説明

パイルマット

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明はパイルマットに関する。詳細には、本発明は、発色性に優れ深みのある良好な色調および光沢を有し、腰があって嵩高性や形態安定性に優れ、しかも洗濯時における再汚染、使用時や洗濯時における抜毛のない品質の良好なパイルマットに関する。
【0002】
【従来の技術】靴等の履物に付着した泥や塵埃等を除去するために、金網、シュロ、多数の凹凸や開口のあるプラスチックシート等からなるいわゆる除塵マットが従来から広く使用されている。これらの除塵マットは泥等の比較的大きな汚れは落とせるものの、微細な塵や埃等を円滑に除去することができない。
【0003】そこで、微細な塵や埃の除去、マットや履物における帯電防止を目的として、木綿、セルロース系繊維またはポリビニルアルコール系繊維を主体とする紡績糸をパイル糸として用いてパイルマットを作製し、これに湿潤剤等を含浸させたものが使用されている。更に、パイルマットの除塵性能を一層向上させる目的で、水中軟化点が80℃以上でアセタール化度が25〜34%の原液染ポリビニルアルコール系合成繊維またはこれと他の繊維との混合繊維のステープルから紡績糸をつくり、これを撚合わせて撚糸とし、その撚糸からパイル部分を形成した後、表面にダスト保持性油剤を付着させた除塵用マットが提案されている(特公昭60−22929号公報)。
【0004】しかしながら、上記した従来のパイルマットは、いずれもパイル繊維の腰が弱く、特に湿潤時にはパイル繊維の腰が著しく失われてパイルが寝てしまうことにより嵩高性が失われて、マットの除塵効果および感触が大きく低下するという欠点がある。しかも、ステープル等の短繊維から形成された紡績糸をパイル糸として使用していることにより、遊び毛が多く、洗濯時や使用時に脱毛を生じ、その抜毛が室内などの二次汚染を引き起こし易いという欠点を有する。
【0005】その上、上記したポリビニルアルコール系合成繊維の場合は、ポリビニルアルコールを適当な溶媒に溶かして紡糸原液をつくり、それを凝固媒体を含む湿式紡糸機等に送って紡糸するという手間のかかる紡糸工程が必要であり、溶融紡糸のような簡単な紡糸操作で繊維を直接製造することができない。
【0006】また、ポリアミド繊維またはポリエステル繊維等の合成繊維を用いて除塵マットを作製することも試みられているが、ポリアミド繊維を用いた場合には、耐光堅牢度が悪くて黄変し易く、しかも白っぽい光沢を生じ、鮮明で深みのある色調を有する製品が得られないという欠点があり、またポリエステル繊維を用いたマットでは、洗濯時にマットが汚れを吸着して黒ずんでくるという再汚染性の問題がある。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】本発明の課題は、上記した従来のマットのような欠点がなく、簡単に製造することができ、しかも発色性に優れ深みのある良好な色調および光沢を有し、腰があって特に湿潤時にパイルが寝たりせず、嵩高性および形態安定性に優れ、且つ洗濯時における再汚染、使用時や洗濯時に抜毛のない品質の良好なパイルマットを提供することである。
【0008】
【課題を解決するための手段】上記の課題を解決すべく本発明者らは研究を進めてきた。その結果、パイルマットにおけるパイル糸として、エチレン−酢酸ビニル系共重合体ケン化物とポリアミドとの複合繊維から主としてなる糸を使用すると、上記の課題を解決できることを見出して本発明を完成した。
【0009】 すなわち、本発明は、パイル糸を構成する繊維が、エチレンの共重合割合が25〜70モル%で且つケン化度が95%以上であるエチレン−酢酸ビニル系共重合体ケン化物とポリアミドを、エチレン−酢酸ビニル系共重合体ケン化物:ポリアミド=20:80〜80:20の重量割合で複合してなる複合繊維から主としてなることを特徴とするパイルマットである。
【0010】ここで、本発明における上記「パイル糸を構成する繊維が、エチレン−酢酸ビニル系共重合体ケン化物とポリアミドとの複合繊維から主としてなる」とは、パイル糸を構成する繊維の50重量%以上、好ましくは60〜100重量%がエチレン−酢酸ビニル系共重合体ケン化物とポリアミドとの複合繊維からなっていることをいう。
