説明

パルスチューブ冷凍機を用いたコールドトラップ

【課題】 低振動、かつ冷却板の支持強度の高いコールドトラップを提供する。
【解決手段】 流路外壁が、ガスが流れる流路を画定する。パルスチューブ冷凍機が、蓄冷器、コールドヘッド、及びパルス管を含んで構成されている。蓄冷器とパルス管がコールドヘッドを中心として相互に反対側に配置され、蓄冷器及びパルス管のコールドヘッド側とは反対の端部が、それぞれ流路外壁の相互に異なる位置に取り付けられている。コールドヘッドが蓄冷器とパルス管とによって流路内に支持されている。冷却板が流路内に配置され、コールドヘッドに熱的に結合されている。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、パルスチューブ冷凍機を用いたコールドトラップに関する。コールドトラップは、通常、真空容器と真空排気装置との間に配置され、排気するガス内に含まれる水分等を固化させて効率的に除去する目的で使用される。
【0002】
【従来の技術】図2は、ギフォード・マクマホン型冷凍機(GM冷凍機)を用いたコールドトラップの断面図を示す。
【0003】上下両端にフランジを有する筒状の流路外壁50により図の縦方向のガス流路56が画定されている。流路外壁50の側壁に半径方向に延在する冷凍機支持管51が取り付けられている。冷凍機支持管51の先端にフランジを介してGM冷凍機52の高温端53が取り付けられている。GM冷凍機52のシリンダ部は冷凍機支持管51の内部空洞内に配置され、低温端54はガス流路56内に支持されている。円筒状の冷却板55が低温端54に固着されている。このように、冷却板55は、GM冷凍機52によってガス流路56内に支持されている。
【0004】図3は、パルスチューブ冷凍機を用いたコールドトラップの断面図を示す。円筒形の流路外壁60により、図の紙面に垂直な方向のガス流路68が画定されている。蓄冷器61、コールドヘッド62及びパルス管63によりパルスチューブ冷凍機70が構成されている。蓄冷器61とパルス管63はほぼ平行に配置され、各々の一端が共にコールドヘッド62に接続されている。コールドヘッド62は流路68内に配置され、蓄冷器61及びパルス管63の他端は、流路外壁60に固定されるとともに、放熱器64に熱的に結合されている。
【0005】円筒状の冷却板66が、流路68内に、流路外壁60とほぼ同軸状に配置されている。冷却板66は、コールドヘッド62から流路外壁60の半径方向に伸びた支持腕65により支持され、コールドヘッド62に熱的に結合している。蓄冷器61及びパルス管63は、冷却板66に設けられた貫通孔67を貫通している。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】図2に示すコールドトラップでは、GM冷凍機が使用されている。GM冷凍機は、往復振動するディスプレーサを有するため、振動の発生源になる。この振動が真空処理室及び真空排気装置を含む真空系に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0007】また、図2及び図3に示すコールドトラップにおいては、GM冷凍機のシリンダ部もしくはパルスチューブ冷凍機の蓄冷器とパルス管からなる片持ち支持構造により、冷却板が支持されている。このため、支持が不安定になりやすい。シリンダ、蓄冷器、及びパルス管を構成する管壁は、高温端から低温端への熱侵入量を少なくするために薄くされる。従って、これらの管の管壁を厚くして支持強度を高めることは好ましくない。
【0008】本発明の目的は、低振動、かつ冷却板の支持強度の高いコールドトラップを提供することである。
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明の一観点によると、ガスが流れる流路を画定する流路外壁と、蓄冷器、コールドヘッド、及びパルス管がこの順番に接続されて構成されるパルスチューブ冷凍機であって、蓄冷器とパルス管がコールドヘッドを中心として相互に反対側に配置され、蓄冷器及びパルス管のコールドヘッド側とは反対の端部が、それぞれ前記流路外壁の相互に異なる位置に取り付けられ、該コールドヘッドが該蓄冷器とパルス管とによって前記流路内に支持されている前記パルスチューブ冷凍機と、前記流路内に配置され、前記コールドヘッドに熱的に結合された冷却板とを有するコールドトラップが提供される。
【0010】パルスチューブ冷凍機により冷却板が冷却される。流路内を流れるガスが冷却され、液化点以下に冷却されたガスが冷却板にトラップされる。蓄冷器とパルス管が、コールドヘッドを中心として相互に反対側に配置され、パルスチューブ冷凍機の両端が流路外壁に固定される。このため、片持ち構造により冷凍機を支持する場合に比べて、より安定して支持することが可能になる。
