説明

パン酵母菌株の作製方法

【目的】 冷蔵貯蔵では活性を示さず、しかし生存し、13〜14℃以上ではドウ膨脹能を回復するSaccharomyces cerevisiaeパン酵母菌株を得ることを目的とする。
【構成】 冷蔵庫、低温室又は冷蔵棚に貯蔵後喫食直前にオーブンでベーキングするベーカリ品の製造に使用できる冷蔵下で不活性であるが生存性を有するパン酵母菌株。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明はlti性を有するパン酵母菌株の作製方法および本方法により作製した酵母菌株に関する。
【0002】
【従来の技術および発明が解決しようとする課題】特に伝統的遺伝学に基礎をおくパン酵母菌株を作製する各種既知方法があり、これらはベーカリに有用な特性を有する菌株を供しようと努めている。例えば、米国特許第4,547,374号明細書は冷蔵耐性があり、発酵およびベーキング前に冷蔵するためのパンドウの製造にパン酵母として使用できるSaccharomyces種菌株を選択的にハイブリド化することにより作製することを記載する。
【0003】米国特許第4,341,871号明細書は圧搾形にしてもこれらの活性が過度に失われずに脱水できるパン酵母のハイブリドを記載する。米国特許第4,643,901号明細書は甘味性および無甘味性ドウの双方を発酵し、膨脹することができ、「プチット」突然変異株の原形質融合によりハイブリド化して得られるパン酵母の純粋菌株を記載する。発酵およびベーキング前冷蔵貯蔵するベーカリ品も既知である。しかし、例えばロールおよびクロワッサンのような製品は化学膨脹剤を含有する。
【0004】本発明の課題はlti性、すなわち冷蔵下で不活性であるが生存性(ltiは英語「low temperature inactive」の略語である)を有し、かつ例えば冷蔵庫、低温室又は冷蔵棚で貯蔵後喫食直前にオーブンでべーキングするベーカリ品の製造にパン酵母として使用できるパン酵母菌株の作製方法およびこのように作製した菌株を供することである。
【0005】
【課題を解決するための手段】このため、lti性を有するパン酵母菌株を作製する本発明方法の第1態様は、Saccharomyces cerevisiaeの半数体菌株を突然変異誘発処理し、lti性を有する少なくとも1つの突然変異株を選択し、反対の接合型を有するSaccharomyces cerevisiaの野生半数体菌株と少なくとも1回戻し交雑し、lti性および反対の接合型を有する少なくとも2つの戻し交雑分離株を選択し、少なくとも1回交雑し、潜在的生育能、lti性およびドウの膨脹能を有するこうして得た二倍体菌株を選択することを特徴とする。
【0006】本発明において、「潜在的生育能」とは工業的に実施しうる培養方法、特に緩徐栄養物供給バッチ方法(酵母サスペンジョンに通気しながら糖溶液をゆっくりかつ徐々に添加してバイオマスの産生中アルコールの形成を回避し、収量を最高にする)として既知のパン酵母の伝統的培養方法により高収量かつすぐれた生産性で培養できる能力をいう。
【0007】同様に、「ドウ膨脹能」とは例えばドウが吸収しうるCO2 、およびドウの保存料として作用しうるアルコールのような代謝産物を非常にゆっくり産生させることにより、冷蔵温度でドウを非常にゆっくり変形する能力と解される。非常にゆっくりした変形の結果は、例えばドウを冷蔵庫、低温室又は冷蔵棚に貯蔵後、直接オーブンに入れる場合、ドウは膨脹しうることである。
【0008】lti性を有するパン酵母菌株を作製する本発明方法の第2態様では、Saccharomyce cerevisiaeの倍数体は任意には突然変異誘発処理し、次いで胞子を形成させ、lti性を有する少なくとも1つの分離株を選択し、反対の接合型を有するこの菌株の別の分離株と少なくとも1回戻し交雑し、lti性および反対の接合型を有する少なくとも2つの戻し交雑分離株を選択し、少なくとも1回交雑し、こうして得た潜在的生育能、lti性およびドウ膨脹能を有する倍数体菌株を選択する。
【0009】この方法により通例の冷蔵温度で、特に3〜9又は10℃の温度で実質的に不活性であるが、これらの温度で生存し、次いで例えば13〜14℃のオーダのより高い温度でこれらの活性を回復する性質を有するパン酵母菌株を作製することができた。
