説明

パラジウム合金の製造方法、及びパラジウム合金

【課題】表面のみならず内部においても加工に好適な硬度を有する、パラジウム合金の製造方法及びパラジウム合金を提供する。
【解決手段】パラジウム合金の製造方法であって、パラジウム:94.5〜97.6質量%、ホウ素:2.4〜5.5質量%の組成割合のパラジウムとホウ素とを水冷坩堝を用いて溶解して均一組成の母合金を製造する第1工程と、少なくとも所定量の前記第1工程により製造した母合金とパラジウムとケイ素を混ぜて溶解して、ホウ素とケイ素を合わせて0.04〜1.0質量%を含有し、少なくともケイ素を0.01〜0.4質量%の範囲で含有し、パラジウムを99.0質量%以上含んだパラジウム合金を製造する第2工程と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パラジウム合金の製造方法、及びパラジウム合金に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、装身具としての指輪やネックレス等においては、明確な区別は無いものの大枠の分類として、高級素材(高品位の白金、白金合金、金、金合金、天然貴石ダイヤモンド等)を用いたジュエリーと呼ばれる商品(宝飾品)と、比較的安価(銀、銀合金、低品位金合金、人工宝石等)な素材を用いた商品がある。
近年、貴金属素材の高騰を受け、白金又は白金合金や、金又は金合金を使用した装身具の価格が高くなり、装飾品の消費市場は縮小する傾向を示してきている。特に、高品位な宝飾品はその影響が大きい。
そこで、このような環境変化に対応するため、高品位な貴金属で素材価値を維持しつつ白金合金や金合金より安価な装飾品としての素材が求められるようになってきている。
また、筆記具においては、付加価値を出すため装飾用の金輪やペン先の部材等に金合金等を用いて機械的性質を確保しながら、高級感を出しているものがあるが、こうした筆記具においても、前記したような理由により、また顧客へのアピールとなるように、白金合金や金合金に代わって新たな貴金属素材により製造することが検討され始めている。
【0003】
こうした背景を受け、最近では、貴金属でありながら白金の価格の約5割、金の価格の約6割と遥かに安価なパラジウム(Pd)が注目され、新たなパラジウム合金による装身具が開発されて市場に流通し始めている。
かかるパラジウム合金には、一部輸入されたPd990という製品もあるが、国内で製造されているパラジウム合金としてはPd950までの純度が主流である。その理由は、パラジウムは、純度が高すぎると装身具の加工時に必要な機械的性質を確保できないだけでなく、柔らかすぎるが故に変形しやすく傷がつきやすいからである。具体的には、例えば指輪等においては、現実問題として要求されるビッカース硬度は80Hv以上であるが、パラジウムは高純度になればなる程ビッカース硬度が低く、純パラジウム(不可避的不純を含む)のビッカース硬度は約40Hv程度と低い。
【0004】
そこで、例えば、特許文献1には、2元系の高純度パラジウムを硬化させる方法として、表面をホウ化させる技術が提案されている。この方法は、宝飾品として使用されるパラジウム又は合金化されたパラジウム合金の表面にホウ素(B)を侵入させ、その表面を硬化させる方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2987314号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の表面処理法では、パラジウム等の表面に侵入させるホウ素の量をコントロールすることが難しく、パラジウムに所望量のホウ素を含ませるのは困難である。
また、ホウ素が侵入したパラジウム等の表面は硬化してビッカース硬度が高いものの、パラジウム等の内部にはホウ素が存在しないため内部のビッカース硬度は高くなっておらず、例えば指輪等へ加工した場合、耐変形性能は十分とはいえなかった。
また、上記の方法では、パラジウム等の表面を硬化させることはできるものの、表面に肌荒れが起こり易く、例えば指輪等を製造する際には、加工後に表面を再度磨く等の後工程が必要となる場合が多く、製造コストのアップに繋がるという問題もある。
【0007】
これに対して、パラジウムにホウ素が内部まで均一に含まれた均一組成のパラジウム合金であれば、表面のみならず内部におけるビッカース硬度が高く、変形にも強く、また、表面をホウ化する必要がないため表面の肌荒れが起こらず、上記した問題を解決できる。しかしながら、パラジウムの内部までホウ素が均一に含まれた均一組成のパラジウム合金を得ることは未だ達成されていない。その理由は、パラジウムとホウ素とを一緒に溶解したとしても、両者は融点差が大きい上に、ホウ素は高融点(約2092℃)で酸化し易いため、均一組成の合金とはなり難いからである。
また、一般に貴金属を溶解する場合、例えば、ZrOまたはSiO等の酸化物を含んだ坩堝を使用するが、こうした坩堝の耐熱限界は2000℃程度であるのに対し、ホウ素の融点が2092℃であり、酸化もし易い。このため、これらの坩堝に所定配合比率でパラジウムとホウ素とを投入して溶解しても、安定した溶融ができず、均質な合金を得るのは難しいという問題がある。
