説明

パレット交換装置

【課題】装置を大型化したりすることなく、加工空間の前方等の作業者のアクセス側に十分な作業スペースを確保することができるパレット交換装置を提供する。
【解決手段】アーム14を、一対のフォーク(パレット支持部)14a、14bを旋回軸から放射状に有してなり、該フォーク14a、14bの挟角が180°未満となるように配置(ここで、挟角120°とする)された「平面く字状」に成形した。また、アーム14を、テーブル12により、加工空間の前方位置となる待機位置と、工作機械1に隣接された工具マガジン8の前方位置と待避位置との間をスライド可能とし、待避位置側への移動により、加工空間の前方に作業スペースSを確保可能とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば立形マシニングセンタ等の工作機械に付設され、加工済みのワークが載置されたパレットと加工前のワークが載置されたパレットとを交換するためのパレット交換装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、たとえば立形マシニングセンタ等の工作機械には、加工済みのワークが載置されたパレット(以下、後パレットという)と、加工前のワークが載置されたパレット(以下、前パレットという)とを交換するためのパレット交換装置(たとえば、特許文献1に記載)が付設されている。
【0003】
【特許文献1】特開2006−305692号公報
【0004】
ここで、上記特許文献1に記載されているような従来のパレット交換装置について、図5をもとに説明する。図5は、従来のパレット交換装置70を示した説明図である。
パレット交換装置70は、工作機械に設けられた加工空間71の前方に付設されており、相反方向へ向けられた一対のフォーク72a、72aを備えてなるアーム72を、旋回自在で昇降可能、且つ、工作機械に対して前後方向へスライド可能に備えてなる。そして、アーム72のスライド動作、昇降動作、及び旋回動作により、前パレットP1と後パレットP2とを交換する。また、当該パレット交換装置70にあっては、作業者が初品加工などでの加工監視、主軸装置に取り付けられる刃具の点検、加工物の測定等のために工作機械本体にアクセスする際には、図5に示す如くフォーク72a、72aが左右方向へ向くようにアーム72を旋回させることで、加工空間71の前方、すなわち工作機械本体の前方に作業スペースSを確保するようになっている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般的に、加工空間の前方にパレット交換装置を備える場合、加工空間の前方に如何にして作業スペースを確保するかが課題としてあり、上述の如く従来のパレット交換装置70によれば、アーム72の旋回動作により作業スペースSを確保するようになっている。しかしながら、アーム72の旋回程度では、十分な作業スペースSを確保することが困難でより広い作業スペースSの確保が望まれている。また、フォーク72aをより長く突出させれば、アーム72の旋回により確保される作業スペースSも広くなるものの、強度上の問題等からフォーク72aの突出可能長さにも限界があるし、フォーク72aが長くなる分、アーム72の旋回に広いスペースが必要となり、パレット交換装置が大型化するといった問題にもつながる。
【0006】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みなされたものであって、装置を大型化したりすることなく、加工空間の前方等の作業者のアクセス側に十分な作業スペースを確保することができるパレット交換装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明のうち請求項1に記載の発明は、工作機械に隣設され、ワーク搬入口を介して加工空間に進退するとともに、旋回動作によりワーク等が載置されたパレットを交換するパレット交換手段を備えたパレット交換装置であって、前記パレット交換手段が、旋回軸の中心から放射状に備えられた一対のパレット支持部を、該パレット支持部同士の挟角が180°未満となる平面く字状に配置してなるものである一方、前記パレット交換手段を、前記ワーク搬入口の前方となる待機位置と、当該待機位置から水平方向へ所定距離だけ離れた退避位置との間で移動可能とし、該退避位置側への移動により、前記ワーク搬入口の前方に作業スペースを確保可能としたことを特徴とする
