説明

パワーデバイスの動作シミュレーションプログラム、装置および方法

【課題】パワーデバイスの温度を効率的にシミュレーションする。
【解決手段】パワーデバイスの構造および動作条件の入力データに基づき、デバイス温度と時間を変数としてパワーデバイスの損失を数式化する(S11〜S15)とともに、パワーデバイスを実装する複数層からなるパワーモジュールの各層の温度を、各層についてのパラメータの入力に基づいて数式化する(S31〜S24)。そして、デバイス損失の数式を、パワーモジュールの各層の温度を数式化する際のパワーデバイス側の境界条件に組み込み、各層温度を算出する(S31〜S33)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PWM(パルス幅変調)制御によるパワーデバイスの動作シミュレーションに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの電気特性は温度に依存して変化する。特に、大きな電力を扱うパワーデバイス(以下適宜単にデバイスという)はデバイス自体の温度上昇が無視できないため、最大動作温度を設定することが多い。これは、温度上昇によりパワーデバイスの接合温度(Junction temperature:以下Tjと記す)の最大値である最大接合温度Tjmaxが許容上限以上になると破壊に至ることもあるからである。
【0003】
ここで、パワーデバイスの動作温度は、最大スイッチング電流・電圧と、密接な関係がある。このため、パワーデバイスの動作のシミュレーションや設計解析を行う場合、デバイス温度を適切に考慮しなければならない。
【0004】
【特許文献1】特開2004−311885
【非特許文献1】H.Alan Mantooth and Allen R.Hefner,Jr.,”Electrothermal Simulation of an IGBT PWM Inverter”IEEE Trans.Power Elec,12(3),pp.474−484,1997
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、パワーデバイスのTjは、デバイス損失(パワーデバイスの動作時におけるエネルギー損失)だけでなく、パワーデバイスの全体構造や、冷却条件に大きく依存する。ここで、パワーデバイスは一般的にパワーモジュール(以下適宜単にモジュールという)に実装される。このため、パワーデバイスの温度を予測する場合、モジュールについてはその熱抵抗(あるいは、熱インピーダンス)を用いた簡易的な計算とする場合が多い。
【0006】
しかし、モジュール構造、冷却条件が変化した場合は、モジュールの熱抵抗自体が変わってしまう。このため、変化後の構造条件に基づいて、FEM(有限要素法)を用いた熱解析を行う必要がある。従って、モジュール構造を変更する場合は、その構造毎に三次元モデルを作成し、その三次元モデルについて、FEMを用いた熱解析を行わなければならず、その解析は煩雑で時間を要する作業である。さらに、パワーデバイスの温度(特に、最大接合温度Tjmax)を推定するには、熱解析結果により、熱モデルを作成して温度を推定する必要がある。このように、デバイスおよびモジュールの設計段階において、デバイス損失と最大接合温度Tjmaxの関係を予測することは困難であった。
【0007】
また、パワーデバイスの設計おいては、基本性能の改善の他に、デバイスの縮小によるデバイスコストダウンが重要である。しかし、デバイスサイズの縮小はデバイス動作時における内部損失密度を高くする。この損失は最終的に熱になるが、その熱の集積度が上がるため、いわゆる熱抵抗が急激に高くなり、デバイスの接合温度上昇を招くことになる。さらに、熱抵抗は、デバイスだけでなく、デバイスのモジュールへの実装条件に大きく依存する。すなわち、冷却条件により、デバイスの温度上昇も変化するため、デバイスの特性とサイズのトレードオフを予測することが困難である。
【0008】
