説明

パルプの特性を改善する方法

本発明は、微粉の選択的除去の利用による、非-木材パルプの諸特性を改善するための方法に関するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パルプ、特に非-木材パルプの特性を、該パルプから微粉部分を選択的に除去することにより、改善することに関する。
【背景技術】
【0002】
パルプの微粉は、一般的にマックネット(McNett)デバイスの200-メッシュスクリーンを通過するパルプの画分、あるいは0.2mmよりも短い繊維を意味する。該パルプの微粉は均一ではないが、フレーク-様粒子およびフィブリル状粒子に分割することができ、これら両者は、様々な様式でパルプの特性に影響を与えることが知られている(Brecht & Klemm 1953)。該パルプの微粉は、パルプおよび紙の特性に対して多くの作用を及ぼすことが知られている。
化学木材パルプの微粉は、主としてリファイニングの結果として発生し、また二次的微粉と呼ばれている。特に、該微粉は、該パルプの強度特性、例えば引張強さに明確に影響を与える。
対照的に、化学非-木材パルプは、その良好な結合特性のために、また大量の微粉が、リファイニングにおいて更に低下される、その脱水特性を制限することから、主としてリファイニングせずに使用される。該微粉の含有率は、特に藁繊維において本来的に極めて高く、また藁繊維パルプは、また低い脱水特性を有している。非-木材パルプの微粉は、主として一次微粉であり、またこれらは引張強さおよび不透明度両者に明白な影響を持つことが分かっている(Rousu & Niinimaki 2007)。
【0003】
該非-木材パルプの微粉は、該パルプの脱水性を低下するので、葉由来の物質の量を、例えば原料物質を予備加工する際に減じることにより、該微粉を除去することによって、該パルプ内の微粉の量を制限する、多くの試みがなされている。該原料物質、例えば小麦麦藁の予備加工が該微粉の除去を可能とすること、および予備加工が、該パルプ内のケイ素等の無機成分の含有率の低減、該パルプ内のホロセルロースの高い含有率の達成および繊維長さにおける増加を可能とすることは公知である(Ma等, 1992; Papatheofanous等, 1995; Petersen, 1988; Paavilainen & Tulppala, 1996)。これらに加えて、該微粉の除去が、パルプの脱水特性、嵩、通気性および強度を改善することを見出した(Ma等, 1992; Paavilainen & Tulppala, 1996; Paavilainen等, 1999)。脱水は、藁パルプにおいて特に緩慢である。事実、小麦麦藁パルプにおける微粉除去の最適量は、全パルプを基に計算して、10%であろうことが示唆されている(Ma等, 1992)。
【0004】
上記の従来技術によれば、微粉は、一般的には原料物質の予備加工と共に、また比較的大量に除去すべきことが示唆されているが、これはパルプの損失をきたし、しかも該パルプの他の特性に有害な影響を与える可能性がある。典型的には、パルプの該原料物質は、しばしばまず乾式加工を行い、次いで湿式加工を行うことを含む、多段予備加工としての予備加工に付される。更に、多段予備加工の一欠点は、乾式加工において、多くの望ましい材料および繊維が、該微粉と共に除去されてしまい、また更に湿式加工が、大量の廃水を生じることである。更にまた、湿式加工は、この工程に過剰量の水が導入されることから、全てのパルプ製造プロセスにとって相応しいものではない。更に、これらの加工段階は、特別な投下資本を必要とする。
それにも拘らず、重要なパルプ特性以外の他のパルプ特性を実質上損なうことなしに、しかもプロセスの配列をできる限り単純に維持しつつ、該重要なパルプ特性の改善を可能とするように、出来得る限り少量のパルプ微粉を選択的に除去するための方法は、当分野において何ら記載も示唆もされていない。
【発明の概要】
【0005】
予想外のことに、微粉の極めて少量の除去であっても、該パルプの引張強さおよび不透明度等の他のパルプ特性を大幅に低下することなしに、パルプの排液特性および白色度における著しい改善がもたらされることを見出した。また、該パルプ微粉の性能および組成が、様々なパルプ特性に著しい作用を及ぼすことをも見出した。除去すべき該微粉は、主として表皮細胞、小さな実質細胞、シリケートおよびコルク細胞、および道管細胞の様々なフラグメントおよび対応する非-繊維質細胞型で構成されている。これらの粒子は、その小さなサイズおよびその小さな幅対長さの比、およびそのフレーク-様の性質によって特徴付けられる。該微粉画分自体のみを除去することにより達成される効果に比して、例えば脱水性において、同様な改善効果が、パルプ全体から該微粉成分の極めて少量部分のみを除去することによって達成されることを見出した。従って、該微粉の所定部分のみを除去することにより、高いパルプ収量比が、対応するパルプおよび紙の特性と共に達成される。
【発明を実施するための形態】
【0006】
本発明は、該非-木材パルプの特性、特に該パルプの排水性および/または白色度を改善するための方法に関するものである。この方法は、該パルプから、長くても0.18mmなる平均長さ(平均の最大寸法)および広くても0.05mmなる幅(平均の最小寸法)を持つ微粉粒子を除去することにより特徴付けられる。
本発明において、非-木材パルプとは、茎のあるイネ科植物(grass-stemmed plants)の繊維(イネ科植物繊維)、靭皮繊維、葉の繊維または果実の繊維から作られたパルプを意味する。茎のあるイネ科植物を主成分とする有用な繊維の例は、藁、例えば穀類(小麦、ライ麦、カラスムギ、大麦、米)の藁、ヨシ、例えばクサヨシ、ヨシ(common reed)、パピルス、サトウキビ、またはバガス、竹、および草本類、例えばエスパルト、サバイ(sabai)およびレモングラスの繊維を含む。靭皮繊維の例は、アマ、例えばアマ(common flax)の茎およびオイルアマ(oil flax)の茎、大麻、東インド大麻、ケナフ、ジュート、ラミー、カジノキ、ガンピ繊維およびミツマタ繊維を包含する。葉の繊維の例は、例えばアバカおよびサイザル麻を含む。果実繊維の例は、綿種子毛、綿種子の表皮繊維(リンター)、カポック、およびココナッツ外皮繊維を含む。
