説明

パラ型全芳香族コポリアミド繊維

【課題】高比重の無機顔料であっても繊維中に均一に分散され、このため、ある特定の色相を有し、かつ色ムラがなく、また強度などの機械的物性に優れたパラ型全芳香族コポリアミド繊維を提供する。
【解決手段】先ず、アミド系溶媒に分散した、ある特定の平均粒子径を有する微粒子スラリーを、パラ型全芳香族コポリアミドポリマー溶液に添加して混合することにより、微粒子を高濃度に含有するポリマー溶液(マスターバッチ)を調製し、次いで、この微粒子を含有するポリマー溶液(マスターバッチ)と微粒子を含有しないポリマー溶液とを混合してポリマー溶液を調製し、当該ポリマー溶液を用いて、特定の色相を有し、かつ色ムラが非常に少なく、また高い機械的物性を有しているパラ型全芳香族コポリアミド繊維を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高比重の無機微粒子の分散性に優れ、色ムラが少なく、引張強度などの機械的物性に優れたパラ型全芳香族コポリアミド繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、芳香族ジカルボン酸成分と芳香族ジアミン成分を主成分としてなるアラミド繊維、特にパラ型アラミド繊維は、その強度、高弾性率、高耐熱性などの特徴を有することから、様々な産業資材用途や、消防服、防弾・防刃材といった防護衣料用途などで幅広く用いられている。
昨今、産業資材用途や消防服などの防護衣料の分野では、機械的物性や難燃性といった繊維そのものの諸物性に加え、様々な色のバリエーションを有する意匠性も重要な要素の一つとなっている。ここで、繊維元来の色以外に繊維を着色するためには、繊維を染色する方法や、製糸の段階で原料着色する方法などが挙げられる。
【0003】
代表的なパラ型全芳香族ポリアミド繊維として知られるポリパラフェニレンテレフタルアミド(以下「PPTA」と記す)繊維の場合には、主として液晶性のポリマードープを用いて製糸するため、無機顔料を添加すると、その液晶性や曳糸性、機械的物性が阻害されてしまう。このため、無機顔料の適用は困難であり、主として染色によって繊維に色を付けることが一般的である。
【0004】
このようなPPTA繊維の染色に関しては、これまで様々な検討がなされており、例えば、特許文献1(特開2007−16343号公報)においては、座屈部(キンクバンド)を有し、かつこの座屈部をカチオン性または分散染料で染色したパラ系全芳香族ポリアミド繊維を含んだ繊維構造体に関する報告がされている。しかしながら、一般にPPTA繊維は高い耐薬品性を有することに起因して染まりにくいため、優先的に染色される座屈部を物理的により多く付与しなければ、色ムラなく十分染色することができない。そして、座屈部を多く付与した場合には、繊維の欠陥が増えることになり、強度などの機械的物性が大きく損なわれる問題が生じてしまう。
【0005】
一方、等方性のポリマードープを用いて製糸するパラ型全芳香族コポリアミド繊維は、ポリマードープに無機顔料等を添加しても、曳糸性や結晶構造、機械的物性に大きな影響はない。このため、主として原料着色(以下原着と記す)によって繊維への着色が行われる。
このような原着糸に関しても、これまで様々な検討がなされており、例えば、特許文献2(特開2005−232642号公報)においては、酸化チタン微粒子などを添加することにより、ある特定の色相を備えさせたパラ型全芳香族ポリアミド繊維が報告されている。本公報のような方法により、特定の色相を有するパラ型全芳香族ポリアミド繊維を得ることは可能であるが、その色相のバラつきや色ムラに関しては未だ満足できるものではなかった。
したがって、無機微粒子などを添加して着色された繊維であって、機械的物性を維持しつつ、色ムラが少ないパラ型全芳香族コポリアミド繊維が大いに望まれていた。
【特許文献1】特開2007−16343号公報
