説明

パラジウムアセチルアセトナートの製造方法

【課題】パラジウムアセチルアセトナートを、簡便な操作でかつほぼ100%の収率で製造する方法を提供すること。
【解決手段】パラジウム塩の水溶液と、アセチルアセトンとを、アルカリ金属水酸化物水溶液存在下、反応温度を30℃以下に制御して反応させることを特徴とするパラジウムアセチルアセトナートの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パラジウムアセチルアセトナートの製造方法に関するものであり、パラジウムを触媒成分とする有機合成反応、重合の分野、医薬品などの製造用原料、自動車排ガス浄化などの機能性無機化合物の製造用原料、電極材の原料などの分野に好適に使用される。
【背景技術】
【0002】
β−ジケトナートパラジウム錯体の一種であるパラジウムアセチルアセトナート[CAS No.14024−61−4 分子式Pd(C))]は黄色粉末である。工業的にも使用されているものの、貴金属であるパラジウムは大変高価であり使用場面が限られている。
パラジウムアセチルアセトナートの合成方法に関する報告例は非常に少ない。例えば、次の3つの方法が知られている。
(1)塩化パラジウムの熱水懸濁溶液に、アセチルアセトンと水酸化カリウム水溶液との混合溶液を添加してパラジウムアセチルアセトナートを合成する方法が知られている。しかし、収率は76%と低く、コスト面で工業化するのは困難であり、高価で希少資源であるPd化合物の合成方法としては問題がある(非特許文献1参照)。
(2)Na[PdCl]水溶液とアセチルアセトンの混合水溶液に、水酸化ナトリウム水溶液を添加して合成する方法が知られている。この方法では、収率は非特許文献1記載方法の76%より高い90%であるが、貴金属であるパラジウムは大変高価であり、10%の収率ロスはコスト面で大きな問題である。さらにPdClとNaClを用いて中間にNa[PdCl]水溶液を調製後、アセチルアセトンをNaOH存在下反応させる方法は操作が煩雑であり、工業的合成方法としては改良の余地がある(非特許文献2参照)。
(3)Pd(OTf)のアセトニトリル溶液に、アセチルアセトンを加え、炭酸水素ナトリウム水溶液を添加して合成する方法が知られている。しかし収率は81%と低く、非特許文献1と同様高価で希少資源であるPd化合物の合成方法としては問題がある(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平6−321976号公報
【非特許文献1】日本化学会編「新実験化学講座(第8巻)」、丸善株式会社、昭和52年6月20日、p.1578−1579
【非特許文献2】日本化学会編「第4版実験化学講座(第17巻)」、丸善株式会社、平成3年3月5日、p.284−285
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明はパラジウムアセチルアセトナートを簡便な操作で、かつほぼ100%の収率で製造する方法を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、パラジウムアセチルアセトナートの合成収率が低いと言う問題点を解決すべく鋭意検討を進めた。
まず、パラジウム塩の水溶液と、アセチルアセトンと、アルカリ金属水酸化物水溶液との反応により、パラジウムアセチルアセトナートを合成する工程は、例えば以下のような反応式で表わされる。
PdCl+2AcAcH+2KOH → Pd(AcAc)+2KCl+2HO (式1)
上記反応式中、アセチルアセトン(CHCOCHCOCH;AcAcH)は、それ自身が弱い酸であり溶液中で塩基[MOH(Mはアルカリ金属)]と反応してHを失いAcAcとなる。AcAcの各酸素原子は2つの孤立電子を持っており、このうちの1つがPd2+イオンに供与され(Pd2+イオンと反応し)、パラジウムアセチルアセトナート錯体[Pd(CHCOCHCOCH);Pd(AcAc)]が形成される。