【0010】従って、このタイプのパン酵母菌株は冷蔵後喫食する直前にオーブンでベーキングするベーカリ品の製造に化学膨脹剤の代りに使用できる。これらは例えば、ロール、クロワッサンおよびピザの皮又は台所で混捏するドウのような呼び成形品の製造に特に使用できる。これらは冷蔵後、オーブンでベーキングすると、従来の市販パン酵母を使用して新たに膨脹させてオーブンでベーキングした同じものに匹敵できる官能性を有する。このタイプの菌株は冷蔵貯蔵する食品に温度誤用指示器として使用することもできる。
【0011】従って、本発明方法は例えば、従来の実験室パン酵母を形成するもののようなSaccharomyces cerevisiaeの半数体菌株、又は従来の市販パン酵母を形成するもののようなSaccharomyces cerevisiaeの倍数体菌株から出発できる。
【0012】Saccharomyces cerevisiaeの半数体菌株から出発する本発明方法の上記第1態様では、この菌株を突然変異誘発処理する。このため、この菌株の細胞は例えば2%グルコース、1%酵母エキスおよび2%ペプトンを含有するYPD培地に生育させることができ、細胞は例えば、メタンスルホン酸エチル(EMS)又はICR−170のような突然変異誘発剤により処理できる。
【0013】lti性、特に9又は10℃のオーダの温度で不活性であるが生存性を有するいくつかの突然変異株を選択することが好ましい。
【0014】次に選択した突然変異株は反対の接合型を有する、Saccharomyces cerevisiaeの野生半数体菌株と少なくとも1回戻し交雑して出発半数体菌株が最初に、又はその突然変異誘発処理後有しうる何らかの希望しない突然変異を回避し、および/又は可能な場合唯一回の突然変異によりlti性を保有させる。数回の戻し交雑操作を行なう場合、lti性、特に約9又は10℃の温度で不活性であるが生存性を有する少なくとも1つの分離株を2つの連続操作間で選択することができ、こうして選択した分離株はこれらの2つの連続操作の2番目にかける。
【0015】次に反対の接合型およびlti性、特に約9又は10℃の温度で不活性であるが生存性を有する少なくとも2つの戻し交雑分離株を選択し、少なくとも1回交雑する。
【0016】最後に、潜在的生育能、lti性およびドウ膨脹能を有するこうして得たSaccharomyces cerevisiaeの二倍体菌株を選択する。この最後の段階で前の段階で使用したものより一層きびしく、かつ一層完全な選択基準を保持できる。特に、パン酵母を培養する伝統的緩徐栄養物供給バッチ方法で二倍体菌株に生育試験を行なうことができる。
【0017】次にlti性はマルトース含有栄養培地、すなわち炭素源としてマルトースを含有する栄養培地で、例えば3〜7日間の毎日時間の関数としておよび例えば3〜14℃間のすべての温度で温度の関数として二倍体菌株にCO2 産生試験を行なうことにより証明できる。
【0018】最後に、菌株のドウ膨脹能はピザドウに唯一の膨脹剤として菌株を添加することにより、例えばこのドウでピザの皮を形成し、これを数日又は数週冷蔵温度で貯蔵し、次いでオーブンでベーキングすることにより証明できる。この試験はマルトース含有培地で、例えば約20〜30℃の温度で菌株のCO2 産生を証明することにより完了することもできる。
【0019】従って、本発明方法の第1態様により冷蔵貯蔵後喫食直前にオーブンでベーキングするベーキング品の製造に使用できる顕著なlti性を有する菌株を作製することができる。特に、緩徐栄養物供給バッチ方法で潜在的生育能、ドウ膨脹能、3〜10℃に冷蔵したマルトース含有培地で7日後圧搾酵母1gにつき20ml未満のCO2 産生レベルおよび少なくとも14℃の温度に保持したマルトース含有培地で7日後圧搾酵母1gにつき少なくとも40mlのCO2 産生レベルを有するパン酵母Saccharomyces cerevisiae菌株を作製することができる。
【0020】こうして得たSaccharomyces cerevisiaeの各種菌株のうち、3菌株を例としてNational Collection of Industrial and Marine Bacteria Ltd.(NCIMB)、P.O.Box 31,135 Abbey Road,ABERDEEN AB9 8DG,Scotland(英国)に1990年11月6日ブタペスト条約により寄託し、番号NCIMB40328、40329および40330を与えられた。
