説明

ヒドロキシ酸変性グルカン誘導体の製造方法

【課題】ヒドロキシ酸成分の単独重合体(ポリラクトンなど)やヒドロキシ酸成分(未反応モノマー)などの不用成分(又は不純物)の割合が大きく低減されたヒドロキシ酸変性グルカン誘導体(例えば、環状エステル変性セルロースアシレートなど)を工業的に有利に製造する方法を提供する。
【解決手段】グルカン誘導体のヒドロキシル基にヒドロキシ酸成分(C4−10ラクトン、C4−10環状ジエステルなど)がグラフト重合したヒドロキシ酸変性グルカン誘導体を製造するに際し、グルカン誘導体とヒドロキシ酸成分とを反応させて得られるヒドロキシ酸変性グルカン誘導体を含む反応混合物を、ヒドロキシ酸変性グルカン誘導体を膨潤可能な抽出溶媒(C1−3アルカノール、C6−10アレーンなど)により抽出処理する。抽出処理は、加熱下で行ってもよく、複数回に分けて行ってもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性プラスチックとして使用可能なヒドロキシ酸変性グルカン誘導体(例えば、ラクトンなどの環状エステル変性セルロースアシレート誘導体)の製造方法、不用成分が低減されたヒドロキシ酸変性グルカン誘導体およびこの変性グルカン誘導体で形成された成形体(特に光学用成形体)に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロース、デンプン(又はアミロース)、デキストランなどのグルコースを構成単位とするグルカンは、熱可塑性を有しておらず、そのままでは、プラスチック(熱可塑性プラスチック)として使用できない。そのため、このようなグルカン(特にセルロース)は、熱可塑化のため、アシル化(アセチル化など)されることにより、熱可塑性プラスチックとして利用されている。前記グルカンのうち、特に、セルロースは、アシル化され、セルロースアシレート(特に、セルロースアセテート)として種々の用途に用いられている。例えば、平均置換度2.4〜2.5程度のセルロースアセテート(セルロースジアセテート)は、熱可塑性の観点から、可塑剤を含む形態で熱成形に用いられている。
【0003】
このようなセルロースアシレートを変性することにより、溶解性、熱溶融性や溶融成形性を改良する技術も報告されている。例えば、特開昭59−86621号公報(特許文献1)には、セルロース誘導体(セルロースアセテートなど)の存在下で環状エステル(ε−カプロラクトンなど)の開環重合触媒を加えて、環状エステルを開環重合させるグラフト重合体の製造方法が開示されている。また、特開昭60−188401号公報(特許文献2)には、遊離水酸基を有する脂肪酸セルロースエステル(セルロースアセテートなど)に対してその無水グルコース単位あたり0.5〜4.0モルの環状エステル(ε−カプロラクトンなど)を付加(グラフト)させて得られる脂肪酸セルロースエステル系熱可塑性成形材料が開示されている。さらに、特開2001−181302号公報(特許文献3)には、水酸基を有するセルロース誘導体に、環状エステルの開環重合触媒の存在下で、環状エステル類を開環グラフト重合して環状エステル変性セルロース誘導体を製造する際に、常圧沸点が140℃以上の溶剤であって、水酸基を有するセルロース誘導体および環状エステル変性セルロース誘導体が溶解可能で、環状エステルの開環重合の開始剤となる官能基を持たない溶剤(シクロヘキサノン、γ−ブチロラクトンなど)中で重合を行う環状エステル変性セルロース誘導体の製造方法が開示されている。
【0004】
しかし、これらの文献に記載の方法では、環状エステルのホモポリマー(オリゴマー)が多量に副生する。このような環状エステルのオリゴマーは、カルボキシル基を有しており、生成物中の酸価を増大させる。そのため、生成物中にこのようなオリゴマーを含んでいると、セルロースアシレートが加水分解しやすくなる。さらに、このようなオリゴマーはブリードアウトなどによって生成物の外観を悪化させ、製品品質を低下させる。しかも、これらの文献に記載の方法で得られる変性されたセルロースアシレートは、環状エステルのポリマー部分(例えば、グラフト部分、ホモポリマー部分など)の割合が大きすぎるためか、耐熱性などの特性が十分でない場合が多い。
【0005】
このような理由から、環状エステルのオリゴマーを生成物から除去することが好ましい。このようなオリゴマーの除去は、前記文献においても行われており、例えば、前記特許文献1の実施例1では、得られたグラフト重合体にアセトンを加え、溶解した後、四塩化炭素に沈殿した固体を真空乾燥した後、四塩化炭素により10時間ソックスレー抽出を行っている。また、前記特許文献2の実施例1では、セルロースアセテートにε−カプロラクトンおよびキシレンを加えて溶解させ、チタンテトラブトキシドを含むキシレンを加えて140℃で反応させ、反応物を再沈させたのち、四塩化炭素によりソックスレー抽出を10時間行っている。
【0006】
しかし、再沈による環状エステルオリゴマーの除去作業は大量の溶剤を必要とし、工程の複雑さから工業的には一般的ではなく、しかも、製造コストの上昇を招き、好ましくない。また、再沈後に行っているソックスレー抽出は、抽出処理としては優れているものの、大規模に行うことは困難であり、工業的に有利な抽出方法ではない。さらに、これらの文献に記載の方法では、除去される環状エステルのオリゴマーが多く生成するため、グラフト鎖の重合度などにおいて所望のグラフト重合体を得ることが困難であり、また経済的にも不利である。さらに、四塩化炭素をはじめとするハロゲン化炭化水素は、不燃性・難分解性・蓄積性・毒性などの性質から環境や人体に及ぼす悪影響が大きく、特に四塩化炭素はIARCによりGroup.2B(ヒトへの発がん性の可能性がある)に分類されているため、工業的大規模に使用することは好ましくない。
【0007】
なお、脂肪族ポリエステルを洗浄又は精製する方法として、例えば、特許第3396537号公報(特許文献4)には、脂肪族グリコールと脂肪族ジカルボン酸(またはその酸無水物)とを主成分とするポリエステルポリオールを脱グリコール反応させて得られる数平均分子量が10,000以上の脂肪族ポリエステルポリオール(I)またはそれを主成分とする組成物について、粉末、ペレットまたは成形品の状態にて(i)純水、または(ii)純水およびアルコール、または(iii)純アルコール類とを脂肪族ポリエステルポリオールの融点より10〜60℃以下の温度にて接触させることによる、脂肪族ポリエステルポリオールまたは組成物の洗浄処理方法が開示されている。この文献には、脂肪族ポリエステルには、残留モノマーおよび低分子量物(オリゴマー)を含むものと予想され、定性分析によれば主として環状2量体が検出されていること、これらの低分子量物の発生防止または除去は、化学合成過程では困難であるので、脂肪族ポリエステルのペレットを温熱水またはアルコール(例えば、メタノールなどの炭素数1〜3個のアルコール類)、またはそれらの混合物と特定条件で接触させて低分子量物を抽出除去することにより、成形品の表面光沢性が消失する問題を解決できることが記載されている。
【0008】
また、特開2005−162890号公報(特許文献5)には、脂肪族ジオール成分及びジカルボン酸成分を重合した後、脂肪族ポリエステル樹脂のペレット又は成形体とし、ペレット又は成形体とされた脂肪族ポリエステル樹脂を洗浄溶剤(メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール等のアルコール類、メチルエチルケトン等のケトン類、ジメチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類など)で洗浄した後、該脂肪族ポリエステル樹脂中の揮発成分の含有量が1重量%以下となるように該ペレット又は成形体の乾燥処理を行う脂肪族ポリエステル樹脂の製造方法が開示されている。この文献には、重縮合後の脂肪族ポリエステル樹脂中には、ポリマーの他にモノマーやオリゴマーが残存し、成形体表面に曇りが生じたり、成形時に金型等の成形装置を汚染したりすることがあり、この環状オリゴマーを除去するために、洗浄溶剤を用いた洗浄処理が行われることが記載されている。
【0009】
これらの文献では、いずれも、重縮合反応によって得られる脂肪族ポリエステルにおいて副生が避けられない環状オリゴマーの除去を目的として洗浄しており、セルロースアシレートなどのグルカン誘導体に環状エステルがグラフトしたグラフト重合体の洗浄については何ら記載されていない。なお、十分に高分子量化した前記脂肪族ポリエステルに含まれる環状オリゴマーの量は、5000ppm前後で、多くとも1重量%程度であるのが通常である。
【0010】
また、特開平9−263629号公報(特許文献6)には、ポリマーのペレットを、容器内で重力によって上方から下方へ移動させつつ、「ポリマーの膨潤剤、モノマー又は/及びオリゴマーの抽出剤、重合触媒の可溶化剤、重合触媒の失活剤」の群から選ばれた少なくとも1種の化合物を含み、且つ下方から上方へ送られる水系洗浄液と接触させる工程(A)の少なくとも一つと、該ペレットを容器内で重力に逆らって下方から上方へ移動させつつ、上方から下方へ送られる水系洗浄液と接触させる工程の少なくとも一つとを有する、脂肪族ポリエステルのペレットの洗浄方法が開示されている。この文献には、水系洗浄液中の膨潤剤又は/およびモノマー/オリゴマーの抽出剤は、脂肪族ポリエステルを膨潤させたりその内部に侵入して、ポリマー中のモノマー、オリゴマー、触媒、触媒可溶化剤、触媒失活剤などの拡散や抽出を容易にするもので、たとえばメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ヘキサノール、オクタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールその他のアルコール類などが挙げられることが記載されている。
【0011】
しかしながら、前記特許文献6においてもセルロースアシレートなどのグルカン誘導体に環状エステルがグラフトしたグラフト重合体の洗浄については何ら記載されていない。特に、実施例においては水系洗浄液によって脂肪族ポリエステルから残存モノマーと触媒の中心金属が除去されることが開示されているのみでオリゴマーの抽出除去に関しては開示されていない。また、抽出溶媒として水系洗浄液を用いることは、安全性の観点から有効ではあるが、水と有機溶媒の混合液は精製・再生・焼却に多大なエネルギーを要し、工業的規模で実施するには経済的に不利である。
【特許文献1】特開昭59−86621号公報(特許請求の範囲、第2頁左上及び右上欄、実施例)
【特許文献2】特開昭60−188401号公報(特許請求の範囲、第2頁右下欄、実施例)
【特許文献3】特開2001−181302号公報(特許請求の範囲、段落番号[0023]、段落番号[0029]、実施例)
【特許文献4】特許第3396537号公報(特許請求の範囲、段落番号[0007][0008][0016])
【特許文献5】特開2005−162890号公報(特許請求の範囲、段落番号[0057]〜[0060])
【特許文献6】特開平9−263629号公報(特許請求の範囲、段落番号[0013])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従って、本発明の目的は、ヒドロキシ酸成分の単独重合体(ポリラクトンなど)を効率よく低減できるヒドロキシ酸変性グルカン誘導体(例えば、環状エステル変性セルロースアシレートなど)の製造方法を提供することにある。
【0013】
本発明の他の目的は、ヒドロキシ酸成分の単独重合体(ポリラクトンなど)やヒドロキシ酸成分(未反応モノマー)などの不用成分(又は不純物)の割合が大きく低減されたヒドロキシ酸変性グルカン誘導体を工業的に有利に製造する方法を提供することにある。