【0011】また、エチレン−酢酸ビニル系共重合体ケン化物とポリアミドとの複合繊維(以後「ケン化EtVAc/PA複合繊維」という)を構成する一方の重合体成分であるエチレン−酢酸ビニル系共重合体ケン化物(以後「ケン化EtVAc系共重合体」という)は、エチレン/酢酸ビニル系共重合体の酢酸ビニル単位をケン化により加水分解してビニルアルコール単位にした共重合体をいう。
【0012】ケン化EtVAc系共重合体におけるエチレン単位の割合は25〜70モル%、特に30〜70モル%であるのが好ましい。共重合体におけるエチレン単位の割合が25モル%よりも少ないと、繊維化する際の曳糸性が不良となって紡糸時や延伸時に単糸切れ、断糸が多くなり、しかも柔軟性の欠けたものとなる。しかもケン化EtVAc系共重合体をポリアミドと通常250℃以上の温度で溶融複合紡糸して複合繊維を製造する際に、ケン化EtVAc系共重合体の耐熱性が劣ったものになり紡糸が円滑に行われなくなり易い。一方、エチレン単位の割合が70%を超えると、ケン化された酢酸ビニル単位(すなわちビニルアルコール単位)の割合が必然的に少なくなり、パイルマットの洗濯時の耐再汚染性、パイル糸の腰の強さ、除塵効果、着色性、光沢などが低下し、外観上も劣ったものになる。
【0013】更に、ケン化EtVAc系共重合体では、酢酸ビニル単位の95モル%以上がケン化されているのが好ましい。酢酸ビニル単位のケン化度が95モル%よりも低いと、ケン化EtVAc系共重合体の結晶性が低下して強度などの繊維物性が低下し、しかも共重合体が軟化し易くなって加工工程でのトラブルが発生しがちであり、その上得られるパイルマットの風合が劣ったものとなり易い。
【0014】ケン化EtVAc系共重合体は、(株)クラレよりエバールRの商品名で、また日本合成化学工業(株)よりソアールRの商品名で市販されており、容易に入手可能である。しかしながら、市販されているエチレンと酢酸ビニルとの共重合体を購入しそれをケン化して、またはエチレンと酢酸ビニルからラジカル重合等によってエチレン/酢酸ビニル共重合体を製造しそれをケン化して使用してもよい
【0015】いずれの場合も、ケン化EtVAc系共重合体にナトリウムイオン、カリウムイオン等のアルカリ金属イオンやカルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属イオンなどの金属イオンが存在すると、ケン化EtVAc系共重合体に過度の架橋の発生、主鎖切断、側鎖脱離等が生じて共重合体のゲル化が起こり易くなったり、熱安定性が劣ったものとなって、溶融複合紡糸時の耐熱性が低下し易くなる。そのため、ケン化EtVAc/PA複合繊維を長時間安定に連続して紡糸するためには、ケン化EtVAc系共重合体中におけるそれらの金属イオンの含有量を所定量以下にしておくのが望ましく、特にケン化EtVAc系共重合体中における各金属イオンの含量をそれぞれを100ppm以下にしておくのがよい
【0016】また、ケン化EtVAc系共重合体の軟化点、耐熱性、耐熱水性等を向上させるために、複合繊維中のケン化EtVAc系共重合体を場合により架橋させておいてもよい。架橋方法としては、ビニルアルコール単位含有共重合体の架橋法として知られているいずれの方法も採用でき、例えば、ジビニル化合物、ホルムアルデヒドで代表されるモノアルデヒド、ジアルデヒド等のアルデヒド化合物、ジイソシアネート等のポリイソシアネート等の有機架橋剤による架橋、ホウ素化合物等の無機架橋剤による架橋、γ線や電子線等の放射線や光による架橋等を挙げることができる。例えばジアルデヒドで架橋処理を行う場合は、硫酸や塩酸等の強酸を使用して行うのがよい。架橋処理後に未反応のアルデヒドが残留すると染色物の退色等を招くことがあるので、酸化剤により酸化処理してカルボン酸やその塩にしておくのが望ましい。そのような架橋処理は、ケン化EtVAc/PA複合繊維から主としてなる糸をパイル糸として用いて本発明のパイルマットを製造した後に行うのが工程性、加工性等の点から望ましい。