【0021】Saccharomyces cerevisiaeの倍数体菌株から出発する本発明方法の第2態様では、この菌株は任意には突然変異誘発処理する。例えばある種の市販パン酵母は本発明方法の間に検知しうる突然変異を初めに示すので菌株に突然変異処理を施すことは常に必要であるとは限らないことが実際上分った。
【0022】倍数体菌株に突然変異誘発処理を施す場合、このため例えば2%グルコース、1%酵母エキスおよび2%プロトンを含有するYPD培地でこの菌株を生育させることができ、得た細胞は例えばメタンスルホン酸エチル(EMS)又はICR−70のような突然変異誘発剤により処理できる。
【0023】従って、本発明方法の第2態様では、Saccharomyces cerevisiaeの倍数体菌株は任意には突然変異誘発処理後胞子形成させる。この菌株を胞子形成させるために、この細胞は0.8%酵母エキス、0.3%ペプトン、10%グルコースおよび2%寒天を含有するPSA培地のようないわゆる予備胞子形成培地で1又は2日生育させることができる。次にこれらは1%酢酸カリウム、0.1%酵母エキス、0.05%グルコースおよび2%寒天のような胞子形成培地に移し、3〜5日保持できる。次に胞子は例えば顕微操作で単離でき、倍数性低減菌株、換言すれば分離株は例えばYPD培地で発芽させることによりこれらから得ることができる。
【0024】次にlti性、特に約9〜10℃の温度で不活性であるが、生存性を有するこの倍数体菌株の数個の分離株を選択することが好ましい。次に選択した分離株はlti性を有しないが反対の接合型を有する倍数体菌株の他の分離株と少なくとも1回戻し交雑する。これは倍数体菌株が初めに又は任意の突然変異誘発処理後有しうる何らかの希望しない突然変異を回避し、および/又は可能ならば唯一の突然変異によりlti性を保有するためである。数回の戻し交雑操作を行なう場合、lti性、特に約9〜10℃の温度で不活性であるが生存性を有する少なくとも1つの分離株は連続2操作間で選択でき、この分離株は連続2操作の2番目の操作に供することができる。
【0025】次に反対の接合型およびlti性、特に約9〜10℃の温度で不活性であるが生存性を有する少なくとも2つの戻し交雑分離株を選択し、少なくとも1回交雑する。
【0026】最後に、潜在的生育能、lti性およびドウ膨脹能を有するこうして得たSaccharomyces cerevisiaeの倍数体菌株を選択する。このため、同じ選択基準を保持でき、この倍数体菌株は本発明方法の第1態様の最終工程と同じ試験を行なうことができる。
【0027】従って、本発明方法の第2態様により冷蔵貯蔵後喫食直前にオーブンでベーキングするベーカリ品の製造に使用できる顕著なlti性を有する菌株を作製することができる。特に、緩徐栄養物供給バッチ方法で潜在的生育能、ドウ膨脹能、3〜9℃に冷蔵したマルトース含有培地で7日後圧搾酵母1gにつき30ml未満のCO2 産生量および少なくとも13℃の温度に保持したマルトース含有培地で6日後圧搾酵母1gにつき少なくとも60mlのCO2 産生量を有するパン酵母Saccharomyces cerevisiaeの菌株を作製することができる。
【0028】こうして得たSaccharomyces cerevisiaeの各種菌株のうち、2株は例としてNational Collection of Industrial and Marine Bacteria Ltd.(NCIMB),P.O.Box31,135 Abbey Road,ABERDEEN AB9 8DG,Scotland(英国)に1990年11月6日ブダペスト条約により寄託し、番号NCIMB 40331およひ40332を与えられた。
【0029】本発明方法および得た菌株は次例により説明する。例中、%および部は特記しない限り重量による。例を記載する前に各種試験および各種使用培地の組成を記載し、図面の各種数字の簡単な記載および比較例を記載する。
【0030】試験1.生育試験パン酵母を培養する伝統的緩徐栄養物供給方法をまねて、乳酸(S−lac培地)エタノール(S−EtOH2%およびS−EtOH1%培地)およびグリセロール(YPG培地)のような非発酵性炭素源を含有する各種培地を使用して生育試験を計画した。