【0014】
本発明のさらに他の目的は、着色が抑制されたヒドロキシ酸変性グルカン誘導体を簡便にかつ効率よく製造する方法を提供することにある。
【0015】
本発明の別の目的は、ヒドロキシ酸成分の単独重合体(ポリラクトンなど)やヒドロキシ酸成分(未反応モノマー)などの不用成分(又は不純物)の割合が大きく低減されたヒドロキシ酸変性グルカン誘導体およびこのヒドロキシ酸変性グルカン誘導体で形成された成形体(特に光学用成形体)を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、グルカン誘導体(例えば、セルロースアセテートなど)に、ラクトンなどのヒドロキシ酸成分をグラフト重合させて得られるヒドロキシ酸変性グルカン誘導体を、特定の溶媒で抽出処理すると、再沈殿処理などの煩雑な処理を行わなくても、前記ヒドロキシ酸変性グルカン誘導体からヒドロキシ酸成分の単独重合体(ポリラクトン)などを効率よく除去できることを見出し、本発明を完成した。
【0017】
すなわち、本発明の製造方法は、グルカン誘導体のヒドロキシル基にヒドロキシ酸成分がグラフト重合したヒドロキシ酸変性グルカン誘導体を製造する方法であって、(1)グルカン誘導体とヒドロキシ酸成分とを反応させてヒドロキシ酸変性グルカン誘導体を含む反応混合物を得るグラフト反応工程と、(2)前記反応混合物を、抽出溶媒により抽出処理する抽出工程とを少なくとも含むヒドロキシ酸変性グルカン誘導体の製造方法である。
【0018】
前記グラフト反応工程(1)において、グルカン誘導体としては、例えば、セルロースアシレートを使用してもよく、ヒドロキシ酸成分としては、例えば、C4−10ラクトンおよびC4−10環状ジエステルから選択された少なくとも1種を使用してもよい。また、前記グラフト反応工程(1)において、通常、溶媒を使用し、かつ単独でヒドロキシ酸成分の重合を開始しない金属錯体を触媒として使用してもよい。このようなグラフト反応工程と抽出工程とを組み合わせると、より一層ヒドロキシ酸成分の単独重合体などの不純物を効率よく除去できる。
【0019】
前記グラフト反応工程(1)は、代表的には、(1A)溶媒中、グルカン誘導体とヒドロキシ酸成分とを反応させて液体状の反応混合物を得る反応工程と、(1B)前記液体状の反応混合物を、固体状の反応混合物に変化させる固化工程とで構成されていてもよい。
【0020】
また、前記固化工程(1B)において、液体状の反応混合物から再沈殿させることなく固体状の反応混合物を調製してもよい。本発明では、このように再沈殿などを要しなくても前記不純物を低減でき、工業的に有利である。
【0021】
前記固化工程(1B)において、液体状の反応混合物を脱揮処理(特に反応系外で脱揮処理)したのち、固体状の反応混合物を調製してもよい。このような脱揮処理により、より一層効率よく不純物(溶媒、未反応のヒドロキシ酸成分)の除去を行うことができる。また、固化工程(1B)において、固体状の反応混合物の形状は、ペレット状などの微細形状であってもよい。このような固化工程(1B)において、固体状の反応混合物(特に、ペレット状の反応混合物)の嵩密度は、例えば、0.4〜1.0g/ml程度であってもよい。このような微細形状の反応混合物とすることにより、抽出に供する反応混合物の取扱性や抽出効率を向上できる。
【0022】
また、前記抽出工程(2)において、抽出溶媒は、ヒドロキシ酸変性グルカン誘導体を膨潤させる溶媒であってもよい。また、前記抽出工程(2)において、抽出溶媒は、非ハロゲン系溶媒であってもよい。代表的には、前記抽出工程(2)において、抽出溶媒は、C1−3アルカノールおよびC6−10アレーンから選択された少なくとも1種であってもよい。また、抽出工程(2)において、より効率よく抽出を行うため、抽出処理を加熱下で行ってもよい。なお、抽出工程(2)において、抽出処理は、例えば、浸漬抽出、カラム抽出及び向流抽出から選択された少なくとも1種の抽出処理であってもよい。また、抽出工程(2)において、複数回に分割して回分的に浸漬抽出することにより抽出処理してもよい。
【0023】
本発明の製造方法では、前記のような不純物の含有量において著しく小さいヒドロキシ酸変性グルカン誘導体が得られる。例えば、本発明の製造方法は、ヒドロキシ酸変性グルカン誘導体全体に対して、ヒドロキシ酸成分の単独重合体の割合が、2重量%以下およびヒドロキシ酸成分の割合が0.5重量%以下であり、かつ酸価が2mgKOH/g以下であるヒドロキシ酸変性グルカン誘導体を製造する方法であってもよい。また、本発明の製造方法では、再沈殿処理などを行わなくても、ヒドロキシ酸変性グルカン誘導体の着色を低減できる。そのため、本発明の製造方法は、ハーゼン色数が100以下のヒドロキシ酸変性グルカン誘導体を製造する方法であってよい。
【0024】
また、本発明には、グルカン誘導体のヒドロキシル基にヒドロキシ酸成分がグラフト重合したヒドロキシ酸変性グルカン誘導体であって、グラフト重合したヒドロキシ酸成分の割合が、グルカン誘導体のグルコース単位1モルに対して、ヒドロキシ酸換算で平均0.001〜5モルであり、ヒドロキシ酸変性グルカン誘導体全体に対して、ヒドロキシ酸成分の単独重合体の割合が、2重量%以下およびヒドロキシ酸成分の割合が0.5重量%以下であり、かつ酸価が2mgKOH/g以下であるヒドロキシ酸変性グルカン誘導体も含まれる。このようなヒドロキシ酸変性グルカン誘導体のハーゼン色数は、100以下であってもよい。
【0025】
本発明のヒドロキシ酸変性グルカン誘導体は、光学的特性に優れているため、特に、光学用途に用いるためのヒドロキシ酸変性グルカン誘導体であってもよい。また、本発明には、前記ヒドロキシ酸変性グルカン誘導体で形成された成形体[例えば、光学用成形体(特に、光学フィルム)]も含まれる。
【0026】
なお、本明細書において、「平均置換度」とは、グルコース単位の2,3および6位のヒドロキシル基のうち、誘導体化(エーテル化、エステル化、グラフト化など)されたヒドロキシル基(例えば、アシル基、グラフト鎖)の置換度(置換割合)の平均(又はグルコース単位の2,3および6位における誘導体化されたヒドロキシル基の平均モル数)を意味し、セルロースエステルなどにおける「平均置換度」と同意である。
【0027】
また、本明細書において、「ヒドロキシ酸成分」とは、ヒドロキシ酸のみならず、ヒドロキシ酸の低級アルキルエステル(例えば、C1−2アルキルエステル)、ヒドロキシ酸の環状エステルも含む意味に用いる。
【0028】
さらに、本明細書において、用語「ヒドロキシ酸変性グルカン誘導体」とは、ヒドロキシ酸変性グルカン誘導体のみならず、ヒドロキシ酸成分の単独重合体(例えば、ヒドロキシ酸変性グルカン誘導体の製造又は合成において副生する重合体、すなわち、グルカン誘導体にグラフト化せず、ヒドロキシ酸成分そのものが単独重合したポリマー又はオリゴマー)を含む意味に用いる場合がある。また、単に「変性グルカン誘導体」と記載することもある。なお、「ヒドロキシ酸成分の単独重合体」とは、グルカン誘導体にグラフト化していない重合体であり、単一のヒドロキシ酸成分が重合した重合体および複数のヒドロキシ酸成分が重合した共重合体を含む意味に用いる。
【発明の効果】
【0029】
本発明の製造方法では、特定の溶媒を用いた抽出処理により、ヒドロキシ酸変性グルカン誘導体(例えば、環状エステル変性セルロースアシレートなど)におけるヒドロキシ酸成分の単独重合体(ポリラクトンなど)の割合を効率よく低減できる。特に、前記抽出処理により、再沈殿操作などを行わなくても、ヒドロキシ酸成分の単独重合体(ポリラクトンなど)やヒドロキシ酸成分(未反応モノマー)などの不用成分(又は不純物)の割合が大きく低減されたヒドロキシ酸変性グルカン誘導体を工業的に有利に製造できる。また、本発明では、着色が抑制されたヒドロキシ酸変性グルカン誘導体を簡便にかつ効率よく製造できる。そして、このような本発明の方法で得られるヒドロキシ酸変性グルカン誘導体では、前記のような不用成分、特に、ヒドロキシ酸成分の単独重合体や未反応のヒドロキシ酸成分の含有割合が高いレベルで低減されているため低酸価であり、耐加水分解性に優れている。また、グラフト化反応工程で使用する原料や反応条件などを選択し、特定の抽出処理と組み合わせることにより、耐熱性や光学的特性において優れたヒドロキシ酸変性グルカン誘導体を製造することができる。
【0030】
そのため、本発明では、ヒドロキシ酸成分の単独重合体(ポリラクトンなど)やヒドロキシ酸成分(未反応モノマー)などの不用成分(又は不純物)の割合が大きく低減されたヒドロキシ酸変性グルカン誘導体、さらには、このヒドロキシ酸変性グルカン誘導体で形成された成形体(特に光学用成形体)も提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
[製造方法]
本発明の製造方法は、グルカン誘導体のヒドロキシル基にヒドロキシ酸成分がグラフト重合したヒドロキシ酸変性グルカン誘導体(詳細には、グルカン誘導体と、このグルカン誘導体のヒドロキシル基に、ヒドロキシ酸成分がグラフト重合して形成されたグラフト鎖とで構成されているヒドロキシ酸変性グルカン誘導体)を製造する方法であって、(1)グルカン誘導体とヒドロキシ酸成分とを反応させてヒドロキシ酸変性グルカン誘導体を含む反応混合物を得るグラフト反応工程と、(2)前記反応混合物を、特定の抽出溶媒により抽出処理する抽出工程とを少なくとも含むヒドロキシ酸変性グルカン誘導体の製造方法である。
【0032】
(1)グラフト反応工程
(グルカン誘導体)
グラフト反応工程(1)において、グルカン誘導体(ヒドロキシル基を有するグルカン誘導体)としては、ヒドロキシ酸成分がグラフト重合するためのヒドロキシル基を有している限り特に限定されないが、通常、グルカンのグルコース単位のヒドロキシル基の一部が誘導体化(エーテル化、エステル化など)されたグルカン誘導体であってもよい。すなわち、前記グルカン誘導体は、グルカンのグルコース単位(又はグルコース骨格)に含まれるヒドロキシル基(グルコース単位の2,3および6位に位置するヒドロキシル基)に、アシル基などが置換(結合)して誘導体化されたグルカン誘導体であって、前記ヒドロキシル基の一部が残存したグルカン誘導体である場合が多い。ヒドロキシル基を有するグルカン誘導体は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0033】
グルカンとしては、特に限定されず、例えば、β−1,4−グルカン、α−1,4−グルカン、β−1,3−グルカン、α−1,6−グルカンなどが挙げられる。代表的なグルカンとしては、例えば、セルロース、アミロース、デンプン、レンチナン、デキストランなどの多糖類が挙げられる。これらのグルカンうち、産業的な観点から、セルロース、デンプン(又はアミロース)が好ましく、特に、セルロースが好ましい。グルカンは、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0034】
具体的なグルカン誘導体としては、例えば、エーテル化されたグルカン、エステル化されたグルカンなどが挙げられる。以下に、代表的なグルカン誘導体として、セルロース誘導体について詳述する。
【0035】
セルロース誘導体としては、セルロースエーテル[例えば、アルキルセルロース(例えば、C1−4アルキルセルロース)、ヒドロキシルアルキルセルロース(例えば、ヒドロキシC2−4アルキルセルロースなど)、ヒドロキシアルキルアルキルセルロース(ヒドロキシC2−4アルキルC1−4アルキルセルロースなど)、シアノアルキルセルロース、カルボキシアルキルセルロース(カルボキシメチルセルロースなど)など]、セルロースエステル(セルロースアシレート;硝酸セルロース、リン酸セルロースなどの無機酸エステル;硝酸酢酸セルロースなどの無機酸及び有機酸の混酸セルロースエステルなど)などが挙げられる。