近年、計算機によるシミュレーション技術が発達したため、ある程度はデバイス特性を加味した温度シミュレーションが行われるようになってきており、例えばHefnerらは、デバイスの温度特性を加味した回路シミュレーションを提案している。しかし、この回路シミュレーションを使用するためには、デバイスの構造だけでなく熱シミュレーションによる熱モデルを作成しなければならない。特に、デバイスサイズを変化させたときには、熱モデルを最初から作成し直さなければならず、このような回路シミュレーションを容易に利用することができなかった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、PWM(パルス幅変調)制御によるパワーデバイスの動作シミュレーションプログラムであって、パワーデバイスの構造および動作条件の入力データに基づき、デバイス温度と時間を変数としてパワーデバイスの損失を数式化する工程と、パワーデバイスを実装する複数層からなるパワーモジュールの各層の温度を、各層についてのパラメータの入力に基づいて数式化する工程と、前記2工程の終了後、前記デバイス損失の数式化する工程の出力を、前記パワーモジュールの各層の温度を数式化する工程におけるパワーデバイス側の境界条件に組み込み、各層温度を算出する工程と、をコンピュータに実行させることを特徴とする。
【0010】
また、前記パワーデバイスの損失を数式化する工程は、パワーデバイス静特性を、(i)デバイス温度と、(ii)デバイス電流またはデバイス電圧と、を用いて数式化するとともに、得られた数式をPWM制御の条件と組み合わせ、デバイスの通電時における損失を数式化する、工程を含むことが好適である。
【0011】
また、前記パワーデバイスの損失を数式化する工程は、パワーデバイスのスイッチング損失を、(i)デバイス温度と、(ii)PWM制御条件と、(iii)デバイス電流またはデバイス電圧と、を用いて数式化する、工程を含むことが好適である。
【0012】
また、パワーモジュール各層の温度を数式化する工程は、各層の温度を1つ以上の点の温度で表現することが好適である。
【0013】
また、パワーモジュールの最上部および最下部の境界条件は、(i)熱伝達率で表現する、(ii)周囲温度と同じと表現する、(iii)断熱状態であると表現する、(iv)上記請求項2,3,4に記載されたパワーデバイスの損失で表現する、の中のいずれか1つを選択することが好適である。
【0014】
また、前記パワーモジュール各層の温度を数式化する工程において、パワーデバイスのサイズに基づいて、各層温度を数式化することが好適である。
【0015】
また、本発明は、上述のようなプログラムを実行する動作シミュレーション装置および動作シミュレーション方法に関する。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように、本発明によれば、パワーデバイスの損失をパワーモジュールの各層の温度を数式化する際のパワーデバイス側の境界条件に組み込み、各層温度を算出する。従って、各層温度を容易に算出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について、図面に基づいて説明する。ここで、本実施形態における処理は、動作シミュレーションプログラムを汎用のコンピュータにインストールしこれを実行することによって行う。入力の受付は、ディスプレイに入力画面を表示して、ユーザがキーボードなどの入力装置を利用して行うが、すでに入力されているデータを通信ポートを介し入力してもよい。また、処理結果はディスプレイに表示するとともに、プリンタなどから出力する。また、プログラムは、CD−ROM、DVD等の記憶媒体により提供されるのが一般的であるが、所定のサイトからダウンロードすることで提供してもよい。
【0018】
図1に処理全体の流れが示してある。まず、パワーデバイスを選定する(S11)。パワーデバイスには、(i)BJT(バイポーラ・ジャンクション・トランジスタ)やIGBT(インシュレーテッド・ゲート・バイポーラ・トランジスタ)などのバイポーラデバイス、(ii)JFET(接合型電界効果トランジスタ)やMOSFET(金属酸化半導体電界効果トランジスタ)などモノポーラデバイス、の別があり、また素子として、(i)3端子スイッチング素子、(ii)pn型ダイオード、等の別がある。そこで、シミュレーションの対象となるパワーデバイスの種類についてのデータを入力することで、パワーデバイスを選定する。
【0019】
次に、パワーデバイスの損失を計算するための条件を入力する。すなわち、パワーデバイスのサイズ(S12)、下記に示すような素子特性に応じた単位面積当たりの静特性、動特性(S13)、およびPWM動作条件(S14)を入力し、対象とするパワーデバイスについて接合温度および時間をパラメータとしたデバイス損失計算式を定義する(S15)。なお、本実施形態では、この損失を熱流束として取り扱い、パワーモジュールの境界条件を決定する。
【0020】
ここで、パワーデバイスをPWM制御されるものとして、モータ駆動用のインバータがあり、三相の交流モータを駆動するためのインバータは、例えば図2のような構成を有する。
