説明

パイプ切断機

【目的】 ガス導管のような可燃性流体のパイプライン等も作業環境を汚損することなく迅速かつ安全に切断できるパイプ切断機を提供する。
【構成】 被切断パイプPの外周に沿って周回しつつダイヤモンドカッター6を回転駆動して被切断パイプPを全周に渡り順次切断する切断機本体1に、ダイヤモンドカッター6を覆って周縁部が被切断パイプPの外周面に臨むカバー部材11と、このカバー部材11内のダイヤモンドカッター6の切込み箇所に向けて不活性ガスを噴出するノズル12とを付設したパイプ切断機。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、比較的大口径のパイプに装着されてこれを現場作業で切断し得るパイプ切断機に関し、詳しくは、可燃性流体のパイプラインも安全かつ迅速に切断できるように改良されたパイプ切断機に関する。
【0002】
【従来の技術】直径1,500mm程度までの比較的大口径のパイプを切断するパイプ切断機として、特公昭56−23727号公報や特公昭59−9288号公報などに記載のものが、従来一般に知られている。このパイプ切断機は、カッターを装着してこれを内蔵するクラッチ機構及び減速機構を介して減速回転させる切断機本体、切断機本体のクラッチ機構及び減速機構を介して減速駆動されるベルト式自走装置、ベルト式自走装置と共に切断機本体を被切断パイプの外周に装着するローラ付きチェーンなどを備えたものであり、エンジンや油圧モータなどの回転動力がフレキシブルシャフトを介して切断機本体に入力されることで、切断機本体がベルト式自走装置により被切断パイプの外周に沿って周回しつつカッターにより被切断パイプを全周に渡って順次切断するようになっている。
【0003】このようなパイプ切断機は、小型軽量で取扱いが非常に簡単であり、何よりも既設の埋設パイプなども現場作業で切断できることから、鋼管や鋳鉄管からなる既設のガス導管の切断作業にも多用されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】ところで、前述のパイプ切断機を使用して既設のガス導管を切断する際、すなわち鋼製または鋳鉄製のガス導管をディスク状のダイヤモンドカッターなどで切断する際には、火花が発生し易く、カッターの回転速度を上げると多量の火花が発生してガス導管内部の可燃性ガスに引火する危険がある。そこで従来一般には、火花が発生しないようにカッターの回転速度を低く設定するか、あるいはカッターの切込み部付近に注水,注油してその冷却作用により火花の発生を防止している。このためガス導管の切断作業には時間が掛かり、また冷却水や冷却油が飛散して周囲の作業環境を汚損するという問題があった。
【0005】そこで本発明は、可燃性流体のパイプライン等も作業環境を汚損することなく迅速かつ安全に切断できるパイプ切断機を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】この目的のため本発明は、被切断パイプの外周に沿って周回しつつカッターを回転駆動して被切断パイプを全周に渡り順次切断する切断機本体を備えたパイプ切断機において、上記カッターを覆って周縁部が被切断パイプの外周面に臨むカバー部材と、このカバー部材内のカッターの切込み箇所に向けて不活性ガスを噴出するノズルとを上記切断機本体に付設したことを手段としている。
【0007】また前記ノズルは、不活性ガスの噴出方向が調整可能に切断機本体に取付けられていることも手段としている。
【0008】ここで、前記カバー部材の素材は特に限定されるものではないが、各種合成ゴムや適宜の軟質合成樹脂を素材とした可撓性のものとすれば、その周縁部を被切断パイプの外周面に弾接させてシール性を向上することができる。一方、前記カバー部材を各種金属や硬質合成樹脂を素材とした剛性のあるものとした場合には、カバー部材をバネなどの適宜の弾性部材を介して支持するのが好ましく、そうすることでカバー部材の周縁部を被切断パイプの外周面に弾接させることができる。
【0009】またノズルから噴出する不活性ガスも特に限定されるものではなく、窒素ガスや炭酸ガスが使用できる。
【0010】
【作用】このような手段を採用した本発明によるパイプ切断機では、切断機本体が被切断パイプの外周に沿って周回しつつカッターを回転駆動することで、被切断パイプ全周がカッターにより順次切断される。