【0036】
好ましいセルロース誘導体には、アシルセルロース(又はセルロースアシレート)が含まれる。セルロースアシレートにおいて、アシル基は、用途に応じて適宜選択でき、例えば、アルキルカルボニル基[例えば、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基などのC2−10アルキルカルボニル基(例えば、C2−8アルキルカルボニル基、好ましくはC2−6アルキルカルボニル基、さらに好ましくはC2−4アルキルカルボニル基)など]、シクロアルキルカルボニル基(例えば、シクロヘキシルカルボニル基などのC5−10シクロアルキルカルボニル基など)、アリールカルボニル基(例えば、ベンゾイル基、カルボキシベンゾイル基などのC7−12アリールカルボニル基など)などが挙げられる。アシル基は、単独で又は2種以上組み合わせてセルロースのグルコース単位に結合していてもよい。これらのアシル基のうち、アルキルカルボニル基が好ましい。特に、これらのアシル基のうち、少なくともアセチル基がグルコース単位に結合しているのが好ましく、例えば、アセチル基のみが結合していてもよく、アセチル基と他のアシル基(C3−4アシル基など)とが結合していてもよい。
【0037】
代表的なセルロースアシレートとしては、セルロースアセテート(酢酸セルロース)、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートなどのセルロースC2−6アシレート、好ましくはセルロースC2−4アシレートなどが挙げられ、特にセルロースアセテート(特に、セルロースジアセテート又はセルローストリアセテート)が好ましい。
【0038】
グルカン誘導体(特に、セルロース誘導体、例えば、セルロースアセテートなどのセルロースアシレート)において、平均置換度(アシル基などの平均置換度、グルコース単位の2,3および6位における誘導体化されたヒドロキシル基のグルコース単位1モルあたりの平均モル数)は、0.5〜2.999の範囲から選択でき、例えば、0.5〜2.99(例えば、0.7〜2.98)、好ましくは0.8〜2.97(例えば、1〜2.96)、さらに好ましくは1.5〜2.95[例えば、1.7以上(例えば、1.8〜2.95、好ましくは1.9〜2.93)]、特に2.25以上[例えば、2.3以上(例えば、2.3〜2.95)、好ましくは2.35〜2.93(例えば、2.38〜2.88)、さらに好ましくは2.4以上(例えば、2.5〜2.85)]であってもよく、通常2〜2.95(例えば、2.05〜2.92)であってもよい。比較的高い置換度[例えば、平均置換度2.25以上(例えば、2.3以上、好ましくは2.4以上)]を有するグルカン誘導体を用いると、吸湿性などの点において有利である(吸湿性は低いほうが望ましい)。また、比較的高い置換度を有するグルカン誘導体は、グルカン誘導体の含水率を低減しやすい。そのため、ヒドロキシ酸変性グルカン誘導体の製造において、ヒドロキシ酸成分の単独重合体の生成を十分に低減するのに有用である。しかも、含水率を低減しやすいため、成形品の寸法安定性に優れ、屈折率の変化を低減できる。なお、ヒドロキシ酸成分が、ラクトン成分とα−ヒドロキシ酸成分[α−ヒドロキシ酸及び環状ジエステルから選択された少なくとも1種(例えば、乳酸及び/又はラクチド)]とで構成されている場合、グルカン誘導体において、アシル基などの平均置換度は、特に、2.6以下[例えば、1.5〜2.55、好ましくは2.5未満(例えば、1.7〜2.49)、さらに好ましくは1.8〜2.48、通常1.9〜2.46(例えば、2〜2.45)程度]であってもよい。このような平均置換度を有するグルカン誘導体を用いると、ヒドロキシ酸成分をα−ヒドロキシ酸成分で構成しても、グラフトによりグルカン誘導体を可塑化しやすく、熱可塑化の観点で有利である。
【0039】
また、グルカン誘導体(例えば、セルロースアシレートなどのセルロース誘導体)において、ヒドロキシル基(残存するヒドロキシル基、グルコース単位のヒドロキシル基)の割合は、特に制限されないが、グルコース単位1モルに対して、例えば、平均0.01〜2.5モル(例えば、0.05〜2モル)、好ましくは0.1〜1.5モル(例えば、0.2〜1.2モル)、さらに好ましくは0.3〜1モル(例えば、0.4〜0.7モル)程度であってもよい。
【0040】
グルカン誘導体(又はグルカン)の重合度は、ヒドロキシ酸変性グルカン誘導体を所望の目的に使用できれば特に制限はなく、現在工業的に入手可能な市販品と同程度であれば好適に使用可能である。例えば、グルカン誘導体の平均重合度(粘度平均重合度)は、70以上(例えば、80〜800)の範囲から選択でき、100〜500、好ましくは110〜400、さらに好ましくは120〜350程度であってもよい。
【0041】
反応に使用するグルカン誘導体は、反応におけるヒドロキシ酸成分(例えば、環状エステル)のホモポリマーの生成をより一層効率よく抑制するため、水分含有量において極力少ないグルカン誘導体(例えば、脱水処理又は乾燥処理されたグルカン誘導体)であってもよい。前記グルカン誘導体の水分含有量は、例えば、2重量%以下[0(又は検出限界)〜1.5重量%程度]、好ましくは1重量%以下(例えば、0.001〜0.8重量%程度)、さらに好ましくは0.5重量%以下(例えば、0.005〜0.3重量%程度)、特に0.08重量%以下(例えば、0.01〜0.05重量%程度)であってもよい。
【0042】
なお、グルカン誘導体の水分含有量は、熱風乾燥や減圧乾燥などの慣用の乾燥処理などにより低減することができる。乾燥処理は、加温下(例えば、40〜200℃、好ましくは50〜180℃、さらに好ましくは70〜150℃程度)で行ってもよい。減圧乾燥の減圧度はできるだけ高いこと(すなわち、圧力が低いこと)が好ましく、例えば、減圧乾燥における圧力は、200Torr以下(例えば0.0001〜100Torr程度)、好ましくは20Torr以下(例えば0.001〜10Torr程度)、さらに好ましくは5Torr以下(例えば0.01〜2Torr程度)であり、特に1Torr以下(例えば、0.1〜0.8Torr程度)であってもよい。
【0043】
グルカン誘導体の乾燥処理はグラフト反応工程(1)の前に行うことができ、反応に使用する反応器(又は反応槽)内で行ってもよく、また、前記反応器(又は反応槽)とは異なる処理槽又は乾燥用装置によって予め行ってもよい。
【0044】
反応に使用するグルカン誘導体(セルロースアシレートなど)は、市販の化合物(例えば、セルロースアセテートなど)を使用してもよく、慣用の方法により合成してもよい。例えば、セルロースアシレートは、通常、セルロースをアシル基に対応する有機カルボン酸(酢酸など)により活性化処理した後、硫酸触媒を用いてアシル化剤(例えば、無水酢酸などの酸無水物)によりトリアシルエステル(特に、セルローストリアセテート)を調製し、過剰量のアシル化剤(特に、無水酢酸などの酸無水物)を不活性化し、脱アシル化又はケン化(加水分解又は熟成)によりアシル化度を調整することにより製造できる。アシル化剤としては、酢酸クロライドなどの有機酸ハライドであってもよいが、通常、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸などのC2−6アルカンカルボン酸無水物などが使用できる。
【0045】
一般的なセルロースアシレートの製造方法については、「木材化学(上)」(右田ら、共立出版(株)1968年発行、第180頁〜第190頁)を参照できる。また、他のグルカン(例えば、デンプンなど)についても、セルロースアシレートの場合と同様の方法でアシル化(および脱アシル化)できる。
【0046】
(ヒドロキシ酸成分)
ヒドロキシ酸成分としては、ヒドロキシ酸、環状エステルなどが挙げられる。これらのヒドロキシ酸成分は単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0047】
ヒドロキシ酸(オキシカルボン酸)としては、脂肪族オキシカルボン酸、例えば、グリコール酸、乳酸(L−乳酸、D−乳酸、又はこれらの混合物(又はD,L−乳酸))、ヒドロアクリル酸、α−オキシ酪酸、6−ヒドロキシヘキサン酸などのヒドロキシC2−10アルカンカルボン酸(好ましくはα−ヒドロキシC2−6アルカンカルボン酸、さらに好ましくはα−ヒドロキシC2−4アルカンカルボン酸)などが例示できる。なお、ヒドロキシ酸は、低級アルキルエステル(例えば、C1−2アルキルエステル)化されていてもよい。これらのヒドロキシ酸のうち、特に、α−ヒドロキシ酸[特に、乳酸(L−乳酸、D―乳酸、又はこれらの混合物)]が好ましい。ヒドロキシ酸は単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0048】
環状エステルとしては、分子内に少なくとも1つのエステル基(−COO−)を有し、かつ、グルカン誘導体に対してグラフト可能な化合物であれば特に限定されず、例えば、ラクトン(又は環状モノエステル、例えば、β−プロピオラクトン、β−ブチロラクトン、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン、ラウロラクトン、エナントラクトン、ドデカノラクトン、ステアロラクトン、α−メチル−ε−カプロラクトン、β−メチル−ε−カプロラクトン、γ−メチル−ε−カプロラクトン、β,δ−ジメチル−ε−カプロラクトン、3,3,5−トリメチル−ε−カプロラクトンなどのC3−20ラクトン、好ましくはC4−15ラクトン、さらに好ましくはC4−10ラクトン)、環状ジエステル(例えば、グリコリド、ラクチド(L−ラクチド、D−ラクチド又はこれらの混合物)などのC4−15環状ジエステル、好ましくはC4−10環状ジエステルなど)などが挙げられる。
【0049】
これら環状エステルのうち、好ましい環状エステルとしては、得られるヒドロキシ酸変性グルカン誘導体の溶融成形性や機械的物性が使用目的に適合するように適宜選択が可能であり、例えば、C4−10ラクトン(例えば、β−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトンなどのC5−8ラクトン)、C4−10環状ジエステル[ラクチド(L−ラクチド、D−ラクチド、又はそれらの混合物)など]が挙げられる。より好ましい環状エステルとしては、例えば、ε−カプロラクトン、ラクチド(L−ラクチド、D−ラクチド、又はそれらの混合物)などが挙げられる。
【0050】
環状エステルは、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。2種以上組み合わせる場合、好ましい組合せとしては、例えば、ε−カプロラクトンとラクチド(L−ラクチド、D−ラクチド、又はそれらの混合物)との組み合わせなどが例示できる。
【0051】
これらのヒドロキシ酸成分のうち、本発明では、特に、環状エステル(例えば、C4−10ラクトン、C4−10環状ジエステルなど)を好適に用いることができる。
【0052】
グラフト反応工程において、ヒドロキシ酸成分の割合(使用割合)は、特に制限されず、グルカン誘導体100重量部に対して、例えば、1〜300重量部(例えば、5〜250重量部)、好ましくは10〜200重量部、さらに好ましくは15〜150重量部(例えば、20〜120重量部)程度であってもよく、通常110重量部以下(例えば、5〜105重量部、好ましくは8〜100重量部、さらに好ましくは10〜90重量部、特に15〜80重量部)程度であってもよい。
【0053】
