説明

パラ型全芳香族コポリアミド繊維およびその製造方法

【課題】引張強度等の機械的物性に優れたパラ型芳香族コポリアミド繊維およびその製造方法を提供する。
【解決手段】5−アミノ−2−(4−アミノフェニレン)ベンズイミダゾールを共重合一成分に持つ定構造のパラ型全芳香族コポリアミド繊維の製造にあたり、凝固工程における紡糸ドラフトが、1.5〜6であり、延伸工程における延伸倍率が、1.3〜2.0倍の範囲で、かつ走行する繊維束に掛かる張力を、それぞれ一定範囲内に調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、引張強度などの機械的物性に優れたパラ型全芳香族コポリアミド繊維およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、芳香族ジカルボン酸成分と芳香族ジアミン成分とを主成分としてなるパラ型全芳香族ポリアミド繊維は、その強度、高弾性率、高耐熱性等の特徴を有することから、様々な産業資材用途や、防弾・防刃材といった防護衣料用途等で幅広く用いられている。
【0003】
代表的なパラ型全芳香族ポリアミド繊維としては、例えば、ポリパラフェニレンテレフタルアミド(以下PPTAと記す)繊維が知られている。そして、このPPTA繊維は、前述の特徴を持ち、幅広く使用されている。しかし一方で、PPTAポリマーは汎用の有機溶剤には不溶であるため、溶媒に濃硫酸を使用したポリマードープを用いなければならないという問題があった。また、繊維物性としても、引張強度や耐薬品性、耐光性等が十分高いものではなく、さらに、擦過等により容易に繊維がフィブリル化する等、幾つかの問題があった。
【0004】
そこで、前述の問題を解消するために、汎用のアミド系溶媒に対して高い溶解性を示し、これにより濃硫酸を用いることなく紡糸でき、且つ製糸工程における熱延伸や熱処理等により、高い引張強度や耐薬品性、耐光性、耐フィブリル性を有するパラ型全芳香族コポリアミド繊維の製造方法の開発がなされている。
【0005】
このような等方性のポリマードープを用いてパラ型全芳香族コポリアミド繊維を製造する場合には、口金から吐出される段階では配向はほとんど起こっておらず、凝固工程や延伸工程等の工程を経ることで繊維中の分子構造が徐々に緻密になり、最終的に高強度等の機械的物性に優れた繊維が得られる。そして、製造工程の中でも、等方性のポリマードープから最初に繊維構造が形成される凝固工程や、分子配向がより促進され得る延伸工程が、分子配向の促進や緻密な分子構造形成のために非常に重要であり、さらに、このような分子配向の促進や緻密な分子構造形成は、得られる繊維の機械的物性に大きく影響していると考えられる。
【0006】
そういった観点から、例えば、特許文献1および2には、等方性のポリマードープを用いた様々な分子構造を有するパラ型全芳香族コポリアミド繊維の製造方法が記載されている。しかしながら、繊維の分子構造や機械的物性に大きく関わる、凝固工程や延伸工程における条件等については十分な検討はなされていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−300534号公報
【特許文献2】特開2006−207064公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、かかる従来技術を背景になされたものであり、その目的とするところは、等方性のポリマードープを用いたパラ型全芳香族コポリアミド繊維の製糸プロセスにおける凝固工程および延伸工程に着目し、更なる高強度化等、機械的特性に優れたパラ型全芳香族コポリアミド繊維およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討を行った。そして、凝固工程において走行する繊維束の張力が、凝固浴中ローラーの回転速度条件や材質、また紡糸ドラフトにより大きく変化すること、さらに、このような凝固工程を走行する繊維束に掛かる張力が、その後の延伸工程を走行する繊維束に掛かる張力に大きく影響し、またそれら張力は最終的に得られる繊維の機械的物性と明らかに相関があることに着目した。
【0010】
そして、凝固工程や延伸工程を走行する繊維束に掛かる張力を、それぞれある一定範囲内に調整することにより、従来に比べ強度等の機械的物性が明らかに優れたパラ型全芳香族コポリアミド繊維が得られることを見出し、本発明を完成するに到達した。
【0011】
すなわち本発明は、下記化学構造式(1)、および下記化学構造式(2)で示される構造反復単位を含み、引張強度が30〜40cN/dtexであるパラ型全芳香族コポリアミド繊維である。
【0012】
【化1】