【特許文献2】特開2005−232642号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記従来技術を背景になされたものであり、高比重の無機顔料であっても繊維中に均一に分散され、このため、ある特定の色相を有し、かつ色ムラがなく、また強度などの機械的物性に優れたパラ型全芳香族コポリアミド繊維を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、本課題達成のため、先ず、一般的な粉体の溶媒中における沈降速度を表し、式1のように示されるストークスの式に着目した。
【0008】
【数1】

【0009】
この式に示されるように、粉体の沈降速度は、粉体と溶媒との比重差に比例し、溶媒の粘度に反比例する。微粒子を含有したパラ型全芳香族コポリアミド繊維を製造する場合、パラ型全芳香族コポリアミドポリマーに対して良溶媒であるアミド系溶媒に微粒子を分散させたスラリーを作製し、これを同じくアミド系溶媒に溶解したパラ型全芳香族コポリアミドポリマー溶液と混合させる方法が一般的である。しかしながら、アミド系溶媒の比重は1前後のものが多く、また粘度も低いために、例えば酸化鉄のような高比重の微粒子を分散させたスラリー中では、仮に微粒子表面を表面加工して溶媒との親和性を高めたとしても容易に微粒子の沈降が起こり、スラリーを安定的に貯蔵することが困難であった。そればかりでなく、たとえ十分な撹拌等により貯蔵中のスラリーの十分な分散性が達成できたとしても、これをパラ型全芳香族コポリアミドポリマー溶液と混合させるまでの輸送中に容易に沈降するため、パラ型全芳香族コポリアミドポリマー溶液中の微粒子の分散は不均一となり、結果として繊維中に微粒子が偏析してしまう。このため、著しい機械的物性の低下を避けることができず、また、微粒子が顔料のような原着を目的とした微粒子の場合には、繊維に顕著な色ムラが発生する問題が生じていた。
【0010】
そこで、本発明者は、ポリマー溶液および結果として得られる繊維における微粒子の高い分散性をより効率的に達成させるため、鋭意検討を重ねた。その結果、先ず、アミド系溶媒に分散した、ある特定の平均粒子径を有する微粒子スラリーを、パラ型全芳香族コポリアミドポリマー溶液に添加して混合することにより、微粒子を高濃度に含有するポリマー溶液(マスターバッチ)を調製し、次いで、この微粒子を含有するポリマー溶液(マスターバッチ)と微粒子を含有しないポリマー溶液とを混合してポリマー溶液を調製すれば、たとえ高比重の無機微粒子であっても貯蔵中のポリマー溶液における微粒子の偏析を抑制できることを見出し、さらに、当該ポリマー溶液を用いて繊維を製造すれば、繊維における微粒子の偏析を抑制でき、その結果、機械的物性を損なうことなく効率的かつ均一に微粒子が分散され、色相のバラつきが非常に小さいパラ型全芳香族コポリアミド繊維が得られることを見出し、本発明に到達した。
【0011】
かくして、本発明は、比重が2〜8で、かつ平均粒子径(D50)が0.05μm〜2μmである無機微粒子を含むパラ型全芳香族コポリアミド繊維であって、その含有量が繊維質量に対して0.1〜10質量%であり、その色相を表す表色系のL値a値b値の平均値がそれぞれL値が40〜65、a値が+20〜+30、b値が+12〜+18であり、かつその色相の標準偏差がそれぞれL値が1.0以下、a値が0.5以下、b値が0.3以下であることを特徴とするパラ型全芳香族コポリアミド繊維に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明のパラ型全芳香族コポリアミド繊維は、高比重の無機微粒子であっても繊維中に均一に分散されており、このため、機械的物性を損なうことなく、ある特定の色相を有しかつ色ムラが非常に少ないパラ型全芳香族コポリアミド繊維が得られることから、様々な産業資材用途や、消防服などの防護衣料の分野などに有用に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
<パラ型全芳香族コポリアミド>
本発明におけるパラ型全芳香族コポリアミドとは、2種類以上の2価の芳香族基が直接アミド結合により連結されているポリマーであって、一般に公知の方法に従って、アミド系極性溶媒中で、芳香族ジカルボン酸ジクロライドと芳香族ジアミンの重縮合反応により得られる。このとき、前記芳香族基は、2個の芳香環が酸素、硫黄、アルキル基で結合されたものであっても特に差し支えない。また、これらの2価の芳香環は、非置換またはメチル基やメチル基などの低級アルキル基や、メトキシ基、また塩素基などのハロゲン基で置換されていても差し支えは無く、その置換基の種類や置換基の数は特に限定されるものではない。