反応に使用するヒドロキシ酸成分の水分含有量はできるだけ少ないことが好ましく、例えば、0.5重量%以下[0(又は検出限界)〜0.3重量%程度]、好ましくは0.2重量%以下(例えば、0.00001〜0.1重量%程度)、さらに好ましくは0.08重量%以下(例えば、0.0001〜0.05重量%程度)、特に0.01重量%以下(例えば、0.0003〜0.008重量%程度)であってもよい。
【0054】
(グラフト重合触媒)
グラフト反応工程(1)は、ヒドロキシ酸成分の種類(例えば、環状エステル)にもよるが、慣用の触媒[例えば、有機酸類、無機酸類、金属(アルカリ金属、マグネシウム、亜鉛、スズ、アルミニウムなど)、金属化合物[スズ化合物(ジブチルチンラウレート、塩化スズ)、有機アルカリ金属化合物、有機アルミニウム化合物、有機チタン化合物(チタンアルコキシドなど)、有機ジルコニウム化合物など]など]の存在下で行ってもよい。触媒は、単独で又は2種以上組みあわせてもよい。
【0055】
特に、触媒(グラフト重合触媒)として、ヒドロキシ酸成分(環状エステルなど)のグラフト重合(特に、環状エステルを用いた開環重合反応)の触媒となる化合物であって、かつ、単独で重合を開始しない金属錯体(又は金属化合物)を使用してもよい。前記金属錯体は、環状エステルなどのヒドロキシル基を持たないモノマーと共存してもそれら2成分のみでは重合を開始せず、グルカン誘導体や系中に不純物として存在する水のような、ヒドロキシル基を有する化合物が存在して初めて重合を開始し得る。このような触媒(及び後述の特定溶媒)を使用することにより、触媒由来のヒドロキシ酸成分の単独重合体(ホモポリマー)の生成を著しく抑制できる。また、このような触媒(および後述の特定溶媒)を用いると、アシル基の置換度の低下を生じることがなく、グラフト重合後の生成物(すなわち、ヒドロキシ酸変性グルカン誘導体)において、原料としてのグルカン誘導体のアシル置換度を反映でき、所望のアシル置換度(およびグラフト鎖置換度)を有するヒドロキシ酸変性グルカン誘導体を効率よく得ることができる。
【0056】
前記金属錯体(金属化合物)は、中心金属とこの中心金属に配位する配位子とで構成されており、前記金属錯体を構成する具体的な配位子(又は環状エステルに対する重合開始活性を示さない配位子又は環状エステルに対して不活性な配位子)としては、例えば、一酸化炭素、ハロゲン原子(塩素原子など)、酸素原子、炭化水素[例えば、アルカン(C1−20アルカンなど)、シクロアルカン、アレーン(ベンゼン、トルエンなど)など]、β−ジケトン(アセチルアセトンなどのβ−C5−10ジケトンなど)、カルボン酸[例えば、アルカン酸(酢酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、2−エチルヘキサン酸などのC1−20アルカン酸)などの脂肪族カルボン酸;安息香酸などの芳香族カルボン酸など]、炭酸、ホウ酸などに対応する配位子(例えば、ハロ、アルキル、アシルアセトナト、アシル)などが挙げられる。これらの配位子は、単独で又は2種以上組み合わせて中心金属に配位していてもよい。
【0057】
代表的なグラフト重合触媒としては、アルコキシ基(及びヒドロキシル基)及び/又はアミノ基(第3級アミノ基以外のアミノ基)を配位子として有しない金属錯体、例えば、アルカリ金属化合物(炭酸アルカリ金属塩、酢酸ナトリウムなどのカルボン酸アルカリ金属塩など)、アルカリ土類金属化合物(例えば、炭酸アルカリ土類金属塩、酢酸カルシウムなどのカルボン酸アルカリ土類金属塩)、亜鉛化合物(酢酸亜鉛、アセチルアセトネート亜鉛など)、アルミニウム化合物(例えば、トリアルキルアルミニウム)、ゲルマニウム化合物(例えば、酸化ゲルマニウムなど)、スズ化合物[例えば、スズカルボキシレート(例えば、オクチル酸スズ(オクチル酸第一スズなど)などのスズC2−18アルカンカルボキシレート、好ましくはスズC4−14アルカンカルボキシレート)、アルキルスズカルボキシレート(例えば、ジブチルスズジアセテート、ジブチルスズジラウレート、モノブチルスズトリオクチレートなどのモノ又はジC1−12アルキルスズC2−18アルカンカルボキシレートなど)などのスズ(又はチン)カルボキシレート類;アルキルスズオキサイド(例えば、モノブチルスズオキシド、ジブチルスズオキシドなどのモノ又はジアルキルスズオキサイドなど);ハロゲン化スズ;ハロゲン化スズアセチルアセトナト;無機酸スズ(硝酸スズ、硫酸スズなど)など]、鉛化合物(酢酸鉛など)、アンチモン化合物(三酸化アンチモンなど)、ビスマス化合物(酢酸ビスマスなど)などの典型金属化合物又は典型金属錯体;希土類金属化合物(例えば、酢酸ランタン、酢酸サマリウムなどのカルボン酸希土類金属塩)、チタン化合物(酢酸チタンなど)、ジルコニウム化合物(酢酸ジルコニウム、ジルコニウムアセチルアセトネートなど)、ニオブ化合物(酢酸ニオブなど)、鉄化合物(酢酸鉄、鉄アセチルアセトナトなど)などの遷移金属化合物が挙げられる。
【0058】
これらの触媒のうち、特に、スズカルボキシレート類などのスズ錯体(又はスズ化合物)が好ましい。触媒は単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0059】
反応(グラフト重合反応)において、前記触媒の割合(使用割合)は、前記グルカン誘導体のヒドロキシル基1モルに対して、例えば、10−7〜10−1モル、好ましくは5×10−7〜5×10−2モル、さらに好ましくは10−6〜3×10−2モル程度であってもよい。
【0060】
(グラフト反応に用いる溶媒)
また、反応(グラフト重合反応)は、無溶媒又は溶媒中で行ってもよく、通常、溶媒中で行ってもよい。溶媒としては、例えば、炭化水素類、エーテル類(テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジオキソランなど)、エステル類(酢酸メチル、酢酸エチルなど)、窒素含有溶媒(ニトロメタン、アセトニトリル、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミドなど)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンなど)、スルホキシド類(ジメチルスルホキシドなど)などを使用してもよく、過剰のヒドロキシ酸成分(例えば、ラクトン、ラクチドなど)を溶媒に用いてもよい。溶媒は単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0061】
なお、環状エステルを用いた開環重合反応系では、前記特定の触媒に加えて、水に対する溶解度が小さい特定の溶媒を使用することにより、重合系又は反応における水の影響を極力抑えることができるためか、ヒドロキシ酸成分のホモポリマーの生成を高いレベルで抑制しつつヒドロキシ酸変性グルカン誘導体を得ることができる。具体的には、グラフト重合反応に用いる溶媒の20℃における水に対する溶解度は、10重量%以下[例えば、0(又は検出限界)〜8重量%]の範囲から選択でき、例えば、7重量%以下(例えば、0.0001〜6重量%程度)、好ましくは5重量%以下(例えば、0.0005〜4重量%程度)、さらに好ましくは3重量%以下(例えば、0.0008〜2重量%程度)、特に1重量%以下(例えば、0.001〜0.8重量%、好ましくは0.002〜0.5重量%、さらに好ましくは0.003〜0.3重量%程度)であってもよい。
【0062】
水に対する溶解度が小さい溶媒としては、具体的には、例えば、脂肪族炭化水素類[例えば、アルカン(例えば、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカンなどのC7−20アルカンなど)、シクロアルカン(例えば、シクロヘキサンなどのC4−10シクロアルカン)など]、芳香族炭化水素類(例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン(o,m又はp−キシレン)、エチルベンゼンなどのC6−12アレーン、好ましくはC6−10アレーン)、脂肪族ケトン類[例えば、ジアルキルケトン(例えば、ジエチルケトン、メチルn−プロピルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルn−ブチルケトン、ジn−プロピルケトン、ジイソプロピルケトン、ジイソブチルケトンなどのC5−15ジアルキルケトン、好ましくはC7−10ジアルキルケトン)など]、鎖状エーテル類[例えば、ジアルキルエーテル(C6−10ジアルキルエーテルなど)、アルキルアリールエーテル(アニソールなど)など]などの非ハロゲン系溶媒、ハロゲン系溶媒などが挙げられる。ハロゲン系溶媒としては、例えば、ハロアルカン(例えば、ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン、ジクロロプロパンなどのハロC1−10アルカン)、ハロシクロアルカン(クロロシクロヘキサンなどのハロC4−10シクロアルカン)、ハロゲン系芳香族炭化水素類(クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、クロロトルエン、クロロメチルベンゼン、クロロエチルベンゼンなどのハロC6−12アレーン、好ましくはハロC6−10アレーンなど)などのハロゲン化炭化水素類などが挙げられる。
【0063】
溶媒は、脱水処理されていてもよい。脱水処理された溶媒を使用すると、オリゴマーの副生をより一層抑制しやすくなる。溶媒の水分含有量はできるだけ少ないことが好ましく、例えば、0.5重量%以下[0(又は検出限界)〜0.3重量%程度]、好ましくは0.2重量%以下(例えば、0.00001〜0.1重量%程度)、さらに好ましくは0.08重量%以下(例えば、0.0001〜0.05重量%程度)、特に0.01重量%以下(例えば、0.0003〜0.008重量%程度)であってもよい。
【0064】
溶媒の割合は、溶媒の種類などにもよるが、グルカン誘導体100重量部に対して、50重量部以上(例えば、55〜500重量部程度)の範囲から選択でき、例えば、60〜450重量部(例えば、65〜400重量部)、好ましくは60〜300重量部(例えば、65〜250重量部)、さらに好ましくは70〜200重量部(例えば、75〜190重量部)、特に80〜180重量部(例えば、85〜170重量部、好ましくは90〜150重量部)程度であってもよい。また、溶媒の割合は、グルカン誘導体及びヒドロキシ酸成分の総量100重量部に対して、例えば、10〜200重量部、好ましくは30〜150重量部、さらに好ましくは40〜120重量部(例えば、50〜100重量部)、通常45〜90重量部(例えば、50〜80重量部)程度であってもよい。
【0065】
また、水に対する溶解度が小さい溶媒(20℃における水に対する溶解度が10重量%以下の溶媒)で溶媒を構成する場合、溶媒全体に対する前記水に対する溶解度が小さい溶媒の割合は、例えば、30重量%以上(例えば、35〜100重量%程度)、好ましくは40重量%以上(例えば、45〜99重量%程度)、さらに好ましくは50重量%以上(例えば、55〜95重量%程度)、特に60重量%以上(例えば、65〜90重量%程度)であってもよい。
【0066】
(グルカン誘導体の溶解)
グルカン誘導体とヒドロキシ酸成分との反応は、グルカン誘導体とヒドロキシ酸成分を単に接触させただけの不均一な状態で行ってもよく、通常、反応を効率よく行うため、均一に溶解(又は分散、或いは混合)した状態で行ってもよい。このため、前記グラフト反応工程(1)は、グルカン誘導体を溶解(又は分散、或いは混合)する溶解工程を含んでいてもよい。
【0067】
