説明

パラシュート誤放出防止装置及びパラシュート誤放出防止装置付き飛翔体の搬送方法

【課題】パラシュートが誤って放出されるのを防止でき、火工品の消費申請などといった煩雑な手続きを不要にしたうえで、コストの低減及び取り扱い性の向上を実現でき、加えて、機体質量の軽減をも実現可能であるパラシュート誤放出防止装置を提供する。
【解決手段】ロケット1の機体2の外部に向けて開口するパラシュート収納部3を閉塞する蓋体11と、パラシュート収納部3内のパラシュートPの放出許容段階まで蓋体11を機体2側に拘束し且つパラシュートPの放出許容段階で蓋体11の拘束を解除するストッパ12と、ストッパ12を装着してパラシュート収納部3の周囲に巻き付けるベルト13と、ベルト13の端部同士を分離可能に結合するラッチ機構20と、ラッチ機構20を駆動してベルト13の端部同士を分離することでパラシュート収納部3の周囲からストッパ12とともにベルト13を離間させる電動アクチュエータ14を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、パラシュートを搭載した飛翔体を輸送機に吊下げて試験地点まで搬送する間において、パラシュート押出し装置が誤って作動した場合に、飛翔体のパラシュート収納部からパラシュートが放出されるのを防ぐのに用いるパラシュート誤放出防止装置及びパラシュート誤放出防止装置付き飛翔体の搬送方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、上記したようなパラシュート誤放出防止装置としては、飛翔体の機体外部に向けて開口するパラシュート収納部を閉塞する蓋体と、パラシュート収納部側にピンにより固定されてパラシュートの放出が許容される段階まで蓋体をパラシュート収納部側に拘束するストッパと、パラシュートの放出許容段階でピンを引き抜いてストッパによる蓋体の拘束を解除する火工品を備えたものがあった。
【特許文献1】特開平5−132000号公報
【特許文献2】特開昭59−164299号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところが、従来のパラシュート誤放出防止装置にあっては、上記したように、ストッパによる蓋体の拘束を解除するのに火工品を使用しているので、コストが嵩むと共に取り扱い性が良いとは言えないのに加えて、火工品の消費申請などといった煩雑な手続きを行わなくてはならないという問題があった。
【0004】
また、火工品を使用している都合上、パラシュート収納部の開口周辺を耐圧構造にする必要があるほか、このパラシュート誤放出防止装置近傍に位置する電子機器を火工品衝撃から護るための対策を講じる必要があり、その結果、機体質量が大きくなってしまうという問題を有しており、これらの問題を解決することが従来の課題となっていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上述した従来の課題に着目してなされたものであって、パラシュート押出し装置が意に反して作動した場合であったとしても、パラシュートが誤って放出されるのを防止することができるのは言うまでもなく、火工品の消費申請などといった煩雑な手続きを不要にしたうえで、コストの低減及び取り扱い性の向上を実現することができ、加えて、機体のパラシュート収納部の開口周辺に耐圧構造を採用する必要がないと共に、周辺の電子機器に対して耐衝撃性設計を必要としないので、機体質量の軽減をも実現することが可能であるパラシュート誤放出防止装置及びパラシュート誤放出防止装置付き飛翔体の搬送方法を提供することを目的としている。
【0006】
本発明は、飛翔体の機体外部に向けて開口する筒状を成すパラシュート収納部を閉塞する蓋体と、パラシュート収納部に収納したパラシュートの放出が許容される段階まで上記蓋体をパラシュート収納部側に拘束し且つパラシュートの放出許容段階で蓋体の拘束を解除可能としたストッパを備えたパラシュート誤放出防止装置において、上記ストッパを装着してこのストッパを所定部位に位置させた状態でパラシュート収納部の周囲に巻き付けるベルトと、パラシュート収納部の周囲に巻き付けたベルトの端部同士を分離可能に結合するラッチ機構と、このラッチ機構を駆動してベルトの端部同士を相互に分離することでパラシュート収納部の周囲からストッパとともにベルトを離間させる電動アクチュエータを設けた構成としたことを特徴としており、このようなパラシュート誤放出防止装置の構成を前述した従来の課題を解決するための手段としている。
【0007】
