説明

パルボウイルスおよびサイトカインの共投与に基づいた癌治療のための方法

(a) パルボウイルスおよび(b) サイトカイン、好ましくはIFN-γを含む医薬組成物、ならびに癌、例えば脳腫瘍の治療のための前記組成物の使用が記載される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(a) パルボウイルスおよび(b) サイトカイン、好ましくはIFN-γを含む医薬組成物、ならびに癌、例えば脳腫瘍の治療のための前記組成物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
悪性ヒト神経膠腫は、最も多くのヒト悪性脳腫瘍の原因である。これまでは、神経膠腫の治療としては、神経外科的技術(切除または定位的手法)、放射線療法および化学療法が挙げられている。しかしながら、これらの治療にもかかわらず、神経膠腫は、電離放射線、化学療法および外科的切除に反応しないため、不治であると考えられている。換言すると、これらの治療により、非常に限られた患者の寿命の延長が達成され得るだけであり、すなわち、これらの治療にもかかわらず、診断後の平均寿命はわずか12〜16ヶ月である。
【0003】
新生物を形成するように形質転換した細胞を特異的に殺傷(腫瘍崩壊)するウイルスまたは覆われた(armed)ベクター誘導体を使用した癌治療は、この致死性の疾患の治療についての新規のアプローチである。いくつかの自律性のパルボウイルスは、いわゆる腫瘍崩壊性ウイルスの部類に属している。パルボウイルスは、2つの非構造(NS1、NS2)タンパク質および2つのカプシド(VP1、VP2)タンパク質を発現する5.1kbの一本鎖DNAゲノムを含む、小さな(25〜30nm)非エンベロープ粒子である。パルボウイルスH-1PVは、少なくとも脳およびいくつかの他の腫瘍において、独特の死滅過程(death process)、すなわち細胞質再配置(relocation)およびリソソームプロテアーゼ(カテプシン)の活性化を誘発する特有の利点を有する。その天然の宿主がげっ歯類である数種類のパルボウイルス属(H-1PV、MVM、LuIII)は、宿主に形質転換できないこと、ヒトの無症候性の感染に関する能力、ならびに新生物を形成するように形質転換した細胞中で優先的に増殖する(腫瘍親和性(oncotropism))能力および該細胞を優先的に殺傷する(腫瘍崩壊)能力のために、現在、癌遺伝子療法適用について研究されている。MVMpおよびH-1PVウイルスは、インビボで腫瘍抑制性の活性を発揮すること、すなわち実験動物において自発的、化学的またはウイルス的に誘導された腫瘍の形成を阻害し得ることが示されている。パルボウイルスの発現カセットに基づいたベクターは、野生型ウイルスの腫瘍親和性特性を保持している。達成された印象的な結果にもかかわらず、ヒト臨床適用に最も有望なパルボウイルス候補(H-1PVを含む)の抗癌有効性は、例えば診断後の寿命の延長に関して、改善する必要がある。
【0004】
そのため、改善されたパルボウイルス系治療のための手段を提供することが本発明の課題である。
【0005】
本発明によると、このことは、特許請求の範囲に規定される内容により達成される。本発明は、パルボウイルスとINF-γなどのサイトカインを組み合わせた治療により、治療有効性が改善され得るという出願人の所見に基づく。H-1PVとIFN-γの組合せは免疫不全動物においても有利な効果を示すという観察は、この効果がT細胞に依存しないということを示す。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】図1は、MR画像法によるラット腫瘍(RG2神経膠腫)増殖のモニタリングである。
【図2】図2は、MR画像法によるヒト腫瘍(U 87神経膠腫)増殖のモニタリングである。
【発明を実施するための形態】
【0007】
従って、本発明は、(a) パルボウイルスおよび(b) サイトカイン、好ましくは例えば別々の容器中の別個の実体として(a) パルボウイルスおよび(b) サイトカインを含む医薬組成物を提供する。
【0008】
