説明

パルプの脱リグニン及び漂白方法

【課題】改善された耐黄変性及び低下された酸化的損傷を有し、少なくとも89.5%の白色度を有するパルプの製造。
【解決手段】パルプを最初に二酸化塩素と反応させ、かつ二酸化塩素の反応後に中間接続された洗浄なしでモリブデン酸塩又はタングステン酸塩の存在でさらに過酸化水素と反応させる漂白段を用いて、パルプを脱リグニン及び漂白させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒としてのモリブデン酸塩又はタングステン酸塩の存在で、二酸化塩素及び過酸化水素でパルプを脱リグニン及び漂白する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
紙の製造のためには、パルプは、パルプ蒸解後に、複数段で脱リグニン及び漂白されなければならない。以前は、脱リグニン及び漂白のために、とりわけ元素状塩素が使用されていたのに対し、今日では、ECF漂白の場合に、好ましくは元素状塩素を用いない漂白シーケンスが使用される。そのためには、漂白シーケンスO−D0−EOP−D1−Pが最も頻繁に使用され、ここで、Oは、アルカリ条件下の酸素での脱リグニンを表し、D0及びD1は、漂白剤及び脱リグニン剤としての二酸化塩素での第一段及び第二段を呼び、EOPは、酸素及び過酸化水素の添加下でのアルカリ抽出を表し、Pは、過酸化水素での漂白を呼び、かつ各連字符は、例えば水の添加及び生じた懸濁液のろ過による、パルプの洗浄を表す。
【0003】
ECF漂白をさらに発展させるには、パルプ漂白中の有機塩素化合物の形成をさらに減少させるために、二酸化塩素の使用される量の低下が努力される。そのうえ、ECF漂白を元素状塩素でのパルプ漂白と同じ段数で実施できるように、四段及びその間にある3つの洗浄のみに段数を減少させる漂白シーケンスの簡素化が努力される。しかし、その場合に、漂白シーケンスO−D0−EOP−D1−Pと同じ、少なくとも89.5% ISO(PAPTAC規格E.1による)の白色度及び同白色度の安定性が達成されなければならず、かつパルプのより著しい酸化分解が行われてはならない。
【0004】
米国特許(US)第6,048,437号明細書には、漂白シーケンスO−DPcat−EOP−D1−Pを用いるパルプを脱リグニン及び漂白する方法が記載されており、前記方法の場合に二酸化塩素での脱リグニン及び漂白のための第一段D0の代わりに、DPcat段が使用され、前記段では二酸化塩素及び過酸化水素が同時に、触媒としてのモリブデン酸塩又はタングステン酸塩の存在で使用される。前記方法は確かに、従来のECF漂白のD0段に比べて、二酸化塩素の必要とされる量の低下を可能にするが、しかしながら、米国特許(US)第6,048,437号明細書において使用される二酸化塩素及び過酸化水素の量では、少なくとも89.5% ISOの所望の白色度は達成されない。二酸化塩素及び過酸化水素の量が高められる場合には、前記パルプの望ましくない酸化分解が起こり、この分解は、M. S. Manning他., J. Pulp Paper Sci. 32 (2006) 58-62から知られているように、パルプ粘度の低下によりはっきりと現れる。パルプのそのような望ましくない分解は、金属イオンをキレート化する薬剤でのパルプの抽出の追加の段Qを導入することによってのみ回避されることができ、その際、漂白シーケンスO−Q−DPcat−EOP−D1−P又はQ−O−DPcat−EOP−D1−Pに相応する。米国特許(US)第6,048,437号明細書には、そのうえ、比較例13及び14では、2つの段D−Pcat又はPcat−D(ここでPcatは、触媒としてのモリブデン酸塩又はタングステン酸塩の存在での過酸化水素での漂白を表す)を用いて、DPcat段に対して本質的により僅かな漂白作用が達成されることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許(US)第6,048,437号明細書
【特許文献2】国際公開(WO)第2009/133053号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】M. S. Manning他., J. Pulp Paper Sci. 32 (2006) 58-62
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本願発明には、技術水準の欠点を解決するという課題が課された。目下、意外にも、パルプを最初に二酸化塩素と反応させ、かつ二酸化塩素との反応後に中間接続された洗浄なしにモリブデン酸塩又はタングステン酸塩の存在でさらに過酸化水素と反応される漂白段D/Pcatを用いると、米国特許(US)第6,048,437号明細書から知られた漂白段DPcatに比べて、さらに改善された漂白作用及び二酸化塩素のさらなる節約が、パルプの望ましくない分解が起こることなく達成されるので、金属イオンをキレート化する薬剤でのパルプの抽出の追加の段Qが放棄されることができることが見出された。
【課題を解決するための手段】
【0008】
故に本発明の対象は、
第一工程において、パルプ3〜30質量%を含有する水性混合物中のパルプを、0.02〜0.25の範囲内のカッパーファクターに相応する量の二酸化塩素と、50〜150℃の温度及び2〜7の範囲内のpHで、90%よりも多い二酸化塩素が反応されるまで反応させ、かつ
第一工程において得られた混合物を引き続き前記混合物の成分を分離せずに、第二工程において過酸化水素0.1〜5質量%と、モリブデン10〜2000ppmの量のモリブデン酸塩の存在で又はタングステン200〜10000ppmの量のタングステン酸塩の存在で50〜150℃の温度でさらに反応させる
漂白段を含む、パルプを脱リグニン及び漂白する方法であり、ここで、量は、使用された乾燥パルプの質量をそれぞれ基準としている。
【0009】