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、工作機械に工具マガジン等の付加設備が隣設されている際には、該付加設備側へパレット交換手段を移動可能とし、該付加設備側への移動を退避位置側への移動としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、パレット交換手段を、ワーク搬入口の前方となる待機位置と、当該待機位置から水平方向へ所定距離だけ離れた退避位置との間で移動可能とし、該退避位置側への移動により、ワーク搬入口の前方に作業スペースを確保可能としている。したがって、必要に応じてパレット交換手段を退避移動させることで、加工空間の前方に従来よりも広く、各種メンテナンス作業に十分な作業スペースを確保することができる。
また、パレット交換手段を、旋回軸の中心から放射状に備えられた一対のパレット支持部を、該パレット支持部同士の挟角が180°未満となる平面く字状に配置して成形している。そのため、フォークを相反方向へ突出するように備えてなるパレット交換手段と比較して、その進退方向長さを短くすることができる。したがって、加工空間への進退に必要な移動距離を短縮することができ、交換動作の迅速化を図ることができる。加えて、パレット交換手段の移動に必要なスペース、すなわちパレット交換装置の据付面積を縮小可能であり、装置のコンパクト化をも図ることができる。
さらに、パレット交換手段を「平面く字状」に形成することで、パレットを交換する際の旋回角度は180°未満となる。したがって、フォークを相反方向へ突出するように備えてなるパレット交換手段と比較して、パレット交換手段の旋回動作にかかる時間をも短縮することができ、パレットの交換時間の一層の短縮を図ることができる。
加えて、請求項2に記載の発明によれば、工作機械に工具マガジン等の付加設備が隣設されている際には、該付加設備側へパレット交換手段を移動可能とし、該付加設備側への移動が退避位置側への移動となるようにしている。したがって、スペースを有効に利用可能な合理的な構成とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態となるパレット交換装置について、図面をもとに説明する。
図1は、パレット交換装置及び工作機械1を上方から示した説明図である。尚、図1におけるX軸方向を左右方向、Y軸方向を前後方向とし、さらにX軸及びY軸に直交する方向をZ軸方向(上下方向)とする。また、図1における下方を工作機械1の前方とする。
【0010】
まず、パレット交換装置が付設される工作機械1について説明する。
工作機械1は、ベッド6上に、Y軸方向へスライドするテーブル2と、当該テーブル2を跨ぐように立設されたクロスレール3と、該クロスレール3の前面をX軸方向へスライドするサドル4と、該サドル4の前面をZ軸方向へスライドするラム5とを備えた立形マシニングセンタであって、テーブル2上にはワークを載置したパレットが設置可能となっており、またラム5には工具を装着可能な主軸頭が設置されている。さらに、クロスレール3の前方でテーブル2、サドル4、及びラム5が移動する範囲は、図示しないカバーによって覆われており、該カバー内(すなわち、クロスレール3の前方)が加工空間となっている。
【0011】
そして、該工作機械1では、テーブル2のY軸方向への移動、サドル4のX軸方向への移動、及びラム5のZ軸方向への移動により、加工空間内において、テーブル2上に設置されたパレット上のワークに対して多方向からの加工を可能としている。また、工作機械1に対して、作業者は、その加工を工作機械1の前方(すなわち、加工空間の前方)から監視するとともに、工具の点検や初品加工後のワークの測定といった作業(以下、まとめてメンテナンス作業と称す)も工作機械1の前方側からアクセスして行うようになっている。尚、8は、工作機械1の側方に設置された工具マガジン(付加設備)であり、8aは、工具を交換するための旋回アームである。また、工作機械1におけるワークの加工に係る制御(テーブル2、サドル4、ラム5の移動等)は、図示しない制御装置(たとえば、NC装置)により制御される。
【0012】
次に、パレット交換装置について説明する。
パレット交換装置は、工作機械1の前方に付設されており、ベース11と、該ベース11上をX軸方向へスライドするテーブル12と、該テーブル12上をY軸方向へスライドする移動台13と、該移動台13上に設置され、図示しない駆動装置(油圧シリンダやモータ、減速機構等)によりZ軸方向へ昇降動作可能、且つ、Z軸方向を中心軸として旋回自在とされたアーム(パレット交換手段)14とを備えてなる。