【0014】
[パラ型全芳香族コポリアミドの製造方法]
本発明に用いられるパラ型全芳香族コポリアミドは、一般に公知の方法に従って、アミド系溶剤中で、芳香族ジカルボン酸ジクロライドと芳香族ジアミンの重縮合反応により得ることができる。
【0015】
(芳香族ジカルボン酸ジクロライド)
本発明における芳香族ジカルボン酸ジクロライドとは、例えばテレフタル酸ジクロライド、2−クロロテレフタル酸ジクロライド、3−メチルテレフタル酸ジクロライド、4,4’−ビフェニルジカルボン酸ジクロライド、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジクロライド、イソフタル酸ジクロライドなどが挙げられ、これら芳香族ジカルボン酸ジクロライドを1種類のみならず2種類以上を用いることができ、その種類や組成比は特に限定されるものではなく、繊維の機械的物性や重合後に得られるポリマードープの取扱い性などを考慮し、適宜選択することできる。
【0016】
(芳香族ジアミン)
本発明における芳香族ジアミンとは、例えばパラフェニレンジアミン、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、パラビフェニレンジアミン、5−アミノ−2−(4−アミノフェニレン)ベンズイミダゾール、1,4−ジクロロパラフェニレンジアミン、メタフェニレンジアミンなどが挙げられるが、これらに限定されるものではなく芳香族環に置換基がついていたり、その他複素環等がついていたりしても差し支えない。本発明においては、これらのうち、2種類以上用いる。その組み合わせや組成比は特に限定されるものではなく、繊維の機械的物性や重合後に得られるポリマードープの取扱い性などを考慮し適宜調整することできる。その組み合わせとしては、汎用性や繊維の機械的物性などの観点から、パラフェニレンジアミンと3,4’−ジアミノジフェニルエーテルの組み合わせが最も好ましく、その組成比は特に限定されるものではないが、全芳香族ジアミン量に対して、それぞれ30〜70モル%、70〜30モル%が好ましく、さらに好ましくはそれぞれ40〜60モル%、60〜40モル%、最も好ましくはそれぞれ45〜55モル%、55〜45モル%である。
【0017】
(アミド系溶剤)
本発明の全芳香族コポリアミドの重合や紡糸に用いられるアミド系溶剤としては、例えばN−メチル−2−ピロリドン(以下「NMP」と記す)、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルイミダゾリジノンなどが挙げられ、パラ型全芳香族コポリアミドポリマーに対する溶解性、汎用性、有害性、取扱い性などの観点から適宜選択することができる。
【0018】
(無機微粒子)
本発明に用いられる無機微粒子としては、例えば、酸化鉄(III)や酸化チタン、硫酸バリウム、カオリン、炭酸カルシウム、ウォラストナイトなどの微粒子が挙げられるが、比重が2〜8でかつ平均粒子径(D50)が0.05μm〜2μmであり、該無機微粒子の含有量が繊維質量に対し0.1〜10質量%のときに、当該繊維において、繊維の色相を表す表色系のL値a値b値がそれぞれL値が40〜65、a値が+20〜+30、b値が+12〜+18を達成できるものであれば、その組成や形状、表面処理の有無等に特に限定されるものではない。この無機微粒子としては、繊維の色相の達成しやすさや汎用性、取扱い性などの観点から酸化鉄(III)が最も好ましい。
なお、ここで言う繊維の色相を表す表色系のL値a値b値とは、公知の色彩色差計(装置名:CR−400、コニカミノルタ(株)製)を用いて測定することができる、繊維の色相を表す指標である。
【0019】
