説明

パルス性電波雑音の到来方向探査方法及び装置

【課題】 パルス性電波雑音の到来方向を正確且つ容易に推定することができるパルス性電波雑音の到来方向探査装置を提供する。
【解決手段】 所定の間隔で複数のアンテナ3A〜3Dを並設してなるアレーアンテナ1と、各アンテナを介して受信した第1の受信信号を検出する信号受信部6と、第1の受信信号をフーリエ変換して各周波数成分におけるスペクトラム強度を表す第2の受信信号を生成するフーリエ変換部8と、各周波数成分に対して第1の相関行列を演算する第1の相関行列演算部9と、各周波数成分のスペクトラム強度に対する重み付けを行うとともに変換行列により第1の相関行列を前記中心周波数の相関行列に変換して平均化処理を行うことにより、所定の範囲における全周波数の情報を含む第2の相関行列を演算する第2の相関行列演算部10と、第2の相関行列に対して狭帯域信号に対する部分空間法を適用して複数の方向に関する到来方向を推定する到来方向推定部11とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はパルス性電波雑音の到来方向探査方法及び装置に関し、特に電力設備におけるパルス性電波雑音の発生源を特定する際に適用して有用なものである。
【背景技術】
【0002】
電力設備では、劣化がいしや金具の接触不良箇所において火花放電が発生し、急峻な電流が流れることによって放射されるパルス性の電波雑音が原因となる電波障害が懸念されている。ちなみに、微小ギャップによって火花放電を発生させた場合には100MHz 以上の周波数成分を含む電波雑音が観測され、配電用がいしが劣化したものを用いて発生させた火花放電からは25MHz〜2800MHzの周波数成分を含む電波雑音が観測されている。
【0003】
このように火花放電で発生する電波雑音は広帯域特性を有しており、ラジオ、テレビ、アマチュア無線、携帯電話、無線LAN等、広範囲の無線通信へ影響を与える可能性がある。
【0004】
かかる電波雑音による電波障害を速やかに解消するためには、電波雑音の発生源を効率的に探査した後に除去する必要がある。
【0005】
従来技術に係る電波雑音の発生源探査では、主にツイン・クワッド・アンテナや放電時に放射される音波を対象とした指向性マイクロホンのメインビームを用いて、発生源を探査する手法が採用されてきた。
【0006】
しかしながら、この種の従来技術に係る探査手法では、推定精度が充分でなく、また手動でメインビームを走査させる必要があるため、操作性においても課題を残している。一方、最近では、複数のアンテナの受信信号に信号処理を施すことで電波雑音の到来方向や発生源位置を推定する手法が提案されており、主にアンテナ間の到達時間差に基づく手法について検討されている(例えば非特許文献1〜3参照)。なお、到来方向を推定する場合は、複数の地点で到来方向を推定し、交会法(複数の地点で到来方向を推定し、到来方向の交点から発生源位置を推定する方法)によって発生源位置を推定している。
【0007】
しかしながら、電力設備では、1)複数の箇所で同時に火花放電が発生する可能性がある、2)伝搬路上の不連続点(電線の曲部や電線支持物などのインピーダンス不連続点など)から再放射する可能性がある、3)電力機器の金属面による反射波が存在する可能性がある等の理由によって推定精度が悪化するため、実用的な推定手法として確立されていない。さらに電力設備において発生する火花放電は風や湿度などの気候変動の影響を受けるために発生が不安定で、常に電波雑音を観測することができるわけではない。このため、少ない測定回数でより信頼度の高い推定が望まれる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】電学論,Vol.115−B, No.10, pp.1168−1173, 1995
【非特許文献2】電学論,Vol.118, No.2, pp.157−163, 1998
【非特許文献3】平成11年電気学会 電力・エネルギー部門大会,No.600, 1999
