説明

パティキュレートフィルタ及び排気浄化装置

【課題】触媒量の増加を招くことなく低コスト且つ小型サイズ、低通気抵抗となし得るパティキュレートフィルタを提供する。
【解決手段】ディーゼルエンジンから排出されるパティキュレートを処理するパティキュレートフィルタにおいて、金属繊維からなる多孔質構造とされたフィルタ2の表面2aと裏面2bからそれぞれ厚み方向に小孔5、6を貫通させることなく複数形成し、表面2aに形成された小孔5と裏面2bに形成された小孔6を互い違いに配置した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パティキュレートフィルタ及びこれを用いた排気浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、ディーゼルエンジンから排出されるパティキュレートを捕集する排気浄化装置が開示されている。
【0003】
引用文献1に記載の排気浄化装置は、図6に示すように、ディーゼルエンジンの排気管101の途中に、パティキュレートを捕集する多孔質構造とされた円盤状の平板フィルタ102を排ガス103の流れ方向に複数枚重ね合わせることにより形成した積層構造のパティキュレートフィルタ104を設けた構造としている。
【0004】
この排気浄化装置では、排気ガス中のNOと酸素とを選択的に反応させてNO2を生成する機能を高めたNO2生成触媒と、各平板フィルタ102に捕集されたパティキュレートの炭素分と排気ガス中のNO2とを選択的に反応させて前記炭素分の燃焼を助勢する機能を高めた炭素分酸化触媒とを交互に各平板フィルタ102に担持させている。図7中、102AがNO2生成触媒を担持させた平板フィルタで、102Bが炭素分酸化触媒を担持させた平板フィルタを示している。
【特許文献1】特開2002−227629号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載の技術では、平板フィルタ102の使用枚数が多いため、その平板フィルタ102に担持する触媒量が増加し、コストアップとなる。また、特許文献1に記載の技術では、複数枚の平板フィルタ102を使用するため、サイズが大型化するといった課題もある。
【0006】
そこで本発明は、上述した課題を解決するべく、触媒量の増加を招くことなく低コスト且つ小型サイズで低通気抵抗となし得るパティキュレートフィルタ及び排気浄化装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の本発明は、ディーゼルエンジンから排出されるパティキュレートを処理するパティキュレートフィルタにおいて、金属繊維からなる多孔質構造とされたフィルタの表面と裏面からそれぞれ厚み方向に小孔を貫通させることなく複数形成し、表面に形成された小孔と裏面に形成された小孔を互い違いに配置したことを特徴としている。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のパティキュレートフィルタであって、フィルタに形成した小孔間の対向距離及び小孔未貫通部のフィルタ厚さを1.5〜6.0mm、好ましくは1.5mm〜3.0mmとし、この範囲内において小孔間の対向距離及び小孔未貫通部のフィルタ厚さを一定に保って小孔を配置したことを特徴としている。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載のパティキュレートフィルタであって、フィルタに成形した小孔間の対向距離及び小孔未貫通部のフィルタ厚さを1.5〜6.0mm、好ましくは1.5mm〜3.0mmとし、この範囲内において小孔間の対向距離及び小孔未貫通部のフィルタ厚さの一方又は両方がフィルタ外周側ほど小さくなるように小孔を配置したことを特徴としている。
【0010】
請求項4に記載の発明は、請求項2又は請求項3に記載のパティキュレートフィルタであって、任意の小孔形状において、小孔の側面の面積も含めたフィルタの表面積、つまり排ガスの透過表面積が最大になるような小孔寸法とした
ことを特徴としいている。
【0011】
請求項5に記載の発明は、請求項2又は請求項3に記載のパティキュレートフィルタであって、任意の小孔形状において、フィルタ外周側ほど小孔の形成により新たに生じる排ガス透過表面積が大きくなるような小孔寸法としたことを特徴としている。