本明細書で使用する場合、用語「サイトカイン」は、細胞連絡において広範囲に使用されるシグナル伝達分子の部類に関する。サイトカイン(they)は、タンパク質、ペプチドまたは糖タンパク質を含む。用語サイトカインは、多様な発生学的起源の細胞により、体中で広く産生されるポリペプチド調節因子の大きなファミリーを包含する。サイトカインの作用は、自己分泌、パラ分泌および内分泌であり得る。全てのサイトカインは、先天性免疫応答および獲得性免疫応答の両方の発達および機能に重要である。サイトカインはしばしば、病原体に遭遇した免疫細胞により分泌され、それによりさらなる免疫細胞が活性化され、補充(recruit)されて、病原体に対する系の応答が増大される。実施例2および3に示されるアッセイによると、当業者は、本発明に従って投与された場合に有益な効果を示すサイトカインを選択することができる。
【0009】
好ましくは、本発明のサイトカインはインターフェロンである。全てのインターフェロン(IFN)は、ウイルス、寄生体および腫瘍細胞などの攻撃に応答して、ほとんどの脊椎動物の免疫系の細胞により産生される天然の細胞シグナル伝達タンパク質である。インターフェロンは、ウイルス感染の重要な指標である二本鎖RNAの存在に応答して種々の細胞により産生される。インターフェロンは、宿主細胞中でウイルス複製を阻害し、ナチュラルキラー細胞およびマクロファージを活性化させ、リンパ球への抗原提示を増加させ、ウイルス感染に対する宿主細胞の耐性を誘導することにより免疫応答を補助する。一般的に、全てのインターフェロンは共通したいくつかの効果を有しており、したがってIFN-γとH1-PVの併用により得られる結果はさらなるインターフェロンに適用できる。インターフェロンは抗ウイルス性であり、抗腫瘍形成特性、マクロファージおよびナチュラルキラーの細胞活性化、ならびに主要組織適合性複合体糖タンパク質クラスIおよびIIの増強を保有し、したがって外来(微生物)ペプチドのT細胞への提示を保有する。インターフェロンの産生は、ウイルスおよび細菌などの微生物、ならびにそれらの産物(ウイルス糖タンパク質、ウイルスRNA、細菌エンドトキシン、細菌鞭毛、CpG部位)、ならびに生体内の種々の抗原の出現に応答して合成されるマイトジェンおよび他のサイトカイン、例えばインターロイキン1、インターロイキン2、インターロイキン-12、腫瘍壊死因子およびコロニー刺激因子に応答して誘導される。インターフェロンの代謝および排出は、主に肝臓および腎臓で起こる。インターフェロンはほとんど胎盤を通過しないが、血液脳関門は通過し得る。
【0010】
ヒトについて記載されているインターフェロンの3つの主要な分類がある:
(a) インターフェロンI型:ヒトに存在するI型インターフェロンは、IFN-α、IFN-βおよびIFN-ωである。
(b) インターフェロンII型:ヒトにおいて、これはIFN-γである。
(c) インターフェロンIII型:IL10R2(CRF2-4とも称される)およびIFNLR1(CRF2-12とも称される)からなるレセプター複合体を介したシグナル。
【0011】
本発明のより好ましい態様において、インターフェロンはインターフェロン-γである。
【0012】
好ましくは、前記医薬組成物において、パルボウイルスおよびサイトカインは、有効用量で存在し、薬学的に許容され得る担体と合わされる。「薬学的に許容され得る」は、活性成分の生物学的活性の有効性を妨害せず、投与された患者に対して毒性でない任意の担体を包含することを意味する。適切な医薬担体の例は当該技術分野において周知であり、リン酸緩衝化食塩水溶液、水、油/水エマルジョンなどのエマルジョン、種々の型の湿潤剤、滅菌水溶液等が挙げられる。かかる担体は、従来の方法により調製され得、有効用量で被験体に投与され得る。
【0013】
「有効用量」は、疾患の経過および重症度に影響し、かかる病理の低減または寛解をもたらすのに充分な活性成分の量をいう。これらの疾患または障害の治療および/または予防に有用な「有効用量」は、当業者に公知の方法を使用して決定され得る(例えば、Fingl et al., The Pharmocological Basis of Therapeutics, Goodman and Gilman編. Macmillan Publishing Co., New York, pp. 1-46 ((1975)参照)。