本発明による方法は、2つの工程を有する漂白段を含む。第一工程において、パルプは、二酸化塩素と、90%よりも多い、好ましくは95%よりも多い及び特に好ましくは99%よりも多い二酸化塩素が反応されるまで反応される。最も好ましい実施態様において、二酸化塩素は第一工程において完全に反応される。第一工程に引き続き、第一工程において得られた混合物はついで前記混合物の成分を分離せずに、第二工程において、過酸化水素と、モリブデン酸塩又はタングステン酸塩の存在で反応される。
【0010】
本発明による方法の漂白段の第一工程において、パルプと二酸化塩素との反応は、3〜30%の範囲内の物質濃度(Stoffdichte)で行われる、すなわち前記反応は、前記水性混合物の全質量を基準として、乾燥パルプとして計算して、パルプ3〜30質量%の含量を有する水性混合物中で行われる。好ましくは、物質濃度は、5〜20%の範囲内及び特に好ましくは8〜15%の範囲内である。二酸化塩素は、その際、0.02〜0.25の範囲内及び好ましくは0.05〜0.15の範囲内のカッパーファクター(Kappa-Faktor)に相当する量で使用される。カッパーファクターは、当業者によく知られたパルプ漂白に使用される漂白剤量のパラメーターであり、かつ乾燥パルプの質量及び使用されるパルプのカッパー価を基準とした、活性塩素濃度[質量%]として計算した漂白剤の量の商を呼ぶ。活性塩素含量は、その際、乾燥パルプの質量を基準として、二酸化塩素の濃度[質量%]から、ファクター2.63を掛けることにより計算される、すなわち1質量%の二酸化塩素濃度は、2.63質量%の活性塩素濃度に相当する。使用されるパルプが10のカッパー価である場合に、0.5質量%の二酸化塩素濃度は、それに応じて0.5×2.63/10=0.1315のカッパーファクターに相当する。カッパー価は、当業者に知られたパルプのリグニン含量のパラメーターであり、これはTAPPI規格T 236 om 99により残存リグニンの酸化の過マンガン酸塩の消費を通じて決定される。
【0011】
本発明による方法の漂白段の第一工程において、パルプと二酸化塩素との反応は、50〜150℃、好ましくは60〜120℃及び特に好ましくは70〜90℃の温度で行われる。前記反応は、2〜7、好ましくは2〜5及び特に好ましくは2〜4の水性混合物の範囲内のpH値で行われる。水性混合物のpH値は、好ましくは無機酸の添加により、特に好ましくは硫酸又は塩酸の添加により調節される。二酸化塩素の反応に必要な反応時間は、反応温度及び二酸化塩素の濃度に依存し、かつ好ましくは5〜30min及び特に好ましくは10〜20minである。90℃の反応温度で、0.05〜0.15の範囲内のカッパーファクターの場合に通例15min以内で二酸化塩素の完全転化が達成される。
【0012】
本発明による方法の漂白段の第二工程において、パルプと過酸化水素との反応は、使用された乾燥パルプの質量を基準として、過酸化水素0.1〜5質量%の量で行われる。好ましくは、過酸化水素0.2〜2質量%及び特に好ましくは0.5〜1質量%が使用される。そのためには、漂白段の第一工程において得られた混合物に、相応する量の過酸化水素が、好ましくは過酸化水素35〜70質量%の含量を有する水溶液の形で、添加される。過酸化水素との反応は、過酸化水素での漂白に触媒として作用するモリブデン酸塩又はタングステン酸塩の存在で行われる。モリブデン酸塩及びタングステン酸塩という概念は、本発明によれば、一核のモリブデン酸塩及びタングステン酸塩、例えばMoO42-又はWO42-、並びに多核のモリブデン酸塩及びタングステン酸塩、例えばMo7246-、Mo8264-、HW6215-、W124110-又はW12396-、及びヘテロ原子を有する多核のモリブデン酸塩及びタングステン酸塩、例えばPMo12403-、SiMo12403-、PW12403-又はSiW12403-を含む。触媒としてのモリブデン酸塩の使用の場合に、前記モリブデン酸塩は、乾燥パルプの質量を基準として、モリブデン10〜2000ppm、好ましくは100〜1500ppm及び特に好ましくは200〜600ppmの量で使用される。触媒としてのタングステン酸塩の使用の場合に、前記タングステン酸塩は、乾燥パルプの質量を基準として、タングステン200〜10000ppm、好ましくは500〜5000ppm及び特に好ましくは1500〜3000ppmの量で使用される。
【0013】
触媒として使用されるモリブデン酸塩又はタングステン酸塩は、第一工程において得られた混合物に、過酸化水素の前もしくは後に又は過酸化水素に並行して添加されることができる。選択的に、前記モリブデン酸塩又はタングステン酸塩は、既に漂白段の第一工程においても、二酸化塩素の前もしくは後に又は二酸化塩素に並行して添加されることができる。好ましい一実施態様において、前記モリブデン酸塩又はタングステン酸塩及び前記過酸化水素は第二工程において、同時に、しかし互いに別個に2つの水溶液の形で添加される。
【0014】
本発明による方法の漂白段の第二工程において、パルプと過酸化水素との反応は、50〜150℃、好ましくは60〜120℃及び特に好ましくは70〜90℃の温度で行われる。好ましくは、漂白段の第一工程及び第二工程は、同じ温度で実施される。パルプと過酸化水素との反応は、第二工程において好ましくは60〜180min、特に好ましくは90〜120minの期間にわたって行われる。反応温度、反応時間及び触媒として使用されるモリブデン酸塩又はタングステン酸塩の量は、好ましくは、第二工程において、使用される過酸化水素の90%よりも多く、好ましくは95%よりも多く及び特に好ましくは99%よりも多くが反応されるように選択される。
【0015】
本発明による方法の漂白段の第二工程において、パルプと過酸化水素との反応は、好ましくは第一工程における二酸化塩素との反応と同じpH範囲内で実施される。必要な場合には、pH値の調節のためにさらに酸が添加される。しかしながら、通例、第一工程後にpH値のさらなる調節は不要である。
【0016】
