説明

パラ型全芳香族ポリアミド牽切加工糸

【課題】ゴム等のマトリックス中のアンカー効果を向上させ、マトリックスとの接着性の高い全芳香族ポリアミド牽切加工糸を提供すること。
【解決手段】表面に特定の微粉末を付着させ、かつ単糸繊度の小さいパラ型全芳香族ポリアミド繊維を用いて、牽切加工糸を得る。具体的には、繊維表面に無水珪酸アルミニウムおよび/またはアルミノ珪酸ナトリウムが付着しており、かつ単糸繊度が0.4〜0.7dtexである全芳香族ポリアミド繊維を用いて、牽切加工糸を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パラ型全芳香族ポリアミド牽切加工糸に関する。さらに詳しくは、特定の微粉末が表面に付着した単糸の細いパラ型全芳香族ポリアミド繊維から得られる牽切加工糸に関する。
【背景技術】
【0002】
全芳香族ポリアミド繊維に代表される高強度、高弾性率、高耐熱性といった特性を有する機能繊維は、ゴムをマトリックスとする複合体の補強材として産業用途に広く用いられている。しかしながら、このような機能繊維による補強材は、その繊維表面の平滑性およびポリマーの化学的な不活性さに起因して、ゴムとの接着性は未だ十分ではなく、その結果、機能繊維が本来有する破断強度から期待されるほどに十分な補強効果は、得られていないのが実情であった。
【0003】
そこで、ゴムとの接着性を向上させる目的で、機能繊維を紡績糸または牽切加工糸とする方法が提案されている。紡績糸または牽切加工糸は、糸表面近傍に毛羽が存在するため、当該毛羽によるアンカー効果によって、ゴム等のマトリックスとの接着性が向上し、ひいては補強効果も向上することが期待できる。
【0004】
例えば、特許文献1においては、連続糸条を引き千切り方式にて短繊維化し、平均単糸長が130〜600mmの繊維からなる抱合性が付与された全芳香族ポリアミド紡績糸様糸条が提案されている。また、特許文献2においては、平均単糸長を40〜90cmにすることで、原糸強度維持率を70%以上とし、破断強度を向上させた牽切加工糸が提案されている。
【0005】
しかしながら、特許文献1および2に記載された紡績糸や牽切加工糸を補強材とした複合体は、マトリックスとなるゴムと補強材との界面で剥離が発生してしまい、当該補強材はいまだ、紡績糸や牽切加工糸を構成する繊維の破断強度から期待されるほどに十分な補強効果を発現できていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭58−081637号公報
【特許文献2】国際公開第2005/103353号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来技術を背景になされたもので、その目的は、ゴム等のマトリックス中のアンカー効果を向上させ、マトリックスとの接着性の高い全芳香族ポリアミド牽切加工糸を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討を行なった。その結果、特定の微粉末を繊維表面に付着させ、かつ単糸繊度の細いパラ型全芳香族ポリアミド繊維を用いれば、ゴム等との接着性が向上し、剥離強度が向上することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明はパラ型全芳香族ポリアミド繊維からなる牽切加工糸であって、当該パラ型全芳香族ポリアミド繊維は、繊維表面に、無水珪酸アルミニウムおよび/またはアルミノ珪酸ナトリウムの微粉末が付着しており、かつ単糸繊度が0.4〜0.7dtexであることを特徴とするパラ型全芳香族ポリアミド牽切加工糸である。
【発明の効果】
【0010】
本発明のパラ型全芳香族ポリアミド牽切加工糸は、特定の粒子が付着した単糸の繊度の小さい繊維を用いることで、補強材として用いた場合に、ゴム等のマトリックス中におけるアンカー効果を向上させ、マトリックスとの表面剥離を低減することができる。その結果、補強効果を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に好ましく用いられる牽切加工装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
<パラ型全芳香族コポリアミド繊維>
本発明の牽切加工糸を構成するパラ型全芳香族ポリアミド繊維とは、パラ型全芳香族ポリアミドを主成分とするものである。繊維中に含まれるパラ型全芳香族ポリアミドは、繊維質量全体に対して、60質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましく、100%であることが最も好ましい。
【0013】
本発明におけるパラ型全芳香族ポリアミドとは、1種または2種以上の2価の芳香族基が、パラ位にてアミド結合により直接連結されたポリマーである。芳香族基としては、2個の芳香環が、酸素、硫黄、または、アルキレン基を介して結合されたものであってもよい。さらに、これらの2価の芳香族基には、メチル基やエチル基などの低級アルキル基、メトキシ基、クロル基などのハロゲン基等が含まれていてもよい。
【0014】
<パラ型全芳香族ポリアミド繊維の物性>
[単糸繊度]