【0014】
パルボウイルスについての好ましい用量は約108〜109pfu (単回注射)の範囲であり、サイトカイン、特にIFN-γについては約106〜107U (単回注射)の範囲である。
【0015】
さらなる薬学的に適合性の担体としては、ゲル、生体吸収性マトリックス材料、治療剤を含む埋め込み因子、または任意の他の適切なビヒクル、送達もしくは分配の手段もしくは材料(1つまたは複数)が挙げられ得る。
【0016】
化合物の投与は、種々の方法、例えば、静脈内、腹腔内、皮下、筋内、局所または皮内の投与により実施され得る。当然ながら、投与経路は、治療の種類および医薬組成物に含まれる化合物の種類に依存する。好ましい投与経路は静脈内投与である。パルボウイルスおよびサイトカインの投与計画は、例えば患者のサイズ、体表面積、年齢、性別、投与される具体的なパルボウイルス、投与の時間および経路、腫瘍の型および特徴、患者の一般的な健康状態、ならびに患者が供されている他の薬物療法を含む患者データ、観察および他の臨床的な要因に基づいて、主治医により、当該技術の技術内で容易に決定可能である。
【0017】
パルボウイルスが、血液脳関門を通過する能力を有する感染性ウイルス粒子を含む場合は、治療は、パルボウイルス、例えばH1ウイルスの静脈注射により行なわれ得るかまたは少なくとも開始され得る。好ましい投与経路は腫瘍内投与である。
【0018】
長期間の静脈内治療は、パルボウイルスに対する中和抗体の形成の結果、無効果になりやすいので、最初の静脈内ウイルス投与計画の後、異なる投与様式が適用され得るか、またはパルボウイルス治療の経過全体を通じて、かかる異なる投与技術、例えば頭蓋内もしくは腫瘍内ウイルス投与が代替的に使用され得る。
【0019】
別の具体的な投与技術として、パルボウイルス(ウイルス、ベクターおよび/または細胞剤)含有組成物は、患者に埋め込まれた供給源から患者へと投与され得る。例えばシリコーン製または他の生体適合性物質製のカテーテルを、例えば腫瘍除去中に患者に設置された小さな皮下レザバー(Rickhamレザバー)に連結し得るか、またはさらな外科的介入なく、種々の時点でパルボウイルス含有組成物の局所注射を可能にする別の手順により該レザバーに連結し得る。定位外科的技術またはニューロナビゲーション(neuronavigation)標的化技術によってもパルボウイルス含有組成物または誘導されたベクター含有組成物を腫瘍に注射し得る。
【0020】
パルボウイルス含有組成物の投与は、適切なポンプシステム、例えば蠕動輸液ポンプまたは対流増大送達(convection enhanced delivery)(CED)ポンプを使用して、埋め込みカテーテルを介して低流速で、ウイルス粒子またはウイルス粒子を含む液体の連続輸液によっても実施され得る。
【0021】
パルボウイルス含有組成物のさらに別の投与方法は、パルボウイルス含有組成物を所望の癌組織に分配するように構築および配列された埋め込み物品によるものである。例えば、パルボウイルス含有組成物、例えばパルボウイルスH1を充填した(impregnated)オブラート(wafer)を使用することができ、ここで該オブラートは、外科的腫瘍除去の終わりに切除腔の端に付着される。かかる治療介入には、多数のオブラートを使用し得る。パルボウイルス、例えばパルボウイルスH1またはH1ベクターを能動的に生成する細胞を、腫瘍または腫瘍除去後の腫瘍腔に注射し得る。
【0022】
本発明による併用治療は、癌、特に脳腫瘍の治療的処置に有用であり、前記疾患の予後を有意に改善し得る。パルボウイルスH1感染は腫瘍細胞の殺傷に影響するが、正常細胞は傷つけず、かかる感染は、例えば適切なパルボウイルス、例えばパルボウイルスH1(-1PV)、または関連するウイルスもしくはかかるウイルスに基づくベクターの脳内使用により実行され、有害な神経学的副作用または他の副作用なしに、腫瘍特異的治療をもたらし得る。
【0023】
本発明はまた、癌の治療のための医薬組成物の調製のための(a) パルボウイルスおよび(b) サイトカイン、好ましくはIFN-γの使用に関し、好ましくは(a)と(b)は連続して(または別々に)投与される。