本発明による方法の漂白段は、技術水準から知られた二酸化塩素又は過酸化水素でのパルプの脱リグニン及び漂白用の装置中で実施されることができる。
【0017】
好ましくは、前記漂白段は、上昇管及び漂白塔からなる装置中で連続的に実施され、前記装置では前記上昇管の上端は漂白塔の上端と接続されている。パルプ3〜30質量%を含有する水性混合物は、その際、前記上昇管に下端で供給される。二酸化塩素は、上昇管の下部領域で前記混合物に添加され、かつ前記混合物は、二酸化塩素の添加後に、上昇管を上昇流で5〜30minかけて流れるので、前記漂白段の第一工程は上昇管中で行われる。生じた混合物は、上昇管から上部で取り出され、かつ漂白塔に上部で供給される。過酸化水素は、上昇管の上部領域で又は漂白塔中で上部で、前記混合物に添加され、かつ過酸化水素の添加後に、前記混合物は、漂白塔を上昇流で60〜180minかけて流れるので、前記漂白段の第二工程は漂白塔中で行われる。この実施態様において、本発明による方法の漂白段は、パルプの漂白のための典型的な漂白塔中で前記装置の最小限の改造で実施されることができるので、パルプの漂白のための既存の設備が、本発明による方法を実施するために僅かな費用で改装する(umgeruestet)ことができる。
【0018】
好ましい一実施態様において、本発明による方法は、漂白段に加え、前記漂白段に続くアルカリ水溶液でのパルプの抽出と、それに続く追加の漂白段とを含み、追加の漂白段では、
第一工程において、パルプ3〜30質量%を含有する水性混合物中のパルプを、使用された乾燥パルプの質量を基準として二酸化塩素0.04〜0.4質量%と、50〜150℃の温度及び2〜7の範囲内のpHで、使用された二酸化塩素の少なくとも90%が反応されるまで反応させ、かつ
第一工程において得られた混合物を前記混合物の成分を分離せずに、第二工程において、使用された乾燥パルプの質量を基準として、過酸化水素0.1〜5質量%と、50〜150℃の温度及び10〜12.5の範囲内のpHでさらに反応させる。
【0019】
好ましいこの実施態様において、アルカリ水溶液でのパルプの抽出は、公知のECF漂白シーケンスにおいてD0漂白段に引き続き使用されるアルカリ抽出と同じようにして実施されることができる。好ましくは、前記抽出は、酸素の添加下でEO段として、過酸化水素の添加下でEP段として、又は酸素並びに過酸化水素の添加下でEOP段として、行われる。本発明による漂白段と、アルカリ水溶液でのパルプの抽出との間、並びにアルカリ水溶液でのパルプの抽出と、追加の漂白段との間に、好ましくはパルプの洗浄が、前記抽出におけるアルカリの消費及び追加の漂白段における酸の消費を低下させ、かつ前記漂白段及び前記抽出において、パルプから脱離された化合物を除去するために、実施される。
【0020】
追加の漂白段において、第一工程においてパルプは、水性混合物中で、さらに二酸化塩素と、2〜7の範囲内のpHで、90%よりも多い、好ましくは95%よりも多い及び特に好ましくは99%よりも多い二酸化塩素が反応されるまで反応される。最も好ましくは、二酸化塩素は、第一工程において完全に反応される。第一工程に引き続き、第一工程において得られた混合物はついで前記混合物の成分を分離せずに、第二工程において、過酸化水素と10〜12.5の範囲内のpHで反応される。
【0021】
追加の漂白段の第一工程において、前記パルプと二酸化塩素との反応は、3〜30%の範囲内の物質濃度で行われる、すなわち前記反応は、前記水性混合物の全質量を基準として、乾燥パルプとして計算して、パルプ3〜30質量%の含量を有する水性混合物中で行われる。好ましくは、物質濃度は、5〜20%の範囲内及び特に好ましくは8〜15%の範囲内である。二酸化塩素は、その際、使用された乾燥パルプの質量を基準として、二酸化塩素0.04〜0.4質量%、好ましくは二酸化塩素0.08〜0.2質量%の量で、使用される。
【0022】
追加の漂白段の第一工程において、パルプと二酸化塩素との反応は、50〜150℃、好ましくは60〜120℃及び特に好ましくは70〜90℃の温度で行われる。前記反応は、2〜7、好ましくは3〜6及び特に好ましくは4〜6の範囲内の水性混合物のpH値で行われる。水性混合物のpH値は、好ましくは無機酸の添加により、特に好ましくは硫酸又は塩酸の添加により調節される。二酸化塩素の反応に必要な反応時間は、反応温度及び二酸化塩素の濃度に依存し、かつ好ましくは5〜30min及び特に好ましくは10〜20minである。
【0023】
追加の漂白段の第二工程において、パルプと過酸化水素との反応は、10〜12.5、好ましくは11〜12の範囲内のpHで行われる。水性混合物のpH値は、そのためには、好ましくは無機塩基の添加により、特に好ましくはカセイソーダ、水酸化カルシウム又は水酸化マグネシウムの添加により調節される。過酸化水素は、使用された乾燥パルプの質量を基準として、0.1〜5質量%の量で使用される。好ましくは、過酸化水素0.2〜2質量%及び特に好ましくは0.25〜1質量%が使用される。過酸化水素は、好ましくは過酸化水素35〜70質量%の含量を有する水溶液の形で添加される。水酸化カルシウム又は水酸化マグネシウムの使用の場合に、過酸化水素の添加は、好ましくは前記塩基の添加後に行われる。カセイソーダの使用の場合に、過酸化水素は好ましくはカセイソーダと同時に、しかしそれとは別個に、添加される。
【0024】
追加の漂白段の第二工程において、パルプと過酸化水素との反応は、50〜150℃、好ましくは60〜120℃及び特に好ましくは70〜90℃の温度で行われる。好ましくは、前記漂白段の第一工程及び第二工程は、同じ温度で実施される。パルプと過酸化水素との反応は、第二工程において好ましくは60〜180min、特に好ましくは90〜120minの期間にわたって行われる。
【0025】
好ましくは、追加の漂白段は、上記で漂白段について記載されたのと同じようにして、上昇管及び漂白塔からなる装置中で実施される。
【0026】