(ArおよびArは独立であり、非置換あるいは置換された2価の芳香族基である。)
【化2】

(Arは非置換あるいは置換された2価の芳香族基である。)
【0013】
また別の本発明は、下記化学構造式(1)、および下記化学構造式(2)で示される構造反復単位を含むパラ型全芳香族コポリアミド繊維の製造方法であって、半乾半湿式紡糸法により紡糸口金からエアギャップを介してポリマードープを凝固液中に吐出して凝固させることにより、凝固糸を得る凝固工程において、前記凝固液内を走行させる凝固糸束の張力を、下記式(3)を満たすよう制御し、且つその後の延伸工程において、延伸時の繊維束の張力を下記式(4)を満たすよう制御する、パラ型全芳香族コポリアミド繊維の製造方法である。
【0014】
【化3】

(ArおよびArは独立であり、非置換あるいは置換された2価の芳香族基である。)
【化4】

(Arは非置換あるいは置換された2価の芳香族基である。)
【0015】
【数1】

【数2】

【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、強度等の機械的物性に優れた繊維が得られる。本発明の繊維は、防弾・防刃材等のといった防護衣料用途や、その他様々な産業資材用途において、非常に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
<パラ型全芳香族コポリアミド>
本発明に用いるパラ型全芳香族コポリアミドとは、下記化学構造式(1)、および下記化学構造式(2)で示される構造反復単位からなり、1種類又は2種類以上の2価の芳香族基が直接アミド結合により連結されているポリマーであって、一般に公知の方法に従って、アミド系極性溶媒中で、芳香族ジカルボン酸ジクロライドと芳香族ジアミンの重縮合反応により得られる。このとき、該芳香族基は2個の芳香族環が酸素、硫黄、アルキル基で結合されたものであっても特に差し支えない。また、これらの2価の芳香環は、非置換またはメチル基やメチル基等の低級アルキル基や、メトキシ基、または塩素基等のハロゲン基で置換されたものであっても、複素環等が結合されたものであっても特に差し支えはなく、その置換基の種類や置換基の数は特に限定されるものではない。
【0018】
【化5】

