説明

パイル織機におけるパイル経糸張力調整装置

【課題】パイル形成のためのファーストピック時に発生する瞬間的な張力上昇を含むパイル経糸の張力変動を吸収し、安定したパイル経糸張力を維持できるようにする。
【解決手段】パイル経糸ビームの下方にパイル経糸ビームから引き出されたパイル経糸Tpを案内するガイドローラ18を配設する。ガイドローラ18の下方にパイル経糸ビームとガイドローラ18との間の上下方向の間隔よりも大きな間隔を開けてテリーモーションローラ20が配設される。織機の前後方向に延びる板ばね25はガイドローラ18側に固定して配設される。ガイドローラ18を周回したパイル経糸Tpが板ばね25の先端部41に直接接触して案内されることにより、慣性の小さい板ばね25はパイル経糸Tpの張力変動に追従して撓み、パイル経糸Tpの張力変動が確実に吸収される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、パイル織機におけるパイル経糸の張力調整に関するものである。
【背景技術】
【0002】
パイル織機において、パイル経糸の張力変動の要因は大きく分けて次の3つがある。第1に、パイル経糸の開口運動に伴う張力変動がある。第2に、パイルモーションにおける筬打ち位置と織前位置との相対移動に伴う張力変動がある。第3に、パイル形成のためにルーズピック後の筬打ちであるファーストピックに伴う張力変動がある。これらの内、第1及び第2の張力変動は比較的緩やかに変化するものであるが、第3の張力変動は瞬間的に変化するため、パイル経糸に対して大きな影響を及ぼすものである。
【0003】
前記のようなパイル経糸の張力変動を吸収するために、従来から種々の張力調整装置が提案されている。例えば、特許文献1はパイル経糸ビームの下部に配設した支軸に下方に延びるテンションレバーを固定し、前記テンションレバーの下端に織幅方向に延びるバーを固定するとともに前記バーに金属薄板製筒状のばね部材からなるテリーモーションロールを設けた構成を開示している。前記テンションレバーの支軸はギヤを介してサーボモータ又は他の駆動機構に連結され、前記テリーモーションロールに積極イージング運動を与えことにより前記第2の張力変動を吸収する。積極イージング運動時の慣性力により前記テリーモーションロールの運動の遅れや行き過ぎが生じ、パイル経糸張力の急激な変動が生じる。しかし、特許文献1では、前記テリーモーションロールが自ら弾性変形してパイル経糸の経路長を変えることにより、パイル経糸張力の急激な変動を抑制することができると説明している。
【0004】
特許文献2の図2には、パイル経糸ビームの下部に配設した取付け軸に下方に延びる支持腕を固定し、前記支持腕の下端にテリーモーションローラを取り付け、前記取付け軸に固定した支持体にガイドローラ及び剛体のガイドバーを備える板ばねを設けた構成が開示されている。パイル経糸は前記ガイドローラを周回した後、前記ガイドバーに案内され、前記テリーモーションローラに至る。また、前記取付け軸はパイル形成における筬打ち位置と織前位置との相対移動に同期して積極的に回転され、前記ガイドローラ、ガイドバー及びテリーモーションローラに積極イージング運動を付与する。従って、特許文献2は前記第2の張力変動を吸収することができる。特許文献2では、織機が高速化されると、前記第2の張力変動吸収時に織前位置の急激な移動により前記テリーモーションローラに衝撃が加わるが、前記板ばねに支持されたガイドバーの変形により前記テリーモーションローラにかかる衝撃を緩和することができると説明している。
【0005】
特許文献3の図1には、パイル経糸ビームの下方に固定のガイドローラ及び積極イージング運動を付与されるテリーモーションローラが配設され、前記ガイドローラと前記テリーモーションローラとの間に剛体のガイドバーが配設された構成が開示されている。前記ガイドバーは織機フレームの一部に固定された板ばねの一端に保持され、パイル経糸張力がかかると変位するように構成されている。特許文献3の明細書に記載されていないが、パイル経糸に生じる前記第1〜第3の張力変動は前記テリーモーションローラの積極イージング運動及び前記ガイドバー(実際は板ばね)の弾性変位による消極イージング運動で吸収するものと考えられる。
