説明

パイルファブリック

【目的】パイルファブリックの風合の硬化や表面タッチの粗硬化あるいは地組織の透けの問題を惹起することなく、毛倒れの起こりにくいパイルファブリックをコストアップすることなく得ること。
【構成】パイル長さが1.8mm以上、パイル密度が50万デニール/inch2 以下のパイルファブリックにおいて、該パイルファブリックを構成するパイル糸が、単繊維繊度が4デニール以下かつヤング率が1600Kg/mm2 以上のポリエステル繊維である。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、車輌内装材のシート地等に好適なパイルファブリックに関するものであり、さらに詳しくは、製造工程や使用時に毛倒れが起こりにくいパイルファブリックに関する。
【0002】
【従来の技術】従来より、車輌内装材などのパイルファブリックには、強度や染色堅牢性の点からポリエステル繊維が主として用いられてきたが、製造工程や使用時に毛倒れを起こすという問題があった。毛倒れは、パイル部に荷重がかかった際にパイル部が倒れ(以下「パイル倒れ」と称する)、倒れたパイル部が熱などによってそのままの状態に固定されるためにその部分が白く見える現象で、パイルファブリックの品位を大きく損なう。
【0003】このような現象を防止するために、従来より以下のような対策が講じられてきた。
■パイルの打ち込み密度を高めてパイル密度を大きくする■パイルの単繊維繊度を大きくする■パイルの長さを短くするしかしながら、これらの対策は、パイル倒れを起こりにくくする効果はあるものの、一旦パイル倒れが起こってしまえば回復が困難でやはり毛倒れが起こる上、■では目付が大きくなり、パイルファブリックの風合が硬くなる、■ではパイルの表面タッチが粗硬化する、■では地組織が透けて見え、パイルの豪華さを損ねるなどの欠点が生じる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、上記従来技術の有する問題点、即ち、パイルファブリックの風合の硬化や表面タッチの粗硬化あるいは地組織の透けの問題を惹起することなく、毛倒れの起こりにくいパイルファブリックを提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明者らが上記目的を達成するため、パイルファブリックのパイル糸を構成するポリエステル繊維の物性と毛倒れの起こり易さとの関係について鋭意検討した結果、パイル糸に高ヤング率の繊維を用いるとき、曲げ弾性回復性が良好で、可及的に毛倒れの起こりにくいパイルファブリックが得られることを究明した。
【0006】かくして本発明によれば、パイル長さが1.8mm以上、パイル密度が50万デニール/inch2 以下のパイルファブリックにおいて、該パイルファブリックを構成するパイル糸が、単繊維繊度が4デニール以下かつヤング率が1600Kg/mm2 以上のポリエステル繊維であることを特徴とするパイルファブリックが提供される。
【0007】本発明のパイルファブリックのパイル糸に使用するポリエステル繊維は、テレフタル酸を主たる酸成分とし、アルキレングリコールを主たるグリコール成分とするポリエステルである。
【0008】また、テレフタル酸成分の一部を他の二官能性カルボン酸成分で置き換えたポリエステルであってもよく、グリコール成分の一部を他のグリコール成分で置き換えたポリエステルであってもよい。
【0009】かかるポリエステルは任意の方法によって合成したものでよい。例えばポリエチレンテレフタレートについて説明すれば、テレフタル酸とエチレングリコールとを直接エステル化反応させるか、テレフタル酸ジメチルの如きテレフタル酸の低級アルキルエステルとエチレングリコールとをエステル交換反応させるか、あるいはテレフタル酸とエチレンオキサイドとを反応させてテレフタル酸のグリコールエステル及び/またはその低分子量重合体を生成させる第1段階の反応と第1段階の反応生成物を減圧下加熱して所望の重合度になるまで重縮号反応させる第2段階の反応とによって製造される。
【0010】上記ポリエステルには、その他必要に応じ、難燃剤、蛍光増白剤、酸化チタン等の艶消し剤、着色剤、コロイダルシリカ、乾式法シリカ、コロイダルアルミナ、微粒子状アルミナ、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム等の不活性微粒子その他の任意の添加剤を、ポリエステルの合成開始時から紡糸工程までの任意の段階で、それぞれ別々にまたは予め混合して添加してもよい。
【0011】本発明のパイルファブリックは、パイル長さが1.8mm以上のものをいう。前述のように、パイルファブリックの毛倒れは、パイル長さが短いほど起こりにくいが、パイル長さが短くなると地組織の透け等の問題が発生する。
【0012】この透け感を防ぐ意味から、本発明においては1.8mm以上のパイル長さを前提とする。ただ、パイル長さがあまり長すぎると車輌内装材などの用途には適さないので3mm以下程度に止めることが好ましい。
【0013】また、本発明のパイルファブリックはパイル密度が50万デニール/inch2 以下のものを対象とする。ただ、パイル密度があまり小さすぎるとパイルファブリックの豪華さが損なわれるので、35万デニール/inch2 程度に止めるのが好ましい。
【0014】上記のような前提が付け得るパイルファブリックにおいて、本発明によれば、以下に述べる手段を採用することにより毛倒れが防止できる。
【0015】以下、これについて述べる。先ず、本発明においては、パイル糸を構成するポリエステル繊維のヤング率を、従来のパイルファブリックの常識をはるかに越えた1600Kg/mm2 以上にすることにより、パイル繊維の曲げ弾性回復性を向上させて毛倒れの起こりにくいパイルファブリックを得ることが可能となる。
【0016】該ポリエステル繊維のヤング率が1600Kg/mm2 未満の場合には、パイル倒れが起こった際の回復が不十分であり、毛倒れが起こりやすくなる。