【0005】
この反応に関し、本発明者らの行った検討により次のような知見が得られたのである。すなわち、上記反応式で表される反応を行う場合、50℃以上の温度でアセチルアセトンがアルカリ金属水酸化物水溶液中に長時間存在すると、Pd2+イオンと反応する前に、アセチルアセトンは、アセトンと酢酸への分解が急激に進み、パラジウムアセチルアセトナートの収率を低下させる。さらに、Pd2+イオンとアセチルアセトンの反応は発熱を伴い、アセチルアセトンの分解を促進するのである。
このことは、本発明者の次の検討の結果による。すなわち、水酸化カリウム水溶液とアセチルアセトンとを混合し、アセチルアセトンの経過時間毎の分解率をガスクロマトグラフィーにより測定すると、例えば、0.1%KOH水溶液中でアセチルアセトンは、20℃で60分後には23%、120分後には41%の分解が見られた。また、50℃では60分後に73%の分解が見られ、120分後にはアセトンと酢酸に100%分解していた。しかし、4℃では60分後で8%の分解、120分後で22%の分解と、アセチルアセトンの分解は抑えられていたのである。
【0006】
上記の知見から、パラジウム塩の水溶液と、アセチルアセトンと、アルカリ金属水酸化物水溶液との反応によりパラジウムアセチルアセトナートを合成する工程において、これら溶液の混合および反応時の温度を低温に制御することでアルカリ水溶液中でのアセチルアセトンの分解を防ぐことができ、ほぼ100%の高収率でパラジウムアセチルアセトナートを製造できることを見出した。また、パラジウム塩の水溶液として、塩化パラジウムを室温で塩酸に溶解した水溶液を用いることができ、操作が簡便になることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち、本発明は次のとおりである。
(1)パラジウム塩の水溶液と、アセチルアセトンとを、アルカリ金属水酸化物水溶液存在下、反応温度を30℃以下に制御して反応させることを特徴とする、パラジウムアセチルアセトナートの製造方法。
(2)パラジウム塩の水溶液と、アセチルアセトンとを、アルカリ金属水酸化物水溶液存在下、反応温度を10℃以下に制御して反応させることを特徴とする、パラジウムアセチルアセトナートの製造方法。
(3)パラジウム塩の水溶液が、塩化パラジウムを塩酸水溶液に溶解した水溶液であることを特徴とする、(1)、(2)のいずれかに記載のパラジウムアセチルアセトナートの製造方法。
(4)アルカリ金属水酸化物水溶液が、水酸化カリウム水溶液であることを特徴とする、(1)〜(3)のいずれかに記載のパラジウムアセチルアセトナートの製造方法。
(5)あらかじめパラジウム塩の水溶液とアセチルアセトンとの混合溶液を調製し、この混合溶液に、アルカリ金属水酸化物水溶液を加えて反応させることを特徴とする、(1)〜(4)のいずれかに記載のパラジウムアセチルアセトナートの製造方法。
(6)あらかじめアセチルアセトンとアルカリ金属水酸化物水溶液との混合溶液を調製し、この混合溶液を、パラジウム塩の水溶液に加えて反応させることを特徴とする、(1)〜(4)のいずれかに記載のパラジウムアセチルアセトナートの製造方法。
(7)あらかじめアセチルアセトンとアルカリ金属水酸化物水溶液との混合溶液を調製し、この混合溶液に、パラジウム塩の水溶液を加えて反応させることを特徴とする、(1)〜(4)のいずれかに記載のパラジウムアセチルアセトナートの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、反応に用いられるパラジウム塩溶液であるHPdCl溶液が、塩化パラジウムを室温で塩酸に溶解することで容易に得られるため、操作が簡便でありまた、目的とするパラジウムアセチルアセトナートがほぼ100%の収率で得られる。このためパラジウムを触媒成分とする有機合成反応、重合の分野、医薬品などの製造用原料、自動車排ガス浄化などの機能性無機化合物の製造用原料、電極材の原料などの分野に好適に使用されるパラジウムアセチルアセトナートの製造において大幅なコストダウンが実現でき、用途の拡大が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