【0021】
スイッチングトランジスタT(T1〜T6)と、ダイオードD(D1〜D6)を組み合わせた素子Sを6つ用意する。素子S(S1〜S6)を2つ直接接続したものを3本のアームを用意し、これらを正極母線と負極母線間に並列して接続する。アームの中点(3つ)をモータの三相のコイルの端部にそれぞれ接続する。
【0022】
そして、各素子のオンオフを制御し、図3に示すような3相の交流電流をモータの各コイルに供給する。素子S1,S4間からの出力がiu,素子S2,S5間からの出力がiv,素子S3,S6間からの出力がiwである。
【0023】
このような場合に、素子S1の損失は、図4に示すようなものとなる。すなわち、前半のT/2(0〜π)の期間において、トランジスタT1に流れる電流によって損失と、後半のT/2(π〜2π)の期間のダイオードD1に流れる電流による通電損失が生じる。
【0024】
ここで、PWM制御で駆動されるパワーデバイスの損失は、通電損失Pstと、スイッチング損失Pswの和で表現できる。
【0025】
まず、通電損失について、電流電圧特性は、図5に示すように、電流の1次関数の形で表現できる。この表現によれば、通電損失Pst(静特性)は次のようになる。
[BJTやIGBTなど、バイポーラデバイスの場合]
Pst=(V0+r・Ip・sinωt)・Ip・sinωt・(1+d・sin(ωt+φ)/2) ・・・ (1)
[JFETやMOSFETなど、モノポーラデバイスの場合]
Pst=(r0・(Tj/Ta)n+Ip・sinωt)・Ip・sinωt・(1+d・sin(ωt+φ)/2) ・・・ (2)
ここで、dはPWMの変調度、ωは出力基本周波数(ω=2π/T:TはPWM出力電流の周期)、cosφは力率、Ipは出力電流のピーク値、を表す。
【0026】
また、BJTなどの場合、Vc=V0+r・Ic、V0=V0(Ta)+VrTj、r=r0+rrTjである。すなわち、デバイスに印加される電圧がVcのときに流れる電流がIcであり、Vc−V0に対し、電流Icが傾きrで立ち上がる。この傾きrが抵抗分であり、この抵抗分rは、接合温度Tjjに依存しない部分r0と、接合温度に依存する部分rrrTjからなっている。なお、電圧V0についても、接合温度Tjに依存しない部分V0(Ta)と、接合温度に依存する部分VrTjからなっている。さらに、MOSFETの場合、Vc=V0+r・Ic、r=r0+(Tj/Ta)nで表される。なお、Taは周囲温度である。
【0027】
従って、デバイスの電圧は、デバイス接合温度と時間の関数として表現される。なお、図4からも明らかなように、ダイオードに流れる電流の場合には、その位相がπだけ遅れる。従って、インバータにおけるダイオードについては、上述の式(1)における(1+d・sin(ωt+φ)/2)は、(1−d・sin(ωt+φ)/2)となる。
【0028】
同様に、スイッチング損失(動特性)は次のように、表現される。
[3端子スイッチング素子の場合]
Psw={Eon+Eoff}・fc・Ip・sin(ωt) ・・・ (3)
[pn型ダイオードの場合]
Psw(d)=(π/8)・Vcc・Irr・trr・fc・sin(ωt) ・・・ (4)
ここで、fcはPWMのキャリア周波数、Eon,Eoffはスイッチング素子がターンオン、ターンオフするときに消費する単位電流当たりの損失を示している。Vccは電源電圧、Irr,trrはそれぞれpn型ダイオードの逆回復電流と、その時間を表している。
【0029】
このように、Eon、Eoff,Irr,trrも、接合温度Tjおよび時間の関数である。デバイス全体の損失は、通電損失とスイッチング損失の和である。このため、上述の2つの損失のを加算して、デバイス全体の損失を算出するが、このデバイス全体の損失も、時間および接合温度Tjをパラメータとした定義がなされる。従って、その時の接合温度を考慮して損失の計算がなされ、発熱量が計算される。
【0030】
そして、これらの式を組み合わせて、PWM制御で駆動されるときのパワーデバイスの損失を表現する。
【0031】
次に、図1の(S21〜S24)に示すように、パワーモジュールについての計算式を定義する。まず、パワーモジュールの構造を定義する(S21)。パワーモジュールは、例えば図6に示すように、複数の層を積層して形成されており、どのような構造かを定義する。次に、各層の物理パラメータを入力する(S22)。例えば、第1半田層(Solder)、メタル層(Metal)、セラミック層(Ceramic)、メタル層(Metal)、第2半田層(Solder)、ベースプレート層(Baseplate)、グリース層(Grease)、ラジエター層(Radiator)の積層からなっている。これらの層は、それぞれ密度ρ[kg/m3]、比熱Cp[J/(kgK)]、熱伝導率κ[W/mK]、厚さt[mm]、熱抵抗Rth=t/(κS)[K/W]、熱容量Cth=ρCptS[J/K]、時定数τth=(ρCp/κ)×t2[sec]の値が入力される。