【0017】上記の高ヤング率ポリエステル繊維を得る方法には特に制限はなく、任意の方法が採用できるが、例えばタイヤコードなどの産業資材用ポリエステル繊維を得る際に用いられるような、極限粘度の大きいポリエチレンテレフタレートチップを溶融紡糸した後高倍率延伸する方法などが例示される。
【0018】さらに、本発明においては、パイル糸を構成するポリエステル繊維の単繊維繊度を4デニール以下とすることが必要である。
【0019】一般に、繊維の曲げ硬さはデニールの2乗に比例するので、パイル糸の単繊維繊度を大きくするとパイルの表面タッチが著しく粗硬化する。
【0020】ただ、単繊維繊度があまり小さすぎるとパイルの脱落等が起こりやすくなるので、2デニール程度に止めるのが好ましい。
【0021】本発明のパイルファブリックは、上記の方法で得られたポリエステル繊維を、例えば通常のトリコット編機のフロント糸として用い、常法により編立て、染色起毛仕上げを行なうことにより得られる。
【0022】この場合、地組織を形成するミドル糸およびバック糸としては、上記ポリエステル繊維の他、通常(800〜1500Kg/mm2 )のヤング率を有するポリエステル繊維や他の合成繊維、また必要に応じて木綿などの天然繊維、レーヨンなどの再生繊維等を自由に用いることができる。
【0023】
【作用】前述のように、毛倒れを防ぐには、まずパイル倒れを起こりにくくすることが肝要であるが、パイル密度を高めたり、単繊維繊度を大きくしてパイル倒れを起こりにくくした場合は、パイルファブリックの風合の硬化や表面タッチの粗硬化等の問題が発生する。
【0024】そこで本発明者らは毛倒れ現象についてさらに詳細な検討を行ない、パイル糸に高ヤング率の繊維を用いるとき、パイル倒れが起こりにくくなると同時に曲げの弾性回復性が高められ、例えパイル倒れが起こっても、一旦倒れたパイル糸がそのままの状態で熱固定されることがなくなるので、毛倒れになりにくいことを究明した。
【0025】即ち、パイル糸のヤング率を高めることにより、曲げに対する抵抗力と曲げ弾性回復の両方を向上させることができるのである。
【0026】特に、ポリエステル繊維の場合は熱セット性が不良であるため、上記の効果が顕著に発現する。
【0027】〔図1〕は、従来のパイルファブリックにおいて、パイル長さが2.0mmの場合の毛倒れの有無を評価した結果であり、毛倒れを起こさない適正なパイル密度および単繊維繊度範囲(図中、実線より上の部分)が存在することを示している。
【0028】即ち、従来のパイルファブリックにおいては、例えばパイル糸の単繊維繊度が2デニールの場合、〔図1〕に示すように70万デニール/inch2 未満のパイル密度では毛倒れが起こり実用に供し得ないので、70万デニール/inch2 以上の密度にしてパイルファブリックを得ていた。
【0029】しかしながら、パイル密度が50万デニール/inch2 を越えると目付が大きくなり、パイルファブリックの風合が硬くなる上、コストアップの原因にもなる。
【0030】一方、パイル糸の単繊維繊度を例えば4デニールより大きくすると、パイル密度を50万デニール/inch2 にしても毛倒れは起こらないが、パイルの表面タッチが粗硬化する。
【0031】これに対して、本発明のパイルファブリックは、パイル糸の曲げに対する抵抗力と曲げ弾性回復が優れているので、前述の前提のようなパイル密度および単繊維繊度領域(図中、斜線の部分)にあっても毛倒れが起こりにくい上、目付が小さく良好な風合を有している。
【0032】従来のパイルファブリックにおいては、パイル糸のヤング率を高めることはパイルファブリックの表面タッチを粗硬化させるだけであると考えられ、毛倒れを起りにくくするという効果については認識されていなかった。
【0033】本発明においては、パイル密度および単繊維繊度を、従来ファブリックとして用いることができなかった範囲に保ちつつパイル糸のヤング率を高めているので、表面タッチが粗硬化することはなく、良好な風合を有するパイルファブリックが得られる。
【0034】以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、実施例中の各物性は下記の方法により測定した。
【0035】(1) ポリエステル繊維のヤング率東洋ボールドウィン製引張試験機(タイプRTM-100 )を用い、試料長250mm、引張速度 50mm/分、チャートスピード200mm/分の条件で記録した荷伸曲線の初期接線勾配の最大値から常法により算出した。測定は10回実施し、その平均値で表した。
【0036】(2) 毛倒れの起こりやすさ直径80mmφ、重さ2kgの荷重をパイルファブリックのパイル面に載荷した状態で80℃、2時間乾熱処理する。荷重を取り除いた後、パイルが毛倒れした部分を視感判定し、○(毛倒れが目立たない)、△(毛倒れが少し目立つ)、×(毛倒れが目立つ)の3段階で評価した。
【0037】
【実施例1】極限粘度0.62のポリエチレンテレフタレートチップを常法により溶融紡糸し、4500m/分の速度で巻き取った後1.2倍に加熱延伸して、ヤング率が1750Kg/mm2 、100デニール/36フィラメントのポリエステルマルチフィラメントを得た。
【0038】該マルチフィラメントをフロント糸に、またミドル糸およびバック糸には、別に作製したヤング率が1200Kg/mm2 、75デニール/36フィラメントのポリエステルマルチフィラメントを配し、カールマイヤー製KS4型28ゲージ経編機を用いて編立てを行なった。次いで、該編地を常法に従って染色、起毛加工し、表1に示す物性を有するパイルファブリックを得た。
【0039】
【比較例1】極限粘度0.69のポリエチレンテレフタレートチップを用い、紡糸速度および延伸倍率をそれぞれ1200m/分、3.5倍として、ヤング率が1550Kg/mm2 のポリエステルマルチフィラメントを得た。
【0040】該マルチフィラメントをフロント糸に用い、その他は実施例1と同様に実施して表1に示す物性を有するパイルファブリックを得た。
【0041】
【比較例2〜4】実施例1において、フロント糸に用いるポリエステルマルチフィラメントのヤング率と単繊維繊度、パイル密度およびパイル長さを表1に示す如く変更し、その他は実施例1と同様に実施した。得られたパイルファブリックの物性を表1に示す。
【0042】
【表1】