溶解工程を行う場合は、ヒドロキシ酸成分のみにグルカン誘導体を溶解させてもよいが、通常、反応を効率よく行うために、前記のような溶媒(又は希釈剤)を溶解工程にも用いることが可能である。溶媒を使用する場合は、投入方法などに特に制限はないが、例えば、(1)ヒドロキシ酸成分および溶媒にグルカン誘導体を溶解してもよく、(2)ヒドロキシ酸成分にグルカン誘導体を溶解したのち、溶媒を混合してもよく、(3)溶媒にグルカン誘導体を溶解したのち、ヒドロキシ酸成分を混合してもよい。
【0068】
溶解工程では、前記グラフト重合触媒を添加することも可能であるが、通常、反応を均一に効率よく進行させるため、溶解工程の後に前記グラフト重合触媒を添加してもよい。特に、溶解工程後、グラフト重合触媒を混合してグラフト反応を行ってもよい。
【0069】
溶解工程は、溶解工程に用いる溶媒及び/又はヒドロキシ酸成分を留去しながら脱水する処理(すなわち共沸処理)を含んでいてもよい。共沸処理を行う場合は、溶解混合物全体の含水量を高いレベルで低減できるため、オリゴマー(ヒドロキシ酸成分の単独重合体)の副生をより一層抑制しやすくなる。
【0070】
(その他反応条件)
反応(グラフト化反応)は、常温下で行ってもよく、通常、反応を効率よく行うため、加温下で行ってもよい。具体的な反応温度は、溶媒の種類にもよるが、例えば、60〜250℃、好ましくは80〜220℃、さらに好ましくは100〜190℃(例えば、105〜180℃)、通常110〜170℃程度であってもよい。
【0071】
反応は、空気中又は不活性雰囲気(窒素、ヘリウムなどの希ガスなど)中で行ってもよく、通常不活性雰囲気下で行うことができる。また、反応は、常圧又は加圧下で行ってもよい。さらに、グラフト化は、攪拌しながら行ってもよい。
【0072】
なお、反応は、ヒドロキシ酸成分のホモポリマーの生成や副反応を効率よく抑えるため、出来る限り水分が少ない状態で行ってもよい。例えば、反応(特に、開環重合反応)において、グルカン誘導体、ヒドロキシ酸成分、および溶媒の総量に対する水分含有量は、例えば、0.3重量%以下[0(又は検出限界)〜0.25重量%程度]、好ましくは0.2重量%以下(例えば、0.0001〜0.18重量%程度)、さらに好ましくは0.15重量%以下(例えば、0.0005〜0.12重量%程度)、特に0.1重量%以下(例えば、0.001〜0.05重量%程度)であってもよい。
【0073】
グラフト重合反応において、反応時間は、特に制限されないが、例えば、10分〜24時間、好ましくは30分〜10時間、さらに好ましくは1〜6時間程度であってもよい。
【0074】
なお、本発明のヒドロキシ酸変性グラフト誘導体は、後述するように、通常、ヒドロキシル基を有している。このようなヒドロキシル基には、グラフト鎖の末端のヒドロキシル基、グルコース単位に残存したヒドロキシル基などが挙げられる。このようなヒドロキシル基は、変性グラフト誘導体の吸湿性を抑制又は調整するなどの目的により、必要に応じて保護基[例えば、アルキル基(メチル基、エチル基などのC1−10アルキル基)、シクロアルキル基(例えば、シクロヘキシル基など)、芳香族炭化水素基(フェニル基など)、架橋環式炭化水素基(アダマンチル基など)などの炭化水素基;アルコキシアルキル基(例えば、C1−6アルコキシ−C1−6アルキル基)などのアセタール系保護基;アルキルカルボニル基(アセチル、プロピオニルなどのC1−10アルキルカルボニル基)などのアシル基など]により保護してもよい。ヒドロキシル基及び/又はカルボキシル基を保護する場合、保護は、前記反応(グラフト化)で得られた生成物を分離(及び精製)し、この分離(及び精製)したグラフト生成物と、前記保護基に対応する保護剤[例えば、酸ハライド、酸無水物などのアシル化剤、アルケニルアシレート(例えば、酢酸イソプロペニルなど)などのヒドロキシル基の保護剤;カルボジイミド化合物などのカルボキシル基の保護剤など]とを反応させて行ってもよく、前記グラフト化と同一の反応系で連続して行ってもよい。同一の反応系で行う場合、反応系の粘度を下げるため、必要に応じて、溶媒を添加してもよく、グラフト化において予め多量又は過剰量のヒドロキシ酸成分を使用し、この過剰量のヒドロキシ酸成分を溶媒として用いてもよい。
【0075】
また、ヒドロキシ酸変性グルカン誘導体は、わずかであるが、カルボキシル基を有している場合がある。このようなカルボキシル基もまた、前記ヒドロキシル基と同様に保護(又は封止)してもよい。
【0076】
このようなグラフト反応工程(1)により、ヒドロキシ酸変性グルカン誘導体を含む反応混合物が得られる。すなわち、このような反応混合物には、目的とするヒドロキシ酸変性グルカン誘導体に加えて、不用成分(または不純物、すなわち、ヒドロキシ酸成分の単独重合体、溶媒、未反応のヒドロキシ酸成分など)を含んでいる。なお、前記反応混合物は、前記のように、通常、溶媒中、グルカン誘導体とヒドロキシ酸成分とを反応させて得られる反応混合物であり、液状(又は液体状又は液体状態)の反応混合物、すなわち、反応混合液である場合が多い。
【0077】
前記反応混合物(又は反応混合液)に含まれるヒドロキシ酸成分の単独重合体の量は、例えば、ヒドロキシ酸変性グルカン誘導体100重量部に対して0.01〜200重量部、好ましくは0.1〜100重量部、さらに好ましくは0.5〜50重量部(例えば、1〜30重量部)程度であってもよい。また、反応混合物(又は反応混合液)に含まれる未反応モノマー(ヒドロキシ酸成分)の量は、例えば、ヒドロキシ酸変性グルカン誘導体100重量部に対して、0.005〜200重量部、好ましくは0.01〜100重量部、さらに好ましくは0.05〜50重量部(例えば、0.1〜30重量部)程度であってもよい。
【0078】
さらに、溶媒を含有する場合、反応混合物(又は反応混合液)に含まれる溶媒の量は、例えば、ヒドロキシ酸変性グルカン誘導体100重量部に対して10〜200重量部、好ましくは30〜150重量部、さらに好ましくは40〜120重量部(例えば、50〜100重量部)程度であってもよい。
【0079】
(固化工程)
本発明では、反応混合物(又は反応混合液)をそのまま抽出工程に供してもよいが、特に、前記反応混合液を固体状の反応混合物に調製し、抽出工程に供してもよい。すなわち、グラフト反応工程は、(1A)溶媒中、グルカン誘導体とヒドロキシ酸成分とを反応させて液体状の反応混合物(又は反応混合液)を得る反応工程と、(1B)前記液体状の反応混合物を固体状(又は固形状又は固体状態)の反応混合物に変化させる(又は調製又は成形する)固化工程とで構成してもよい。固体状とすることにより抽出工程及びその後の工程における取扱いが容易であり、工程全体を簡便に行うことができる。
【0080】
固化工程(1B)において、反応混合液は、予め、再沈殿などの慣用の方法を利用して精製(又は固化)されていてもよいが、特に、このような精製を行うことなく(特に再沈殿させることなく)固形状の反応混合物に調製される場合が多い。代表的には、固化工程(1B)では、反応混合液を(詳細には再沈殿させることなく)冷却し、固化してもよい。本発明では、固化工程(1B)の後に後述の抽出処理を行うことにより、再沈殿などを行うことなく、反応混合物から、ヒドロキシ酸成分の単独重合体や未反応モノマー(ヒドロキシ酸成分)、溶媒などの不用成分(又は不純物)を高いレベルで除去できる。
【0081】
固化工程(1B)において、反応混合液は適度な粘稠性を有していてもよい。反応混合液が適度な粘稠性を有していると、後述するように、反応混合液を反応系外に排出して冷却する場合、系外の気温や冷媒(空気などを含む)によって冷却しつつ、抽出工程を含む固化工程以降の工程での取扱いを容易または簡便にできるなどの利点がある。適度な粘稠性の目安としては、例えば、反応混合液の粘度が、せん断速度10sec−1において、10〜10000Pa・s、好ましくは100〜7000Pa・s、さらに好ましくは500〜3000Pa・s程度であってもよい。粘度の調整は、特に限定されず、例えば、グラフト反応における仕込み組成や反応条件の設定(反応器温度設定なども含む)により行ってもよく、粘度調整剤の添加によって行ってもよく、反応混合液の濃縮(揮発成分の留去)により行ってもよい。
【0082】
粘度調整を行う場合の反応器温度については、特に制限はないが、例えば、50〜250℃、好ましくは60〜220℃、さらに好ましくは80〜190℃(例えば、90〜180℃)、通常100〜170℃であってもよい。濃縮(揮発成分の留去)を行う場合、常圧下で不活性ガス(例えば、窒素、アルゴンなど)を通じることによって揮発成分を留去してもよいが、濃縮の効率を上げる目的で系を減圧してもよい。減圧する場合、減圧度は揮発成分の種類や量にもよるが、例えば、700Torr以下(例えば、0.5〜650Torr程度)、好ましくは600Torr以下(例えば、1〜550Torr程度)、さらに好ましくは500Torr以下(例えば、10〜450Torr程度)であり、特に400Torr以下(例えば100〜350Torr程度)であってもよい。
【0083】
反応混合液の冷却は、反応混合液を含む反応系内で(又は反応器内で)行ってもよく、系外(反応系外)で行ってもよい。反応混合液を系外に排出して冷却する場合、冷却方法としては、例えば、放冷(又は放置、外気による放冷)する方法、ガス(空気、不活性ガス(窒素、アルゴンなど)など)を吹き付ける方法、冷媒(水や氷、ドライアイスなど)と接触させる方法などが挙げられる。なお、ガスおよび冷媒の温度は、いずれも、反応混合液の温度よりも低い温度であればよい。
【0084】
冷媒としては、前記の他に、液体窒素や液体酸素、反応混合液以下の温度に保たれた有機溶媒などが挙げられるが、反応混合液を冷却中に溶解(または希釈)したり、冷却中に形状を崩壊させたりすることがなければ、特に限定されない。本発明のヒドロキシ酸変性グルカン誘導体を工業的に製造する場合には、前記冷却には、空気または水を用いることが経済的で好ましい。冷却に用いる空気や水は温調されていてもよいが、温調が施されない方が経済的であり、その温度は、通常−10〜90℃程度、好ましくは0〜80℃程度、さらに好ましくは4〜70℃程度の範囲内であってもよい。
【0085】
反応混合液を反応系外に排出する場合、排出装置として、排出スクリュー、ギアポンプ、押出機などを使用してもよい。排出装置は、排出を効率的に行うために温調してもよい。排出装置の温度は、特に制限はないが、例えば、50〜250℃、好ましくは60〜220℃、さらに好ましくは80〜190℃(例えば、90〜180℃)、通常100〜170℃であってもよい。
【0086】
固化工程(1B)において、反応混合物(特に、液体状の反応混合物)を脱揮処理したのち、固体状の反応混合物を調製してもよい。脱揮処理は、反応混合液を含む反応系内で(又は反応器内で)行ってもよく(すなわち、前記濃縮(揮発成分の留去)を、粘度調整の目的を兼ねて行ってもよく)、系外(反応系外)で行ってもよい。反応混合液を系外に排出して脱揮処理する場合、このような脱揮処理は、特に、ベント口(又は脱揮口)及び減圧設備を備えた押出機を使用することにより行うことができる。このような押出機を用いると、排出とともに脱揮を行うことができ、反応混合物に含まれる不用な成分を予め低減することができる。そのため、その後の抽出工程の効率を向上させたり、時間短縮を図ることができることから、本発明のヒドロキシ酸変性グルカン誘導体を経済的および工業的に製造する上で有効である。前記減圧設備は通常、例えば、真空ポンプ、冷却トラップ、及びそれらを連結する配管などで構成される。脱揮する場合、減圧度は揮発成分の種類や量にもよるが、例えば、500Torr以下(例えば、0.001〜300Torr程度)、好ましくは200Torr以下(例えば、0.01〜150Torr程度)、さらに好ましくは120Torr以下(例えば0.1〜100Torr程度)であり、特に80Torr以下(例えば、0.5〜50Torr程度)であってもよい。