【0008】
ところで、本発明者達は、パラジウム合金において、内部もビッカース硬度が80Hv以上となるパラジウム合金を得るために種々検討した結果、パラジウム合金においてビッカース硬度を高くするには、ホウ素やケイ素を含有すれば良いことが分った。しかし、ホウ素は購入価格が高く、ケイ素はホウ素よりは購入価格が安い反面、同じ含有量だとホウ素に比べてパラジウム合金のビッカース硬度が高くならず、かつケイ素の含有量が多くなると合金が脆くなる傾向を示すことが判り、パラジウム合金にホウ素とケイ素を含有することを思いつき、本発明に至った。
【0009】
本発明の課題は、表面のみならず内部においても加工に好適な硬度を有する、パラジウム合金の製造方法及びパラジウム合金を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、
請求項1に記載の発明は、
パラジウム合金の製造方法であって、
パラジウム:94.5〜97.6質量%、ホウ素:2.4〜5.5質量%の組成割合のパラジウムとホウ素とを水冷坩堝を用いて溶解して均一組成の母合金を製造する第1工程と、
少なくとも所定量の前記第1工程により製造した母合金とパラジウムとケイ素を混ぜて溶解して、
ホウ素とケイ素を合わせて0.04〜1.0質量%を含有し、少なくともケイ素を0.01〜0.4質量%の範囲で含有し、パラジウムを99.0質量%以上含んだパラジウム合金を製造する第2工程と、
を有することを特徴とする。
【0011】
請求項2に記載の発明は、
パラジウム合金の製造方法であって、
パラジウム:94.5〜97.6質量%、ホウ素:2.4〜5.5質量%の組成割合のパラジウムとホウ素とを水冷坩堝を用いて溶解して均一組成の母合金を製造する第1工程と、
少なくとも所定量の前記第1工程により製造した母合金とパラジウムを混ぜてSiOを含んだ坩堝を用いて溶解して、
ホウ素とケイ素を合わせて0.04〜1.0質量を含有し、少なくともケイ素を0.01〜0.4質量%の範囲で含有し、パラジウムを99.0質量%以上含んだパラジウム合金を製造する第2工程と、
を有することを特徴とする。
【0012】
請求項3に記載の発明は、
パラジウム合金の製造方法であって、
パラジウム:94.5〜97.6質量%、ホウ素:2.4〜5.5質量%の組成割合のパラジウムとホウ素とを水冷坩堝を用いて溶解して均一組成の母合金を製造する第1工程と、
Si酸化物で構成された鋳造用坩堝に、少なくとも所定量の前記第1工程により製造した母合金とパラジウムを混合して高周波溶解炉により溶解して、
ホウ素とケイ素を合わせて0.04〜1.0質量%を含有し、少なくともケイ素を0.01〜0.4質量%以内の範囲で含有し、パラジウムを99.0質量%以上含んだパラジウム合金からなる鋳造品を製造する第2工程と、
を有することを特徴とする。
【0013】
請求項4に記載の発明は、
パラジウム合金において、
ホウ素とケイ素を合わせて0.04〜1.0質量%を含有し、少なくともケイ素を0.01〜0.4質量%以内の範囲で含有し、パラジウムを99.0質量%以上含んだことを特徴とする。
【0014】
尚、一般的に単に「パラジウム」、「ホウ素」または「ケイ素」といっても、それぞれには不可避的不純物を含んでいる。例えば、純パラジウムといっても、不可避的不純物が含まれており、本発明におけるパラジウム合金におけるパラジウムの割合については、不可避的不純物を含んだ上でのパラジウムの割合である。また同様に、ホウ素およびケイ素においても不可避的不純物を含んだ上での割合である。
【0015】
本発明において、パラジウムにホウ素が内部まで均一に含まれた均一組成のパラジウム合金であれば、表面のみならず内部におけるビッカース硬度を高くすることが可能である。
【0016】
請求項1に記載のパラジウム合金の製造方法に係る発明において、後で詳述するが、先ずパラジウムにホウ素が内部まで均一に含まれた均一組成の母合金を得て、第2工程でケイ素を添加することになる。
その母合金を得るには、パラジウムとホウ素の共晶点近傍で合金(母合金)を作る必要があり、パラジウムとホウ素の共晶点は、ホウ素の含有量が3.1質量%、5.3質量%近傍の2カ所に存在する。パラジウムとホウ素を溶解する際に、例えば、溶解用として一般的な、SiOを含んだ坩堝を使用した場合には当該坩堝に含まれているケイ素(Si)が、あるいはジルコン坩堝を使用した場合には当該坩堝に含まれているジルコニウム(Zr)が還元溶出してしまい、坩堝を構成する成分が不可避に母合金に混入し、ホウ素の組成割合が減少することが実験結果より判った。そのホウ素の減少量やケイ素やジルコニウムの混入量をコントロールすることは難しく、正確な組成割合の母合金を得るためには水冷坩堝を使用することが重要な構成要件となる。
【0017】
例えば、パラジウムにホウ素を1.0質量%配合したPd990合金を、ケイ素を含有したセラミックス坩堝を使用して溶解した場合、ホウ素の量が0.66〜0.95質量%の範囲に減少し、ケイ素の量が0.02〜0.41質量%の範囲内で含まれ、ホウ素の減少量に相当するケイ素が置換含有されて合金化されることではないことが判った。
【0018】