【0006】
【特許文献1】特開2004−11065号公報
【特許文献2】特開昭52−124970号公報
【特許文献3】特開平10−60753号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示された技術は、筒状の板ばねで構成されたテリーモーションロールが積極イージング運動により加減速されるため、強度の高い比較的重量の大きな板ばねが必要である。このため、板ばねの慣性が高まり、板ばねに大きな慣性力が加わって異常に変形したり、オーバーラン等の異常な運動を生じ易い。この結果、前記第2の張力変動の吸収が確実に行われず、パイル経糸張力の安定化が充分に得られない。特に前記した第3の張力変動のように、パイル形成のためのファーストピック時に瞬間的に生じるパイル経糸の大きな張力変動は慣性による板ばねの異常変動により吸収することができず、パイル経糸張力を安定に保つことができないという問題がある。また、慣性による板ばねの異常変動はパイルの引けが生じ易くなり、織物品質の低下をもたらす。さらに、前記テリーモーションロールに対するパイル経糸の接触面積が小さいため、張力変動によってパイル経糸が前記テリーモーションロールと接離し易くなり、パイル経糸のローリングが発生し易い。このようなパイル経糸のローリングは前記第1〜第3の張力変動の吸収を十分行えない要因となっている。
【0008】
特許文献2は、テリーモーションローラを剛体のローラで形成し、特許文献1のテリーモーションロールにおける板ばねの機能を前記テリーモーションローラから分離し、板ばねの先端に取り付けたガイドバーとしてガイドローラの近辺に独立に配設した構成である。しかし、前記テリーモーションローラ、前記ガイドバー及び前記ガイドローラは積極イージング運動を行うように構成されている。このため、質量の大きい前記ガイドバーには大きな慣性力が生じ、特許文献1の場合と同様にパイル経糸の張力変動を充分に吸収できなかったり、織物品質の低下を招くという問題がある。また、前記ガイドバーに対するパイル経糸の接触面積が小さいため、特許文献1と同様にパイル経糸のローリングが発生し、張力変動の吸収機能がより低下するという問題がある。
【0009】
特許文献3におけるガイドバーは、パイル経糸の張力変動を消極イージング運動により吸収するように構成した点で、特許文献1及び特許文献2のように積極イージング運動を付与することにより発生する慣性力の問題は解消されている。しかし、剛体で形成されたガイドバーは質量が大きい。このため、特に前記第3の張力変動のように、パイル経糸に瞬間的な張力が付加されると、前記ガイドバーは自身の慣性力により、張力変化に追従することなく大きく変位し、張力変動の吸収機能が低下するという問題がある。また、前記ガイドバーに対するパイル経糸の接触面積が小さいため、特許文献1及び特許文献2と同様にパイル経糸のローリングが発生し、張力変動の吸収機能がより低下するという問題がある。
【0010】
本願発明は、パイル形成のためのファーストピック時に発生する瞬間的な張力上昇を含むパイル経糸の張力変動を吸収し、安定したパイル経糸張力を維持できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に記載の本願発明は、織機のフレームの一部に支持されたパイル経糸ビーム及び地経糸ビームを備え、前記パイル経糸ビームから引き出されたパイル経糸をテリーモーションローラにより案内し、織前側へ導くように構成されたパイル織り織機において、 前記パイル経糸ビームと前記テリーモーションローラとの間のパイル経糸経路に織機の前後方向に延びる板ばねを配設し、前記板ばねは基端部を固定し、前記板ばねの先端部側の表面に前記パイル経糸を接触させて前記テリーモーションローラに案内することを特徴とする。
【0012】