【0011】ここで、カッターによる被切断パイプの切断作業中、カッターの切込み箇所にはノズルから噴出した不活性ガスが集中的に吹き付けられ、これによりカッター及び被切断パイプの切断箇所が冷却される。またカッターを覆うカバー部材内は、不活性ガスが充満して不活性領域となる。このため、カッターを高速回転しても火花が発生することはなく、都市ガスや石油などの可燃性流体のパイプラインの切断にあたって可燃性流体が漏出しても、これに引火して爆発する虞もない。
【0012】また、カッターによる被切断パイプの切削粉は、その大部分がノズルから集中的に噴出する不活性ガスにより被切断パイプの内側に排出され、残りの切削粉もカバー部材により周囲への飛散が防止されるのであり、カバー部材の外方には不活性ガスが流出するだけであるから、被切断パイプの周囲を汚損することがない。
【0013】
【実施例】以下、本発明の一実施例を添付の図面を参照して具体的に説明する。一実施例によるパイプ切断機は、図1に示すように、被切断パイプPの外周面に沿って装着される切断機本体1,支持アーム2,ベルト式自走装置3,ローラ付きチェーン4などを主体に構成されるもので、上記切断機本体1には、被切断パイプPの近傍に設置される図示しない駆動エンジンまたは油圧ポンプから動力伝達チューブ5内のフレキシブルシャフト(図示省略)を介して回転動力が伝達されるようになっている。
【0014】前記切断機本体1は、動力伝達チューブ5内のフレキシブルシャフトを介して入力する回転動力を過負荷時に遮断可能な遠心クラッチ、及びこの遠心クラッチを介して入力する回転動力を減速する減速機構をケーシング1aに内蔵したもので、図2に示すように、減速機構を介して減速駆動されるカッター回転軸1b及び車輪駆動軸1cがケーシング1aから突出している。
【0015】カッター回転軸1bは、切断機本体1の進行方向後ろ側(図2では下側)に位置してケーシング1aの片側(図2では右側)のボス部1dから突出しており、このカッター回転軸1bにはディスク状のダイヤモンドカッター6が着脱自在に固定されている。また車輪駆動軸1cは、切断機本体1の進行方向前側(図2では上側)に位置してケーシング1aの両側に突出しており、その両端部には駆動輪としてのVプーリ3a,3aが固定されている。
【0016】前記支持アーム2は、切断機本体1のケーシング1aの左右両側に配置されて一端部が前記車輪駆動軸1c廻りに揺動自在に枢着され、他端部が切断機本体1の進行方向後方(図2では下側)に臨む左右一対のものであり、その側面形状は上方に膨出する半円弧状をなしてケーシング1aのボス部1dなどを跨いでいる(図1参照)。そしてこの左右一対の支持アーム2,2の他端部は連結軸7を介して相互に連結され、この連結軸7には被切断パイプPの外周面を転動する左右一対の転動輪8,8と共にチェーン連結金具9が装着されている。
【0017】前記チェーン連結金具9は、連結軸7に一端部が枢着された左右一対の連結アーム9a,9aの他端部を2本の連結軸9b,9cで相互に連結したものであり、連結軸9bには被切断パイプPの外周面を転動し得る左右一対の転動輪9d,9dが装着され、また連結軸9cにも同様の転動輪9e,9eが装着されている。
【0018】ここで、前記切断機本体1は、左右一対の支持アーム2,2に対してその前端側の車輪駆動軸1c廻りに後端側のカッター回転軸1bが上下に揺動自在であり、このカッター回転軸1bが下方揺動することで被切断パイプPに対しダイヤモンドカッター6が切込まれる。そこで被切断パイプPの肉厚等に応じたダイヤモンドカッター6の切込み量を設定すべく、左右一対の支持アーム2,2の後部と切断機本体1のケーシング1aの後部との間には、ねじ式止め固定式の切込み量設定装置17が設けられている。
【0019】図3に示すように、前記切断機本体1の進行方向前方(図3では上側)には支持軸3bが配置され、この支持軸3bの両端部には前記Vプーリ3a,3aに対応した同一径の左右一対のVプーリ3c,3cが回転自在に装着されている。そしてこのVプーリ3c,3cと前記Vプーリ3a,3aとの間に、下面が被切断パイプPの外周に摩擦接触する左右一対のVベルト3d,3dが巻回されることで、前記ベルト式自走装置3が構成されている。
