説明

ヒドロキシアパタイトシリカ複合多孔質体吸着剤およびその製造方法

【課題】重金属や蛋白質に対して高い吸着性を有し、かつ複合多孔質体が水に溶解し難く優れた耐水性と透水性を有するヒドロキシアパタイトシリカ複合多孔質体からなる吸着剤およびその製造方法を提供する。
【解決手段】珪酸カルシウム化合物にリン酸を反応させて、カルシウム分を結晶質ヒドロキシアパタイトに転化させると共に、シリカ分を多孔質シリカに転化してなる結晶質ヒドロキシアパタイトと多孔質シリカとの複合体からなることを特徴とするヒドロキシアパタイトシリカ複合多孔質体吸着剤、およびその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒドロキシアパタイトシリカ複合多孔質体からなる吸着剤であって、例えば重金属や蛋白質に対して高い吸着性を有し、かつ複合多孔質体が水に溶解し難く優れた耐水性と透水性を有する吸着剤とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒドロキシアパタイト〔Ca10(PO4)6(OH)2〕はそのカルシウムイオンとの置換により、例えばカドミウムや水銀あるいは鉛などの有害重金属に対して吸着能を持つことはよく知られている(非特許文献1)。しかし、ヒドロキシアパタイトは結晶性が高いとそのカルシウムイオンの溶出が効率的でなく、重金属に対する吸着能を十分に活かし得ないという問題もあった。
【0003】
このような欠点を改善したものとして、多数の細孔を有する多孔質基材にヒドロキシアパタイトを含有させて吸着表面積を増加させ、また非晶質のヒドロキシアパタイトを用いることによってカルシウムイオンの溶出を促し、重金属に対する吸着能を高めようとしたものがある(特許文献1参照)。なお、結晶質アパタイトよりも非晶質アパタイトのほうがカドミウムイオンの取り込み量が多いことが従来から報告されている(非特許文献2)。
【0004】
しかし、この吸着剤を浄水器などに用いる場合、水に対して吸着剤の溶解度が高いと多量の水を処理する間に吸着剤が溶解して消失すると云う問題が生じる。例えば、ヒドロキシアパタイトの水に対する溶解度が10mg/lの場合、水を10m3処理する間に100gの吸着剤は溶解してしまい、実用に適さない。このように、実用に適う吸着剤としては重金属に対する吸着能が高いだけでなく、水に対する溶解度が低いことが要求される。一般に非晶質のものは結晶質のものに比べて溶解度が高いので、非晶質ヒドロキシアパタイトは不都合である。
【0005】
次に、ヒドロキシアパタイト系重金属吸着剤を安価に製造する方法として、発泡気泡コンクリート等の廃材をリン酸水溶液中に浸潰し、珪酸カルシウムとリン酸を反応させる方法が提案されている(特許文献2)。しかし、この方法では、コンクリート廃材などの珪酸カルシウム系の基材表面しかアパタイト化されないので、重金属イオンの交換容量が低く、またヒドロシキアパタイトの結晶性が劣るため、水に対する溶解度も高いと云う問題がある。さらに、コンクリート廃材を粉砕して用いると、これをリン酸に浸漬したときに、珪酸カルシウムが分解して微細なシリカが遊離するので、生成したスラリーの濾過性および沈降性が非常に劣るものになり、製造上の問題があるばかりではなく、透水性が劣るので水処理用吸着剤として適しない。
【0006】
このように、従来のヒドロキシアパタイト系吸着剤は吸着性と耐水性、ならびに透水性を同時に満足させるものがなかった。
【非特許文献1】「石膏と石灰」No.204、58頁、1986年刊
【非特許文献2】「医器材研報」Vol.18、154頁、1974年刊
【特許文献1】特許3091126号公報
【特許文献2】特許3116507号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、従来のヒドロキシアパタイト系吸着剤における上記問題を解決したものであり、高い吸着性を有し、かつ優れた耐水性と透水性を有するヒドロキシアパタイトシリカ複合多孔質体からなる吸着剤とその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下に示す構成によって上記課題を解決したヒドロキシアパタイトシリカ複合体多孔質吸着剤とその製造方法に関する。