請求項1記載の本願発明によれば、板ばねを固定して設けることにより機械的な強度を必要としないため、板ばね自体の慣性を可能な限り小さくすることができる。またパイル経糸を板ばねの表面に接触させて案内させたことにより、パイル経糸の接触面積を大きくすることができる。従って、板ばねの慣性を小さくした構成とパイル経糸の接触面積を大きくした構成との組み合わせにより、パイル経糸の張力変動を充分に吸収することができる。特にファーストピック時の瞬間的な張力増加に対する板ばねの弾性的な追従性が良くなる。また、上記の張力変動吸収機能は高速化されたパイル織機においても充分追従することができる。
【0013】
請求項2に記載の本願発明は、織機の前後方向に延びる剛体製のガイドプレートを前記板ばねが前記パイル経糸の張力により弾性変形する方向に少なくとも前記板ばねの先端部側で間隔を開けて配設し、前記ガイドプレートの織機前後方向の長さを前記板ばねよりも短く形成するとともに前記ガイドプレートを織機の上下方向に湾曲させたことを特徴とするため、大きなパイル糸張力を必要とするボーダ織時や地織時に、変位した板ばねの基端部側とガイドプレートとの接触により前記板ばねの作用部分の長さが短くなり、ばね定数を高めることができる。従って、パイル経糸の張力を設定張力まで早期に上昇させることができる。また、ガイドプレートの湾曲化により板ばねとの一点集中的な接触を避け、接触時の板ばねの振動発生や騒音発生及び破損を防止することができる。
【0014】
請求項3に記載の本願発明は、前記板ばねの基端部を前記織機のフレームの一部に固定された固定バーによって保持し、前記板ばねの先端部を湾曲面に形成したことを特徴とするため、板ばねの取り付け、取り外しを簡単に行えるとともに板ばねの湾曲面によりパイル経糸を滑らかに接触させることができる。
【0015】
請求項4に記載の本願発明は、前記固定バーは前記板ばねの湾曲面よりも前記パイル経糸ビーム側に配置され、前記パイル経糸と接触する案内面を備えていることを特徴とするため、パイル経糸ビームから引き出されたパイル経糸の自由状態にある区間を短くし、パイル経糸の波打ち現象を防止することができる。
【0016】
請求項5に記載の本願発明は、前記パイル経糸ビームを前記地経糸ビームの上方に配置し、前記パイル経糸ビームの下方に前記パイル経糸ビームから引き出されたパイル経糸を案内するガイドローラを配設するとともに前記ガイドローラの下方に前記パイル経糸ビームと前記ガイドローラとの間の上下方向の間隔よりも大きな間隔を開けて前記テリーモーションローラを配設し、前記板ばねは前記ガイドローラ側に配設されていることを特徴とするため、ガイドローラの配設により板ばねの取り付け位置の自由度が高まり、前記板ばねとテリーモーションローラとの間の空間を大きく取れるため、糸継ぎ時や機替え時の作業性を高めることができる。
【0017】
請求項6に記載の本願発明は、前記板ばねは前記パイル経糸に対して消極イージング運動を行い、前記テリーモーションローラは前記パイル経糸に対して積極イージング運動を行うことを特徴とするため、テリーモーションローラにより筬打ち位置と織前位置との相対移動時のパイル経糸の張力変動を確実に吸収し、板ばねによってファーストピック時の張力変動及びパイル経糸の開口運動時の張力変動を確実に吸収することができる。
【0018】
請求項7に記載の本願発明は、前記ガイドプレートは織機の織幅方向に複数に分割して配設されたことを特徴とするため、1枚板で形成する場合に比し、精度の高いガイドプレートを簡単に製作することができる。また、ガイドプレートの取り付け、取り外し時の作業性を高めることができる。
【発明の効果】
【0019】
本願発明は、パイル経糸の張力変動を充分に吸収し、安定したパイル経糸張力を維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
(第1の実施形態)
図1〜図4に示した第1の実施形態は以下のように構成される。