【0020】また、前記ローラ付きチェーン4は、被切断パイプPの外周に巻回される所定長さ及び所定幅を有するもので、その幅方向に延びる各連結ピン4aには被切断パイプPの外周面を転動可能な左右一対のローラ4b,4bが回転自在に装着され、また一端部の連結ピン4aには左右一対のフック片4c,4cが嵌合装着されている。そしてこのローラ付きチェーン4は、一端部のフック片4c,4cが前記チェーン連結金具9の連結軸9bに係合連結されて被切断パイプPの外周面に巻回され、その他端部が長さ調整金具10を介して前記ベルト式自走装置3の支持軸3bに連結されている。
【0021】前記長さ調整金具10は、ローラ付きチェーン4の他端部の連結ピン4aに嵌合装着されたボルト挿通孔10a付きの連結ブロック10bと、支持軸3bに嵌合装着されためねじ10c付きの連結ブロック10dと、上記ボルト挿通孔10aに挿通して上記めねじ10cに螺合する連結ボルト10eとを有し、この連結ボルト10eのねじ込み量の調節により前記ローラ付きチェーン4の他端部を支持軸3bに対して長さ調節自在に連結する。
【0022】ここで前記切断機本体1には、図2に示すように、ダイヤモンドカッター6を覆うカバー部材11及びダイヤモンドカッター6の切込み箇所に向けて不活性ガスを噴出するノズル12が付設されている。
【0023】カバー部材11は、可撓性のある合成ゴムや合成樹脂を素材として図4に示す形状に一体形成されたものであり、ダイヤモンドカッター6の周囲を余裕をもって覆い得る直径及び厚みを有する中空円形状の本体11aと、この本体11aの外周一部を被切断パイプPの外周面に沿う円弧状に切欠いた周縁部11bと、本体11aの片面中央部から突出して前記切断機本体1のボス部1dに嵌合し得る装着筒部11cとを有し、本体11aの片面には装着筒部11cから周縁部11bの中央に達する切離し部11dが形成され、また本体11aの外周部にはノズル12の挿通孔11eが形成されている。
【0024】そしてこのカバー部材11は、その周縁部11bに囲まれた開口内にダイヤモンドカッター6を挿通し、切離し部11dを開いて装着筒部11cを切断機本体1のボス部1dに嵌合し、その外周をクリップ13などの適宜の緊締具で締め付けることで切断機本体1に装着される(図2参照)。
【0025】一方、ノズル12は、被切断パイプPの近傍に設置される図示しない窒素ガスボンベ(あるいは炭酸ガスボンベ)からレギュレータを介して延びるホース14の先端に接続されるコック付きのもので、図2に示す自在ステー15を介して切断機本体1のボス部1dの外周に固定される。
【0026】前記自在ステー15は、3個のL形ブラケット15a,15b,15cを相互にねじ止め連結したものであり、任意の相互回動位置でねじを締め付けることにより先端側のL形ブラケット15aが基端側のL形ブラケット15cに対し3次元的に位置調整できるようになっている。そこでこの自在ステー15は、基端側のL形ブラケット15cが上記ボス部1dの外周にねじ止め固定されるのであり、先端側のL形ブラケット15aにノズル12が貫通してナット16の螺合により固定される。そしてこのノズル12は窒素ガスの噴出孔を有する先端部がカバー部材11の挿通孔11eを通してその内側に望み、ダイヤモンドカッター6の切込み箇所に向けて窒素ガスを噴出するようになっている。
【0027】次に、前述のような切断機本体1を有するパイプ切断機について、その作用を説明する。図5は、本実施例のパイプ切断機を使用した被切断パイプP(都市ガスのパイプラインであるガス導管)の切断作業を示しており、切断機本体1はベルト式自走装置3のVベルト3d,3dが被切断パイプPの外周に摩擦接触して回転することにより被切断パイプPの外周に沿って周回し、同時にダイヤモンドカッター6を回転駆動して被切断パイプPを順次切断している。
【0028】ここで、自在ステー15により窒素ガスの噴出方向が調整されたノズル12からダイヤモンドカッター6の切込み箇所に向けて窒素ガスが集中的に吹き付けられ、これによりダイヤモンドカッター6及び被切断パイプPの切断箇所が冷却される。また、ノズル12から噴出した窒素ガスがカバー部材11内に充満することでカバー部材11は不活性領域となる。
【0029】このため、作業能率を向上すべくダイヤモンドカッター6を高速回転しても、火花が発生することはなく、被切断パイプP内の可燃性流体である都市ガスが仮に漏出したとしても、これに引火して爆発する虞もない。