【0017】そして、本発明のパイルマットでは、パイル糸として、上記したケン化EtVAc系共重合体とポリアミドとの複合繊維とから主としてなる糸を使用する。ポリアミドは、ケン化EtVAc系共重合体との接合性が良好であり、各種の複合形態でケン化EtVAc系共重合体と複合紡糸しても、ケン化EtVAc系共重合体とポリアミドとの接合面での界面剥離等が発生せず、繊維化の工程性が良好である。しかも、パイルマットにした後もケン化EtVAc系共重合体とポリアミドとの接合面での剥離などによるトラブルが発生しない。その上、ケン化EtVAc系共重合体と同様に、ポリアミドも洗濯時の耐再汚染性が比較的良好であって、ポリエステルなどにおけるような洗濯時再汚染の問題が少ないので、ケン化EtVAc系共重合体の極めて優れた耐再汚染性と相俟って、洗濯時耐再汚染性に極めて優れたパイルマットを得ることができる。
【0018】また、ポリアミドは屈折率が比較的高いため、ポリアミド単独の着色繊維は白っぽい光沢になり易いが、屈折率の小さいケン化EtVAc系共重合体との複合繊維にすることによって発色性が良好になり、深みのある良好な光沢を有する色調とすることができる。その場合に、限定されるものではないが、ケン化EtVAc系共重合体として屈折率が1.55以下の共重合体を用いてポリアミドと複合させると、得られるケン化EtVAc/PA複合繊維の色調および光沢が一層良好なものになる。
【0019】ポリアミドとしては、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12またはそれらのうちの2者または3者の混合物を使用するのが、繊維化工程性の点から望ましい。また、これらのポリアミドと共に必要に応じて他の第3成分を共重合したポリアミドを少量併用してもよい。
【0020】複合繊維におけるケン化EtVAc系共重合体とポリアミドとの複合割合は、重量で、ケン化EtVAc系共重合体:ポリアミド=20:80〜80:20とするのが好ましく、30:70〜70:30とするのが特に好ましい。複合繊維におけるケン化EtVAc系共重合体の割合が20重量%よりも少なくなると、複合繊維におけるアルコール性水酸基の割合が減少して、得られるパイルマットの洗濯時などにおける耐再汚染性が低下し、しかも光沢および発色状態が不良になる。一方、ケン化EtVAc系共重合体の割合が80重量%を超えると、紡糸、延伸、交絡処理等の工程性が不良になり易く、また繊維強度等の繊維物性も低下して、耐摩擦性などに優れたパイルマットを得られにくくなる。
【0021】ケン化EtVAc/PA複合繊維における複合形態は、芯鞘型、海島型、貼合型、それらの混在型等の任意の形態であることができる。芯鞘型の場合は2層芯鞘型および3層以上の多層芯鞘型のいずれでもよい。また海島型の場合は、島の形状、数、分散状態を任意に選ぶことができ、島の一部が繊維表面に露出していてもよい。更に、貼合型の場合は、繊維の長さ方向に直角な繊維断面において、貼合面が直線状、円弧状、またはその他任意のランダムな曲線状のいずれでもよく、更に複数の貼合部分が互いに平行になっていても、放射状になっていても、その他任意の形状であってもよい。
【0022】上記したように、ケン化EtVAc/PA複合繊維では、ケン化EtVAc系共重合体とポリアミドとが、20:80〜80:20の重量割合で複合しているのがよいが、そのうちでも複合繊維の横断面において、ケン化EtVAc系共重合体の占める面積割合が60%以上になるようにするのが望ましい。それによって、得られるパイルマットに充分な洗濯時の耐再汚染性が付与され、しかもその光沢、発色状態が一層良好になる。特に屈折率の高いポリアミドを屈折率の低いケン化EtVAc系共重合体で覆うような複合形態にすると、白っぽくなく、濡れたような深みのある良好な光沢および色調を有する製品を得ることができる
【0023】また、ケン化EtVAc/PA複合繊維の断面形状はどのようなものであってもよく、円形または異形形状とすることができる。異形断面の場合は、例えば偏平形、三角形〜八角形等の角形、T字形、多葉形、楕円形等の任意の形状とすることができる。限定されるものではないが、本発明で用いるケン化EtVAc/PA複合繊維の具体例としては、例えば図1〜図8に示す複合形態および横断面形状のものを挙げることができる。図1〜図8において、Aはケン化EtVAc系共重合体を、Bはポリアミドを示す。更に、上記の複合繊維は、繊維形成性重合体において通常使用されている蛍光増白剤、安定剤、難燃剤、着色剤等の任意の添加剤を必要に応じて含有することができる。