【0007】
本発明において有用な、またフィンランドにおいて生育している茎のあるイネ科植物としては、以下のようなものを挙げることができる:ヨシ(common reed)、クサヨシ、チモシー、カモガヤ、セイヨウエビラハギ、イネ科スズメノチャヒキ属植物(smooth brome)、イネ科ウシノケグサ属植物(red fescue)、シロバナシナガワハギ、アカツメクサ、ナンバンクサフジ属植物(goat's rue)およびアルファルファ。
本発明によれば、茎のあるイネ科植物から製造したパルプ、例えば藁パルプが、特に好ましく使用される。一態様においては、一年生の茎のあるイネ科植物から製造したパルプを使用する。他の態様においては、多年生の非-木本型の植物から製造したパルプを使用する。本発明によれば、例えば上記の穀類藁を含む農業廃棄物質を使用することも可能である。
非-木材パルプの中で、例えば小麦麦藁パルプの微粉含有率は、乾燥パルプに基いて計算して、典型的には全パルプの20〜25%なる範囲内にある。
【0008】
該パルプは、任意の従来のパルプ製造法により製造したあらゆる非-木材パルプ、例えば硫酸塩法、亜硫酸法またはソーダ法により製造したパルプであり得る。このパルプは、また溶媒に基く方法、例えば蟻酸に基くおよび/または酢酸に基く方法、アルコールに基く方法またはイオン法によって製造したパルプであってもよい。該パルプは漂白パルプまたは未漂白パルプであり得る。
本発明によれば、長くても0.18mmなる長さおよび広くても0.05mmなる幅を持つサイズの微粉粒子を、非-木材パルプから除去する。好ましくは、該粒子の平均の長さは、長くても0.10mmであり、またその幅は、広くても0.04mmである。
【0009】
本発明においては、該粒径の定義、即ち「長くても0.18mmまたは長くても0.10mmなる長さを持つサイズ」とは、除去すべき該粒子の粒径分布における平均の長さ(平均の最大寸法)が、夫々長くても0.18mmまたは長くても0.10mmであることを意味する。更に、該粒子の幅(平均の最小寸法)は、夫々広くても0.05mmまたは広くても0.04mmである。
除去すべき該粒子の形状は、好ましくはフレーク-様である。特に好ましい一態様において、該粒子の幅対その長さの比は、1:10に等しいかあるいはそれ以上、より一層好ましくは1:5に等しいかあるいはそれ以上、および特に1:2に等しいかあるいはそれ以上で、1:1なる値までである。
除去すべき該微粉粒子は、主として、非-木材型植物の、表皮細胞、実質細胞、シリケート細胞、道管細胞のフラグメント、コルク細胞および/または対応する非-繊維質細胞および/またはこれら細胞の部分またはこれら細胞および/または細胞部分の組合せで構成される。ここで、実質細胞とは、上で提示した定義に従って、長くても0.18mmなる長さ(最大寸法)を持つ小さな実質細胞を意味する。除去すべき該微粉粒子は、上記細胞型の少なくとも50%、好ましくは少なくとも75%を構成する。
【0010】
除去すべき該微粉粒子の量は、乾燥パルプに基いて計算して、典型的には該パルプ全体の8%未満、好ましくは5%未満である。
例えば、濾過、篩別、分級または質量差に基くデバイスを使用して、該微粉を除去することができる。この目的に適した工業用デバイスは、例えばフィルタ、スクリーン、分級器(例えば、加圧式分級器)、およびハイドロサイクロン(渦流式クリーナー)を含む。
好ましい一態様においては、篩別が利用され、その際の篩の開口は、180〜40μmなる範囲、好ましくは100〜40μmなる範囲、特に60〜40μmなる範囲にある。
該微粉は、該パルプの原料物質から、パルプの製造前に、パルプの製造と共に、またはパルプの製造後に最終的に得られたパルプから除去することができる。
好ましい一態様においては、微粉粒子は、パルプの製造後に該完成されたパルプから直接除去され、その濃度は0.1〜5%なる範囲まで低下される。この分離は、パルプ洗浄機の濾液から、抄紙機および乾燥器で、ディスクフィルタから、例えば0.05〜0.2mmなる範囲のメッシュを、スロットスクリーンまたは穴開きスクリーンを用いた際の加圧式スクリーンのアクセプトから、または適当な圧力差を加えた渦流式クリーナーであるいはこれらの様々な組合せで行うことができる。
【実施例】
【0011】
以下の実施例は、例示を目的とするものであり、本発明の限定的な実施例ではない。
以下の実施例および本明細書および特許請求の範囲全体における百分率の値(%)は、質量基準の百分率を意味する。
以下の実施例において使用する基準は、以下の通りである:
SR数:SCAN-CM 19:65;
紙シートの製造:SCAN-P 26:76;
引張強さ:SCAN-P 38:80;
吸光係数、不透明度および白色度:ISO 2467;
カッパー価:SCAN-C 1:00
【0012】
実施例1:
蟻酸および酢酸を主成分とする混合酸を用いて製造し、EPPシーケンス(EPP sequence)により漂白した小麦麦藁パルプを出発物質として使用した。このパルプを、40μmなる篩開口を持つスクリーンを用い、このスクリーンを通過した微粉部分を除去することによって、分別した。かくして除去された該微粉の量は、全パルプの2.34%に相当した。このパルプから、ショッパーリーグラー(Shopper Riegler)デバイスを用いて、排水時間を測定し、また13℃にてシートモールド内で自由脱水時間を測定し、また紙シートを製造し、これを用いて該パルプの引張強さをテストした。これらの測定は、未処理の出発物質としてのパルプおよび上記の微粉-除去処理したパルプ(該40μmのスクリーンを通過した部分を除去したパルプ)の両者について実施した。
【0013】
【表1】