図1において、1は地経糸ビームである。地経糸ビーム1は送り出し制御装置C1に電気的に接続された送り出しモータMgにより回転駆動される。送り出しモータMgの作動により地経糸ビーム1から送り出される地経糸Tは円弧状のバックガイドプレート2及びテンションローラ3を経由して綜絖4及び筬5に通される。織布Wはエキスパンションバー6、サーフェスローラ7及びガイドローラ8、9を経由してクロスローラ10に巻き取られる。
【0021】
織機フレーム11はボルト(図示せず)で固定されたブラケット(図示せず)によりバックガイドプレート2を支持し、さらに支軸12を回転可能に支持する。支軸12に固定された上方アーム13はその上端にテンションローラ3を回転可能に支持する。なお、テンションローラ3は図示しない付勢力付与機構による付勢力を受け、経糸開口運動による地経糸Tの張力変動を消極イージングにより吸収する。また、支軸12に下方アーム14が固定され、その先端にロッド15が回転可能に連結される。
【0022】
ロッド15にはテンションローラ3にかかる地経糸Tの張力を検出するロードセル16が取り付けられ、ロードセル16は送り出し制御装置C1に電気的に接続されている。送り出し制御装置C1は予め設定された基準張力及びロードセル16から得られる張力検出情報に基づいて送り出しモータMgの送り出し速度を制御する。
【0023】
地経糸ビーム1の上方にはパイル経糸ビーム17が配設されている。パイル経糸ビーム17は送り出し制御装置C2に電気的に接続された送り出しモータMpにより回転駆動される。パイル経糸ビーム17から送り出されるパイル経糸Tpはガイドローラ18、張力調整装置19及びテリーモーションローラ20を経由して綜絖4及び筬5に通される。
【0024】
ガイドローラ18はパイル経糸ビーム17の下部において、織機フレーム11に固定されている。また、ガイドローラ18はパイル経糸Tpを案内しない端部位置に一対の被検出要素(図示せず)を有する。前記ガイドローラ18の一対の被検出要素と対向する位置には、一対の近接スイッチ21(1個のみ表示)が設けられている。近接スイッチ21はガイドローラ18の回転を検出し、検出信号を送り出し制御装置C2に出力する。
【0025】
張力調整装置19はガイドローラ18の下方に近接した位置に配設されており、拡大して示した図2〜図4を参照して説明する。張力調整装置19は図3及び図4の分解図に示すように、基本要素として支軸22、スペーサ23、複数に分割されたガイドプレート24、板ばね25、ナットバー26及び固定バー27から構成されている。
【0026】
支軸22は織機の織幅方向に延出し、両端をホルダー28(図3参照)及びボルト29によって織機フレーム11に支承されている。支軸22には、複数の保持リング30が嵌合され、適宜手段により固定されている。また、各保持リング30にはそれぞれ鉤状の保持ブラケット31をその垂直部32に穿設されたボルト孔33及び保持リング30のボルト孔30aを介してボルト(図示せず)によって固定することができる。
【0027】
保持ブラケット31は垂直部32と直角に接続する水平部34を有し、水平部34にはボルト35が貫通するボルト孔36が穿設されている。スペーサ23は織幅方向に長い1本の断面四角形状のバーで形成され、上下方向に貫通する複数のボルト孔37を有する。複数のボルト孔37は保持ブラケット31の水平部34のボルト孔36と対応している。
【0028】
ガイドプレート24は織幅方向に複数配列された剛体製の板材で構成され、図4に示すように、織機の後方側(図の左側)先端部38が下方に湾曲する形状(ガイドプレート24が板ばね25に対して凸に湾曲する形状)を有する。また、図3に示すように、ガイドプレート24の織機前方側基端部39には、ボルト孔36、37と対応する位置にボルト35が貫通する大きさの溝40が3箇所形成されている。
【0029】
板ばね25はガイドローラ18から案内されるパイル経糸Tpの列幅に対応する長さだけ織幅方向に延びるスペーサ23とほぼ同一長さの1枚の薄い弾性材で構成され、その短手方向が織機の前後方向に延びるように配設されている。板ばね25の織機前後方向の長さは、ガイドプレート24よりも長くなるように構成されている。図4に示すように、板ばね25の織機の後方側(図の左側)先端部41は下方に大きく屈曲された湾曲面に形成され、板ばね25の基端部42には、ガイドプレート24と同様にボルト孔36、37と対応する位置にボルト35が貫通する大きさの溝43が複数箇所に形成されている。