【0030】また、ダイヤモンドカッター6による被切断パイプPの切削粉は、その大部分がノズル12から集中的に噴出する窒素ガスにより被切断パイプPの内側に排出され、残りの切削粉もカバー部材11により周囲への飛散が防止される。このため、カバー部材11の外方には無害な窒素ガスが流出するだけであり、被切断パイプPの周囲を汚損することがない。
【0031】
【発明の効果】以上説明したとおり本発明では、カッターによる被切断パイプの切断作業中、カッターの切込み箇所にはノズルから噴出した不活性ガスが集中的に吹き付けられ、これによりカッター及び被切断パイプの切断箇所が冷却される。またカッターを覆うカバー部材内は、不活性ガスが充満して不活性領域となる。このため、カッターを高速回転しても火花が発生することはなく、都市ガスや石油などの可燃性流体のパイプラインの切断にあたって可燃性流体が漏出しても、これに引火して爆発する虞もない。
【0032】また、カッターによる被切断パイプの切削粉は、その大部分がノズルから集中的に噴出する不活性ガスにより被切断パイプの内側に排出され、残りの切削粉もカバー部材により周囲への飛散が防止される。このため、カバー部材の外方には不活性ガスが流出するだけであり、被切断パイプの周囲を汚損することがない。
【0033】従って本発明によれば、可燃性流体のパイプライン等も作業環境を汚損することなく迅速かつ安全に切断することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明によるパイプ切断機の一実施例の全体概略構造を示す斜視図である。
【図2】一実施例におけるカバー部材及びノズルの装着状態を示す切断機本体の拡大平面図である。
【図3】一実施例における切断機本体付近の平面図である。
【図4】一実施例におけるカバー部材の外観を示す拡大斜視図である。
【図5】一実施例の作用を示す要部拡大側面図である。
【符号の説明】
1 切断機本体
1a ケーシング
1b カッター回転軸
1c 車輪駆動軸
1d ボス部
2 支持アーム
3 ベルト式自走装置
3a,3c Vプーリ
3b 支持軸
3d Vベルト
4 ローラ付きチェーン
4a 連結ピン
4b ローラ
4c フック片
5 動力伝達チューブ
6 ダイヤモンドカッター
7 連結軸
8 転動輪
9 チェーン連結金具
9a 連結アーム
9b,9c 連結軸
9d,9e 転動輪
10 長さ調整金具
10a ボルト挿通孔
10b 連結ブロック
10c めねじ
10d 連結ブロック
10e 連結ボルト
11 カバー部材
11a 本体
11b 周縁部
11c 装着筒部
11d 切離し部
11e 挿通孔
12 ノズル
13 クリップ
14 ホース
15 自在ステー
15a,15b,15c L形ブラケット
16 ナット
17 切込み量設定装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】 被切断パイプの外周に沿って周回しつつカッターを回転駆動して被切断パイプを全周に渡り順次切断する切断機本体を備えたパイプ切断機において、上記カッターを覆って周縁部が被切断パイプの外周面に臨むカバー部材と、このカバー部材内のカッターの切込み箇所に向けて不活性ガスを噴射するノズルとを上記切断機本体に付設したことを特徴とするパイプ切断機。
【請求項2】 上記ノズルは、不活性ガスの噴出方向を調整可能に切断機本体に取付けたことを特徴とする請求項1記載のパイプ切断機。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図2】
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【図5】
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【公開番号】特開平8−25127
【公開日】平成8年(1996)1月30日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平6−157009
【出願日】平成6年(1994)7月8日
【出願人】(000220262)東京瓦斯株式会社 (1,166)
【出願人】(594115463)有限会社中野製作所 (9)