【0024】上記したケン化EtVAc/PA複合繊維は、ケン化EtVAc系共重合体とポリアミドを用いて溶融複合紡糸し、必要に応じて延伸処理、熱処理等を施すことにより製造することができる。紡糸時の温度や引き取り速度、延伸温度や延伸倍率、熱処理温度等の条件は、使用するケン化EtVAc系共重合体の成分組成やケン化度、ポリアミドの種類、両重合体の複合割合や複合形態等に応じて適宜選択するのがよい。その際の溶融紡糸法としては、2種の熱可塑性重合体から複合繊維を製造する従来の溶融複合紡糸技術のいずれもが使用できる。例えば、ケン化EtVAc系共重合体およびポリアミドの各々を別々の押出機で溶融して各々の溶融重合体流を形成し、それらの溶融重合体流を複合紡糸パックを有する紡糸装置に導入し紡糸パック内で合流複合させて紡糸することにより複合繊維を製造することができる。限定されるものではないが、その際の各重合体の溶融温度としては通常285℃以下の温度が、また紡糸温度としては250〜285℃の温度が採用される。
【0025】上記で得たケン化EtVAc/PA複合繊維からパイルマット用のパイル糸を製造する方法は特に限定されず、例えば、多数本のケン化EtVAc/PA複合繊維のフィラメントを合わせてマルチフィラメント糸を形成し、このマルチフィラメント糸を複数本組み合わせてそのまま例えば合撚、エアー加工、混繊して所定の太さのパイル糸を製造しても、或いは上記のマルチフィラメントを熱風を用いるインタレース加工、スタッフィング加工や従来のBCF法(Bulked Continuous Filament 法)による捲縮の付与などによって嵩高加工した後、その嵩高加工糸を複数本組み合わせて合撚、エアー加工、混繊などを行ってパイル糸としてもよい。
【0026】マルチフィラメント糸を複数組み合わせて合撚、エアー加工、混繊などを行ってパイル糸を製造する場合には、同じマルチフィラメント糸同士を組み合わせても、ケン化EtVAc/PA複合繊維のマルチフィラメント糸と他の繊維のマルチフィラメント糸とを組み合わせてもよい。ケン化EtVAc/PA複合繊維のマルチフィラメント糸と他の繊維のマルチフィラメント糸を組み合わせる場合は、該他の繊維のマルチフィラメント糸として、芳香族ポリアミド繊維、脂肪族ポリアミド繊維、ポリエステル繊維などからなるマルチフィラメント糸を使用することができる。その場合に、該他のマルチフィラメント糸の割合をパイル糸を構成する繊維の50重量%未満にしておくことが必要であり、特に40重量%以下にするのが好ましい。
【0027】パイル糸は、上記したマルチフィラメント糸のような長繊維から形成するのがパイル糸における遊び毛がなくなって、パイルマットにしたときに脱毛や抜毛が生じず好ましい。しかしながら、場合によっては、上記したケン化EtVAc/PA複合繊維からステープルを形成し、これを単独で用いてまたは50重量%未満の他の天然および/または合成繊維と混紡して紡績糸をつくり、この紡績糸からパイル糸を形成して本発明のパイルマットに使用してもよい。パイル糸がフィラメント糸および紡績糸のいずれからなる場合であっても、1本のパイル糸の太さは通常500〜6000デニール程度にしておくのがよい
【0028】パイル糸の着色は、ケン化EtVAc/PA複合繊維の製造時、複合繊維の製造後でパイル糸を製造する前の段階、複合繊維からパイル糸を製造した後、またはパイルマットを製造した後の任意の段階で行うことができる。複合紡糸によって着色した複合繊維を直接製造する場合は、着色剤を例えばマスターバッチなどの形態にしてケン化EtVAc系共重合体およびポリアミドの一方または両方に混合した後、溶融複合紡糸を行うとよい。着色剤としては、パイル糸に現出させようとする色調に応じて、例えば、酸化チタン、カーボンブラック、群青、紺青などを代表とする無機顔料、フタロシアニンやその他の有機顔料などを適宜使用することができ、耐光性の良好な着色剤を用いるのがよい。
