説明

ヒドロキシベンゼン誘導体およびその製造方法

【課題】ゴムと配合して得られるゴム組成物が加工性と高い耐湿熱接着性を維持しながら、レゾルシンやRF樹脂を配合した時に見られるブルームを極力抑制し、該ゴム組成物の貯蔵中の接着性低下が少なく安定した接着性を発現させる化合物を提供すること。
【解決手段】下記式(1)で表される化合物。


(式中、Rは、それぞれ独立して炭素数1〜8の脂肪族基、アルコキシ基、水酸基、カルボキシル基、保護されていてもよいアミノ基を表し、Xは、それぞれ独立して−CONH−あるいは−COO−を表す。nは2〜4の整数を、mは0〜4の整数を表す。但し、n+mは3〜6である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤや工業用ベルト等のゴム物品に用いられるスチールコード等の金属補強材との接着耐久性を向上させる新規な組成物または化合物に関し、更に詳しくはゴムと配合した際のゴム組成物の加工性が良好であり、且つ該ゴム組成物の貯蔵期間に係らず金属補強材に対し安定して初期接着性及び耐湿熱接着性を発現させることができる、特定構造を有する化合物および該化合物を主成分とする組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車用タイヤ、コンベアベルト、ホース等、特に強度が要求されるゴム製品には、ゴムを補強し強度、耐久性を向上させる目的で、スチールコード等の金属補強材をゴム組成物で被覆した複合材料が用いられている。該ゴム−金属複合材料が高い補強効果を発揮し信頼性を得るためにはゴム−金属補強材間に混合、配合、貯蔵等の条件に左右されない安定した接着が必要である。かかる複合体を得るには、亜鉛、黄銅等でメッキされたスチールコード等の金属補強材を、硫黄を配合したゴム組成物に埋設し加熱加硫時に、ゴムの加硫と同時に接着させるいわゆる直接加硫接着が広く用いられており、これまで該直接加硫接着におけるゴム−金属補強材間の接着性、特に耐湿熱接着性向上のため様々な検討が行われている。
【0003】
例えば、レゾルシン又は、レゾルシンとホルマリンを縮合して得られる、レゾルシン−ホルムアルデヒド樹脂(以下、「RF樹脂」と略記する。)を耐湿熱接着性向上の目的で配合したゴム組成物が報告されている(特許文献1)。RF樹脂を配合することでスチールコードとゴムの耐湿熱接着性は確かに飛躍的に向上する。
【0004】
しかしながら、レゾルシンやRF樹脂は極性が非常に高いためゴムとの相溶性に乏しく、混合、配合、貯蔵等の条件によって、レゾルシンやRF樹脂が析出するいわゆるブルームが発生するため、ゴム物品の外観を損ねる恐れがある。また、ブルーム発生により、該ゴム組成物を配合してから加硫接着まで長期間貯蔵すると接着性が低下するといった問題が生じるため、レゾルシンやRF樹脂を配合したゴム組成物は速やかに加硫接着させる必要があり、ゴム物品の生産性を損ねかねない。
【0005】
また、重量平均分子量が3000〜45000のレゾルシン骨格を有する混合ポリエステルからなる、接着材料が報告されている(特許文献2)。しかしながら、分子量が大きな混合ポリエステルはRF樹脂と比較してゴムとの相溶性は改善されるものの、完全に満足できるものとはなっていない。さらに、高分子量の混合ポリエステルをゴムに配合すると、配合ゴムの粘度が上昇し、加工性が低下するといった問題があり、耐湿熱接着性も十分なものとはなっていない。
【0006】
【特許文献1】特開2001−234140号公報
【特許文献2】特開平7−118621号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、ゴムに配合した際のゴム組成物が加工性と高い耐湿熱接着性を維持しながら、レゾルシンやRF樹脂を配合した時に見られるブルームを極力抑制し、該ゴム組成物の貯蔵中の接着性低下を少なくでき、優れた接着安定性を発現させることができる、特定構造を有する化合物を提供する事を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、特定構造の化合物をゴムに配合することで、レゾルシンやRF樹脂と同等以上の耐湿熱接着性を維持しつつ、レゾルシンやRF樹脂の問題点であるゴムと配合して得られるゴム組成物の加工性を保持するとともに、ブルーム発生を抑制し、配合、貯蔵等の条件によらず優れた接着安定性を示すことを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
即ち、本発明のヒドロキシベンゼン誘導体は、下記一般式(1)で表される化合物である。
【化1】