本発明による追加の漂白段を用いる好ましい実施態様は、常用のECF漂白において並びに米国特許(US)第6,048,437号明細書において使用される最後の段D1−Pを有する漂白段シーケンスに比べて、漂白段及び洗浄が節約されるという利点を有する。アルカリ抽出の前及び後に洗浄を用いる好ましい一実施態様において、本発明による追加の漂白段を用いる実施態様のためには、漂白シーケンスD/Pcat−E−D/Pが得られ、ここで、D/Pは、本発明による追加の漂白段を表し、あるいは酸素及び/又は過酸化水素の添加を伴うアルカリ抽出の実施態様のためには、漂白シーケンスD/Pcat−EO−D/P、D/Pcat−EP−D/P及びD/Pcat−EOP−D/Pが得られる。
【0027】
本発明による方法の場合に、好ましくは、本発明による漂白段D/Pcatの前に、段Oにおいて酸素でアルカリ条件下でのパルプの脱リグニンは、特に好ましくは加圧下に、実施される。そのためには、技術水準から知られた、パルプを酸素で脱リグニンする全ての方法が使用されることができる。本発明による追加の漂白段を用いる好ましい実施態様のためには、ついで本発明による漂白シーケンスO−D/Pcat−E−D/P、O−D/Pcat−EO−D/P、O−D/Pcat−EP−D/P及びO−D/Pcat−EOP−D/Pが得られる。
【0028】
好ましいさらなる実施態様において、本発明による方法は、加えて、国際公開(WO)第2009/133053号の教示に相応するモリブデン酸塩又はタングステン酸塩の回収を含む。この実施態様において、漂白段D/Pcatの第二工程において生じた混合物から、モリブデン酸塩又はタングステン酸塩を含有する水溶液が分離され、かつこの溶液から、モリブデン酸塩又はタングステン酸塩は、
前記溶液を、水に不溶性のカチオン化された無機担体材料と、2〜6の範囲内のpH値で接触させて、モリブデン酸塩又はタングステン酸塩が負荷された(beladenen)担体材料及びモリブデン酸塩又はタングステン酸塩の減損された(abgereicherten)水溶液を得る工程、
モリブデン酸塩又はタングステン酸塩が負荷された担体材料を、モリブデン酸塩又はタングステン酸塩の減損された水溶液から分離する工程、
モリブデン酸塩又はタングステン酸塩が負荷された担体材料を、水溶液と、6〜14の範囲内のpH値で接触させて、モリブデン酸塩又はタングステン酸塩の減損された担体材料及びモリブデン酸塩又はタングステン酸塩が負荷される水溶液を得る工程、及び
モリブデン酸塩又はタングステン酸塩の減損された担体材料を、モリブデン酸塩又はタングステン酸塩が負荷された水溶液から分離する工程
を用いて分離される。最後の工程において分離された、モリブデン酸塩又はタングステン酸塩が負荷された水溶液は、ついで前記漂白段の第二工程へ返送される。
【0029】
好ましくは、カチオン化された無機担体材料として、カチオン化された層状ケイ酸塩、特に好ましくは第四級アンモニウム塩でイオン交換されたベントナイトが使用される。さらにまた、モリブデン酸塩又はタングステン酸塩の回収のためには、国際公開(WO)第2009/133053号に前記回収の工程のために記載された全ての好ましい実施態様が使用されることができる。
【0030】
本発明による方法において、本発明による漂白段D/Pcatにおいて及び/又は本発明による追加の漂白段D/Pにおいて、追加的に錯化剤が、過酸化水素と一緒に使用されることができる。そのためには、技術水準からパルプの漂白における過酸化水素の分解を低下させるために知られた全ての錯化剤が、使用されることができる。好ましくは、錯化剤としてアミノカルボン酸又はアミノホスホン酸、例えばエチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、N−ヒドロキシエチル−N,N′,N′−三酢酸、シクロヘキサンジアミン四酢酸、アミノトリメチレンホスホン酸、エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸、ジエチレントリアミンペンタメチレンホスホン酸、プロピレンジアミンテトラメチレンホスホン酸又はジプロピレントリアミンペンタメチレンホスホン酸、並びにそれらの塩が使用される。特に好ましい錯化剤は、EDTA及びDTPA並びにそれらのナトリウム塩である。前記錯化剤は、好ましくは使用された乾燥パルプの質量を基準として、0.05〜1質量%の量で使用される。
【0031】
次の実施例は、請求項に係る方法を説明するが、しかしながら本発明の対象を限定するものではない。
【実施例】
【0032】
方法:
パルプのカッパー価を、TAPPI規格T 236 om 99に従い測定した。前記パルプの白色度を、PAPTAC規格E.1に従い測定した。熱老化(Hitzealterung)による白色度損失及びPost-Color価の測定を、方法TAPPI UM 200及びTAPPI T 260を用いて行った。前記パルプの粘度を、TAPPI規格T 236 om 99に従い測定した。
【0033】
全ての試験を、酸素でアルカリ条件下脱リグニンされたユーカリ−クラフトパルプを用いて実施した。使用されたパルプのカッパー価及び白色度は、第1表に記載されている。
【0034】
漂白段をそれぞれ、10%の物質濃度で、パルプを相応する量の水及び例に記載された量の漂白薬品と混合し、かつサーモスタット調節された水浴中のプラスチックバッグ中で、例に記載された温度に維持することにより、実施した。それとは異なり、例25及び26における酸素で補助されたアルカリ抽出EOPを、回転オートクレーブ中で3バールの酸素圧で実施した。漂白薬品の記載された量は、漂白シーケンスへ装入された乾燥パルプの質量を基準とする。過酸化水素での触媒漂白のためには、触媒としてモリブデン酸ナトリウムを水溶液の形で使用した。
【0035】
前記漂白段の間の洗浄をそれぞれ、2%の物質濃度まで脱塩水を添加し、得られた懸濁液を激しく撹拌し、かつこの懸濁液からパルプを真空ろ過及び遠心分離により分離することにより、行った。
【0036】
【表1】