【0029】上記のようにして得られたパイル糸を、次に織布、編布、不織布等の布帛等からなる基材に植え込む。基材の種類、パイル糸の植え込み法、それに用いる装置等は特に限定されず、従来のパイルマットの製造において用いられている基材、方法および製造装置のいずれもが使用できる。パイル糸の基材への植え込み密度は、通常ゲージ間隔が1/5〜1/12の範囲、ステッチが5〜13本の範囲になるようにするのが好ましい。パイル糸の植え込み密度が高くなり過ぎると、塵埃がパイル表面に多くなって踏み付けられたときに微細な塵埃が飛散して周囲の再汚染を招き易くなる。一方パイル糸の植え込み密度が低すぎると、塵埃除去機能が低下し、しかも塵埃が基材の目にまで入り込んでその清掃除去が困難になる。また、必要に応じて、ケン化EtVAc/PA複合繊維から主としてなるパイル糸と共に、他の繊維からなるパイル糸を基材に一緒に植え込んでもよく、それによりケン化EtVAc/PA複合繊維に基づく上記した種々の優れた特性と、他の繊維に基づく特性を兼ね備えたパイルマットを得ることができる。そして、その場合には、他の繊維からなるパイル糸の割合を40%以下にしておくのが好ましい。
【0030】植え込んだパイル糸が基材から抜けにくい場合は、パイル糸を植え込んだ基材をそのままパイルマットとして使用してもよいが、一般に、ゴムや樹脂などの裏打ち材を基材の裏面に施して、植え込んだパイル糸を固定して抜けを防止し安定化するのが望ましい。裏打ち材としては、この種のパイルマットにおいて使用されているいずれのものも使用することができ、例えばスチレンブタジン系ゴム、アクリロニトリル系ゴム、ブタジエン系ゴム、クロロプレン系ゴム、イソプレン系ゴム、ポリウレタン系ゴム等の合成ゴム、天然ゴム、ポリ塩化ビニルなどを挙げることができる。これらの重合体による裏打ちは、通常、必要に応じて着色剤、難燃剤、架橋剤、安定剤などの添加剤を含有するそれらの重合体の懸濁液、乳化液、ラテックス、溶液、溶融液などを基材の裏面に施して、乾燥やその他の手段により固化させることにより行う。また、本発明のパイルマットにおいては、必要に応じて、重合体からなる裏打ち材の上に更に他の布帛などを積層してもよい。
【0031】基材に植え込んだパイル糸は、そのまま切断せずにループパイル状にして使用しても、または切断して房状のカットパイル状にして使用してもよい。パイル糸の毛足(長さ)は、一般に5〜20mm程度、好ましくは8〜15mm程度としておく。
【0032】上記により得られた本発明のパイルマットは、必要に応じて、例えば浸染法、捺染法などの適当な染色方法によって染色してもよい。また、パイルマットの除塵効果を高めるための処理剤、湿潤剤、帯電防止剤、難燃剤、防黴剤、殺菌・殺虫剤、光安定剤などの任意の剤を用いて処理してもよい。
【0033】本発明のパイルマットは、例えば、玄関マット、部屋の入口用マット、浴室用マット、台所用マット、廊下用マット、室内用マット、自動車、鉄道、航空機等の乗り物用マットなどの広範な用途に使用することができ、特に、除塵性、帯電防止性、吸水性、吸湿性が求められる場所で有効に使用することができる。そして、特に洗濯時の再汚染度(DS)(DSについては、以下で説明する)が10%以下である本発明のパイルマットは、洗濯時に汚れの吸着が少ないため黒ずんだ色にならず、いつまでも良好な色調を保つことができる。
【0034】以下に本発明を実施例等により具体的に説明するが、本発明はそれにより限定されない。以下の例において、パイルマットの洗濯時の再汚染度(DS)、パイルマットにおける繊維の抜け(抜け毛性)およびパイルマットの外観は、次のようにして測定または評価した。
【0035】
【実施例】
[洗濯時の再汚染度(DS)の測定]
(a)前処理;パイルマットを下記に示した条件下に1回洗濯して前処理する。