【0043】実施例1は本発明のパイルファブリックであり、毛倒れが目立たず良好な風合を有している。これに対して、比較例1はパイル糸を構成するポリエステル繊維のヤング率が低く、毛倒れが目立つ。
【0044】比較例2は単繊維繊度を大きくすることによって、また比較例3はパイル密度を高めることによって毛倒れを目立たなくさせているので、それぞれ表面タッチが粗硬化する、目付が大きくなって風合が硬くなるという欠点を有している。
【0045】さらに、比較例4はパイル長さが短いので毛倒れはあまり目立たないが、地組織が透けて見え、パイルファブリックの豪華さが失われている。
【0046】
【発明の効果】本発明によれば、パイルファブリックの風合の硬化や表面タッチの粗硬化あるいは地組織の透けの問題を惹起することなく、毛倒れの起こりにくいパイルファブリックがコストアップすることなく得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】パイル密度と単繊維繊度が毛倒れに及ぼす影響を示すグラフ

【特許請求の範囲】
【請求項1】 パイル長さが1.8mm以上、パイル密度が50万デニール/inch2 以下のパイルファブリックにおいて、該パイルファブリックを構成するパイル糸が、単繊維繊度が4デニール以下かつヤング率が1600Kg/mm2以上のポリエステル繊維であることを特徴とするパイルファブリック。

【図1】
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