【0087】
脱揮処理は、加熱下で(特に加熱下で攪拌しつつ)行ってもよい。このような脱揮処理において、加熱温度(例えば、押出機の温度)としては、例えば、80〜240℃、好ましくは100〜220℃、さらに好ましくは120〜200℃程度であってもよく、通常150〜210℃程度であってもよい。なお、脱揮処理(又は加熱処理時間)は、例えば、10時間以下(例えば、5分〜9時間)、好ましくは8時間以下(例えば、10分〜7時間)、さらに好ましくは6時間以下(例えば、20分〜5時間)であってもよい。
【0088】
なお、脱揮処理後、通常、さらに冷却して固化させることができるが、冷却方法としては、前記と同様の方法を採用できる。
【0089】
固化工程(1B)において、固体状の反応混合物の形状は、特に限定されず、塊状、無定形状、棒状、粒子状、ペレット状、シート(又はフィルム)状、繊維状(長繊維、短繊維など)などであってもよい。特に、微細状(粒子状、ペレット状など、特にペレット状)に調製又は成形すると、十分な効率で抽出を行うことができ、また、抽出工程を含む固化工程以降の工程での取扱いが容易又は簡便であるため、好ましい。微細状の反応混合物の平均粒径(又は平均最大径)は、例えば、0.1〜100mm、好ましくは0.5〜50mm、さらに好ましくは1〜5mm程度であってもよい。
【0090】
また、固体状の反応混合物(例えば、ペレット状の反応混合物)の嵩密度は、例えば、
0.1〜1.1g/ml、好ましくは0.3〜0.9g/ml、さらに好ましくは0.5〜0.8g/ml程度であってもよく、通常0.4〜1.0g/ml程度であってもよい。固体状反応混合物の嵩密度が小さい場合、比表面積が大きい場合が多く、高効率で抽出処理を行うことができるので好ましい。しかしながら、嵩密度が小さすぎると、一度に抽出処理できる固体状反応混合物の量(重量)が少なくなり、経済性の面で不利となる場合もあるため、上記のような適度な嵩密度を有する反応混合物が好ましい。
【0091】
なお、粒子状、ペレット状などの成形は、固化しつつ行ってもよく、固化後行ってもよい。代表的には、反応混合液を冷却し[例えば、反応器から反応混合液を細孔などを通して系外に排出して得られる紐状(又はストランド状)の形状で冷却し]、固化した又は固化しつつあるストランド状の反応混合物を切断又は粉砕して微細状(粒子状、ペレット状など)の反応混合物を調製してもよい。
【0092】
なお、抽出処理に供される固体状の反応混合物は、少なくともヒドロキシ酸変性グルカン誘導体、ヒドロキシ酸成分の単独重合体や未反応モノマー(ヒドロキシ酸成分)を含み、溶媒や触媒を使用した場合は、溶媒や触媒を含んでいてもよい。含有されるヒドロキシ酸成分の単独重合体の量は、多量であっても前記抽出処理は適用可能であるが、例えば、ヒドロキシ酸変性グルカン誘導体100重量部に対して0.01〜200重量部、好ましくは0.1〜100重量部、さらに好ましくは0.5〜50重量部(例えば、1〜30重量部)程度であってもよい。同様に未反応モノマーの量は、多量であっても前記抽出処理は適用可能であるが、例えば、ヒドロキシ酸変性グルカン誘導体100重量部に対して、0.005〜200重量部、好ましくは0.01〜100重量部、さらに好ましくは0.05〜50重量部(例えば、0.1〜30重量部)程度であってもよい。溶媒を含有する場合、溶媒の量は、多量であっても前記抽出処理は適用可能であるが、例えば、ヒドロキシ酸変性グルカン誘導体100重量部に対して0.005〜200重量部、好ましくは0.01〜150重量部、さらに好ましくは0.05〜120重量部(例えば、0.1〜100重量部)程度であってもよい。
【0093】
(2)抽出工程
(抽出処理)
抽出工程では、前記グラフト反応工程で得られた前記反応混合物を抽出処理によって精製する。
【0094】
抽出溶媒としては、ヒドロキシ酸変性グルカン誘導体(又は固体状の反応混合物)を溶解せず、抽出できる限り特に限定されない。特に、抽出溶媒は、ヒドロキシ酸変性グルカン誘導体を、膨潤させる溶媒であるのがよい。このような抽出溶媒としては、代表的には、アルコール類(例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、イソプロパノールなどのC1−4アルコール、好ましくはC1−3アルカノール)、芳香族炭化水素類(ベンゼン、トルエン、キシレンなどのC6−10アレーン、好ましくはC6−8アレーン)などが挙げられる。これらの溶媒は単独で又は2種以上組み合わせてもよい。なお、抽出溶媒として四塩化炭素のようなハロゲン化炭化水素を使用することも可能であるが、四塩化炭素をはじめとするハロゲン化炭化水素は、不燃性・難分解性・蓄積性・毒性などの性質から環境や人体に及ぼす悪影響が大きく、とくに四塩化炭素はIARCによりGroup.2B(ヒトへの発がん性の可能性がある)に分類されているため、工業的大規模に使用することは好ましくない。そのため、抽出溶媒は、非ハロゲン系溶媒(特に、非ハロゲン系溶媒であって、かつヒドロキシ酸変性グルカン誘導体を膨潤させる溶媒)であるのが好ましい。
【0095】
抽出処理は、前記反応混合物と前記抽出溶媒とを接触できればよく、浸漬抽出(又は浸漬処理)、カラム抽出(連続法)、向流抽出、ソックスレー抽出などの慣用の抽出操作を利用できる。特に、抽出工程では、工業的には、浸漬抽出、カラム抽出及び向流抽出から選択された抽出処理を行うのが好ましく、特に浸漬抽出を行ってもよい。
【0096】
抽出処理は、冷却下、常温下、又は加熱下で行うことができる。抽出温度は、例えば、−40℃〜120℃、好ましくは−10℃〜100℃、さらに好ましくは0〜90℃、特に4〜85℃(例えば、10〜80℃)程度であってもよい。特に、抽出処理を常温より高い温度で行えば、より一層不用成分の除去効率を高めることができる。加温下(又は加熱条件下)で抽出処理を行う場合、加熱温度としては、例えば、30〜120℃、好ましくは35〜100℃、さらに好ましくは40〜80℃(例えば45〜75℃)程度であってもよい。
【0097】
抽出処理は、減圧下、常圧下、加圧下で行うことができる。抽出時の圧力は、例えば、減圧の場合、絶対圧において、760Torr以下、好ましくは700Torr以下、さらに好ましくは650Torr以下(例えば、600Torr以下)程度であってもよい。加圧条件下で行う場合、圧力は、例えば、ゲージ圧において、0〜10MPa、好ましくは0.01〜2MPa、さらに好ましくは0.1〜1MPa(例えば、0.2〜0.6MPa)程度であってもよい。
【0098】
なお、抽出処理は、固体状の反応混合物(例えば、塊状、粒子状、ペレット状などの反応混合物)が融着(ブロッキング)しない条件下で行うのが好ましい。このような条件下で抽出処理を行うと、取扱い上の容易さ・簡便さを損なうことがないため好ましい。
このようなブロッキングは、加熱温度(抽出処理温度)をヒドロキシ酸変性グルカン誘導体のガラス転移温度以下に設定したり、抽出溶媒として前記例示の溶媒を使用することにより避けることができる。そのため、特に、加熱温度は、ヒドロキシ酸変性グルカン誘導体のガラス転移温度であって、前記温度範囲(例えば、40〜80℃程度)であってもよい。
【0099】
なお、抽出処理は、1回で1度に行ってもよく、複数回に分けて(分割して)行ってもよい。複数回に分けて行う場合、分割回数は、例えば、2回以上(例えば、2〜50回)、好ましくは2〜20回、さらに好ましくは2〜15回程度であってもよい。複数回行う場合、抽出処理は、抽出溶媒をさらに追加して行ってもよいが、通常、回分抽出処理(又は回分的な抽出処理、すなわち、抽出溶媒を除去した後、新たに追加する抽出処理)であってもよい。抽出処理は、代表的には、複数回に分割して回分的に浸漬抽出することにより行ってもよい。また、抽出処理は、連続的に行ってもよい。抽出処理を回分的(分割的)又は連続的に行うと、抽出装置(又は抽出槽)の内容積を、下記量の抽出溶媒量(総使用量)ではなく、抽質(反応混合物)の量を基準に決定できるため、その大きさ(規模)を最小化でき、設備コスト面で有利である。
【0100】
抽出処理において、抽出溶媒の使用量(抽出処理を分割して又は連続的に行う場合には総使用量)は、反応混合物1重量部に対して、200重量部以下(例えば、0.5〜150重量部程度)、好ましくは100重量部以下(例えば、2〜80重量部程度)、さらに好ましくは50重量部以下(例えば、4〜40重量部程度)であってもよい。なお、再沈殿により反応混合物を精製する場合には、通常、反応混合物1重量部に対して少なくとも300重量部程度が必要であり、上記のような抽出処理に比べて著しく経済的ロスが大きい。
【0101】
また、抽出処理を複数回に分けて行う場合、一回あたりの抽出溶媒の使用量は、例えば、反応混合物1重量部に対して、10重量部以下(例えば、0.1〜9重量部程度)、好ましくは8重量部以下(例えば、0.5〜7重量部程度)、さらに好ましくは5重量部以下(例えば、0.7〜4重量部程度)であってもよい。
【0102】
なお、抽出処理において、抽出処理時間(又は反応混合物と抽出溶媒との接触時間、抽出処理を分割して又は連続的に行う場合は総時間)は、例えば、10分以上(例えば、15分〜10日程度)、好ましくは20分以上(例えば、25分〜8日程度)、さらに好ましくは30分以上(例えば、40分〜5日程度)であってもよい。
【0103】
(抽出溶媒の乾燥除去)
前記のような抽出処理が施された反応混合物は、ヒドロキシ酸成分の単独重合体や未反応モノマー(ヒドロキシ酸成分)、溶媒(グラフト反応工程で使用した溶媒)などの不用成分(又は不純物)が高いレベルで除去されている一方、抽出溶媒を含有する(又は抽出溶媒が付着している)場合が多く、通常、抽出処理後、さらに、抽出溶媒を除去(乾燥)してもよい。すなわち、抽出工程は、抽出処理後、さらに、反応混合物(又はヒドロキシ酸変性グルカン誘導体)を乾燥処理する乾燥処理工程を含んでいてもよい。
【0104】
乾燥処理としては、風乾、熱風乾燥、減圧乾燥などの乾燥処理が挙げられる。抽出処理後の乾燥処理として、熱風乾燥を行う場合、乾燥雰囲気としては、例えば、空気、不活性ガス(窒素、アルゴンなど)などが選択できる。減圧乾燥を行う場合は、乾燥を効率よく行うために減圧度はできるだけ高いこと(圧力が低いこと)が好ましく、例えば、400Torr以下(例えば、0.001〜200Torr程度)、好ましくは100Torr以下(例えば、0.01〜80Torr程度)、さらに好ましくは50Torr以下(例えば、0.1〜30Torr程度)であり、特に10Torr以下(例えば0.5〜5Torr程度)であってもよい。
【0105】
乾燥処理の温度としては、ヒドロキシ酸変性グルカン誘導体のガラス転移温度以下に設定して、反応混合物の塊(粒子状、ペレット状など)同士が強固に融着(ブロッキング)することを防止することが好ましく、例えば、0〜120℃、好ましくは20〜100℃、さらに好ましくは30〜90℃程度であってもよく、通常、40〜75℃程度であってもよい。
【0106】
また、前記乾燥処理の後に、必要に応じて、固化工程の説明で例示したものと同様の脱揮押出機を用い、さらなる残存抽出溶媒(又は脱揮成分)の除去を行ってもよい。この場合の押出温度はヒドロキシ酸変性グルカン誘導体が溶融(又は熱流動)可能な温度であれば特に制限はないが、例えば、70〜250℃、好ましくは100〜220℃、さらに好ましくは120〜190℃程度であってもよい。また減圧度は例えば、500Torr以下(例えば、0.001〜300Torr程度)、好ましくは200Torr以下(例えば、0.01〜150Torr程度)、さらに好ましくは120Torr以下(例えば、0.1〜100Torr程度)であり、特に80Torr以下(例えば、0.5〜50Torr程度)であってもよい。なお、このような脱揮処理後、通常、さらに冷却して固化させることができるが、冷却方法としては、前記固化工程の説明で例示したものと同様の方法を採用できる。
