説明

パラシュート取付装置

【課題】パラシュートの開傘によって飛翔体の飛翔速度が超音速から音速以下に低下するときに、引張荷重を受けても吊索接続部が本体部に対してスムーズに回転することができ、吊索の捩れが元に戻る際に生じるロールモーメントが取付部や運搬物に伝達されることがなく、運搬物がカプセルに対して回転することがなく、飛翔体の各部が損傷を受けることがなく、パラシュートが確実に開傘し、飛翔体の飛翔速度を確実に低下させることができるようにする。
【解決手段】カプセル、及び、カプセル内に収納された運搬物を備える飛翔体を超音速から減速させるパラシュートを取り付けるパラシュート取付装置であって、取付部を介して運搬物又はカプセルに取り付けられる本体部と、パラシュートの吊索が接続される吊索接続部と、吊索接続部を本体部に対して回転可能に取り付けるスラスト軸受とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パラシュート取付装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、空中を飛翔(しょう)する飛翔体においては、飛翔速度を減速させる減速手段としてのパラシュートが取り付けられている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
この場合、飛翔体の飛翔中に収納された状態のパラシュートを開傘させると、パラシュートの吊(ちょう)索が捩(ねじ)れた状態でパラシュートが開傘する。なお、パラシュートは空気流によって収納された状態から引き出されて開傘するので、吊索の捩れが完全に生じないようにパラシュートの開傘を制御することは不可能である。そして、吊索が捩れた状態でパラシュートが開傘すると、傘体の空気抵抗によって引張荷重が発生し、該引張荷重により、吊索の捩れは元に戻って解消する。このように、吊索の捩れが元に戻る際に、パラシュートを飛翔体に取り付けるためのパラシュート取付装置には引張荷重とともにロールモーメントが加えられる。
【0004】
そして、このようなロールモーメントが適切に吸収されないと、種々の問題が発生する。例えば、ロールモーメントがパラシュート取付装置を飛翔体に取り付ける取付部に伝達されると、該取付部が破損してしまうことがある。また、飛翔体自体が回転してしまい、飛翔体の姿勢が不安定になってしまうことがある。
【0005】
そこで、パラシュート取付装置の内部にグリス封入型の軸受を配設して、ロールモーメントを吸収するようになっている。
【特許文献1】特開昭58−122293号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記従来のパラシュート取付装置は、グリス封入型の軸受を配設しているので、特に飛翔体が長期間に亘(わた)って保管された場合には、グリスが固化して軸受が適切に回転しなくなるので、ロールモーメントを十分に吸収することができなくなってしまう。また、軸受として、いわゆるラジアル型のボールベアリングを使用しているので、引張荷重が大きい場合には、軸受が適切に回転しなくなる恐れがある。
【0007】
もっとも、前記従来のパラシュート取付装置は、音速以下の比較的低速で飛翔する飛翔体に取り付けられるものであるため、開傘した傘体が受ける空気抵抗は比較的小さく、そのため、引張荷重及びロールモーメントが小さいので、軸受がラジアル型のボールベアリングであってもさほど問題がなく回転し、また、軸受が回転しなくても大きな問題とならないとも考えられる。
【0008】
しかし、超音速のような高速で飛翔する飛翔体に取り付けられるパラシュート取付装置の場合、パラシュートによって超音速から音速以下の低速にまで大きく減速させる必要があるので、引張荷重及びロールモーメントが大きなものとなる。そのため、軸受がラジアル型のボールベアリングであると、適切に回転しなくなる恐れがある。そして、軸受が回転しないと、パラシュート取付装置の取付部にロールモーメントが加わり、取付部が破損する恐れがある。
【0009】
さらに、超音速で飛翔する飛翔体では、運搬物の保護のために運搬物をカプセル内に収容するようになっているが、パラシュートは運搬物又はカプセルに取り付けられるので、前記軸受が回転しないと、運搬物がカプセルに対して回転してしまい、運搬物とカプセルとを接続する部材が破断してしまう恐れがある。