【0011】
【発明の実施の形態】図1は本発明の実施例によるコールドトラップの概略断面図を示す。図1(A)は、図1(B)の一点鎖線A1−A1における断面図に相当し、ガス流の向きに対して垂直な断面図である。図1(B)は、図1(A)の一点鎖線B1−B1における断面図に相当し、ガス流の向きに対して平行な断面図である。
【0012】円筒状の流路外壁1により、流路2が画定されている。流路外壁1の一方の端部のフランジは真空容器(図示せず)に接続され、他方の端部のフランジは、例えばターボ分子ポンプ等の真空排気装置に接続される。
【0013】冷媒ガス導入部11、蓄冷器12、コールドヘッド13、パルス管14及び放熱器15を含んでパルスチューブ冷凍機10が構成されている。蓄冷器12は、ステンレス鋼製の中空の管の中に蓄冷材を充填して構成される。蓄冷材としては、例えば円盤状のステンレス鋼メッシュもしくは銅メッシュが用いられる。パルス管14は、例えばステンレス鋼製の中空の管で構成される。
【0014】蓄冷器12の一端にコールドヘッド13が接続され、他端に冷媒ガス導入部11が接続されている。パルス管14の一端にコールドヘッド13が接続され、他端に放熱器15が取り付けられている。蓄冷器12とパルス管14は、コールドヘッド13を中心として相互に反対側に、かつほぼ1本の直線に沿って配置されている。
【0015】コールドヘッド13は、例えば無酸素銅製の中空の箱で構成され、蓄冷器12とパルス管14との間で作動ガスを流通させる。コールドヘッド13は、その内部にフィン若しくは銅のメッシュを有し、内部を流れる作動ガスと効果的に熱交換することができる。
【0016】蓄冷器12の冷媒ガス導入部11側の端部、及びパルス管14の放熱器15側の端部が、それぞれ流路外壁1の相互に対向する位置に取り付けられ、固定されている。コールドヘッド13は、蓄冷器12及びパルス管14を介して流路外壁1に支持され、流路2の中心軸上に配置されている。
【0017】円筒状の銅製の冷却板20が、流路2内に、流路外壁1と同心円状に配置されている。冷却板20には、蓄冷器12及びパルス管14に対応する位置に、それぞれ貫通孔22及び23が設けられ、冷却板20が蓄冷器12及びパルス管14に接触しないような構成とされている。冷却板20は、コールドヘッド13から流路外壁1の半径方向に延在する銅製の複数の支持板21により、コールドヘッド13に熱的、機械的に結合され、流路2内に支持されている。支持板21は、コールドヘッド13にろう付けにより固着されている。
【0018】冷媒ガス導入部11は、コンプレッサ30に接続されており、コンプレッサ30により、例えばヘリウム等の圧縮ガスの導入及び回収が繰り返される。コンプレッサ30から圧縮ガスが供給される半周期に、蓄冷器12内に圧縮された冷媒ガスが供給される。
【0019】断熱されたパルス管14内に一定の高圧ガスを流入させると内部温度が上昇する。このとき、流入ガスの流れが一方向流ならばその流れに沿って温度勾配ができ、パルス管高温端部(放熱器15側の端部)で最も高温になる。最初蓄冷器12内にあったガスが断熱的に圧縮され、パルス管14内へ移動し、そこで熱をパルス管壁に与える。また、パルス管14内にあったガスも高温端に移動し、そこで放熱器15に熱を与え、ガス自身は冷却される。
【0020】他の半周期に、蓄冷器12内の冷媒ガスがコンプレッサ30に回収される。パルス管14内のガスが、圧縮過程とは逆の方向に移動する。このとき、断熱的な膨張のために冷却が生じ、ガスがパルス管壁から熱を受け取る。一部のガスは、蓄冷器12内に戻り、蓄冷材から熱を受け取る。すなわち、ガスが蓄冷材を冷却する。
【0021】従って、次の圧縮過程のときには、パルス管14内に流入するガスは、まず蓄冷材によって予冷されるため、最初の圧縮過程よりも低い温度が得られる。このように、コンプレッサ30から蓄冷器12内への冷媒ガスの供給、及び蓄冷器12からコンプレッサ30への冷媒ガスの回収を繰り返すと、パルス管内で一定の温度勾配を保って冷媒ガスが低温端部(コールドヘッド13部)の熱を高温端へ運ぶ。高温端の熱を放熱器15で強制的に除去することにより、低温端で連続的に冷却効果が得られる。
【0022】コールドヘッド13に発生した寒冷が、支持板21を通って冷却板20に伝わり、冷却板20が冷却される。例えば、パルスチューブ冷凍機を用いてコールドヘッドを80〜100Kまで冷却することができる。流路2内を流れる分子流が冷却板20に衝突し、水分子等が冷却板20にトラップされる。