【0031】この試験の背後にある推測では、パン酵母は緩徐栄養物供給バッチ方法の過程で、蔗糖のような発酵性糖溶液の臨界的添加割合に応答して非発酵性炭素含有代謝産物を蓄積する。これらの代謝産物は代謝および酵母の呼吸に阻害および毒性効果を有する。高潜在的生育能を有する菌株はより高添加割合でこれらの毒性炭素含有代謝産物を蓄積でき、より低い潜在的生育能を有する菌株よりこれらの代謝産物の蓄積に対し感受性が低い。
【0032】この生育試験の結果は菌株細胞の接種後培地プレートに30℃の温度で3日間に形成するコロニーの寸法を図1に示す。各培地に相当する横のバンドはコロニーの平均観察寸法を0、0.5mm、0.5〜1.5mm、1.5〜2.5mm、2.5mmの標線まで示す。
【0033】2.CO2 産生テストこの試験は例えば発酵管の低端を導入できる各種温度のセルを有する温度勾配ブロックを含む特に設計した装置で行なう。これらの管は密閉され、目盛付上端および1端に連結した膨脹フラスコを有する。酵母が産生したCO2 は各管の上部の目盛りを付した端部に蓄積し、培地は膨脹フラスコ中に通過しうる蓄積ガムにより置換される。
【0034】この試験を行なうために、試験菌株をYPD培地に一夜培養したカルチャー2mlを、名称「酵母窒素ベースW/Oアミノ酸」としてDifco Companyにより市販される商品のような、例えば0.5%酵母エキス、2%蔗糖、1%コハク酸ナトリウムおよびpH4.5に調整する濃塩酸を含むアミノ酸を含まない0.67%の窒素ベースを含有する500mlフラスコ中の200mlの第1培地中に接種する。全体を攪拌しながら30℃で24時間培養する。
【0035】細胞は5分、6,000g/20℃で遠心分離して分離し、次いで500mlフラスコ中のアミノ酸を含まない0.67%の窒素ベース、0.3%の酵母エキスおよび0.3%蔗糖、1%のコハク酸ナトリウムおよびpHを4.5に調整する濃塩酸を含有する200mlの第2培地に懸濁させる。全体を30℃で24時間培養する。
【0036】細胞は5分、6,000g/4℃で遠心分離して分離し、得た酵母細胞残渣は50ml蒸留水により2回洗滌する。
【0037】細胞は10mlの蒸留水に懸濁し、15mlの目盛り付きの予め秤量したポリプロピレン管に移す。これらは10分3,000g/4℃で遠心分離する。管は水切りし、酵母残渣は秤量し、約27%/mlの乾物含量を有する0.5gの圧搾酵母に相当する0.61gの酵母残渣量で、アミノ酸を含まない0.67%窒素ベース、2%マルトース、1%コハク酸ナトリウムおよびpHを4.5に調整する濃塩酸を含有する第3培地に懸濁させる。0.5ml(≧10℃の温度に対し)又は1ml(<10℃温度に対し)量をそれぞれ50mlの第3培地、換言すればマルトース含有培地を満たし、4℃に冷却した上記タイプの発酵管中に導入する。
【0038】発酵管は上記濃度勾配ブロックに上記所望温度で培養する。CO2 の産生は管を超音波処理浴に数秒間浸漬して液体培地に保持されたCO2 泡を遊離させた後選択した間隔で記録する。
【0039】3.ドウ膨脹試験ドウを30部の水、60部の白色軟質小麦粉、1.4部の食塩および7.6部の落花生油を混合して調製する。試験菌株は1部の圧搾酵母量で小麦粉に添加する。次に20cmの直径および0.5cm厚さのピザの皮をドウから形成し、密封プラスチック包装中に8℃で21時間貯蔵する。次にピザの皮は包装から取り出し、180℃で15分オーブンでヘーキングする。
【0040】ピザの皮が約2cmの厚さを有し、かつ伝統的市販パン酵母を作用させて新たに膨脹させたドウから製造した類似のピザの皮のものに匹敵できる官能性、すなわち味およびテクスチャーを有する場合、試験に合格したと見做される。
【0041】培地YPDグルコース 2%酵母エキス 1%ペプトン 2%PSAグルコース 10%酵母エキス 0.8%ペプトン 0.3%寒天 2%SAグルコース 0.05%酵母エキス 0.1%酢酸カリウム 1%寒天 2%S−lacアミノ酸を含まない窒素ベース 0.67%乳酸 0.5%寒天 2%S−EtOH1%又は2%アミノ酸を含まない窒素ベース 0.67%エタノール 1%又は2%寒天 2%YPGグリセロール 2%酵母エキス 1%ペプトン 2%