パラジウム塩の水溶液とアセチルアセトンとアルカリ金属水酸化物水溶液の反応によりパラジウムアセチルアセトナートを合成する工程において、これら溶液の混合及び反応時の温度を低温に制御してほぼ100%の高収率でパラジウムアセチルアセトナートを製造する方法について以下に詳述する。
パラジウム塩としては、臭化パラジウム、塩化パラジウム、硫酸パラジウム、硝酸パラジウム、酢酸パラジウム、シュウ酸パラジウムなどが挙げられる。またこれらパラジウム塩には、次の式2あるいは式3で表される、前記パラジウム塩のナトリウム、カリウム、アンモニウムなどとの錯塩も含まれる。
[PdX](式2)あるいは M[PdY](式3)
(式中、Mは、Na、K、NHの内の1種、Xは、Br、Cl、NO、CN、CHCOOの内の1種、Yは、SOあるいは〔COO〕を示す。)
【0010】
さらにパラジウム塩のアンミン錯体、例えばPdCl(NH、PdCl(NH、Pd(NO(NH、PdCl(Cなども含まれる。またこれらパラジウム塩、錯塩、アンミン錯体は無水和物、水和物いずれであっても構わない。使用するパラジウム塩の水溶液としては、上に挙げたパラジウム塩、錯塩、アンミン錯体の水溶液を用いることができるが、入手の容易さから塩化パラジウム水溶液を用いることが好ましい。
【0011】
また塩化パラジウム水溶液を用いる場合、塩化パラジウム[PdCl]は水にはほとんど不溶であるため、希塩酸に溶解してH[PdCl]水溶液として使用することが好ましい。H[PdCl]水溶液は、塩化パラジウムを室温で希塩酸に溶解させることで容易に得られる。調製後のH[PdCl]水溶液中のPd濃度は特に制限は無く、また塩酸量がPdモル数の1.7〜6倍モルとなる範囲で任意に塩化パラジウムと希塩酸の比率を選択できるが、操作性や過剰量の塩酸を減らす観点から、塩化パラジウムを3倍の重量の13重量%塩酸に溶解させるのが最も好ましい。工業的には市販されているPd濃度が15重量%程度、かつ全塩酸濃度が10重量%程度であるH[PdCl]水溶液などを使用することも望ましい。但しPdの2倍モルを超える分の過剰の塩酸は、中和するためのアルカリ金属水酸化物水溶液が余分に必要となり無駄である。
【0012】
使用するパラジウム塩水溶液の濃度は特に制限はないが、反応後の操作性を考慮するとPd濃度として0.1〜4mol/kgが好ましく、0.5〜2mol/kgがより好ましい。
【0013】
アセチルアセトンは水溶液にして使用しても構わないが、原液のまま使用することができる。反応に必要なアセチルアセチンはPdモル数の2倍モル(1当量)以上であるが、過剰量のアセチルアセトンはパラジウムアセチルアセトナートの合成には使用されず無駄となるため、使用量はパラジウム塩の水溶液中のPdモル数の2〜6倍モル(1〜3当量)を使用することが好ましい。
使用するアルカリ金属水酸化物水溶液としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなどの水溶液を用いることができるが、工業的に安価に入手でき、また水酸化ナトリウムよりも強い塩基である水酸化カリウムの水溶液を用いることが好ましい。
【0014】
アルカリ金属水酸化物水溶液は、0.5〜2mol/kgの濃度で、パラジウム塩の水溶液中のPdのモル数に対して2〜6倍モル、アセチルアセトンのモル数に対して2〜6倍モルの範囲で使用することがパラジウムアセチルアセトナートの合成を完了させ、反応後のpHを好適な値に保つ上で好ましい。またパラジウム塩の水溶液と、アセチルアセトンと、アルカリ金属水酸化物水溶液とを混合して反応させた後のpHが5〜9の範囲外では収率が低下するため、pHが5〜9になるように前記の範囲内でアルカリ金属水酸化物水溶液の使用量を適宜調整する。アルカリ金属水酸化物水溶液の量を加減することにより、反応した後のpHが5〜9になるようにすることは極めて容易である。