洗濯条件:洗濯機:National Automatic NA−5050洗濯液:温度40℃±2℃、洗剤(モノゲン)0.25%浴比1:100洗濯時間:10分すすぎ:40℃×1分を3回(b)再汚染処理;上記の前処理を施したパイルマットから5×5cmの試験片6枚を取りこれを1組とする。Launder-O-meter型洗濯機付きのコップに汚染液(下記の人工油性汚れ成分と固形汚れ成分を3:1で混合したもの3gおよび洗剤モノゲンペースト7gに水を加えて4リットルにしたもの)150mlとSteel ball 10個を入れて40±2℃に予熱した後、試験片を洗濯機に投入して、20分間回転させて汚染する。汚染後、試験片を洗濯機から取り出して約3リットルの水で1分間水洗し、これを2回繰り返した後、50〜60℃で乾燥する。
【0036】
人工油性汚れ成分
ステアリン酸 12.5%オレイン酸 12.5%ヤシ硬化油 12.5%オリーブ油 12.5%セチルアルコール 8.5%固形パラフィン(融点60〜61℃) 21.5%コレステロール 5.0%カーボンブラック(玉川カーボン#LBC) 15.0%
【0037】固形汚れ成分
粘土汚れ 55 %(ドライクリーニング残渣珪ソウ土吸着物)
SiO2(エロール) 17 %Fe23 0.5 %セメント 17 %n−低級炭化水素(ヘプタン) 8.75%カーボンブラック(玉川カーボン#LBC) 1.75%
【0038】(c)測 定;上記で得た試験片を4枚重ね、島津製作所製RC−II型、自動記録式分光光度計でMgOの場合を100とした時の反射率(%)を3回測定してその平均値を採り、下記の数式1により汚染度(DS)(Degree of Soiling)を算出する。
【0039】
【数1】DS(%)={(Ro−Rs)/Ro}×100ただし Ro=再汚染前マット(原マット)の反射率Rs=再汚染マットの反射率
【0040】[パイルマットの抜け毛性の評価]直径100mmの円筒の長さ方向に沿って棕櫚繊維で作られた幅約30mmのブラシを相対する位置に4個固定し、これを75回転/分のモーターに接触させて回転させてパイルマットに5分間ブラシかけを行って、その際の繊維の抜け(抜け毛性)の状態および切断状態を下記により相対的に評価した。
抜け毛性の評価基準
○・・・繊維維の抜けおよび切断がほとんどない△・・・維の抜けおよび切断がわずかに発生×・・・繊維の抜けおよび切断が顕著に発生
【0041】[パイルマットの外観評価]下記の評価基準によって行った。
○・・・DS測定後も外観変化なく良好△・・・DS測定後にやや汚染が認められ、且つ毛抜けもやや発生×・・・DS測定後に汚染激しく、且つ毛抜けおよび繊維切断が顕著に発生
【0042】《実施例 1》重合溶媒としてメタノールを使用し、重合開始剤としてアゾビス−4−メチロキシ−2,4−ジメチルバレロニトリルを使用して、60℃、加圧下でエチレンと酢酸ビニルをラジカル重合させて、エチレン含量が下記の表1の割合であるエチレン/酢酸ビニルランダム共重合体(数平均重合度約350)を製造した次に、このエチレン/酢酸ビニルランダム共重合体を苛性ソーダ含有メタノール液中でケン化処理して、共重合体中の酢酸ビニル単位のケン化度が表1に示した値からなる湿潤状態のケン化EtVAc系共重合体を製造した。このケン化EtVAc系共重合体を酢酸を少量添加した純水の大過剰量を使用して洗浄を繰り返した後、さらに大過剰の純水で洗浄を繰り返して、共重合体中のアルカリ金属イオンおよびアルカリ土類金属イオンの含有量を各々約10ppm以下にし、その後、脱水機により共重合体から水を分離した後、100℃以下の温度で真空乾燥により充分乾燥して、ケン化EtVAc系共重合体(屈折率1.53)を得た
【0043】上記で得たケン化EtVAc系共重合体とナイロン6[宇部興産(株)製1013BK]とを別々の押出機で250℃で溶融押出して、複合紡糸装置の紡糸パックに供給して紡糸温度260℃で紡糸口金から紡糸して、表1に示した複合重量比、複合形態および横断面形状を有する複合繊維を紡出させ、非水系の紡糸油剤を付着させて1500m/分で巻取った。得られた紡糸原糸を通常のローラープレート方式の延伸機で2.0倍に延伸した後に合糸して1500デニール/100フィラメントのマルチフィラメントをつくり、このマルチフィラメントを熱風流体処理法で捲縮処理して捲縮加工糸にした。この捲縮加工糸を2本合撚して、総繊度3000デニール/本、100T/MZの合撚糸をつくり、これをパイル糸として用いた