【0012】
請求項6に記載の発明は、請求項1から請求項5に記載のパティキュレートフィルタの一枚を、外筒の中に配置して排気浄化装置としたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に記載のパティキュレートフィルタによれば、フィルタの表面と裏面からそれぞれ厚み方向に小孔を形成したので、フィルタの表面及び裏面だけでなく、小孔が形成されることにより生じた孔部位の表面積(孔側面分の表面積)が増大することで、排気ガスが透過する透過表面積が大幅に増加する。したがって、本発明によれば、排気ガスの透過表面積の増加により、通気抵抗が小さくなる。これにより、出力の低下を抑制できる。
【0014】
また、請求項1に記載のパティキュレートフィルタによれば、排ガスの透過距離が短くなることで通気抵抗を減らすことができる。通気抵抗は、排ガスの透過表面積に反比例し、透過距離に比例するため、透過表面積が増加し、さらに透過距離が短くなることで減少する。
【0015】
請求項2及び請求項3に記載の発明によれば、表面に形成した小孔と裏面に形成した小孔間の対向距離及び小孔未貫通部のフィルタ厚さを1.5〜6.0mm、好ましくは1.5mm〜3.0mmとすることで、フィルタの空隙率の変化によるパティキュレート処理率の変動をほとんど無視できる程度に無くすことができ、さらに、小孔を配置することで排ガスの透過表面積が増大するので、通気抵抗も小さくできる。
【0016】
また、請求項3では、小孔間の対向距離及び小孔未貫通部のフィルタ厚さの一方又は両方がフィルタ外周側ほど小さくなるように小孔を配置したことで、フィルタ中心部への排ガス流れの集中を防止できる。
【0017】
請求項4に記載の発明によれば、排ガスの透過表面積が最大になるような小孔寸法とすることで、通気抵抗を小さくできる。
【0018】
請求項5に記載の発明によれば、フィルタ外周側ほど小孔の形成により新たに生じる排ガス透過表面積が大きくなるような小孔寸法としたことで、フィルタ外周部にも排ガスが流れやすくなる。
【0019】
請求項6に記載の発明によれば、本発明のパティキュレートフィルタの一枚を外筒の中に配置して排気浄化装置としたので、複数枚のフィルタを積層したフィルタ積層構造のものと比べて簡素で小型にできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明を適用した具体的な実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0021】
図1は本実施形態の排気浄化装置の断面図、図2(A)は本実施形態のパティキュレートフィルタの平面図、図2(B)はそのA−A線断面図、図3は図2(B)の要部拡大断面図、図4は透過距離とパティキュレート捕集率との関係を示す図、図5は小孔径とフィルタ表面積の関係を示す図である。
【0022】
本実施の形態の排気浄化装置1は、図1に示すように、ディーゼルエンジンから排出されるパティキュレートを処理するパティキュレートフィルタ2と、このパティキュレートフィルタ2を内部に収容固定する外筒3、4とから構成されている。パティキュレートフィルタ2は、ディフューザーとしても機能する2つの外筒3、4の突き合わせ面にその外周囲を固定することで、これら外筒3、4で構成される内部空間内に収容されている。
【0023】
パティキュレートフィルタ2は、例えば線径34μと非常に細いステンレス材からなる金属繊維を集めて成形型内に詰め込んだ後、金属繊維同士を焼結することで所定厚の円盤形状とされている。このようにして形成されたパティキュレートフィルタ2は、金属繊維間に微細な空隙を有した多孔質構造となっている。また、このパティキュレートフィルタ2には、排気ガス中に含まれるパティキュレートの酸化を助勢するための触媒が担持されている。
【0024】
そして特に本実施形態では、パティキュレートフィルタ2の表面2aと裏面2bからそれぞれ厚み方向に小孔5、6を貫通させることなく複数形成し、表面2aに形成された小孔5と裏面2bに形成された小孔6を互い違いに配置させている。これら小孔5、6は、フィルタを成形型で円盤形状にするときに、成形型に複数本のピンを設けることで形成することができる。
【0025】