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記従来技術に鑑み、パルス性電波雑音の到来方向を正確且つ容易に推定することができるパルス性電波雑音の到来方向探査方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成する本発明の第1の態様は、
パルス性電波雑音をN本(Nは2以上の自然数)のアンテナを並設してなるアレーアンテナで受信して前記パルス性電波雑音の時間軸に対するレベルを表す第1の受信信号を得るとともに、前記第1の受信信号をフーリエ変換して各周波数成分におけるスペクトラム強度を表す第2の受信信号を生成し、
その後前記第2の受信信号の前記各周波数成分に対して第1の相関行列を形成するとともに、前記第1の相関行列に前記各周波数成分のスペクトラム強度に対する重み付けを行い、さらに変換行列により前記第1の相関行列を特定の周波数の相関行列に変換して平均化処理を行うことにより、前記第2の受信信号の周波数スペクトルの存在範囲を限定するとともに前記存在範囲における全周波数の情報を含む第2の相関行列を形成し、
さらに前記第2の相関行列に対して狭帯域信号に対する部分空間法を適用することにより(N−1)方向に関する前記パルス性電波雑音の到来方向を推定することを特徴とするパルス性電波雑音の到来方向探査方法にある。
【0011】
本態様によれば、第1の相関行列に各周波数成分のスペクトラム強度に対する重み付けを行って特定の周波数の相関行列に変換するとともに平均化処理を行っているので、必要な周波数帯域に絞り込んだ全周波数の情報を含む第2の相関行列を形成することができる。また、かかる周波数帯域の絞り込みと相俟って第2の相関行列に対して狭帯域信号に対する部分空間法を適用することで電波の到来方向を探査しているので、広い帯域を有するパルス性電波雑音であっても部分空間法により高精度にその到来方向を推定し得る。
【0012】
本発明の第2の態様は、
パルス性電波雑音を受信するよう所定の中心周波数に対応する間隔でN本(Nは2以上の自然数)のアンテナを並設してなるアレーアンテナと、
前記各アンテナを介して受信した前記パルス性電波雑音の時間軸に対するレベルを表す第1の受信信号を検出する信号受信部と、
前記第1の受信信号をフーリエ変換して各周波数成分におけるスペクトラム強度を表す第2の受信信号を生成するフーリエ変換部と、
前記第2の受信信号の前記各周波数成分に対して第1の相関行列を演算する第1の相関行列演算部と、
前記第1の相関行列に前記各周波数成分のスペクトラム強度に対する重み付けを行うとともに変換行列により前記第1の相関行列を特定の周波数の相関行列に変換して平均化処理を行うことにより、前記第2の受信信号の周波数スペクトルの存在範囲を限定するとともに前記存在範囲における全周波数の情報を含む第2の相関行列を演算する第2の相関行列演算部と、
前記第2の相関行列に対して狭帯域信号に対する部分空間法を適用することにより(N−1)方向に関する前記パルス性電波雑音の到来方向を推定する到来方向推定部とを有することを特徴とするパルス性電波雑音の到来方向探査装置にある。
【0013】
本態様によれば、第2の相関行列演算部で、第1の相関行列に各周波数成分のスペクトラム強度に対する重み付けを行って所定の平均化処理を行っているので、必要な周波数帯域に絞り込んだ全周波数の情報を含む第2の相関行列を形成することができる。また、かかる周波数帯域の絞り込みと相俟って到来方向推定部において、第2の相関行列に対して狭帯域信号に対する部分空間法を適用することで電波の到来方向を探査しているので、広い帯域を有するパルス性電波雑音であっても部分空間法により高精度にその到来方向を推定し得る。
【0014】
本発明の第3の態様は、
第2の態様に記載するパルス性電波雑音の到来方向探査装置において、
前記変換行列はフォーカシング行列であることを特徴とするパルス性電波雑音の到来方向探査装置にある。
【0015】
本態様によれば、第2の相関行列を良好に演算することができる。
【0016】
本発明の第4の態様は、
第2又は第3の態様に記載するパルス性電波雑音の到来方向探査装置において、
前記特定の周波数は前記中心周波数であることを特徴とするパルス性電波雑音の到来方向探査装置にある。
【0017】