(1)結晶質ヒドロキシアパタイトと多孔質シリカとの複合体からなることを特徴とするヒドロキシアパタイトシリカ複合多孔質体吸着剤。
(2)ヒドロキシアパタイトとシリカの複合体からなり、全細孔容積0.5ml/g以上の多孔質体であり、リン溶解度が3.5ppm以下の低溶解性であることを特徴とするヒドロキシアパタイトシリカ複合多孔質体吸着剤。
(3)透水率が1〜100×10-4cm/sである上記(1)または上記(2)に記載するヒドロキシアパタイトシリカ複合多孔質体吸着剤。
(4) 平均粒径10〜60μmであって、BET比表面積100m2/g以上である上記(1)〜上記(3)の何れかに記載するヒドロキシアパタイトシリカ複合多孔質体吸着剤。
(5)ヒドロキシアパタイトのカルシウムとリンのモル比(Ca/P)が1.9未満である上記(1)〜上記(4)の何れかに記載するヒドロキシアパタイトシリカ複合多孔質体吸着剤。
(6)カルシウムとシリカのモル比(Ca/Si)が0.1〜0.8である珪酸カルシウム化合物を原料とする上記(1)〜上記(5)の何れかに記載するヒドロキシアパタイトシリカ複合多孔質体吸着剤。
(7)珪酸カルシウム化合物にリン酸を反応させて、カルシウム分を結晶質ヒドロキシアパタイトに転化させると共に、シリカ分を多孔質シリカに転化させることを特徴とするヒドロキシアパタイトシリカ複合多孔質体の製造方法。
(8)珪酸カルシウム化合物に、PH7.0以上になるようにリン酸を徐々に添加し反応させて結晶質ヒドロキシアパタイトと多孔質シリカの複合体を製造する上記(7)に記載する製造方法。
(9)珪酸カルシウム化合物にまず酸を反応させて珪酸カルシウム化合物のカルシウムを部分的に溶解除去し、次いでリン酸を反応させて結晶質ヒドロキシアパタイトを生成させてヒドロキシアパタイトシリカ複合多孔質体を製造する上記(7)または上記(8)に記載する製造方法。
(10)珪酸カルシウムスラリーにリン酸を添加し、このときカルシウムとリンのモル比(Ca/P)が1.9未満になるリン酸量とし、スラリーを撹拌しながらリン酸を徐々に添加して反応させ、ヒドロキシアパタイトシリカ複合多孔質体を製造する上記(7)〜上記(9)の何れかに記載する製造方法。
(11)珪酸カルシウム化合物を温水に浸漬し、加温下でリン酸を添加し、このときカルシウムとリンのモル比(Ca/P)が1.9未満になるリン酸量とし、温水を撹拌しながらリン酸を徐々に添加して反応させ、ヒドロキシアパタイトシリカ複合多孔質体を製造する上記(7)〜上記(9)の何れかに記載する製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の吸着剤は、結晶質ヒドロキシアパタイトと多孔質シリカとの複合体からなるヒドロキシアパタイトシリカ複合多孔質体吸着剤であるので、非晶質ヒドロキシアパタイトに比べて水に対して溶解し難く、耐水性に優れる。また、高多孔質体であって透水性が良いので、優れた吸着性を有する。
【0010】
本発明の吸着剤は、好ましくは、例えば、全細孔容積0.5ml/g以上の多孔質体であるので優れた吸着性を有し、かつリン溶解度が3.5ppm以下の低溶解性であるので耐水性に優れている。また、本発明の吸着剤は、例えば、平均粒径10〜60μmの適度な粒子径を有しながらBET比表面積100m2/g以上の大きな比表面積を有するので、優れた吸着性と共に高い透水性を有しており、具体的には例えば、透水率が1〜100×10-4cm/sであるので目詰りを生じ難く、長時間安定に使用することができる。
【0011】