また、本発明のパラシュート誤放出防止装置付き飛翔体の搬送方法は、請求項2又は3に記載のパラシュート誤放出防止装置を搭載した飛翔体を輸送機に吊下げて搬送するに際して、輸送機側に電動アクチュエータを配置すると共に、この電動アクチュエータとパラシュート収納部の周囲に巻き付けたベルトの端部同士を結合するラッチ機構との間に駆動ワイヤを弛んだ状態で掛け渡し、この駆動ワイヤよりも弛み具合の少ない振れ止めワイヤを飛翔体と輸送機側との間に掛け渡して、この振れ止めワイヤで飛翔体の振れを抑える構成としている。
【発明の効果】
【0008】
本発明のパラシュート誤放出防止装置では、上記した構成としているので、パラシュートの誤放出を確実に防ぐことができるのは勿論のこと、火工品の消費申請などといった煩雑な手続きを省くことが可能であり、加えて、コストの低減及び取り扱い性の向上を実現することができると共に、機体質量の軽減をも実現することが可能であるという非常に優れた効果がもたらされる。
【0009】
また、本発明のパラシュート誤放出防止装置付き飛翔体の搬送方法では、上記した構成としているので、飛翔体を輸送機に吊下げて搬送するに際して、飛翔体が振れたとしても、振れ止めワイヤが飛翔体の振れを抑えることとなり、したがって、飛翔体の振れで駆動ワイヤが飛翔体側に引かれてしまう、すなわち、飛翔体の振れでラッチ機構が分離作動してしまうような事態の発生を阻止することができるという非常に優れた効果がもたらされる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明のパラシュート誤放出防止装置において、電動アクチュエータとラッチ機構との間に駆動ワイヤを設け、電動アクチュエータの駆動ワイヤの巻き取り作動によりラッチ機構を分離駆動する構成とすることができる。
【0011】
この場合、電動アクチュエータの一本の駆動ワイヤの巻き取り作動だけで、ラッチ機構を分離駆動し得ることから、構造の簡略化も図られることとなる。
【0012】
また、本発明のパラシュート誤放出防止装置において、ベルトと駆動ワイヤとを連結し、電動アクチュエータの駆動ワイヤの巻き取り作動により、駆動ワイヤに続いてベルトの巻き取りを可能とした構成とすることができる。
【0013】
この構成を採用すると、電動アクチュエータの一本の駆動ワイヤの巻き取り作動だけで、ラッチ機構を分離駆動し得ると共に、ベルトの巻き取りが可能になることから、構造の簡略化が図られるのに加えて、ベルトが飛翔体に干渉することが回避されることとなる。
【実施例】
【0014】
以下、本発明を図面に基づいて説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0015】
図1〜図6は本発明のパラシュート誤放出防止装置の一実施例を示しており、この実施例では、本発明の飛翔体がロケットである場合を示す。
【0016】
図1に簡略的に示すように、ロケット1は、パラシュート(ドローグシュート及びこのドローグシュートに続いて開傘するメインシュート)Pを機体2の尾部に位置する後方に向けて開口するパラシュート収納部3に搭載していると共に、このパラシュート収納部3に収納したパラシュートPを機体2の外部に押出す図示しないパラシュート押出しばね及びパラシュート押出し機構4を有するパラシュート押出し装置5と、パラシュート誤放出防止装置10を備えている。
【0017】
上記パラシュート誤放出防止装置10は、パラシュート収納部3を閉塞する蓋体11と、円筒状を成すパラシュート収納部3の周囲の三箇所においてこのパラシュート収納部3及び蓋体11に跨ってそれぞれ係止してパラシュートPの放出が許容される段階まで蓋体11をパラシュート収納部3側に拘束する三個のストッパ12と、これらのストッパ12を一方の面に装着してそれぞれ所定の係止部位に位置させた状態でパラシュート収納部3の周囲に巻き付けるベルト13と、このパラシュート収納部3の周囲に巻き付けたベルト13の端部同士を分離可能に結合するラッチ機構20と、このラッチ機構20を駆動してベルト13の端部同士を相互に分離することでパラシュート収納部3の周囲からストッパ12とともにベルト13を離間させる電動アクチュエータ14を備えている。
【0018】
この場合、図2に示すように、ラッチ機構20は、ベルト13の一方の端部に設けた結合孔21aを有するベースプレート21と、ベルト13の他方の端部に設けた結合孔22aを有する結合プレート22を備えている。
【0019】