ここで、無機微粒子の比重が2未満の場合、溶剤との比重差があまりないため、微粒子を溶剤に分散させたスラリーにおいてある程度撹拌することにより、微粒子の分散性は保持され、このスラリーをポリマードープへ注入することによっても、ポリマードープ中での微粒子の偏析は起こりにくいため、本発明のように、先ず微粒子をポリマードープ中に微粒子を分散させ、このポリマードープと微粒子を含まないポリマードープを混合させるような方法を取る必要は少ない。一方、比重が8を超える微粒子の場合、このような高比重の無機微粒子は少ないばかりでなく、たとえ高粘度のポリマードープ中であっても偏析が起こりやすくなることが懸念されるため好ましくない。
無機微粒子の比重は、好ましくは4〜7である。
【0020】
また、無機微粒子の平均粒子径(D50)が0.05μm未満の場合、このような無機微粒子そのものの調製が困難であるばかりでなく、この程度の大きさまでポリマードープ中に均一に分散させるためには、長時間および/または高剪断力による撹拌が必要となり、生産性を考慮した場合、効率的なポリマードープの調製が困難となるため好ましくない。一方、平均粒子径(D50)が2μmを超える場合、得られる繊維の繊維径にもよるが、一般な繊維径である5〜20μmである場合、繊維径に対する微粒子のサイズが大きくなることにより、繊維中のポリマーの連続層が微粒子による阻害されるため、微粒子が存在する部分が欠点となり、繊維の機械的物性が著しく損なわれるため好ましくない。
無機微粒子の平均粒子径(D50)は、好ましくは0.1〜1μmである。
【0021】
なお、ここで言う平均粒子径(D50)とは、微粒子を水に分散させ、レーザー回折式による粒度分布測定装置(装置名:SALD−200V ER、(株)島津製作所社製)を用いて測定した微粒子の粒子径であり、D50とは、例えば100サンプルの微粒子の粒径を測定したとき、粒径が小さいほうから数えて50番目に当る粒径のことを指し、測定試料の平均の粒子径を意味する。
【0022】
(重縮合反応)
芳香族ジアミンと芳香族ジカルボン酸ジクロライドとの重縮合反応にあたっては、公知の方法により、例えば、系を加熱し、公知の撹拌機を用いて行うことができる。反応条件は、重合の進行を見ながら適宜調整することができる。
中和反応により発生する塩化カルシウムは、生成したポリマーの溶剤への溶解を高める溶解助剤としてそのまま用いることができるため、系内から除去する必要はない。
【0023】
重縮合により得られたパラ型全芳香族コポリアミドポリマーは、NMPなどのアミド系溶媒に溶解した等方性のポリマー溶液(ドープ)となっている。得られたポリマー溶液(ドープ)は、ポリマーを単離することなくそのまま、製糸工程に用いることができる。ただし、このときのパラ型全芳香族コポリアミドポリマーの濃度は、ポリマードープの粘度や安定性に著しく影響し、後の製糸工程において曵糸性などに大きく影響する。このため、ポリマー濃度は、2〜10質量%であることが好ましい。ポリマー濃度や粘度調整をするにあたっては、N−メチル−2−ピロリドンなどのアミド系溶媒を、適量添加することができる。
【0024】
なお、上記パラ型全芳香族コポリアミドの固有粘度(98%濃度の硫酸中、ポリマー濃度0.5g/dlの溶液について30℃で測定した値)は、通常、2.5〜5程度である。ここでいう固有粘度とは、単離したパラ型全芳香族コポリアミドポリマーを、これに可溶な溶媒、例えば硫酸などに溶解させ、このポリマー溶液を例えばオストワルド粘度計等を用いた公知の粘度測定法により算出した、そのポリマー固有の粘度を指す。
【0025】
<パラ型全芳香族コポリアミド繊維>
[パラ型全芳香族コポリアミド繊維の製造方法]
本発明のパラ型全芳香族コポリアミド繊維を得るにあたっては、先ず、アミド系溶媒に分散した、ある特定の平均粒子径を有する微粒子スラリーを、パラ型全芳香族コポリアミドポリマー溶液に添加して混合することにより、微粒子を高濃度に含有するポリマー溶液(マスターバッチ)を調製し、次いで、この微粒子を含有するポリマー溶液(マスターバッチ)と微粒子を含有しないポリマー溶液とを混合してポリマー溶液を調製し、さらに、当該ポリマー溶液を用いて繊維を製造する。
【0026】
(マスターバッチの作成)