【0014】
該40μmスクリーンを通過した部分を除去した際(即ち、該パルプの2.34%)、該SR数は7.2%だけ改善され、またこれに対応して、該シートモールドにおける脱水時間は、9.1%だけ改善されることを見出した。これらテストにおいて、引張強さにおける本質的な変化は全く見られなかった。
分離された該微粉を、微視的に分析した。微粉は、主として表皮細胞、小さな実質細胞、シリケート細胞、道管細胞のフラグメント、コルク細胞および対応する非-繊維質粒子およびその部分であることが分かった。該粒子の形状は、フレーク-様であり、その幅対その長さの比は、典型的に1:5を越えるものであった。
【0015】
実施例2:
50μmなる篩開口を持つスクリーンを用いて、該スクリーンを通過した微粉部分を除去することによって、実施例1の小麦麦藁パルプを分別した。除去された該微粉の量は、該パルプ全体の3.87%に相当するものであった。このパルプから、ショッパーリーグラー(Shopper Riegler)デバイスを用いて、その排水時間を測定し、また13℃にてシートモールド内で自由脱水時間を測定した。これらの測定は、未処理の出発物質としてのパルプ(参考)および上記の微粉-除去処理したパルプの両者について実施した。該参考に加えて、200メッシュの標準スクリーン(篩の開口:74μm)を通過した、様々な割合の微粉を除去したパルプを、比較例として使用した。
【0016】
【表2】