【0010】
本発明は、前記従来のパラシュート取付装置の問題点を解決して、超音速で飛翔する飛翔体のカプセル内に収納された運搬物又はカプセルにパラシュートを取り付けるパラシュート取付装置の本体部に、吊索を接続する吊索接続部をスラスト軸受を介して回転可能に取り付けるようにして、パラシュートの開傘によって飛翔体の飛翔速度が超音速から音速以下に低下するときに、引張荷重を受けても吊索接続部が本体部に対してスムーズに回転することができ、吊索の捩れが元に戻る際に生じるロールモーメントが取付部や運搬物に伝達されることがなく、運搬物がカプセルに対して回転することがなく、飛翔体の各部が損傷を受けることがなく、パラシュートが確実に開傘し、飛翔体の飛翔速度を確実に低下させることができるパラシュート取付装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そのために、本発明のパラシュート取付装置においては、カプセル、及び、該カプセル内に収納された運搬物を備える飛翔体を超音速から減速させるパラシュートを取り付けるパラシュート取付装置であって、取付部を介して前記運搬物又はカプセルに取り付けられる本体部と、前記パラシュートの吊索が接続される吊索接続部と、該吊索接続部を本体部に対して回転可能に取り付けるスラスト軸受とを有する。
【0012】
本発明のパラシュート取付装置においては、さらに、前記パラシュートは、第一段で開傘する一段目パラシュート及び第二段で開傘する二段目パラシュートを含み、前記飛翔体を二段階で減速させる。
【0013】
本発明のパラシュート取付装置においては、さらに、前記スラスト軸受は、ステンレス鋼から成る転動体を備えるとともに、潤滑剤を含まない。
【0014】
本発明のパラシュート取付装置においては、さらに、前記本体部は、取付部に分離可能に接続された二次本体部及び該二次本体部に分離可能に接続された一次本体部を含み、該一次本体部には、一段目パラシュートの吊索が接続される吊索接続部が一次スラスト軸受を介して回転可能に取り付けられ、前記二次本体部には、二段目パラシュートの吊索が接続される吊索接続部が二次スラスト軸受を介して回転可能に取り付けられる。
【0015】
本発明のパラシュート取付装置においては、さらに、前記カプセルは前記パラシュートの開傘を制御する制御装置を備え、前記本体部には前記制御装置に一端が接続される接続ハーネスの他端が接続される。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、パラシュート取付装置は、超音速で飛翔する飛翔体のカプセル内に収納された運搬物又はカプセルにパラシュートを取り付けるために使用され、その本体部に、吊索を接続する吊索接続部をスラスト軸受を介して回転可能に取り付けるようになっている。これにより、パラシュートの開傘によって飛翔体の飛翔速度が超音速から音速以下に低下するときに、引張荷重を受けても吊索接続部が本体部に対してスムーズに回転することができ、吊索の捩れが元に戻る際に生じるロールモーメントが取付部や運搬物に伝達されることがなく、運搬物がカプセルに対して回転することがなく、飛翔体の各部が損傷を受けることがなく、パラシュートが確実に開傘し、飛翔体の飛翔速度を確実に低下させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0018】
図1は本発明の実施の形態におけるパラシュート取付装置を有する飛翔体を示す図、図2は本発明の実施の形態におけるパラシュート取付装置の断面図、図3は本発明の実施の形態におけるパラシュート取付装置の軸受を示す図である。なお、図3において、(a)は正面図、(b)は背面図、(c)は側面図、(d)は側断面図である。
【0019】
図において、20は本実施の形態におけるパラシュート取付装置であり、飛翔体10に取り付けられる。該飛翔体10は、空中を超音速で飛翔するものであれば、いかなる種類のものであってもよい。
【0020】
そして、運搬物12は、図1に示されるように、カプセル11内に収容されている。なお、図1において、カプセル11は、説明の都合上、その長手方向(図1における横方向)に沿って切断した断面が示されている。前記カプセル11は、運搬物12を保護するための部材であり、先端(図1における左端)が円錐(すい)形状であり、後端(図1における右端)が開放された筒状の形状を備え、運搬物12の周囲を覆うようになっている。そして、運搬物12は、固定部材13によってカプセル11内に固定される。