(ArおよびArは独立であり、非置換あるいは置換された2価の芳香族基である。)
【化6】

(Arは非置換あるいは置換された2価の芳香族基である。)
【0019】
本発明においては、上記化学構造式(1)の構造反復単位の含有量が、上記化学構造式(1)および上記化学構造式(2)の構造反復単位の合計に対して、10〜70モル%であることが、曳糸性や得られる繊維の機械的物性等の面から好ましい。さらに好ましくは15〜60モル%、最も好ましくは20〜50モル%の範囲である。
【0020】
[パラ型全芳香族コポリアミドの原料]
〔芳香族ジカルボン酸ジクロライド〕
本発明に用いられるパラ型全芳香族コポリアミドの原料となる芳香族ジカルボン酸ジクロライドとしては、例えば、テレフタル酸ジクロライド、2−クロロテレフタル酸ジクロライド、3−メチルテレフタル酸ジクロライド、4,4’−ビフェニルジカルボン酸ジクロライド、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジクロライド等が挙げられる。これらの中では、汎用性や繊維の機械的物性等の面から、テレフタル酸ジクロライドが最も好ましい。またこれら芳香族ジカルボン酸ジクロライドは、1種類のみを用いても、あるいは、2種類以上を併用してもよく、その場合の組成比は特に限定されるものではない。
【0021】
〔芳香族ジアミン〕
本発明に用いられるパラ型全芳香族コポリアミドの原料となる芳香族ジアミンとしては、例えば、パラフェニレンジアミン、5−アミノ−2−(4−アミノフェニレン)ベンズイミダゾール、パラビフェニレンジアミン、3,4´−ジアミノジフェニルエーテル、1,4−ジクロロパラフェニレンジアミン等が挙げられる。本発明においては、これらに限定されるものではなく、芳香環に置換基がついていたり、その他複素環等がついていたりしても差し支えない。
【0022】
本発明に用いられるパラ型全芳香族コポリアミドの原料としては、上記化学構造式(1)で示される構造反復単位と上記化学構造式(2)で示される構造反復単位とをそれぞれ構成するため、少なくとも2種類以上の芳香族ジアミン用いる。その組み合わせとしては、汎用性や繊維の機械的物性、曳糸性等の面から、パラフェニレンジアミンと5−アミノ−2−(4−アミノフェニレン)ベンズイミダゾールとの組み合わせが最も好ましい。その組成比は特に限定されるものではないが、全芳香族ジアミン量に対して、パラフェニレンジアミンを10〜70モル%、5−アミノ−2−(4−アミノフェニレン)ベンズイミダゾールを30〜90モル%とすることが好ましく、更に好ましくは、パラフェニレンジアミンを15〜60モル%、5−アミノ−2−(4−アミノフェニレン)ベンズイミダゾールを40〜85モル%、最も好ましくは、パラフェニレンジアミンを20〜50モル%、5−アミノ−2−(4−アミノフェニレン)ベンズイミダゾールを50〜80モル%とする範囲である。
【0023】
[パラ型全芳香族コポリアミドの製造方法]
〔パラ型全芳香族コポリアミドの重合〕
本発明に用いられるパラ型全芳香族コポリアミドの重合にあたっては、アミド系極性溶媒を重合溶媒として、これに、例えば、パラフェニレンジアミンおよび5−アミノ−2−(4−アミノフェニレン)ベンズイミダゾール等の芳香族ジアミン、例えば、テレフタル酸ジクロライド等の芳香族ジカルボン酸ジクロライドをそれぞれ溶解させ、公知の方法による重縮合反応を行う。
【0024】
用いられるアミド系溶媒としては、例えば、N−メチル−2−ピロリドン(以下NMPと記す)、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルイミダゾリジノン等が挙げられるが、汎用性、有害性、取り扱い性、パラ型全芳香族コポリアミドポリマーに対する溶解性等の観点から、NMPが最も好ましい。
【0025】
〔中和反応〕
反応終了後、重縮合反応により系内に塩酸が発生し系内が酸性になるため、中和する目的で、水酸化カルシウム等のアルカリを添加する。アルカリの添加量は、アルカリの種類や芳香族ジアミンと芳香族ジカルボン酸ジクロライドの添加量により異なるが、水酸化カルシウムを用いる場合、芳香族ジカルボン酸ジクロライドに対して95〜100モル%の添加量とすることが好ましい。水酸化カルシウムが95モル%未満の場合には、十分に中和を行うことができず、系内は依然として酸性を示し、解重合の原因になるため好ましくない。また100モル%を超える場合には、系内がアルカリを示し、同じく解重合の原因となり好ましくない。
【0026】
中和反応により発生する塩化カルシウムは、生成したポリマーの溶媒への溶解を高める溶解助剤として、そのまま用いることができる。このため、系内から除去する必要はない。
【0027】
〔重合後処理等〕
得られたパラ型全芳香族コポリアミドポリマーは、NMP等のアミド系極性溶媒に溶解した等方性のポリマー溶液であり、単離することなくそのまま、製糸工程で用いることができる。ただし、パラ型全芳香族コポリアミドポリマーの濃度は、ポリマー溶液の粘度や安定性に著しく影響し、ひいては、後の製糸工程における曵糸性等に大きく影響する。このため、ポリマー濃度は、2〜10質量%の範囲に調整することが好ましい。ポリマー濃度や粘度調整をするためには、得られたポリマー溶液にNMP等のアミド系極性溶媒を適量添加することができる。
【0028】
<パラ型全芳香族コポリアミド繊維の製糸>
次に、本発明のパラ型全芳香族コポリアミド繊維の製造方法について説明する。製糸にあたっては、パラ型全芳香族コポリアミドのポリマードープを用いる。
【0029】
本発明における「ポリマードープ」とは、パラ型全芳香族コポリアミドポリマーが、これに溶解可能な溶媒に溶解したポリマー溶液を指し、ポリマーが溶媒に溶解した状態で液晶を形成しておらず、ポリマー分子が特定の規則性を持たず無秩序に溶媒中に溶解しているポリマー溶液である。したがって、芳香族ジカルボン酸ジクロライドと芳香族ジアミンの重縮合反応の際に用いる溶媒が、パラ型全芳香族コポリアミドポリマーに対しても良溶媒である場合は、重縮合反応後のポリマーを単離することなくそのままポリマードープとして用いることができる。
【0030】
また、ポリマードープの調製にあたっては、ポリマーの溶媒への溶解性を高める目的で無機塩を溶解助剤として用いることもできる。この無機塩としては、例えば、塩化カルシウム、塩化リチウム等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。ポリマードープに対する無機塩の添加量としては特に限定されるものではないが、ポリマー溶解性向上の効果や、無機塩の溶媒への溶解性、曳糸性、得られる繊維の機械的物性等の観点から、ポリマードープ質量に対して3〜10質量%とすることが好ましい。
【0031】
[凝固工程]
製糸にあたっては、先ず、公知の半乾半湿式法を適用し、紡糸口金からエアギャップを介してポリマードープを凝固液中に吐出して凝固させることにより、凝固糸を得る凝固工程を実施する。
【0032】
〔紡糸口金の孔径〕
この際に用いる紡糸口金の孔径は特に限定されるものではないが、吐出安定性や曳糸性等の観点から、0.05〜0.3mmとすることが好ましく、さらに好ましくは0.1〜0.25mmの範囲とする。
【0033】
〔紡糸口金の孔数〕
また、紡糸口金の孔数は、50〜1000とすることが好ましく、さらに好ましくは100〜500の範囲とする。孔数が50未満の場合には、得られた繊維の繊度が小さく、得られた繊維を使用する際に、繊度が小さすぎるために合糸等の別の工程が必要になり生産性が悪いため好ましくない。一方、1000を超える場合には、単糸数が増えることに起因して、単糸毎の均一な凝固が困難となり、凝固不良等の問題が発生する他、走行する繊維束のハンドリング性も悪化するため好ましくない。
【0034】
〔凝固糸束の張力と単糸数の関係〕
本発明においては、凝固工程において、凝固工程を走行している凝固糸束に掛かる張力が下記式(3)を満たす工程を含むことが必須である。
【数3】