パラジウム−ホウ素−ケイ素からなる合金を得るには、積極的に微量のケイ素を添加して製造しなくても、請求項2に記載したSiOを含んだ坩堝を用いて製造(例えば鋳造法等により製造)することでケイ素(Si)が還元溶出して、ホウ素の一部に替わって合金に混入されるので、容易にパラジウム−ホウ素−ケイ素からなる合金を得ることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、表面のみならず内部においても加工に好適な硬度を有する、高純度なパラジウム合金を製造することができる。
そして、このような高純度なパラジウム合金であるため、例えば、指輪やネックレス等の装身具の材料として、或いは筆記具のペン先や装飾用の金輪等の部材として、広い用途で用いることができる。
また、装身具としての指輪等や、筆記具に装着する金輪等に用いる場合には、加工時に変形したり傷が付き難くなるので、変形や傷による後工程の必要性がなくなり、品質の向上はもとより製造コストも抑えることができる。
また、色的にもプラチナ合金と比較して遜色ない装身具を、材料費を安くして提供することができるようになる。
また、高純度を維持しているので、顧客に貴金属としての高級感を印象付けることができるとともにプラチナ合金で製造した装身具より安価に提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】Pd−B2元系合金の平衡状態図である。2元系合金状態図(「BINARY ALLOY PHASE DIAGRAMS [SECOND EDITION] Voluume 1 、発行:ASM INTERNATINAL The Materials Infomation Society の第518頁に掲載)
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0022】
本発明におけるパラジウム合金は、例えば、指輪やネックレス等の装身具の材料として、或いは筆記具のペン先や装飾用の金輪等の部材として好適に用いられるものである。
【0023】
かかるパラジウム合金は、ホウ素とケイ素を合わせて0.04〜1.0質量%を含有し、少なくともケイ素を0.01〜0.4質量%以内の範囲で含有した構成としてある。
【0024】
ホウ素とケイ素を合わせて0.04質量%以上含有することで、パラジウム合金の表面及び内部のビッカース硬度を80Hv以上とすることができる。なお、ビッカース硬度を80Hv以上とすることは、市場で流通している宝飾素材Pt900(10%Pd)と同等の硬度であり、例えば指輪等の加工時に要求される機械的性質を確保することである。即ち、かかるビッカース硬度を有することで、パラジウム合金は、加工に好適な硬度を有したものとなっており、パラジウムの純度が高いと変形しやすく傷がつきやすいという欠点が改善されているといえる。
一方、ホウ素とケイ素を合わせて1.0質量%を超えて含有すると、例えば指輪等を切削加工等で製造する際に、合金を所望の厚みにするための圧延加工や、所望の形状にするための加工を行った場合に、加工硬化による硬度上昇に伴い変形抵抗が大きくなる。このため、製品とするための加工が困難となったり、加工時に割れが生じやすくなったりすることで、生産性が低下するという問題が生じるため好ましくない。
【0025】
より具体的には、パラジウム合金を用いて製造品を製造するには、切削やプレス等の機械加工による製造方法や鋳型により成形して製造する鋳造による製造方法がある。前者の製造法では、前記したように、圧延やプレス加工等の機械加工を経るためパラジウム合金が加工硬化をおこして硬度が増し、製品とするための加工が困難となるのが、後者の製造方法では、製造品として複雑で繊細な形状が得られ、前記したような後加工での圧延加工や、切削加工を行う必要が無いので、合金の表面及び内部のビッカース硬度が比較的高くても問題ないが、製造品の表面を磨く工程等が必要となる場合があるので、やはりビッカース硬度があまり高くならない方が好ましく、この点からもホウ素とケイ素を合わせて1.0質量%の範囲内で含有することが好ましい。
また、ケイ素を0.01質量%以上含有すれば、後述する「表2」の参考例8に示すように、純パラジウム(比較例1)に比べて、ビッカース硬度が10Hv以上高くなり、測定誤差以上に硬度が高くなっているので、確実に硬度の上昇が得られる。ケイ素を0.4質量%を超えて含有すると、脆くなり、製品とするための加工が困難となったり、加工時に割れが生じやすくなったりすることで、生産性が低下するという問題が生じるため好ましくない。
【0026】
また、ケイ素を含有させたもう一つの理由は、指輪等を製造する際の切削加工において切削性が良くなるからである。
カットリングの製造は、一般的には次のような工程からなる。
a.先ず、パラジウム合金等のインゴットを製造する工程、
b.前記板材を圧延・焼鈍を繰り返して所定の板厚にする工程。
c.メンコ抜き(ドーナツ形状に打ち抜き)し、プレス成型して指輪に形成する工程。
e.必要に応じて焼鈍しながら指輪のサイズを拡張する工程。
f.幅詰め切削(旋盤にて指輪の幅を所定の寸法)および外径切削(旋盤にて指輪の形状を甲丸とか平とかの形状に切削)を行い、指輪に製造する工程。