【0017】
該50μmスクリーンを通過した部分を除去した際(即ち、該パルプ量の3.87%)、該SR数は11.6%だけ改善され、またこれに対応して、該シートモールドにおける脱水時間は、18.4%だけ改善されることを見出した。該50μmスクリーンを通過した画分の3.87%を除去した効果と、全微粉を除去した効果とを比較すると、同一の脱水効率が、該微粉量における約35%なる減少を必要とすることが分かる。
該分離された微粉に関連して、光学分析機を用いて測定した、該粒子の平均長さは、0.18mmであった。微視的分析において、実施例1と同一の型の粒子が検出された。該粒子の形状は、同様にフレーク-様であったが、その幅対その長さの比は、典型的には1:10を越えるものであった。
【0018】
実施例3:
小麦麦藁パルプを、その微粉(74μmなる篩開口を持つ、200メッシュの標準スクリーンで分別し、該スクリーンを通過した部分を集めることにより得た)を、以下のような3つの部分に分別することにより分画した:(1) 50μmメッシュスクリーンを通過した微粉を上記微粉から除去した;(2) 40μmメッシュスクリーンを通過した微粉を、50μmメッシュスクリーンを通過した微粉から除去した;および(3) 40μmメッシュスクリーンを通過した微粉を集めた。
【0019】
【表3】

該微粉の様々な部分は、様々なカッパー価を持つが、その全てが、該繊維画分のカッパー価よりも高いことが分かった。該微粉の最も微細な部分が、最大のカッパー価を有していた。
【0020】
実施例4:
小麦麦藁パルプを、40μmメッシュスクリーンを通過した微粉部分および50μmメッシュスクリーンを通過した微粉部分を除去することによって、分別した。該除去した微粉の量は、夫々該パルプ全体の2.34%および3.87%に相当した。元のパルプから、および上記微粉画分を除去したパルプからシートを製造し、また該シートの吸光係数、不透明度および白色度を測定した。
【0021】
【表4】

【0022】
該吸光係数は、40μmメッシュスクリーンを通過した微粉部分を、該パルプから除去した場合、9.4%だけ改善され、またこれに対応して、50μmメッシュスクリーンを通過した微粉部分を、該パルプから除去した場合には、17.6%だけ改善されることを見出した。同様に、不透明度は、僅かに0.6%および1.1%だけ減少したが、該パルプの白色度は、1.0白色度単位および1.9白色度単位だけ改善された。
【0023】
参考文献


【特許請求の範囲】
【請求項1】
非-木材パルプから、長くても0.18mmなる平均長さおよび広くても0.05mmなる幅を持つ微粉粒子を除去することを特徴とする、該非-木材パルプの諸特性、例えば該パルプの排水性および/または白色度を改善する方法。
【請求項2】
前記粒子の平均長さが、長くても0.10mmであり、およびその幅が広くても0.04mmである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記粒子の形状が、フレーク-様の形状にある、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記粒子の幅対該粒子の長さの比が、1:10に等しいか、またはそれ以上である請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記比が、1:5に等しいか、またはそれ以上である請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記比が、1:2に等しいか、またはそれ以上である請求項5記載の方法。
【請求項7】
除去すべき前記微粒子の量が、乾燥パルプを基に算出して、該パルプ全量の8%未満、好ましくはその5%未満である、請求項1記載の方法。
【請求項8】
前記除去すべき粒子が、表皮細胞、実質細胞、シリケート細胞、道管細胞のフラグメント、コルク細胞および/または対応する非-繊維質細胞および/またはこれら細胞の部分またはこれら細胞および/または細胞部分の組合せで主として構成される、請求項1記載の方法。
【請求項9】
前記微粉粒子を、濾過、篩別、分級または質量差に基く方法により除去する、請求項1記載の方法。
【請求項10】
篩別法を利用し、使用する篩の開口が、180〜40μmなる範囲、好ましくは100〜40μmなる範囲にある、請求項9記載の方法。
【請求項11】
パルプの製造前に、パルプ製造と共にまたはパルプ製造後に、前記微粉粒子を、前記パルプ原料物質から除去する、請求項1記載の方法。
【請求項12】
前記非-木材パルプが、茎のあるイネ科植物から製造したパルプである、請求項1記載の方法。
【請求項13】
前記非-木材パルプが、農業廃棄物から製造したパルプである、請求項1記載の方法。
【請求項14】
前記非-木材パルプが、藁パルプである、請求項12または13記載の方法。

【公表番号】特表2011−500984(P2011−500984A)
【公表日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−529419(P2010−529419)
【出願日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際出願番号】PCT/FI2008/050580
【国際公開番号】WO2009/050338
【国際公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【出願人】(510108548)
【Fターム(参考)】