説明

パターヘッド

【課題】ボールに対するスピン付与性に優れたCFRP製フェースインサートを備えたパターヘッドを提供する。
【解決手段】ヘッド本体2の前面(フェース面)に凹部2Hが設けられ、この凹部2H内にフェースインサート3が配置されている。このフェースインサート3は、SMCプレス成形され、次いでレーザー加工によってスリット状に貫通するスコアラインを形成したものである。SMCプレスに際し、最もフェース前面側のSMCとしてカーボンクロス含有SMCを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴルフのパターのパターヘッドに関するものであり、特にヘッド本体のフェース面にフェースインサートを装着したパターヘッドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ゴルフのパターは、主としてグリーン上においてボールをヒットしてボールをカップに向けて転がす用途に用いられるクラブである。特開平9−70455(特許文献1)の従来技術の欄には、パターヘッドのフェース面にカーボン繊維強化樹脂(CFRP)製のフェースインサートを装着することが記載されている。
【0003】
特開平2−116389(特許文献2)の従来技術の欄には、フェース面をSMC(シートモールディングコンパウンド)の加熱プレス成形体よりなるCFRPにて構成したゴルフクラブヘッドにおいて、フェース面のスコアラインを一体成形により形成した場合、最表層に配置されたSMCのクロス層の剛性が高いためにスコアラインのエッジ部に補強層が不足し、打球時にエッジ部が折欠することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−70455
【特許文献2】特開平2−116389
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2の第5図に示されるように、SMCを加熱プレス成形してなるフェースインサートにおいて、この加熱プレス成形時にスコアラインを形成した場合、カーボンクロスの剛性のためにスコアラインのエッジが丸みを帯びたものとなり、ボールをヒットしたときにボールにスピンがかかりにくくなる。
【0006】
本発明は、ボールに対するスピン付与性に優れたCFRP製フェースインサートを備えたパターヘッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のパターヘッドは、ヘッド本体のフェース面にCFRP製のフェースインサートを装着したパターヘッドにおいて、該フェースインサートに、レーザー加工により表裏方向に貫設された、トウ・ヒール方向に延在するスリットよりなるスコアラインが設けられていることを特徴とするものである。
【0008】
前記スコアライン内の奥側部分に充填物が充填されてもよい。
【0009】
前記フェースインサートの裏面にプレートが付着されてもよい。
【0010】
前記フェースインサートは、繊維強化樹脂をプレス法により成形してなる板材に前記レーザー加工によって前記スリットを形成したものであることが好ましい。
【0011】
プレス成形に際し、最もフェース前面側の繊維強化樹脂としてカーボン繊維をクロス織りしたプリプレグを用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明のパターヘッドのフェースインサートは、CFRP製であり、金属フェース面とは異なった打感を有する。このフェースインサートにスコアラインがレーザー加工により形成されているので、スコアラインのエッジ部が角ばったシャープなものとなる。これにより、ボールをヒットしたときにボールにスピンがよくかかるようになる。
【0013】
このスコアライン内の奥側部分に充填物を充填することにより、スコアラインの深さを調整することができる。
【0014】
フェースインサートの裏面にプレートを付着させることにより、フェースインサートの厚さを調整することができ、また、プレートの材質を選択することにより打感の調整も可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】(a)図は実施の形態に係るパターヘッドの分解斜視図、(b)図はこのパターヘッドの正面図、(c)図は(b)図のC−C線断面図である。
【図2】フェースインサートの断面図である。
【図3】フェースインサートの断面図である。
【図4】フェースインサートの断面図である。
【図5】フェースインサートの断面図である。
【図6】フェースインサートの断面図である。
【図7】フェースインサートの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して実施の形態について説明する。
【0017】
図1,2は第1の実施の形態に係るパターヘッド1を示すものである。このパターヘッド1では、ヘッド本体2の前面(フェース面)に凹部2Hが設けられ、この凹部2H内にフェースインサート3が配置されている。
【0018】
フェースインサート3は、その裏面が凹部2Hの奥壁面に接着される。接着剤としては、エポキシ系接着剤、ゴム系接着剤、両面テープなどが好適であるが、これに限定されない。
【0019】
凹部2H及びフェースインサート3は、横長の略長方形状である。凹部2Hの深さは全体として均一であり、フェースインサート3の厚さも全体として均一である。ただし、部分的に深い箇所及び厚い部位を設けたり、逆に部分的に浅い箇所及び薄い部位を設けてもよい。
【0020】
フェースインサート3の左右幅及び上下幅は凹部2Hよりも若干小さいものとなっており、フェースインサート3の上下左右の側面3Sと凹部2Hの周面2Sとの間には若干の空隙6があいている。この空隙6の幅は0.3〜1.5mm特に0.4〜1.0mm程度が好適である。フェースインサート3の大きさは上下幅が16〜30mm特に18〜25mm、左右幅(トウ・ヒール方向の長さ)が50〜150mm特に70〜100mm、厚さが2〜10mm特に3〜8mm程度が好ましいが、これに限定されない。
【0021】
