説明

ヒト胚性幹細胞の造血分化

【課題】ヒト胚性幹細胞からヒト造血細胞を作り出す方法を提供する。
【解決手段】血液系細胞を作り出すためにヒト胚性幹細胞を用いること、及び様々な用途のためのその血液系細胞の使用に関し、試験管内ヒト胚性幹細胞培養物を哺乳動物造血間質細胞に暴露してヒト造血細胞を作り出し、そのように作り出された該ヒト造血細胞の少なくとも一部がメチルセルロース培地内で赤芽球形成単位を作る段階を含むことを特徴とする方法。また、該細胞培養物の少なくとも一部の造血細胞がCD34+である方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液系細胞を作り出すためにヒト胚性幹細胞を用いること、及び様々な用途のためのその血液系細胞の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、ヒト胚性幹細胞の安定な培養物を分離する方法が我々の研究室により記載された。米国特許第5,843,780号及びJ. Thomsonら, 282 Science 1145-1147(1998)を参照されたい。これらの文献とその中に記載されている他の文献すべての開示内容は、本願明細書に含まれるものとする。
我々は、2種類のヒト胚性幹細胞系をアメリカン・タイプ・カルチュア・コレクション、10801ブルーバード大学、マナッサス、バージニア州20110-2209米国に1999年7月7日と1999年7月15日にそれぞれ寄託した。これらの寄託物の分類学に関する説明は、それぞれヒト胚性幹細胞系H1とH9である。そのような細胞系は、特に、研究、移植又は他の用途に指定された様々なタイプの細胞系の供給源を与えるために用いることができることがこれらの文献に提唱されている。
これらの文献に記載された貯蔵条件と培養条件下の細胞系は、特定の細胞型に分化せずに長期間維持されている。その後、細胞系を免疫不全マウスに注射した場合、奇形腫となり多重組織型に分化する。
【0003】
所望の細胞を与えるためにES細胞が用いられる場合、特定の細胞型に対して分化を最適化することはしばしば好ましいことである。造血細胞の場合には、そのことにより多重造血系列となるために分離され使用され得る造血細胞が得られることは望ましいことである。それらの細胞には、造血幹細胞が含まれてもよいがそれに限定されない。
造血幹細胞集団は、骨髄から直接分離されている。C. Baumら, 89 PNAS USA 2804-2808(1992)を参照されたい。しかしながら、これは、細胞を得る骨髄の供給に依存している。
マウス胚細胞集団を造血細胞に特定する試みがいくつかある。例えば、米国特許第5,914,268号; G. Keller, 7細胞生物学における現在の見解, 862-869(1995); 及びT. Nakanoら, 265 Science 1098-1101(1994)を参照されたい。また、M. Weiss, 11再生不良性貧血と幹細胞生物学, 1185-1195(1997); 及びS. Morrisonら, 11 Annu. Rev. Cell Dev. Biol., 35-71(1995)も参照されたい。
しかしながら、これらの教示を霊長類に適用するには、困難がある。例えば、F. Liら, 92 Blood 368a(1998)には、間質細胞系と外因性サイトカインを用いたアカゲザル胚性幹細胞系の分化の方法が論じられた。しかしながら、最近、その方法はコロニーの形成が不十分であったことがそのグループによって報告されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
様々な疾患の組織移植による治療は日常的になってきた。しかしながら、ぴったりの供与臓器、細胞、又は組織を得る順番待ち名簿があり得る。ぴったりの提供物質が利用できる場合でさえ、しばしば拒絶による問題がある。受容個体の免疫応答を抑制する従来の方法には欠点がある。例えば、免疫抑制剤は、費用がかかり、しばしば副作用がある。
国際出願第98/07841号には、選ばれた提供者とMHC適合する胚性幹細胞を誘導する方法が論じられている(例えば、供与核を除核卵母細胞に移植し、続いて幹細胞を誘導する)。この出願は、得られた細胞が骨髄移植を必要としている医療に用いられるMHC適合性造血幹細胞を得るために使用し得ることを示している。
しかしながら、1型糖尿病又は多発性硬化症のような疾患は、自己免疫応答を含んでいる。例えば、破壊した膵島を置き換えるために膵島(罹患した個体にMHC適合する)を単に移植すると、ホストの免疫系が移植した島になお作用するので、1型糖尿病が長期間まったく軽減しなくなる。