【0107】
上記のような抽出処理(およびその後の乾燥処理)によって、グラフト反応工程の反応混合物から、ヒドロキシ酸成分の単独重合体や未反応モノマー(ヒドロキシ酸成分)、溶媒などの不用成分(又は不純物)を高いレベルで除去でき、高純度のヒドロキシ酸変性グルカン誘導体(すなわち、グルカン誘導体のヒドロキシル基から、ヒドロキシ酸成分がグラフト重合したヒドロキシ酸変性グルカン誘導体)が得られる。
【0108】
加えて、グラフト反応工程の反応混合物は、黄色〜褐色に着色することが多いが、前記抽出工程では着色成分も除去・低減でき、着色の抑えられたヒドロキシ酸変性グルカン誘導体が得られる。
【0109】
[ヒドロキシ酸変性グルカン誘導体]
本発明には、グルカン誘導体のヒドロキシル基にヒドロキシ酸成分がグラフト重合したヒドロキシ酸変性グルカン誘導体(詳細には、グルカン誘導体と、このグルカン誘導体のヒドロキシル基に、ヒドロキシ酸成分がグラフト重合して形成されたグラフト鎖とで構成されているヒドロキシ酸変性グルカン誘導体)であって、不用成分(又は不純物)の含有割合が著しく小さいヒドロキシ酸変性グルカン誘導体も含まれる。このようなヒドロキシ酸変性グルカン誘導体は、特に限定されないが、通常、前記グラフト工程を少なくとも経て製造され、特に前記グラフト工程および抽出工程を経て製造(すなわち、前記製造方法により製造)できる。
【0110】
ヒドロキシ酸変性グルカン誘導体において、グルカン誘導体およびヒドロキシ酸成分としては、前記グラフト工程の項に記載したものと同様の化合物(セルロースアシレート、環状エステルなど)が例示できる。グルカン誘導体の平均置換度なども前記と同様である。
【0111】
また、ヒドロキシ酸変性グルカン誘導体において、グラフト鎖の平均重合度(又はグラフト鎖を構成するヒドロキシ酸成分のヒドロキシ酸換算での平均付加モル数)は、特に限定されないが、前記のようなグラフト反応工程によれば、ヒドロキシ酸換算(例えば、ε−カプロラクトンではヒドロキシヘキサン酸換算、ラクチドでは乳酸換算など)で、例えば、1〜50、好ましくは1.5〜30(例えば、1.8〜25)、さらに好ましくは2〜20(例えば、2.5〜18)、特に3〜15、通常1〜20(好ましくは2〜12、さらに好ましくは3〜10)程度のヒドロキシ酸変性グルカン誘導体が得られる。
【0112】
特に、グラフト鎖が、少なくともα−ヒドロキシ酸成分[例えば、α−ヒドロキシ酸及び/又は環状ジエステル(例えば、乳酸およびラクチドから選択された少なくとも1種)]で構成されたヒドロキシ酸成分がグラフト重合して形成されたグラフト鎖である場合、グラフト鎖の平均重合度は、ヒドロキシ酸換算で、例えば、1〜13、好ましくは1.5〜12(例えば、2〜12)、さらに好ましくは2.5〜11(例えば、3〜10)程度であってもよい。グラフト鎖の重合度を上記のような範囲に調整すると、グルカン誘導体(セルロースアシレートなど)の優れた特性(光学的特性など)を損なうことなく、高い耐熱性、さらには成形性を効率よくヒドロキシ酸変性グルカン誘導体に付与できる。なお、ヒドロキシ酸変性グルカン誘導体は、後述するように、ヒドロキシ酸成分の単独重合体を含んでいてもよい。このようなヒドロキシ酸成分の単独重合体を含む場合において、ヒドロキシ酸成分の単独重合体の平均重合度は、上記グラフト鎖の平均重合度(例えば、1〜50程度)と同様の範囲であってもよい。
【0113】
なお、グラフト鎖(特にラクチドなどのα−ヒドロキシ酸成分のグラフト鎖)の重合度や分子量が大きくなると、グラフト鎖部分が結晶性を有するため、ヒドロキシ酸変性グルカン誘導体に、ガラス転移温度以上の熱履歴が作用すると、結晶化により白化などが生じやすくなる。このため、用途に応じて、グラフト鎖の重合度や分子量を比較的小さくしてもよい[例えば、平均重合度で20以下としてもよい]。
【0114】
また、ヒドロキシ酸変性グルカン誘導体において、グラフト重合したヒドロキシ酸成分の割合は、特に限定されないが、前記のようなグラフト反応工程によれば、例えば、グルカン誘導体の(又はグルカン誘導体を構成する)グルコース単位1モルに対して、ヒドロキシ酸換算で、平均0.0001〜10モル(例えば、0.005〜8モル)の範囲から選択でき、例えば、0.05〜5モル(例えば、0.1〜4.5モル)、好ましくは0.15〜4モル(例えば、0.2〜3.5モル)、さらに好ましくは0.3〜3モル、通常0.001〜5モル(例えば、0.35〜3.2モル程度)であってもよく、特に3モル以下(例えば、0.1〜2.5モル、好ましくは0.15〜2モル、さらに好ましくは0.2〜1.8モル)、特に好ましくは1.2以下{例えば、0.02〜1.2モル(例えば、0.05〜1.2モル)、好ましくは1モル以下[例えば、0.05〜1(例えば、0.1〜0.9)]、さらに好ましくは0.5未満(例えば、0.1〜0.45)程度}のヒドロキシ酸変性グルカン誘導体が得られる場合が多い。なお、前記ヒドロキシ酸成分の割合(モル)とは、グラフト鎖の重合度が、1又は1より大きいか否かにかかわらず、ヒドロキシ酸変性グルカン誘導体(セルロースアシレートなど)のグルコース単位全体に付加(又はグラフト)したヒドロキシ酸成分の平均付加モル数を示す。このような比較的少ない割合でヒドロキシ酸成分をグラフト化させると、グルカン誘導体(例えば、セルロースアシレート)のガラス転移温度などの特性を大きく低下させることなく保持しつつ、グルカン誘導体を効率よく変性できる。
【0115】
さらに、ヒドロキシ酸変性グルカン誘導体において、グラフト鎖の平均置換度(すなわち、グルカン誘導体のヒドロキシル基にヒドロキシ酸成分がグラフトしたグラフト鎖の平均置換度、ヒドロキシ酸成分でグラフト置換されたヒドロキシル基の平均置換度、グルコース単位の2,3および6位におけるグラフト重合により誘導体化されたヒドロキシル基のグルコース単位1モルあたりの平均モル数)は、特に限定されないが、前記のようなグラフト反応工程によれば、例えば、0.01〜2(例えば、0.015〜1.5)、好ましくは0.02〜1(例えば、0.025〜0.8)、さらに好ましくは0.03〜0.7(例えば、0.035〜0.6)、特に0.04〜0.5(例えば、0.045〜0.4)程度のヒドロキシ酸変性グルカン誘導体が得られる。
【0116】
なお、ヒドロキシ酸成分をラクトン成分(例えば、ラクトン)とα−ヒドロキシ酸成分[例えば、乳酸、環状ジエステル(ラクチドなど)など]とで構成する場合、ヒドロキシ酸変性グルカン誘導体において、グラフト重合したラクトン成分とグラフト重合したα−ヒドロキシ酸成分との割合は、ヒドロキシ酸換算で、前者/後者(モル比)=99/1〜1/99、好ましくは95/5〜5/95(例えば、90/10〜10/90)、さらに好ましくは80/20〜20/80(例えば、75/25〜25/75)程度であってもよい。
【0117】
また、ヒドロキシ酸変性グルカン誘導体において、グラフト鎖以外の誘導体化されたヒドロキシル基(例えば、アシル基)の平均置換度(モル数)とグラフト鎖の平均置換度(モル数)との割合は、前者/後者=40/60〜99.9/0.1(例えば、50/50〜99.5/0.5)、好ましくは70/30〜99/1(例えば、75/25〜98.5/1.5)、さらに好ましくは80/20〜98/2(例えば、85/15〜97.5/2.5)程度であってもよい。
【0118】
なお、ヒドロキシ酸変性グルカン誘導体において、グラフト鎖は、グルカン誘導体のヒドロキシル基にヒドロキシ酸成分がグラフト重合(又は反応)して形成されている。すなわち、ヒドロキシ酸変性グルカン誘導体では、元のグルカンを構成するグルコース単位のヒドロキシル基が、誘導体化された基(アシル基など)およびヒドロキシ酸成分のグラフト鎖によって置換されている。なお、ヒドロキシ酸変性グルカン誘導体は、誘導体化(アシル化、グラフト化など)されることなく残存したヒドロキシル基(未置換のヒドロキシル基)を有していてもよい。ヒドロキシ酸変性グルカン誘導体において、ヒドロキシル基(残存ヒドロキシル基)の割合(又はグルコース単位1モルに対して、誘導体化又はグラフト化されることなく残存したヒドロキシル基の割合)は、グルコース単位1モルに対して、例えば、平均0〜1.2モルの範囲から選択でき、例えば、0.01〜1モル、好ましくは0.02〜0.8モル、好ましくは0.03〜0.7モル、さらに好ましくは0.04〜0.6モル、通常0.05〜0.55モル程度であってもよい。
【0119】
なお、ヒドロキシ酸変性グルカン誘導体において、誘導体化された基(アシル基など)やグラフト鎖の平均置換度、ヒドロキシル基濃度、グラフト鎖の重合度(分子量)などは、慣用の方法、例えば、核磁気共鳴(NMR)(H−NMR、13C−NMRなど)などを用いて測定できる。
【0120】
なお、ヒドロキシ酸変性グルカン誘導体は、通常、ヒドロキシル基を有していてもよい。このようなヒドロキシル基には、グラフト鎖の末端のヒドロキシル基、グルコース単位に残存したヒドロキシル基などが挙げられる。このようなヒドロキシル基は、変性グラフト誘導体の吸湿性を抑制又は調整するなどの目的により、前記のように必要に応じて保護基により保護されていてもよい。
【0121】
そして、前記のように、本発明のヒドロキシ酸変性グルカン誘導体では、不用成分(又は不純物)の割合が著しく小さい。例えば、ヒドロキシ酸成分の単独重合体の割合は、ヒドロキシ酸変性グルカン誘導体全体に対して、10重量%以下(例えば、0(又は検出限界)〜9重量%程度)、好ましくは8重量%以下(例えば、0.05〜7重量%程度)、さらに好ましくは5重量%以下(例えば、0.1〜4重量%程度)であってもよく、3.5重量%以下[例えば、0.01〜2.5重量%、好ましくは2重量%以下(例えば、0.05〜1.5重量%以下)、さらに好ましくは1重量%以下(例えば、0.8重量%以下)]とすることもできる。また、ヒドロキシ酸成分(未反応のヒドロキシ酸成分)の割合は、ヒドロキシ酸変性グルカン誘導体全体に対して、2重量%以下(例えば、0(又は検出限界)〜1.5重量%程度)、好ましくは1重量%以下(例えば、0.0001〜0.8重量%程度)、さらに好ましくは0.5重量%以下(例えば、0.005〜0.3重量%程度)であってもよく、0.1重量%以下、特に0.08重量%とすることもできる。さらに、グラフト反応溶媒の割合(グラフト反応工程(1)で溶媒を使用した場合、その割合)は、ヒドロキシ酸変性グルカン誘導体全体に対して、例えば、5重量%以下(例えば、0(又は検出限界)〜3重量%程度)、好ましくは1重量%以下(例えば、0.0001〜0.8重量%程度)、さらに好ましくは0.5重量%以下(例えば、0.005〜0.3重量%程度)であってもよく、0.1重量%以下、特に0.08重量%以下とすることもできる。
【0122】
また、本発明のヒドロキシ酸変性グルカン誘導体は、上記のようにヒドロキシ酸成分の単独重合体、未反応のヒドロキシ酸成分などの含有量が著しく低減されているため、酸価もまた著しく小さく、耐加水分解性に優れている。例えば、本発明のヒドロキシ酸変性グルカン誘導体の酸価は、通常、3.5mgKOH/g以下(例えば、0〜3.2mgKOH/g程度)、好ましくは3mgKOH/g以下(例えば、0.1〜2.7mgKOH/g程度)、さらに好ましくは2.5mgKOH/g以下(例えば、0.2〜2.2mgKOH/g程度)、特に2mgKOH/g以下(例えば、0.3〜1.8mgKOH/g程度)であってもよい。
【0123】