(式中、Rは、それぞれ独立して炭素数1〜8の脂肪族基、アルコキシ基、水酸基、カルボキシル基、保護されていてもよいアミノ基を表し、Xは、それぞれ独立して−CONH−あるいは−COO−を表す。nは2〜4の整数を、mは0〜4の整数を表す。但し、n+mは3〜6である。)
【0010】
本発明の好適例においては、一般式(1)で表される化合物が下記一般式(2)で表される化合物である。
【化2】

(式中、Xは、それぞれ独立して−CONH−あるいは−COO−を表す。nは3または4である。)ここで、前記一般式(2)中におけるnは3である事が望ましく、また、前記一般式(2)で表される化合物としては、下記式(5)で表わされるベンゼントリカルボン酸系化合物が特に好ましい。
【化3】

【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ゴムと配合して得られるゴム組成物が加工性と高い耐湿熱接着性を維持しながら、レゾルシンやRF樹脂を配合した時に見られるブルームを極力抑制し、該ゴム組成物の貯蔵中の接着性低下が少なく安定した接着性を発現させる事ができる、化合物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に、本発明を詳細に説明する。本発明の化合物は、一般式(1)で表されることを特徴とする。一般式(1)中のRは炭素数1〜8の脂肪族基、アルコキシ基、水酸基、カルボキシル基、保護されていてもよいアミノ基を表し、Xは−CONH−あるいは−COO−を表す。nは2〜4の整数を、mは0〜4の整数を表す。但し、n+mは3〜6である。ここで、各Xは同一でも異なっていても良く、また、mが2以上の場合、各Rは同一でも異なっていても良い。尚、一般式(1)中のmは0である事が好ましく、この場合、一般式(1)で表される化合物は、上記一般式(2)で表される化合物となる。一般式(2)中のXは、一般式(1)中のXと同義である。また、一般式(2)中のnは3または4であるが、3である事が望ましい。
【0013】
炭素数1〜8の脂肪族基としては、例えば、メチル基、エチル基、ブチル基、イソブチル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基等の直鎖または分岐鎖のアルキル基、ビニル基、ブテニル基、オクテニル基等の直鎖または分岐鎖のアルケニル基、これらのアルキル基又はアルケニル基の水素原子がヒドロキシル基又はアミノ基等で置換されたアルキル基またはアルケニル基、シクロヘキシル基等の脂環式基が挙げられる。また、アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基が挙げられ、アミノ基の保護基としては、アセチル基、ホルミル基、Boc基、Z基等が挙げられる。
【0014】
一般式(1)で表される化合物の具体例としては、2−メチル−テレフタル酸ビス(3−ヒドロキシフェニル)エステル、2−メチル−テレフタル酸ビス(4−ヒドロキシフェニル)エステル、3-メチル−テレフタル酸ビス(3−ヒドロキシフェニル)エステル、3-メチル−テレフタル酸ビス(4−ヒドロキシフェニル)エステル、4−メチル−イソフタル酸ビス(3-ヒドロキシフェニル)エステル、4−メチル−イソフタル酸ビス(4-ヒドロキシフェニル)エステル、1,3,5−ベンゼントリカルボン酸トリス(3−ヒドロキシフェニル)エステル、1,3,5−ベンゼントリカルボン酸トリス(4−ヒドロキシフェニル)エステル、1,3,5−ベンゼントリカルボン酸トリス(1−ヒドロキシフェニル)エステル、1,3,5−ベンゼントリカルボン酸−1,3−ビス(3-ヒドロキシフェニル)エステル、1,3,5−ベンゼントリカルボン酸−1,3−ビス(4-ヒドロキシフェニル)エステル、1,3,5−ベンゼントリカルボン酸−1,3−ビス(1-ヒドロキシフェニル)エステル、1,3,5−ベンゼントリカルボン酸−1,5−ビス(3-ヒドロキシフェニル)エステル、1,3,5−ベンゼントリカルボン酸−1,5−ビス(4-ヒドロキシフェニル)エステル、1,3,5−ベンゼントリカルボン酸−1,5−ビス(1-ヒドロキシフェニル)エステル、1,