牽切加工糸の原料となるパラ型全芳香族ポリアミド繊維の単糸繊度は、0.4〜0.7dtexである。好ましくは0.4〜0.6dtexである。単糸繊度が0.7dtexよりも大きい場合には、牽切加工糸の構成単糸本数が少なくなり、単糸どうしの絡み合いが減少し、かつ牽切加工糸表面の繊維先端部の本数も減少するため、牽切加工糸の強度およびゴムとの界面剥離強度が低下するという問題がある。一方で、単糸繊度が0.4dtexよりも小さい場合には、パラ型全芳香族ポリアミド繊維として十分な引張強度が得られないため好ましくない。
【0015】
[引張強度]
牽切加工糸の原料となるパラ型全芳香族ポリアミド繊維の引張強度は、18cN/dtex以上であることが好ましい。18cN/dtexより小さい場合には、牽切加工後の強度が低く、ゴム補強材としての効果が期待できない。
【0016】
[微粉末の種類]
牽切加工糸の原料となるパラ型全芳香族ポリアミド繊維には、微粉末が付着しており、本発明においては、微粉末の種類が重要である。本発明の牽切加工糸の原料となるパラ型全芳香族ポリアミド繊維へ付着させる微粉末は、無水珪酸アルミニウムおよび/またはアルミノ珪酸ナトリウムである。無水珪酸アルミニウムおよびアルミノ珪酸ナトリウムは、耐熱性に優れ、且つ球形であるため、繊維製造過程での変質がなく、除去が容易である。
【0017】
[微粉末の付着量]
本発明における微粉末の付着量は、パラ型全芳香族ポリアミド繊維に対して0.1〜0.5質量%の範囲が好ましい。さらには、0.2〜0.3質量%の範囲がより好ましい。付着量が0.1質量%未満の場合には、牽切加工時に十分な開繊性が得られず、一方で、0.5質量%を超える場合には、加工時において微粉末の飛散が多くなり、且つ、ゴムとの界面剥離強度が下がるという問題が発生する。
【0018】
[微粉末の平均粒径]
また、パラ型全芳香族ポリアミド繊維に付着させる微粉末の平均粒径は、5μm以下であることが好ましい。さらに好ましくは、3μm以下である。平均粒径が5μmを超える場合には、単糸間も含めて、繊維全体に微粉末が均一に付着された状態とすることが困難となり、その結果、牽切加工時に十分な開繊性が得られなくなるため、ゴム等の補強材として必要な引張強度を発現することができなくなる。
【0019】
[その他]
本発明の牽切加工糸の原料となるパラ型全芳香族ポリアミド繊維には、必要に応じて油剤が付着していてもよい。油剤の付着量は0.05〜0.5質量%とすることが好ましく、かつ、水分含有率は7.0質量%以下とすることが好ましい。油剤付着量が0.05質量%未満の場合には、繊維に帯電している静電気による反発で、引き千切り加工の際にトウバラケによる断糸が多発し、安定に牽切加工することが困難となる。一方で、油剤付着量が0.5質量%を超える場合には、油剤による繊維収束効果によりトウが十分に開繊せず、牽切糸を構成する単糸長ばらつきが大きくなるという問題が発生する。水分含有率が7.0質量%を超える場合には、水分による繊維収束効果により、油剤付着量が0.5%を超えたときと同じような現象が現れ、均一な牽切加工を実施することが困難となる。
【0020】
<牽切加工糸の製造方法>
本発明の牽切加工糸を得るための方法は、特に限定されるものではなく、公知の方法を採用することができる。例えば、特許文献1もしくは特許文献2である。
【実施例】
【0021】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、これらに何等限定されるものではない。
【0022】
<測定・評価方法>
実施例および比較例における各特性値は、下記の方法で測定・評価した。
(1)破断強度
得られた芳香族ポリアミド繊維につき、引張試験機(INSTRON社製、商品名:INSTRON、型式:5565)を用いて、ASTM D885に準拠して、以下の条件にて測定を実施した。
[測定条件]
温度 :室温
測定試料長 :750mm
引張速度 :250mm/min
チャック間距離 :500mm
【0023】
(2)ゴム剥離強度
25本の牽切加工糸をNBRゴム(ニトリルゴム)に埋設し、170℃で25分、2.3MPaで加硫してゴムシートを得た。続いて、ゴムシート面に対して90度の方向へ牽切加工糸を剥離し、このときの剥離強度を、引張試験機(INSTRON社製、商品名:INSTRON、型式:5565)を用いて、以下の条件で測定した。
[測定条件]
測定温度 :室温
引張速度 :300mm/min
【0024】
<実施例1>
図1に示す装置を用いて、単糸繊度0.55dtex、全繊度1100dtex、破断強度21.3cN/dtex、微粉末がアルミノ珪酸ナトリウムであり、微粉末付着量0.34質量%、油剤付着量0.3%であるパラ型全芳香族ポリアミド繊維束4本を引き揃え、ローラ間の距離(牽切長)を150cmとして、供給ニップローラ1とシュータ2と牽切ニップローラ3との間で、約10.0倍の牽切倍率で、400m/minの速度で同時に引き千切り、細い短繊維束とした。
続けて、吸引性空気ノズル4と旋回流を有する旋回性抱合ノズル5(圧空圧0.3MPa)とに、牽切ニップローラ3とデリベリローラ6との速度比100:99.5で通して絡みを付与すると共に、短繊維の毛羽をランダムに巻きつけ、449dtexの牽切加工糸条7を得た。
得られた牽切加工糸につき、ゴム剥離強度を測定した。結果を表1に示す。
【0025】
【表1】