【0042】図面図1:直線はS−lac、S EtOH1%および2%およびYPG培地にNCIMB 40328、40329、40330、40331、40332および「levure boulangire bleue」(LBB、比較用)の菌株細胞を生育させて得たコロニーの大きさを示す。
【0043】図2〜図7:マルトース培地に温度と時間の関数としてNCIMB 40328(図2)、NCIMB 40329(図3)、NCIMB 40330(図4)、NCIMB 40331(図5)、NCIMB 40332(図6)および「levure boulangire bleue」(LBB、比較用、図7R>7)菌株のCO2 産生レベルを三次元で示す。
【0044】図8:30℃のマルトース培地に時間の関数としてNCIMB40328、40329、40330および40332および「levure boulangire bleue」(LBB、比較用)菌株のCO2 産生レベルを二次元で示す。
【0045】比較例比較として、市販パン酵母菌株、すなわち「levure boulangire bleue」(LBB)の名称でFould Springer Companyにより市販されるパン酵母を形成する菌株を潜在的生育能、lti性およびドウ膨脹能を有する二倍体および倍数体を選択するために上記と同じ試験、すなわち上記1〜3の試験を行なう。図1に示す比較生育試験の結果は予期したようにLBB菌株がパン酵母を培養する伝統的緩徐栄養物供給バッチ方法できわめて良好な生育力を有することを示した。比較CO2 産生試験結果は図7に示し、図からマルトース培地におけるCO2 の産生は3〜5℃で6〜7日後、5〜9℃で5〜6日後および10℃で3〜4日後圧搾酵母1gにつき40mlを超えることが分る。マルトース培地におけるLBB菌株のCO2 産生は30℃で約4時間後圧搾酵母1gにつき20mlを急速に超えることも図8から分る。ドウ膨脹能に対する比較試験結果はLBB菌株がオーブンでベーキング前に冷蔵貯蔵に適応しないことを示す。LBB菌株を使用して得た密封プラスチック包装のピザの皮は8℃で1日後気球のようにふくらむ。対照的に、本発明方法により作製した菌株を使用し、一方で上記ドウ膨脹試験を行なったピザの皮とLBB菌株を使用し、冷蔵貯蔵せずに同じ試験を行ったピザの皮間の品質に識別できる差はほとんどないことが分る。
【0046】例1出発菌株は伝統的実験室パン酵母を形成するもの、特に遺伝子型MATa arg4−17 his4−38 lys1−1 met8−1 trp1−1malを有する菌株(National Collection of Industrial and Marine Bacteria Ltd.(NCIMB),P.O.Box31,135 Abbey Road,ABERDEEN AB9 8DG,Scotland(英国)に1990年11月6日にブダペスト条約のもとに寄託し、番号NCIMB 40333を得た)のようなSaccharomyces cerevisiaeの半数体菌株である。この菌株はEMSにより突然変異誘発処理する。このため、この菌株細胞を5mlのYPD培地に定常期まで生育させ、pH7.0の100mMリン酸カリウム緩衝液で1回洗滌し、次いで108 細胞/ml量で同じ緩衝液に懸濁させる。3%容EMSを懸濁液に添加し、これは次に烈しく攪拌しながら30℃で1時間反応させる。処理は10倍容量の5%チオ硫酸ナトリウム溶液に懸濁液を稀釈して終了する。次に細胞は固体YPD培地上に分配し、30℃で2日培養する。次にこれらは固体YPD培地上に再分配し、10℃で3週培養してこれらのlti性を試験する。その温度で不活性であるが生存性を有するいくつかの安定な突然変異株を次に選択する。接合型MATaを有するこれらの突然変異株の1つは、次に例えば専門家には周知の遺伝子型MATα canlhis3−11,15 leu2−3,112を有する菌株GRF18(G.R,Fink,Whitehead Institute,Nine Cambridge Center,Cambridge,Massachusetts01 142,USA参照)のようなSaccharomyces cerevisiaeの野生半数体菌株と戻し交雑する。10℃で明白なlti性および遺伝子型MATa lys1 his3/4trp1 malを有するこの戻し交雑分離株を次に選択する。