マスターバッチの作成にあたっては、得られたパラ型全芳香族コポリアミドポリマードープと無機微粒子とを混合する。混合に用いる装置は、特に限定されるものではなく、公知の混合装置、例えば、プラネタリミキサー、ニーダーやルーダー等、ポリマードープ中に微粒子を均一に分散させることができる混合機であれば特に差し支えなく、その形状や出力、容量は特に限定されるものではない。また出力や時間等の混合条件についても、装置の形状や出力、容量を考慮し、適宜調整することができる。
なお、効率的にポリマードープ中に無機微粒子を分散させるために、予め無機微粒子をポリマードープに用いられているアミド系溶媒に分散させたスラリーを形成し、当該スラリーとポリマードープとを混合することが好ましい。その際の無機微粒子スラリーの濃度は、最終的に繊維に含有される無機微粒子の量を考慮すれば特に限定されるものではないが、スラリー中の微粒子の分散性、取り扱い性などの観点から、1質量%〜20質量%が好ましく、より好ましくは2質量%〜15質量%、更に好ましくは3質量%〜10質量%である。
【0027】
また、ポリマードープに混合する無機微粒子スラリーの量についても、最終的に得られる繊維中の微粒子量や無機微粒子スラリー中の微粒子濃度を考慮すれば特に限定されるものではないが、ポリマードープ100質量部に対して、10質量部〜50質量部が好ましく、より好ましくは12質量部〜40質量部、更に好ましくは15質量部〜30質量部である。
【0028】
(マスターバッチとポリマー溶液との混合)
次いで、無機微粒子を均一に混合したポリマードープと、無機微粒子を含まないポリマードープとを混合する。その混合方法に関しては、作業性や繊維の生産性などを考慮すると、公知のスタティックミキサーが最も好ましく、その形状や種類、長さ等、これらを均一に混合できるものであれば特に限定されるものではない。また、その方法としては、無機微粒子を含まないポリマードープを送液する配管に、無機微粒子を含むポリマードープを送液する配管を接合させ、それらの配管が接合した下流側に各種スタティックミキサーを設ける方法が好ましいが、これに限定されるものではない。
【0029】
無機微粒子を均一に混合したポリマードープと、無機微粒子を含まないポリマードープとの混合比率は、無機微粒子を均一に混合したポリマードープ中の無機微粒子濃度により異なるが、最終的に得られる全芳香族コポリアミド繊維中の無機微粒子の量が全芳香族コポリアミドポリマー100質量部に対して0.1〜10質量部、好ましくは0.5〜5質量部になるように調整する必要がある。全芳香族コポリアミド繊維中の無機微粒子の量が全芳香族コポリアミドポリマー100質量部に対して0.1質量部未満の場合、繊維元来の色相が支配的となり、目標とする色相を有する繊維を得ることが困難のため好ましくない。一方、全芳香族コポリアミド繊維中の無機微粒子の量が全芳香族コポリアミドポリマー100質量部に対して10質量部を超える場合、仮に無機微粒子の繊維中での分散が均一であったとしても、繊維中で強度に寄与する全芳香族コポリアミドポリマー自体の量が少なくなるために、18cN/dtex以上の引張強度の達成が困難となるため好ましくない。全芳香族コポリアミド繊維中の無機微粒子の量が全芳香族コポリアミドポリマー100質量部に対して0.1〜10質量部の範囲になるように調整できれば、その混合比率に特に限定されるものではない。
【0030】
(製糸)
次に、無機微粒子を混合したパラ型全芳香族コポリアミドポリマードープを用いて、製糸を行う。
先ず、ポリマードープを紡糸口金から吐出する。吐出する際に用いる紡糸口金の孔径やノズル長、ホール数、材質等は特に限定されるものではなく、得られる繊維の繊維径や単糸数、曳糸性等を考慮し適宜調整することができる。
紡糸口金を通過する際のポリマードープの温度、および紡糸口金の温度は、用いるポリマードープの濃度や粘度により適宜調整することができるため特に限定されるものではないが、曵糸性やポリマードープの吐出圧、ポリマードープの劣化などを考慮すると、75〜120℃が好ましい。
【0031】
次に、紡糸口金から吐出したポリマードープを凝固液中で凝固する。この際、紡糸口金と凝固液の温度が大きく異なる場合、紡糸口金と凝固液が接触するとそれぞれの温度が変化し、制御が困難になるため、エアギャップを設けることができる。このときのエアギャップの長さは、特に限定されるものではないが、単糸の密着や温度の制御性、曵糸性などの観点から5〜15mmが好ましい。ここで用いる凝固液は、ポリマードープに使用しているアミド系溶剤の水溶液であり、その温度や溶剤濃度は、特に限定されるものではなく、出糸した糸の凝固状態や後の工程通過性等に問題がない範囲で適宜調整することができる。