また、本発明のヒドロキシアパタイトシリカ複合体は多孔質であるので、水との接触面積が大きく、吸着速度が非常に速く、重金属除去用水処理剤として用いた場合、回分方式では処理時間を短くすることができ、カラム方式ではSV(空塔速度)を上げることができる。具体的には、本発明における多孔質複合体の吸着速度は、従来のヒドロキシアパタイト等に比べると、飽和吸着量までに達する時間が非常に短く、20分程度で一定値に達する。また、重金属だけでなく、蛋白質の吸着量も従来のヒドロキシアパタイトに比べて数倍程度高い値を示す。
【0012】
さらに、本発明のヒドロキシアパタイトシリカ複合体は多孔質体であるので、上記平均粒径の範囲でありながらBET比表面積100m2/g以上の大きな比表面積を有することができ、従って、長時間、目詰りを生じることなく、高い吸着性能を維持することができる。
【0013】
本発明のヒドロキシアパタイトシリカ複合多孔質体は、珪酸カルシウム化合物にリン酸を反応させて、カルシウム分を結晶質ヒドロキシアパタイトに転化させると共に、シリカ分を多孔質シリカに転化させることによって製造することができる。この製造方法によれば、結晶性が高い多孔質のヒドロキシアパタイトシリカ複合体を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明について最良の実施形態と共に具体的に説明する。
本発明の吸着剤は、結晶質ヒドロキシアパタイトと多孔質シリカとの複合体からなることを特徴とするヒドロキシアパタイトシリカ複合多孔質体吸着剤である。
本発明の吸着剤は、結晶質ヒドロキシアパタイトによる複合体であるので、水に対して溶解性が低く、例えば、リン溶解度が3.5ppm以下、好ましくは1.0ppm以下であるので、耐水性に優れている。
【0015】
本発明のヒドロキシアパタイトシリカ複合体は孔質シリカとの複合体であり、例えば、全細孔容積0.5ml/g以上の多孔質体である。また、本発明のヒドロキシアパタイトシリカ複合体は、例えば、平均粒径10〜60μmの適度な粒子径を有し、透水率1〜100×10-4cm/s、好ましくは15×10-4cm/sの透水率を有するものが好ましい。本発明のヒドロキシアパタイトシリカ複合体は多孔質体であるので、上記平均粒径の範囲でありながらBET比表面積100m2/g以上の大きな比表面積を有することができる。
【0016】
本発明のヒドロキシアパタイトシリカ複合多孔質体は、珪酸カルシウム化合物にリン酸を反応させて、カルシウム分を結晶質ヒドロキシアパタイトに転化させると共にシリカ分を多孔質シリカとして析出させることによって製造することができる。
【0017】
従来の製造方法は、主に多孔質シリカ等の多孔質材料にヒドロキシアパタイトを含浸させ、または析出させる方法であるが、このような従来方法では、基材の表面がヒドロシキアパタイトによって覆われるため、基材が多孔質でもヒドロシキアパタイトの析出によってその多孔性が損なわれてしまう。
【0018】
一方、本発明の製造方法では、ヒドロキシアパタイトの生成と共に多孔質なシリカが生成するので、多孔性を損なうことなく、ヒドロキシアパタイトと多孔質シリカとの複合体が形成される。また、珪酸カルシウム化合物とリン酸との反応方法を工夫することにより、珪酸カルシウム化合物の酸分解により生じる多孔質シリカを、もとの珪酸カルシウム化合物粒子から遊離させず、その粒子表面にヒドロキシアパタイトと同時に析出させることによって、良好な濾過過性、沈降性、透水性を有する複合多孔質体を得ることができる。さらに、本発明の製造方法によって生成するヒドロキシアパタイトは結晶性が良いため、水に対する溶解牲も低いという利点を有する。
【0019】
以下、本発明の製造方法を具体的に説明する。