この分離株は出発菌株の突然変異株の戻し交雑に使用したものと同じ野生菌株と戻し交雑する。10℃で明白なlti性を示し、遺伝子型MATα leu2 His3/4malを有するこの戻し交雑の2分離株を次に選択する。これらの各2分離株は例えば専門家に周知の菌株1403−7Aのような少なくとも1つのMAL遺伝子を有するSaccharomyces cerevisiaeの野生半数体菌株と戻し交雑する(Yeast Genetics Stock Center,6th Edition of the Catalog by Robert Mortimer,Department ofBiophysics andMedical Physics,University of California,Barkeley,CA94720,USA)。それぞれが10℃で明白なlti性を有するこれらの各分離株、1つは遺伝子型MATa MALを有し、もう1つは遺伝子型MATα leu2 MALを有するものを選択する。これら2つの分離株は交雑し、潜在的生育能、lti性およびドウ膨脹能を有するこの交雑により産生したSaccharomyces cerevisiaeの各種二倍体菌株を選択する。こうして得た各種菌株のうち、上記菌株NCIMB 40328を例として寄託した。この菌株はパン酵母を培養する伝統的緩徐栄養物供給バッチ方法で比較的適度の潜在的生育能を有する。このことは上記生育試験で得た結果を説明する図1から分る。しかし、容易に上記の相当する試験に合格する。従って高いドウ発酵能を有することが分る。最後に、明白なlti性を有する。このことは詳細に上記したCO2 産生試験により測定して、マルトース培地で発酵温度および時間の関数としてそのCO2 産生量で示す3次元図の図2R>2から分る。少なくとも約1週3〜10℃で実質的に不活性であるが生存し、約13〜14℃で約6〜7日後有意な活性を回復しうることが分る。特に、そのCO2 産生量は3〜8℃で7日後尚雰であり、10℃で7日後圧搾酵母1gにつき約8mlに上昇するに過ぎないことが分る。対照的に、マルトース培地におけるそのCO2 産生量は13〜14℃で6日後40ml/g以上に増加する。マルトース培地におけるそのCO2 産生量は30℃で約2時間後20ml/g以上に急上昇する。さらに、菌株NCIMB 40328は次の特徴を示す:形態長円形細胞。ある細胞は大きさを増し、偽菌糸を形成する。
糖の発酵菌株は蔗糖、マルトースおよびグルコースを発酵できる。
【0047】例2使用出発菌株および手順は双方共10℃で明白なlti性および遺伝子型MATα leu2 his3/4 malを有する2つの戻し交雑分離株の選択まで例1記載の通りである。これらの2つの分離株のうちの1つは例えば当業者に周知の遺伝子型MATαCUP1 SUC2 ga12 mal melを有する菌株X2180−1AのようなSaccharomyces cerevisiaeの野生半数体菌株と戻し交雑させる(Yeast Genetics Stock Center,6th Edition of the Catalog参照)。10℃で明白なlti性および遺伝子型MATαhis3/4 leu2malを有するこの戻し交雑分離株を選択する。この分離株は上記と同じ菌株X2180−1Aと戻し交雑して栄養要求性変異his3/4およびleu2を除去する。遺伝子型MATα malおよび1回の突然変異により10℃で有意なlti性、換言すればlti性に関し完全な2:2分離を有するこの戻し交雑分離株を選択する。この分離株は例えば専門家に周知の菌株1403−7Aのような少なくとも1つのMAL遺伝子を有するSaccharomyces cerevisiaeの野生半数体菌株と戻し交雑する(Yeast Genetics StockCenter,6th Edition of the Catalg参照)。一方では10℃で明白なlti性および遺伝子型MATα MALを有するこの1つの戻し交雑分離株、他方では10℃で明白および非常に明白なlti性をそれぞれ示し、それぞれが表現型MATa ura3 malを有するこの戻し交雑の2分離株を選択する。これら2つの最後の分離株は最初のものと交雑し、それぞれ潜在的生育能、lti性およひドウ膨脹能を有するこれら2つの交雑により産生したSaccharomyces cerevisiaeの各種二倍体菌株を選択する。