする請求項1に記載のバーナ。
【請求項4】
前記冷却水管路を画成する管路部材の先端部分は、半球状に突出して環状に形成され、その先端部分の内部は冷却水を折り返す構造をなしていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のバーナ。
【請求項5】
前記冷却水管路を画成する管路部材の先端部分は、Cr含有量9〜17%のフェライト鋼で形成されることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のバーナ。
【請求項6】
前記冷却水管路を画成する管路部材の前記先端部分以外の残りの部分は、Cr含有量18%以上のオーステナイト鋼で形成され、前記先端部分と前記残りの部分が溶接材料を用いて周溶接構造で接合されるとともに、その接合部分は、前記先端部分が炉外から炉壁を通して炉内に挿入された状態で、炉壁内面よりも炉外側となる位置に設けられていることを特徴とする請求項5に記載のバーナ。
【請求項7】
前記冷却水管路を画成する管路部材の前記先端部分以外の残りの部分と前記燃料ノズルを含むすべての構造部材が、Cr含有量9〜17%のフェライト鋼で形成されていることを特徴とする請求項5に記載のバーナ。
【請求項8】
前記冷却水管路を画成する管路部材の先端部分は、AlとTiを強化元素として添加しないNi基合金で形成されることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のバーナ。
【請求項9】
前記冷却水管路を画成する管路部材の前記先端部分以外の残りの部分は、Cr含有量18%以上のオーステナイト鋼又はCr含有量9〜17%のフェライト鋼のいずれかで形成され、前記先端部分と前記残りの部分が溶接材料を用いて周溶接構造で接合されるとともに、その接合部分は、前記先端部分が炉外から炉壁を通して炉内に挿入された状態で、炉壁内面よりも炉外側となる位置に設けられていることを特徴とする請求項8に記載のバーナ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−12866(P2011−12866A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−156521(P2009−156521)
【出願日】平成21年7月1日(2009.7.1)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成16年度〜20年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、多目的石炭ガス製造技術開発(EAGLE)/パイロット試験設備およびゼロエミッション化技術に関する研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000217686)電源開発株式会社 (207)
【出願人】(000005441)バブコック日立株式会社 (683)
【Fターム(参考)】