ベースプレート21は、図3にも示すように、このベースプレート21に結合孔21aと対向するようにして配置したホルダプレート23と、このホルダプレート23に貫通状態で支持されてベースプレート21の結合孔21aに対して挿通離脱可能とした結合ピン24と、この結合ピン24の頭部とホルダプレート23との間の部分に嵌装されて結合ピン24にベースプレート21の結合孔21aから離脱する方向(図3上方向)の力を付与する圧縮ばね25と、結合ピン24のベースプレート21とホルダプレート23との間に位置する部分に固定した抜け止めリング26を具備している。
【0020】
一方、結合プレート22は、ベースプレート21及びホルダプレート23の間に挿入されるようになっていて、積層した結合プレート22及びベースプレート21の各結合孔22a,21aに順次挿通させた結合ピン24の抜け止めリング26とホルダプレート23との間に挿入可能なブロック27と、このブロック27と電動アクチュエータ14との間に位置して電動アクチュエータ14の巻き取り作動によりブロック27を抜け止めリング26とホルダプレート23との間から離脱させる引き抜きワイヤ(駆動ワイヤ)28を具備しており、この際、ベルト13にワイヤガイド29を設けることによって、引き抜きワイヤ28がベルト13から外れないようにしている。
【0021】
つまり、このラッチ機構20では、互いに重なり合う結合プレート22及びベースプレート21の各結合孔22a,21aに圧縮ばね25の弾性力に抗して結合ピン24を順次挿通させて、この状態で抜け止めリング26とホルダプレート23との間にブロック27を挿入する(図3(a)に示す状態)ことで、結合ピン24が各結合孔22a,21aから離脱する方向への移動を規制し、すなわち、ベルト13の両端部の結合状態を維持し、一方、電動アクチュエータ14の引き抜きワイヤ28の巻き取り作動によりブロック27を抜け止めリング26とホルダプレート23との間から引き抜く(図3(b)に示す状態)ことで、結合ピン24が各結合孔22a,21aから離脱する方向への移動規制を解除する、すなわち、ベルト13の両端部を解放するようになっている。
【0022】
上記パラシュート誤放出防止装置10を搭載したロケット1を輸送機に吊下げて、例えば、試験地点まで搬送する場合には、図4に示すように、ロケット1をほぼ水平に吊下げた輸送機側の吊下げ治具30にパラシュート誤放出防止装置10の電動アクチュエータ14を配置すると共に、この電動アクチュエータ14とパラシュート収納部3の周囲に巻き付けたベルト13の端部同士を結合するラッチ機構20のブロック27との間に引き抜きワイヤ28を弛んだ状態で掛け渡す。
【0023】
この際、ロケット1が輸送中に振れることで、引き抜きワイヤ28に張力が負荷されてラッチ機構20のブロック27を引張ることがないようにするため、引き抜きワイヤ28よりも弛み具合の少ない振れ止めワイヤ31をパラシュート収納部3の周囲に巻き付けたベルト13と吊下げ治具30との間に掛け渡して、この振れ止めワイヤ31でロケット1の振れを抑えるようにする。
【0024】
そして、試験地点に到着した段階(パラシュートの放出許容段階)では、図5に示すように、パラシュート誤放出防止装置10の電動アクチュエータ14に巻き取り作動を行わせて、電動アクチュエータ14に設けたドラム15で引き抜きワイヤ28を巻き取ると、ブロック27が抜け止めリング26とホルダプレート23との間から引き抜かれてベルト13の両端部が解放され、パラシュート収納部3の周囲からストッパ12とともにベルト13が離間してラッチ機構20が錘となって垂れ下がる、すなわち、パラシュートPの放出が許容された状態となる。
【0025】
このとき、パラシュート収納部3の周囲から離間したベルト13のワイヤガイド29にブロック27が引っ掛るので、電動アクチュエータ14に巻き取り作動を継続して行わせると、図6に示すように、引き抜きワイヤ28に続いてベルト13及び振れ止めワイヤ31も巻き取られることとなり、したがって、試験実施時において、パラシュート誤放出防止装置10の引き抜きワイヤ28やベルト13がロケット1に干渉するようなことが回避されることとなる。
【0026】
上記したパラシュート誤放出防止装置10では、パラシュート収納部3を閉塞する蓋体11と、円筒状を成すパラシュート収納部3の周囲の三箇所においてこのパラシュート収納部3及び蓋体11に跨ってそれぞれ係止してパラシュートPの放出が許容される段階まで蓋体11をパラシュート収納部3側に拘束する三個のストッパ12と、これらのストッパ12をそれぞれ所定の係止部位に位置させた状態でパラシュート収納部3の周囲に巻き付けるベルト13と、このパラシュート収納部3の周囲に巻き付けたベルト13の端部同士を分離可能に結合するラッチ機構20と、このラッチ機構20を駆動してベルト13の端部同士を相互に分離することでパラシュート収納部3の周囲からストッパ12とともにベルト13を離間させる電動アクチュエータ14を備えた構成としているので、パラシュートPの誤放出を確実に防ぐことができるのは言うまでもなく、従来必要であった火工品の消費申請などといった煩雑な手続きを省くことができるうえ、コストの低減及び取り扱い性の向上を実現可能であると共に、機体質量の軽減化にも寄与することが可能である。
