説明

パンクシーリング剤

【課題】優れた初期シール性能及びシール保持性能を発揮しつつ、低温での粘度を低下させ、低温での注入性を改善できるタイヤのパンクシーリング剤を提供する。
【解決手段】ゴム固形分に対するリン含有量が200ppm以下である脱リン天然ゴムラテックス及び凍結防止剤を含むタイヤのパンクシーリング剤に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤパンク時に、タイヤホイールの空気バルブからパンクシーリング剤と高圧空気とを順次タイヤ内に注入する方式のパンク処置システムにおいて、シール液の低温での粘度を改善したパンクシーリング剤に関する。
【背景技術】
【0002】
パンクしたタイヤを応急的に補修する処置システムとして、例えば、パンクシーリング剤を収容した耐圧容器とコンプレッサーなどの高圧空気源とを用い、空気バルブを経てタイヤ内にシーリング剤を注入した後、引き続いて連続的に高圧空気を注入し、走行可能な圧力までタイヤをポンプアップするもの(以下に一体型タイプという場合がある)が知られている(特開2001−198986号公報の図1参照)。
【0003】
このようなパンクシーリング剤として、特許文献1〜4に記載されているような天然ゴムラテックスに、樹脂系粘着剤及びプロピレングリコール等の凍結防止剤を配合したものが提案されている。しかし、これらのパンクシーリング剤は、低温での粘度が高いため、非常に低温な環境下では、シーリング剤の空気バルブからの注入が困難な場合があるため、さらなる改善が望まれている。ここで、固形分であるゴム粒子や粘着付与樹脂の含有量を減じることで、シーリング剤の流動性を高めることは可能であるが、パンクシール性能が低下してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−294214号公報
【特許文献2】特開2001−198986号公報
【特許文献3】特開2000−272022号公報
【特許文献4】特許4074073号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記課題を解決し、優れた初期シール性能及びシール保持性能を発揮しつつ、低温での粘度を低下させ、低温での注入性を改善できるタイヤのパンクシーリング剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ゴム固形分に対するリン含有量が200ppm以下である脱リン天然ゴムラテックス及び凍結防止剤を含むタイヤのパンクシーリング剤に関する。
【0007】
上記脱リン天然ゴムラテックスが、天然ゴムラテックスをケン化処理して得られたものであり、トルエン不溶分として測定されるゲル含有率が20質量%以下であることが好ましい。
【0008】
上記凍結防止剤が1,3−プロパンジオールであることが好ましい。
【0009】
本発明はまた、ゴム固形分に対するリン含有量が200ppm以下であるタイヤのパンクシーリング剤に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ゴム固形分に対するリン含有量が200ppm以下である脱リン天然ゴムラテックスを用いるため、パンクシーリング剤の初期シール性能及びシール保持性能を発揮しつつ、低温での粘度を低下させ、低温での注入性を改善できる。このため、一体型タイプのパンク処置システムにおいて、バルブコアからパンクシーリング剤、エアーを注入する場合に、低温下でもバルブコアでの詰まりを防止できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のタイヤのパンクシーリング剤は、ゴム固形分に対するリン含有量が200ppm以下である脱リン天然ゴムラテックス及び凍結防止剤を含む。
【0012】
本発明では、スムーズにシーリング剤をタイヤ内に注入できること、走行により速やかにパンク穴にシーリング剤が入り込み、タイヤの変形による機械的刺激を受けて固まってパンク穴を塞ぐこと(初期シール性能)、ある程度の走行距離までシール性が保持されること(シール保持性能)等の性能の観点から、脱リン天然ゴムラテックスを主成分とするシーリング剤が使用される。