従って、ヒト胚性幹細胞培養物を所望の造血コロニーに分化させる方法が求められていることがわかる。更に、造血細胞のために改善された使用を開発することが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、ヒト造血細胞を得る方法を提供する。ヒト胚性幹細胞培養物を哺乳動物造血間質細胞に暴露してヒト造血細胞を作り出す。そのように作り出されるヒト造血細胞の少なくとも一部は、CD34+ である、及び/又はメチルセルロース培地(culture)内で造血細胞コロニー形成単位を作ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0006】
CD34は、C. Baumら, 89 PNAS USA 2804-2808(1992)及びS. Morrisonら, 11 Annu. Rev. Cell Dev. Biol., 35-71(1995) に記載されているように、造血幹細胞の標準マーカーである。コロニー形成単位を作る能力の性質は、該細胞が分化した造血系となる所望の特性をもつことを示している。
間質細胞は、好ましくは骨髄細胞又は胚卵黄嚢細胞から誘導される。マウス間質細胞は、このために用いることができる。しかしながら、霊長類の間質細胞又は他の哺乳動物の間質細胞も適していなければならない。
別の態様においては、本発明は、試験管内でヒト胚性幹細胞培養物から誘導され、かつメチルセルロース培養内で造血細胞コロニー形成単位となることができるヒト造血細胞を提供する。本出願に用いられる『誘導』という用語は、直接又は間接に(例えば、1つ以上の中間体又は継代によって)得られることを意味するものである。
【0007】
更に、本発明は、ヒト細胞物質をヒト受容ホストに移植する方法を提供する。胚性幹細胞培養物から試験管内で誘導されたヒト造血細胞を得るものである。次に、造血細胞に対して主要組織適合複合体適合性をもつ、造血細胞以外の選択ヒト非造血細胞物質を得るものである。次に、該造血細胞と該選択ヒト非造血細胞物質の両方をヒトホストに移植するものである。
例えば、胚性幹細胞培養物から試験管内で誘導されたヒト造血細胞を得ることができる(例えば、後述される手法を用いる)ものである。また、造血細胞にMHC適合性をもつヒト膵島を得るものである。次に、造血細胞と膵島の両方がヒトに移植される(好ましくは受容個体自体の骨髄を不活性化した後に)ものである。
膵島は、胚性幹細胞培養物を作り出すために細胞が用いられる提供者から直接得ることができる。また、単一の胚性幹細胞培養物は2種類の経路に沿って分化され得る。1つの過程においては、上記方法は造血幹細胞を作り出すために使用し得る。これらの細胞は、適切なホストに移植される場合に多重造血系列に発育しなければならない。これらの系列は、同じ親の胚性幹細胞から誘導された他の細胞に対して寛容であるリンパ球を含まなければならない。他の過程においては、幹細胞は膵島に対して向けられる。
【0008】
別の態様においては、多発性硬化症状をもつヒトに希突起膠細胞を供給し得るものである。胚性幹細胞培養物から試験管内で誘導されたヒト造血細胞を得るものである(例えば、後述される手法を用いて)。また、骨髄細胞に対してMHC適合性をもちかつ骨髄細胞と希突起膠細胞の両方をヒトに移植するヒト希突起膠細胞を得るものである。
遺伝物質を用いて胚性幹細胞を作り出したそのヒトは、希突起膠細胞の提供者であり得る。また、その胚性幹細胞培養物は、2つの別の経路に沿って分化されて2つの移植可能な物質を得ることができる。
いずれかの疾患(及び潜在的な他の自己免疫疾患)については、免疫及び自己免疫拒絶の問題は、本方法によって減少させなければならない。この点で、受容個体のはじめの骨髄は、移植前に放射線又は化学的手段によって全部又は部分的に不活性化し得る。その後、移植した造血細胞によって少なくとも部分的に置き換えられる。はじめの骨髄の除去/減少は、体内の自己免疫応答を作り出す能力を低下させる。置換骨髄と第2の移植可能物質のMHCの組合せは、第2物質が移植した骨髄によって拒絶されないことを保証する。
【0009】
更に、造血細胞と他の組織の同時移植は、第2組織の許容を促進させるために行われ得る(例えば、心疾患を治療するためには心筋細胞+造血細胞; 肝疾患を治療するためには肝細胞+造血細胞)。造血キメラを作ることにより、同様に適合したMHC型をもつ組織許容の改善を得ることができる。