本態様によれば、相関行列への変換を好適なものとすることができる。
【0018】
本発明の第5の態様は、
第2乃至第4の態様の何れか一つに記載するパルス性電波雑音の到来方向探査装置において、
前記パルス性電波雑音は電力設備から放射されるものであることを特徴とするパルス性電波雑音の到来方向探査装置にある。
【0019】
本態様によれば、複数の箇所で同時に火花放電等を発生する、あるいは金属面による反射波が存在する可能性がある電力設備を発生源とするパルス性電波雑音であっても容易且つ確実に各到来方向を特定することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、重み付け処理と広帯域の部分空間法とを組み合わせたので、発生毎に異なる可能性があるパルス性電波雑音の周波数特性により到来方向探査の精度を劣化させることなく、到来方向が複数である場合も含め、パルス性電波雑音の到来方向を高精度に探査することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施の形態に係るパルス性電波雑音の到来方向探査装置を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施の形態における第1の受信信号であるパルス性電波雑音の波形の一例を示す波形図である。
【図3】本発明の実施の形態における第1の受信信号をフーリエ変換した第2の受信信号を示す波形図である。
【図4】図1に示す到来方向探査装置を用いたパルス性電波雑音の到来方向をシミュレートするための実験の態様を概念的に示す図で、(a)は平面的に見た状態で示す説明図、(b)は側面から見た状態で示す説明図である。
【図5】パルス性電波雑音の到来方向のシミュレート結果の一例を示す特性図である。
【図6】パルス性電波雑音の到来方向のシミュレート結果の他の例を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき詳細に説明する。
【0023】
図1は本発明の実施の形態に係るパルス性電波雑音の到来方向探査装置を示すブロック図である。同図に示すように、アレーアンテナ1は水平な架台2上に配設された4本のアンテナ3A、3B、3C、3Dからなる。ここで、架台2は脚部4に水平に配設してあり、電波の反射を低減するため何れも木製としてある。アンテナ3A〜3Dはダイポールアンテナであり、架台2上で水平方向に等間隔に並べてそれぞれを垂直に立てた状態で固定してある。アンテナ3A〜3Dの寸法及び間隔は受信する電波の中心周波数に応じて決定する。本形態の場合は、中心周波数を500MHzとしたので、アンテナ3A〜3Dの寸法及び間隔は500MHzの電波の波長λに基づき0.3m(λ/2)とした。
【0024】
アレーアンテナ1で受信した受信信号は同軸ケーブル5を介して信号受信部6に供給される。信号受信部6ではパルス性電波雑音等、受信電波の時間軸に対するレベルを表す第1の受信信号を検出する。電力設備から放射されるパルス性電波雑音の一例である本形態における第1の信号の波形を図2に示すが、この第1の受信信号は信号処理部7に供給される。
【0025】
信号処理部7はフーリエ変換部8、第1の相関行列演算部9、第2の相関行列演算部10、到来方向推定部11からなり、広帯域の部分空間法では、所定の信号処理を行った後に狭帯域の部分空間法による所定の信号処理を行うことにより電波雑音の到来方向を探査するようになっている。
【0026】
ここで、部分空間法とは、受信信号のベクトル空間を考えて、信号が属する部分空間(信号部分空間と呼ばれる)と信号部分空間の補空間である部分空間(雑音部分空間と呼ばれる)とを用いて到来方向推定を行う方法をいう。本形態においては、S/Nが低い場合や、近接した方向から複数の信号が到来している場合であっても良好な推定精度を確保し得るCSSM(Coherent Signal Subspace Method)を広帯域の部分空間法として適用している。このCSSMは、各周波数に対する相関行列をある特定の周波数の相関行列に変換して、変換後の相関行列に平均化処理を施すことによって全周波数の情報を含む相関行列を得る方法である。また、狭帯域の部分空間法としては、MUSIC(Multiple Signal Classification)法、ESPRIT(Estimation of Signal Parameter via Rotational Invariance Technique)法、EM(Expectation−Maximization)法、MODE(Method of Direction Estimation)法等を適用し得るが、本形態ではMUSIC法を適用した。