【0013】
本発明の脱リン天然ゴムラテックス(以下、ケン化処理天然ゴムラテックスともいう)中のゴム固形分に対するリン含有量は、200ppm以下であるが、100ppm以下が好ましい。200ppmを超えると、パンクシーリング剤の低温での粘度を充分に低下することができないおそれがある。なお、リン含有量は、たとえばICP発光分析等、従来の方法で測定することができる。リンは、リン脂質に由来するものである。
【0014】
本発明の脱リン天然ゴムラテックス中に含まれる天然ゴム中のゲル含有率は、20質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましい。20質量%を超えると、ムーニー粘度が高くなるなど加工性が低下する傾向がある。ゲル含有率とは、非極性溶媒であるトルエンに対する不溶分として測定した値を意味し、以下においては単に「ゲル含有率」または「ゲル分」と称することがある。ゲル分の含有率の測定方法は次のとおりである。まず、脱リン天然ゴムラテックス中に含まれる天然ゴム試料を脱水トルエンに浸し、暗所に遮光して1週間放置後、トルエン溶液を1.3×105 rpmで30分間遠心分離して、不溶のゲル分とトルエン可溶分とを分離する。不溶のゲル分にメタノールを加えて固形化した後、乾燥し、ゲル分の質量と試料の元の質量との比からゲル含有率が求められる。
【0015】
本発明の脱リン天然ゴムラテックスにおいて、ゴム固形分に対する窒素含有量は0.3質量%以下が好ましく、0.15質量%以下がより好ましい。窒素含有量が0.3質量%を超えると、パンクシーリング剤の低温での粘度を充分に低下することができないおそれがある。窒素含有量は、例えばケルダール法等、従来の方法で測定することができる。窒素は、タンパク質に由来するものである。
【0016】
本発明の脱リン天然ゴムラテックスは、例えば、天然ゴムラテックスをアルカリによりケン化し、ケン化後、遠心分離により濃縮することにより製造できる。ケン化処理は、天然ゴムラテックスに、アルカリと、必要に応じて界面活性剤を添加して所定温度で一定時間、静置することにより行う。なお、必要に応じて撹拌等を行っても良い。この方法によれば、ケン化により分離したリン化合物が洗浄除去されるので、天然ゴムのリン含有率を抑えることができる。また、ケン化処理により、天然ゴム中の蛋白質が分解されるので、天然ゴムの窒素含有量を抑えることができる。本発明では、天然ゴムラテックスにアルカリを添加してケン化するが、天然ゴムラテックスに添加することにより、効率的にケン化処理を行うことができるという効果がある。
【0017】
天然ゴムラテックスはヘビア樹の樹液として採取され、ゴム分のほか水、蛋白質、脂質、無機塩類などを含み、ゴム中のゲル分は種々の不純物の複合的な存在に基づくものと考えられている。本発明では、ヘビア樹をタッピングして出てくる生ラテックス、あるいは遠心分離法等によって濃縮した精製ラテックス(ハイアンモニアラテックス等)が用いられる。
【0018】
ケン化処理に用いるアルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、アミン化合物等が挙げられ、ケン化処理の効果や天然ゴムラテックスの安定性への影響の観点から、特に水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムを用いることが好ましい。
【0019】
アルカリの添加量は特に限定されないが、天然ゴムラテックスの固形分100質量部に対して、下限は0.1質量部以上が好ましく、0.3質量部以上がより好ましく、上限は10質量部以下が好ましく、7質量部以下がより好ましい。アルカリの添加量が0.1質量部未満では、ケン化処理に時間がかかってしまうおそれがある。また逆にアルカリの添加量が10質量部を超えると天然ゴムラテックスが不安定化するおそれがある。
【0020】