2,4−ベンゼントリカルボン酸トリス(3-ヒドロキシフェニル)エステル、1,2,4−ベンゼントリカルボン酸トリス(4-ヒドロキシフェニル)エステル、1,2,4−ベンゼントリカルボン酸トリス(1-ヒドロキシフェニル)エステル、1,2,4−ベンゼントリカルボン酸−1,2−ビス(3-ヒドロキシフェニル)エステル、1,2,4−ベンゼントリカルボン酸−1,2−ビス(4-ヒドロキシフェニル)エステル、1,2,4−ベンゼントリカルボン酸−1,2−ビス(1-ヒドロキシフェニル)エステル、1,2,4−ベンゼントリカルボン酸−1,4−ビス(3-ヒドロキシフェニル)エステル、1,2,4−ベンゼントリカルボン酸−1,4−ビス(4-ヒドロキシフェニル)エステル、1,2,4−ベンゼントリカルボン酸−1,4−ビス(1-ヒドロキシフェニル)エステル、2−メチル−テレフタル酸ビス(3−ヒドロキシフェニル)アミド、2−メチル−テレフタル酸ビス(4−ヒドロキシフェニル)アミド、3-メチル−テレフタル酸ビス(3−ヒドロキシフェニル)アミド、3-メチル−テレフタル酸ビス(4−ヒドロキシフェニル)アミド、4−メチル−イソフタル酸ビス(3-ヒドロキシフェニル)アミド、4−メチル−イソフタル酸ビス(4-ヒドロキシフェニル)アミド、1,3,5−ベンゼントリカルボン酸トリス(3−ヒドロキシフェニル)アミド、1,3,5−ベンゼントリカルボン酸トリス(4−ヒドロキシフェニル)アミド、1,3,5−ベンゼントリカルボン酸トリス(1−ヒドロキシフェニル)アミド、1,3,5−ベンゼントリカルボン酸−1,3−ビス(3-ヒドロキシフェニル)アミド、1,3,5−ベンゼントリカルボン酸−1,3−ビス(4-ヒドロキシフェニル)アミド、1,3,5−ベンゼントリカルボン酸−1,3−ビス(1-ヒドロキシフェニル)アミド、1,2,4−ベンゼントリカルボン酸トリス(3-ヒドロキシフェニル)アミド、1,2,4−ベンゼントリカルボン酸トリス(4-ヒドロキシフェニル)アミド、1,2,4−ベンゼントリカルボン酸トリス(1-ヒドロキシフェニル)アミド、1,2,4−ベンゼントリカルボン酸−1,2−ビス(3-ヒドロキシフェニル)アミド、1,2,4−ベンゼントリカルボン酸−1,2−ビス(4-ヒドロキシフェニル)アミド、1,2,4−ベンゼントリカルボン酸−1,2−ビス(1-ヒドロキシフェニル)アミド、1,2,4−ベンゼントリカルボン酸−1,4−ビス(3-ヒドロキシフェニル)アミド、1,2,4−ベンゼントリカルボン酸−1,4−ビス(4-ヒドロキシフェニル)アミド、1,2,4−ベンゼントリカルボン酸−1,4−ビス(1-ヒドロキシフェニル)アミド等が挙げられる。これらの中でも、1,3,5−ベンゼントリカルボン酸トリス(3−ヒドロキシフェニル)エステル、1,3,5−ベンゼントリカルボン酸−1,3−ビス(3-ヒドロキシフェニル)エステル、1,2,4−ベンゼントリカルボン酸トリス(3-ヒドロキシフェニル)エステル、1,2,4−ベンゼントリカルボン酸−1,2−ビス(3-ヒドロキシフェニル)エステル、1,2,4−ベンゼントリカルボン酸−1,4−ビス(3-ヒドロキシフェニル)エステル等のレゾルシンエステル系、1,3,5−ベンゼントリカルボン酸トリス(3−ヒドロキシフェニル)アミド、1,3,5−ベンゼントリカルボン酸−1,3−ビス(3-ヒドロキシフェニル)アミド、1,2,4−ベンゼントリカルボン酸トリス(3-ヒドロキシフェニル)アミド、1,2,4−ベンゼントリカルボン酸−1,2−ビス(3-ヒドロキシフェニル)アミド、1,2,4−ベンゼントリカルボン酸−1,4−ビス(3-ヒドロキシフェニル)アミド、等のm−アミノフェノール系アミドが好ましく、特に1,3,5−ベンゼントリカルボン酸トリス(3−ヒドロキシフェニル)エステル、1,3,5−ベンゼントリカルボン酸−1,3−ビス(3-ヒドロキシフェニル)エステル、1,2,4−ベンゼントリカルボン酸トリス(3-ヒドロキシフェニル)エステル等のベンゼントリカルボン酸系トリエステルあるいはジエステルが好ましい。
【0015】
一般式(1)で表される化合物の製造法は特に限定されないが、例えば、下記一般式(3)で表される多価カルボン酸ハライドと、
【化4】

