パッシブ超音波タグ、記録された情報の読取り方法およびシステム
【課題】
より簡素化されていて、かつ、より信頼性が維持できる形で、送受信に超音波を利用して情報の記録や読取りが可能なパッシブ超音波タグおよび超音波読取りシステムを提供すること。
【解決手段】
本発明の第1の実施例であるパッシブ超音波タグ100では、タグ基体102と、タグ基体の表面104に拡がっていて、タグ基体の表面からタグ基体の内部に(Z)向かって所定の奥行き寸法(d1、d2、d3)をもった底部(112,114,116)が設けられた2つ以上の穴(106,108,110)とを有している。2つ以上の穴のうちの少なくとも2つの穴の奥行き寸法が、異なる寸法に設定されていることで、2つの穴の表面と2つの穴の底部とを含む3次元範囲にわたって超音波の走査を受けた場合に、2つの穴の底部の設定に基いて超音波の反射が異なる(R1,R2,R3)ように作用するので、情報記録と読取りが可能となる。
より簡素化されていて、かつ、より信頼性が維持できる形で、送受信に超音波を利用して情報の記録や読取りが可能なパッシブ超音波タグおよび超音波読取りシステムを提供すること。
【解決手段】
本発明の第1の実施例であるパッシブ超音波タグ100では、タグ基体102と、タグ基体の表面104に拡がっていて、タグ基体の表面からタグ基体の内部に(Z)向かって所定の奥行き寸法(d1、d2、d3)をもった底部(112,114,116)が設けられた2つ以上の穴(106,108,110)とを有している。2つ以上の穴のうちの少なくとも2つの穴の奥行き寸法が、異なる寸法に設定されていることで、2つの穴の表面と2つの穴の底部とを含む3次元範囲にわたって超音波の走査を受けた場合に、2つの穴の底部の設定に基いて超音波の反射が異なる(R1,R2,R3)ように作用するので、情報記録と読取りが可能となる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はワイヤレス交信の分野に関し、より詳細には、タグに情報を記録し、超音波の反射を利用してそのタグに記録された情報を読み取ることに関する。
【背景技術】
【0002】
最近、製品の個別情報管理やトラッキング情報管理等のニーズが高まってきており、非接触タグを導入しようという気運が高まってきている。その中でも、タグとリーダとを用いたRFIDシステムのアプリケーションが盛んに研究されている。例えば、タグを付けた物品、タグを付けた移動する物体、または、タグを付けた人体に対して、問合わせ信号をブロードキャストしてタグからの返答を得るワイヤレス交信によって、物品の在庫管理、移動する物体の観察、または、人の行動の観察、などを行うアプリケーションが研究されている。
【0003】
典型的なRFIDシステムにおいては、電磁波が用いられているが、電波障害のある環境、タグが水中や金属へ埋没された状況、タグが金属による電磁遮蔽の影響を受けてしまう環境など、動作させることが不可能な環境へ応用したいという要求もある。また、ある種の電磁波は人体の健康に悪影響を与える可能性があるとする報告もあり、電磁波の安全性については完全には払拭されていない。
【0004】
また、電磁波を利用したタグでは、問い合わせ信号のエネルギーを吸収してタグ内部のチップを起動させるなど、タグを駆動する電力は、リーダ側から電磁誘導やマイクロ波で供給される必要がある。従って、電力供給について内部回路を配するなどの配慮が必要となるなど、最低限度の複雑系は必要となってくるので、表面汚れ、剥れ、腐食、磨耗など、物理的ストレスまたは化学的ストレスを受ける過酷な環境下においては、動作の信頼性を維持できる保障はない。
【0005】
電磁波以外にも超音波を利用した超音波タグが考えられているが、それらは、超音波タグの側において超音波発信器を設けて超音波を発する方式のアクティブ・タグである。超音波が到達できる限りにおいてタグとリーダとの交信距離を長くすることも可能であり、ある一つのタグから複数のリーダまでの超音波の到達時間の違いを利用してそれぞれのリーダまでの距離を算出し、その距離をもとに三点測量でタグの3次元位置を特定する技術などに応用されている。
【0006】
もっとも、アクティブ・タグ自身の側で超音波を発する必要性に起因するエネルギーの供給系などの複雑系は避けられず、電池交換や充電で高価なものになる。
【0007】
そこで、交信距離については多少妥協したとしても、電池不要で小型化が容易であるパッシブ・タグにも相対的に利点が存在する。ただし、電磁波を利用したパッシブRFIDタグでは、ICチップとアンテナで構成する程度の複雑性は避けることができない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
より簡素化されていて、かつ、より信頼性が維持できる形で、送受信に超音波を利用して情報の記録や読取りが可能なパッシブ超音波タグおよび超音波読取りシステムが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の実施例であるパッシブ超音波タグ(100)では、タグ基体(102)と、タグ基体の表面(104)に拡がっていて、タグ基体の表面からタグ基体の内部に(z)向かって所定の奥行き寸法(d1,d2,d3)をもった底部(112,114,116)が設けられた2つ以上の穴(106,108,110)とを有し、当該2つ以上の穴のうちの少なくとも2つの穴の奥行き寸法が、異なる寸法(d1≠d2,d1≠d3,d2≠d3)に設定されていることで、当該2つの穴の表面と当該2つの穴の底部とを含む3次元的範囲(104〜C+)にわたって超音波の走査を受けた場合に、当該2つの穴の底部の設定に基いて超音波の反射が異なる(R1,R2,R3)ように作用する。
【0010】
本発明の第2の実施例であるパッシブ超音波タグ(200)では、タグ基体(202)と、タグ基体の表面(204)に分布していて、タグ基体の密度とは異なる密度の伝播媒体から成る単数または複数の表面部分(206,208,210)とを有していることで、当該タグ基体の表面(204)と当該単数または複数の表面部分(206,208,210)とにわたって超音波の走査を受けた場合に、当該タグ基体の表面(204)または単数若しくは複数の当該表面部分(206,208,216)とにおいて超音波の反射が異なる(R4,R5,R6,R7)ように作用する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
[用語の定義]
「超音波」とは、一般的に、人間の耳には聞こえない20kHz以上の周波数の音のことをいい、医学における超音波エコー、洗浄器、魚群探知機、バックソナーなど、様々な技術的な利用がなされている。本発明の実施例でも20kHz以上の周波数を用いることを想定している。
【0012】
「タグ」は、本発明の実施例では、製品や物体に取り付けるものとして、形状は矩形表面で奥行き方向(厚さ)が比較的薄いような実体のあるものを対象として説明している。これは理解を容易にするためであるが、そもそも対象そのものに直接穴を開けることができたり、または、対象そのものに直接密度差が設定できたりしさえすれば、本発明の技術的思想を様々な形状や厚さの「タグ基体」に適用することは可能であるので、「タグ」という用語やその「タグ」の基になる「タグ基体」という用語は、形状や厚さに依存して限定的に解釈されるべきでなく、広く解釈されるべきものである。
【0013】
「超音波リーダ」とは、「リーダ」という表現が示すように、反射された超音波を読み取る機能(受信機能)を有する機器のことを指すが、読み取りだけでなく、タグに対して超音波を発する機能(送信機能)を併せ持っている機器であってもよい。本発明の実施例においては、受信機能と送信機能との両方について言及する。
【0014】
「走査(スキャン)」という用語は、送信と受信との両方を含む場合、または、それらの何れか一方のみを指す場合があり得るが、文脈によって適宜判断され得る。本発明のパッシブ超音波タグは、走査を(受動的に)受けるという関係にある点であえて「パッシブ」と限定的に命名されており、X方向で示す1次元的範囲にわたって、XY方向で示す2次元的範囲にわたって、または、XYZ方向で示す3次元的範囲にわたって、走査を受ける対象となる。
【0015】
[超音波の特性]
超音波の第1の特性として、伝播速度が電波などに比べて著しく遅い。伝播速度が速い順に並べると、固体>液体>空気 の順となり、伝播媒体そのものの影響が大きい。空中では固体の約15分の1の速度となる。超音波の伝播速度vは、音の周波数とは無関係であって、対象となる物質の密度と弾性率の比で決まり、以下の式(1)で決まる。
伝播速度v(m/秒)=√弾性率(Pa)/密度(kg/m3) (1)
【0016】
超音波の第2の特性として、反射しやすく、例えばガラスなどを透過しない。この反射は、密度差による音響インピーダンスの変化によって生じており、音響インピーダンス(伝播媒体の密度ρ×伝播速度v)の値が大きく異なってくる伝播媒体の境界では、超音波は伝播せずに反射するという性質に基いている。
【0017】