【0037】
漂白段の比較:
例1〜5において、パルプAを、第2表に記載された量の薬品と、前記表に記載された条件で漂白した。第2表は、さらに、漂白後のパルプのカッパー価及び白色度を示す。
【0038】
例1において、本発明により、まず最初に二酸化塩素及び硫酸のみを、かつ15min後にはじめて過酸化水素及びモリブデン酸ナトリウムを、添加した。過酸化水素の添加の時点で、全ての二酸化塩素が反応されていた。漂白段の終了時に、使用された過酸化水素のなお34%を検出することができた。
【0039】
例2(本発明によらない)において、米国特許(US)第6,048,437号明細書の教示に相応して、二酸化塩素、硫酸、過酸化水素及びモリブデン酸ナトリウムを同時に添加した。漂白段の終了時に、使用された過酸化水素のなお11%が検出されることができた。
【0040】
例3(本発明によらない)において、二酸化塩素及び過酸化水素の添加の順序を、本発明による漂白段に対して取り替えた、すなわち、まず最初に硫酸、過酸化水素及びモリブデン酸ナトリウムを添加し、かつ120min後にはじめて二酸化塩素を添加した。漂白段の終了時に、使用された過酸化水素は完全に反応していた。
【0041】
例4及び5(本発明によらない)において、二酸化塩素なしもしくは過酸化水素なしで漂白し、かつ例6(本発明によらない)において、硫酸のみを添加し、かつ漂白剤を添加しなかった。
【0042】
例1は、例2と比べて、本発明による一段の漂白D/Pcatを用いて、米国特許(US)第6,048,437号明細書から知られた漂白DPcatと同様に強力な脱リグニン及び漂白が達成されることを示す。このことは意外であり、かつ米国特許(US)第6,048,437号明細書の技術水準からは予測されることはできない、それというのも、技術水準において二酸化塩素、過酸化水素及びモリブデン酸塩の同時作用の相乗効果が教示されており、この効果は、二酸化塩素及び過酸化水素での別個の漂白に比べてより強力な漂白をもたらすからである。例3は、本発明による方法の場合に、漂白効率には、二酸化塩素及び過酸化水素の添加の順序が重要であることを示し、このことは米国特許(US)第6,048,437号明細書の試験データから同様に予測されることはできなかった。
【0043】
【表2】