界面活性剤としては、陰イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤および両性界面活性剤のうちの少なくとも1種が使用可能である。このうち陰イオン性界面活性剤としては、例えばカルボン酸系、スルホン酸系、硫酸エステル系、リン酸エステル系等の陰イオン性界面活性剤があげられる。非イオン性界面活性剤としては、例えばポリオキシアルキレンエステル系、ポリオキシアルキレンエステル系、多価アルコール脂肪酸エステル系、糖脂質エステル系、アルキルポリグリコシド系等の非イオン性界面活性剤があげられる。両性界面活性剤としては、例えばアミノ酸型、ベタイン型、アミンオキサイド型等の両性界面活性剤があげられる。
【0021】
界面活性剤の添加量は、天然ゴムラテックスの固形分100質量部に対して0.01〜5質量部であるのが好ましく、下限は0.1質量部が、上限は3.5質量部がより好ましい。添加量が0.01質量部未満では、ケン化処理時に天然ゴムラテックスが不安定化するおそれがある。また逆に添加量が5質量部を超えると天然ゴムラテックスが安定化しすぎて凝固が困難になるおそれがある。
【0022】
ケン化処理の温度は、アルカリによるケン化反応が十分な反応速度で進行しうる範囲、および天然ゴムラテックスが凝固等の変質を起こさない範囲で適宜、設定できるが、通常は20〜70℃であるのが好ましい。また処理の時間は、天然ゴムラテックスを静置して処理を行う場合、処理の温度にもよるが、十分な処理を行うことと、生産性を向上することとを併せ考慮すると3〜48時間であるのが好ましい。
【0023】
ケン化反応終了後、必要に応じて、過剰のアルカリを除去するために、洗浄を行う。また、洗浄方法としては、例えばゴム分を水で希釈して洗浄後、遠心分離処理を行い、ゴム分を取り出す方法が挙げられる。遠心分離する際は、まず天然ゴムラテックスのゴム分が5〜40質量%、好ましくは10〜30質量%となるように水で希釈する。次いで、5000〜10000rpmで1〜60分間遠心分離すればよい。
【0024】
洗浄後、必要に応じて、乳化剤である界面活性剤と水とを添加し、ラテックス中のゴム固形分の占める割合を60質量%程度に調整することにより、脱リン天然ゴムラテックスが得られる。得られた脱リン天然ゴムラテックスは、乳化剤である界面活性剤を少量含む水性媒体中に、ゴム固形分が微粒子状に乳化分散したものである。
【0025】
また、必要に応じて脱リン天然ゴムラテックスに、更に、脱リン天然ゴムラテックス(ケン化処理天然ゴムラテックス)以外の天然ゴムラテックスやブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、エチレン−酢酸ビニルゴム、クロロプレンゴム、ビニルピリジンゴム、ブチルゴムなどの合成ゴムラテックス等をブレンドしてもよい。
【0026】
初期シール性能、シール保持性能の点から、パンクシーリング剤の全質量100質量%に対する脱リン天然ゴムラテックス(ゴム固形分)の配合量Aを15〜40質量%の範囲とすることが好ましい。配合量Aの下限は35質量%以上がより好ましく、上限は18質量%以下がより好ましい。
【0027】
本発明では、ゴム固形分に対するリン含有量が200ppm以下である脱リン天然ゴムラテックスを用いるため、シーリング剤の低温での粘度を低下させ、低温での注入性を改善できる。このため、シーリング剤の使用温度範囲を低温側へ拡大でき、一体型タイプのパンク処置システムにおいて、低温でもバルブコアからシーリング剤、エアーを注入する場合に、バルブコアでの詰まりを防止できる。これは、脱リン天然ゴムラテックスを用いることにより、シーリング剤中でのコロイド(ラテックス)の安定性が増大するためであると推察される。
【0028】
本発明のパンクシーリング剤は、粘着付与剤を含むことが好ましい。粘着付与剤は、脱リン天然ゴムラテックスとタイヤとの接着性を高め、パンクシール性能を向上させるために用いられるものであり、例えば、乳化剤を少量含む水性媒体中に、粘着付与樹脂を微粒子状に乳化分散させた粘着付与樹脂エマルジョン(水中油滴型エマルジョン)が使用される。粘着付与樹脂エマルジョン(粘着付与剤)の固形分である粘着付与樹脂としては、前記ゴムラテックスを凝固させないもの、例えば、テルペン系樹脂、フェノール系樹脂、ロジン系樹脂が好ましく使用できる。他に好ましい樹脂としては、ポリビニルエステル、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリジンも挙げられる。
【0029】