【0032】
次に、初期条件(各層温度)を定義するとともに、境界条件(境界面における熱移動についての条件)を定義する(S23)。初期条件では、時刻t=0における各層温度を定義する。例えば、各層温度が周囲温度Taと等しいとおく。
【0033】
また、境界条件では、積層構造の表面温度T0、底面温度Tn+1の条件を定義する。例えば、次のような境界条件を設定することができる。
(i)境界面における熱移動が非常に早いとして、底面の温度Tn+1,jは、常に周囲温度Taにすることができる。すなわち、Tn+1,j=Taとする。
(ii)断熱であるとして、底面の温度は、n層の温度と同一とすることができる。すなわち、Tn+1=Tnとする。
(iii)境界面での放熱を記述することができる。
【0034】
例えば、放熱面の温度と、冷媒の温度差に比例して熱流束が決定される場合にその比例係数を熱伝達率hとして、これを利用して境界条件を定義したりすることができる。実効面積Snの放熱面(底面)の温度Tn+1から冷媒温度Tinf(一定)に流れる熱量Qは、Q=Snh(Tn+1−Tinf)である。一方、n層から底面に流れ込む熱Qは、Q=(Tn−Tn+1)/(Rn/2)と表される。途中での熱量の増減はないので、上記2つのQが等しいとして、Tn+1を、
n+1={Tn+(SnhRninf/2)}/(1+SnhRn/2) ・・・ (5)
のように定義することができる。
【0035】
また、熱伝達面と冷媒間の熱抵抗をRinfとして、Rinf=1/hSnと等価的に表現することもできる。
【0036】
(iv)境界面に熱流束がある場合
パワーデバイスの主な動作領域はデバイス厚さに比べ表面の薄い領域である場合が一般的である。この動作領域で熱(損失)が発生するが、近似として損失を熱流束として境界面に定義してよい。それは、通常動作で数百μ秒程度における平均デバイス温度を見積もる場合はデバイス内部の熱勾配はほぼ一様と決定できるためである。
【0037】
熱流束Qが上部境界(温度T0と定義された表面)に流入したとすると、Q=(To−T1)/(R1/2)であり、To=T1+(R1/2)・Qと表現できる。なお、熱流束、あるいはデバイス温度損失に時間依存性を持たせたい場合は、Qを時間の関数として記述すればよい。
【0038】
このようにして、デバイスの損失、すなわち発熱量を熱流速と見なす。そして、この熱流速がモジュールに伝達されることを考慮し、接合温度および各層温度を計算し、これをモジュール表面温度T0がデバイス接合温度Tjに等しくなるまで繰り返すことによって、その時点での各層温度が確定できる。
【0039】
そして、各層温度をパラメータとした熱伝導計算式を定義する(S24)。これらについて、以下に説明する。
【0040】
まず、積層体の熱抵抗Rは、各層の熱抵抗の総和で表現できる。また、各層の大きさが異なる場合には、実効熱伝達面積を設定することが好適である。例えば、78に示すように、i層がi−1層に比べ十分大きい場合には、i層のi+1層との接触面積全部が熱伝達に寄与せず、i−1層から熱が伝達してきた面積が実効熱伝達面積になる。従って、この実効熱伝達面積Siは、次のように表現できる。
【0041】
Si=(Li-1+2ti・tanθi)(Di-1+2ti・tanθi
ここで、Li-1はi−1層の幅、Di-1はi−1層の奥行き、tiはi層の厚みであり、θiはi層における厚み方向における熱の広がり角である。
【0042】
パワーデバイスは、パワーモジュール上に実装されるが、パワーモジュールに比べて小さい。従って、1層の熱伝達についても同様の実効伝達面積の算出が利用される。
【0043】
なお、側面については、例えば断熱と定義すればよい。
【0044】
図8に示す、パワーモジュール構造の断面図において、各層の密度ρi、比熱Cpi、厚さti、面積Si、熱伝導率κiを定義すると、i層の時刻t=Δt×(j+1)における温度は次のように表現できる。ここで、添え字iは層の番号、jは離散した経過時刻の番号を示している。
i,j+1=[(Ti,j+Δt{(Ti-1,j−Ti,j+Ti-1,j+1)Di−(Ti,j−Ti+1,j+Ti+1,j+1)Ei)}]/{1+Δt(Di+Ei)} ・・・ (6)