【0021】
また、運搬物12の後端にはパラシュート取付装置20が取り付けられている。該パラシュート取付装置20は、その内部に飛翔体10を減速させる減速手段としてのパラシュートを備える。該パラシュートは、パラシュート取付装置20から引き出されると開傘し、空気抵抗によって飛翔体10を超音速から音速以下の速度にまで減速させる。なお、前記パラシュートは、単数であってもよいし、複数であってもよいが、本実施の形態においては、第一段で開傘する一段目パラシュートとしての一次傘31と、第二段で開傘する二段目パラシュートとしての二次傘41とから成るものとして説明する。この場合、後述されるように、まず、一次傘31が開傘して飛翔体10を減速させ、続いて、二次傘41が開傘して飛翔体10を更に減速させるようになっている。なお、前記カプセル11内には、一次傘31及び二次傘41の開傘動作を制御するための後述される制御装置59が配設されている。さらに、前記パラシュート取付装置20は、運搬物12でなく、カプセル11に取り付けることもできるが、本実施の形態においては、説明の都合上、運搬物12に取り付けた例についてのみ説明する。
【0022】
本実施の形態において、パラシュート取付装置20は、図2に示されるように、一次傘31を収納して保持する一次傘保持部30、該一次傘保持部30より前方に配設された二次傘41を収納して保持する二次傘保持部40、本体部21、及び、該本体部21を運搬物12の後端に取り付けるための取付部24を有する。該取付部24は、例えば、雌ねじを備える一種のナットであり、運搬物12の後端に形成された図示されない雄ねじ部材に螺(ら)合する。これにより、パラシュート取付装置20と運搬物12とは長手方向にずれないように互いに拘束され、一次傘31及び二次傘41からの数トン程度の急激な引張荷重がパラシュート取付装置20から運搬物12に確実に伝達され、飛翔体10を減速させることができる。なお、前記取付部24には、運搬物12との相対的回転を防止するためのストッパ25が接続されている。
【0023】
また、前記本体部21は、一次傘保持部30に対応する一次本体部21a及び二次傘保持部40に対応する二次本体部21bから成り、該二次本体部21bは、二次傘リリース機構22bによって取付部24の後端に分離可能に接続され、一次本体部21aは、一次傘リリース機構22aによって二次本体部21bの後端に分離可能に接続されている。
【0024】
そして、前記一次本体部21aには、一次傘31が接続される一次傘ハウジング32が、一次傘回転機構としての一次スラスト軸受34を介して、回転可能に取り付けられている。なお、前記一次傘ハウジング32は、一次傘31の吊索としての後述される一次吊索31aの基端が接続される吊索接続部としての一次傘取付リング33を備える。
【0025】
前記一次スラスト軸受34は、具体的には、図3に示されるような構造を備えるスラスト玉軸受であり、軌道輪としての第一軸受ハウジング51及び第二軸受ハウジング52、並びに、第一軸受ハウジング51及び第二軸受ハウジング52の間に介在する転動体として複数のボール53を有する。ここでは、第一軸受ハウジング51が一次本体部21aに取り付けられ、第二軸受ハウジング52が一次傘ハウジング32に取り付けられるものとする。
【0026】
このような構造を備える一次スラスト軸受34が一次本体部21aと一次傘ハウジング32との間に取り付けられているので、一次傘31が開傘したときに一次傘取付リング33が受ける引張荷重のようなパラシュート取付装置20の前後方向(図3(c)及び(d)における横方向)の荷重、すなわち、スラスト荷重を受けてもスムーズに回転することができる。すなわち、一次傘取付リング33が受ける引張荷重によって、一次傘ハウジング32が図2における右向きの力を受け、一次傘ハウジング32に取り付けられた第二軸受ハウジング52が一次本体部21aに取り付けられた第一軸受ハウジング51に対して押圧されても、第一軸受ハウジング51及び第二軸受ハウジング52の間に介在するボール53が転動することによって、第二軸受ハウジング52が第一軸受ハウジング51に対してスムーズに回転することができる。