上記切削工程においてはダイヤバイトを用いて切削を行っているが、パラジウム−ホウ素の合金、パラジウム−ホウ素−ケイ素の合金、パラジウム−ケイ素の合金の各指輪の製造における切削工程において、1本のバイトで切削できる指輪の数に差があることが判った。その結果を表1に示す。
【0027】
【表1】

【0028】
表1において「参考硬度」とは、前記外径切削工程後で甲丸型の指輪(内径サイズ18号)に形成した指輪の表面層の3箇所をビッカース硬度(Hv)測定し、その平均値を求めたものである。圧延工程や切削工程により、パラジウム合金の焼鈍後の板材時の硬度よりは高くなる。「塑性加工評価」とは、前記b〜eにおける加工の工程において、割れが生じたか否かを目視検査し、割れが生じなかった場合は「○」とし、割れが生じた場合は「×」とした。
【0029】
表1に示すように、参考例1の0.2質量%のホウ素を含有し残部をパラジウムとしたパラジウム合金の指輪(表面層のビッカース硬度:204Hv)の製造にあたって前記したバイトで外径切削を行った際は、約200本程度切削すると交換が必要となった。また、参考例2の1.0質量%のホウ素を含有し残部をパラジウムとしたパラジウム合金の指輪(表面層のビッカース硬度:356Hv)の製造においても、約250本程度切削すると交換が必要となり、参考例3の0.05質量%のホウ素および0.05質量%のケイ素を含有し残部をパラジウムとしたパラジウム合金の指輪(表面層のビッカース硬度:212Hv)の製造においても、約200本程度切削すると交換が必要となった。
これに対し、参考例4の0.17質量%のホウ素および0.13質量%のケイ素を含有し残部をパラジウムとしたパラジウム合金の指輪(表面層のビッカース硬度:282Hv)の製造にあたっては、約300本程度の切削が可能であった。また、参考例5の0.09質量%のケイ素を含有し残部をパラジウムとしたパラジウム合金の指輪(表面層のビッカース硬度:164Hv)の製造にあたっても、約300本程度の切削ができ、参考例6の0.4質量%のケイ素を含有し残部をパラジウムとしたパラジウム合金の指輪(表面層のビッカース硬度:285Hv)の製造にあたっても、約400本程度の切削ができた。
したがって、ケイ素を0.09〜0.4質量%含有量していると切削性の向上が見られた。また、参考例7に示すように、ケイ素の含有量が0.6質量%だと脆くなり、圧延工程において板材に割れが生じてしまった。
【0030】
次に、上記した本発明のパラジウム合金の製造方法について説明する。
本発明のパラジウム合金の製造方法は、均一組成の母合金を製造する第1工程と、前記母合金を用いて高純度パラジウム合金を製造する第2工程と、を有している。
かかる製造方法は、パラジウムにホウ素を表面から内部まで均一に含有させて合金化する方法として、パラジウムとホウ素が共晶点を持つことに注目し、先ず、共晶点近傍で合金(母合金)を作り、次に、融点を下げた均質な合金(母合金)を使用して所定の配合のパラジウムとホウ素の合金(所望の高純度なパラジウム合金)を製造するものである。
なお、パラジウムとホウ素の共晶点は、3.1%近傍、5.3%近傍の2カ所に存在するが、以下、3.1%近傍の共晶点を例にとって説明する。
【0031】
先ず、第1工程において、パラジウムとホウ素とを、これらの2元系合金の平衡状態図(図1)における共晶点の近傍の組成であるパラジウム96.90質量%−ホウ素3.10質量%の比率で配合し、水冷坩堝を用いて溶解することで、パラジウムにホウ素が内部まで均一に含有された母合金を得る。
【0032】
ここで、水冷坩堝とは、熱伝導性の良い金属で形成された坩堝であって、一般的には銅で形成されている。水冷坩堝を用いて内容物(各種金属)を溶解する際には、例えば水等の冷媒により冷却しながら行われる。水冷坩堝の熱源としては、例えば、アーク、プラズマ、電子ビーム、高周波等などが用いられる。
この水冷坩堝を使えば溶解物を3000℃以上の高温まで昇温できるため、パラジウムと、高融点(2092℃)のホウ素とを、均一に溶解することができる。
また、パラジウム−ホウ素系合金は、例えばセラミックス坩堝を使用して溶解すると坩堝成分が還元されて溶解中の合金の中に混入し3元系の合金になってしまうが、水冷坩堝を使えば坩堝がホウ素と反応することなく、坩堝成分の合金への混入が起こらず、均質な2元系のパラジウム合金を製造することができる。
こうした水冷坩堝により、パラジウムとホウ素の両者が溶解過程でともに溶解し合金化が進むと固相線と液相線が同じとなる共晶点1065℃が融点となる。共晶点付近では凝固温度範囲が狭く、所謂「てこの原理」が働きにくいので偏析が起きにくく、繰り返し溶解することで共晶点では均一な合金が得られることとなる。
【0033】
このとき、母合金におけるパラジウムとホウ素の割合が共晶点ピッタリとなる割合で合金化することは事実上困難で、共晶点からの若干のずれは仕方がない。鋭意実験の結果、凝固温度範囲として115℃程度は問題がないことが分かった。
実際に約115℃の凝固温度範囲を持つ5.50%で母合金50gを作成後、破砕して4ブロックに分け、各ブロックからサンプリングしてICP分析を実施した結果、5.25%〜5.42%で最大誤差率4.5%だった。同様に2.40%で母合金50gを作成後、破砕して5ブロックに分け、各ブロックからサンプリングしてICP分析を実施した結果、2.29〜2.37%で最大誤差率4.6%だった。