粘着付与樹脂(粘着付与剤の固形分)の配合量Bは、パンクシーリング剤の全質量100質量%中、2〜20質量%が好ましい。配合量Bの下限は3質量%以上がより好ましく、上限は15質量%以下がより好ましい。
【0030】
なお、前記ゴム固形分の配合量Aが15質量%未満、及び粘着付与樹脂の配合量Bが2質量%未満では、パンクシール性能及びシール保持性能が不十分となるおそれがある。逆に各配合量A、Bがそれぞれ40質量%、及び20質量%を超えると、保管中にゴム粒子が凝集しやすくなるなど保管性能を損ねるとともに、粘度が上昇しパンクシーリング剤の空気バルブからの注入を難しくさせるおそれがある。従って、前記配合量A、Bの和(A+B(固形分))をパンクシーリング剤の全質量100質量%に対して20〜50質量%の範囲にすることが好ましい。配合量A+B(固形分)の下限は25質量%以上がより好ましく、上限は45質量%以下がより好ましい。
【0031】
前記ゴムラテックスの乳化剤、及び粘着付与樹脂エマルジョンの乳化剤としては、例えば、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤などの界面活性剤が好適に使用できる。この乳化剤の総配合量は、パンクシーリング剤の全質量100質量%に対して0.4〜2.0質量%程度である。
【0032】
本発明において使用する凍結防止剤としては特に制限はなく、エチレングリコール、プロピレングリコール(1,2−プロパンジオール)、1,3−プロパンジオール等を使用することができる。凍結防止剤としてエチレングリコールを使用すると、ゴム粒子の安定性が悪化し、凝集してしまうことがあるが、凍結防止剤としてプロピレングリコール、1,3−プロパンジオールを使用すると、長期間保管した場合であっても、ゴム粒子や粘着剤の粒子が表面付近で凝集してクリーム状物質に変質することを抑制でき、優れた保管性能(貯蔵安定性)が発揮されるため、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオールを使用することが好ましい。さらに、凍結防止剤としてプロピレングリコールを使用すると、低温において粘度が上昇してしまうことがあるが、凍結防止剤として1,3−プロパンジオールを使用すると、低温での粘度上昇を抑制することができ、低温でのシーリング剤の注入性を改善できるため、1,3−プロパンジオールを使用することがより好ましい。1,3−プロパンジオールを使用すると、シーリング剤の使用温度範囲を低温側へ拡大でき、一体型タイプのパンク処置システムにおいて、低温でもバルブコアからシーリング剤、エアーを注入する場合に、バルブコアでの詰まりを防止できる。これは、1,3−プロパンジオールでは水酸基(−OH)が炭素原子の1及び3の位置に結合しているが、“1,2−”に比べて“1,3−”の方が双極子モーメントが小さくなるため、水素結合力が小さくなり、粘度を低下させることができると推察される。
【0033】
以上説明したとおり、1,3−プロパンジオールの使用により、貯蔵安定性及び低温特性をバランス良く両立できる。このような効果は1,3−プロパンジオールを用いた場合に得られるものであり、凍結防止剤としてブタジオール等の他の化合物を用いた場合は粘度が増加したりするため、これほどの効果が期待できない。
【0034】
また、1,3−プロパンジオールの使用により、良好な凍結防止効果も得ることができる。更に、使用量も最小限に抑えられ、凍結防止剤によるパンクシール性能等の諸性能への悪影響を防止することもできる。
【0035】
パンクシーリング剤の全質量100質量%に対する凍結防止剤の配合量Cは、20〜64質量%が好ましい。配合量Cが20質量%未満では、低温での粘度上昇が大きくなり、逆に64質量%を超えると、シーリング剤中の固形分が少なくなり、パンクシーリング性が低下するおそれがある。配合量Cの下限は25質量%以上がより好ましく、上限は40質量%以下がより好ましい。
【0036】