【0032】
次に、凝固した糸を水洗する。この水洗工程では、水を用いて糸中のアミド系溶剤を可能な限り除くことを目的とする。その水洗条件は、特に限定されるものではなく、糸中のNMPを十分に除くことができる範囲で、その水洗浴の数や温度等を適宜調整することができる。
【0033】
次に、水洗後の繊維を乾燥する。このときの乾燥条件は特に限定されるものではなく、繊維に含まれる水分を十分に除去できる条件であれば問題はないが、作業性や繊維の熱による劣化を考慮すると、150〜250℃が好ましい。また乾燥は、ローラーなどの接触型の乾燥装置や、乾燥炉中を繊維が通過するなどといった非接触型の乾燥装置のいずれも用いることができる。
【0034】
次いで、乾燥後の繊維を熱延伸する。この工程では、繊維の熱延伸により、繊維中のポリマー分子を高度に配向させ、強度を付与することを目的とする。このときの熱延伸温度は十分な延伸および強度が発現する条件であれば特に限定されるものではないが、300〜600℃が好ましく、更に好ましくは320℃〜580℃、最も好ましくは350〜550℃である。この熱延伸工程での延伸倍率は、5倍〜15倍が好ましいが、十分な高強度が達成できれば特にこの範囲に限定されるものではない。またこの熱延伸工程では、必要に応じて多段階に分けて行っても特に差し支えはない。なお、繊維を熱延伸する際に用いる装置としては、接触型の熱板や非接触型の炉などあるが特に限定されるものではなく、繊維を所定の温度まで昇温させ、かつ所定の倍率で延伸が可能な装置であれば、適宜用いることができる。
【0035】
そして、必要に応じて繊維に対して帯電抑制や潤滑性を付与する目的で油剤を付与し、最後にワインダーで巻き取る。付与する油剤の種類や付与する量など特に限定されるものではなく、繊維を使用する用途や繊維の取扱い性などを考慮し適宜調整することができる。また、ワインダーでの巻取り方法については、公知のワインダーを用い、適宜張力や接圧などの巻取り条件を調整して巻き取ることができる。
【0036】
[パラ型芳香族コポリアミド繊維の物性]
(色相)
かくして得られたパラ型全芳香族コポリアミド繊維は、色相を表す表色系のL値a値b値の平均がそれぞれL値が40〜65、好ましくは45〜60、a値が+20〜+30、好ましくは+20〜+25、b値が+12〜+18、好ましくは+15〜+18で、かつその標準偏差がそれぞれL値が1.0以下、好ましくは0.8以下、a値が0.5以下、好ましくは0.3以下、b値が0.3以下、好ましくは0.25以下である。
得られる繊維のL値a値b値の平均値や、その色相の標準偏差を前記範囲にするには、無機微粒子が均一に分散したポリマードープと無機微粒子を含まないポリマードープとを均一に混合し、かつ添加する無機微粒子の割合を考慮すればよい。
【0037】
(引張強度)
また、本発明の繊維の引張強度は、好ましくは18cN/dtex以上、さらに好ましくは20〜25cN/dtexである。繊維の引張強度を18cN/dtex以上にするには、例えば延伸倍率や繊維中のポリマー成分に対する分散させる無機微粒子の割合などをコントロールすることにより制御することができる。
【実施例】
【0038】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
<測定・評価方法>
実施例および比較例における各物性値は、下記の方法で測定・評価した。
【0039】
(1)全芳香族コポリアミドの固有粘度
98%濃度の硫酸に、ポリマー濃度0.5g/dlとなるようポリマーを溶解し、オストワルド粘度計を用いて30℃で測定した。
【0040】
(2)無機微粒子の平均粒子径(D50)
微粒子を水に分散させ、レーザー回折式による粒度分布測定装置(装置名:SALD−200V ER、(株)島津製作所社製)を用いて微粒子の粒子径を測定した。100サンプルの粒径を測定し、粒径が小さいほうから数えて50番目に当る粒径を、「平均粒子径」とした。
【0041】