超音波の第3の特性としては、周波数が高いほど「指向性」があり、減衰が大きいという性質がある。波長に対して振動面の面積が大きいほど、波長が短いほど鋭い指向性が得られる。
【0018】
超音波の第4の特性としては、人体に対する害が報告されておらず、基本的に安全であるといわれている。実際、今日の産婦人科医療において超音波検査が必要不可欠の検査法になっており、レントゲン検査などとは違って、胎児への影響が全く心配のない安全な検査法であるといわれている。腹部や心臓の診断、小児科などでも広く使われている。
【0019】
図1は、送受信に超音波を用いる超音波読取りシステム10を示す基本ブロック図である。超音波リーダ20の代表面22を通して超音波が矢印の方向Tのように送信され、パッシブ超音波タグ100が超音波の走査を受けるという関係で、パッシブ超音波タグ100において超音波が矢印Rのように反射され、その反射された超音波が超音波リーダ20の代表面22において受信され観測される。
【0020】
ここで、近接の度合いCは、超音波リーダ20の代表面22と、パッシブ超音波タグ100における超音波が反射される代表部分との間の最短距離であり、実質的な(ワイヤレス)交信距離となる。あえて「代表部分」という表現を使っている理由は、パッシブ超音波タグ100が走査されることの関係では、パッシブ超音波タグ100の表面などの特定の箇所のみに反射が起きるとは限らないからである。本発明のパッシブ超音波タグにおいては、積極的に情報を記録しようという目的を実現するために、異なる部分であえて反射が異なるように構成されている。
【0021】
超音波リーダ20を利用すれば、パッシブ超音波タグ100の表面だけでなく、その表面よりも内部(Z方向)での状態(内部構造)を知り得る。例えば、(1)超音波リーダ20自体を物理的にパッシブ超音波タグ100の方向に近づけたり遠ざけたりすることによって、または、(2)超音波リーダ20から送信する超音波Tの位相をずらすことによって、または、(3)パッシブ超音波タグ100の奥行き方向への照準を音響レンズ等を用いてC+のように可変にしながら3次元的範囲にわたって走査することで、パッシブ超音波タグ100の表面よりも内部での状態を観測することができる。
【0022】
図2は、超音波リーダ20を中心とした、超音波読取りシステム10のブロック略図である。代表面22を通して超音波が送信されるように送信部が設けられ、パッシブ超音波タグ100において超音波が反射され、代表面22を通して超音波が受信されるように受信部が設けられている。これら送信部と受信部とはAD/DA変換回路24に接続され、AD/DA変換回路24は制御回路26に接続され、制御回路26は演算処理回路28に接続され、演算処理回路28は画像処理回路29に接続され、画像処理回路29はディスプレイ30に接続される。
【0023】
例えば、パッシブ超音波タグ100の2次元的範囲を走査する場合に、制御回路26によって奥行き寸法を変化させることで、2次元的範囲における超音波の受信の状態を、奥行き寸法ごとに連続的に捉えることができる。また、演算処理回路28では、ある奥行き寸法の2次元的範囲における超音波の受信の状態と、それとは異なる奥行き寸法の2次元的範囲における超音波の受信の状態とを比較することができる。
【0024】
これら比較の結果をCRT、LCD、プラズマなどのディスプレイ30において表示するにあたっては、例えば、反射される超音波の振幅に比例して濃淡を付けるなどして、超音波の反射が異なっている状態を可視化することが可能となる。図1に示した超音波リーダ20として、AD/DA変換回路24、制御回路26、演算処理回路28、画像処理回路29のどの部分までを含めるかは、当業者にとって適宜設計可能である。
【0025】
図3は、単一のプローブによる走査を示す模式図である。単一のプローブの先端から矢印Tのように指向性のある超音波が送信されて、パッシブ超音波タグ100において矢印Rのように反射される。この走査は、基本的に、プローブ先端に相当する局所とパッシブ超音波タグ100の局所との関係を走査しているにすぎない。よって、単一のプローブを利用して走査するのであれば、パッシブ超音波タグ100の表面に対応させながら代表面22に沿って単一のプローブを走査すれば、パッシブ超音波タグ100を2次元的範囲にわたって走査することができる。
【0026】
実証実験としても図3のような走査を採用した。走査型超音波顕微鏡(SAM: Scanning Acoustic Microscope)を用いて、音響レンズ等によって細く絞った600MHzの超音波ビームを、試料に対してX方向に1次元的に走査し、次にY方向にずらしながら、超音波の送信と反射波の受信とを繰り返すことで、パッシブ超音波タグ100の構造を深さ方向の分解能1.7μmで解析することに成功している。
【0027】
図4は、超音波の送信部を素子のアレイによって実現することを示す模式図である。超音波リーダ20は、代表面22に細長状の素子を並べたアレイとして図に示すように2次元的に配してもよい。例えば、複数の圧電振動子(水晶など)や電歪振動子などが比較的高周波で用いられ、磁歪振動子を使うこともできる。これら複数の振動子から同時に送信を行えば、波面がフルネイルホイヘンスの原理によって合成されるので、ある距離までは平面波として直進させることができ、指向性を確保することができる。
【0028】
図5は、超音波の受信部をCCDのアレイによって実現することを示す模式図である。CCDをアレイとして配することで、反射された超音波を2次元的に受信することができる。例えば、超音波に使えるCCDアレイは、超音波顕微鏡、超音波探傷計材料や人体の透視図(血管)などに利用されていることが知られている。例えば、素子の大きさが約10×10mm、分解能が0.08mmのようなものを用いることができる。
【0029】
図6は、本発明の第1の実施例であるパッシブ超音波タグ100を示す図である。図6の(a)は斜視図であり、図6の(b)は内部構造が理解しやすいように断面を用いた図である。タグ基体102は、所定の密度を持った材料から成るが、この所定の密度が超音波の反射を実現する関係において適切なものである限り、単一材料にとどまらず、混合材料や合成材料などの様々な材料を採用することができるであろう。
【0030】
タグ基体の表面104に拡がって、単数または複数の穴が設けられており、タグ基体の表面104からタグ基体の内部(Z方向)に向かって所定の奥行き寸法をもった底部が設けられている。図6中には、3つの穴、穴106、穴108、穴110が描かれているが、各々の穴には、底部114、底部116、底部112が形成されている。各々の穴について、タグ基体の表面104を基準(d0)として、そこから底部までの奥行き寸法は、d1、d2、d3として、それぞれが異なる奥行き寸法を設定でき、量子化された状態を示すように設定できることを示している。
【0031】
これらの「穴」は、ドリル穴として開けたり、レーザ照射による溶融で開けたり、MEMSスタンピングで開けたり、フォトリソグラフィーを用いて開けたり、深さの制御をしながら、様々な加工方法によって開けることができる。しかし、「底部」は、 図6の(d)に示すように、117や118で例示するような跡になってしまうのが普通である。図6の(b)の112、114、116のように幾何学的に完全平面(完全な円柱底)に加工しておくことが、d1、d2、d3の各々の奥行き寸法を正確に設定して記録しておくという点では、図6の(c)の可視化の都合などを考慮に入れれば、理想ではあろう。しかし、加工コスト等を考えると、理想を追求する加工を施すのは現実的ではなく、超音波の第2の特性を利用して超音波の反射を生じさせる部分として機能すれば十分なのであるから、117や118で例示するような加工跡であっても利用でき、その他にも様々な加工態様をもった「底部」の設定が可能となるであろう。
【0032】
超音波の第2の特性に従い、超音波は(その箇所まで)送信されてきた空気などの伝播媒体からタグ基体102の伝播媒体へと移ることになる、底部112、底部114、底部116では、密度が大きく異なってくる境界になるので、超音波はR1、R2、R3のように反射する。反射された超音波が所定の時間(瞬間)において到達している箇所は、R1、R2、R3のそれぞれの矢印↑の先が模式的に示すように、異なってくる。このように、リーダ200の側から超音波を送信し、反射波が帰ってくるまでの時間を、それぞれの穴の箇所について測定することにより、穴の奥行き寸法を知ることができる。この原理は、パルスエコー法の原理としても知られている。
【0033】
さて、タグ基体の表面104のうちの、ある2次元的座標箇所(XY)に、1つの穴を存在させ、その奥行き寸法(Z)がd1という1段階のバリエーションで設定できるものと仮定しよう。別の言い方をすると、ある2次元的座標箇所(XY)に1つの穴を存在させるか存在させないかという意味である。後述する図7、図8においては、実線の○で穴の存在を示し、点線の○で穴が存在しないことを示そうとしている。2次元的座標箇所(XY)は、例えば、ピッチPなどの離散的な量として、座標(存在するか存在しないかを確認する箇所)を設定できる。
【0034】