本発明のヒドロキシアパタイトシリカ複合体の基材となる珪酸カルシウムは、珪酸原料と石灰原料とを水性スラリーとしたものを、例えばオートクレーブ中において水熱反応を行なって合成した一般的によく知られているものを好適に用いることができる。その種類としては、珪酸カルシウム化合物であれば特に限定されず、例えば、トバモライト、ジャイロライト、ゾノトライトなどの結晶質珪酸カルシウム、あるいは非晶質珪酸カルシウムなど何れの珪酸カルシウムを用いることができる。これらは単独で用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いても良い。また、これらの珪酸カルシウム化合物は粉体の状態だけではなく、これらの珪酸カルシウム化合物を適当な方法で成型した板状物あるいは塊状物を用いることができる。
【0020】
本発明のヒドロキシアパタイトシリカ複合体の基材となる珪酸カルシウムは、カルシウムとシリカのモル比(Ca/Si)が0.1〜0.8であるものが好ましく、0.4前後のモル比であるものがより好ましい。カルシウムとシリカのモル比(Ca/Si)が上記範囲であるものは、図4に示すように、丸味を帯びた粒子形になり、透水性の良い多孔質複合体を得ることができる。
【0021】
次に珪酸カルシウム化合物のヒドロシキアパタイト化を行う。これは水熱反応により生成した珪酸カルシウム化合物のスラリーあるいは成型品を浸漬した水性溶液に、リン酸を添加することによって行うことができる。この場合のリン酸濃度は2〜50%、好ましくは5〜40%の範囲がよい。リン酸濃度が2%未満では処理すべき液の量が増大して不都合であり、50%より高い場合は、局部的な液のpHの低下によって微細なヒドロシキアパタイトやシリカ粒子が発生しやすくなるので不都合である。リン酸の替わりに、リン酸アンモニウムやリン酸ナトリウムのような水溶性リン酸塩を用いることもできる。
【0022】
リン酸の添加量は、珪酸カルシウム化合物中のカルシウムと添加するリン酸のモル比(Ca/P)が1.9未満になるように定めることが望ましい。このモル比が1.9以上であると、重金属の吸着能力が低下するだけでなく、透水性も低下する。一方、このモル比が低い場合は、吸着剤のリンの溶解度が上がる傾向を示すので、工業的にみてCa/Pモル比1.3以上が推奨される。
【0023】
リン酸の添加に際しては、珪酸カルシウム化合物の分解に見合った速度で徐々にリン酸を加えていくことが肝要である。リン酸液に珪酸カルシウムを浸漬する方法、あるいは珪酸カルシウムのスラリーにリン酸を添加していく方法においても添加速度が速すぎる場合には、液のpHが急激に下がるため、珪酸カルシウム化合物の粒子形状が崩れ、微細なヒドロシキアパタイトやシリカ粒子が発生し、透水性が劣化する。反応中の溶液のpHが7.0以上、好ましくは8.0以上を維持するようにリン酸を添加することによって結晶性の良いヒドロシキアパタイトが生成し、かつ透水性に優れた複合多孔質体を得ることができる。
【0024】
上記反応において、液温を40〜100℃の範囲で上げ、また液を攪拌して反応速度を促進することができる。ヒドロシキアパタイト化の反応時間は、原料の種類や粒度、粉体であるか成型体かなどによって異なり、一概に定めることはできないが、通常は0.5〜12時間程度で十分である.
【0025】
珪酸カルシウム化合物にリン酸を反応させることによって、ヒドロシキアパタイトと多孔質シリカとの複合体を得ることができるが、この複合体の多孔質度をさらに上げたい場合には、リン酸の添加に先立ち、珪酸カルシウム化合物にリン酸以外の酸を予め作用させ、カルシウム分を酸処理によって除去することによって、細孔容積の高い複合体を得ることができる。
【0026】
珪酸カルシウム化合物のカルシウム分をあらかじめ部分的に除去しておくと、多孔質シリカの割合が高くなり、多孔質度の高い複合体が得られるので、この複合体を例えば蛋白質の吸着剤などに用いる場合には吸着量を高めることができる。珪酸カルシウムの大部分のカルシウムを予め除去することによって、表層のみがヒドロシキアパタイトで覆われた多孔質シリカを得ることもできる。
【0027】
カルシウム分を予め除去する際に用いる酸としては塩酸、硝酸等の無機酸、酢酸などの有機酸が用いられ、また二酸化炭素を吹き込む方法でもよい。さらに酸処理の替わりに酸性陽イオン交換樹脂も用いることもできる。
【0028】