【0015】
パラジウム塩の水溶液とアセチルアセトンとアルカリ金属水酸化物水溶液の反応により、パラジウムアセチルアセトナートを合成する工程において、最初にパラジウム塩の水溶液とアセチルアセトンの混合溶液を調製しておき、この混合溶液にアルカリ金属水酸化物水溶液を加えて反応させる場合の溶液の混合及び反応温度について説明する。パラジウム塩の水溶液にアセチルアセトンを混合する際の温度は室温で構わないが、そこへアルカリ金属水酸化物水溶液を滴下する時の温度を30℃以下に制御することが好ましく、10℃以下に制御することがさらに好ましい。低温であれば低温であるほどアセチルアセトンの分解を抑制することができるので好ましいが、工業的には−10℃より低温に冷却することは、コスト面で困難であり、−10℃以上の温度が選択される。
【0016】
次にパラジウム塩の水溶液とアセチルアセトンとアルカリ金属水酸化物水溶液の反応により、パラジウムアセチルアセトナートを合成する工程において、最初にアセチルアセトンとアルカリ金属水酸化物水溶液の混合溶液を調製しておき、この混合溶液をパラジウム塩水溶液に加えて反応させる場合の溶液の混合及び反応温度について説明する。室温以上の温度でアセチルアセトンがアルカリ金属水酸化物水溶液中に長時間存在すると、アセチルアセトンはアセトンと酢酸への分解が進むので、アセチルアセトンとアルカリ金属水酸化物水溶液の混合する際の温度は、30℃以下に制御すること、さらに好ましくは10℃以下に制御することが必要である。そして、得られた混合溶液を同温度に維持しておくことが必要である。この混合溶液を、パラジウム塩水溶液に滴下する時は、反応液の温度を30℃以下に制御すること、さらに好ましくは10℃以下に制御することが必要である。
【0017】
この場合も工業的に−10℃より低温に冷却することは、コスト面で困難であり、−10℃程度以上の温度が選択される。低温ほどアセチルアセトンの分解を抑えることができること、低温においても時間経過と共に分解が進むことは前述した通りであり、−10℃から30℃以下の温度の選択は、アセチルアセトンとアルカリ金属水酸化物水溶液の混合溶液を、パラジウム塩水溶液に加えて反応させるまでの経過時間で選択される。パラジウム塩の水溶液へのアセチルアセトンとアルカリ金属水酸化物水溶液の混合溶液の滴下は、時間をおかず直ちに行なうことが最も好ましい。しかし工業規模、工業設備においては、滴下に時間を要する場合もある。従って出来るだけ低温に冷却して反応を行なうことが、アセチルアセトンの分解を抑制でき、パラジウムアセチルアセトナートの収率向上につながる。
【0018】
さらに、パラジウム塩の水溶液とアセチルアセトンとアルカリ金属水酸化物水溶液の反応により、パラジウムアセチルアセトナートを合成する工程において、最初にアセチルアセトンとアルカリ金属水酸化物水溶液の混合溶液を調製してこの混合溶液に、パラジウム塩水溶液を加えて反応させる場合の溶液の混合及び反応温度について説明する。室温以上の温度でアセチルアセトンがアルカリ金属水酸化物水溶液中に長時間存在すると、アセチルアセトンはアセトンと酢酸への分解が進むので、アセチルアセトンとアルカリ金属水酸化物水溶液の混合する際の温度は、30℃以下に制御すること、さらに好ましくは10℃以下に制御することが必要である。この混合溶液に、パラジウム塩水溶液を滴下する時は、反応液の温度を30℃以下に制御すること、さらに好ましくは10℃以下に制御することが必要である。
【0019】
この場合も工業的に−10℃より低温に冷却することは、コスト面で困難であり、−10℃程度以上の温度が選択される。低温ほどアセチルアセトンの分解を抑えることができること、低温においても時間経過と共に分解が進むことは前述した通りであり、−10〜30℃以下の温度の選択は、アセチルアセトンとアルカリ金属水酸化物水溶液の混合溶液に、パラジウム塩水溶液を加えて反応させるまでの経過時間で選択される。