本発明のパンクシーリング剤は、ノニオン性界面活性剤を含むことが好ましい。天然ゴムラテックス及び粘着付与剤に、プロピレングリコール又は1,3−プロパンジオールを配合したパンクシーリング剤では、高温での使用時に詰まりが生じることがある。この高温での詰まりは、シーリング剤の注入に続く高圧空気の注入中に、ボトルやホースの内壁に付着したシーリング剤が暖かい空気に接して乾燥、ゴム化して流路の狭い部分(バルブコア、弁軸押し)に蓄積し、流路が詰まることによって生じている。本発明では、更にノニオン性界面活性剤を添加することにより、高温での注入性を改善し、高温での詰まりを防止できる。これは、アニオン性界面活性剤のイオン斥力により分散している天然ゴム粒子にノニオン性界面活性剤を吸着させることによって、粒子近傍の粒子間ポテンシャルエネルギーを上昇できるため、熱安定性が改善されたものと推察される。このような効果はノニオン性界面活性剤を用いた場合に発揮され、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤を添加した場合は、シーリング剤の増粘がみられる。
【0037】
また、ノニオン性界面活性剤を使用することにより、優れた初期シール性能、シール保持性能、貯蔵安定性も得られる。
【0038】
ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテルは、エチレンオキサイド構造及び/又はプロピレンオキサイド構造を有することが好ましい。親水基として、エチレンオキサイド構造及び/又はプロピレンオキサイド構造を有するものは、プロピレングリコールとの相溶性を高めることができる。なかでも、エチレンオキサイド構造を有するものが好ましい。また、エチレンオキサイド構造及び/又はプロピレンオキサイド構造を有する場合、エチレンオキサイド(EO)及びプロピレンオキサイド(PO)の平均付加モル数(EO及びPOの平均付加モル数の合計)が10以上であることが好ましく、13以上であることがより好ましい。また、該平均付加モル数は、好ましくは60以下、より好ましくは40以下である。この場合、相溶性が高められ、高温注入性を改善できる。
【0039】
また、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルにおけるアルキル基の炭素数、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテルにおけるアルケニル基の炭素数は、10以上であることが好ましく、12以上であることが好ましく、15以上であることが更に好ましい。また、該炭素数は、好ましくは20以下、より好ましくは18以下である。この場合、高温注入性を効果的に改善できる。
【0040】
ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテルとしては、下記式(1)で表される化合物が挙げられる。該化合物の使用により、高温注入性を改善するとともに、優れた初期シール性能、シール保持性能、貯蔵安定性も得られる。
−O−(AO)−H (1)
(式(1)において、Rは炭素数4〜24のアルキル基又は炭素数4〜24のアルケニル基を表す。平均付加モル数nは1〜80を表す。AOは同一又は異なって炭素数2〜4のオキシアルキレン基を表す。)
【0041】
の炭素数は、好ましくは8以上、より好ましくは10以上、更に好ましくは12以上、最も好ましくは15以上である。またRの炭素数は、好ましくは22以下、より好ましくは20以下、更に好ましくは18以下である。
【0042】
nは、好ましくは10以上、より好ましくは13以上である。またnは、好ましくは60以下、より好ましくは50以下、更に好ましくは40以下である。
【0043】
AOは、好ましくは炭素数2〜3のオキシアルキレン基(オキシエチレン基(EO)、オキシプロピレン基(PO))である。(AO)が2種以上のオキシアルキレン基を含む場合、オキシアルキレン基の配列はブロックでもランダムでもよい。R、nが上記範囲である場合やAOがEO、POである場合、上記の効果が良好に発揮される。
【0044】
ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテルとしては、下記式(2)で表される化合物が好適に使用される。
−O−(EO)(PO)−H (2)