例えば、図6の(a)や(b)中に、穴110のみが存在して他の穴(穴106、穴108)は存在しないものと仮定してみよう。すると、その2次元的座標位置(XY)には、(1)穴110が開いていない(存在しない)状態と、(2)穴110の底部112に至るまでd1の奥行き寸法をもった状態という、2通りの量子化された状態(d0、d1)が設定できることになる。これらの2通りの異なる状態は、超音波の反射がR0とR1のように異なるように構成できることに起因して、読取り可能かつ区別可能なのであって、ディジタル情報記録の単位(1ビットに相当)になる。すなわち、穴の数が増えれば増えるほど記録できる情報量は増えることになり、n個の穴が設定できるものと仮定すると、2のn乗通りの情報を記録できることになる。
【0035】
次に、タグ基体の表面104のうちの、ある2次元的座標箇所(XY)に、1つの穴を存在させ、その奥行き寸法(Z)が、d1、d2、d3の3段階のバリエーションをとって設定できるものと仮定しよう。例えば、図6中に穴108のみが存在して他の穴(穴106、穴110)は存在しないものと仮定してみよう。すると、その2次元的座標位置(XY)に、(1)穴108が開いていない(存在しない)状態と、(2)d1の奥行き寸法をもった状態と、(3)d2の奥行き寸法をもった状態と、(4)穴108の底部116に至るまでd3の奥行き寸法をもった状態という、それぞれ4通りの量子化された状態(d0、d1、d2、d3)が設定できることになる。これらの4通りの異なる状態は、超音波の反射がR0、R1、R2、R3のように異なるように構成できることに起因して、読取り可能かつ区別可能なのであって、1つの穴だけでも奥行き寸法の違いによって4通りの異なる情報を記録できることになる。その他、穴の奥行き寸法(深さ)は、超音波の第3の特性に絡めて、様々に有利な設定が可能となるであろう。
【0036】
図6の(c)は、ディスプレイ30において、読み取られた状態が可視化されている様子を模式的に表現している。すなわち、3次元的範囲にわたる走査によって情報を読取る方法としては、第1の奥行き寸法(例えば、d1〜d2の間の何れか)の2次元的範囲にわたって送信部からパッシブ超音波タグに超音波を送信し、受信部において反射された超音波を受信し、次に第1の奥行き寸法を第2の奥行き寸法(例えば、d2〜d3の間の何れか)に変化させてから、この第2の奥行き寸法の2次元的範囲にわたって送信部からパッシブ超音波タグに超音波を送信し、受信部において反射された超音波を受信し、第1の奥行き寸法の2次元的範囲における超音波の受信の状態と、第2の奥行き寸法の2次元的範囲における超音波の受信の状態とを比較すればよい。
【0037】
情報記録の数学的見地からまとめてみると、奥行き方向(Z)にL段階の量子化された状態が設定できるような条件と、2次元的座標箇所(XY)にn個の穴が設定できる条件(穴を存在させるか存在させないかという条件)とがあれば、以下の式(2)の組み合わせ数をもって情報が記録できることになる。
組み合わせ数 =(L+1)のn乗 (2)
【0038】
図6の実施例において、2次元的座標箇所(XY)に座標が設定されていることが確認できないような状況(例えば、タグ基体の表面104が不整な状況)であって、R0≠R1、R0≠R2、R0≠R3であることが確認できないような状況であったとしても、穴106、穴108、穴110のうちの少なくとも2つの穴の奥行き寸法が、相互に異なる寸法に構成されていれば、すなわち、d1≠d2、d1≠d3、d2≠d3に設定されていれば、超音波の反射が相互に異なるように構成できることに起因して、R1≠R2、R1≠R3、R2≠R3であるように読取り可能かつ区別可能になるので、情報を記録することに意味が生じる。このような状況であっても、以下の式(3)の組み合わせ数をもって情報が記録できることになる。
組み合わせ数 = Lのn乗 (3)
【0039】
図7は、タグ基体上に複数の穴を2次元的に配列させた例を示す平面図である。図6のタグ基体表面104をXY方向から見た平面図であり、穴106がH11、穴108がH12、穴110がH21、として描かれている。2次元的座標箇所(XY)は、ピッチPなどの離散的な量として設定した例を示している。このように2次元的な行列H11、H12、H21として数学的に意味(HXYという表現で、Xが行、Yが列)を持たせて配列させれば、情報記録を数学的に2次元的に展開することができる。矩形状のタグまたは矩形状のタグ基体を対象として情報記録を行う場合に便利である。
【0040】
図8は、タグ基体上に複数の穴を1次元的に配列させた例を示す平面図である。図7では2次元的に展開されていた穴110の箇所が点線で示され、存在しないことを示しており、代わりに、穴120がH13としてX方向に1次元的に展開されている。細長状のタグまたは細長状のタグ基体を対象とした情報記録を行う場合に便利である。また、1次元的な走査で済ませることができる有利さがある。
【0041】
図9は、本発明の第2の実施例であるパッシブ超音波タグ200を示す図である。タグ基体202は、所定の密度を持った伝播媒体から成る。タグ基体202は、所定の密度を持った伝播媒体から成るが、この所定の密度が超音波の反射を実現する関係において適切なものである限り、単一材料にとどまらず、混合材料や合成材料などの様々な材料を採用することができるであろう。
【0042】
タグ基体の表面204に分布して、タグ基体202の密度とは異なる密度から成る、表面部分206、表面部分208、表面部分210が設けられている。表面部分は単数または複数であってよい。図9の側面図(b)では、ごく薄い厚みを持った突起として描かれているが、図9の側面図(c)のように、奥行き寸法Zの方向にごく薄く埋め込むようにしてもよい。図9の側面図(b)のように各表面部分を形成するには、伝播媒体の印刷や塗装のような加工手法を用いることができ、図9の側面図(c)のように各表面部分を形成するには、焼付けや浸透のような加工手法を用いることができる。
【0043】
また、図9の側面図(b)の実施例は、図6の第1の実施例の穴がタグ基体の表面204を基準にして上下対称の関係に設けられているという、3つの「突出部」を設ける実施例であると観念することも容易であろう。
【0044】
この第2の実施例で重要なことは、タグ基体202の密度、表面部分206の密度、表面部分208の密度、表面部分210の密度、が異なるように設定できることであり、超音波の第2の特性から、超音波の反射の強度(レベル)が異なってくるように構成されているという点にある。
【0045】
反射された超音波の強度(レベル)が、各々の表面部分において、R4、R5、R6、R7のそれぞれの矢印↑の太さが模式的に示しているように異なってくれば、超音波リーダの側で読取り可能かつ区別可能になる。超音波の波形がズレるという態様で観測されることも考えられる。
【0046】
ここでは、タグ基体202の密度、表面部分206の密度、表面部分208の密度、表面部分210の密度、との関係を量子化された状態で設定できなくても、それが予め設定した閾値等を基準として反射が異なる状態として区別可能である限りにおいて、様々なバリエーションが設定可能になる。
【0047】
また、第2の実施例で第1の実施例に比較して有利な点を示せば、タグ基体202自体に穴を設定しないでも済む分だけ、図中の点線箇所から矢印が示しているように、薄型のタグにできるという点が挙げられる。
【0048】
図10は、本発明の第1の実施例であるパッシブ超音波タグ100への応用例としての、第3の実施例を示す図である。図6の全ての穴、穴106、穴108、穴110が、パッシブ超音波タグ100の基体102の密度とは異なる密度をもった伝播媒体300によって、充填されていることに特徴がある。
【0049】
「充填」されている状態は、図10の(b)の側面から見てとれる。図1に示した近接の度合いCの部分(の厚み領域)を図10の(c)の伝播媒体300で埋めてしまうことにより、空気などを介さないことができ、超音波の第1の特性に従って伝播媒体300を適切に選択することによって、超音波を効率的に送信することができる。例えば、医学における超音波診断では、被験者の皮膚面とプローブとの間に空気が存在すると著しく超音波ビームが減衰するので、ポリマや界面活性剤などからできているゼリーを音響結合剤として被験者の体表面に塗布するが、このゼリーのような機能を伝播媒体300の機能に求めることができる。この点、図10の(c)のように超音波リーダ20を伝播媒体300に直接接触させて使用できる。
【0050】
また、図6の全ての穴、穴106、穴108、穴110は、基本的に凹部であるので、表面汚れにさらされ易い。粉塵などを溜め込み易いので、粉塵などがそれらの穴を充填してしまうと、超音波の反射が意図したとおりに起きずに、誤った読取りを誘発してしまう可能性がある。その点、伝播媒体300によって全ての穴を充填しておけば、そのような不測の事態を予防することができ、また、伝播媒体300の上面は整った平滑面にできるので有利である。さらには、伝播媒体300を金属にして、金属に埋没させてしまうこともできるなど、電磁波を利用したRFIDタグでは実現できないような応用がある。