【0013】
アーム14は、一対のフォーク(パレット支持部)14a、14bを旋回軸から放射状に有してなるもので、該フォーク14a、14bの挟角が180°未満となるように配置(ここで、挟角120°とする)された「平面く字状」に成形されている。また、各フォーク14a、14bは、一対の支持爪を所定間隔(パレットの略左右幅)離して並設したものであり、パレットの左右に設けられる受け部の下側に該支持爪を差し込むことでパレットを支持可能となっている。さらに、テーブル12は、加工空間の前方位置から工作機械1の側方に配置された工具マガジン8の前方位置にわたりX軸方向をスライド可能とされている。加えて、移動台13は、アーム14(すなわち、フォーク14a、14b)を加工空間の内外にわたり移動可能にY軸方向をスライド可能とされている。尚、アーム14の加工空間内外への移動は、上記カバーに設けられたワーク搬入口を介して行われる。また、当該ワーク搬入口には、開閉自在な扉部材が設けられており、加工中には扉部材によりワーク搬入口を閉塞することで加工空間を密閉可能となっている。
そして、パレット交換装置のテーブル12、移動台13、アーム14の各方向への移動、旋回動作等も、図示しない制御装置により制御される。
【0014】
ここで、上記パレット交換装置による前パレットと後パレットとの交換動作、及び作業者によるメンテナンス作業が必要となった場合におけるパレット交換装置の退避動作について図2〜図4をもとに説明する。図2及び図3は、パレットの交換動作について示した説明図であり、図4は、パレット交換装置の退避動作について示した説明図である。尚、図2、図3においては、テーブル12及び移動台13を省略している。
【0015】
まず、前パレットP1と後パレットP2との交換動作について説明する。
テーブル2上に位置された後パレットP2上のワークに対して加工が行われている(このとき、後パレットP2は加工位置に位置している)間、アーム14は、一方のフォーク14bを手前(前方)へ向けた姿勢で加工空間の前方の待機位置に位置されており、当該位置にて次のワークの前パレットP1(フォーク14bに支持されている)上への取り付け等といった交換準備作業が行われる(図2(a))。
【0016】
ここで、ワークに対する加工が完了すると、パレット交換指令により、工作機械1では、サドル4及びラム5がパレット交換動作の邪魔とならない位置へ退避移動させるとともに、テーブル2を加工位置から前進させて所定の交換位置へ位置させる。また、パレット交換装置では、待機位置にてアーム14を旋回動作させ、パレットを支持していない他方のフォーク14aを後方(すなわち、交換位置)側へ向けた姿勢とする(図2(b))。
次に、移動台13を後方へ移動させ、フォーク14aにて後パレットP2を支持させる(図2(c))。そして、アーム14を上昇させ、後パレットP2をテーブル2からアンクランプとすると、工作機械1では、テーブル2を後方へ移動させて退避させる。一方、パレット交換装置では、テーブル2が十分に退避した後、アーム14を旋回させて、前パレットP1を支持するフォーク14bを後方へ向けた姿勢とする(図2(d))。
【0017】
該アーム14の旋回動作が完了すると、工作機械1では、テーブル2を再び前方へ移動させ、テーブル2を交換位置に位置させる。一方、パレット交換装置では、テーブル2の交換位置への位置決め後、アーム14を下降させて、前パレットP1をテーブル2上にクランプする(図3(e))。
前パレットP1のクランプ後、工作機械1では、テーブル2を再び後方へ移動させて退避させる(図3(f))一方、パレット交換装置では、アーム14を旋回させて、後パレットP2を支持するフォーク14aを前方へ向けた姿勢とする(図3(g))。その後、移動台13を前方へ移動させてアーム14を待機位置に位置させる一方、テーブル2等を加工位置に位置させ(図3(h))れば、パレットの交換動作は完了となる。
【0018】
一方、加工状況の点検等のメンテナンス作業が必要になった場合には、図4に示す如く、テーブル12を工具マガジン8の前方位置(退避位置)まで退避させる。そうすれば、加工空間の前方に作業スペースSが確保され、作業者は、該作業スペースSを利用してメンテナンス作業を行うことができる。尚、アーム14を、図3(h)に示すような姿勢のまま退避位置へ移動させ、作業スペースSを確保するようにしてもよいことは言うまでもない。
【0019】