【0027】
信号処理部7のフーリエ変換部8は、第1の受信信号をフーリエ変換して各周波数成分におけるスペクトラム強度を表す第2の受信信号を生成する。この第2の受信信号は、本形態の場合、中心周波数が500MHz付近にある図3に示すような広帯域の信号となる。
【0028】
第1の相関行列演算部9は第2の受信信号の各周波数成分に対して第1の相関行列を演算する。すなわち、次式(1)の演算を行う。
【0029】
xx(f)=X(f)X(f) ・・・(1)
(j=1〜J)
上式(1)でRxx(f)は相関行列、Hは複素共役転置である。
【0030】
第2の相関行列演算部10は、第1の相関行列に各周波数成分のスペクトラム強度に対する重み付けを行うとともにフォーカシング行列により第1の相関行列を特定の周波数(ここでは中心周波数である500MHzを用いる)の相関行列に変換して平均化処理を行うことにより第2の相関行列を演算する。すなわち、次式(2)に基づく演算を行う。
【0031】
xx(f)=Σwxx(f)X(f)T ・・・(2)
上式(2)でfは特定の周波数(500MHz)、wは相関行列に対する重みである。
【0032】
上式(2)の演算により第2の受信信号の周波数スペクトルの存在範囲を限定するとともに当該存在範囲における全周波数の情報を含む第2の相関行列を求めることができる。
【0033】
ここで、重み付け方法に特別な制限はない。例えば、各周波数成分におけるスペクトラム強度を全周波数帯域における周波数スペクトラム強度の和で除した値を重み付け係数として用いることもできるし、スペクトラム強度の所定の値に対応する閾値を用いても良い。また、本形態においては、第1の相関行列を特定の周波数の相関行列に変換する場合にフォーカシング行列を用いたが、変換行列であればこれに限定するものでもない。なお、フォーカシング行列の作成方法としては様々な手法が提案されているが、フォーカシング行列の積(T)が周波数に依存しない場合は、フォーカシング行列によって相関行列を変換する前と変換した後でS/Nの低下を避けることができる。このようなフォーカシング行列としては、SST(Signal Subspace Transform)や、MTLS(Modification to Total Least Squares)と呼ばれる行列が提案されている。また、SST行列の特殊な場合としてフォーカシング行列にユニタリ行列を用いるRSS(Rotational Signal Subspace)と呼ばれる手法もある。本形態では適用が簡単なRSSによりフォーカシング行列を作成した。また、第1の相関行列を第2の相関行列に変換する場合に特定の周波数として中心周波数を用いたが、これに限定するものでもない。
【0034】
到来方向推定部11は第2の相関行列に対して狭帯域信号に対する部分空間法であるMUSIC法を適用することによりパルス性電波雑音の到来方向を推定する。ここで、本形態ではアレーアンテナ1のアンテナ3A〜3Dを4本で形成したので最大3方向の到来方向を探査し得る。一般にアンテナ3A〜3Dの数をN本(Nは2以上の自然数)とする場合、最大(N−1)方向に関する到来方向を推定することができる。
【0035】
ここで、電力設備から放射されるパルス性電波雑音を模擬した火花放電によるパルス性電波雑音の到来方向を探査した数値シミュレーション結果とともに、本形態の作用・効果について説明する。
【0036】
図4は本形態に係る到来方向探査装置を用いたパルス性電波雑音の到来方向を推定するための数値シミュレーションの態様を概念的に示す図で、(a)は平面的に見た状態で示す説明図、(b)は側面から見た状態で示す説明図である。本形態は、図4(a)に示すように、4個のアンテナ3A〜3D(無指向性アンテナを仮定)から成る等間隔リニアアレーを用いて一次元の到来方向推定を行う場合であり、アンテナ3A〜3Dの間隔dは、前述の如く500MHzの半波長である0.3mとしてある。