【0027】
本実施の形態においては、一次スラスト軸受34にグリス等の潤滑剤が付与されていない、すなわち、潤滑剤を含まないものである。また、一次スラスト軸受34のすべての構成部品の材質は錆(さび)が発生し難いステンレス鋼である。そのため、パラシュート取付装置20が飛翔体10に取り付けられたまま長期(例えば、数年間以上)に亘って保管されても、潤滑剤が経年劣化して固化することによって一次スラスト軸受34の回転が阻害されてしまうことがない。また、該一次スラスト軸受34は、一次傘31が開傘する際に短時間(例えば、1秒間以下程度)だけ回転すればよく、かつ、回転速度が低いので、潤滑剤が付与されていなくても問題なく回転する。さらに、ボール53、第一軸受ハウジング51及び第二軸受ハウジング52の表面に錆が発生することがないので、長期に亘って保管されても、ボール53がスムーズに転動し、これにより、一次スラスト軸受34はスムーズに回転する。
【0028】
なお、該一次スラスト軸受34は、数トン程度のスラスト荷重を受けるのに適した軸受であれば、必ずしもスラスト玉軸受である必要はなく、例えば、転動体が円筒ころ又は円錐ころであるスラストころ軸受であってもよい。
【0029】
また、前記一次本体部21aには、一次傘31が開傘しないとき、すなわち、該一次傘31の引張荷重を一次傘取付リング33が受けないときに一次スラスト軸受34が回転することを防止する回転防止部材としての一次スプリング35が配設されている。該一次スプリング35が一次スラスト軸受34を押圧することによって、該一次スラスト軸受34が自由に回転することが抑制される。また、前記一次本体部21aには、一次スラスト軸受34を保持するための押さえ金具としてのリテーナ36が配設されている。
【0030】
一方、前記二次本体部21bには、二次傘41が接続される二次傘ハウジング42が、二次傘回転機構としての二次スラスト軸受44を介して、回転可能に取り付けられている。なお、前記二次傘ハウジング42は、二次傘41の吊索としての後述される二次吊索41aの基端が接続される吊索接続部としての二次傘取付リング43を備える。
【0031】
前記二次スラスト軸受44は、一次スラスト軸受34と同様の構造を備えるものであり、二次傘41が開傘したときに二次傘取付リング43が受ける引張荷重のようなスラスト荷重を受けてもスムーズに回転することができる。そして、一次スラスト軸受34と同様に、潤滑剤を含んでおらず、かつ、二次スラスト軸受44のすべての構成部品の材質がステンレス鋼であるので、長期に亘って保管されても、二次スラスト軸受44はスムーズに回転する。なお、該二次スラスト軸受44も、一次スラスト軸受34と同様に、スラスト荷重を受けるのに適した軸受であれば、必ずしもスラスト玉軸受である必要はなく、例えば、転動体が円筒ころ又は円錐ころであるスラストころ軸受であってもよい。
【0032】
また、前記二次本体部21bには、二次傘41の引張荷重を二次傘取付リング43が受けないときに二次スラスト軸受44が回転することを防止する回転防止部材としての二次スプリング45が配設されている。該二次スプリング45が二次スラスト軸受44を押圧することによって、該二次スラスト軸受44が自由に回転することが抑制される。また、前記二次本体部21bには、二次スラスト軸受44を保持するための押さえ金具としてのスペーサ46が配設されている。
【0033】
さらに、パラシュート取付装置20は、カプセル11の制御装置59に電気的に接続され、電気信号等を伝達する接続ハーネス26を備える。なお、該接続ハーネス26の自由端には前記制御装置59のコネクタに連結されるコネクタ27が接続されている。また、パラシュート取付装置20は、ドローグガン、一次傘リリース機構22aの一次傘31及び二次傘リリース機構22bの二次傘41の開傘動作を行わせるための装置も備える。
【0034】
次に、前記構成のパラシュート取付装置20の動作について説明する。まず、飛翔体10を減速させる動作全般の概略について説明する。
【0035】
図4は本発明の実施の形態におけるパラシュート取付装置を有する飛翔体を減速させる動作を示す図である。なお、図4において、(a)〜(e)は飛翔体を減速させる動作の各段階を示す図である。
【0036】