また、5.5%配合の母合金を使用してパラジウム−1%ホウ素の合金となるように溶解を行ったが、実際の母合金の分析値が5.25%だった場合、パラジウム−0.96%ホウ素の合金となる。2.4%配合の母合金を使用してパラジウム−1%ホウ素の合金となるように溶解を行ったが、実際の母合金の分析値が2.29%だった場合、パラジウム−0.95%ホウ素の合金となり、ホウ素量の0.05%レベルのずれは機械的性質にほとんど影響を与えないレベルであると言える。
また、5.5%配合の母合金を使用してパラジウム−0.03%ホウ素の合金となるように溶解を行ったが、実際の母合金の分析値が5.25%だった場合、パラジウム−0.029%ホウ素の合金となる。2.4%配合の母合金を使用してパラジウム−0.03%ホウ素の合金となるように溶解を行ったが、実際の母合金の分析値が2.29%だった場合、パラジウム−0.029%ホウ素の合金となり、ホウ素の量の0.001%レベルのずれは機械的性質にほとんど影響を与えないレベルであると言える。
従って、115℃程度の凝固温度範囲であれば、実生産上問題のない母合金を作製することができ、ホウ素量2.4%〜5.5%の範囲であれば、安定した母合金を作製することができ、パラジウムが94.5〜97.6質量%であって、ホウ素が2.4〜5.5質量%の範囲で配合することができる。
【0034】
さらに好ましくは、凝固温度範囲50℃以下が好ましい。
実際に約50℃の凝固温度範囲を持つ5.40%で母合金50gを作成後、破砕して4ブロックに分け、各ブロックからサンプリングしてICP分析を実施した結果、5.35%〜5.29%で最大誤差率2.0%だった。同様に2.80%で母合金を作製後、破砕して5ブロックに分け、各ブロックからサンプリングしてICP分析を実施した結果、2.74%〜2.77%で最大誤差率2.1%だった。従って、50℃程度の凝固温度範囲であれば、安定した母合金を作製することができ、ホウ素量2.8%〜3.9%、5.0%〜5.4%の範囲であれば、安定した母合金を作製することができる。
従って、パラジウムが94.6〜95.0質量%であって、ホウ素が5.0〜5.4質量%、パラジウムが96.1〜97.2質量%であって、ホウ素が2.8〜3.9質量%の範囲で配合することができる。
【0035】
また、共晶点は、3.1%近傍と5.3%近傍に認められるが、好ましくは、3.1%近傍の共晶点を使用する方が好ましい。5.3%近傍の共晶組成はPdとβBの2相でありβBが存在する。一方の3.1%近傍の共晶組成はPd固溶体とPdまたはPdBあるいはPd16等の金属間化合物の相からなる。
5.3%近傍の共晶組成はβB相を含むため酸化しやすい面があるが、3.1%近傍の共晶組成はパラジウムを主成分とする相のみからなり酸化しにくく、また凝固温度範囲の立ち上がりが緩慢で管理がしやすく好ましい。
【0036】
次に、第2工程において、上記第1工程により製造した母合金と所定量のパラジウムとケイ素を混ぜて水冷坩堝を用いて溶解し、少なくともケイ素を0.01〜0.4質量%の範囲で含有し、パラジウムを99.0質量%以上含んだパラジウム合金を製造する(請求項1)。
または、上記第1工程により製造した母合金と所定量のパラジウムをSiOを含んだ坩堝を用いて溶解して、少なくともケイ素を0.01〜0.4質量%の範囲で含有し、パラジウムを99.0質量%以上含んだパラジウム合金を製造する(請求項2)。
または、Si酸化物で構成された鋳造用坩堝に、少なくとも所定量の上記第1工程により製造した母合金とパラジウムを混合して高周波溶解炉により溶解して、ホウ素とケイ素を合わせて0.04〜1.0質量%を含有し、少なくともケイ素を0.01〜0.4質量%以内の範囲で含有し、パラジウムを99.0質量%以上含んだパラジウム合金からなる鋳造品を製造する(請求項3)。
【0037】
なお、請求項1〜3の発明において、均質な母合金を得るためにパラジウムとホウ素の共晶近傍組成の2元合金で溶解することが必要であるが、第2工程においては、第1工程で作製した母合金を含み、パラジウムの純度を調整するために例えば、Ag、Cu、Niを添加して純度調整しても良い。また、請求項3の発明のパラジウム合金においても、前記した量のパラジウムとホウ素以外に前記したような他元素を微量含んでいても良い。
【0038】
前記パラジウム合金を用いた製造品は、例えばカットリングのように、得られた合金を圧延、プレス等の機械加工を経て、または鋳型中で成形する鋳造法により製造される。
【0039】
[実施例]
以下、実施例により、本発明のパラジウム合金について具体的に説明する。
【0040】
(実施例1)
先ず、パラジウム48.45gと、ホウ素1.55gを銅製の水冷ハース上にのせ、真空排気後、アルゴン置換したアーク炉(以下、真空置換型アーク炉という)で溶解して、ホウ素をパラジウムとホウ素の共晶点の近傍である3.1質量%含有したパラジウムとホウ素とからなる均一組成の母合金を50g製造した。
次に、製造した母合金0.48g(パラジウム0.465g、ホウ素0.015gを含有)と、パラジウム49.485gとケイ素0.035gを銅製の水冷ハース上にのせ真空置換型アーク炉で溶解し、圧延・焼鈍してパラジウムを99.90質量%、ホウ素を0.03質量%、ケイ素を0.07質量%含有したパラジウム合金50gの板材を製造して、実施例1とした。