(式中、Rは、それぞれ独立して炭素数1〜8の脂肪族基、アルコキシ基、水酸基、カルボキシル基、保護されていてもよいアミノ基を表し、Yはハロゲン原子を表す。nは2〜4の整数を、mは0〜4の整数を表す。但し、n+mは3〜6である。)
下記一般式(4)で表される化合物
【化5】

(式中、Aは水酸基またはアミノ基を表す。)
とを塩基の存在下または非存在下で反応させて製造される。
【0016】
一般式(3)中のRは前記一般式(1)中のRと同義であり、Yはハロゲン原子を表す。ハロゲン原子としては、塩素原子又は臭素原子が好ましい。
【0017】
一般式(3)で表される化合物としては、2−メチル−テレフタル酸ジクロライド、3-メチル−テレフタル酸ジクロライド、4−メチル−イソフタル酸ジクロライド、1,3,5−ベンゼントリカルボン酸トリクロライド、1,3,5−ベンゼントリカルボン酸ジクロライド、1,2,4−ベンゼントリカルボン酸トリクロライド、1,2,4−ベンゼントリカルボン酸ジクロライド等が挙げられる。これらの中でも、1,3,5−ベンゼントリカルボン酸トリクロライドが好ましい。
【0018】
一般式(4)で表される化合物としては、カテコール、レゾルシン、ハイドロキノン、o−アミノフェノール、m−アミノフェノールおよびp−アミノフェノールが挙げられ、特にレゾルシンおよびm−アミノフェノールが好ましい。
【0019】
一般式(3)で表される化合物と一般式(4)で表される化合物とを反応させる際に使用する塩基としては通常、ピリジン、β−ピコリン、N−メチルモルホリン、ジメチルアニリン、ジエチルアニリン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン等の有機塩基が用いられる。
【0020】
一般式(3)で表される化合物と一般式(4)で表される化合物、特にカテコール、レゾルシンおよびハイドロキノンとを反応させる際は、通常、一般式(3)で表される化合物中のカルボン酸ハライド骨格に対し一般式(4)で表される化物を3〜20倍モルの比となるように反応させる。これより低いモル比では重合体の生成が懸念され好ましくない。一方、これより高いモル比にしても特に選択率の向上は観られず、容積効率を悪化させ、製品の単離に不利に働くため好ましくない。
【0021】
一般式(3)で表される化合物と一般式(4)で表される化合物とを反応させる際、原料を溶解させること等を目的として溶媒を用いる事ができる。溶媒としては、上述の有機塩基をそのまま溶媒として使用しても良いし、反応を阻害しない他の有機溶媒を用いても構わない。このような溶媒としては、例えば、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジオキサン等のエーテル系溶媒が挙げられる。
【0022】
一般式(3)で表される化合物と一般式(4)で表される化合物とを反応させる際の反応温度は、通常、−20℃〜120℃で行なわれる。
【0023】
前記の反応により得られる一般式(1)で表される化合物は、公知の方法により反応混合物から単離することができる。即ち、減圧蒸留等の操作により、反応に用いた有機塩基および一般式(4)で表される化合物、反応に有機溶媒を使用した場合にはこの有機溶媒を留去し乾固させる方法、反応混合物に一般式(1)で表される化合物の貧溶媒を添加して再沈殿させる方法、反応混合液に水および水と混和しない有機溶媒を添加して有機層に抽出する方法等が挙げられる。また、場合によっては再結晶により精製しても良い。