【0035】
凝固工程を走行している凝固糸束に掛かる張力が前記式(3)において3以下の場合には、凝固糸束に十分な張力が加わっておらず、その後の延伸工程で十分な延伸を付与したとしても、高い分子配向の達成や高強度の繊維を得ることは困難となる。一方、繊維束に掛かる張力が前記式(3)において15を超える場合には、逆に凝固糸束に高い張力が加わることにより、凝固工程において単糸切れや断糸等が発生し、工程通過性等が非常に悪化するため好ましくない。
【0036】
凝固工程を走行する繊維束に掛かる張力を前記式(3)の範囲内に調節するためには、例えば、紡糸ドラフトを1.5〜6に調整したり、凝固浴中ローラーの回転速度条件や、凝固浴中ローラー表面の材質を調整する等して、凝固浴中ローラーと走行する繊維束との摩擦抵抗を調整したりする方法が挙げられる。
なおここで言う「紡糸ドラフト」とは、ポリマードープが紡糸口金から吐出される際の線速度に対する、凝固工程後に配置した引き取りローラーでの引き取り速度の割合を表す。
【0037】
[延伸工程]
本発明においては、凝固工程を実施して凝固糸束を得た後、最終的なパラ型全芳香族コポリアミド繊維を得るまでの任意の製造箇所において、得られた繊維束を延伸に付す延伸工程を実施する。延伸にあたっては、例えば、高濃度のNMP水溶液中で繊維束を可塑化し、可塑化状態にして行うことができる。本発明においては、延伸工程を走行している繊維束に掛かる張力を、下記式(4)を満たすよう制御することが必須である。
【0038】
【数4】