【0041】
(実施例2)
実施例1と同様にして製造した母合金0.81g(パラジウム0.785g、ホウ素0.025gを含有)と、のパラジウム49.165gとケイ素0.025gを銅製の水冷ハース上にのせ真空置換型アーク炉で溶解し、パラジウムを99.90質量%、ホウ素を0.05質量%、ケイ素を0.05質量%含有したパラジウム合金50gの板材を製造して、実施例2とした。
【0042】
(実施例3)
実施例1と同様にして製造した母合金1.13g(パラジウム1.095g、ホウ素0.035gを含有)と、パラジウム48.86gとケイ素0.01gを銅製の水冷ハース上にのせ真空置換型アーク炉で溶解し、圧延・焼鈍してパラジウムを99.91質量%、ホウ素を0.07質量%、ケイ素を0.02質量%含有したパラジウム合金50gの板材を製造して、実施例3とした。
【0043】
(実施例4)
実施例1と同様にして製造した母合金1.45g(パラジウム1.405g、ホウ素0.045gを含有)と、パラジウム48.545gとケイ素0.005gを銅製の水冷ハース上にのせ真空置換型アーク炉で溶解し、圧延・焼鈍してパラジウムを99.90質量%、ホウ素を0.09質量%、ケイ素を0.01質量%含有したパラジウム合金50gの板材を製造して、実施例4とした。
【0044】
(実施例5)
実施例1と同様にして製造した母合金4.84g(パラジウム4.69g、ホウ素0.15gを含有)と、パラジウム45.06gとケイ素0.10gを銅製の水冷ハース上にのせ真空置換型アーク炉で溶解し、圧延・焼鈍してパラジウムを99.50質量%、ホウ素を0.3質量%、ケイ素を0.2質量%含有したパラジウム合金50gの板材を製造して、実施例5とした。
【0045】
(実施例6)
実施例1と同様にして製造した母合金8.06g(パラジウム7.81g、ホウ素0.25gを含有)と、パラジウム41.69gとケイ素0.08gと他の添加物としてAg、Cu、Niから選んだそれぞれ1種を0.17gを銅製の水冷ハース上にのせ真空置換型アーク炉で溶解し、圧延・焼鈍してパラジウムを99.00質量%、ホウ素を0.5質量%、ケイ素を0.16質量%含有したパラジウム合金50gの板材を製造して、実施例6とした。
【0046】
(実施例7)
実施例1と同様にして製造した母合金9.68g(パラジウム9.38g、ホウ素0.30gを含有)と、パラジウム40.12gとケイ素0.20gを銅製の水冷ハース上にのせ真空置換型アーク炉で溶解し、圧延・焼鈍してパラジウムを99.00質量%、ホウ素を0.6質量%、ケイ素を0.4質量%含有したパラジウム合金50gの板材を製造して、実施例7とした。
【0047】
(実施例8)
実施例1と同様にして製造した母合金12.90g(パラジウム12.50g、ホウ素0.40gを含有)と、パラジウム37.01gとケイ素0.05gと他の添加物としてAg、Cu、Niから選んだそれぞれ1種を0.04gを銅製の水冷ハース上にのせ真空置換型アーク炉で溶解し、圧延・焼鈍してパラジウムを99.02質量%、ホウ素を0.8質量%、ケイ素を0.1質量%含有したパラジウム合金50gの板材を製造して、実施例8とした。
【0048】
(実施例9)
実施例1と同様にして製造した母合金12.90g(パラジウム12.50g、ホウ素0.40gを含有)と、パラジウム37.0gとケイ素0.10gを銅製の水冷ハース上にのせ真空置換型アーク炉で溶解し、圧延・焼鈍してパラジウムを99.00質量%、ホウ素を0.8質量%、ケイ素を0.2質量%含有したパラジウム合金50gの板材を製造して、実施例9とした。
【0049】
(実施例10)
実施例1と同様にして製造した母合金0.484g(パラジウム0.469g、ホウ素0.015gを含有)と、パラジウム49.511gとケイ素0.005gを銅製の水冷ハース上にのせ真空置換型アーク炉で溶解し、圧延・焼鈍してパラジウムを99.96質量%、ホウ素を0.03質量%、ケイ素を0.01質量%含有したパラジウム合金50gの板材を製造して、実施例10とした。
【0050】
(比較例1)
純パラジウム50gの板材を、比較例1とした。
【0051】
(比較例2)
実施例1と同様にして製造した母合金0.16g(パラジウム0.155g、ホウ素0.005gを含有)と、パラジウム49.835gとケイ素0.005gを銅製の水冷ハース上にのせ真空置換型アーク炉で溶解し、圧延・焼鈍してパラジウムを99.98質量%、ホウ素を0.01質量%、ケイ素を0.01質量%含有したパラジウム合金50gの板材を製造して、比較例2とした。
【0052】
(比較例3)
実施例1と同様にして製造した母合金0.32g(パラジウム0.31g、ホウ素0.01gを含有)と、パラジウム49.675gとケイ素0.005gを銅製の水冷ハース上にのせ真空置換型アーク炉で溶解し、圧延・焼鈍してパラジウムを99.97質量%、ホウ素を0.02質量%、ケイ素を0.01質量%含有したパラジウム合金50gの板材を製造して、比較例3とした。
【0053】
(比較例4)