カルシウム分を予め除去するための酸の添加も、先に述べたように珪酸カルシウム化合物からカルシウムが溶出する速度に見合った速度、具体的にはpH5.0以上を保持する速度で徐々に酸を加えていくことが好ましい。pH5.0を下回ると、微細なシリカ粒子が発生し、濾過処理に時間がかかるようになるので好ましくない。なお、液温を40〜100℃の範囲で上げたり、液を攪拌することによって反応速度を促進することができる。カルシウム除去の反応時間は、原料の種類や粒度、粉体であるか成型体かなどによって異なり、一概に定めることはできないが、通常は0.5〜3時間程度で十分である。
【0029】
反応後、このスラリーまたは成型体を固液分離し、水洗した後、再び水性スラリーあるいは水に浸漬してリン酸を添加し、ヒドロキシアパタイト化を行なうと良い。このようにして得たヒドロキシアパタイトシリカ複合多孔質体は、濾過あるいは遠心分離等の公知の手段によって固液分離した後に乾燥処理して吸着剤として使用することができる。
【実施例】
【0030】
以下に本発明の実施例を比較例と共に示す。なお、製造した複合多孔質体の物性は以下に示す方法によって測定した。
(1)BET比表面積、全細孔容積及び平均細孔径
BET比表面積測定装置を用い、250℃で十分に加熱脱気した試料について、窒素ガスを吸着させる多点法による比表面積、全細孔容積及び平均細孔径を求めた。
(2)重金属の吸着
Pbイオン濃度75ppmに調製した硝酸鉛水溶液100mlに対し、試料0.05gを添加し、180rpmの回転数のシェーカーで一定時間振盪を行なった後に濾過して濾液中のPbを原子吸光分析装置で分析した。このPb濃度を各実施例および各比較例について図1および図2に示した。
【0031】
(3)透水性
JISA・1218(土の透水試験方法)によって透水性を測定した。
(4)溶解度
脱イオン水100mlに対し、試料0.05gを添加し、25℃の温度条件で180rpmの回転数のシェ−カーで20時間振盪を行なった後、濾過して濾液中のCaを原子吸光分析装置で分析し、Pを比色法で分析して溶解度を求めた。
(5)チトクロームCの吸着率(蛋白質吸着量)
pH7に調製した500ppmのチトクロームC水溶液100mlに対し、試料0.3gを添加し、30℃の恒温インキュベータで1時間振盪後、5Bの濾紙で濾過して、濾液中のチトクロームCの残量を分光光度計で吸光度(波長410nm)の測定を行ない、初期濃度との差から吸着率を求めた。
【0032】
〔実施例1〕
非晶質の珪酸原料(平均粒径20μm)500gと消石灰257g(Ca/Siモル比0.4)を、水中固形分比10相当分の水を加え、オートクレーブ中で攪拌しながら180℃、4時間水熱反応を行なった。生成した非晶質珪酸カルシウムスラリーを予め70℃に加熱して、非晶質珪酸カルシウムのカルシウム分に対してCa/Pモル比1.67に相当するリン酸を、スラリーを攪拌しつつ1時間かけて添加した.添加後、1時間攪拌し、スラリーを濾過、乾燥してヒドロキシアパタイトシリカ複合多孔質体を得た。このBET比表面積、細孔容積、平均細孔径、重金属吸着性、透水率、水に対する溶解度、および蛋白質(チトクロームC)吸着率を表1に示し、X線回折の結果を図3に示し、走査型電子顕徹鏡写真を図4に示した。図3によれば、ヒドロキシアパタイトのピークが観察され、結晶質であることが確認された。一方、シリカについては結晶性を示すピークは観察されず、非晶質であることが確認された。
【0033】
〔実施例2〕
非晶質の珪酸原料(平均粒径20μm)500gと消石灰635g(Ca/Siモル比1.0)を、水−固形分比10相当分の水を加え、オートクレーブ中で攪拌しながら180℃、4時間水熱反応を行なった.生成した非晶質珪酸カルシウムスラリーを予め70℃に加熱して、非晶質珪酸カルシウムのカルシウム分に対してCa/Pモル比1.67に相当するリン酸を、スラリーを攪拌しつつ1時間かけて添加した。添加後、1時間攪拌し、スラリーを濾過、乾燥して多孔性ヒドロキシアパタイトシリカ複合吸着剤を得た.この物性値を表1に示す。