【0051】
図11の(a)は、本発明の第1の実施例であるパッシブ超音波タグ100の構成を実現する、第4の実施例を示す、分解図である。図6の穴106、穴108、穴110に対応する部分について、積層410、積層420、積層430のそれぞれに予め開口を設けておいて位置合わせして重ね合わせれば、底部412は積層420の表面部分によって、底部414は積層430の表面部分によって、底部416は更なる積層440の表面部分によって、幾何学的に理想的な完全平面(完全な円柱底)を持った積層体400が、図11の(b)のように実現できる。
【0052】
また、各穴の奥行き寸法の精度を、積層410自体、積層420自体、積層430自体の各々の厚みによって正確にコントロールすることができるので、d1=d2=d3が理想的な形で実現でき、きわめて有利となる。もちろん、d1=d2=d3と設定してもよく、d1≠d2−d1≠d3−d2と設定することもできるであろう。
【0053】
さらには、図11の(c)に示すように、積層410自体、積層420自体、積層430自体、積層440自体を、それぞれ密度が異なる伝播媒体に選べば、図6の第1の実施例と図9の第2の実施例との複合的な実施形態が容易に実現でき、複合的でより多くの状態の情報記録が実現できるので、きわめて有利である。これら積層のうちの何れか1つの積層だけが、その他の残りの積層と異なる密度の伝播媒体からなるだけであっても、情報記録のバリエーションとしては十分かもしれない。
【0054】
図12は、本発明のパッシブ超音波タグを自動車に取り付けた応用例を示す図である。自動車は美観からタグ自身が外部に露出していると醜いので、ボンネットの内部などに設置して隠されるべきである。最近の自動車は複雑な電子制御がされていて、電磁波の発生源にもなっており、さらには、ボンネット下はエンジンや排ガス規制機器などの発熱源によって高温にさらされており、ボンネット付近はストレスを受ける過酷な環境にある。本発明の超音波タグを応用すれば、ボンネットの内部などに設置することで、ボンネットやその付近の部品を外さなくても、さらにはボンネットを開ける必要さえなく、タグに記憶された情報をボンネットの上から超音波リーダによって読取ることができる。ボンネット自体またはボンネットを構成している部品自体を、タグ基体として本発明を適用できる。
【0055】
図13は、本発明のパッシブ超音波タグを建設重機に取り付けた応用例を示す図である。建設重機は過酷な環境で使用されることが多く、動作するときの振動もかなりあるので、タグを表面に取り付けると脱落のおそれがある。また、土や泥にまみれやすく、機械の外部にタグを露出させておくと表面酸化を受けるおそれがある。本発明のパッシブ超音波タグを重機内部に設置しておけば、このような環境下でも信頼性を維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】送受信に超音波を用いる超音波読取りシステム10を示す基本ブロック図である。
【図2】超音波リーダ20を中心とした、超音波読取りシステム10のブロック略図である。
【図3】単一のプローブによる走査を示す模式図である。
【図4】超音波の送信部を素子のアレイによって実現することを示す模式図である。
【図5】超音波の受信部をCCDのアレイによって実現することを示す模式図である。
【図6】本発明の第1の実施例であるパッシブ超音波タグ100を示す図である。
【図7】タグ基体上に複数の穴を2次元的に配列させた例を示す平面図である。
【図8】タグ基体上に複数の穴を1次元的に配列させた例を示す平面図である。
【図9】本発明の第2の実施例であるパッシブ超音波タグ200を示す図である。
【図10】本発明の第1の実施例であるパッシブ超音波タグ100への応用例としての、第3の実施例を示す図である。
【図11】本発明の第1の実施例であるパッシブ超音波タグ100の構成を実現する、第4の実施例を示す図である。
【図12】本発明のパッシブ超音波タグを自動車に取り付けた応用例を示す図である。
【図13】本発明のパッシブ超音波タグを建設重機に取り付けた応用例を示す図である。
【符号の説明】
【0057】
10 超音波読取りシステム
20 超音波リーダ
22 代表面
24 AD/DA変換回路
26 制御回路
28 演算処理回路
29 画像処理回路
30 ディスプレイ
100 パッシブ超音波タグ(第1の実施例)
102 タグ基体
104 タグ基体の表面
106、108、110、120 穴
112、114、116 底部
117、118 底部の加工の跡
200 パッシグ超音波タグ(第2の実施例)
202 タグ基体
204 タグ基体の表面
206、208、210 表面部分
300 伝播媒体 (第3の実施例)
400 積層体 (第4の実施例)
410、420、430 440 積層
【技術分野】
【0001】
本発明はワイヤレス交信の分野に関し、より詳細には、タグに情報を記録し、超音波の反射を利用してそのタグに記録された情報を読み取ることに関する。
【背景技術】
【0002】
最近、製品の個別情報管理やトラッキング情報管理等のニーズが高まってきており、非接触タグを導入しようという気運が高まってきている。その中でも、タグとリーダとを用いたRFIDシステムのアプリケーションが盛んに研究されている。例えば、タグを付けた物品、タグを付けた移動する物体、または、タグを付けた人体に対して、問合わせ信号をブロードキャストしてタグからの返答を得るワイヤレス交信によって、物品の在庫管理、移動する物体の観察、または、人の行動の観察、などを行うアプリケーションが研究されている。
【0003】
典型的なRFIDシステムにおいては、電磁波が用いられているが、電波障害のある環境、タグが水中や金属へ埋没された状況、タグが金属による電磁遮蔽の影響を受けてしまう環境など、動作させることが不可能な環境へ応用したいという要求もある。また、ある種の電磁波は人体の健康に悪影響を与える可能性があるとする報告もあり、電磁波の安全性については完全には払拭されていない。
【0004】
また、電磁波を利用したタグでは、問い合わせ信号のエネルギーを吸収してタグ内部のチップを起動させるなど、タグを駆動する電力は、リーダ側から電磁誘導やマイクロ波で供給される必要がある。従って、電力供給について内部回路を配するなどの配慮が必要となるなど、最低限度の複雑系は必要となってくるので、表面汚れ、剥れ、腐食、磨耗など、物理的ストレスまたは化学的ストレスを受ける過酷な環境下においては、動作の信頼性を維持できる保障はない。
【0005】
電磁波以外にも超音波を利用した超音波タグが考えられているが、それらは、超音波タグの側において超音波発信器を設けて超音波を発する方式のアクティブ・タグである。超音波が到達できる限りにおいてタグとリーダとの交信距離を長くすることも可能であり、ある一つのタグから複数のリーダまでの超音波の到達時間の違いを利用してそれぞれのリーダまでの距離を算出し、その距離をもとに三点測量でタグの3次元位置を特定する技術などに応用されている。
【0006】
もっとも、アクティブ・タグ自身の側で超音波を発する必要性に起因するエネルギーの供給系などの複雑系は避けられず、電池交換や充電で高価なものになる。
【0007】
そこで、交信距離については多少妥協したとしても、電池不要で小型化が容易であるパッシブ・タグにも相対的に利点が存在する。ただし、電磁波を利用したパッシブRFIDタグでは、ICチップとアンテナで構成する程度の複雑性は避けることができない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
より簡素化されていて、かつ、より信頼性が維持できる形で、送受信に超音波を利用して情報の記録や読取りが可能なパッシブ超音波タグおよび超音波読取りシステムが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の実施例であるパッシブ超音波タグ(100)では、タグ基体(102)と、タグ基体の表面(104)に拡がっていて、タグ基体の表面からタグ基体の内部に(z)向かって所定の奥行き寸法(d1,d2,d3)をもった底部(112,114,116)が設けられた2つ以上の穴(106,108,110)とを有し、当該2つ以上の穴のうちの少なくとも2つの穴の奥行き寸法が、異なる寸法(d1≠d2,d1≠d3,d2≠d3)に設定されていることで、当該2つの穴の表面と当該2つの穴の底部とを含む3次元的範囲(104〜C+)にわたって超音波の走査を受けた場合に、当該2つの穴の底部の設定に基いて超音波の反射が異なる(R1,R2,R3)ように作用する。
【0010】
本発明の第2の実施例であるパッシブ超音波タグ(200)では、タグ基体(202)と、タグ基体の表面(204)に分布していて、タグ基体の密度とは異なる密度の伝播媒体から成る単数または複数の表面部分(206,208,210)とを有していることで、当該タグ基体の表面(204)と当該単数または複数の表面部分(206,208,210)とにわたって超音波の走査を受けた場合に、当該タグ基体の表面(204)または単数若しくは複数の当該表面部分(206,208,216)とにおいて超音波の反射が異なる(R4,R5,R6,R7)ように作用する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