【0020】
以上、パラジウム塩の水溶液と、アセチルアセトンと、アルカリ金属水酸化物水溶液とを反応させる場合の3種の混合のしかたを説明したが、いずれの場合も混合後の反応溶液は30℃以下で1〜10時間の撹拌を行ない、ろ過操作によりパラジウムアセチルアセトナートを固体としてろ別することが出来る。得られた固体は充分に水洗した後、30〜150℃で乾燥することにより、純度99%以上のパラジウムアセチルアセトナートが収率99%以上で得られる。
【0021】
なお、生成物のパラジウムアセチルアセトナートの同定は、元素分析により行い、さらにKinnunen,J.,Merikanto,B.,Chemist−Analyst 47,11(1958)記載の方法に準じ、EDTAとBi(NOを用いたキレート逆滴定を行うことにより、合成したパラジウムアセチルアセトナート中のPd含量を測定し、パラジウムアセチルアセトナートの純度を求めた。
【0022】
乾燥方法については特に制限はないが、通風乾燥、真空乾燥などの方法が好適に使用される。また乾燥を必要としない場合は、ろ別することなくあるいは乾燥することなく次の工程で使用することも可能である。
【0023】
以下に実施例により具体的に説明するが、本発明は実施例のみに制限されるものではない。
【実施例1】
【0024】
撹拌装置、温度計、還流冷却管を装着した100ml四ツ口フラスコに、塩化パラジウム8.9g(Pdとして0.05mol)を入れ、13重量%(3.6規定)塩酸26.6gを加えて溶解させ、Pd濃度1.41mol/kgのH[PdCl]水溶液35.5gを調製した。この調製したH[PdCl]水溶液に、アセチルアセトン15.0g(0.15mol)を、室温下で5分かけて滴下し、その後撹拌しながら、4℃に冷却した。そこへ4℃に冷却した濃度1.5mol/kgの水酸化カリウム水溶液14.0g(0.021mol)を5分かけて滴下した。滴下終了時の温度は7℃、pH6.8であった。この溶液を10℃で4時間撹拌し、減圧ろ過により生成物をろ別した。得られた固体を、60℃の通風乾燥機で20時間乾燥した。乾燥後の生成物は、15.3g、純度99.8%のパラジウムアセチルアセトナートであった(収率;99.9%)。
【実施例2】
【0025】
まず、撹拌装置、温度計、還流冷却管を装着した100ml四ツ口フラスコに、塩化パラジウム8.9g(Pdとして0.05mol)を入れ、13重量%(3.6規定)塩酸26.6gを加えて溶解させ、Pd濃度1.41mol/kgのH[PdCl]水溶液35.5gを調製した。そしてこの水溶液を、水とエチレングリコールの混合液を冷媒として使用する冷媒循環装置を用いて4℃に冷却し、同温度に保持した。次に、別の、撹拌装置、温度計、還流冷却管を装着した50ml四ツ口フラスコに、−3℃に冷却した濃度1.5mol/kgの水酸化カリウム水溶液14.0g(0.021mol)を加え、そこにアセチルアセトン15.0g(0.15mol)を5分かけて滴下した。滴下終了時の温度は4℃であった。直ちにこの混合溶液を、上述のあらかじめ調製して冷却してあった、H[PdCl]水溶液中に、撹拌しながら5分かけて滴下した。滴下終了時の温度は7℃、pH8.0であった。この溶液を10℃で4時間撹拌し、減圧ろ過により生成物をろ別した。得られた固体を、60℃の通風乾燥機で20時間乾燥した。乾燥後の生成物は、15.3g、純度99.9%のパラジウムアセチルアセトナートであった(収率;99.9%)。
【実施例3】
【0026】