【0026】
<実施例2>
図1に示す装置を用いて、単糸繊度を0.65dtex、全繊度を1300dtex、破断強度24.0dtex、微粉末がアルミノ珪酸ナトリウムであり、微粉末付着量0.28質量%、油剤付着量0.3%であるのパラ型全芳香族ポリアミド繊維束を用い、牽切倍率を11.8倍とした以外は、実施例1と同様にして、440dtexの牽切加工糸を得た。
得られた牽切加工糸につき、ゴム剥離強度を測定した。結果を表1に示す。
【0027】
<比較例1>
図1に示す装置を用いて、単糸繊度0.84dtex、全繊度1670dtex、破断強度24.0cN/dtex、微粉末が珪酸マグネシウム80質量%、含水珪酸アルミニウム20質量%の混合物であり、微粉末付着量1.03質量%、油剤付着量0.24%であるパラ型全芳香族ポリアミド繊維束3本を引き揃え、ローラ間の距離(牽切長)を150cmとして、供給ニップローラ1とシュータ2と牽切ニップローラ3との間で、約11.4倍の牽切倍率で、400m/minの速度で同時に引き千切り、細い短繊維束とした。
続けて吸引性空気ノズル4と旋回流を有する旋回性抱合ノズル5(圧空圧0.3MPa)とに、牽切ニップローラ3とデリベリローラ6との速度比100:99.5で通して絡みを付与すると共に、短繊維の毛羽をランダムに巻きつけ、444dtexの牽切加工糸条7を得た。
得られた牽切加工糸につき、ゴム剥離強度を測定した。結果を表1に示す。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明のパラ型全芳香族ポリアミド牽切加工糸は、ゴム等のマトリックス中におけるアンカー効果に優れており、このため、マトリックスとの表面剥離を低減し、補強効果を向上させることができる。したがって、本発明のパラ型全芳香族ポリアミド牽切加工糸は、補強材として非常に有用である。
【符号の説明】
【0029】
1 供給ニップローラ
2 シュータ
3 牽切ニップローラ
4 吸引性空気ノズル
5 旋回性抱合ノズル
6 デリベリローラ
7 牽切加工糸条
8 パラ型全芳香族ポリアミド繊維

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パラ型全芳香族ポリアミド繊維からなる牽切加工糸であって、
前記パラ型全芳香族ポリアミド繊維は、繊維表面に、無水珪酸アルミニウムおよび/またはアルミノ珪酸ナトリウムの微粉末が付着しており、かつ単糸繊度が0.4〜0.7dtexであることを特徴とするパラ型全芳香族ポリアミド牽切加工糸。
【請求項2】
前記無水珪酸アルミニウムもしくはアルミノ珪酸ナトリウムの微粉末の付着量が、パラ型全芳香族ポリアミド繊維に対して0.1〜0.5質量%である請求項1記載のパラ型全芳香族ポリアミド牽切加工糸。

【図1】
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【公開番号】特開2012−12723(P2012−12723A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−149883(P2010−149883)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【出願人】(303013268)帝人テクノプロダクツ株式会社 (504)
【Fターム(参考)】