【0037】
数値シミュレーションでは電波雑音の発生源は1箇所とし、さらに1箇所において生じた反射波を考慮した。したがって、アレーアンテナ1に到来するパルス性電波雑音は2個として到来方向を推定する。
【0038】
まず、アンテナ3A〜3Dにおける第1の受信信号の模擬方法について述べる。パルス性電波雑音の発生源を1箇所とした場合に発生源から放射されたパルス性電波雑音をアンテナで受信する第1の受信信号の模擬に前述の図2の波形を用いた。ただし、この波形には反射波は含まれていないものとする。ここで、図2に示す波形は、図4に示す実験配置において、球ギャップ12に電圧を印加して実際に火花放電を発生させて単独の半波長ダイポールアンテナで測定した受信信号波形に線形補間(時間間隔 0.2ns、点数4096)を施したものである。
【0039】
当該実験装置の仕様は次の通りである。
1) 球ギャップ12を地上高約10mの線路に吊るして、線路−大地間に70kV(実効値)の電圧を印加し、浮遊容量による分圧によって球ギャップ12に電圧を印加して火花放電を発生させた。
2) 火花放電によって放射されたパルス性電波雑音を、約20m離れた位置に配置した半波長ダイポールアンテナであるアンテナ3A〜3Dで受信した。
3) 半波長ダイポールアンテナの中心周波数を500MHzに設定して第1の受信信号の受信波形をオシロスコープである信号受信部6で観測した。
4) 半波長ダイポールアンテナと信号受信部6の間は長さ7mの同軸ケーブル5で接続した。信号受信部6における時間サンプリング間隔は0.02nsとした。
【0040】
図2の波形の周波数スペクトルは図3に示す通りであるが、同図を参照すれば、図2の波形の周波数成分のほとんどが1GHz以下であることがわかる。図2の波形をS(t)として、アンテナ3A〜3Dの第1の受信信号の波形xi(t)(i=1〜4)を次のように与えた。
【0041】
i(t)=s(t−τi1)+s(t−τi2−t)+n(t)・・・(3)
【0042】
ここでは反射波を考慮して、上式(3)の右辺第1項が直接波を、右辺第2項が反射波を表している。ただし、反射時の減衰などは考慮しておらず、反射波の波形は直接波と同じとした。tは直接波に対する反射波の時間遅れを表しており、ここではt=20nsとした。τi1、τi2はそれぞれアンテナ3B〜3Dのアンテナ3Aに対する直接波と反射波の到達時間差を表し、次式(4)で与えた。
【0043】
τij=(i−1)dsinθ/c(i=1〜4、j=1、2)・・・(4)
ただし、θ、θはそれぞれ直接波と反射波の到来方向、cは光速度である。
【0044】
また、式(3)に示したように、熱雑音による測定誤差を模擬するために各アンテナ3A〜3Dの受信信号にn(t)を加えた。n(t)はランダム雑音として、平均を0mV、標準偏差をs(t)の最大値×0.02mVとして発生させたガウス乱数とした。
【0045】
まず、θ=30°、θ=60°として、部分空間法を適用した場合の到来方向推定の数値シミュレーションを行った。すなわち、広帯域信号を対象とした高分解能推定手法の一つであるCSSMを用いて到来方向推定を行った。ここで、フォーカシング行列の計算にはRSSを用いた。フォーカシング行列の計算に使用する特定の周波数は中心周波数である500MHzとし、300MHz〜500MHzの周波数の相関行列をフォーカシング行列を用いて変換し、300MHz〜500MHz以外の周波数における相関行列は除外した。なお、RSSを用いたフォーカシング行列の計算では到来方向の事前情報が必要であり、20°、40°、70°の方向に対してフォーカシング行列を計算した。CSSM法によって推定した到来方向の結果を図5に示す。図5を参照すれば明らかな通り、推定誤差は30°の方向では1.5°、60°の方向では0.5°であり、良好な結果が得られている。
【0046】
次に、θ=30°、θ=40°として、より近接した到来方向に対してCSSMを適用した場合の結果を図6に示す。ここで、25°、35°、45°の方向に対してフォーカシング行列を計算した。