本発明は、赤芽球細胞、顆粒球細胞、マクロファージ、リンパ球前駆細胞、単球、B細胞、T細胞等の問題の様々な造血細胞を得るのに適していなければならない。この点で、分化したES細胞のコロニーは、収集し、単一細胞に分離し、適切な培養にプレーティングした場合、造血コロニーに発育する。これらのコロニーは、コロニー形成単位(コロニー形成単位-赤芽球(CFU-E)、芽球形成単位-赤芽球(BFT-E)、コロニー形成単位-マクロファージ(CFU-M)、コロニー形成単位-顆粒球/マクロファージ(CFU-GM)又はコロニー形成単位-高増殖能を含む)に増殖するコロニー形成細胞の発育を示している。コロニー形成細胞を同定すると、胚性幹細胞が特定条件下で特定造血系列に増殖することができる造血細胞に分化することが示される。
従って、本発明の目的は、
(a)造血細胞を得る上記種類の方法;
(b)それらの方法を用いて誘導された細胞; 及び
(c)それらの誘導された細胞を移植、注入又は他の用途に用いる方法
を提供することを含んでいる。本発明のこれらの及び他の目的は、次の好適実施態様の説明から明らかになるであろう。しかしながら、本発明の完全な範囲を判断するためには特許請求の範囲を見なければならない。
【0010】
胚性幹細胞培養
大部分の実験に前述のヒトES細胞系H1を用いたが、次の実験の一部を前述のES細胞系H9(又はH9.2)を用いて同じ結果で行われた。最初の分離増殖細胞系から誘導された細胞の凍結(液体窒素)株からこれらの細胞を取り出した。H1 ES細胞を6ウェル培養皿(ヌンクロン(Nunclon)、フィッシャ)で増殖した。
その皿を、まず、0.1%ゼラチン液(シグマ)で1日以上37℃/5%CO2のインキュベータ内で被覆した。その1日以上後に、ゼラチン液を除去し、次に、プレートのウェルを照射マウス胚線維芽細胞(MEF)細胞で被覆した。MEF細胞は、10%ウシ胎児血清(ハイクローン(Hyclone)又はハーラン(Harlan))、2 mM l-グルタミン(ギブコBRL)、及び100単位/mlペニシリン、100mg/mlストレプトマイシン(シグマ)で補足したDMEM(ギブコBRL)からなる培地中で胎生12〜13日のマウス胚から誘導した。
MEF細胞を、ウェルにプレーティングする前にセシウム源からの5500 cGyで照射した。MEFを5×104細胞/ml、2.5 ml/ウェルの密度で添加した。次に、MEFで被覆したプレートを、ES細胞を添加するまで37℃/5%CO2のインキュベータに1日以上入れた。
ES細胞を新しいMEFで約5〜8日間隔で継代した。時間は、細胞密度と分化の形態学的外観に左右される。継代については、ES細胞のウェル内の培養液を取り出し、DMEM(ギブコBRL)中1 mg/mlのコラゲナーゼIVを含有する1〜2 mlの培養液を添加した。次に、ES細胞のコロニーが集まり始めるまで37℃/5%CO2に5〜20分間入れた。
【0011】
次に、ウェルを5 mlのピペットで削り、プレートからES細胞を剥離した。収集したウェルの内容物を15 mlの三角チューブ(フィッシャ)に入れ、1000 rpmで5分間遠心分離機で回転させた。培養液を除去し、10 mlの新しい培養液を添加した。このES細胞培養液は、20%血清置換培養液(ギブコBRL)、8 ng/mlのbFGF(ギブコBRL)、1%非必須アミノ酸溶液(ギブコBRL)、1 mM l-グルタミン(ギブコBRL)、及び0.1 M β-メルカプトエタノールで補足したF12/DMEMからなる。
細胞を再び回転(5分間/1000 rpm)させ、培養液を除去し、それぞれについて2.5 mlの培養液の濃度で再懸濁した(典型的には15 mlの培養液を6つの新しいウェルにプレーティングする、これにより1:6継代となる)。次に、上記のように予めMEFで被覆したプレートのウェルに細胞をピペットで加えた。細胞を各ウェルに一様に配分し、プレートを37℃/5%CO2のインキュベータに入れた。
細胞継代前に分化の形態学的外観を示すES細胞のコロニーがある場合には、吸込式ガラスピペットで弱く削ることによりコロニーを取り出した。これを解剖顕微鏡で観察しつつ行った。分化した細胞を除去した後、残っているコロニーを上記のように継代した。
継代後、各ウェルのES細胞に新鮮な培養液を24〜48時間間隔で『供給』した。ここで、各ウェルの培養液を除去し、2.5 mlの新鮮なES培養液を加えた。ES細胞の供給と継代はすべて無菌条件で行った。
【0012】
ES細胞の分化