【0044】
漂白段及びEP段を用いる三段シーケンス:
例7〜14において、パルプBを、第3表に記載された量の薬品で、前記表に記載された条件で漂白した。その際に得られたパルプの性質は、第4表にまとめられている。
【0045】
例7は、匹敵しうる量の漂白剤で実施された本発明によらない例9〜12と比べて、技術水準に対して予期せずに高い脱リグニン及び漂白が、後接続されたアルカリ抽出段EPとの組合せでも達成されることを示す。さらにまた、これらの例はまた、本発明による漂白段の場合にセルロースの酸化分解が、漂白されたパルプの高い粘度で確認可能であるように、特に僅かであることも示し、すなわち本発明による漂白段は、特に繊維にやさしく、かつ故により引裂に強い紙が製造されることができるパルプを生じる。そのうえ、本発明による漂白段を用いて、パルプの耐黄変性の改善が、熱老化後のより低いPost-Color価(PC価)で確認可能であるように、達成される。
【0046】
例14は、本発明によらない例13と比べて、本発明による漂白段を用いて、同程度の脱リグニン、すなわち同じカッパー価を達成するのに、二酸化塩素のみでの漂白の場合よりも本質的に少ない漂白薬品が必要とされること、及び二酸化塩素の必要とされる量が70%減少されることができることを示し、このことは、望ましくない有機塩素化合物の形成の相応する減少をもたらす。
【0047】
【表3】