(式(2)において、Rは炭素数8〜22のアルキル基又は炭素数8〜22のアルケニル基を表す。EOはオキシエチレン基、POはオキシプロピレン基を表す。平均付加モル数xは1〜60、平均付加モル数yは0〜20である。)
【0045】
の炭素数の好ましい数値範囲は、上記Rと同様である。Rは直鎖状又は分岐状のいずれであってもよいが、直鎖状のアルキル基又はアルケニル基が好ましい。xは、好ましくは10以上、より好ましくは13以上である。またxは、好ましくは50以下、より好ましくは40以下である。yは、好ましくは10以下、より好ましくは4.5以下、更に好ましくは2.0以下である。また、yは0であってもよい。R、x、yが上記範囲である場合、上記の効果が良好に発揮される。
【0046】
EOとPOの配列はブロックでもランダムでもよい。EOとPOの配列がブロックである場合、EOのブロックの数、POのブロックの数は、各平均付加モル数が上記範囲内である限り、それぞれ1個でも2個以上でもよい。また、EOからなるブロックの数が2個以上である場合、各ブロックにおけるEOの繰り返し数は、同一でも異なってもよい。POのブロックの数が2個以上である場合も、各ブロックにおけるPOの繰り返し数は、同一でも異なってもよい。EOとPOの配列がランダムである場合は、各平均付加モル数が上記範囲内である限り、EOとPOとが交互に配列されても無秩序に配置されてもよい。
【0047】
本発明におけるノニオン性界面活性剤としては、高温注入性の点から、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルケニルエーテル(例えば、式(2)のy=0の化合物)が好適に使用される。この場合、好ましいEOの平均付加モル数、アルキル基、アルケニル基は、上記と同様である。
【0048】
ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテルとしては、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンミリスチルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンミリスチルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンラウリルエーテル等が挙げられる。なかでも、高温注入性の点から、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテルが好ましい。
【0049】
ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル等のノニオン性界面活性剤のHLB値(グリフィン法で算出)は、好ましくは12以上、より好ましくは13以上である。また、該HLB値は、好ましくは19以下、より好ましくは17以下である。この場合、相溶性が高められ、高温での安定性が改善されるため、保管性能や高温注入性が改善され、また、優れたパンクシール性能、シール保持性能、低温特性も得られる。
【0050】
ノニオン性界面活性剤の市販品としては、エマルゲン320P(式(2):R=ステアリル基、x=13、y=0)、エマルゲン420(式(2):R=オレイル基、x=20、y=0)、エマルゲン430(式(2):R=オレイル基、x=30、y=0)、エマルゲン150(式(2):R=ラウリル基、x=40、y=0)、エマルゲン109P(式(2):R=ラウリル基、x=9、y=0)、エマルゲン120(式(2):R=ラウリル基、x=12、y=0)、エマルゲン220(式(2):R=セチル基、x=12、y=0)等が挙げられる(いずれも花王(株)製)。
【0051】
パンクシーリング剤の全質量100質量%に対するノニオン性界面活性剤の配合量Dは、1〜12質量%が好ましい。配合量Dが1質量%未満では、高温での詰まり防止効果が不十分となるおそれがある。逆に12質量%を超えると、シール性が不十分となり、また室温での粘度が上昇してしまうおそれもある。配合量Dの下限は1.5質量%以上がより好ましく、上限は10質量%以下がより好ましい。
【0052】
パンクシーリング剤に含まれる界面活性剤100質量%に対するノニオン性界面活性剤の配合量D′は、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上である。これにより、高温注入性を効果的に改善できる。