まず、図4(a)に示されるように、飛翔体10は超音速で空中を飛翔する。そして、制御装置59から一次傘31を開傘させるための指令を受けると、パラシュート取付装置20が備えるドローグガンが作動し、図4(b)に示されるように、後方に向けてスラグ56が打ち出される。すると、該スラグ56に接続されたプレート展張索56aによって、ドローグプレート57が後方に向けて引き出され、さらに、該ドローグプレート57が空気流を受けて前記ドローグプレート57に接続された一次傘展張索57aにより、一次傘31が後方に向けて引き出される。
【0037】
そして、図4(c)に示されるように、一次傘31は空気流によって開傘する。すると、開傘した一次傘31の傘体が空気抵抗を受け、一次吊索31aを介して、パラシュート取付装置20を後方に引っ張ることによって減速手段として機能するので、飛翔体10は減速し、その飛翔速度は超音速から音速以下にまで低下する。
【0038】
続いて、制御装置59から二次傘41を開傘させるための指令を受けると、パラシュート取付装置20が備える一次傘リリース機構22aが作動して、図4(d)に示されるように、開傘した一次傘31が一次本体部21aとともにパラシュート取付装置20から切り離され、前記一次本体部21aに接続された二次傘展張索58によって、二次傘41が後方に向けて引き出される。
【0039】
そして、図4(e)に示されるように、二次傘41は空気流によって開傘する。すると、開傘した二次傘41の傘体が空気抵抗を受け、二次吊索41aを介して、パラシュート取付装置20を後方に引っ張ることによって減速手段として機能するので、飛翔体10は減速し、その飛翔速度は更に低下する。
【0040】
次に、パラシュート取付装置20がロールモーメントを吸収する動作について説明する。ここでは、説明の都合上、一次傘31が開傘する場合についてのみ説明する。
【0041】
図5は本発明の実施の形態におけるパラシュートの開傘によって発生するロールモーメントを説明する図、図6は本発明の実施の形態におけるパラシュート取付装置の一次傘が開傘した状態の断面図、図7は本発明の実施の形態におけるパラシュートの開傘によって発生するロールモーメントを吸収する動作を示す図である。なお、図7において、(a)〜(c)はパラシュートが開傘する動作の各段階を示す図である。
【0042】
まず、一次傘31が後方に向けて引き出されるとき、図7(a)に示されるように、一次吊索31aは捩れたままの状態で展張する。
【0043】
そして、図5に示されるように、一次傘31が空気流によって開傘すると、開傘した一次傘31の傘体が空気抵抗を受け、矢印Aで示されるような引張荷重が発生する。該引張荷重は、一次吊索31aを介して、運搬物12の後端に取り付けられたパラシュート取付装置20に伝達されるが、一次吊索31aの捩れは前記引張荷重によって元に戻って解消する。そして、一次吊索31aの捩れが元に戻る際に、矢印Bで示されるようなロールモーメントが発生する。なお、該ロールモーメントの方向は、一次吊索31aの捩れの方向によって決定されるものであり、一定ではない。
【0044】
この場合、前記一次吊索31aの基端は、図6に示されるように、一次傘ハウジング32の一次傘取付リング33に接続されている。そして、一次傘ハウジング32は、一次スラスト軸受34を介して、一次本体部21aに取り付けられているのであるから、一次吊索31aを介して図6における右方向に引っ張られるような前記引張荷重を受けた状態であっても、一次本体部21aに対して回転することができる。すなわち、前述のように、一次傘取付リング33が一次吊索31aを介して受ける引張荷重によって、一次傘ハウジング32が図6における右向きの力を受け、一次傘ハウジング32に取り付けられた第二軸受ハウジング52が一次本体部21aに取り付けられた第一軸受ハウジング51に対して押圧されても、第一軸受ハウジング51と第二軸受ハウジング52との間に介在するボール53が転動することによって、第二軸受ハウジング52が第一軸受ハウジング51に対してスムーズに回転することができる。
【0045】