【0030】
ナットバー26は織幅方向に延びる板ばね25とほぼ同一長さの断面四角形状のバーで形成され、ボルト孔36、37と対応する位置にボルト35が締結されるネジ孔44を複数有する。固定バー27は底面45に対して異なる高さ方向の大きさを有する複数の空洞を形成した筒状のバーで構成され、織機前方側に比較的小さな空洞46が形成され、織機後方側に比較的大きな空洞47が形成されている。空洞46はナットバー26を収容可能な空間に形成され、底面45にネジ孔44と対応する位置にボルト35が貫通するあり溝48が織幅方向に形成されている。空洞47の上面には、織機後方側に湾曲させた案内面49が形成されている。
【0031】
張力調整装置19の組み付けは例えば次のような方法で行うことができる。まず保持ブラケット31の水平部34上にスペーサ23、ガイドプレート24の基端部39、板ばね25の基端部42及び固定バー27の底面45を重畳し、固定バー27の空洞46内にナットバー26を挿入する。次に、各ボルト孔36、37、溝40、43、あり溝48及びネジ孔44の位相を合わせ、ボルト35を挿入してナットバー26のネジ孔44に締結する。この状態で、張力調整装置19をユニット化することができる。次に保持ブラケット31の垂直部32のボルト孔33を保持リング30のボルト孔30aに重ね、図示しないボルトによって固定することにより張力調整装置19を支軸22に取り付けることができる。張力調整装置19は板ばね25の撓みを利用した消極イージング運動により経糸開口運動によるパイル経糸Tpの張力変動及びパイル形成のためのファーストピックに伴う張力変動を吸収することができる。
【0032】
図2に示すように、支軸22の一部には水平方向に延びるレバー50が固定され、レバー50に対して、ロードセル51を備えるとともに織機フレーム11に固定されたレバー52が連結されている。ロードセル51はパイル経糸Tpの張力を、板ばね25を介して支軸22にかかる負荷の変化として検出し、検出信号を送り出し制御装置C2に出力する。従って、送り出し制御装置C2は予め設定された基準張力とロードセル51から得られる張力検出情報との比較及び近接スイッチ21(図1参照)から得られる回転検出信号に基づいて送り出しモータMpの送り出し速度を制御する。
【0033】
図1及び図2に示すように、軸53によって回転可能に支持された揺動レバー54の上方アーム55の先端部には、テリーモーションローラ20の径よりも若干小径の円弧面を有するU字状の保持部56が形成されている。テリーモーションローラ20は保持部56にスナップ嵌合により保持されるため、テリーモーションローラ20の取り付け取り外しが容易となる。テリーモーションローラ20は板ばね25の配設位置から下方向に大きく間隔を開けて配設されており、糸継ぎ作業や機換え作業の容易化を計っている。揺動レバー54の下方アーム57は下端に長孔58を有し、長孔58を貫通するボルト59によってロッド15と回転可能に連結されている。
【0034】
一方、図1に示すように、織機の前後方向中央部には二叉状の中間レバー60が軸61に回転可能に配設され、その上方位置にはパイルモーション機構62が配設されている。パイルモーション機構62の内部構造は図示されていないが、専用の駆動モータ又は織機駆動モータMoによって駆動されるボールねじ機構又はカム機構からなる駆動装置が備えられ、この駆動装置の作動により駆動装置に連結された駆動軸63と一体の駆動レバー64が往復回転される。
【0035】
織機駆動モータMoの作動は機台回転角度を検出するロータリエンコーダ65と接続する織機制御装置Cdによって制御される。また、織機制御装置Cd及び送り出し制御装置C2は柄出し制御装置66と接続する。柄出し制御装置66にはパイル製織用の織り柄パターンが設定されている。柄出し制御装置66は緯入れ1サイクル中の所定の機台回転角度毎に織機制御装置Cd及び送り出し制御装置C2に織り柄パターンを送る。従って、織機制御装置Cdは柄出し制御装置66から得られる織り柄パターンに基づいてパイルモーション機構62を作動するとともに、送り出し制御装置C2は柄出し制御装置66から得られる織り柄パターンに基づいて送り出しモータMpを作動する。