[用語の定義]
「超音波」とは、一般的に、人間の耳には聞こえない20kHz以上の周波数の音のことをいい、医学における超音波エコー、洗浄器、魚群探知機、バックソナーなど、様々な技術的な利用がなされている。本発明の実施例でも20kHz以上の周波数を用いることを想定している。
【0012】
「タグ」は、本発明の実施例では、製品や物体に取り付けるものとして、形状は矩形表面で奥行き方向(厚さ)が比較的薄いような実体のあるものを対象として説明している。これは理解を容易にするためであるが、そもそも対象そのものに直接穴を開けることができたり、または、対象そのものに直接密度差が設定できたりしさえすれば、本発明の技術的思想を様々な形状や厚さの「タグ基体」に適用することは可能であるので、「タグ」という用語やその「タグ」の基になる「タグ基体」という用語は、形状や厚さに依存して限定的に解釈されるべきでなく、広く解釈されるべきものである。
【0013】
「超音波リーダ」とは、「リーダ」という表現が示すように、反射された超音波を読み取る機能(受信機能)を有する機器のことを指すが、読み取りだけでなく、タグに対して超音波を発する機能(送信機能)を併せ持っている機器であってもよい。本発明の実施例においては、受信機能と送信機能との両方について言及する。
【0014】
「走査(スキャン)」という用語は、送信と受信との両方を含む場合、または、それらの何れか一方のみを指す場合があり得るが、文脈によって適宜判断され得る。本発明のパッシブ超音波タグは、走査を(受動的に)受けるという関係にある点であえて「パッシブ」と限定的に命名されており、X方向で示す1次元的範囲にわたって、XY方向で示す2次元的範囲にわたって、または、XYZ方向で示す3次元的範囲にわたって、走査を受ける対象となる。
【0015】
[超音波の特性]
超音波の第1の特性として、伝播速度が電波などに比べて著しく遅い。伝播速度が速い順に並べると、固体>液体>空気 の順となり、伝播媒体そのものの影響が大きい。空中では固体の約15分の1の速度となる。超音波の伝播速度vは、音の周波数とは無関係であって、対象となる物質の密度と弾性率の比で決まり、以下の式(1)で決まる。
伝播速度v(m/秒)=√弾性率(Pa)/密度(kg/m3) (1)
【0016】
超音波の第2の特性として、反射しやすく、例えばガラスなどを透過しない。この反射は、密度差による音響インピーダンスの変化によって生じており、音響インピーダンス(伝播媒体の密度ρ×伝播速度v)の値が大きく異なってくる伝播媒体の境界では、超音波は伝播せずに反射するという性質に基いている。
【0017】
超音波の第3の特性としては、周波数が高いほど「指向性」があり、減衰が大きいという性質がある。波長に対して振動面の面積が大きいほど、波長が短いほど鋭い指向性が得られる。
【0018】
超音波の第4の特性としては、人体に対する害が報告されておらず、基本的に安全であるといわれている。実際、今日の産婦人科医療において超音波検査が必要不可欠の検査法になっており、レントゲン検査などとは違って、胎児への影響が全く心配のない安全な検査法であるといわれている。腹部や心臓の診断、小児科などでも広く使われている。
【0019】
図1は、送受信に超音波を用いる超音波読取りシステム10を示す基本ブロック図である。超音波リーダ20の代表面22を通して超音波が矢印の方向Tのように送信され、パッシブ超音波タグ100が超音波の走査を受けるという関係で、パッシブ超音波タグ100において超音波が矢印Rのように反射され、その反射された超音波が超音波リーダ20の代表面22において受信され観測される。
【0020】
ここで、近接の度合いCは、超音波リーダ20の代表面22と、パッシブ超音波タグ100における超音波が反射される代表部分との間の最短距離であり、実質的な(ワイヤレス)交信距離となる。あえて「代表部分」という表現を使っている理由は、パッシブ超音波タグ100が走査されることの関係では、パッシブ超音波タグ100の表面などの特定の箇所のみに反射が起きるとは限らないからである。本発明のパッシブ超音波タグにおいては、積極的に情報を記録しようという目的を実現するために、異なる部分であえて反射が異なるように構成されている。
【0021】
超音波リーダ20を利用すれば、パッシブ超音波タグ100の表面だけでなく、その表面よりも内部(Z方向)での状態(内部構造)を知り得る。例えば、(1)超音波リーダ20自体を物理的にパッシブ超音波タグ100の方向に近づけたり遠ざけたりすることによって、または、(2)超音波リーダ20から送信する超音波Tの位相をずらすことによって、または、(3)パッシブ超音波タグ100の奥行き方向への照準を音響レンズ等を用いてC+のように可変にしながら3次元的範囲にわたって走査することで、パッシブ超音波タグ100の表面よりも内部での状態を観測することができる。
【0022】
図2は、超音波リーダ20を中心とした、超音波読取りシステム10のブロック略図である。代表面22を通して超音波が送信されるように送信部が設けられ、パッシブ超音波タグ100において超音波が反射され、代表面22を通して超音波が受信されるように受信部が設けられている。これら送信部と受信部とはAD/DA変換回路24に接続され、AD/DA変換回路24は制御回路26に接続され、制御回路26は演算処理回路28に接続され、演算処理回路28は画像処理回路29に接続され、画像処理回路29はディスプレイ30に接続される。
【0023】
例えば、パッシブ超音波タグ100の2次元的範囲を走査する場合に、制御回路26によって奥行き寸法を変化させることで、2次元的範囲における超音波の受信の状態を、奥行き寸法ごとに連続的に捉えることができる。また、演算処理回路28では、ある奥行き寸法の2次元的範囲における超音波の受信の状態と、それとは異なる奥行き寸法の2次元的範囲における超音波の受信の状態とを比較することができる。
【0024】
これら比較の結果をCRT、LCD、プラズマなどのディスプレイ30において表示するにあたっては、例えば、反射される超音波の振幅に比例して濃淡を付けるなどして、超音波の反射が異なっている状態を可視化することが可能となる。図1に示した超音波リーダ20として、AD/DA変換回路24、制御回路26、演算処理回路28、画像処理回路29のどの部分までを含めるかは、当業者にとって適宜設計可能である。
【0025】
図3は、単一のプローブによる走査を示す模式図である。単一のプローブの先端から矢印Tのように指向性のある超音波が送信されて、パッシブ超音波タグ100において矢印Rのように反射される。この走査は、基本的に、プローブ先端に相当する局所とパッシブ超音波タグ100の局所との関係を走査しているにすぎない。よって、単一のプローブを利用して走査するのであれば、パッシブ超音波タグ100の表面に対応させながら代表面22に沿って単一のプローブを走査すれば、パッシブ超音波タグ100を2次元的範囲にわたって走査することができる。
【0026】
実証実験としても図3のような走査を採用した。走査型超音波顕微鏡(SAM: Scanning Acoustic Microscope)を用いて、音響レンズ等によって細く絞った600MHzの超音波ビームを、試料に対してX方向に1次元的に走査し、次にY方向にずらしながら、超音波の送信と反射波の受信とを繰り返すことで、パッシブ超音波タグ100の構造を深さ方向の分解能1.7μmで解析することに成功している。
【0027】
図4は、超音波の送信部を素子のアレイによって実現することを示す模式図である。超音波リーダ20は、代表面22に細長状の素子を並べたアレイとして図に示すように2次元的に配してもよい。例えば、複数の圧電振動子(水晶など)や電歪振動子などが比較的高周波で用いられ、磁歪振動子を使うこともできる。これら複数の振動子から同時に送信を行えば、波面がフルネイルホイヘンスの原理によって合成されるので、ある距離までは平面波として直進させることができ、指向性を確保することができる。
【0028】
図5は、超音波の受信部をCCDのアレイによって実現することを示す模式図である。CCDをアレイとして配することで、反射された超音波を2次元的に受信することができる。例えば、超音波に使えるCCDアレイは、超音波顕微鏡、超音波探傷計材料や人体の透視図(血管)などに利用されていることが知られている。例えば、素子の大きさが約10×10mm、分解能が0.08mmのようなものを用いることができる。
【0029】
図6は、本発明の第1の実施例であるパッシブ超音波タグ100を示す図である。図6の(a)は斜視図であり、図6の(b)は内部構造が理解しやすいように断面を用いた図である。タグ基体102は、所定の密度を持った材料から成るが、この所定の密度が超音波の反射を実現する関係において適切なものである限り、単一材料にとどまらず、混合材料や合成材料などの様々な材料を採用することができるであろう。
【0030】