そのため、図7(b)に示されるように、パラシュート取付装置20内において、一次傘ハウジング32及び一次傘取付リング33が矢印Cで示されるように回転し、前記ロールモーメントを吸収する。なお、回転の方向は、ロールモーメントの方向によって決定されるものであり、一定ではない。これにより、一次本体部21aがロールモーメントを受けることがないので、一次本体部21aを含む本体部21、該本体部21を運搬物12の後端に取り付ける取付部24、及び、運搬物12は、ロールモーメントを受けることがなく、回転することがない。このように、パラシュート取付装置20が回転しないので、図7に示されるようにカプセル11に取り付けられた制御装置59とパラシュート取付装置20とを接続している接続ハーネス26が破断することがない。また、取付部24及びストッパ25が損傷を受けたり破損したりしてしまうことがない。さらに、運搬物12が回転しないので、固定部材13が損傷を受けたり破損したりしてしまうことがなく、また、運搬物12がカプセル11の内面と摺(しゅう)接して損傷を受けたり破損したりすることがない。
【0046】
そして、一次吊索31aの捩れが元に戻ると、図7(c)に示されるようになる。
【0047】
ここでは、一次傘31が開傘する場合について説明したが、二次傘41が開傘する場合も同様である。すなわち、二次傘41が二次傘ハウジング42から後方に向けて引き出されるとき、二次吊索41aは捩れたままの状態で展張する。そして、二次吊索41aの捩れが元に戻る際にロールモーメントが発生するが、二次吊索41aの基端が接続された二次傘取付リング43を備える二次傘ハウジング42は、二次スラスト軸受44を介して、二次本体部21bに取り付けられているので、引張荷重を受けた状態であっても、二次本体部21bに対して回転することができる。これにより、該二次本体部21bがロールモーメントを受けることがないので、二次本体部21bを含む本体部21、該本体部21を運搬物12の後端に取り付ける取付部24、ストッパ25及び運搬物12は、ロールモーメントを受けることがなく、回転することがない。
【0048】
このように、本実施の形態において、パラシュート取付装置20は、カプセル11、及び、該カプセル11内に収納された運搬物12を備える飛翔体10を超音速から減速させるパラシュートを取り付ける装置であって、取付部24を介して運搬物12に取り付けられる本体部21と、一次傘31及び二次傘41の吊索が接続される一次傘取付リング33及び二次傘取付リング43と、前記一次傘取付リング33及び二次傘取付リング43を一次本体部21a及び二次本体部21bに対して回転可能に取り付ける一次スラスト軸受34及び二次スラスト軸受44とを有する。
【0049】
これにより、一次傘31及び二次傘41の開傘によって飛翔体10の飛翔速度が超音速から低下するときに、数トン程度の大きな引張荷重を受けても、一次傘取付リング33及び二次傘取付リング43が一次本体部21a及び二次本体部21bに対してスムーズに回転することができる。そのため、吊索の捩れが元に戻る際に生じるロールモーメントが取付部24や運搬物12に伝達されることがない。したがって、取付部24及びストッパ25が損傷を受けたり破損したりしてしまうことがない。また、運搬物12がカプセル11に対して回転することがないので、運搬物12がカプセル11の内面と摺接して損傷を受けたり破損したりすることがない。そして、一次傘31及び二次傘41が確実に開傘し、飛翔体10の飛翔速度を確実に低下させる。さらに、運搬物12は、カプセル11内に収納されているので、飛翔速度が超音速であっても、損傷を受けることがない。
【0050】
また、一次傘31が第一段で開傘し、二次傘41が第二段で開傘して、飛翔体10を二段階で減速させる。これにより、飛翔体10の飛翔速度を超音速から音速以下にまで確実に低下させることができる。
【0051】
さらに、一次スラスト軸受34及び二次スラスト軸受44は、ステンレス鋼から成るボール53を備えるとともに、潤滑剤を含まないものである。これにより、パラシュート取付装置20が飛翔体10に取り付けられたまま長期に亘って保管されても、潤滑剤が経年劣化して固化することによって一次スラスト軸受34及び二次スラスト軸受44の回転が阻害されてしまうことがない。
【0052】
さらに、二次本体部21bは、二次傘リリース機構22bによって取付部24に分離可能に接続され、一次本体部21aは、一次傘リリース機構22aによって二次本体部21bに分離可能に接続されている。これにより、適切なタイミングで適切に一次傘31及び二次傘41を切り離すことができる。