ヒトES細胞の造血分化を促進させるために、ES細胞を上記のように収集した。次に、哺乳動物間質細胞で被覆した6ウェルプレートに細胞をプレーティングした。実験においては、我々は、2500 cGyで予め照射したC166細胞を用いた。C166は、マウスの卵黄嚢から胎生12日目に得られたものであり、Dr. Robert Auerbach(UW-マディソン)から恵与された。
他の実験においては、S17細胞を用いた。もともとマウス骨髄から得られたものであり、Dr. Kenneth Dorshkind(当時はUC-リバーサイド、現在はUCLA)から恵与された。
C166細胞又はS17細胞を1×105細胞/ml、2.5 ml/ウェルの濃度でプレーティングした。次に、S17細胞か又はC166細胞にプレーティングしたES細胞を20%ウシ胎児血清(ハイクローン)、1%非必須アミノ酸溶液、0.1 Mβ-メルカプトエタノール、及び1 mM l-グルタミンからなる培養液で補足したDMEM(ギブコBRL)からなる培養液中で増殖した。この培養液を各ウェルにおいて新鮮な培養液で24〜72時間間隔で置き換えた。適切な培養液を選択する際には、細胞発育に慣用的な条件を与えることが求められているだけであるが、指定された間質細胞で補足される。
S17細胞又はC166細胞にプレーティングした3〜7日後に、未分化ES細胞がMEF支持細胞に維持されたのと同じ均一な外観をもたないという点で分化されたように目に見え始めた。ES細胞のコロニーは、異なる多重細胞型となり始めた。これらのコロニーの一部は、初期造血前駆細胞のコロニーを示す敷石形態学をもつ細胞からなると思われる領域を有した。
【0013】
血液系細胞を確認する
適切な造血細胞の存在を求める方法は、半固体メチルセルロース含有培養液中で造血コロニー形成細胞(CFC)を分析することである。ここで、ES細胞を、上記のように維持された2〜3週間C166細胞か又はS17細胞上で分化させた。直後に培養液を除去した。2.5 mlのカルシウムとマグネシウムを含まないリン酸塩緩衝食塩水(PBS)を2〜5分間添加し、除去し、1.5 mlのトリプシン(b0.125%)-EDTA(1 mM)培養液を添加した。
次に、細胞を37℃/5%CO2に10分間置いた。直後に、コロニーは解離し始めた。細胞を、更に、ピペットで取りウェルを削ることにより解離した。細胞を15 mlの三角チューブに入れ、5分間/1000 rpm回転させ、培養液を除去し、10 mlの新鮮な培養液(DMEM+10%FBS+l-グルタミン+ペニシリン/ストレプトマイシン)を添加し、再び回転させた。次に、細胞を5 mlの培養液に懸濁し、100 mMナイテックスフィルタを通過させて細胞の凝塊を除去した。
フィルターを、更に5 mlの培養液で洗浄した。次に、解離/ろ過した細胞を血球計で計数し、1×106(通常は、多くのこの細胞とは限らない)細胞を新しい15 mlの三角チューブに入れた。次に、これらの細胞を回転させ、培養液を除去し、2%ウシ胎児血清(ハイクローン)で補足したIMDM(ギブコBRL)からなる5 mlの培養液を添加した。細胞を回転させ、培養液を除去し、250μlの培養液(IMDM+2%FBS)を添加した。
【0014】
指定された試験条件に従って、これらの細胞を2.5 mlのメソカルト(Methocult) GF+H4435培養液(ステムセルテクノロジーズ)に添加した。この培養液は、30%FBS、3単位/mlエリスロポエチン、20 ng/ml GM-CSF、20 ng/ml G-CSF、2 mM l-グルタミン、0.1 mM b-メルカプトエタノール、1%ウシ胎児血清アルブミンからなる。次に、メチルセルロース中の細胞を激しく撹拌し、1.1 mlのその混合液をP35プラスチック皿(ステムセルテクノロジーズ)上にプレーティングし、皿上に一様に伸展させ、37℃/5%CO2に置いた。
各試料の2回の実験のプレートを、典型的には4×105細胞/プレートでプレーティングした。14〜21日後、プレートについて造血コロニーの存在を顕微鏡下で分析した。コロニーをコロニーアトラス(ステムセルテクノロジーズ)又は書籍: 造血細胞の培養、RI Freshney, IB Pragnell, MG Freshney, eds., Wiley-Liss, Inc. 1994と比較することにより同定した。コロニーは、次の1種: コロニー形成単位-赤芽球(CFU-E)、芽形成単位-赤芽球(BFU-E)、コロニー形成単位-マクロファージ(CFU-M)、コロニー形成単位-顆粒球/マクロファージ(CFU-GM)又はコロニー形成単位-高増殖能(CFU-HPP)として同定された。