【0024】
前記の一般式(1)で表される化合物の貧溶媒としては通常、水が用いられる。また、上記水と混和しない有機溶媒としては、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン等のケトン類が用いられる。
【0025】
一般式(3)で表される化合物として1,3,5−ベンゼントリカルボン酸トリクロライドを用い、一般式(4)で表される化合物としてレゾルシンを用いた場合には、主成分として上記式(5)で表される化合物が得られる。この場合、下記式(6):
【化6】

で表される二量体が副生する事があるが、該二量体を分離すること無く使用する事が出来る。尚、式(6)の二量体は、通常、式(5)で表わされる化合物に対して1〜20質量%含まれる。
【0026】
本発明の化合物はレゾルシンやRF樹脂に比べ、ゴム成分と混ざりやすいという特徴がある。そのため、本発明の化合物を配合したゴム組成物は、レゾルシンやRF樹脂を配合したゴム組成物よりもブルームしにくい傾向がある。これは本発明の化合物がレゾルシンやRF樹脂に比べて極性が低いためと推定される。また、本発明の化合物を配合したゴム組成物は貯蔵期間に関わらず接着安定性に優れている。そのため、本発明の化合物は接着向上剤として有用である。
【実施例】
【0027】
以下に、実施例、参考例、比較例を上げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0028】
(実施例1)
1,3,5−ベンゼントリカルボン酸−トリレゾルシンエステルの製造
レゾルシン176.2g(1.60mol)をピリジン176.2gに溶解した液を10〜15℃に冷却し、同温度を保ちながら、融点以上に加熱して溶融させた1,3,5−ベンゼントリカルボン酸トリクロライド24.8g(0.0934mol)を1hrかけて滴下装入した。その後室温で2hr熟成した後に115℃〜120℃まで昇温して同温度で6hr熟成を行なった。得られたマスから減圧下、120℃でピリジン留去を行なった。最終的な減圧度は20torrまで達した。
【0029】
ピリジンを留去したマスに水200gを装入した後、塩酸でpH=3に調整し、さらに500gの水を追加した。その後、酢酸エチル100mlで4回抽出を行ない、酢酸エチル層を水洗、硫酸Mgで乾燥した後に濃縮して酢酸エチルを留去し、250gのシロップを得た。その後、水を添加し全体が白濁した時点で、今度は該溶液を水2kg中に排出し、得られた沈殿を濾過、水洗後、60℃で減圧乾燥して38.52gの粉体を得た。粗収率は1,3,5−ベンゼントリカルボン酸に対して85%であった。
【0030】
得られた粉体をHPLCにて分析した結果、1,3,5−ベンゼントリカルボン酸−トリレゾルシンエステルが84.1面積%(85.3質量%)、二量体が11.0面積%(11.1質量%)およびレゾルシンが0.5質量%であった。
【0031】
尚、1,3,5−ベンゼントリカルボン酸−トリレゾルシンエステルおよび二量体の同定データは下記の通り。
【0032】
<1,3,5−ベンゼントリカルボン酸トリレゾルシンエステルの同定データ>
MSスペクトルデータ
FAB(pos.) m/z=487 (M+H)+
IRスペクトルデータ
1745cm−1、1227cm−1および1136cm−1
NMRスペクトルデータを表1−1および表1−2に示した。
【0033】
【表1】