【0023】図1では、中央部にコールドヘッド13を有する直管型のパルスチューブ冷凍機10を用いる。このパルスチューブ冷凍機10の両端を流路外壁1に固定して冷却パネル20を支持する。このため、図2及び図3R>3に示す片持ち支持構造の場合に比べて、より安定して冷却板20を支持することができる。
【0024】また、コールドヘッド13が、流路2のほぼ中心軸上に配置される。冷却板20及び支持板21は、コールドヘッド13を中心としてほぼ回転対称になるように構成される。このため、冷却板20全体をほぼ一様に冷却することが可能になる。
【0025】また、上記実施例で使用されるパルスチューブ冷凍機10は直管型であり、図3に示すU字型のパルスチューブ冷凍機とは構成を異にする。パルスチューブ冷凍機を直管型にすることにより、冷媒ガスの流れの曲がりによる圧力損失や偏流を抑制し、冷却効率を高めることができる。
【0026】上記実施例では、直管型のパルスチューブ冷凍機を、流路の中心軸と交差するように配置する場合を説明したが、必ずしも流路の中心軸と交差しなくてもよい。例えば、流路の断面の直径がパルスチューブ冷凍機の長さに比べて長い場合には、中心軸を挟んで対向する位置ではなく、一方に偏った位置でパルスチューブ冷凍機の両端を支持してもよい。
【0027】また、流路断面は必ずしも円形である必要はなく、任意の形状でもよい。この場合にも、直管型パルスチューブ冷凍機をその両端で支持することにより、安定した支持が可能になる。
【0028】上記実施例では、パルスチューブ冷凍機を直管型とした場合を説明したが、その形状は厳密に直線状である必要はない。例えば、ある曲率を有する円周に沿う形状としてもよいし、その他の曲線に沿う形状としてもよい。この曲線は、流路の断面形状に応じて好適な形状を選択することが好ましい。この場合も、パルスチューブ冷凍機の両端を、流路外壁の相互に異なる位置に固定することにより、安定した支持が可能になるであろう。
【0029】なお、パルスチューブ冷凍機は、GM冷凍機のディスプレーサのような可動部分を有しない。このため、コールドトラップからの振動の発生を抑制することができる。
【0030】以上実施例に沿って本発明を説明したが、本発明はこれらに制限されるものではない。例えば、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者に自明であろう。
【0031】
【発明の効果】以上説明したように、本発明によれば、パルスチューブ冷凍機の両端を流路外壁に固定することにより、パルスチューブ冷凍機のコールドヘッドに取り付けられた冷却板を安定して支持することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例によるコールドトラップの概略を示す断面図である。
【図2】従来のGM冷凍機を使用したコールドトラップの概略を示す断面図である。
【図3】従来のパルスチューブ冷凍機を使用したコールドトラップの概略を示す断面図である。
【符号の説明】
1 流路外壁
2 流路
10 パルスチューブ冷凍機
11 冷媒ガス導入部
12 蓄冷器
13 コールドヘッド
14 パルス管
15 放熱器
20 冷却板
21 支持板
22、23 貫通孔
30 コンプレッサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】 ガスが流れる流路を画定する流路外壁と、蓄冷器、コールドヘッド、及びパルス管がこの順番に接続されて構成されるパルスチューブ冷凍機であって、蓄冷器とパルス管がコールドヘッドを中心として相互に反対側に配置され、蓄冷器及びパルス管のコールドヘッド側とは反対の端部が、それぞれ前記流路外壁の相互に異なる位置に取り付けられ、該コールドヘッドが該蓄冷器とパルス管とによって前記流路内に支持されている前記パルスチューブ冷凍機と、前記流路内に配置され、前記コールドヘッドに熱的に結合された冷却板とを有するコールドトラップ。
【請求項2】 前記蓄冷器、コールドヘッド、及びパルス管が、ある直線に沿って配置されている請求項1に記載のコールドトラップ。
【請求項3】 前記流路外壁が円筒状の内周面を有し、前記コールドヘッドが前記内周面の中心軸上に支持されている請求項1または2に記載のコールドトラップ。

【図2】
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【図3】
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【図1】
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