タグ基体の表面104に拡がって、単数または複数の穴が設けられており、タグ基体の表面104からタグ基体の内部(Z方向)に向かって所定の奥行き寸法をもった底部が設けられている。図6中には、3つの穴、穴106、穴108、穴110が描かれているが、各々の穴には、底部114、底部116、底部112が形成されている。各々の穴について、タグ基体の表面104を基準(d0)として、そこから底部までの奥行き寸法は、d1、d2、d3として、それぞれが異なる奥行き寸法を設定でき、量子化された状態を示すように設定できることを示している。
【0031】
これらの「穴」は、ドリル穴として開けたり、レーザ照射による溶融で開けたり、MEMSスタンピングで開けたり、フォトリソグラフィーを用いて開けたり、深さの制御をしながら、様々な加工方法によって開けることができる。しかし、「底部」は、 図6の(d)に示すように、117や118で例示するような跡になってしまうのが普通である。図6の(b)の112、114、116のように幾何学的に完全平面(完全な円柱底)に加工しておくことが、d1、d2、d3の各々の奥行き寸法を正確に設定して記録しておくという点では、図6の(c)の可視化の都合などを考慮に入れれば、理想ではあろう。しかし、加工コスト等を考えると、理想を追求する加工を施すのは現実的ではなく、超音波の第2の特性を利用して超音波の反射を生じさせる部分として機能すれば十分なのであるから、117や118で例示するような加工跡であっても利用でき、その他にも様々な加工態様をもった「底部」の設定が可能となるであろう。
【0032】
超音波の第2の特性に従い、超音波は(その箇所まで)送信されてきた空気などの伝播媒体からタグ基体102の伝播媒体へと移ることになる、底部112、底部114、底部116では、密度が大きく異なってくる境界になるので、超音波はR1、R2、R3のように反射する。反射された超音波が所定の時間(瞬間)において到達している箇所は、R1、R2、R3のそれぞれの矢印↑の先が模式的に示すように、異なってくる。このように、リーダ200の側から超音波を送信し、反射波が帰ってくるまでの時間を、それぞれの穴の箇所について測定することにより、穴の奥行き寸法を知ることができる。この原理は、パルスエコー法の原理としても知られている。
【0033】
さて、タグ基体の表面104のうちの、ある2次元的座標箇所(XY)に、1つの穴を存在させ、その奥行き寸法(Z)がd1という1段階のバリエーションで設定できるものと仮定しよう。別の言い方をすると、ある2次元的座標箇所(XY)に1つの穴を存在させるか存在させないかという意味である。後述する図7、図8においては、実線の○で穴の存在を示し、点線の○で穴が存在しないことを示そうとしている。2次元的座標箇所(XY)は、例えば、ピッチPなどの離散的な量として、座標(存在するか存在しないかを確認する箇所)を設定できる。
【0034】
例えば、図6の(a)や(b)中に、穴110のみが存在して他の穴(穴106、穴108)は存在しないものと仮定してみよう。すると、その2次元的座標位置(XY)には、(1)穴110が開いていない(存在しない)状態と、(2)穴110の底部112に至るまでd1の奥行き寸法をもった状態という、2通りの量子化された状態(d0、d1)が設定できることになる。これらの2通りの異なる状態は、超音波の反射がR0とR1のように異なるように構成できることに起因して、読取り可能かつ区別可能なのであって、ディジタル情報記録の単位(1ビットに相当)になる。すなわち、穴の数が増えれば増えるほど記録できる情報量は増えることになり、n個の穴が設定できるものと仮定すると、2のn乗通りの情報を記録できることになる。
【0035】
次に、タグ基体の表面104のうちの、ある2次元的座標箇所(XY)に、1つの穴を存在させ、その奥行き寸法(Z)が、d1、d2、d3の3段階のバリエーションをとって設定できるものと仮定しよう。例えば、図6中に穴108のみが存在して他の穴(穴106、穴110)は存在しないものと仮定してみよう。すると、その2次元的座標位置(XY)に、(1)穴108が開いていない(存在しない)状態と、(2)d1の奥行き寸法をもった状態と、(3)d2の奥行き寸法をもった状態と、(4)穴108の底部116に至るまでd3の奥行き寸法をもった状態という、それぞれ4通りの量子化された状態(d0、d1、d2、d3)が設定できることになる。これらの4通りの異なる状態は、超音波の反射がR0、R1、R2、R3のように異なるように構成できることに起因して、読取り可能かつ区別可能なのであって、1つの穴だけでも奥行き寸法の違いによって4通りの異なる情報を記録できることになる。その他、穴の奥行き寸法(深さ)は、超音波の第3の特性に絡めて、様々に有利な設定が可能となるであろう。
【0036】
図6の(c)は、ディスプレイ30において、読み取られた状態が可視化されている様子を模式的に表現している。すなわち、3次元的範囲にわたる走査によって情報を読取る方法としては、第1の奥行き寸法(例えば、d1〜d2の間の何れか)の2次元的範囲にわたって送信部からパッシブ超音波タグに超音波を送信し、受信部において反射された超音波を受信し、次に第1の奥行き寸法を第2の奥行き寸法(例えば、d2〜d3の間の何れか)に変化させてから、この第2の奥行き寸法の2次元的範囲にわたって送信部からパッシブ超音波タグに超音波を送信し、受信部において反射された超音波を受信し、第1の奥行き寸法の2次元的範囲における超音波の受信の状態と、第2の奥行き寸法の2次元的範囲における超音波の受信の状態とを比較すればよい。
【0037】
情報記録の数学的見地からまとめてみると、奥行き方向(Z)にL段階の量子化された状態が設定できるような条件と、2次元的座標箇所(XY)にn個の穴が設定できる条件(穴を存在させるか存在させないかという条件)とがあれば、以下の式(2)の組み合わせ数をもって情報が記録できることになる。
組み合わせ数 =(L+1)のn乗 (2)
【0038】
図6の実施例において、2次元的座標箇所(XY)に座標が設定されていることが確認できないような状況(例えば、タグ基体の表面104が不整な状況)であって、R0≠R1、R0≠R2、R0≠R3であることが確認できないような状況であったとしても、穴106、穴108、穴110のうちの少なくとも2つの穴の奥行き寸法が、相互に異なる寸法に構成されていれば、すなわち、d1≠d2、d1≠d3、d2≠d3に設定されていれば、超音波の反射が相互に異なるように構成できることに起因して、R1≠R2、R1≠R3、R2≠R3であるように読取り可能かつ区別可能になるので、情報を記録することに意味が生じる。このような状況であっても、以下の式(3)の組み合わせ数をもって情報が記録できることになる。
組み合わせ数 = Lのn乗 (3)
【0039】
図7は、タグ基体上に複数の穴を2次元的に配列させた例を示す平面図である。図6のタグ基体表面104をXY方向から見た平面図であり、穴106がH11、穴108がH12、穴110がH21、として描かれている。2次元的座標箇所(XY)は、ピッチPなどの離散的な量として設定した例を示している。このように2次元的な行列H11、H12、H21として数学的に意味(HXYという表現で、Xが行、Yが列)を持たせて配列させれば、情報記録を数学的に2次元的に展開することができる。矩形状のタグまたは矩形状のタグ基体を対象として情報記録を行う場合に便利である。
【0040】
図8は、タグ基体上に複数の穴を1次元的に配列させた例を示す平面図である。図7では2次元的に展開されていた穴110の箇所が点線で示され、存在しないことを示しており、代わりに、穴120がH13としてX方向に1次元的に展開されている。細長状のタグまたは細長状のタグ基体を対象とした情報記録を行う場合に便利である。また、1次元的な走査で済ませることができる有利さがある。
【0041】
図9は、本発明の第2の実施例であるパッシブ超音波タグ200を示す図である。タグ基体202は、所定の密度を持った伝播媒体から成る。タグ基体202は、所定の密度を持った伝播媒体から成るが、この所定の密度が超音波の反射を実現する関係において適切なものである限り、単一材料にとどまらず、混合材料や合成材料などの様々な材料を採用することができるであろう。
【0042】
タグ基体の表面204に分布して、タグ基体202の密度とは異なる密度から成る、表面部分206、表面部分208、表面部分210が設けられている。表面部分は単数または複数であってよい。図9の側面図(b)では、ごく薄い厚みを持った突起として描かれているが、図9の側面図(c)のように、奥行き寸法Zの方向にごく薄く埋め込むようにしてもよい。図9の側面図(b)のように各表面部分を形成するには、伝播媒体の印刷や塗装のような加工手法を用いることができ、図9の側面図(c)のように各表面部分を形成するには、焼付けや浸透のような加工手法を用いることができる。
【0043】
また、図9の側面図(b)の実施例は、図6の第1の実施例の穴がタグ基体の表面204を基準にして上下対称の関係に設けられているという、3つの「突出部」を設ける実施例であると観念することも容易であろう。
【0044】