【0015】
所望の造血細胞の存在は、フローサイトメトリーで確認することができる。フローサイトメトリーにより指定された細胞表面抗原を探し得る。ここで、14〜21日間上記のようにS17細胞又はC166細胞で分化したES細胞を上記のようにトリプシン/EDTAで収集し、100 mMナイテックス(nytex)フィルターを通過させた。ろ過した細胞を血球計で計数し、次に15×75プラスチックチューブ(フィッシャ)に約1×105細胞/チューブで分注した。次に、細胞を回転させ、培養液を除去し、2〜3 mlのFACS培養液を添加した。(FACS培養液は0.5%BSA(シグマ)、0.1%アジ化ナトリウム(シグマ)を含むPBSである。)
細胞を再び回転させ、培養液を除去した。次に、蛍光マーカー(FITC又はPE)に直接結合した抗体を供給業者が奨める濃度でウェルに添加した。細胞を次の抗体: CD34-FITC(イムノテック(Immunotech))、CD45-PE(ファルミンゲン(Pharmingen))で分析した。IgG1-FITC及びIgG1-PEを細胞の非特異的染色のイソタイプの対照として用いた。細胞を、氷上で約30分間適切な抗体とインキュベートし、2〜3 mlのFACS培養液で1〜2回洗浄し、約0.5 mlのFACS培養液に再懸濁した。
次に、抗体標識細胞を製造業者の推奨のとおりFACScan(ベクトンディッキソン)を用いて分析した。死んだ細胞の存在は、ヨウ化プロピジウム(1 mg/ml溶液、5μl/チューブを添加した)又は7-AAD(カルビオケム)(0.2 mg/ml、5μl/チューブ)を添加することにより求めた。分析のソフトウェアは、PC Lysisか又はCellquestとした。
【0016】
次の実験法を用いて免疫組織化学(IHC)により抗原発現を分析した。ここで、C166か又はS17と共存培養した分化したES細胞を、上記のようにトリプシン/EDTAで収集した。細胞を、10%FBSで補足したDMEM含有培養液に約1×104〜1×105の濃度で再懸濁した。次に、これらの細胞の『サイトスピン』標品を、1×103〜1×104細胞をガラススライド(スーパーフロスト/プラス、フィッシャ)上でサイトスピンII遠心機(シャンドン)により回転させることにより作った。
次に、これらのスライドを冷アセトンで固定し、-20℃で凍結貯蔵した。IHC染色については、スライドを室温で解凍し、細胞沈降物をワックスペン(DAKO)で示した。次に、細胞をベクタステインABCキット(ベクターラボラトリーズ、カリフォルニア州バーリンガム)を用いて次のように染色した。インキュベーションはすべて室温でした。細胞に100〜200μlのPBSを5分間添加し、次に除去した。次に、細胞にベクタステイン阻止抗体溶液(ウマ血清)を15分間添加した。次に、細胞を乾燥ブロットし、100〜200μlの一次抗体溶液を添加した。一次抗体は、IgG1(1μg/試料、シグマ)、抗CD34(0.5μg/試料、イムノテック)、抗CD45(1μg/試料、DAKO)、抗クラスI(1μg/試料、Dr. Paul Leibson、メイヨー(Mayo)クリニックからの贈与)、抗CD14(1μg/試料、ファーミンジェン)、抗CD31(1μg/試料、ファーミンジェン)とした。
【0017】
一次抗体を30分間添加し、次にPBSを10分間添加した。次に、ビオチニル化抗IgG抗体(ベクタステインキット、溶液B)を30分間添加し、続いてPBSを10分間添加した。次に、ベクタステインABC溶液を室温で30分間添加し、続いてPBSを10分間添加した。次に、DAB溶液(ベクタステイン)を5分間添加し、続いて水道の流水で10分間洗浄した。実験においては、次にスライドをギルのヘマトキシリン溶液(ベクターラブ)で3分間対比染色し、続いて水道の流水で10分間洗浄する。次に、スライドを風乾した。正に染色する細胞は、褐色になる。
2〜3週間後に細胞の混合集団の中にCE34+ が示された(約1%)。更に重要なことに、分化したES細胞は、収集し、細胞に分離し、メチルセルロース(半固体)培養にプレーティングした場合、造血コロニーに発育することがわかった。
【0018】
移植
現在、造血細胞移植は、臨床的には主に悪性を治療するために高用量化学療法を受けた患者に行われる。これらの患者は、典型的には、オートロガスか又は同種異系供給源からの造血細胞の不均一混合物を受ける。ヒトES誘導造血幹細胞は、最低でも造血細胞移植に均一な細胞集団を与える。