【0039】
延伸工程を走行している繊維束に掛かる張力が前記式(4)において10以下の場合には、繊維束に十分な張力が加わっておらず、このため、高い分子配向の達成や高強度の繊維を得ることは困難となる。一方、繊維束に掛かる張力が前記式(4)において30を超える場合には、逆に繊維束に高い張力が加わり過ぎるため、単糸切れや断糸等が発生し、工程通過性の悪化や、得られる繊維の品位および物性低下を招くため好ましくない。
延伸工程を走行する繊維束に掛かる張力を前記式(4)の範囲内に調節するためには、延伸工程における延伸倍率を1.3〜2.0倍に調整する方法等が挙げられる。
【0040】
[その他の工程]
本発明においては、上記凝固工程および延伸工程を実施すれば、製糸におけるその他の工程は特に限定されるものではない。例えば、水洗工程、乾燥工程、熱処理工程等を経て、最終的にパラ型全芳香族コポリアミド繊維束を得ることができる。その際、使用する用途等に応じて油剤や加工剤等を付与しても特に差し支えない。なお、各工程における条件は特に限定されるものではなく、公知の工程条件を基に、曳糸性や工程通過性、得られる繊維の品位や機械的物性等の観点から、適宜調整することができる。
【0041】
<パラ型全芳香族コポリアミド繊維の物性>
本発明の製造方法によって得られるパラ型全芳香族コポリアミド繊維は、引張強度が30〜40cN/dtexとなる。
【実施例】
【0042】
以下、本発明を実施例等によりさらに具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、これに何等限定されるものではない。
【0043】
<測定・評価方法>
実施例および比較例においては、下記の項目について、下記の方法によって測定・評価を行った。
【0044】
(1)繊維の繊度
得られた繊維を、公知の検尺機を用いて100m巻き取り、その質量を測定した。得られた質量に100を乗じた値を10000mあたりの質量、即ち繊度(dtex)として算出した。
【0045】
(2)凝固工程および延伸工程を走行する繊維束の張力
各工程を通過する繊維束の張力は、接触式張力計(横河電子機器社製、商品名:テンションメータ、型式:T−102−01−00)を用い、直接測定した。またこの張力値を、繊維束を構成する単糸本数で割ることにより、単糸1本あたりの張力(mN/fil)を算出した。
【0046】
(3)繊維の引張強度、破断伸度、弾性率
引張試験機(INSTRON社製、商品名:INSTRON、型式:5565型)により、糸試験用チャックを用いて、ASTM D885の手順に基づき、以下の条件で測定を実施した。
【0047】
[測定条件]
温度 :室温
試験片 :75cm
試験速度 :250mm/分
チャック間距離 :500mm
【0048】
<実施例1>
[パラ型全芳香族コポリアミドの製造]
公知の方法により、NMPに溶解したパラフェニレンジアミン16質量部と5−アミノ−2−(4−アミノフェニレン)ベンズイミダゾール78質量部に、テレフタル酸ジクロライド100質量部を添加し、重縮合反応を行い、パラ型全芳香族コポリアミドポリマードープを得た。このときのポリマー濃度は5質量%、ポリマーの極限粘度(IV)は5.12であった。
【0049】
[パラ型全芳香族コポリアミド繊維の製造]
次に、孔径0.18mm、孔数が300の紡糸口金を105℃に加熱した後、105℃に加熱したポリマードープを吐出し、半乾半湿式法により10mmのエアギャップを介して、NMP濃度が40質量%、50℃の水溶液で満たした凝固浴を通過させ、凝固させた。このときの紡糸ドラフトは4.2とし、また凝固工程を走行する凝固糸束の張力を2.1N(前述式(3)の値=7.0mN/fil)に制御した。
引き続き、得られた凝固糸束を、NMP濃度が65質量%、20℃の水溶液で満たした可塑化浴に通過させて可塑化状態にし、次いで可塑化延伸を行った。可塑化延伸倍率は1.64倍、また延伸工程を走行する繊維束の張力を5.1N(前述式(4)の値=17mN/fil)とした。
延伸工程通過後の繊維束は十分に水洗し、200℃の乾燥ローラーにて乾燥を行うことにより、熱処理を行う前の基糸を得た。
その後、非接触熱処理装置を用い、炉内酸素濃度を150ppm、炉内温度を460℃の条件で熱処理を行い、最後にワインダーで巻き取り、最終的にパラ型全芳香族コポリアミド繊維を得た。
得られたパラ型全芳香族コポリアミド繊維は、繊度が550dtex、フィラメント数が300であった。得られた繊維の引張強度、破断伸度および弾性率を、表1に示す。
【0050】
<実施例2>