本実施形態では、直径D1を144mm、厚みTを10mmとした円盤形状のパティキュレートフィルタ2の外周縁から10mmの範囲を除く領域(直径D2を124mmとした範囲)に、直径D3を2mmとし深さHを7mmとした小孔5、6を表面2aに481個、裏面2bに468個、小孔5、6をそれぞれ開けた。そして、表面2aに形成した小孔5と裏面2bに形成した小孔6の対向距離L及び小孔未貫通部のフィルタ厚さを、1.5mmとしている。
【0026】
前記表面2aに形成した小孔5と裏面2bに形成した小孔6の対向距離(排気ガスの透過距離)L及び小孔未貫通部のフィルタ厚さが1.5〜3.0mmであれば、パティキュレートフィルタ2の空隙率が70%または85%であるかに拘わらずパティキュレート処理率が殆ど同じになる。なお、前記対向距離L及び小孔未貫通部のフィルタ厚さが1.5〜6.0mmの範囲であれば、前記効果を奏することができる。
【0027】
図4において、パティキュレートフィルタ2の空隙率が85%の場合、前記対向距離L及び小孔未貫通部のフィルタ厚さが1.5mm未満では、パティキュレート処理率が同空隙率70%の場合に比べてかなり劣る。しかしながら、本実施形態のように前記対向距離(排気ガスの透過距離)Lを前記範囲内とすることで、パティキュレートフィルタ2の空隙率に拘わらず一定以上の処理率を確保することができる。
【0028】
図5より、本実施形態においては、前記表面2aに形成した小孔5と裏面2bに形成した小孔6の直径D3が2mmであれば、フィルタ表面積(排ガスの透過表面積)が最大となる。つまり、前記小孔6の直径2mmが、フィルタ表面積を最大とする小孔寸法となる。
【0029】
このように、本実施形態のパティキュレートフィルタ2によれば、表面2aと裏面2bに小孔5、6を貫通させることなく複数形成し、表面2aに形成された小孔5と裏面2bに形成された小孔6を互い違いに配置したことで、多孔質構造の表面2aと裏面2bだけでなく孔部位の表面積(孔側面分の表面積)が増大するため、それにより排気ガスが透過する透過表面積が大幅に増加する。また、小孔5、6を形成することにより排気ガス透過距離が短くなるため、通気抵抗が減少する効果が得られる。
【0030】
小孔5、6を設けた場合は、小孔5、6を設けなかった場合に比較して透過表面積は排気ガス流入側で2.3倍に増える。通気抵抗は、透過表面積に反比例し、透過距離に比例するため、小孔5、6を設けることで小孔5、6を設けなかった場合に比べて58%も減少する。
【0031】
このように、本実施形態のパティキュレートフィルタ2によれば、小孔5、6の側面部位も処理部分として使用可能となるため、フィルタ全体を効率良く使用でき、従来構造のように複数枚のフィルタを重ねて使用する必要がなくなる。これにより、一枚のパティキュレートフィルタ2で充分なパティキュレート捕集量を確保することができ、また触媒担持量も低減でき、コストの低下並びにフィルタを小型化できる。
【0032】
このように構成されたパティキュレートフィルタ2では、表面2aから排気ガスが進入して裏面2b側へ通り抜けるとき編み目状となった金属繊維に担持された触媒でパティキュレートを処理するが、これまでの小孔5、6が形成されていないフィルタ構造では、その表面2a近傍でしかパティキュレートを処理することができずフィルタ全体を効率的に使用できない構造となっていた。
【0033】
しかし、本実施形態のパティキュレートフィルタ2ではフィルタの表面2aに小孔5が形成されていることによって、図3の矢印で示すように表面2aの小孔5から排ガスがその内部に入り込み易くなり、止まり孔として形成される小孔5から裏面2bより形成された小孔6へと流れ込む排気ガス流れが生じる。そのため、本実施形態のパティキュレートフィルタ2によれば、そのフィルタ内部(フィルタ深層部)でもパティキュレートを処理できるようになり、パティキュレートの処理量を大幅にアップできる。
【0034】
このようなパティキュレート処理率の高いパティキュレートフィルタ2を一枚だけ使用した排気浄化装置では、複数枚のフィルタを積層したフィルタ積層構造のものと比べて簡素で小型にできる。
【0035】
上述した実施形態は、本発明の一例であり、この実施形態に制限されることはない。
【0036】