【0034】
〔実施例3〕
非晶質の珪酸原料(平均粒径20μm)500gと消石灰1270g(Ca/Siモル比2.0)を、水−固形分比10相当分の水を加え、オートクレーブ中で攪拌しながら180℃、4時間水熱反応を行なった。生成した非晶質珪酸カルシウムスラリーを予め70℃に加熱して、非晶質珪酸カルシウムのカルシウム分に対してCa/Pモル比1.67に相当するリン酸を、スラリーを攪拌しつつ1時間かけて添加した。添加後、1時間撹拌し、スラリーを濾過、乾燥してヒドロキシアパタイトシリカ複合多孔質体を得た。この物性値を表1に示す。
【0035】
〔実施例4〕
実施例3と同様の水熱反応を行なって得た非晶質珪酸カルシウムスラリーについて、非晶質珪酸カルシウムのカルシウム分に対して、Ca/HClモル比1.5に相当す塩酸を添加して、非晶質珪酸カルシウムのカルシウムの3/4を脱カルシウムしたスラリーを得た。これを濾過、水洗後、ケーキに適量の水を加えて再びスラリーとし、残ったカルシウムに対してCa/Pモル比1.67に相当するリン酸を、スラリーを攪拌しつつ1時間かけて添加した。添加後、1時間攪拌し、スラリーを濾過、乾燥してヒドロキシアパタイトシリカ複合多孔質体を得た。この物性値を表1に示す。
【0036】
〔実施例5〕
非晶質の珪酸原料(平均粒径20μm)500gと消石灰257g(Ca/Siモル比0.4)を、水中固形分比10相当分の水を加え、オートクレーブ中で攪拌しながら180℃、4時間水熱反応を行なった。生成した非晶質珪酸カルシウムスラリーを予め70℃に加熱して、非晶質珪酸カルシウムのカルシウム分に対してCa/Pモル比1.30に相当するリン酸を、スラリーを攪拌しつつ1時間かけて添加した。添加後、1時間攪拌し、スラリーを濾過、乾燥してヒドロキシキシアパタイトシリカ複合多孔質体を得た。この物性値を表1に示す。
【0037】
〔実施例6〕
非晶質の珪酸原料(平均粒径20μm)500gと消石灰257g(Ca/Siモル比0.4)を、水一固形分比10相当分の水を加え、オートクレーブ中で攪拌しながら180℃、4時間水熱反応を行なった。生成した非晶質珪酸カルシウムスラリーを予め70℃に加熱して、非晶質珪酸カルシウムのカルシウム分に対してCa/Pモル比1.50に相当するリン酸を、スラリーを攪拌しつつ1時間かけて添加した.添加後、1時間攪拌し、スラリーを濾過、乾燥してヒドロキシアパタイトシリカ複合多孔質体を得た。この物性値を表1に示す。
【0038】
〔実施例7〕
結晶質の珪酸原料(平均粒径10μm)500gと消石灰498g(Ca/Siモル比0.8)を、水−固形分比10相当分の水を加え、オートクレーブ中で攪拌しながら180℃、8時間水熱反応を行なった。生成した非晶質珪酸カルシウムスラリーを予め70℃に加熱して、非晶質珪酸カルシウムのカルシウム分に対してCa/Pモル比1.67に相当するリン酸を、スラリーを攪拌しつつ1時間かけて添加した.添加後、1時間攪拌し、スラリーを濾過、乾燥してヒドロキシアパタイトシリカ複合多孔質体を得た。この物性値を表1に示す。
【0039】
〔実施例8〕
実施例7と同様の水熱反応を行なって得た非晶質珪酸カルシウムスラリーについて、非晶質珪酸カルシウムのカルシウム分に対して、Ca/HClモル比1.0に相当する塩酸を添加して、非晶質珪酸カルシウムの半量を脱カルシウムしたスラリーを得た。これを濾過・水洗後、適量の水を加えてスラリーとし、残ったカルシウムに対してCa/Pモル比1.67に相当するリン酸を、スラリーを70℃に加温・攪拌しつつ1時間かけて添加した。添加後、1時間攪拌し、スラリーを濾過、乾燥してヒドロキシアパタイトシリカ複合多孔質体を得た。この物性値を表1に示す。
【0040】
〔実施例9〕