【0034】
<二量体の同定データ>
NMRスペクトルデータを表2−1および表2−2に示した
【0035】
【表2】

【0036】
また、HPLCの分析条件は下記の通り。
1,3,5−ベンゼントリカルボン酸−トリレゾルシンエステル、二量体およびレゾルシンの分析
カラム : YMC社 A−312 ODS
カラム温度: 40℃
溶離液 : メタノール/水=7/3(リン酸でpH=3に調整)
検出 : UV(254nm)
【0037】
(参考例1)
実施例1で製造した組成物を供試化合物として2200mLのバンバリーミキサーを使用して、表3に示すゴム配合処方で混練り混合して、未加硫のゴム組成物を調製し、以下の方法で耐ブルーム性、ムーニー粘度、配合直後の接着性及び、配合ゴム放置後の接着性を測定、評価した。結果を表3に示す。
【0038】
<耐ブルーム性>
未加硫のゴム組成物を40℃で7日間貯蔵した後、配合剤がゴム表面に析出したか否かを目視で確認し、○、△、×で判定した。
○:表面に配合剤が析出していない。
△:一部に析出
×:全面に配合剤が析出
【0039】
<ムーニー粘度>
未加硫のゴム組成物をJIS K6300-2001に準拠して、ML(1+4)130℃を測定した。結果は数値が低い程良好であることを示す。
【0040】
<接着試験>
黄銅(Cu;63質量%、Zn;37質量%)メッキしたスチールコード(1×5構造、素線径0.25mm)を12.5mm間隔で平行に並べ、このスチールコードを上下両側から各ゴム組成物でコーティングして、これを直ちに160℃×15分の条件で加硫し、幅12.5mmのサンプルを作製した。下記の各接着性に対してASTM−D−2229に準拠して、各サンプルに対してスチールコードを引き抜き、ゴムの被覆状態を目視で観察し、0〜100%で表示、各接着性の指標とした。数値が大きい程良好であることを示す。初期接着性は前記加硫の直後に測定した。湿熱接着性は前記加硫後、70℃、湿度100%、4日の湿熱条件下で老化させた後に測定した。
【0041】
<接着安定性試験>
前記未加硫状態のスチールコードを上下両側から各ゴム組成物でコーティングしたスチールコード−ゴム複合体を、40℃×80RH%の恒温恒湿槽に7日間放置後、160℃×15分間加硫して、初期接着性を測定し、接着安定性の指標とした。
【0042】
(比較例1)
供試化合物として本発明の組成物を使用しない以外は参考例1と同様に配合してゴム組成物を調製し、評価した。結果を表3に示した。
【0043】
(比較例2)
供試化合物としてレゾルシンをゴム基本配合に2質量部配合する以外は参考例1と同様に配合してゴム組成物を調製し、評価した。結果を表3に示した。
【0044】
(比較例3)
供試化合物としてRF樹脂をゴム基本配合に2質量部配合する以外は参考例1と同様に配合してゴム組成物を調製し、評価した。結果を表3に示した。なお、RF樹脂は下記の方法で製造した。
【0045】
まず、水1100g、レゾルシン1100g(10mol)、p−トルエンスルホン酸1.72g(10mmol)を冷却管、攪拌装置、温度計、滴下ロート、窒素導入管を備えた4つ口フラスコに仕込、70℃まで昇温した。37%ホルマリン溶液を477g(5.9mol)を2時間かけて滴下し、そのままの温度で5時間保持し、反応を完結させた。反応終了後、10%水酸化ナトリウム水溶液を4g加え中和した後、冷却器をディーンスターク型還流器に変え、水を留去しながら150℃まで昇温し、更に20mmHgの減圧下で1時間かけて水を除去し、RF樹脂を得た。得られたRF樹脂の軟化点は124℃、残存レゾルシン量は17%であった。
【0046】
(比較例4)
供試化合物として特開平7−118621号広報(特許文献2)記載の混合ポリエステルをゴム基本配合に2質量部配合する以外は参考例1と同様に配合してゴム組成物を調製し、評価した。結果を表3に示した。尚、混合ポリエステルは上記特許記載の実施例1に準じて合成した。
【0047】
還流冷却器および温度計を備えた300mlの4つ口フラスコに、レゾルシン108.9g(0.99mol)、アジピン酸131.4g(0.90mol)、無水酢酸222.0g(2.175mol)およびピリジン0.54g(レゾルシンに対して0.5重量%)を仕込み、窒素置換後、室温で15分攪拌し、その後100℃に昇温して同温度で2hrアセチル化を行なった。その後、副生する酢酸を系外に留去しながら昇温し140℃で1hr、さらに昇温し240℃で2hr熟成した。次いで、減圧下(50mmHg)240℃で熟成を続けた。反応混合物を磁性皿に排出し、黄土色のあめ状物195.6gを得た。ガラス棒で練る事で徐々に結晶化した。分析の結果レゾルシンを0.1重量%、レゾルシンモノアセテートを0.5重量%、レゾルシンジアセテートを0.8重量%含んでいた。また、GPCにて分子量を測定した結果、重量平均分子量は約30000(PS換算)であった。
【0048】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される化合物。
【化1】