ここで、Di,Eiは、i層における値であり、熱抵抗Rおよび熱容量Hを用いて、Di=1/Hi(Ri-1+Ri),Ei=1/Hi(Ri+Ri+1)と定義される。また、熱抵抗R,熱容量Hは、熱抵抗Ri=ti/κi,Si、熱容量Hi=ρiiiiiである。なお、計算上必要となるR0,Rn+1については、R0=Rn+1=0とすればよい。
【0045】
これは、時刻tjから時刻tj+1(時間ステップΔt)におけるi層における熱量の変化ΔQiと、i層における熱量の流入流出の熱収支ΔQiとが等しいことを条件にして求められる。
【0046】
すなわち、時刻tjから時刻tj+1での熱量の変化は、次のように表される。
ΔQ=tiiρiCpi(Ti,j+1−Ti,j)/Δt=Hi(Ti,j+1−Ti,j)/Δt ・・・ (7)
一方、i層における熱収支ΔQiは、次のように表される。
ΔQ=Ti-1,j−Ti,j{(Ri-1+Ri)/2}−Ti,j−Ti+1,j{(Ri+Ri+1)/2}
・・・ (8)
この式(7)、(8)のΔQが等しいとおくことで、差分方程式の形の熱伝導方程式が得られる。そして、この差分方程式について、例えば「クランク・ニコルソンの陰解法」を適用し、2階偏微分の位置(距離)項を第jおよび第j+1時刻の平均値を用いて近似することなどによって、式(5)を得ることができる。
【0047】
このようにして、S15においてデバイスの損失の計算式が定義され、S24においてパワーモジュールにおける熱伝導計算式が定義される。
【0048】
そして、表計算ソフトの各セルに各層、各時刻毎の計算式を記入する(S31)。すなわち、上述のようにして得たデバイスの温度をモジュールの境界条件である表面温度T0として、モジュールの各層温度を計算する。
【0049】
すなわち、上述のように、温度T0のモジュール表面から、熱流束Q(t)が1層に入る場合、時刻j+1における表面温度To,j+1=T1,j+1+(R1/2)・Q(t)である。そして、この熱流束Q(t)は、パワーデバイスがパワーモジュールとの接触面以外は断熱されているとすれば、パワーデバイスの損失に等しいはずである。そこで、パワーモジュールの表面の境界条件をパワーデバイスの損失により決定することができ、これによって各層の温度が計算できる。
【0050】
また、この計算は反復計算とし、反復計算回数Nおよび最大変化率εを定義して(S32)、反復計算を実行する(S33)。
【0051】
すなわち、初期状態の次の時点におけるデバイスの発熱量が計算され、その発熱量に基づいてTjを決定する。そして、発熱量を熱流束として扱い、モジュールの表面温度T0を決定し、モジュールの各層の熱収支に基づいてそのときの各層温度を計算する。そして、得られた結果に基づいて、各層温度を更新して反復計算をする。この計算が収束することで、その時点におけるデバイスおよび各層温度が決定される。モジュールの表面の温度T0がデバイスの接合温度Tjに一致することで計算は収束するが、実際にはS26に設定した十分大きな反復回数Nや計算結果の最大変化率εが所定値以下になった場合に収束と見なし、その時点での計算を終了する。
【0052】
このような1時刻での計算を時刻を順次進めて、繰り返し、デバイスの接合温度の経時変化が計算される。
【0053】
このように、PWM制御によるデバイスの損失およびパワーモジュールの熱伝導は、上述の式のように表現できる。デバイス温度を変数としたデバイス損失を熱伝導計算式の熱流束として扱い、所定の誤差になるまで繰返し計算を行なうことによりパワーモジュールの各層温度を一義的に決定することができる。
【0054】
また、パワーデバイスからの熱の拡がりはデバイス・サイズを基に所定の値を設定できるため、デバイス・サイズが変更になっても容易に温度計算が可能である。
【0055】
この計算では、熱伝導の計算を1次元に簡略化しているため誤差は大きくなる傾向にあるが、計算時間は極めて短い。デバイス設計段階では、デバイス特性やそのサイズを含む多くの変数を総合的に検討しなければならない。そのような場合、重要な設計方針を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】処理全体を示すフローチャートである。
【図2】インバータの構成を示す図である。
【図3】インバータ出力の電流波形を示す図である。
【図4】1つの素子における損失を示す図である。
【図5】素子における電圧電流特性を示す図である。
【図6】パワーデバイスの実装状態を示す図である。