このフェースインサート3は、CFRP製であり、レーザー加工により表裏方向に貫通した、すなわち前面から後面にまで達するスリットよりなるスコアライン5が形成されている。スコアライン5の上下の幅は0.2〜0.6mm特に0.3〜0.5mm程度が好適であり、上下の配列ピッチは0.9〜2.5mm特に1〜1.5mm程度が好適である。スコアライン5のトウ・ヒール方向の長さはフェースインサート3の左右幅の30〜95%特に45〜90%程度が好適である。CFRP製のフェースインサート3は、カーボン繊維を用いて、加熱プレス成形することにより形成されたものであり、好ましくは最もフェース面側のフェースインサートとしてカーボン繊維をクロス織りしたプリプレグを最外層に配置したCFRPを用い、外観上の見栄えを良くする。
【0022】
スコアライン5は、レーザー加工により加熱プレス成形体をスリット状に刳り抜くことにより形成される。レーザー加工として、数フェムト秒から数百フェムト秒の間だけ発光させることができるフェムトレーザー加工機を用いてフェムト秒レーザーパルスを照射するフェムトレーザー加工を行うと、効率よくスリット状スコアラインを形成することができる。フェムトレーザー加工によると、最もフェース面側にカーボンクロスを配材した場合でも容易にスリット状スコアラインを形成することができる。即ち、最もフェース面側にカーボンクロスを配材した場合、加熱プレス成形体の表面にカーボン繊維を全く又は殆ど含まないスキン層が形成される。通常のレーザー加工ではこのスキン層しか切断できず、カーボン繊維を切断するのは容易ではないが、フェムトレーザー加工であれば容易にカーボン繊維まで切断することができる。
【0023】
なお、レーザー加工の代りに切削工具を用いて切削してスコアラインを形成する場合、カーボン繊維の硬度が高いので切削工具が短時間で摩耗したり、スキン層が剥がれてしまうが、フェムトレーザー加工であればこのような問題はなく、エッジ部が丸みのない角ばったスコアラインを安定して形成することができる。
【0024】
このように構成されたパターヘッド1のホゼル部1hにシャフトを連結することによりパターが構成される。このパターでパッティング(グリーン上のボールをフェース面で打つこと)すると、スコアライン5のエッジ部が角ばっているので、ボールをヒットしたときにスピンがかかり易くなり、ヒットされたボールの直進性が良好となる。
【0025】
上記実施の形態のフェースインサート3では、スコアライン5は表裏に貫通したスリット状となっているが、図3のフェースインサート3Aのようにスコアライン5内の奥部に充填物7を充填してもよい。この充填物7は、未硬化の熱硬化性樹脂又は光硬化性樹脂をスコアライン5内の奥部に注入し、加熱又は光照射により樹脂を硬化させることによりスコアライン5内に充填配置することができる。充填物7をスコアライン5の奥側に充填した場合、スコアライン5は溝状となる。この溝の深さは0.18mm以上特に0.3mm以上であることが好ましい。
【0026】
本発明では、図4,5のフェースインサート3B,3Cのように、裏面にプレートを付着させたものであってもよい。図4のフェースインサート3Bでは、裏面に1枚のプレート8を付着させており、図5のフェースインサート3Cではフェースインサート3Cの裏に2枚のプレート9,10を積層状に付着させている。プレート8〜10として粘弾性材を用いると、パッティング時のインパクトの打感をソフトなものとすることができる。粘弾性材としてはゴム、エラストマー、軟質合成樹脂などの材料が用いられる。これらの材料は発泡ゴムなど発泡材であってもよい。図5のように2枚のプレート9,10を付着させる場合、プレート9,10として特性の異なるものを用いてもよい。図示は省略するが、3枚以上のプレートを用いてもよい。
【0027】
上記の各フェースインサートでは、スコアライン5を構成するスリットはフェースインサートの前面に対し垂直方向に穿設された構成となっているが、図6,7のフェースインサート3D,3Eのようにスコアライン5は奥側ほど上位又は下位となるように傾斜してもよい。図6,7では、スコアライン5はスリットよりなるが、フェースインサート3Aのように充填物がスコアライン奥部に充填されてもよい。また、フェースインサート3B,3Cのように裏面にプレートが付着されてもよい。
【0028】
図1では、フェースインサート3の周囲に空隙6を形成しているが、この空隙に、ゴム、エラストマー、合成樹脂などの粘弾性材を充填してもよい。また、空隙6が生じないようにフェースインサート3を凹部2Hにぴったりと嵌まるように構成してもよい。
【符号の説明】
【0029】
1 パターヘッド
2 ヘッド本体
2H 凹部
3,3A〜3E フェースインサート
5 スリット
7 充填物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘッド本体のフェース面にCFRP製のフェースインサートを装着したパターヘッドにおいて、
該フェースインサートに、レーザー加工により表裏方向に貫設された、トウ・ヒール方向に延在するスリットよりなるスコアラインが設けられていることを特徴とするパターヘッド。
【請求項2】
請求項1において、前記スコアライン内の奥側部分に充填物が充填されていることを特徴とするパターヘッド。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記フェースインサートの裏面にプレートが付着されていることを特徴とするパターヘッド。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、前記フェースインサートは、繊維強化樹脂をプレス法により成形してなる板材に前記レーザー加工によって前記スリットを形成したものであることを特徴とするパターヘッド。
【請求項5】
請求項4において、プレス成形に際し、最もフェース前面側の繊維強化樹脂としてカーボン繊維をクロス織りしたプリプレグを用いたことを特徴とするパターヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−85756(P2013−85756A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−229874(P2011−229874)
【出願日】平成23年10月19日(2011.10.19)
【出願人】(592014104)ブリヂストンスポーツ株式会社 (652)
【Fターム(参考)】