【0044】一方、基材として、ポリエステル繊維の繊維絡合不織布にバインダー樹脂を含浸させた平均目付160g/m2の不織布を用い、これに上記で製造したパイル糸をパイル植え込み密度8×8本/inch2で植え込んだ。次いで、パイル長9mmに切り揃えて整毛を行った後、基材の裏面にニトリル系合成ゴムラテックス液を900g/m2の割合で塗布し、乾燥および160℃でキュアー処理してゴムにより裏打ちされた本発明のパイルマットを作製した。得られたパイルマットの洗濯再汚染度(DS)を上記した方法で測定すると共に、その毛抜け性およびマット外観を併せて上記方法により評価した。その結果を下記の表1に示す。
【0045】
【表1】


【0046】上記表1の結果から、ケン化EtVAc/PA複合繊維からなるパイル糸、そのうちでも特にエチレンの共重合割合が25〜70モル%であり、酢酸ビニル単位のケン化度が95モル%以上であり、且つケン化EtVAc系共重合体とポリアミドとの複合割合が20:80〜80:20の範囲にあるケン化EtVAc/PA複合繊維からなるパイル糸を用いて製造された本発明のパイルマットは、洗濯時の耐再汚染性が極めて高く、抜け毛が少なく、しかも外観が良好であることがわかる
【0047】《実施例 2》実施例1の実験番号5と同様にして重合およびケン化処理を行って、エチレン含量が44モル%、ケン化度99%のケン化EtVAc系共重合体をつくった。このケン化EtVAc系共重合体を用いて実施例1と同様にして複合紡糸、延伸、捲縮処理を行って、ケン化EtVAc系共重合体とポリアミドとの複合重量比が1:1の捲縮加工された複合フィラメントをつくった。このフィラメントを切断して、ステープル繊維(繊維長51mm、繊度6デニール)をつくり、これを用いて平均繊度750デニールの紡績糸を製造し、この紡績糸4本を合撚して総繊度3000デニール/本のパイル糸を製造した。
【0048】このパイル糸を用いて実施例1と同様にしてパイルマットを製造して、その洗濯時再汚染度(DS)、毛抜け性およびマット外観を上記した方法により測定または評価した。その結果、下記の表2に示すとおり、抜け毛性は△でありやや劣るものの、DSは2.5%と低く洗濯時の耐再汚染性に優れており、しかもマットの外観も良好であった。
【0049】《実施例 3》実施例1の実験番号5で製造したしたのと同じ捲縮加工マルチフィラメント糸(1500デニール/100フィラメント)と、青色原着ナイロン6フィラメント糸の仮撚加工糸(600デニール/48フィラメント)とを合撚して総繊度約2100デニール、100T/MZのパイル糸をつくった。このパイル糸を、難燃剤を含むバインダー樹脂を含浸させたナイロンスパンボンド不織布からなる基材に、パイル植え込み密度10×10本/inch2で植え込んで、パイル長6mmのループパイルを形成させた。次いで、基材の裏面に難燃剤を含む合成ゴムラテックス液を200g/m2の割合で施した後乾燥し、160℃でキュアーしてパイルを固定してループパイルを有するパイルマットを製造した。このパイルマットの洗濯時再汚染度(DS)、毛抜け性およびマット外観を上記した方法により測定または評価した。その結果は下記の表2に示すとおりであり、DSは7.0%と低く洗濯時の耐再汚染性に優れており、耐抜け毛性および外観も良好であった
【0050】《実施例 4》実施例1の実験番号5で製造したしたのと同じ捲縮加工マルチフィラメント糸(1500デニール/100フィラメント)と、青色原着ポリエステルフィラメント糸の仮撚加工糸(600デニール/48フィラメント)とを、70:30の重量割合で合撚して、総繊度約3000デニール、100T/MZのパイル糸をつくった。このパイル糸を用いて、実施例1と同様にしてパイルマットを製造した。このパイルマットの洗濯時再汚染度(DS)、毛抜け性およびマット外観を上記した方法により測定または評価したところ、その結果は下記の表2に示すとおりであり、DSは4.5%と低く洗濯時の耐再汚染性に優れており、耐抜け毛性および外観も良好であった