【0024】
本発明の好ましい一態様において、神経膠腫、髄芽腫および髄膜腫などの脳腫瘍の治療に薬剤の組合せが使用される。好ましい神経膠腫は、悪性ヒト神経膠芽腫である。しかしながら、本発明による治療は、原則として、パルボウイルス、例えばパルボウイルスH1により感染され得る任意の腫瘍に適用可能である。かかる腫瘍は、膵臓腫瘍、前立腺腫瘍、肺腫瘍、腎臓腫瘍、肝臓腫瘍、リンパ腫、乳癌および肝癌を含む。
【0025】
用語「パルボウイルス」は、本明細書で使用する場合、野生型ウイルス、またはその改変された複製能を有する(replication compitent)誘導体、ならびにかかるウイルスまたは誘導体を基にした関連ウイルスまたはベクターを含む。適切なパルボウイルス、誘導体等ならびに前記パルボウイルスを能動的に生成するために使用でき、かつ治療に有用である細胞は、本明細書の開示に基づいて、過度の実験的な努力なく、当該技術の技術内で容易に決定され得る。
【0026】
本発明の別の好ましい態様において、該組成物のパルボウイルスは、パルボウイルスH1(H1-PV)またはLuIII、マウスマイニュートウイルス(Mouse minute virus) (MMV)、マウスパルボウイルス(MPV)、ラットマイニュートウイルス(Rat minute virus) (RMV)、ラットパルボウイルス(RPV)もしくはラットウイルス(RV)などの関連パルボウイルスを含む。
【0027】
本発明の薬剤の組合せにより治療可能な患者としては、ヒトおよび非ヒト動物が挙げられる。後者の例としては、限定されないが、ウシ、ヒツジ、ブタ、ウマ、イヌおよびネコなどの動物が挙げられる。
【0028】
好ましくは、パルボウイルスおよびサイトカインは、別々の化合物として投与される。別々に投与される場合、サイトカインの投与は、非経口および経腸経路による全身的な投与を含む種々の方法(上述参照)で達成され得る。
【0029】
さらなる好ましい態様において、パルボウイルスはサイトカインと一緒に投与される。
【0030】
以下の実施例により本発明をさらに詳細に説明する。
【実施例】
【0031】
実施例1
材料および方法
(A) ウイルス生成および検出
野生型H-1ウイルスを、NBK細胞に感染させて生成し、イオジキサノール勾配遠心分離により精製し、リンガー溶液に対して透析した。複製中心形成単位(cfu)として以前に記載され、表現されるようにウイルス力価を測定した。簡潔に、精製したウイルスの連続希釈液をNBK細胞に適用した。感染後48時間で、感染培養物をフィルターにブロットして、ウイルスDNA特異的放射性プローブを使用して、ハイブリダイゼーションにより複製中心を検出した(Russell et al., J Virol 1992;66:2821-8)。
【0032】
(B) 動物試験
(i) 麻酔. 全ての外科的手順および画像化手順は、純粋酸素中のイソフルラン(Aerrane(登録商標), Baxter, Maurepas, France)を用いる気体麻酔下で行なった。イソフルラン濃度は、麻酔の開始時に5%から、外科的手順または画像化手順の間は2% (+/-0.5%)で変えた。
【0033】
(ii) 動物. 体重220〜250gの6〜7週齢の雌Wistarラットまたは免疫不全RNUラット(Charles River, Sulzfeld, Germany)を腫瘍細胞埋め込みに使用した。WistarラットにRG-2神経膠腫細胞を埋め込み、RNU-ラットにヒトU87細胞を埋め込んだ。動物は、バランスのとれたペレット食および水に制限なく接近できるようにして、通常条件下(温度22±2℃、相対湿度55±10%、12時間の明暗周期)で維持した。動物実験は、仏国および欧州共同体の動物保護に関する指令(1986年、11月24日の第86/609/EEC号)に従って行なった。
【0034】
(C) 磁気共鳴画像法