【0027】
また、上記したパラシュート誤放出防止装置10を搭載したロケット1の搬送方法では、パラシュート誤放出防止装置10の引き抜きワイヤ28よりも弛み具合の少ない振れ止めワイヤ31をベルト13と吊下げ治具30との間に掛け渡すようにしているので、ロケット1を輸送機に吊下げて搬送するに際して、ロケット1が振れたとしても、振れ止めワイヤ31がロケット1の振れを抑えることとなり、したがって、ロケット1の振れで引き抜きワイヤ28に張力が負荷されてラッチ機構20のブロック27を引張ってしまう、すなわち、ロケット1の振れでラッチ機構20が分離作動してしまうような事態の発生を阻止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の一実施例によるパラシュート誤放出防止装置を簡略的に示す部分斜視説明図である。(実施例1)
【図2】図1のパラシュート誤放出防止装置のストッパ及びラッチ機構を具備したベルトの全体斜視説明図である。(実施例1)
【図3】図2のラッチ機構を詳細に示すベルトの端部を結合した状態の斜視説明図(a)及びベルトの端部を解放した状態の斜視説明図(b)である。(実施例1)
【図4】図1のパラシュート誤放出防止装置を搭載したロケットを輸送機に吊下げて搬送している状態の側面説明図である。
【図5】パラシュートの放出許容段階においてパラシュート誤放出防止装置のラッチ機構を作動してベルトの端部を解放した状態の側面説明図である。
【図6】パラシュートの放出許容段階において端部を解放したベルトを輸送機側に巻き取った状態の側面説明図である。
【符号の説明】
【0029】
1 ロケット(飛翔体)
2 機体
3 パラシュート収納部
10 パラシュート誤放出防止装置
11 蓋体
12 ストッパ
13 ベルト
14 電動アクチュエータ
20 ラッチ機構
28 引き抜きワイヤ(駆動ワイヤ)
31 振れ止めワイヤ
P パラシュート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
飛翔体の機体外部に向けて開口する筒状を成すパラシュート収納部を閉塞する蓋体と、パラシュート収納部に収納したパラシュートの放出が許容される段階まで上記蓋体をパラシュート収納部側に拘束し且つパラシュートの放出許容段階で蓋体の拘束を解除可能としたストッパを備えたパラシュート誤放出防止装置において、上記ストッパを装着してこのストッパを所定部位に位置させた状態でパラシュート収納部の周囲に巻き付けるベルトと、パラシュート収納部の周囲に巻き付けたベルトの端部同士を分離可能に結合するラッチ機構と、このラッチ機構を駆動してベルトの端部同士を相互に分離することでパラシュート収納部の周囲からストッパとともにベルトを離間させる電動アクチュエータを設けたことを特徴とするパラシュート誤放出防止装置。
【請求項2】
電動アクチュエータとラッチ機構との間に駆動ワイヤを設け、電動アクチュエータの駆動ワイヤの巻き取り作動によりラッチ機構を分離駆動する請求項1に記載のパラシュート誤放出防止装置。
【請求項3】
ベルトと駆動ワイヤとを連結し、電動アクチュエータの駆動ワイヤの巻き取り作動により、駆動ワイヤに続いてベルトの巻き取りを可能とした請求項2に記載のパラシュート誤放出防止装置。
【請求項4】
請求項2又は3に記載のパラシュート誤放出防止装置を搭載した飛翔体を輸送機に吊下げて搬送するに際して、輸送機側に電動アクチュエータを配置すると共に、この電動アクチュエータとパラシュート収納部の周囲に巻き付けたベルトの端部同士を結合するラッチ機構との間に駆動ワイヤを弛んだ状態で掛け渡し、この駆動ワイヤよりも弛み具合の少ない振れ止めワイヤを飛翔体と輸送機側との間に掛け渡して、この振れ止めワイヤで飛翔体の振れを抑えることを特徴とするパラシュート誤放出防止装置付き飛翔体の搬送方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2007−137345(P2007−137345A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−336492(P2005−336492)
【出願日】平成17年11月22日(2005.11.22)
【出願人】(500302552)株式会社アイ・エイチ・アイ・エアロスペース (298)