凝固工程において、紡糸ドラフトを1.9とし、凝固工程を走行する凝固糸束の張力を1.3N(前述式(3)の値=4.3mN/fil)とした以外は実施例1と同じ手法によりパラ型全芳香族コポリアミド繊維を得た。
得られたパラ型全芳香族コポリアミド繊維は、繊度が571dtex、フィラメント数が300であった。得られた繊維の引張強度、破断伸度および弾性率を、表1に示す。
【0051】
<実施例3>
凝固工程において、紡糸ドラフトを5.2とし、凝固工程を走行する凝固糸束の張力を2.7N(前述式(3)の値=9.0mN/fil)とし、また延伸工程において延伸倍率を1.75倍とし、延伸工程を走行する繊維束の張力を6.0N(前述式(4)の値=20mN/fil)とした以外は、実施例1と同じ手法によりパラ型全芳香族コポリアミド繊維を得た。
得られたパラ型全芳香族コポリアミド繊維は、繊度が522dtex、フィラメント数が300であった。得られた繊維の引張強度、破断伸度および弾性率を、表1に示す。
【0052】
<実施例4>
凝固工程において、紡糸ドラフトを1.9とし、凝固工程を走行する凝固糸束の張力を1.3N(前述式(3)の値=4.3mN/fil)とし、また延伸工程において延伸倍率を1.50倍とし、延伸工程を走行する繊維束の張力を3.6N(前述式(4)の値=12mN/fil)とした以外は、実施例1と同じ手法によりパラ型全芳香族コポリアミド繊維を得た。
得られたパラ型全芳香族コポリアミド繊維は、繊度が591dtex、フィラメント数が300であった。得られた繊維の引張強度、破断伸度および弾性率を、表1に示す。
【0053】
<比較例1>
凝固工程において、紡糸ドラフトを1.3とし、凝固工程を走行する束の張力を0.7N(2.3mN/fil)とし、また延伸工程において延伸倍率を1.25倍とし、延伸工程を走行する繊維束の張力を2.7N(前述式(4)の値=9mN/fil)とした以外は、実施例1と同じ手法によりパラ型全芳香族コポリアミド繊維を得た。
得られた繊維は、繊度が665dtex、フィラメント数が300であった。得られたパラ型全芳香族コポリアミド繊維の引張強度、破断伸度および弾性率を、表1に示す。
【0054】
<比較例2>
凝固工程において、紡糸ドラフトを7.2とし、凝固工程を走行する凝固糸束の張力を5.1N(前述式(3)の値=17.0mN/fil)としたところ、凝固浴中で繊維束の単糸切れが多発したため、以降の工程を通過させることができず、この条件では繊維を得ることができなかった。
【0055】
<比較例3>
凝固工程において、紡糸ドラフトを4.2とし、凝固工程を走行する凝固糸束の張力を2.1N(前述式(3)の値=7.0mN/fil)とし、また延伸工程において延伸倍率を2.2倍とし、延伸工程を走行する繊維束の張力を9.6N(前述式(4)の値=32mN/fil)としたが、延伸工程走行中に繊維束の単糸切れが多発したため、以降の工程を通過させることができず、この条件では最終的なパラ型全芳香族コポリアミド繊維を得ることができなかった。
【0056】
<比較例4>
凝固工程において、紡糸ドラフトを1.3とし、凝固工程を走行する凝固糸束の張力を0.7N(前述式(3)の値=2.3mN/fil)とした以外は、実施例1と同じ手法によりパラ型全芳香族コポリアミド繊維を得た。
得られた繊維は、繊度が596dtex、フィラメント数が300であった。得られたパラ型全芳香族コポリアミド繊維の引張強度、破断伸度および弾性率を、表1に示す。
【0057】
<比較例5>
延伸工程において、延伸倍率を1.25倍とし、延伸工程を走行する繊維束の張力を2.7N(前述式(4)の値=9mN/fil)とした以外は、実施例1と同じ手法によりパラ型全芳香族コポリアミド繊維を得た。
得られたパラ型全芳香族コポリアミド繊維は、繊度が618dtex、フィラメント数が300であった。得られた繊維の引張強度、破断伸度および弾性率を、表1に示す。
【0058】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の繊維は、強度等の機械的物性に優れた高強度の繊維となる。また、本発明によれば、そのような繊維を効率的に製造することができる。本発明のパラ型全芳香族コポリアミド繊維は、強度に優れることから、様々な産業資材として有用であり、とりわけ、防弾・防刃材等の防護衣料用途において、特に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学構造式(1)、および下記化学構造式(2)で示される構造反復単位を含み、引張強度が30〜40cN/dtexであるパラ型全芳香族コポリアミド繊維。
【化1】