【0036】
駆動レバー64は中間レバー60の一方のアーム67と連結するロッド68を介して中間レバー60に往復回動運動を伝え、中間レバー60はその他方のアーム69に連結するロッド15を介してテンションローラ3及びテリーモーションローラ20に揺動運動、即ちテリーモーションを伝えることができる。また、織機の前方位置で織布Wを案内するエキスパンションバー6は軸70に回転可能に支持された揺動レバー71の上端に支持され、揺動レバー71の下端がロッド72を介して中間レバー60の他方のアーム69に連結されている。
【0037】
従って、中間レバー60の往復回動は同時にロッド72を介して揺動レバー71を揺動し、エキスパンションバー6にテンションローラ3及びテリーモーションローラ20と同一方向のテリーモーションを伝えることができる。なお、前記織り柄パターンに基づくテリーモーションは、パイル織り工程のルーズピック時にテンションローラ3、テリーモーションローラ20及びエキスパンションバー6を図1の右方である織機前方に揺動して織前W1を仮想線位置に配置し、パイル織り工程のファーストピック時及びボーダ織時にテンションローラ3、テリーモーションローラ20及びエキスパンションバー6を図1の左方である織機後方に揺動して織前W1を実線位置に配置する。
【0038】
以上のように構成された第1の実施形態の作用を以下に説明する。
パイル経糸ビーム17から引き出されたパイル経糸Tpはガイドローラ18をU字状に経由した後、固定バー27の案内面49に接触し、さらに板ばね25の先端部41に直接接触する。このため、板ばね25はパイル経糸Tpの張力により図2の仮想線位置から実線位置に撓み、パイル経糸Tpが板ばね25と広い範囲にわたって接触することができる。また、板ばね25の撓みによってパイル経糸Tpに所定の張力が付与される。板ばね25を経由したパイル経糸Tpはテリーモーションローラ20を周回し、綜絖4及び筬5を通り、織前W1に至る。
【0039】
このようにパイル経糸Tpが仕掛けられた状態で織機駆動モータMoが起動され、パイル織り織機が運転されると、パイル経糸Tpの開口運動とともに柄出し制御装置66からの織り柄信号に基づきパイル織り工程とボーダ織り工程とが所定の緯入れサイクルで繰り返される。パイル織り工程ではパイルモーション機構62の作動によりテンションローラ3、テリーモーションローラ20及びエキスパンションバー6が図1の仮想線位置に揺動され、織前W1が仮想線位置にあるため、ルーズピックが行われる。ルーズピックに続くファーストピックのタイミングではパイルモーション機構62の作動によりテンションローラ3、テリーモーションローラ20及びエキスパンションバー6が図1の実線位置に揺動される。このため、ファーストピックは織前W1が実線位置に移動された状態で行われ、織布Wにパイルを形成する。
【0040】
ファーストピックとルーズピックとの切り替え時において、パイル経糸Tpは織前W1の変位に伴い織機前後方向へ移動するため張力変動を生じるが、この張力変動はパイルモーション機構62に連動するテリーモーションローラ20の積極イージング運動により吸収される。ファーストピックでは、パイル形成のために織前W1が図1の仮想線位置から実線位置に変位し、強い筬打ち運動が行われるため、パイル経糸Tpには瞬間的に大きな張力変動が生じる。しかし、パイル経糸Tpに瞬間的に大きな張力がかかると、板ばね25が瞬間的に大きく撓み、パイル経糸Tpの瞬間的な張力変動を吸収することができる。
【0041】