0.4mlの造影剤(ガドジアミド、OmniscanTM, Amersham, Braunschweig, Germany)の尾静脈への注射の前後にT1加重画像法(weighted imaging)を使用して、2.45テスラMRIスキャナ(Bruker, Ettlingen, Germany)中で動物を調べた。注射の5分後にガドジアミド増強T1画像法を行なった。MR試験中、イソフルラン吹込み(開始用量5%、維持2%)によりラットを麻酔した。MRIcroソフトウェアを使用して腫瘍の体積を測定した。
【0035】
実施例2
IFN-γとパルボウイルスH-1(H-1PV)を合わせることによる、免疫応答性ラット中のラット神経膠腫の治療有効性の増加
腫瘍モデル:ラット神経膠腫細胞株の細胞(RG2細胞)を、Wistarラットの右前脳に、頭蓋内に埋め込んだ(動物あたり104細胞)。全部で11匹の免疫応答性Wistarラット(6〜7週齢、240〜250g、雌)を該実験で分析した。
【0036】
対照(すなわち、腫瘍細胞を埋め込んだがその後何も処理せず、MR画像法により腫瘍増殖をモニタリングした)として3匹の動物を使用した。8匹の動物を3つの群に分けた:
【0037】
(a) 1群(ラット神経膠腫腫瘍を保有する3匹のラット)は、腫瘍細胞埋め込みの7日後にIFN-γのi.v.注射(組換えラットIFN-γ、動物あたり105U)により処理した。
【0038】
(b) 2群(3匹のラット神経膠腫保有ラット)は、腫瘍埋め込みの7日後にH-1PVおよびラットIFN-γの組合せのi.v.注射により処理した(動物あたりのH-1PVの最終用量:108pfu;動物あたりのIFN-γの最終濃度:105U)。
【0039】
(c) 3群(2匹のラット神経膠腫保有ラット)は、腫瘍埋め込みの7日後にH-1PVのみ(動物あたり108pfu)のi.v.注射により処理した。
【0040】
7日間の間隔でMR画像法により腫瘍増殖を分析した。
【0041】
結果:
結果を図1に示す。
【0042】
(a) 全ての対照動物において、腫瘍は継続的に増殖し、罹患の徴候(悪液質、弱化、および移動または食事の困難)のために最大で14日後に動物を屠殺した。
【0043】
(b) H-1PVおよびラットIFN-γの組合せで処理した群中2匹のラットで、処理7日後に完全な腫瘍の退縮が観察された。1匹の動物において、処理後に腫瘍増殖が停止した。
【0044】
(c) H-1PV単独で処理した動物の群において、腫瘍体積は感染の7日後に低下した(この時点で完全に退縮はしなかった)。
【0045】
(d) IFN-γのみで処理したラットにおいて、腫瘍は処理後に増殖し続けたが、対照動物ほど早くはなかった。この群由来のラットは、腫瘍細胞埋め込み後、最大で19日まで生存した(すなわち、対照動物と比較して5日長かった)。腫瘍退縮または腫瘍増殖の停止のいずれもこの群では観察されなかった。
【0046】
H-1PVとIFN-γなどのサイトカインを合わせた処理により、インビボにおいて、相加的な効果だけでなく相乗的な効果さえも達成され得ると予想することができる。
【0047】
実施例3
IFN-γとパルボウイルスH-1(H-1PV)を合わせることによる、免疫不全ラットにおけるヒト神経膠腫細胞株由来脳腫瘍の治療有効性の増加
腫瘍モデル:ヒト神経膠腫細胞株の細胞(U87細胞)を、ラットの右前脳に、頭蓋内に埋め込んだ(動物あたり105細胞)。該実験において、全部で18匹の免疫不全RNUラット(6〜7週齢、220〜250g、雌)を分析した。
【0048】
5匹の動物を対照(すなわち、腫瘍細胞を埋め込んだが、何の処理にも供さず、MR画像法により腫瘍増殖をモニタリングした)として使用した。残りの13匹の動物を3つの処理群に分けた:
【0049】
(a) 1群(ヒト神経膠腫細胞由来腫瘍を保有する5匹のラット)は、腫瘍細胞埋め込みの7日後にIFN-γのi.v.注射(組換えヒトIFN-γ、動物あたり105U)により処理した。
【0050】
(b) 2群(5匹のヒト神経膠腫保有ラット)は、腫瘍埋め込みの7日後にH-1PVおよびヒトIFN-γの組合せのi.v.注射により処理した(動物あたりのH-1PVの最終用量:108pfu;動物あたりのIFN-γの最終濃度:105U)。
【0051】
(c) 3群(3匹のラット)は、腫瘍埋め込みの7日後にH-1PVのみのi.v.注射(動物あたり108pfu)により処理した。
【0052】