この第2の実施例で重要なことは、タグ基体202の密度、表面部分206の密度、表面部分208の密度、表面部分210の密度、が異なるように設定できることであり、超音波の第2の特性から、超音波の反射の強度(レベル)が異なってくるように構成されているという点にある。
【0045】
反射された超音波の強度(レベル)が、各々の表面部分において、R4、R5、R6、R7のそれぞれの矢印↑の太さが模式的に示しているように異なってくれば、超音波リーダの側で読取り可能かつ区別可能になる。超音波の波形がズレるという態様で観測されることも考えられる。
【0046】
ここでは、タグ基体202の密度、表面部分206の密度、表面部分208の密度、表面部分210の密度、との関係を量子化された状態で設定できなくても、それが予め設定した閾値等を基準として反射が異なる状態として区別可能である限りにおいて、様々なバリエーションが設定可能になる。
【0047】
また、第2の実施例で第1の実施例に比較して有利な点を示せば、タグ基体202自体に穴を設定しないでも済む分だけ、図中の点線箇所から矢印が示しているように、薄型のタグにできるという点が挙げられる。
【0048】
図10は、本発明の第1の実施例であるパッシブ超音波タグ100への応用例としての、第3の実施例を示す図である。図6の全ての穴、穴106、穴108、穴110が、パッシブ超音波タグ100の基体102の密度とは異なる密度をもった伝播媒体300によって、充填されていることに特徴がある。
【0049】
「充填」されている状態は、図10の(b)の側面から見てとれる。図1に示した近接の度合いCの部分(の厚み領域)を図10の(c)の伝播媒体300で埋めてしまうことにより、空気などを介さないことができ、超音波の第1の特性に従って伝播媒体300を適切に選択することによって、超音波を効率的に送信することができる。例えば、医学における超音波診断では、被験者の皮膚面とプローブとの間に空気が存在すると著しく超音波ビームが減衰するので、ポリマや界面活性剤などからできているゼリーを音響結合剤として被験者の体表面に塗布するが、このゼリーのような機能を伝播媒体300の機能に求めることができる。この点、図10の(c)のように超音波リーダ20を伝播媒体300に直接接触させて使用できる。
【0050】
また、図6の全ての穴、穴106、穴108、穴110は、基本的に凹部であるので、表面汚れにさらされ易い。粉塵などを溜め込み易いので、粉塵などがそれらの穴を充填してしまうと、超音波の反射が意図したとおりに起きずに、誤った読取りを誘発してしまう可能性がある。その点、伝播媒体300によって全ての穴を充填しておけば、そのような不測の事態を予防することができ、また、伝播媒体300の上面は整った平滑面にできるので有利である。さらには、伝播媒体300を金属にして、金属に埋没させてしまうこともできるなど、電磁波を利用したRFIDタグでは実現できないような応用がある。
【0051】
図11の(a)は、本発明の第1の実施例であるパッシブ超音波タグ100の構成を実現する、第4の実施例を示す、分解図である。図6の穴106、穴108、穴110に対応する部分について、積層410、積層420、積層430のそれぞれに予め開口を設けておいて位置合わせして重ね合わせれば、底部412は積層420の表面部分によって、底部414は積層430の表面部分によって、底部416は更なる積層440の表面部分によって、幾何学的に理想的な完全平面(完全な円柱底)を持った積層体400が、図11の(b)のように実現できる。
【0052】
また、各穴の奥行き寸法の精度を、積層410自体、積層420自体、積層430自体の各々の厚みによって正確にコントロールすることができるので、d1=d2=d3が理想的な形で実現でき、きわめて有利となる。もちろん、d1=d2=d3と設定してもよく、d1≠d2−d1≠d3−d2と設定することもできるであろう。
【0053】
さらには、図11の(c)に示すように、積層410自体、積層420自体、積層430自体、積層440自体を、それぞれ密度が異なる伝播媒体に選べば、図6の第1の実施例と図9の第2の実施例との複合的な実施形態が容易に実現でき、複合的でより多くの状態の情報記録が実現できるので、きわめて有利である。これら積層のうちの何れか1つの積層だけが、その他の残りの積層と異なる密度の伝播媒体からなるだけであっても、情報記録のバリエーションとしては十分かもしれない。
【0054】
図12は、本発明のパッシブ超音波タグを自動車に取り付けた応用例を示す図である。自動車は美観からタグ自身が外部に露出していると醜いので、ボンネットの内部などに設置して隠されるべきである。最近の自動車は複雑な電子制御がされていて、電磁波の発生源にもなっており、さらには、ボンネット下はエンジンや排ガス規制機器などの発熱源によって高温にさらされており、ボンネット付近はストレスを受ける過酷な環境にある。本発明の超音波タグを応用すれば、ボンネットの内部などに設置することで、ボンネットやその付近の部品を外さなくても、さらにはボンネットを開ける必要さえなく、タグに記憶された情報をボンネットの上から超音波リーダによって読取ることができる。ボンネット自体またはボンネットを構成している部品自体を、タグ基体として本発明を適用できる。
【0055】
図13は、本発明のパッシブ超音波タグを建設重機に取り付けた応用例を示す図である。建設重機は過酷な環境で使用されることが多く、動作するときの振動もかなりあるので、タグを表面に取り付けると脱落のおそれがある。また、土や泥にまみれやすく、機械の外部にタグを露出させておくと表面酸化を受けるおそれがある。本発明のパッシブ超音波タグを重機内部に設置しておけば、このような環境下でも信頼性を維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】送受信に超音波を用いる超音波読取りシステム10を示す基本ブロック図である。
【図2】超音波リーダ20を中心とした、超音波読取りシステム10のブロック略図である。
【図3】単一のプローブによる走査を示す模式図である。
【図4】超音波の送信部を素子のアレイによって実現することを示す模式図である。
【図5】超音波の受信部をCCDのアレイによって実現することを示す模式図である。
【図6】本発明の第1の実施例であるパッシブ超音波タグ100を示す図である。
【図7】タグ基体上に複数の穴を2次元的に配列させた例を示す平面図である。
【図8】タグ基体上に複数の穴を1次元的に配列させた例を示す平面図である。
【図9】本発明の第2の実施例であるパッシブ超音波タグ200を示す図である。
【図10】本発明の第1の実施例であるパッシブ超音波タグ100への応用例としての、第3の実施例を示す図である。
【図11】本発明の第1の実施例であるパッシブ超音波タグ100の構成を実現する、第4の実施例を示す図である。
【図12】本発明のパッシブ超音波タグを自動車に取り付けた応用例を示す図である。
【図13】本発明のパッシブ超音波タグを建設重機に取り付けた応用例を示す図である。
【符号の説明】
【0057】
10 超音波読取りシステム
20 超音波リーダ
22 代表面
24 AD/DA変換回路
26 制御回路
28 演算処理回路
29 画像処理回路
30 ディスプレイ
100 パッシブ超音波タグ(第1の実施例)
102 タグ基体
104 タグ基体の表面
106、108、110、120 穴
112、114、116 底部
117、118 底部の加工の跡
200 パッシグ超音波タグ(第2の実施例)
202 タグ基体
204 タグ基体の表面
206、208、210 表面部分
300 伝播媒体 (第3の実施例)
400 積層体 (第4の実施例)
410、420、430 440 積層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タグ基体(102)と、
タグ基体の表面(104)に拡がっていて、タグ基体の表面からタグ基体の内部に(z)向かって所定の奥行き寸法(d1,d2,d3)をもった底部(112,114,116)が設けられた2つ以上の穴(106,108,110)とを有し、当該2つ以上の穴のうちの少なくとも2つの穴の奥行き寸法が、異なる寸法(d1≠d2,d1≠d3,d2≠d3)に設定されていて、
当該2つの穴の表面と当該2つの穴の底部とを含む3次元的範囲(104〜C+)にわたって超音波の走査を受けた場合に、当該2つの穴の底部の設定に基いて、超音波の反射が異なる(R1,R2,R3)ように構成されていることを特徴とする、
パッシブ超音波タグ(100)。
【請求項2】
タグ基体(102)と、
タグ基体の表面(104,d0)からタグ基体の内部に(z)向かって所定の奥行き寸法(d1)をもった底部(112)が設けられた1つ以上の穴(110)とを有し、
当該タグ基体の表面(104,d0)と当該1つ以上の穴の底部(112)とを含む3次元的範囲(104〜C+)にわたって超音波の走査を受けた場合に、タグ基体の表面(104,d0)に存在するその他の2次元的座標箇所(XY)に穴が存在するか存在しないかの設定と、当該1つ以上の穴の底部の設定とに基いて、超音波の反射が異なる(R0,R1)ように構成されていることを特徴とする、