板ばね25は消極イージング運動するように構成されているため、積極イージング運動をさせる場合と比較して強度を必要としないので、薄く軽いもので構成することができる。従って、板ばね25自体の慣性による異常な変動を抑制することができる。このため、板ばね25の撓み作用はファーストピック時の瞬間的な張力変動に確実に追従し、パイル経糸Tpの安定した張力が維持される。また、パイルの引け等の発生が無く、高い織物品質を得ることができる。ファーストピック時の張力変動による瞬間的な板ばね25の撓みは、その後のパイル経糸Tpの送り出しにより徐々に元の位置へ復帰する。なお、板ばね25は開口運動によるパイル経糸Tpの緩やかな張力変動の吸収作用も行うことができる。
【0042】
パイル経糸Tpはガイドローラ18を周回した後、固定バー27の案内面49及び板ばね25によって広い範囲にわたって接触状態が維持される。このため、本実施形態ではパイル経糸Tpの自由状態の区間を極力減らすことができる。従って、前記した3種類の張力変動に伴うパイル経糸Tpのローリングが抑制され、隣接するパイル経糸Tp同士の重なりや絡みを防止することができるため、パイル経糸Tpのより安定した張力状態が維持される。
【0043】
ボーダ織り工程では、パイル経糸Tpにパイル織り工程時よりも大きな張力を付与する必要がある。しかも、パイル織り工程からボーダ織り工程への移行時間はパイル織機の回転数に応じた通常の織成サイクル内であるため、非常に短時間である。板ばね25はボーダ織り工程への移行時にパイル経糸Tpの張力により撓みを生じるが、一定量撓んだ時点でガイドプレート24の湾曲面に徐々に接触する。このため、板ばね25はガイドプレート24と接触していない織機前後方向の短い部分のみが弾性変形可能となり、板ばね25のばね定数が滑らかに、かつ迅速に高められる。この結果、パイル経糸Tpの張力が短時間で必要張力へ高められ、パイル織りとボーダ織りとの境目が明確なパイル織物を織成することができる。また、ガイドプレート24が湾曲面で形成されているため、板ばね25は広い面積でガイドプレート24と接触し、部分的に接触した時のような振動を抑制してパイル経糸Tp同士の接触や絡みを防止することができる。
【0044】
前記した本願発明の第1の実施形態は、以下の作用効果が得られる。
(1)板ばね25自体の慣性による異常な変動を抑制することができ、ファーストピック時における瞬間的な張力変動を確実に吸収することができる。
(2)消極イージング運動を行う板ばね25と積極イージング運動を行うテリーモーションローラ20との組み合わせにより、パイル経糸Tpにおける3種類の張力変動を確実に吸収することができ、パイル経糸Tpの安定した張力を維持することができる。
(3)ガイドプレート24の配設により、パイル織り工程からボーダ織り工程への切り替え時に、パイル経糸Tpの張力を短時間で高めることができる。
(4)板ばね25とテリーモーションローラ20との織機の上下方向の間隔を大きく開けることにより、糸継ぎ時や機換え時の作業性を高めることができる。
【0045】
本願発明は、前記した各実施形態の構成に限定されるものではなく本願発明の趣旨の範囲内で種々の変更が可能であり、次のように実施することができる。
【0046】
(1)板ばね25の先端部41は必ずしも湾曲面に形成しなくても良い。
(2)ガイドプレート24は剛体からなる1枚の板材によって形成しても良い。
(3)ガイドプレート24は必ずしも設ける必要がない。
(4)パイル経糸Tpを案内する固定バー27の案内面49は無くても良い。
(5)パイル経糸ビーム17の径変化に伴うパイル経糸Tpの張力変動を板ばね25によって吸収できるように構成すれば、ガイドローラ18は必ずしも必要でない。
(6)テンションローラ3は消極イージング運動を行うように構成してもよい。
(7)織前W1と筬打ち位置との相対移動は、第1の実施形態のように織前W1を変位する構成に限らず、織前W1を固定し筬打ち位置を変位させる構成としてもよい。
(8)板ばね25及びガイドプレート24の基端部側にスペーサを介在させ、基端部側においても板ばね25及びガイドプレート24との間に間隔を持たせる構成としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本願発明を実施したパイル織機の概略図である。
【図2】パイル経糸の張力調整装置を示す側面図である。