4日間の間隔で、MR画像法により腫瘍増殖を分析した。
【0053】
結果:
結果を図2に示す。
【0054】
(a) 全ての対照動物において、腫瘍は継続的に増殖し、罹患の徴候(悪液質、弱化、移動または食事の困難)のために、最大で14日後にラットを屠殺した。
【0055】
(b) H-1PVおよびヒトIFN-γの組合せで処理した群中3匹のラットで、完全なヒト腫瘍の退縮が観察された。処理後2匹の動物で腫瘍増殖が停止し、組織学的分析のためにラットを屠殺するまで、腫瘍の体積は一定のままであった。
【0056】
(c) IFN-γのみで処理したラットにおいて、腫瘍は処理後増殖し続けたが、対照動物ほど早くはなかった。この群由来のラットは、腫瘍細胞埋め込み後最大で3週間まで生存した(すなわち、対照動物と比較して1週間長い)。腫瘍退縮または腫瘍増殖の停止のいずれも、この群では観察されなかった。
【0057】
(d) H-1PVのみで処理した動物の群において、感染の7日後に腫瘍体積は低下した(しかし、この時点では完全に退縮はしなかった)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルボウイルスおよびサイトカインを含む医薬組成物。
【請求項2】
前記サイトカインがインターフェロンである、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記インターフェロンがIFN-γである、請求項2記載の医薬組成物。
【請求項4】
(a) パルボウイルスおよび(b) サイトカインを別個の実体として含む、請求項1〜3いずれか記載の医薬組成物。
【請求項5】
癌の治療のための医薬組成物の調製のための、パルボウイルスおよびサイトカインの使用。
【請求項6】
前記サイトカインがインターフェロンである、請求項5記載の使用。
【請求項7】
前記インターフェロンがIFN-γである、請求項6記載の使用。
【請求項8】
(a) パルボウイルスおよび(b) サイトカインを連続的に投与するかまたは一緒に投与する、請求項5〜7いずれか記載の使用。
【請求項9】
前記癌が脳腫瘍である、請求項5〜8いずれか記載の使用。
【請求項10】
前記脳腫瘍が神経膠腫、髄芽腫または髄膜腫である、請求項9記載の使用。
【請求項11】
前記神経膠腫が悪性ヒト神経膠芽腫である、請求項10記載の使用。
【請求項12】
前記パルボウイルスが、H1 (H1-PV)または関連するげっ歯類パルボウイルスである、請求項1〜4いずれか記載の医薬組成物または請求項5〜11いずれか記載の使用。
【請求項13】
前記関連するげっ歯類パルボウイルスが、LuIII、マウスマイニュートウイルス(MMV)、マウスパルボウイルス(MPV)、ラットマイニュートウイルス(RMV)、ラットパルボウイルス(RPV)またはラットウイルス(RV)である、請求項12記載の医薬組成物または使用。
【請求項14】
前記パルボウイルスが腫瘍内投与により投与される、請求項5〜13いずれか記載の使用。
【請求項15】
癌の治療方法における使用のための、前述の請求項に規定されるパルボウイルスおよびサイトカイン。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2012−528807(P2012−528807A)
【公表日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−513489(P2012−513489)
【出願日】平成22年5月19日(2010.5.19)
【国際出願番号】PCT/EP2010/003070
【国際公開番号】WO2010/139401
【国際公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【出願人】(500030655)
【出願人】(509161141)ルプレヒト−カールス−ウニヴェルジテート ハイデルベルク (6)
【氏名又は名称原語表記】Ruprecht−Karls−Universitaet Heidelberg
【住所又は居所原語表記】Grabengasse 1, D−69117 Heidelberg, Germany
【Fターム(参考)】