非晶質の珪酸原料(平均粒径20μm)シリカ500gと消石灰508g(Ca/Siモル比0.8)を、水−固形分比20相当分の水を加え、オートクレーブ中で220℃、20時間水熱反応を行なった。生成したトバモライトスラリーを予め70℃に加熱して、トバモライトのカルシウム分に対してCa/Pモル比1.67に相当するリン酸を、スラリーを攪拌しつつ1時間かけて添加した。添加後、1時間攪拌し、スラリーを濾過、乾燥して多孔性ヒドロキシアパタイトシリカ複合吸着剤を得た。この物性値を表1に示す。
【0041】
〔実施例10〕
耐火被覆建材用ゾノトライト成型板(150×100×25mm、嵩密度0.25g/cm3)を60℃に加温した温水に浸現し、ゾノトライトのカルシウム分に対してCa/Pモル比1.67に相当するリン酸を、緩やかに液を攪拌しつつ6時間かけて添加した。添加後、12時間浸漬養生した後、成型板を乾燥してヒドロキシアパタイトシリカ複合多孔質体からなる成形板を得た。この物性値を表1に示す。
【0042】
〔比較例1〕
非晶質の珪酸原料(平均粒径20μm)500gと消石灰257g(Ca/Siモル比0.4)を、水−固形分比10相当分の水を加え、オートクレーブ中で攪拌しながら180℃、4時間水熱反応を行なった。生成した非晶質珪酸カルシウムスラリーを予め70℃に加熱して、非晶質珪酸カルシウムのカルシウム分に対してCa/Pモル比1.90に相当するリン酸を、スラリーを攪拌しつつ1時間かけて添加した。添加後、1時間攪拌し、スラリーを濾過、乾燥してヒドロキシアパタイトシリカ複合多孔質体を得た。この物性値を表1に示す。
【0043】
〔比較例2〕
非晶質の珪酸原料(平均粒径20μm)500gと消石灰257g(Ca/Siモル比0.4)を、水−固形分比10相当分の水を加え、オートクレーブ中で攪拌しながら180℃、4時間水熱反応を行なった。生成した非晶質珪酸カルシウムスラリーを予め70℃に加熱して、非晶質珪酸カルシウムのカルシウム分に対してCa/Pモル比1.67に相当するリン酸を、スラリーを攪拌しつつ2分間で添加した。添加後、1時間攪拌し、スラリーを濾過、乾燥してヒドロキシアパタイトシリカ複合多孔質体を得た。この物性値を表1に示す。
【0044】
〔比較例3〕
発泡軽量コンクリートの廃材を粒径0.5〜2mmに粉砕し、この粉砕物中のカルシウムに対してCa/Pモル比1.67に相当するリン酸(20%)中に粉砕物を浸漬し、その後60℃にて15時間水中養生して、表面をヒドロキシアパタイト化したヒドロキシアパタイトシリカ複合多孔質体を得た。このものの物性値を表1に示す。
【0045】
〔比較例4〜6〕
比較のため、市販のクロマト用ヒドロキシアパタイト(比較例4〜6)について実施例と同様の測定値を表1に示した。
【0046】
図1に示すように、比較例3、4、6では20分経過後のPb濃度は何れも20ppm以上であるが、本発明の実施例1、3、7、8、9、10は何れも10分経過後には10ppm以下、20分経過後のPb濃度は実質的にゼロであり、重金属に対して短時間に優れた吸着効果を有することが判る。この傾向は図2においても同様であり、ヒドロキシアパタイトのカルシウムとリンのモル比(Ca/P)が1.90である比較例1は60分経過後のPb濃度が40ppm以上であるのに対して、本発明の実施例1、5、6は20分経過後のPb濃度は実質的にゼロであり、優れた吸着効果を有している。
【0047】
表1に示すように、比較例の細孔容積は大部分が0.4ml/g以下であるが、本発明のヒドロキシアパタイトシリカ複合多孔質体は何れも細孔容積0.5ml/g以上であって、平均細孔径が何れも20nm以下であり、微細な多数の細孔を有する多孔質体である。従って、高い吸着性を有し、60分経過後の残留Pb濃度は何れも0.25ppm以下である。また、蛋白質の吸着率も50%以上であり、高い吸着率を示している。
【0048】
また、本発明のヒドロキシアパタイトシリカ複合多孔質体は溶解性が低く、Pの溶解度は3.5ppm以下であり、Caの溶解度も実施例10を除き3.0ppm以下である。