(3)繊維の色相
ワインダーで紙管の柄が見えない程度に十分に巻き取った繊維に関し、色彩色差計(装置名:CR−400、コニカミノルタ(株)製)を用い、異なる10箇所についてL値a値b値を測定した。更に、それらの測定結果について、それぞれ平均値および標準偏差を算出した。
【0042】
(4)繊維の引張強度
引張試験機(INSTRON社製、商品名:INSTRON、型式:5565型)を用いて、ASTM D885に準拠し、糸試験用チャックを用いて、以下の条件により引張試験を行った。
(測定条件)
温度:室温
試験片:75cm
試験速度:250mm/分
チャック間距離:500mm
【0043】
<実施例1>
先ず94質量部のNMPに赤色の酸化鉄(III)微粒子(戸田工業(株)製、製品名:Toda Color 130ED、平均粒子径(D50)=0.4μm、比重=5.1)6質量部を添加し、ホモジナイザーで撹拌して、酸化鉄(III)微粒子濃度が6質量%のスラリーを作製した。
次いで、コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド(テレフタル酸ジクロライドと、パラフェニレンジアミン、3,4’−ジアミノジフェニルエーテルのモル比が2:1:1で共重合して得られるパラ型全芳香族コポリアミドポリマー、固有粘度(IV)=3.4)の6質量%NMP溶液70質量部に対し、先に調製した酸化鉄(III)スラリーを30質量部添加し、プラネタリーミキサーで1.5時間混合し、酸化鉄(III)微粒子を含むポリマードープを得た。なお、このときの酸化鉄(III)微粒子は、ポリマーに対して30質量%であった。
【0044】
次に、酸化鉄(III)微粒子を含むポリマードープと、微粒子を含まないポリマードープとをそれぞれ異なるタンクに貯蔵し、各々配管を介して送液を行った。それぞれの配管はある部分で結合され、その先にケネックスタイプのスタティックミキサーが配されており、そこを通過する過程で酸化鉄(III)微粒子を含むポリマードープと微粒子を含まないポリマードープとを均一に混合させた。なお、この際のそれぞれの送液量は、酸化鉄(III)微粒子を含むポリマードープが125質量部/分、微粒子を含まないポリマードープが2,375質量部/分であった。
【0045】
次に、孔径0.3mm、孔数が1,000の紡糸口金を105℃に加熱した後、105℃に加熱したポリマードープを吐出し、10mmのエアギャップを介して、NMP濃度が30質量%、50℃の凝固浴を通過させ凝固糸を得た。
次いで、50℃の水洗浴にて水洗を行い、200℃の乾燥ローラーにて乾燥後、380℃で1段目の熱延伸を行った。このときの延伸倍率は2.5倍であった。その後、続けて530℃で2段目の熱延伸を行った。このときの延伸倍率は4倍であった。
最後に、この繊維をワインダーで紙管に巻き取って繊維を得た。なお、このときの繊維の繊度は1,670dtex、繊維数は1,000、また繊維質量に対する酸化鉄(III)微粒子の含有量は1.5質量%であった。得られた繊維の色相および引張強度の結果を表1に示す。
【0046】
<実施例2>
実施例1と同じ手法で酸化鉄(III)微粒子スラリーを調製し、更に実施例1と同じ手法・混合比で酸化鉄(III)微粒子を含むポリマードープを得た。次いで、実施例1と同様の手法で酸化鉄(III)微粒子を含むポリマードープと、微粒子を含まないポリマードープの貯蔵・送液を行い、その送液量を酸化鉄(III)微粒子を含むポリマードープが600質量部/分、微粒子を含まないポリマードープが1,900質量部/分とした以外は、全て実施例1と同じ手法で繊維を得た。なお、このときの繊維質量に対する酸化鉄(III)微粒子の含有量は7.2質量%であった。得られた繊維の色相および引張強度の結果を表1に示す。
【0047】
<比較例1>
実施例1と同じ手法で酸化鉄(III)微粒子スラリーを調製し、次いで、酸化鉄(III)微粒子スラリーを事前にポリマードープと混合することなく貯蔵した。貯蔵中は撹拌機にて微粒子の沈降を抑えながら貯蔵した。次いで、実施例1と同じ手法で酸化鉄(III)微粒子のスラリーとポリマードープの送液を行い、その送液量を酸化鉄(III)微粒子のスラリーが37.5質量部/分、ポリマードープが2,462.5質量部/分とした以外は、全て実施例1と同じ手法で繊維を得た。なお、このときの繊維質量に対する酸化鉄(III)微粒子の含有量は1.5質量%であった。得られた繊維の色相および引張強度の結果を表1に示す。