【0051】《比較例 1》常法により約1500デニール/100フィラメントのポリエステルマルチフィラメントを作製し、このマルチフィラメントを熱風流体処理法で処理して捲縮加工糸を製造した後、これを2本合撚して、総繊度約3000デニール、100T/MZのパイル糸をつくった。このパイル糸を用いて、実施例1と同様にしてパイルマットを製造した。このパイルマットの洗濯時再汚染度(DS)、毛抜け性およびマット外観を上記した方法により測定または評価したところ、その結果は下記の表2に示すとおりであり、DSは45.0%と極めて高く、耐再汚染性に劣っていた。
【0052】《比較例 2》上記の実施例4において、実施例1の実験番号5で製造したしたのと同じ捲縮加工マルチフィラメント糸)と、青色原着ポリエステルフィラメント糸の仮撚加工糸との合撚割合を30:70とする以外は実施例4と同様にしてパイルマットを製造した。下記の表2に示すように、このパイルマットの洗濯時再汚染度(DS)は、25.0%とかなり高く、耐再汚染性に劣っていた。
【0053】
【表2】


【0054】
【発明の効果】本発明のパイルマットは、洗濯時に再汚染されることがないため長期にわたって黒ずんだりせず、清潔感のある深みのある良好な色調および光沢を保つことができる。更に、本発明のパイルマットではパイルは腰があって湿潤時等に寝たりしないため、嵩高性および形態安定性に優れており、良好な外観および除塵性能を保つことができる。また、本発明のパイルマット、特にパイル糸としてケン化EtVAc/PA複合繊維のマルチフィラメントからなる糸を使用したパイルマットでは、使用時や洗濯時に抜毛がなく、抜毛による周囲環境の二次汚染がない。その上、本発明のパイルマットにおけるパイル糸は、溶融複合紡糸により、極めて簡単に且つ円滑に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のパイルマットで使用するケン化EtVAc/PA複合繊維の横断面形状の一例を示す図である。
【図2】本発明のパイルマットで使用するケン化EtVAc/PA複合繊維の横断面形状の別の例を示す図である。
【図3】本発明のパイルマットで使用するケン化EtVAc/PA複合繊維の横断面形状の別の例を示す図である。
【図4】本発明のパイルマットで使用するケン化EtVAc/PA複合繊維の横断面形状の別の例を示す図である。
【図5】本発明のパイルマットで使用するケン化EtVAc/PA複合繊維の横断面形状の別の例を示す図である。
【図6】本発明のパイルマットで使用するケン化EtVAc/PA複合繊維の横断面形状の別の例を示す図である。
【図7】本発明のパイルマットで使用するケン化EtVAc/PA複合繊維の横断面形状の別の例を示す図である。
【図8】本発明のパイルマットで使用するケン化EtVAc/PA複合繊維の横断面形状の別の例を示す図である。
【符号の説明】
A ケン化Et・VAc系共重合体
B ポリアミド

【特許請求の範囲】
【請求項1】 パイル糸を構成する繊維が、エチレンの共重合割合が25〜70モル%で且つケン化度が95%以上であるエチレン−酢酸ビニル系共重合体ケン化物とポリアミドを、エチレン−酢酸ビニル系共重合体ケン化物:ポリアミド=20:80〜80:20の重量割合で複合してなる複合繊維から主としてなることを特徴とするパイルマット。
【請求項2】 汚染度DSが10%以下である請求項1のパイルマット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【特許番号】特許第3337237号(P3337237)
【登録日】平成14年8月9日(2002.8.9)
【発行日】平成14年10月21日(2002.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−146880
【出願日】平成4年5月13日(1992.5.13)
【公開番号】特開平5−309065
【公開日】平成5年11月22日(1993.11.22)
【審査請求日】平成11年4月19日(1999.4.19)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【参考文献】
【文献】特開 昭46−969(JP,A)
【文献】特開 昭48−80820(JP,A)
【文献】特開 昭62−96024(JP,A)