実施例1と同様にして製造した母合金1.61g(パラジウム1.56g、ホウ素0.05gを含有)と、パラジウム47.99gとケイ素0.40gを銅製の水冷ハース上にのせ真空置換型アーク炉で溶解し、圧延・焼鈍してパラジウムを99.10質量%、ホウ素を0.1質量%、ケイ素を0.8質量%含有したパラジウム合金50gの板材を製造して、比較例4とした。
【0054】
(比較例5)
実施例1と同様にして製造した母合金14.52g(パラジウム14.07g、ホウ素0.45gを含有)と、パラジウム35.23gとケイ素0.25gを銅製の水冷ハース上にのせ真空置換型アーク炉で溶解し、圧延・焼鈍してパラジウムを98.60質量%、ホウ素を0.9質量%、ケイ素を0.5質量%含有したパラジウム合金50gの板材を製造して、比較例5とした。
【0055】
(比較例6)
実施例1と同様にして製造した母合金19.35g(パラジウム18.75g、ホウ素0.60gを含有)と、パラジウム30.35gとケイ素0.3gを銅製の水冷ハース上にのせ真空置換型アーク炉で溶解し、圧延・焼鈍してパラジウムを98.2質量%、ホウ素を1.2質量%、ケイ素を0.6質量%含有したパラジウム合金50gの板材を製造して、比較例6とした。
【0056】
(参考例8)
先ず、パラジウム48.0gと、ケイ素2.0gを銅製の水冷ハース上にのせ、真空排気後、アルゴン置換したアーク炉(以下、真空置換型アーク炉という)で溶解して、ケイ素をパラジウムとケイ素の共晶点の近傍である4.0質量%含有したパラジウムとケイ素とからなる均一組成の母合金を50g製造した。
次に、製造した母合金0.125g(パラジウム0.12g、ケイ素0.005gを含有)と、パラジウム49.875gを銅製の水冷ハース上にのせ真空置換型アーク炉で溶解し、圧延・焼鈍してパラジウムを99.99質量%、ケイ素を0.01質量%含有したパラジウム合金50gの板材を製造して、参考例8とした。
【0057】
<評価方法>
(1.硬度)
実施例1〜10、比較例1〜6の板材について、表面層の3箇所にてビッカース硬度(Hv)を測定し、その平均値を求めた。
また、各板材を切断して内部の3箇所にてビッカース硬度(Hv)を測定し、その平均値を求めた。その結果は表2に示した通りである。
【0058】
(2.圧延加工評価)
実施例1〜10、比較例1〜6及び参考例8の板材について、圧延加工して割れが生じたか否かを目視検査し、下記のように評価した。その結果は表2に示した通りである。
割れが生じない・・・○
割れが生じた・・・×
【0059】
(3.表面状態)
表記していないが、実施例1〜10、比較例1〜6及び参考例8の板材について、表面の肌荒れ状態を目視観察したが、各板材の表面状態はどれも良好で、実施例と比較例においての差はみられなかった。
【0060】
【表2】

【0061】
実施例6においては、パラジウム、ホウ素およびケイ素の割合が同じなので、他の添加物:MとしてAg、Cu、Niから選んだそれぞれ1種を添加しても、それぞれのビッカース硬度に差はなく、表面層のビッカース硬度は303Hvで、内部はビッカース硬度が300Hvであった。同様に、実施例8においても、パラジウム、ホウ素およびケイ素の割合が同じなので、他の添加物:MとしてAg、Cu、Niから選んだそれぞれ1種を添加しても、それぞれのビッカース硬度に差はなく、表面層のビッカース硬度は308Hvで、内部はビッカース硬度が310Hvであった。
比較例1〜3は、パラジウム合金の板材における表面と内部のビッカース硬度が80Hv未満であり、例えば装飾品としての指輪の材料として用いる場合には、指輪を鋳造により製造した際に製品として傷が付き易いという問題があり、好ましくない。
比較例4〜5は、ビッカース硬度は245Hv以上有るが、ケイ素の量が多く、圧延加工の際に割れてしまった。
比較例6は、ビッカース硬度が380Hv以上と高くかつケイ素の量が多く、圧延加工の際に割れてしまった。
参考例8は、圧延加工の際に割れることはないが、比較例1の純パラジウム合金よりビッカース硬度が10Hv以上高くなっているものの、80Hv未満であった。
【0062】
(実施例11)
先ず、実施例1と同様にして製造した母合金4.84g(パラジウム4.69g、ホウ素0.15gを含有)と、計算上のホウ素の割合が0.3質量%となるようにパラジウム45.16gとをシリカ坩堝に混合して遠心鋳造機を用いて鋳造により指輪を製造して、実施例11とした。
【0063】
(実施例12)
先ず、前記実施例1と同様に、パラジウム145.35gと、ホウ素4.65gを銅製の水冷ハース上にのせ、真空排気後、アルゴン置換したアーク炉(以下、真空置換型アーク炉という)で溶解して、ホウ素をパラジウムとホウ素の共晶点近傍である3.1質量%含有したパラジウムとホウ素とからなる均一組成の母合金を150g製造した。
【0064】
次に、製造した母合金11.64g(パラジウム11.29g、ホウ素0.35gを含有)と、計算上のホウ素の割合が0.5質量%となるようにパラジウム58.36gとをシリカ坩堝に混合して遠心鋳造機を用いて鋳造により指輪を製造し、実施例12とした。
【0065】
(実施例13)
実施例12と同様にして製造した母合金16.30g(パラジウム15.81g、ホウ素0.49gを含有)と、計算上のホウ素の割合が0.7質量%となるようにパラジウム53.70gとをシリカ坩堝に混合して遠心鋳造機を用いて鋳造により指輪を製造し、実施例13とした。