パッシブ超音波タグ(100)。
【請求項3】
タグ基体(202)と、
タグ基体の表面(204)に分布していて、タグ基体の密度とは異なる密度の伝播媒体から成る単数または複数の表面部分(206,208,210)とを有し、
当該タグ基体の表面(204)と当該単数または複数の表面部分(206,208,210)とにわたって超音波の走査を受けた場合に、当該タグ基体の表面(204)または単数若しくは複数の当該表面部分(206,208,216)とにおいて、超音波の反射が異なる(R4,R5,R6,R7)ように構成されていることを特徴とする、
パッシブ超音波タグ(200)。
【請求項4】
3つの穴が1次元的座標箇所に1次元的に線状に(H11,H12,H13)配されている、請求項1に記載のパッシブ超音波タグ。
【請求項5】
3つの穴が2次元的座標箇所に2次元的な行列に(H11,H12,H21)配されている、請求項1に記載のパッシブ超音波タグ。
【請求項6】
3つの穴の奥行き寸法が、それぞれの量子化された状態を示すように設定されている、請求項1に記載のパッシブ超音波タグ。
【請求項7】
2つ以上の穴が、タグ基体の密度とは異なる密度の伝播媒体(300)によって充填されていることを特徴とする、請求項1に記載のパッシブ超音波タグ。
【請求項8】
2つ以上の穴(106,108,110)が、2つ以上の積層(410,420,430)に予め開けられた開口を位置合わせして重ね合わされていることを特徴とする、請求項1に記載のパッシブ超音波タグ(400)。
【請求項9】
2つ以上の積層(410,420,430,440)のうちの何れかの積層が、その他の残りの積層と異なる密度の伝播媒体からなることを特徴とする、請求項8に記載のパッシブ超音波タグ(400)。
【請求項10】
請求項1〜9の何れかに記載のパッシブ超音波タグから3次元的範囲にわたる走査によって情報を読取る方法であって、
第1の奥行き寸法の2次元的範囲にわたって
送信部からパッシブ超音波タグに超音波を送信するステップと、
受信部において反射された超音波を受信するステップと、
第1の奥行き寸法を第2の奥行き寸法に変化させるステップと、
当該第2の奥行き寸法の2次元的範囲にわたって
送信部からパッシブ超音波タグに超音波を送信するステップと、
受信部において反射された超音波を受信するステップと、、
前記第1の奥行き寸法の2次元的範囲における超音波の受信の状態と、前記第2の奥行き寸法の2次元的範囲における超音波の受信の状態とを比較するステップとを有する、
前記方法。
【請求項11】
請求項10の方法に記載された各ステップを超音波リーダ(20)に実行させる、プログラム。
【請求項12】
請求項1〜9の何れかに記載のパッシブ超音波タグと、
ある奥行き寸法の2次元的範囲にわたって、パッシブ超音波タグに超音波を送信する、送信部(22)と、
反射された超音波を受信する、受信部(22)と、
前記送信部(22)と前記受信部(22)とに接続され、超音波を送信するべき奥行き寸法を変化させる、制御回路(26)と、
前記制御回路に接続され、前記第1の奥行き寸法の2次元的範囲における超音波の受信の状態と、前記第2の奥行き方向の2次元的範囲における超音波の受信の状態とを比較する、演算処理回路(28)とを有する、
超音波読取りシステム(10)。
【請求項1】
タグ基体(102)と、
タグ基体の表面(104)に拡がっていて、タグ基体の表面からタグ基体の内部に(z)向かって所定の奥行き寸法(d1,d2,d3)をもった底部(112,114,116)が設けられた2つ以上の穴(106,108,110)とを有し、当該2つ以上の穴のうちの少なくとも2つの穴の奥行き寸法が、異なる寸法(d1≠d2,d1≠d3,d2≠d3)に設定されていて、
当該2つの穴の表面と当該2つの穴の底部とを含む3次元的範囲(104〜C+)にわたって超音波の走査を受けた場合に、当該2つの穴の底部の設定に基いて、超音波の反射が異なる(R1,R2,R3)ように構成されていることを特徴とする、
パッシブ超音波タグ(100)。
【請求項2】
タグ基体(102)と、
タグ基体の表面(104,d0)からタグ基体の内部に(z)向かって所定の奥行き寸法(d1)をもった底部(112)が設けられた1つ以上の穴(110)とを有し、
当該タグ基体の表面(104,d0)と当該1つ以上の穴の底部(112)とを含む3次元的範囲(104〜C+)にわたって超音波の走査を受けた場合に、タグ基体の表面(104,d0)に存在するその他の2次元的座標箇所(XY)に穴が存在するか存在しないかの設定と、当該1つ以上の穴の底部の設定とに基いて、超音波の反射が異なる(R0,R1)ように構成されていることを特徴とする、
パッシブ超音波タグ(100)。
【請求項3】
タグ基体(202)と、
タグ基体の表面(204)に分布していて、タグ基体の密度とは異なる密度の伝播媒体から成る単数または複数の表面部分(206,208,210)とを有し、
当該タグ基体の表面(204)と当該単数または複数の表面部分(206,208,210)とにわたって超音波の走査を受けた場合に、当該タグ基体の表面(204)または単数若しくは複数の当該表面部分(206,208,216)とにおいて、超音波の反射が異なる(R4,R5,R6,R7)ように構成されていることを特徴とする、
パッシブ超音波タグ(200)。
【請求項4】
3つの穴が1次元的座標箇所に1次元的に線状に(H11,H12,H13)配されている、請求項1に記載のパッシブ超音波タグ。
【請求項5】
3つの穴が2次元的座標箇所に2次元的な行列に(H11,H12,H21)配されている、請求項1に記載のパッシブ超音波タグ。
【請求項6】
3つの穴の奥行き寸法が、それぞれの量子化された状態を示すように設定されている、請求項1に記載のパッシブ超音波タグ。
【請求項7】
2つ以上の穴が、タグ基体の密度とは異なる密度の伝播媒体(300)によって充填されていることを特徴とする、請求項1に記載のパッシブ超音波タグ。
【請求項8】
2つ以上の穴(106,108,110)が、2つ以上の積層(410,420,430)に予め開けられた開口を位置合わせして重ね合わされていることを特徴とする、請求項1に記載のパッシブ超音波タグ(400)。
【請求項9】
2つ以上の積層(410,420,430,440)のうちの何れかの積層が、その他の残りの積層と異なる密度の伝播媒体からなることを特徴とする、請求項8に記載のパッシブ超音波タグ(400)。
【請求項10】
請求項1〜9の何れかに記載のパッシブ超音波タグから3次元的範囲にわたる走査によって情報を読取る方法であって、
第1の奥行き寸法の2次元的範囲にわたって
送信部からパッシブ超音波タグに超音波を送信するステップと、
受信部において反射された超音波を受信するステップと、
第1の奥行き寸法を第2の奥行き寸法に変化させるステップと、
当該第2の奥行き寸法の2次元的範囲にわたって
送信部からパッシブ超音波タグに超音波を送信するステップと、
受信部において反射された超音波を受信するステップと、、
前記第1の奥行き寸法の2次元的範囲における超音波の受信の状態と、前記第2の奥行き寸法の2次元的範囲における超音波の受信の状態とを比較するステップとを有する、
前記方法。
【請求項11】
請求項10の方法に記載された各ステップを超音波リーダ(20)に実行させる、プログラム。
【請求項12】
請求項1〜9の何れかに記載のパッシブ超音波タグと、
ある奥行き寸法の2次元的範囲にわたって、パッシブ超音波タグに超音波を送信する、送信部(22)と、
反射された超音波を受信する、受信部(22)と、
前記送信部(22)と前記受信部(22)とに接続され、超音波を送信するべき奥行き寸法を変化させる、制御回路(26)と、
前記制御回路に接続され、前記第1の奥行き寸法の2次元的範囲における超音波の受信の状態と、前記第2の奥行き方向の2次元的範囲における超音波の受信の状態とを比較する、演算処理回路(28)とを有する、
超音波読取りシステム(10)。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2008−28444(P2008−28444A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−195422(P2006−195422)
【出願日】平成18年7月18日(2006.7.18)
【出願人】(390009531)インターナショナル・ビジネス・マシーンズ・コーポレーション (4,084)
【氏名又は名称原語表記】INTERNATIONAL BUSINESS MASCHINES CORPORATION
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年7月18日(2006.7.18)
【出願人】(390009531)インターナショナル・ビジネス・マシーンズ・コーポレーション (4,084)
【氏名又は名称原語表記】INTERNATIONAL BUSINESS MASCHINES CORPORATION
【Fターム(参考)】
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