(式中、Rは、それぞれ独立して炭素数1〜8の脂肪族基、アルコキシ基、水酸基、カルボキシル基、保護されていてもよいアミノ基を表し、Xは、それぞれ独立して−CONH−あるいは−COO−を表す。nは2〜4の整数を、mは0〜4の整数を表す。但し、n+mは3〜6である。)
【請求項2】
一般式(1)で表される化合物が下記一般式(2)で表される化合物である請求項1記載の化合物。
【化2】

(式中、Xは、それぞれ独立して−CONH−あるいは−COO−を表し、nは3または4である。)
【請求項3】
一般式(2)中におけるnが3である請求項2記載の化合物。
【請求項4】
下記一般式(3)で表される多価カルボン酸ハライドと
【化3】

(式中、Rは、それぞれ独立して炭素数1〜8の脂肪族基、アルコキシ基、水酸基、カルボキシル基、保護されていてもよいアミノ基を表し、Yはハロゲン原子を表す。nは2〜4の整数を、mは0〜4の整数を表す。但し、n+mは3〜6である。)
下記一般式(4)
【化4】

(式中、Aは水酸基またはアミノ基を表す。)
で表される化合物とを反応させる事を特徴とする一般式(1)で表される化合物の製造方法。
【請求項5】
一般式(2)で表される化合物が下記式(5)で表されるベンゼントリカルボン酸系化合物である請求項1記載の化合物。
【化5】

【請求項6】
下記式(6)で表される二量体を含む請求項5記載のベンゼントリカルボン酸系化合物。
【化6】


【公開番号】特開2008−137969(P2008−137969A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−327145(P2006−327145)
【出願日】平成18年12月4日(2006.12.4)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】