【0048】
<比較例2>
無機微粒子に酸化鉄(III)微粒子(平均粒子径(D50)=3.1μm)(戸田工業(株)製、平均粒子径(D50)=3.1μm、比重=5.1)を用いた以外は、実施例1と同じ手法で繊維を得た。なお、このときの繊維質量に対する酸化鉄(III)微粒子の含有量は1.5質量%であった。得られた繊維の色相および引張強度の結果を表1に示す。
【0049】
<比較例3>
無機微粒子に酸化鉄(III)微粒子(平均粒子径(D50)=0.043μm)(戸田工業(株)製、平均粒子径(D50)=0.043μm、比重=5.1)を用いた以外は、実施例1と同じ手法で繊維を得た。なお、このときの繊維質量に対する酸化鉄(III)微粒子の含有量は1.5質量%であった。得られた繊維の目視での色ムラおよび引張強度の結果を表1に示す。
【0050】
<比較例4>
実施例1と同じ手法で酸化鉄(III)微粒子スラリーを調製し、更に実施例1と同じ手法・混合比で酸化鉄(III)微粒子を含むポリマードープを得た。次いで、実施例1と同様の手法で酸化鉄(III)微粒子を含むポリマードープと、微粒子を含まないポリマードープの貯蔵・送液を行い、その送液量を酸化鉄(III)微粒子が含むポリマードープが1,000質量部/分、微粒子を含まないポリマードープが1,500質量部/分とした以外は、全て実施例1と同じ手法で繊維を得た。なお、このときの繊維質量に対する酸化鉄(III)微粒子の含有量は12.0質量%であった。得られた繊維の色相および引張強度の結果を表1に示す。
【0051】
<比較例5>
実施例1と同じコポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミドの6質量%NMP溶液を、酸化鉄(III)微粒子スラリーを添加することなくそのまま実施例1と同じ製糸条件で製糸し繊維を得た。得られた繊維の色相およびの引張強度の結果を表1に示す。
【0052】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明のパラ型全芳香族コポリアミド繊維は、特定の色相を有しかつ色ムラが非常に少なく、また高い機械的物性を有していることから、ポリマー元来の色相では展開でき得なかった高い意匠性が要求される様々な産業資材用途や、消防服、防弾・防刃材といった防護衣料用途で特に有用である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
比重が2〜8で、かつ平均粒子径(D50)が0.05μm〜2μmである無機微粒子を含むパラ型全芳香族コポリアミド繊維であって、その含有量が繊維質量に対して0.1〜10質量%であり、その色相を表す表色系のL値a値b値の平均値がそれぞれL値が40〜65、a値が+20〜+30、b値が+12〜+18であり、かつその色相の標準偏差がそれぞれL値が1.0以下、a値が0.5以下、b値が0.3以下であることを特徴とするパラ型全芳香族コポリアミド繊維。
【請求項2】
前記無機微粒子が、少なくとも酸化鉄(III)の微粒子を含む請求項1記載のパラ型全芳香族コポリアミド繊維。
【請求項3】
引張強度が18cN/dtex以上である請求項1または2記載のパラ型全芳香族コポリアミド繊維。
【請求項4】
前記パラ型全芳香族コポリアミドが、コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミドである請求項1〜3いずれかに記載のパラ型全芳香族コポリアミド繊維。

【公開番号】特開2010−156082(P2010−156082A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−335670(P2008−335670)
【出願日】平成20年12月29日(2008.12.29)
【出願人】(303013268)帝人テクノプロダクツ株式会社 (504)
【Fターム(参考)】