【0048】
【表4】

【0049】
【表5】

【0050】
五段シーケンスO−漂白段−EP−D−P:
例15及び16において、パルプCを、及び例17〜20において、パルプEを、第5表に記載された量の薬品で、前記表に記載された条件で漂白した。その際に得られたパルプの性質は、第6表にまとめられている。
【0051】
例15(本発明による)及び16(本発明によらない)並びに17(本発明による)及び18(本発明によらない)は、本発明による漂白段D/Pcat及び技術水準に対応する次の段EP−D−Pからなる完全な漂白シーケンスを用いて、シーケンスD0−EP−D1−Pにおける二酸化塩素のみでの漂白の場合よりもより僅かな量の二酸化塩素で、89.5%よりも多い同じ白色度がより僅かな使用の二酸化塩素を用いて達成されることができ、かつその際に、同時により僅かなPost-Color価で確認可能であるような、明らかに改善された耐黄変性を有するパルプが得られることを示す。
【0052】
例19及び20は、本発明による漂白段を用いて、同じ白色度が、モリブデン酸塩の量が高められる場合に、より低い温度、ひいては低下されたエネルギー消費での漂白を用いても、達成されることができることを示す。
【0053】
【表6】

【0054】
【表7】

【0055】
【表8】

【0056】
【表9】

【0057】
四段シーケンスO−漂白段−EP−D/P:
例21〜24において、パルプEを、第7表に記載された量の薬品で、前記表に記載された条件で、本発明による追加の漂白段の使用下に漂白した。その際に得られたパルプの性質は、第8表にまとめられている。
【0058】
例21は、本発明によらない例22〜24と比べて、本発明による漂白段のこれらの例に示された利点が、完全な漂白シーケンスにおいて、中間接続された洗浄を有する通常使用される漂白段D−Pの代わりに、本発明による追加の漂白段D/Pが、酸性での二酸化塩素及びアルカリ性での過酸化水素での漂白の間に洗浄せずに使用される場合でも、達成されることを示す。
【0059】
【表10】

【0060】
【表11】

【0061】
漂白シーケンスO−D/Pcat−EOP−D/P:
例25及び26において、パルプFを、第9表に記載された量の薬品で、前記表に記載された条件で、本発明による追加の漂白段の使用下に漂白した。その際に得られたパルプの性質は、第10表にまとめられている。
【0062】
例25は、本発明による漂白段及び本発明による追加の漂白段を用いて、最も頻繁に使用されるECF漂白シーケンスO−D0−EOP−D1−Pに比べて、38%低下された量の二酸化塩素で、及び漂白段の節約で、すなわちより僅かな装置費用で、事実上同じ白色度を有するが、しかし追加的に明らかにより耐黄変性であり、かつあまり酸化的に損傷されていないパルプが得られることを示す。
【0063】
【表12】