こうして得た各種菌株のうち、例として寄託した上記菌株NCIMB 40329およびNCIMB 40330はそれぞれこれら2つの交雑の1つにより産生した。これらの2菌株は図1から分るように、パン酵母を培養する伝統的緩徐栄養物供給バッチ方法で比較的良好な潜在的生育能を有する。これらは容易に上記相当する試験に合格することから良好なドウ膨脹能をも有する。最後に、これらは著しいlti性を有する。これらは少なくとも約1週間3〜10℃のマルトース培地で実質的に不活性であるが生存し、約11〜14℃で約5〜7日後有意な活性を回復しうることは図3から分る。特に、これらのCO2 産生量は3〜9℃で7日後尚雰付近であり、10℃で7日後約12ml/1g圧搾酵母に上昇するに過ぎないことが分る。対照的に、これらのCO2 産生レベルは12〜14℃で6日後40ml/g以上に増加する。マルトース培地におけるこれらのCO2 産生量は30℃で約1.5時間後20ml/g以上に急増することが図8から分る。さらに、これらの菌株は次の特徴を示す:NCIMB 40329形態:長円形細胞。細胞の大きさは比較的均質。
糖の発酵:蔗糖、マルトースおよびグルコースを発酵できる。
NCIMB 40330形態:長円形細胞。細胞の大きさは比較的均質。
糖の発酵:蔗糖、マルトースおよびグルコースを発酵できる。
【0048】例3出発菌株は名称「levure boulangire bleue」としてFould Springer Companyが市販するパン酵母を形成するようなaccharomyces cerevisiaeの市販倍数体菌株であり、この細胞はSaccharomyces cerevisiaeの半数体菌株の細胞より3〜4倍多くDNAを含有する。この菌株に胞子を形成させるために、その細胞を30℃で2日PSA予備胞子形成培地に生育させる。次にこれらはSA胞子形成培地に移し、そこで30℃で4日保持する。次に胞子を単離し、YPD培地で発芽させ、菌株、すなわち倍数性の低減した分離株を得る。10℃で非常に明白なlti性、さらに接合型MATαを有するこれらの分離株の1つを選択する。この分離株はlti性を示さず、接合型MATaを有しない倍数性の低減した別の分離株と戻し交雑する。10℃で非常に明白なltiおよび1つの接合型を有するこの戻し交雑のいくつかの分離株を選択する。反対の接合型を有する分離株は数回交雑し、潜在的生育能、lti性およびドウ膨脹能を有するこれらの交雑により産生したSaccharomyces cerevisiaeの各種倍数体菌株を選択する。こうして得た各種菌株のうち、上記菌株NCIMB 40331およひNCIMB 40332は例として寄託した。特に、これら2つの菌株は図1から分るように、パン酵母を培養する伝統的緩徐栄養物供給バッチ方法で非常に良好な潜在的生育能を有する。これらは容易に上記相当する試験に合格することから良好なドウ膨脹能をも有する。最後に、これらは明白なlti性を有する。これらは少なくとも4〜5日間3〜9℃のマルトース培地で実質的に不活性であるが生存し、約10〜13℃で約5〜7日後有意な活性を回復しうることは図5および6から分る。特に、これらのCO2 産生量は3〜9℃で5日後尚雰付近であり、3〜9℃で7日後圧搾酵母1gにつき約20〜25mlに急上昇するに過ぎないことが分る。対照的に、これらのCO2 産生量は12〜14℃で5日後60ml/g以上に増加する。マルトース培地における菌株NCIMB 40332のCO2 産生レベルは30℃で約4時間後20ml/g以上に急増することも図8から分る。さらに、これらの菌株は次の特徴を有する:NCIMB 40331形態:円形細胞。細胞の大きさは均質。
糖の発酵:蔗糖、マルトースおよびグルコースを発酵できる。
NCIMB 40332形態:円形細胞。細胞の大きさは均質。
糖の発酵:蔗糖、マルトースおよびグルコースを発酵できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は各種培地に各種菌株を培養して得たコロニーの大きさを示す。
【図2】図2は菌株NCIMB 40328によるマルトース培地におけるCO2 産生量を温度および時間の関数として示す。
【図3】図3は菌株NCIMB 40329によるマルトース培地におけるCO2 産生量を温度および時間の関数として示す。