【図7】2つの層における熱の拡がり状態を示す図である。
【図8】パワーモジュールの構成を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
PWM(パルス幅変調)制御によるパワーデバイスの動作シミュレーションプログラムであって、
パワーデバイスの構造および動作条件の入力データに基づき、デバイス温度と時間を変数としてパワーデバイスの損失を数式化する工程と、
パワーデバイスを実装する複数層からなるパワーモジュールの各層の温度を、各層についてのパラメータの入力に基づいて数式化する工程と、
前記2工程の終了後、前記デバイス損失の数式化する工程の出力を、前記パワーモジュールの各層の温度を数式化する工程におけるパワーデバイス側の境界条件に組み込み、各層温度を算出する工程と、
をコンピュータに実行させることを特徴とするパワーデバイスの動作シミュレーションプログラム。
【請求項2】
請求項1に記載のプログラムにおいて、
前記パワーデバイスの損失を数式化する工程は、
パワーデバイス静特性を、(i)デバイス温度と、(ii)デバイス電流またはデバイス電圧と、を用いて数式化するとともに、得られた数式をPWM制御の条件と組み合わせ、デバイスの通電時における損失を数式化する、工程を含むことを特徴とするパワーデバイスの動作シミュレーションプログラム。
【請求項3】
請求項1に記載のプログラムにおいて、
前記パワーデバイスの損失を数式化する工程は、
パワーデバイスのスイッチング損失を、(i)デバイス温度と、(ii)PWM制御条件と、(iii)デバイス電流またはデバイス電圧と、を用いて数式化する、工程を含むことを特徴とするパワーデバイスの動作シミュレーションプログラム。
【請求項4】
請求項1に記載のプログラムにおいて、
パワーモジュール各層の温度を数式化する工程は、各層の温度を1つ以上の点の温度で表現することを特徴とするパワーデバイスの動作シミュレーションプログラム。
【請求項5】
請求項1に記載のプログラムにおいて、
パワーモジュールの最上部および最下部の境界条件は、(i)熱伝達率で表現する、(ii)周囲温度と同じと表現する、(iii)断熱状態であると表現する、(iv)上記請求項2,3,4に記載されたパワーデバイスの損失で表現する、の中のいずれか1つを選択することを特徴とするパワーデバイスの動作シミュレーションプログラム。
【請求項6】
請求項1に記載のプログラムにおいて、
前記パワーモジュール各層の温度を数式化する工程において、
パワーデバイスのサイズに基づいて、各層温度を数式化することを特徴とするパワーデバイスの動作シミュレーションプログラム。
【請求項7】
PWM(パルス幅変調)制御によるパワーデバイスの動作シミュレーション装置であって、
パワーデバイスの構造および動作条件の入力データに基づき、デバイス温度と時間を変数としてパワーデバイスの損失を数式化する手段と、
パワーデバイスを実装する複数層からなるパワーモジュールの各層の温度を、各層についてのパラメータの入力に基づいて数式化する手段と、
前記2工程の終了後、前記デバイス損失の数式化する工程の出力を、前記パワーモジュールの各層の温度を数式化する工程におけるパワーデバイス側の境界条件に組み込み、各層温度を算出する手段と、
をコンピュータに実行させることを特徴とするパワーデバイスの動作シミュレーション装置。
【請求項8】
PWM(パルス幅変調)制御によるパワーデバイスの動作シミュレーション方法であって、
パワーデバイスの構造および動作条件の入力データに基づき、デバイス温度と時間を変数としてパワーデバイスの損失を数式化する工程と、
パワーデバイスを実装する複数層からなるパワーモジュールの各層の温度を、各層についてのパラメータの入力に基づいて数式化する工程と、
前記2工程の終了後、前記デバイス損失の数式化する工程の出力を、前記パワーモジュールの各層の温度を数式化する工程におけるパワーデバイス側の境界条件に組み込み、各層温度を算出する工程と、
をコンピュータにより実行することを特徴とするパワーデバイスの動作シミュレーション方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−227293(P2008−227293A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−65584(P2007−65584)
【出願日】平成19年3月14日(2007.3.14)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)