【0064】
【表13】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルプを脱リグニン及び漂白する方法であって、以下の漂白段:
a)第一工程において、パルプ3〜30質量%を含有する水性混合物中のパルプを、0.02〜0.25の範囲内のカッパーファクターに相当する量の二酸化塩素と、50〜150℃の温度及び2〜7の範囲内のpHで、90%よりも多い二酸化塩素が反応されるまで反応させる段、及び
b)第一工程において得られた混合物を前記混合物の成分を分離せずに、第二工程において過酸化水素0.1〜5質量%と、モリブデン10〜2000ppmの量のモリブデン酸塩又はタングステン200〜10000ppmの量のタングステン酸塩の存在で50〜150℃の温度でさらに反応させる段、
ここで、前記量は、使用された乾燥パルプの質量をそれぞれ基準としている、
を含むことを特徴とする、パルプを脱リグニン及び漂白する方法。
【請求項2】
第一工程及び第二工程を60〜120℃、好ましくは70〜90℃の温度で実施する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記混合物を第一工程において5〜30min、好ましくは10〜20min 反応させる、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
前記混合物を第一工程において、二酸化塩素が完全に反応されるまで反応させる、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
第一工程において得られた混合物を、第二工程において60〜180min、好ましくは90〜120min、過酸化水素と反応させる、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記漂白段を、上昇管及び漂白塔からなる装置中で連続的に実施し、その際にパルプ3〜30質量%を含有する水性混合物を、上昇管に下端で供給し、二酸化塩素を前記上昇管の下部領域で前記混合物に添加し、第一工程において前記混合物を二酸化塩素の添加後に、前記上昇管に上昇流で5〜30minかけて流し、生じた混合物を前記上昇管から上部で取り出し、かつ前記漂白塔に上部で供給し、過酸化水素を前記上昇管の上部領域中で又は前記漂白塔中で上部で、生じた混合物に添加し、かつ第二工程において、前記混合物を過酸化水素の添加後に前記漂白塔に上昇流で60〜180minかけて流す、請求項1から5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記漂白段に続くアルカリ水溶液でのパルプの抽出と、それに続く追加の漂白段とをさらに含み、追加の漂白段において、
a)第一工程において、パルプ3〜30質量%を含有する水性混合物中のパルプを、使用された乾燥パルプの質量を基準として、二酸化塩素0.04〜0.4質量%と、50〜150℃の温度及び2〜7の範囲内のpHで、使用された二酸化塩素の少なくとも90%が反応されるまで反応させ、かつ
b)第一工程において得られた混合物を前記混合物の成分を分離せずに、第二工程において、使用された乾燥パルプの質量を基準として、過酸化水素0.1〜5質量%と、50〜150℃の温度及び10〜12.5の範囲内のpHでさらに反応させる、請求項1から6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
追加の漂白段において、第一工程において得られた混合物を、第二工程において60〜180min、好ましくは90〜120min反応させる、請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記漂白段の第二工程において生じた混合物から、モリブデン酸塩又はタングステン酸塩を含有する水溶液を分離し、この溶液からモリブデン酸塩又はタングステン酸塩を、
a)前記溶液を、水に不溶性のカチオン化された無機担体材料と、2〜6の範囲内のpH値で接触させて、モリブデン酸塩又はタングステン酸塩が負荷された担体材料及びモリブデン酸塩又はタングステン酸塩の減損された水溶液を得る工程、
b)モリブデン酸塩又はタングステン酸塩が負荷された担体材料を、モリブデン酸塩又はタングステン酸塩の減損された水溶液から分離する工程、
c)モリブデン酸塩又はタングステン酸塩が負荷された担体材料を、水溶液と、6〜14の範囲内のpH値で接触させて、モリブデン酸塩又はタングステン酸塩の減損された担体材料及びモリブデン酸塩又はタングステン酸塩が負荷された水溶液を得る工程、及び
d)モリブデン酸塩又はタングステン酸塩の減損された担体材料を、モリブデン酸塩又はタングステン酸塩が負荷された水溶液から分離する工程
を用いて分離し、かつ最後の工程で分離されたモリブデン酸塩又はタングステン酸塩が負荷される水溶液を前記漂白段の第二工程へ返送する、請求項1から8までのいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
カチオン化された無機担体材料として、カチオン化された層状ケイ酸塩、好ましくは第四級アンモニウム塩とイオン交換されたベントナイトを使用する、請求項9記載の方法。

【公開番号】特開2011−149140(P2011−149140A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−9105(P2011−9105)
【出願日】平成23年1月19日(2011.1.19)
【出願人】(501073862)エボニック デグサ ゲーエムベーハー (837)
【氏名又は名称原語表記】Evonik Degussa GmbH
【住所又は居所原語表記】Rellinghauser Strasse 1−11, D−45128 Essen, Germany
【Fターム(参考)】