【0053】
また、凍結温度の低温度化と低温での粘性の上昇抑制効果とをバランス良く確保し、使用温度範囲を低温側に拡げる点、高温注入性を高める点、シーリング剤の安定性を確保する点から、前記配合量C、Dの和(C+D)を34〜65質量%にすることが好ましい。配合量C+Dの下限は36質量%以上がより好ましく、上限は62質量%以下がより好ましい。
【0054】
本発明のパンクシーリング剤は、本発明の効果を阻害しない範囲で、他の成分を更に配合してもよい。
本発明のパンクシーリング剤は、一般的な方法で製造される。すなわち、前記各成分等を公知の方法により混合すること等により製造できる。
【0055】
本発明のパンクシーリング剤中のゴム固形分に対するリン含有量は、200ppm以下であるが、100ppm以下が好ましい。200ppmを超えると、パンクシーリング剤の低温での粘度を充分に低下することができないおそれがある。
【0056】
本発明のパンクシーリング剤中のゴム固形分中のゲル含有率は、20質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましい。20質量%を超えると、ムーニー粘度が高くなるなど加工性が低下する傾向がある。
【実施例】
【0057】
実施例にもとづいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0058】
製造例1
(ケン化処理天然ゴムラテックス(脱リン天然ゴムラテックス)の調製)
農園より入手したフィールドラテックスを固形分濃度(DRC)30%(w/v)に調整した後、天然ゴムラテックス1000gに対し、Emal−E(花王(株)製)10gとNaOH(和光純薬製)10gを加え、70℃にて24時間ケン化反応を行った。得られたラテックスに水を添加してDRC15%(w/v)となるまで希釈した後、ゆっくり撹拌しながらギ酸を添加してpHを4.0〜4.5に調整し、凝集させた。凝集したゴムを粉砕し、水1000mlで洗浄を繰り返した。次に、洗浄後のラテックスを遠心分離により濃縮し、DRC60%(w/v)に調整し、ケン化処理天然ゴムラテックス(脱リン天然ゴムラテックス)を得た。
【0059】
製造例2
(ケン化処理天然ゴムラテックス(脱リン天然ゴムラテックス)の調製)
農園より入手したフィールドラテックスを固形分濃度(DRC)30%(w/v)に調整した後、天然ゴムラテックス1000gに対し、Emal−E(花王(株)製)10gとNaOH(和光純薬製)20gを加え、70℃にて48時間ケン化反応を行った。得られたラテックスに水を添加してDRC15%(w/v)となるまで希釈した後、ゆっくり撹拌しながらギ酸を添加してpHを4.0〜4.5に調整し、凝集させた。凝集したゴムを粉砕し、水1000mlで洗浄を繰り返した。次に、洗浄後のラテックスを遠心分離により濃縮し、DRC60%(w/v)に調整し、ケン化処理天然ゴムラテックス(脱リン天然ゴムラテックス)を得た。
【0060】
製造例3
(ケン化処理天然ゴムラテックス(脱リン天然ゴムラテックス)の調製)
農園より入手したフィールドラテックスを固形分濃度(DRC)30%(w/v)に調整した後、天然ゴムラテックス1000gに対し、Emal−E(花王(株)製)10gとNaOH(和光純薬製)10gを加え、室温にて24時間ケン化反応を行った。得られたラテックスに水を添加してDRC15%(w/v)となるまで希釈した後、ゆっくり撹拌しながらギ酸を添加してpHを4.0〜4.5に調整し、凝集させた。凝集したゴムを粉砕し、水1000mlで洗浄を繰り返した。次に、洗浄後のラテックスを遠心分離により濃縮し、DRC60%(w/v)に調整し、ケン化処理天然ゴムラテックス(脱リン天然ゴムラテックス)を得た。
【0061】
製造例1〜3の各天然ゴムラテックス、市販の天然ゴムラテックス(マレーシア産のHA型天然ゴムラテックス)を110℃で120分間乾燥して固形ゴムを得た。得られた各固形ゴムを以下に示す方法により、リン含有量を測定した。
・リン含有量の測定
ICP発光分析装置(ICPS−8100、島津製作所社製)を使用して生ゴムのリン含有量を求めた。