【0053】
さらに、カプセル11は、一次傘31及び二次傘41の開傘を制御する制御装置59を備え、パラシュート取付装置20の本体部21には制御装置59と接続される接続ハーネス26が接続される。これにより、一次傘31及び二次傘41の開傘のタイミングを適切に制御することができる。また、運搬物12がカプセル11に対して回転することがないので、接続ハーネス26が切断されてしまうこともない。
【0054】
なお、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づいて種々変形させることが可能であり、それらを本発明の範囲から排除するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の実施の形態におけるパラシュート取付装置を有する飛翔体を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態におけるパラシュート取付装置の断面図である。
【図3】本発明の実施の形態におけるパラシュート取付装置の軸受を示す図である。
【図4】本発明の実施の形態におけるパラシュート取付装置を有する飛翔体を減速させる動作を示す図である。
【図5】本発明の実施の形態におけるパラシュートの開傘によって発生するロールモーメントを説明する図である。
【図6】本発明の実施の形態におけるパラシュート取付装置の一次傘が開傘した状態の断面図である。
【図7】本発明の実施の形態におけるパラシュートの開傘によって発生するロールモーメントを吸収する動作を示す図である。
【符号の説明】
【0056】
10 飛翔体
11 カプセル
12 運搬物
20 パラシュート取付装置
21a 一次本体部
21b 二次本体部
24 取付部
26 接続ハーネス
31 一次傘
31a 一次吊索
33 一次傘取付リング
34 一次スラスト軸受
41 二次傘
41a 二次吊索
43 二次傘取付リング
44 二次スラスト軸受
53 ボール
59 制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)カプセル、及び、該カプセル内に収納された運搬物を備える飛翔体を超音速から減速させるパラシュートを取り付けるパラシュート取付装置であって、
(b)取付部を介して前記運搬物又はカプセルに取り付けられる本体部と、
(c)前記パラシュートの吊索が接続される吊索接続部と、
(d)該吊索接続部を本体部に対して回転可能に取り付けるスラスト軸受とを有することを特徴とするパラシュート取付装置。
【請求項2】
前記パラシュートは、第一段で開傘する一段目パラシュート及び第二段で開傘する二段目パラシュートを含み、前記飛翔体を二段階で減速させる請求項1に記載のパラシュート取付装置。
【請求項3】
前記スラスト軸受は、ステンレス鋼から成る転動体を備えるとともに、潤滑剤を含まない請求項1に記載のパラシュート取付装置。
【請求項4】
前記本体部は、取付部に分離可能に接続された二次本体部及び該二次本体部に分離可能に接続された一次本体部を含み、
該一次本体部には、一段目パラシュートの吊索が接続される吊索接続部が一次スラスト軸受を介して回転可能に取り付けられ、
前記二次本体部には、二段目パラシュートの吊索が接続される吊索接続部が二次スラスト軸受を介して回転可能に取り付けられる請求項2に記載のパラシュート取付装置。
【請求項5】
前記カプセルは前記パラシュートの開傘を制御する制御装置を備え、
前記本体部には前記制御装置に一端が接続される接続ハーネスの他端が接続される請求項1に記載のパラシュート取付装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−18264(P2010−18264A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−325279(P2008−325279)
【出願日】平成20年12月22日(2008.12.22)
【出願人】(390014306)防衛省技術研究本部長 (169)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【出願人】(000114215)ミネベア株式会社 (846)