撹拌装置、温度計、還流冷却管を装着した100ml四ツ口フラスコに、塩化パラジウム8.9g(Pdとして0.05mol)を入れ、13重量%(3.6規定)塩酸26.6gを加え溶解させ、Pd濃度1.41mol/kgのH[PdCl]水溶液35.5gを調製した。調製したH[PdCl]水溶液に、アセチルアセトン15.0g(0.15mol)を、室温下で撹拌しながら5分かけて滴下した。滴下終了時の温度は24℃であった。この塩化パラジウム水溶液とアセチルアセトンの混合溶液中に、冷却しながら、室温に保持した濃度1.5mol/kgの水酸化カリウム水溶液14.0g(0.021mol)を5分かけて滴下した。滴下終了時の温度は28℃、pH6.0であった。この溶液を28℃に保持したまま4時間撹拌し、減圧ろ過により生成物をろ別した。得られた固体は、60℃の通風乾燥機で20時間乾燥した。乾燥後の生成物は、15.2g、純度99.6%のパラジウムアセチルアセトナートであった(収率;99.0%)。
【実施例4】
【0027】
まず、撹拌装置、温度計、還流冷却管を装着した100ml四ツ口フラスコに、塩化パラジウム8.9g(Pdとして0.05mol)を入れ、13重量%(3.6規定)塩酸26.6gを加えて溶解させ、Pd濃度1.41mol/kgのH[PdCl]水溶液35.5gを調製した。次に、別の、撹拌装置、温度計、還流冷却管を装着した50ml四ツ口フラスコに、20℃に冷却した濃度1.5mol/kgの水酸化カリウム水溶液14.0g(0.021mol)を加え、そこにアセチルアセトン15.0g(0.15mol)を5分かけて滴下した。滴下終了時の温度は25℃であった。直ちにこの混合溶液を、上述のあらかじめ調製してあったH[PdCl]水溶液中に、水とエチレングリコールの混合液を冷媒として使用する冷媒循環装置を用いて冷却下撹拌しながら、5分かけて滴下した。滴下終了時の温度は25℃、pH6.2であった。この溶液を25℃に保持したまま4時間撹拌し、減圧ろ過により生成物をろ別した。得られた固体は、60℃の通風乾燥機で20時間乾燥した。乾燥後の生成物は、15.2g、純度99.7%のパラジウムアセチルアセトナートであった(収率;99.1%)。
【実施例5】
【0028】
まず、撹拌装置、温度計、還流冷却管を装着した50ml四ツ口フラスコに、塩化パラジウム8.9g(Pdとして0.05mol)を入れ、13重量%(3.6規定)塩酸26.6gを加えて溶解させ、Pd濃度1.41mol/kgのH[PdCl]水溶液35.5gを調製した。この水溶液を、水とエチレングリコールの混合液を冷媒として使用する冷媒循環装置を用いて4℃に冷却し、同温度に保持した。次に、別の、撹拌装置、温度計、還流冷却管を装着した100ml四ツ口フラスコを、水とエチレングリコールの混合液を冷媒として使用する冷媒循環装置を用いて4℃に冷却し、この中に−3℃に冷却した濃度1.5mol/kgの水酸化カリウム水溶液14.0g(0.021mol)を加え、次にアセチルアセトン15.0g(0.15mol)を5分かけて滴下した。滴下終了時の温度は4℃であった。直ちにこの混合溶液中に、上述のあらかじめ調製して冷却してあったH[PdCl]水溶液を、撹拌しながら5分かけて滴下した。滴下終了時の温度は7℃、pH8.0であった。この溶液を10℃で4時間撹拌し、減圧ろ過により生成物をろ別した。得られた固体は、60℃の通風乾燥機で20時間乾燥した。乾燥後の生成物は、15.3g、純度99.9%のパラジウムアセチルアセトナートであった(収率;99.9%)。
【実施例6】
【0029】
まず、撹拌装置、温度計、還流冷却管を装着した50ml四ツ口フラスコに、塩化パラジウム8.9g(Pdとして0.05mol)を入れ、13重量%(3.6規定)塩酸26.6gを加えて溶解させ、Pd濃度1.41mol/kgのH[PdCl]水溶液35.5gを調製した。次に、別の、撹拌装置、温度計、還流冷却管を装着した100ml四ツ口フラスコに、20℃に冷却した濃度1.5mol/kgの水酸化カリウム水溶液14.0g(0.021mol)を加え、そこにアセチルアセトン15.0g(0.15mol)を5分かけて滴下した。滴下終了時の温度は25℃であった。直ちにこの混合溶液に、上述のあらかじめ調製してあったH[PdCl]水溶液を、冷却下、撹拌しながら5分かけて滴下した。滴下終了時の温度は25℃、pH6.2であった。この溶液を25℃に保持したまま4時間撹拌し、減圧ろ過により生成物をろ別した。得られた固体は、60℃の通風乾燥機で20時間乾燥した。乾燥後の生成物は、15.2g、純度99.7%のパラジウムアセチルアセトナートであった(収率;99.1%)。