【図4】図4は菌株NCIMB 40330によるマルトース培地におけるCO2 産生量を温度および時間の関数として示す。
【図5】図5はNCIMB 40331によるマルトース培地におけるCO2 産生量を温度および時間の関数として示す。
【図6】図6はNCIMB 40332によるマルトース培地におけるCO2 産生量を温度および時間の関数として示す。
【図7】図7は「levure boulangire bleue」(LBB、比較用)によるマルトース培地におけるCO2 産生量を温度および時間の関数として示す。
【図8】図8は各種菌株による30℃のマルトース培地におけるCO2 産生量を時間の関数として示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 Saccharomyces cerevisiaeの半数体菌株を突然変異誘発処理し、lti性を有する少なくとも1つの突然変異株を選択し、反対の接合型を有するSaccharomyces cerevisiaeの野生半数体菌株と少なくとも1回戻し交雑し、lti性および反対の接合型を有する少なくとも2つの戻し交雑分離株を選択し、次いで少なくとも1回交雑し、こうして得た潜在的生育能、lti性およびドウ膨脹能を有する二倍体菌株を選択することを特徴とする、lti性を有するパン酵母菌株の作製方法。
【請求項2】 選択する二倍体菌株のlti性を証明するために、炭素源としてマルトースを含有する栄養培地で3〜14℃の範囲の温度で数日間CO2 産生試験を行なう、請求項1記載の方法。
【請求項3】 Saccharomyces cerevisiaeの倍数体菌株を任意には突然変異誘発処理し、次いで胞子を形成させ、lti性を有する少なくとも1つの分離株を選択し、反対の接合型を有するこの菌株の別の分離株と少なくとも1回戻し交雑し、lti性および反対の接合型を有する少なくとも2つの戻し交雑分離株を選択し、次いで少なくとも1回交雑し、こうして得た潜在的生育能、lti性およびドウ膨脹能を有する倍数体菌株を選択することを特徴とする、lti性を有するパン酵母菌株の作製方法。
【請求項4】 選択する倍数体菌株のlti性を証明するために、炭素源としてマルトースを含有する栄養培地で3〜14℃の範囲の温度で数日間CO2 産生試験を行なう、請求項3記載の方法。
【請求項5】 緩徐栄養物供給バッチ方法で潜在的生育能、ドウ膨脹能、3〜10℃に冷蔵したマルトース培地で7日後圧搾酵母1gにつき20ml未満のCO2 産生レベルおよび少なくとも14℃の温度に保持したマルトース培地で6日後圧搾酵母1gにつき少なくとも40mlのCO2 産生量を有する、請求項1又は2記載の方法により得たパン酵母Saccharomyces cerevisiae菌株。
【請求項6】 緩徐栄養物供給バッチ方法で潜在的生育能、ドウ膨脹能、3〜9℃に冷蔵したマルトース培地で7日後圧搾酵母1gにつき30ml未満のCO2 産生量および少なくとも13℃の温度に保持したマルトース培地で6日後圧搾酵母1gにつき少なくとも60mlのCO2 産生量を有する、請求項3又は4記載の方法により得たパン酵母Saccharomyces cerevisiae菌株。
【請求項7】 Saccharomyces cerevisiae菌株NCIMB 40328、40329およひ40330から成る群から選択する、請求項5記載のパン酵母菌株。
【請求項8】 Saccharomyces cerevisiae菌株NCIMB 40331および40332から成る群から選択する、請求項6記載のパン酵母菌株。
【請求項9】 冷蔵貯蔵後オーブンでベーキングするベーカリ品の製造に請求項5〜8のいずれか1項に記載のパン酵母菌株の使用。
【請求項10】 冷蔵貯蔵する食品に温度誤用表示器として請求項5〜8のいずれか1項に記載のパン酵母菌株の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開平5−76348
【公開日】平成5年(1993)3月30日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−293293
【出願日】平成3年(1991)11月8日
【出願人】(590002013)ソシエテ デ プロデユイ ネツスル ソシエテ アノニム (31)