【図3】板ばねの取り付け装置を示す分解斜視図である。
【図4】図3のA−A線断面分解図である。
【符号の説明】
【0048】
1 地経糸ビーム
3 テンションローラ
6 エキスパンションバー
11 織機フレーム
16 ロードセル
17 経糸ビーム
18 ガイドローラ
19 張力調整装置
20 テリーモーションローラ
22 支軸
23 スペーサ
24 ガイドプレート
25 板ばね
26 ナットバー
27 固定バー
30 保持リング
31 保持ブラケット
41 先端部
49 案内面
51 ロードセル
62 パイルモーション機構
Cd 織機制御装置
Mg 地経糸ビームの送り出しモータ
Mp パイル経糸ビームの送り出しモータ
T 地経糸
Tp パイル経糸
W1 織前

【特許請求の範囲】
【請求項1】
織機のフレームの一部に支持されたパイル経糸ビーム及び地経糸ビームを備え、前記パイル経糸ビームから引き出されたパイル経糸をテリーモーションローラにより案内し、織前側へ導くように構成されたパイル織り織機において、
前記パイル経糸ビームと前記テリーモーションローラとの間のパイル経糸経路に織機の前後方向に延びる板ばねを配設し、前記板ばねは基端部を固定し、前記板ばねの先端部側の表面に前記パイル経糸を接触させて前記テリーモーションローラに案内することを特徴とするパイル織機におけるパイル経糸張力調整装置。
【請求項2】
織機の前後方向に延びる剛体製のガイドプレートを前記板ばねが前記パイル経糸の張力により弾性変形する方向に少なくとも前記板ばねの先端部側で間隔を開けて配設し、前記ガイドプレートの織機前後方向の長さを前記板ばねよりも短く形成するとともに前記ガイドプレートを織機の上下方向に湾曲させたことを特徴とする請求項1に記載のパイル織機におけるパイル経糸張力調整装置。
【請求項3】
前記板ばねの基端部を前記織機のフレームの一部に固定された固定バーによって保持し、前記板ばねの先端部を湾曲面に形成したことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のパイル織機におけるパイル経糸張力調整装置。
【請求項4】
前記固定バーは前記板ばねの湾曲面よりも前記パイル経糸ビーム側に配置され、前記パイル経糸と接触する案内面を備えていることを特徴とする請求項3に記載のパイル織機におけるパイル経糸張力調整装置。
【請求項5】
前記パイル経糸ビームを前記地経糸ビームの上方に配置し、前記パイル経糸ビームの下方に前記パイル経糸ビームから引き出されたパイル経糸を案内するガイドローラを配設するとともに前記ガイドローラの下方に前記パイル経糸ビームと前記ガイドローラとの間の上下方向の間隔よりも大きな間隔を開けて前記テリーモーションローラを配設し、前記板ばねは前記ガイドローラ側に配設されていることを特徴する請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載のパイル織機におけるパイル経糸張力調整装置。
【請求項6】
前記板ばねは前記パイル経糸に対して消極イージング運動を行い、前記テリーモーションローラは前記パイル経糸に対して積極イージング運動を行うことを特徴する請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載のパイル織機におけるパイル経糸張力調整装置。
【請求項7】
前記ガイドプレートは織機の織幅方向に複数に分割して配設されたことを特徴とする請求項2〜請求項6のいずれか1項に記載のパイル織機におけるパイル経糸張力調整装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−133065(P2010−133065A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−311944(P2008−311944)
【出願日】平成20年12月8日(2008.12.8)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】