以上のような構成を有するパレット交換装置によれば、アーム14をX軸方向へ移動可能に備えており、アーム14を必要に応じて退避移動させることで、加工空間の前方に作業スペースSを確保することができる。したがって、従来よりも広く、各種メンテナンス作業に十分な作業スペースSを確保することができる。さらに、アーム14を工具マガジン8の前方側へ退避移動させるようにしているため、スペースを有効利用可能な合理的な構成とすることができる。
【0020】
また、アーム14を「平面く字状」に形成しているため、フォークを相反方向へ突出するように備えてなるアーム(以下、相反方向型アームと称す)と比較して、アーム14の前後長を短くすることができる。したがって、パレットの交換動作時におけるアーム14の前後動距離をも短くすることができ(加工空間への出し入れに必要な前後動距離を、相反方向型アームと比較して短縮することができ)、交換動作の迅速化を図ることができる。加えて、アーム14の移動に必要なスペース、すなわちパレット交換装置の据付面積を縮小可能であり、装置のコンパクト化をも図ることができる。
【0021】
さらに、アーム14を「平面く字状」に形成することで、前パレットP1と後パレットP2とを交換する際のアーム旋回角度は180°未満となる。したがって、相反方向型アームと比較して、アーム14の旋回動作にかかる時間をも短縮することができ、パレットの交換時間の一層の短縮を図ることができる。
【0022】
なお、本発明に係るパレット交換装置の構成は、上記実施形態に記載の態様に何ら限定されるものではなく、テーブル、移動台、アーム、及び工作機械との位置関係等に係る構成について、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、必要に応じて適宜変更することができる。
【0023】
たとえば、上記実施形態のアームでは、挟角を120°としているが、180°未満であれば90°等としても何ら問題はなく、適宜設計変更可能である。
また、アームをどの方向へスライドさせて作業スペースを確保するかも変更可能であって、工作機械の形状、工具マガジン等の付加設備の位置や有無等に応じて適宜変更すればよい。
加えて、上記実施形態では、立形マシニングセンタに付設した例を説明しているが、横形マシニングセンタや5軸制御のマシニングセンタ等に付設することも当然可能であるし、工作機械の制御装置とパレット交換装置の制御装置とを別個に設けても何ら問題はない。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】パレット交換装置及び工作機械を上方から示した説明図である。
【図2】パレットの交換動作について示した説明図であ
【図3】パレットの交換動作について示した説明図であ
【図4】パレット交換装置の退避動作について示した説明図である。
【図5】従来のパレット交換装置を示した説明図である。
【符号の説明】
【0025】
1・・工作機械、11・・ベッド、12・・テーブル、13・・移動台、14・・アーム、14a、14b・・フォーク、P・・パレット、P1・・前パレット、P2・・後パレット、S・・作業スペース。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作機械に隣設され、ワーク搬入口を介して加工空間に進退するとともに、旋回動作によりワーク等が載置されたパレットを交換するパレット交換手段を備えたパレット交換装置であって、
前記パレット交換手段が、旋回軸の中心から放射状に備えられた一対のパレット支持部を、該パレット支持部同士の挟角が180°未満となる平面く字状に配置してなるものである一方、
前記パレット交換手段を、前記ワーク搬入口の前方となる待機位置と、当該待機位置から水平方向へ所定距離だけ離れた退避位置との間で移動可能とし、該退避位置側への移動により、前記ワーク搬入口の前方に作業スペースを確保可能としたことを特徴とするパレット交換装置。
【請求項2】
工作機械に工具マガジン等の付加設備が隣設されている際には、該付加設備側へパレット交換手段を移動可能とし、該付加設備側への移動を退避位置側への移動としたことを特徴とする請求項1に記載のパレット交換装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−296294(P2008−296294A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−142292(P2007−142292)
【出願日】平成19年5月29日(2007.5.29)
【出願人】(000149066)オークマ株式会社 (476)
【Fターム(参考)】