さらに、本発明のヒドロキシアパタイトシリカ複合多孔質体は、平均粒径が約14μm〜60μmであって、BET比表面積が160m2/g以上であり、適度な粒径を有しながら大きな比表面積を有しており、優れた吸着性と共に良好な透水性を有している。具体的には、実施例1〜10は何れも1.5×10-4cm/s以上の透水率を有し、特に実施例1、5〜8は15×10-4〜84×10-4cm/sの高い透水率を有する。一方、比較例の透水率は16×10-4cm/s以下である。
【0049】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】実施例および比較例について、経過時間によるPb濃度を示すグラフ
【図2】実施例および比較例について、経過時間によるPb濃度を示すグラフ
【図3】実施例1の本発明試料について、X線回折結果を示すグラフ
【図4】実施例1の本発明試料の電子顕微鏡写真

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶質ヒドロキシアパタイトと多孔質シリカとの複合体からなることを特徴とするヒドロキシアパタイトシリカ複合多孔質体吸着剤。
【請求項2】
ヒドロキシアパタイトとシリカの複合体からなり、全細孔容積0.5ml/g以上の多孔質体であり、リン溶解度が3.5ppm以下の低溶解性であることを特徴とするヒドロキシアパタイトシリカ複合多孔質体吸着剤。
【請求項3】
透水率が1〜100×10-4cm/sである請求項1または請求項2に記載するヒドロキシアパタイトシリカ複合多孔質体吸着剤。
【請求項4】
平均粒径10〜60μmであって、BET比表面積100m2/g以上である請求項1〜請求項3の何れかに記載するヒドロキシアパタイトシリカ複合多孔質体吸着剤。
【請求項5】
ヒドロキシアパタイトのカルシウムとリンのモル比(Ca/P)が1.9未満である請求項1〜請求項4の何れかに記載するヒドロキシアパタイトシリカ複合多孔質体吸着剤。
【請求項6】
カルシウムとシリカのモル比(Ca/Si)が0.1〜0.8である珪酸カルシウム化合物を原料とする請求項1〜請求項5の何れかに記載するヒドロキシアパタイトシリカ複合多孔質体吸着剤。
【請求項7】
珪酸カルシウム化合物にリン酸を反応させて、カルシウム分を結晶質ヒドロキシアパタイトに転化させると共に、シリカ分を多孔質シリカに転化させることを特徴とするヒドロキシアパタイトシリカ複合多孔質体の製造方法。
【請求項8】
珪酸カルシウム化合物に、PH7.0以上になるようにリン酸を徐々に添加し反応させて結晶質ヒドロキシアパタイトと多孔質シリカの複合体を製造する請求項7に記載する製造方法。
【請求項9】
珪酸カルシウム化合物にまず酸を反応させて珪酸カルシウム化合物のカルシウムを部分的に溶解除去し、次いでリン酸を反応させて結晶質ヒドロキシアパタイトを生成させてヒドロキシアパタイトシリカ複合多孔質体を製造する請求項7または請求項8に記載する製造方法。
【請求項10】
珪酸カルシウムスラリーにリン酸を添加し、このときカルシウムとリンのモル比(Ca/P)が1.9未満になるリン酸量とし、スラリーを撹拌しながらリン酸を徐々に添加して反応させ、ヒドロキシアパタイトシリカ複合多孔質体を製造する請求項7〜請求項9の何れかに記載する製造方法。
【請求項11】
珪酸カルシウム化合物を温水に浸漬し、加温下でリン酸を添加し、このときカルシウムとリンのモル比(Ca/P)が1.9未満になるリン酸量とし、温水を撹拌しながらリン酸を徐々に添加して反応させ、ヒドロキシアパタイトシリカ複合多孔質体を製造する請求項7〜請求項9の何れかに記載する製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−296463(P2007−296463A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−126029(P2006−126029)
【出願日】平成18年4月28日(2006.4.28)
【出願人】(592012384)小野田化学工業株式会社 (20)
【Fターム(参考)】