更に、上記のように、移植のMHC特性を現在は制御することができ、自己免疫疾患の治療が可能である。例えば、造血幹細胞(HSC)と第2系列(例えば、糖尿病の膵島又は多発性硬化症の希突起膠細胞)の両方を同じ親のES細胞系から誘導することができる。利用できる両系列においては、まず、完全な同種異系造血細胞移植(HCT)を行うことにより造血キメラを作ることができる。樹立したキメリズム状態により、受容個体の免疫系が後続の第2細胞型(例えば、膵島細胞又は希突起膠細胞)の移植体を『自己』として『見る』ことができ、拒絶しないに違いない。
例えば、希突起膠細胞がマウスES細胞(O. Brustleら, 285 Science 754-6(1999))から心筋細胞(M. Klugら, 98 J. Clin. Invest. 216-224(1996))をもつように得られていることに留意されたい。
【0019】
造血キメラを作る本方法は、自己免疫以外の理由で移植した組織の受容を促進する。この点で、同種異系造血幹細胞を受け入れるマウスは、造血細胞と遺伝的背景が同じ他の組織を拒絶しないが、第三者の移植片は拒絶する。K. Gandyら, 65移植295-304(1998)を参照されたい。
動物実験のほかに、造血細胞移植体を予め受け入れた後に固体臓器(腎臓)移植体を必要とするヒト患者の臨床例が現在は報告されている。これらの場合、骨髄移植体を予め供給した同じ人からの腎臓移植体は免疫抑制せずに免疫学的に受容されている。T. Spitzerら, 68移植480-484(1999) を参照されたい。
イヌモデル、最近ではヒト臨床試験における研究から、緩和な非骨髄切除条件方式を用いてホストを同種異系HCTに良好に準備し得ることがわかった。ここで、同種異系HCTを受け入れる前に中程度線量のみの全身照射と短い過程の免疫抑制を用いてホストを準備する。
好適実施態様を上で記載してきたが、他の変更が本発明の範囲内で行われ得ることは当業者によって理解されるであろう。例えば、2つの特定の間質型細胞が使用に選ばれたが、他の多くのものも適している。例えば、公に利用できる間質細胞系は、ATCC指定No. CRL-1972をもつM2-10B4細胞系である。
更に、上記説明は、赤血球と骨髄の前駆体の作出に集中しているが、問題の他の様々な血液系細胞を上記手法を用いて多量に得ることができる。米国特許第5,914,268号も参照されたい。従って、本発明の完全な範囲を判断するためには特許請求の範囲を見なければならない。
【0020】
産業上の利用性
本発明は、移植、研究又は他の用途に用いられる血液系細胞を提供する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト造血細胞を得る方法であって、ヒト胚性幹細胞培養物を哺乳動物造血間質細胞に暴露してヒト造血細胞を作り出す段階を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
そのように作り出された該ヒト造血細胞の少なくとも一部がCD34+ である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
そのように作り出された該ヒト造血細胞の少なくとも一部がメチルセルロース培地内で造血細胞コロニー形成単位を作る、請求項1記載の方法。
【請求項4】
該間質細胞が骨髄細胞及び胚卵黄細胞からなる群より選ばれる、請求項1記載の方法。
【請求項5】
ヒト造血細胞を得る方法であって、試験管内ヒト胚性幹細胞培養物を哺乳動物造血間質細胞に暴露してヒト造血細胞を作り出し、そのように作り出された該ヒト造血細胞の少なくとも一部がメチルセルロース培地内で赤芽球形成単位を作る段階を含むことを特徴とする方法。
【請求項6】
該細胞培養物の少なくとも一部の造血細胞がCD34+ である、請求項5記載の方法。

【公開番号】特開2010−42011(P2010−42011A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−229464(P2009−229464)
【出願日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【分割の表示】特願2001−537473(P2001−537473)の分割
【原出願日】平成12年8月25日(2000.8.25)
【出願人】(500056873)ウイスコンシン アラムニ リサーチ ファンデーション (8)
【Fターム(参考)】