(ArおよびArは独立であり、非置換あるいは置換された2価の芳香族基である。)
【化2】

(Arは非置換あるいは置換された2価の芳香族基である。)
【請求項2】
前記化学構造式(1)の構造反復単位の含有量が、前記化学構造式(1)および前記化学構造式(2)の構造反復単位の合計に対して、10〜70モル%である請求項1記載のパラ型全芳香族コポリアミド繊維。
【請求項3】
下記化学構造式(1)、および下記化学構造式(2)で示される構造反復単位を含むパラ型全芳香族コポリアミド繊維の製造方法であって、
半乾半湿式紡糸法により紡糸口金からエアギャップを介してポリマードープを凝固液中に吐出してさせることにより、凝固糸を得る凝固工程において、
前記凝固液内を走行させる凝固糸束の張力を、下記式(3)を満たすよう制御し、
且つその後の延伸工程において、延伸時の繊維束の張力を下記式(4)を満たすよう制御するパラ型全芳香族コポリアミド繊維の製造方法。
【化3】

(ArおよびArは独立であり、非置換あるいは置換された2価の芳香族基である。)
【化4】

(Arは非置換あるいは置換された2価の芳香族基である。)
【数1】

【数2】

【請求項4】
前記凝固工程における紡糸ドラフトが、1.5〜6である請求項3記載のパラ型全芳香族コポリアミド繊維の製造方法。
【請求項5】
前記延伸工程における延伸倍率が、1.3〜2.0倍である請求項3または4記載のパラ型全芳香族コポリアミド繊維の製造方法。
【請求項6】
前記紡糸口金は、孔数が50〜1000である請求項3〜5いずれか記載のパラ型全芳香族コポリアミド繊維の製造方法。

【公開番号】特開2011−26726(P2011−26726A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−172157(P2009−172157)
【出願日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【出願人】(303013268)帝人テクノプロダクツ株式会社 (504)
【Fターム(参考)】