【0030】
比較例1
まず、撹拌装置、温度計、還流冷却管を装着した100ml四ツ口フラスコに、塩化パラジウム8.9g(Pdとして0.05mol)を入れ、13重量%(3.6規定)塩酸26.6gを加えて溶解させ、Pd濃度1.41mol/kgのH[PdCl]水溶液35.5gを調製した。次に、別の、撹拌装置、温度計、還流冷却管を装着した50ml四ツ口フラスコに、室温下で濃度1.5mol/kgの水酸化カリウム水溶液14.0g(0.021mol)を加え、そこにアセチルアセトン15.0g(0.15mol)を10分かけて滴下した。滴下終了時の温度は55℃であった。この混合溶液を、上述のあらかじめ調製してあったH[PdCl]水溶液中に、室温下で撹拌しながら10分かけて滴下した。滴下終了時の温度は45℃、pH4.3であった。この溶液を45℃に保持したまま4時間撹拌し、減圧ろ過により生成物をろ別した。得られた固体は、60℃の通風乾燥機で20時間乾燥した。乾燥後の生成物は、11.2g、純度99.3%のパラジウムアセチルアセトナートであった(収率;72.7%)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パラジウム塩の水溶液と、アセチルアセトンとを、アルカリ金属水酸化物水溶液存在下、反応温度を30℃以下に制御して反応させることを特徴とする、パラジウムアセチルアセトナートの製造方法。
【請求項2】
パラジウム塩の水溶液と、アセチルアセトンとを、アルカリ金属水酸化物水溶液存在下、反応温度を10℃以下に制御して反応させることを特徴とする、パラジウムアセチルアセトナートの製造方法。
【請求項3】
パラジウム塩の水溶液が、塩化パラジウムを塩酸水溶液に溶解した水溶液であることを特徴とする、請求項1、2のいずれかに記載のパラジウムアセチルアセトナートの製造方法。
【請求項4】
アルカリ金属水酸化物水溶液が、水酸化カリウム水溶液であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のパラジウムアセチルアセトナートの製造方法。
【請求項5】
あらかじめパラジウム塩の水溶液とアセチルアセトンとの混合溶液を調製し、この混合溶液に、アルカリ金属水酸化物水溶液を加えて反応させることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載のパラジウムアセチルアセトナートの製造方法。
【請求項6】
あらかじめアセチルアセトンとアルカリ金属水酸化物水溶液との混合溶液を調製し、この混合溶液を、パラジウム塩の水溶液に加えて反応させることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載のパラジウムアセチルアセトナートの製造方法。
【請求項7】
あらかじめアセチルアセトンとアルカリ金属水酸化物水溶液との混合溶液を調製し、この混合溶液に、パラジウム塩の水溶液を加えて反応させることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載のパラジウムアセチルアセトナートの製造方法。

【公開番号】特開2007−223905(P2007−223905A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−43229(P2006−43229)
【出願日】平成18年2月21日(2006.2.21)
【出願人】(000242002)北興化学工業株式会社 (182)
【Fターム(参考)】