製造例1〜3の各天然ゴムラテックス、市販の天然ゴムラテックスのリン含有量は、ゴム固形分に対して、それぞれ98ppm、64ppm、120ppm、560ppmであった。
【0062】
実施例及び比較例
製造例1〜3の各天然ゴムラテックス、市販の天然ゴムラテックスを用い、表1の仕様に基づいて、パンクシーリング剤を試作した。
【0063】
なお、粘着付与剤、界面活性剤は、以下のものを使用した。
粘着付与剤:テルペン樹脂の乳化液(固形分:約50質量%)
エマルゲン320P:ポリオキシエチレンステアリルエーテル(式(2)、R=ステアリル基、x=13、y=0、HLB値=13.9、花王(株)製)
エマルゲン430:ポリオキシエチレンオレイルエーテル(式(2)、R=オレイル基、x=30、y=0、HLB値=16.2、花王(株)製)
【0064】
得られた各パンクシーリング剤について、低温特性(−30℃での粘度)、パンクシール性能、シール保持性能、保管性能(貯蔵安定性)、高温注入性、ゲル含有率を下記方法にて評価し、結果を表1に示した。
【0065】
(1)低温特性(−30℃での粘度):
B型粘度計(ブルックフィールド粘度計)を用い、−30℃のパンクシーリング剤の粘度を測定した。
【0066】
(2)パンクシール性能:
タイヤサイズ185/65R14のタイヤに、直径4.0mmの釘で穴を開け、釘を抜いた後、500mlのパンクシーリング剤を注入し、かつエアーを200kpaまで昇圧した。その後、ドラム上で荷重(3.5kN)にて回転させ、パンク穴がシールされるまでの時間をエアー漏れの量で判断し、従来品を3とした5段階で指数評価した。値が大きいほど優れている。
【0067】
(3)シール保持性能:
前記タイヤを用い、シールされてから100km走行するまでにパンク穴からエアー漏れがあったかどうかを測定したものであり、エアー漏れなし…○、エアー漏れあり…×、の2段階で評価した。
【0068】
(4)保管性能(貯蔵安定性):
パンクシーリング剤500mlを、ボトル状の容器内に収容し、80℃のオーブン内に2ヶ月間、静置状態で保管した後のクリーム状物質の生成量を測定し、パンクシーリング剤全体に対する質量比(%)で示した。
【0069】
(5)高温注入性:
50℃の雰囲気下で一体型タイプのパンク処置システムを用いて、パンクシーリング剤の注入を行い、タイヤの圧力が所定圧まで上昇するかどうかで判断し、上昇したもの…○、上昇しなかったもの…×、の2段階で評価した。
(6)ゴム固形分中のゲル含有率:
パンクシーリング剤を110℃で120分間乾燥して固形ゴムを得た。得られた各固形ゴムを1mm×1mmに切断したサンプル70.00mgを計り取り、これに35mLのトルエンを加え1週間冷暗所に静置した。次いで、遠心分離に付してトルエンに不溶のゲル分を沈殿させ上澄みの可溶分を除去し、ゲル分のみをメタノールで固めた後、乾燥し質量を測定した。次の式によりゲル含有率(%)を求めた。
ゲル含有率(質量%)=[乾燥後の質量mg/最初のサンプル質量mg]×100
【0070】
【表1】

【0071】
【表2】

【0072】
表1、2のとおり、ケン化処理天然ゴムラテックス(脱リン天然ゴムラテックス)を用いた実施例のシーリング剤は、パンクシール性能、シール保持性能、保管性能を確保しながら、低温における粘度を大幅に低下できた。よって、一体型タイプを低温の温度範囲で好適に使用できる。一方、市販の天然ゴムラテックスを用いた比較例では、低温における粘度に劣っていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム固形分に対するリン含有量が200ppm以下である脱リン天然ゴムラテックス及び凍結防止剤を含むタイヤのパンクシーリング剤。
【請求項2】
前記脱リン天然ゴムラテックスが、天然ゴムラテックスをケン化処理して得られたものであり、トルエン不溶分として測定されるゲル含有率が20質量%以下である請求項1記載のタイヤのパンクシーリング剤。
【請求項3】
前記凍結防止剤が1,3−プロパンジオールである請求項1又は2記載のタイヤのパンクシーリング剤。
【請求項4】
ゴム固形分に対するリン含有量が200ppm以下であるタイヤのパンクシーリング剤。