例えば、上述の実施形態では、表面に形成した小孔と、裏面に成形した小孔間の対向距離L及び小孔未貫通部のフィルタ厚さを1.5〜6.0mm、好ましくは1.5mm〜3.0mmとし、この範囲内において小孔間の対向距離L及び小孔未貫通部のフィルタ厚さを一定に保って小孔を配置したが、本発明は、これに限定されない。
【0037】
例えば、表面に形成した小孔と、裏面に成形した小孔間の対向距離L及び小孔未貫通部のフィルタ厚さを1.5〜6.0mm、好ましくは1.5mm〜3.0mmとし、この範囲内において小孔間の対向距離L及び小孔未貫通部のフィルタ厚さの一方又は両方がフィルタ外周側ほど小さくなるように小孔を配置するようにしてもよい。このようにすれば、フィルタ中心部への排ガス流れの集中を防止できる。
【0038】
また、任意の小孔形状において、フィルタ外周側ほど小孔の形成により新たに生じる排ガスの透過表面積が大きくなるような小孔寸法としてもよい。そうすることで、フィルタ外周部にも排ガスが流れやすくなる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】図1は本実施形態の排気浄化装置の断面図である。
【図2】図2(A)は本実施形態のパティキュレートフィルタの平面図、図2(B)はそのA−A線断面図である。
【図3】図3は図2(B)の要部拡大断面図である。
【図4】図4は透過距離とパティキュレート捕集率との関係を示す図である。
【図5】図5は小孔径とフィルタ表面積の関係を示す図である。
【図6】図6は従来構造の排気浄化装置の断面図である。
【図7】図7は図6の排気浄化装置に組み込まれたフィルタ積層構造のパティキュレートフィルタを示す図である。
【符号の説明】
【0040】
1…排気浄化装置
2…パティキュレートフィルタ
3、4…外筒
5、6…小孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディーゼルエンジンから排出されるパティキュレートを処理するパティキュレートフィルタにおいて、
金属繊維からなる多孔質構造とされたフィルタの表面と裏面からそれぞれ厚み方向に小孔を貫通させることなく複数形成し、表面に形成された小孔と裏面に形成された小孔を互い違いに配置した
ことを特徴とするパティキュレートフィルタ。
【請求項2】
請求項1に記載のパティキュレートフィルタであって、
前記表面に形成した小孔と、前記裏面に成形した小孔間の対向距離L及び小孔未貫通部のフィルタ厚さを1.5〜6.0mm、好ましくは1.5mm〜3.0mmとし、この範囲内において小孔間の対向距離L及び小孔未貫通部のフィルタ厚さを一定に保って小孔を配置した
ことを特徴とするパティキュレートフィルタ。
【請求項3】
請求項1に記載のパティキュレートフィルタであって、
前記表面に形成した小孔と、前記裏面に成形した小孔間の対向距離L及び小孔未貫通部のフィルタ厚さを1.5〜6.0mm、好ましくは1.5mm〜3.0mmとし、この範囲内において小孔間の対向距離L及び小孔未貫通部のフィルタ厚さの一方又は両方がフィルタ外周側ほど小さくなるように小孔を配置した
ことを特徴とするパティキュレートフィルタ。
【請求項4】
請求項2又は請求項3に記載のパティキュレートフィルタであって、
任意の小孔形状において、小孔の側面の面積も含めたフィルタの表面積、つまり排ガスの透過表面積が最大になるような小孔寸法とした
ことを特徴とするパティキュレートフィルタ。
【請求項5】
請求項2又は請求項3に記載のパティキュレートフィルタであって、
任意の小孔形状において、フィルタ外周側ほど小孔の形成により新たに生じる排ガスの透過表面積が大きくなるような小孔寸法とした
ことを特徴とするパティキュレートフィルタ。
【請求項6】
請求項1から請求項5の何れか1項に記載のパティキュレートフィルタの一枚を、外筒の中に配置して排気浄化装置とした
ことを特徴とする排気浄化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−250103(P2009−250103A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−98188(P2008−98188)
【出願日】平成20年4月4日(2008.4.4)
【出願人】(000004765)カルソニックカンセイ株式会社 (3,404)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】