【0066】
(実施例14)
実施例12と同様にして製造した母合金18.62g(パラジウム18.06g、ホウ素0.56gを含有)と、計算上のホウ素の割合が0.8質量%となるようにパラジウム51.38gとをシリカ坩堝に混合して遠心鋳造機を用いて鋳造により指輪を製造し、実施例14とした。
【0067】
(実施例15)
実施例12と同様にして製造した母合金23.28g(パラジウム22.58g、ホウ素0.70gを含有)と、計算上のホウ素の割合が1.0質量%となるようにパラジウム46.72gとをシリカ坩堝に混合して遠心鋳造機を用いて鋳造により指輪を製造し、実施例15とした。
【0068】
(比較例7)
実施例12と同様にして製造した母合金32.59g(パラジウム31.61g、ホウ素0.98gを含有)と、計算上のホウ素の割合が1.4質量%となるようにパラジウム37.41gとをシリカ坩堝に混合して遠心鋳造機を用いて鋳造により指輪を製造し、比較例7とした。
【0069】
(比較例8)
実施例12と同様にして製造した母合金46.56g(パラジウム45.16g、ホウ素1.40gを含有)と、計算上のホウ素の割合が2.0質量%となるようにパラジウム23.44gとをシリカ坩堝に混合して遠心鋳造機を用いて鋳造により指輪を製造し、比較例8とした。
【0070】
前記実施例11〜15及び比較例7〜8の各指輪における実際のホウ素とケイ素の割合を、ICP発光分析装置により求めた。残部をパラジウムの割合とし、その結果は表3に示した。
【0071】
<評価方法>
(1.硬度)
実施例11〜15及び比較例7〜8の指輪について、表面の3箇所にてビッカース硬度(Hv)を測定し、その平均値を求めた。
また、各指輪を切断して内部の3箇所にてビッカース硬度(Hv)を測定し、その平均値を求めた。その結果は表3に示した通りである。
【0072】
【表3】

【0073】
比較例7及び比較例8は、指輪の表面と内部のビッカース硬度が385Hv以上で表面硬度が500Hvとなり、後に指輪に宝石を取付けるタイプの指輪等では石留加工が必要となるが、硬度が高すぎると加工し難くなるという問題が生じてしまう。また、指輪等の表面の硬度が高すぎると、指輪の表面を磨く工程において、磨き難いという問題も起こる。
【0074】
尚、実施例11〜15及び比較例7〜8の指輪において、各指輪の表面のビッカース硬度が400Hv以上と内部のビッカース硬度よりかなり高くなっているが、理由は定かではないが、指輪を成形する型材を無結合型シリカ系埋没材で形成したために、型材を形成するケイ素(Si)が還元溶出して、ホウ素の一部に替わって指輪の表面に混入した結果と思われる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パラジウム合金の製造方法であって、
パラジウム:94.5〜97.6質量%、ホウ素:2.4〜5.5質量%の組成割合のパラジウムとホウ素とを水冷坩堝を用いて溶解して均一組成の母合金を製造する第1工程と、
少なくとも所定量の前記第1工程により製造した母合金とパラジウムとケイ素を混ぜて溶解して、
ホウ素とケイ素を合わせて0.04〜1.0質量%を含有し、少なくともケイ素を0.01〜0.4質量%の範囲で含有し、パラジウムを99.0質量%以上含んだパラジウム合金を製造する第2工程と、
を有することを特徴とするパラジウム合金の製造方法。
【請求項2】
パラジウム合金の製造方法であって、
パラジウム:94.5〜97.6質量%、ホウ素:2.4〜5.5質量%の組成割合のパラジウムとホウ素とを水冷坩堝を用いて溶解して均一組成の母合金を製造する第1工程と、
少なくとも所定量の前記第1工程により製造した母合金とのパラジウムを混ぜてSiOを含んだ坩堝を用いて溶解して、
ホウ素とケイ素を合わせて0.04〜1.0質量%を含有し、少なくともケイ素を0.01〜0.4質量%の範囲で含有し、パラジウムを99.0質量%以上含んだパラジウム合金を製造する第2工程と、
を有することを特徴とするパラジウム合金の製造方法。
【請求項3】
パラジウム合金の製造方法であって、
パラジウム:94.5〜97.6質量%、ホウ素:2.4〜5.5質量%の組成割合のパラジウムとホウ素とを水冷坩堝を用いて溶解して均一組成の母合金を製造する第1工程と、
Si酸化物で構成された鋳造用坩堝に、少なくとも所定量の前記第1工程により製造した母合金とパラジウムを混入して高周波溶解炉により溶解して、
ホウ素とケイ素を合わせて0.04〜1.0質量%を含有し、少なくともケイ素を0.01〜0.4質量%以内の範囲で含有し、パラジウムを99.0質量%以上含んだパラジウム合金からなる鋳造品を製造する第2工程と、
を有することを特徴とするパラジウム合金の製造方法。
【請求項4】
パラジウム合金において、
ホウ素とケイ素を合わせて0.04〜1.0質量%を含有し、少なくともケイ素を0.01〜0.4質量%以内の範囲で含有し、パラジウムを99.0質量%以上含んだことを特徴とするパラジウム合金。

【図1】
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