【0047】
図6に示す場合においてもθ=30°、θ=40°の方向に対してともに1°の誤差で到来方向を推定できている。
【0048】
このように本形態によれば、到来方向の事前情報を必要とするが、極めて高精度に複数方向からのパルス性電波雑音を対象とした到来方向推定を行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は電力設備を管理・運用する産業分野で有効に利用することができる。
【符号の説明】
【0050】
1 アレーアンテナ
3A〜3D アンテナ
6 信号受信部
8 フーリエ変換部
9 第1の相関行列演算部
10 第2の相関行列演算部
11 到来方向推定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルス性電波雑音をN本(Nは2以上の自然数)のアンテナを並設してなるアレーアンテナで受信して前記パルス性電波雑音の時間軸に対するレベルを表す第1の受信信号を得るとともに、前記第1の受信信号をフーリエ変換して各周波数成分におけるスペクトラム強度を表す第2の受信信号を生成し、
その後前記第2の受信信号の前記各周波数成分に対して第1の相関行列を形成するとともに、前記第1の相関行列に前記各周波数成分のスペクトラム強度に対する重み付けを行い、さらに変換行列により前記第1の相関行列を特定の周波数の相関行列に変換して平均化処理を行うことにより、前記第2の受信信号の周波数スペクトルの存在範囲を限定するとともに前記存在範囲における全周波数の情報を含む第2の相関行列を形成し、
さらに前記第2の相関行列に対して狭帯域信号に対する部分空間法を適用することにより(N−1)方向に関する前記パルス性電波雑音の到来方向を推定することを特徴とするパルス性電波雑音の到来方向探査方法。
【請求項2】
パルス性電波雑音を受信するよう所定の中心周波数に対応する間隔でN本(Nは2以上の自然数)のアンテナを並設してなるアレーアンテナと、
前記各アンテナを介して受信した前記パルス性電波雑音の時間軸に対するレベルを表す第1の受信信号を検出する信号受信部と、
前記第1の受信信号をフーリエ変換して各周波数成分におけるスペクトラム強度を表す第2の受信信号を生成するフーリエ変換部と、
前記第2の受信信号の前記各周波数成分に対して第1の相関行列を演算する第1の相関行列演算部と、
前記第1の相関行列に前記各周波数成分のスペクトラム強度に対する重み付けを行うとともに変換行列により前記第1の相関行列を特定の周波数の相関行列に変換して平均化処理を行うことにより、前記第2の受信信号の周波数スペクトルの存在範囲を限定するとともに前記存在範囲における全周波数の情報を含む第2の相関行列を演算する第2の相関行列演算部と、
前記第2の相関行列に対して狭帯域信号に対する部分空間法を適用することにより(N−1)方向に関する前記パルス性電波雑音の到来方向を推定する到来方向推定部とを有することを特徴とするパルス性電波雑音の到来方向探査装置。
【請求項3】
請求項2に記載するパルス性電波雑音の到来方向探査装置において、
前記変換行列はフォーカシング行列であることを特徴とするパルス性電波雑音の到来方向探査装置。
【請求項4】
請求項2又は請求項3に記載するパルス性電波雑音の到来方向探査装置において、
前記特定の周波数は前記中心周波数であることを特徴とするパルス性電波雑音の到来方向探査装置。
【請求項5】
請求項2乃至請求項4の何れか一つに記載するパルス性電波雑音の到来方向探査装置において、
前記パルス性電波雑音は電力設備から放射されるものであることを特徴とするパルス性電波雑音の到来方向探査装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−47864(P2011−47864A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−198114(P2009−198114)
【出願日】平成21年8月28日(2009.8.28)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)