なお、通常、前記のようなグラフト化工程を含め、グルカン誘導体とヒドロキシ酸成分とを反応させる場合、一般的に生成物としてのヒドロキシ酸変性グルカン誘導体は、理由は定かではないが、着色する場合が多い。このような着色は、ヒドロキシ酸変性グルカン誘導体を再沈殿処理したり、過酸化水素で処理するなどの方法により低減することが可能であるが、このような処理は前記のように製造プロセスを複雑化させ、工業的に有利ではない。本発明のヒドロキシ酸変性グルカン誘導体では、前記抽出処理を経て製造されることによって、このような再沈殿処理や過酸化水素処理を要しなくても、着色を低減することができる。例えば、前記抽出処理を経て得られた前記ヒドロキシ酸変性グルカン誘導体のハーゼン色数(ハーゼン単位色数)は、120以下(例えば、5〜110程度)、好ましくは100以下(例えば、10〜95程度)、さらに好ましくは90以下(例えば、20〜85程度)である場合が多い。なお、ハーゼン色数は、例えば、後述の方法により測定できる。
【0124】
本発明のヒドロキシ酸変性グルカン誘導体のガラス転移温度は、特に限定されないが、比較的高いガラス転移温度、例えば、70℃以上(例えば、73〜220℃程度)、好ましくは75〜200℃(例えば、78〜190℃)、さらに好ましくは80〜180℃、さらに好ましくは85〜160℃程度であってもよく、通常90〜155℃(例えば、95〜150℃)程度であってもよい。このようなガラス転移温度は、原料として用いるグルカン誘導体の置換度、前記グラフト鎖の平均重合度、グラフト重合したヒドロキシ酸成分の割合などを調整することにより上記のような範囲とすることができる。
【0125】
また、本発明のヒドロキシ酸変性グルカン誘導体は、特にグラフト鎖がラクトン成分(例えば、ラクトン)由来のグラフト鎖(例えば、ポリカプロラクトン鎖など)である場合、通常のグルカン誘導体(例えば、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートなど)などに比べて、ガラス域からゴム域に転移するいわゆる転移域における貯蔵弾性率の温度依存性(貯蔵弾性率の変化)が比較的小さいという特性を有している。そのため、本発明のヒドロキシ酸変性グルカン誘導体は、成形温度(延伸温度など)に対して光学的特性が敏感に変化することがなく、安定して所望の特性[例えば、光学的特性(例えば、所望のレタデーション値)]を付与できる。
【0126】
そのため、例えば、本発明には、ヒドロキシ酸変性グルカン誘導体(詳細には、ヒドロキシ酸成分でグルカン誘導体が変性されたヒドロキシ酸変性グルカン誘導体であって、グルカン誘導体と、このグルカン誘導体のヒドロキシル基にヒドロキシ酸成分がグラフト重合して形成されたグラフト鎖とで構成されたヒドロキシ酸変性グルカン誘導体)の貯蔵弾性率において、横軸(又はX軸)を温度、縦軸(Y軸)をヒドロキシ酸変性グルカン誘導体の貯蔵弾性率(E')とする貯蔵弾性率曲線において、貯蔵弾性率が10〜100MPaを示す範囲での最大傾き(δy/δx)は、−12〜0MPa・℃−1(例えば、−12〜−1MPa・℃−1)、好ましくは−11〜−1.5MPa・℃−1、さらに好ましくは−10〜−2MPa・℃−1であってもよい。なお、前記転移域において、ヒドロキシ酸変性グルカン誘導体の貯蔵弾性率は、温度上昇とともに低下する場合が多い。そのため、上記最大傾きは、貯蔵弾性率10MPaを示す温度をt1(℃)、貯蔵弾性率100MPaを示す温度をt2(℃)とするとき、90×(t2−t1)−1(MPa・℃−1)で求められる値と近似してもよい。また、貯蔵弾性率の測定に用いる前記ヒドロキシ酸変性グルカン誘導体の形態は特に限定されないが、例えば、フィルム状成形体(特に、未延伸フィルム)を用いて測定してもよい。
【0127】
なお、このような特定の貯蔵弾性率の最大傾きを有するヒドロキシ酸変性グルカン誘導体は、成形温度変化に対する樹脂特性の変化が小さく、必ずしも前記特定のガラス転移温度(70℃以上)を有していなくてもよい。
【0128】
また、本発明のヒドロキシ酸変性グルカン誘導体は、吸水率が低く、例えば、変性グルカン誘導体の吸水率は、8%以下(例えば、0〜7.5%程度)であり、5%以下(例えば、0.1〜4%程度)、好ましくは3%以下(例えば、0.2〜2.7%程度)、さらに好ましくは2.5%以下(例えば、0.3〜2.2%程度)、特に2%以下(例えば、0.5〜1.8%程度)にすることもできる。
【0129】
[ヒドロキシ酸変性グルカン誘導体の用途]
本発明のヒドロキシ酸変性グルカン誘導体は、熱可塑性プラスチックとして利用でき、粉粒状、ペレット(樹脂ペレット、マスターバッチペレットなど)状、溶媒を含む組成物(ドープ、コーティング組成物など)などの形態で使用できる。また、前記ヒドロキシ酸変性グルカン誘導体は、樹脂組成物を構成してもよい。このような樹脂組成物において、ヒドロキシ酸変性グルカン誘導体は、単独で又は2種以上組みあわせて使用できる。また、前記樹脂組成物は、樹脂成分として、他の樹脂、例えば、オレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、熱可塑性エラストマー、前記範疇に属さないグルカン誘導体(例えば、セルロースアセテートなどのセルロースアシレート)などを含んでいてもよい。他の樹脂は、単独で又は2種以上組みあわせてもよい。
【0130】
前記樹脂組成物は、慣用の添加剤、例えば、充填剤(フィラー)又は補強剤、着色剤(染顔料)、導電剤、難燃剤、可塑剤、滑剤、安定剤(酸化防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤など)、離型剤、帯電防止剤などを含んでいてもよい。これらの添加剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0131】
そして、本発明のヒドロキシ酸変性グルカン誘導体(及びその組成物)は、種々の成形体(繊維などの一次元的成形体、フィルム、シート、塗膜(又は薄膜)などの二次元的成形体、湾曲又は立体形状の三次元的成形体など)を形成するのに有用である。
【0132】
前記ヒドロキシ酸変性グルカン誘導体の成形法としては、公知の成形方法、例えば、押出成形法、射出成形法、射出圧縮成形法、トランスファー成形法、ブロー成形法、塗布法(スピンコーティング法、ロールコーティング法、カーテンコーティング法、ディップコーティング法、キャスティング成形法などの溶液製膜法)、紡糸法(溶融紡糸法、乾式紡糸法、湿式紡糸法など)などを利用できる。特に、本発明のヒドロキシ酸変性グルカン誘導体は、耐加水分解性および耐熱性に優れているため、溶融混練工程を経る成形法、例えば、押出成形法、射出成形法(特に射出成形法)であっても好適に利用できる。
【0133】
特に、本発明のヒドロキシ酸変性グルカン誘導体は、耐熱性に加えて、優れた透明性および光学的特性(光学的等方性、光学的異方性など)を有しているため、好適に光学用成形体(特に、光学フィルム)を形成することができる。すなわち、本発明の成形体[特に、光学フィルムなどの光学用成形体]は、前記ヒドロキシ酸変性グルカン誘導体(例えば、変性セルロースアシレート)で形成(又は構成)されている。
【0134】
以下に、フィルム(特に光学フィルム)およびその製造方法について詳述する。
【0135】
本発明のフィルム(ヒドロキシ酸変性グルカン誘導体フィルム)は、置換度やアシル基の種類などに応じて、溶融製膜方法(押出成形法など)、溶液製膜方法(流延法)のいずれで製造してもよい。通常、溶液製膜方法により平面性に優れたフィルムを製造してもよい。
【0136】
溶液製膜方法において、フィルムは、ヒドロキシ酸変性グルカン誘導体と有機溶媒とを含むドープ(又は有機溶媒溶液)を剥離性支持体に流延し、生成した膜を剥離性支持体から剥離して乾燥することにより製造できる。剥離性支持体は、通常、金属支持体(ステンレススチールなど)であってもよく、ドラム状やエンドレスベルト状であってもよい。支持体の表面は、通常、鏡面仕上げされ、平滑である場合が多い。
【0137】
ドープを調製するための有機溶媒は、ハロゲン系有機溶媒(特に塩素系有機溶媒)であってもよく、非ハロゲン系有機溶媒(特に非塩素系有機溶媒)であってもよい。有機溶媒は、単独で又は2種以上組み合わせてもよく、例えば、塩素系有機溶媒と非塩素系有機溶媒とを組み合わせてもよい。ハロゲン系有機溶媒(特に塩素系有機溶媒)としては、ジクロロメタン、クロロホルムなどのハロゲン化炭化水素類(特に塩素化炭化水素類)などが挙げられる。非ハロゲン系有機溶媒(特に非塩素系有機溶媒)としては、例えば、エステル類(酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸アミル、酢酸ブチルなどの酢酸エステル類など)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのジアルキルケトン類、シクロヘキサノンなど)、エーテル類(ジエチルエーテルなどの鎖状エーテル類、ジオキサン、テトラヒドロフランなどの環状エーテル類など)、アルコール類(例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノールなどのC1−4アルカノール類)などが例示できる。
【0138】
ドープには、種々の添加剤、例えば、可塑剤[リン酸エステル系可塑剤、カルボン酸エステル系可塑剤(フタル酸エステル、アジピン酸エステル、セバシン酸エステル、クエン酸エステルなど)、トリアセチンなど]、安定剤(酸化防止剤、紫外線吸収剤、劣化防止剤など)、滑剤(微粒子状滑剤)、難燃剤、離型剤などを添加してもよい。また、ドープには、レタデーション上昇剤(特開2001−139621号公報に記載のレタデーション上昇剤など)、剥離剤(特開2002−309009号公報に記載の剥離剤など)などを添加してもよい。
【0139】
なお、ドープは、慣用の方法、例えば、高温溶解法、冷却溶解法などを利用して調製できる。ドープ中のセルロースエステル濃度は、10〜35重量%、好ましくは20〜30重量%(例えば、15〜25重量%)程度であってもよい。また、高品質フィルム(液晶表示装置用フィルムなど)を得るため、ドープはさらに濾過処理してもよい。
【0140】
流延ダイなどを利用してドープを支持体上に流延し、乾燥することによりフィルムを製造できる。通常、ドープを支持体上に流延し、予備乾燥した後、有機溶媒を含む予備乾燥膜を乾燥することによりフィルムが製造される。
【0141】
溶融製膜方法では、例えば、前記ヒドロキシ酸変性グルカン誘導体(および必要に応じて可塑剤などの他の成分)を押出機などで溶融混合し、ダイ(Tダイ、リングダイなど)から押出成形し、冷却することによりフィルムを製造してもよい。溶融混合温度は、例えば、120〜250℃程度の範囲から選択できる。
【0142】
フィルムの厚みは用途に応じて選択でき、例えば、5〜200μm、好ましくは10〜150μm、さらに好ましくは20〜120μm程度であってもよい。
【0143】
なお、フィルムには、延伸処理を施してもよい。本発明のフィルムは、グルカン誘導体がヒドロキシ酸成分により変性されているため、延伸性に優れている。そして、延伸処理により、フィルムを効率よく配向させて、光学的に異方性のフィルムを簡便に得ることができる。フィルムは、慣用の方法(ドロー、延伸など)、例えば、一軸又は二軸により配向させることができ、引き取りロールのドロー比を利用して配向させてもよく、チャックでフィルムの端部を掴んで延伸して配向させてもよい。延伸方法としては、熱延伸を好ましく用いることができ、例えば、溶液製膜方法では、乾燥後のフィルム又は溶媒を含む予備乾燥フィルムを延伸することにより配向させてもよい。また、溶融製膜方法では、押出機のダイから押し出されるフィルム状溶融物を引き取り、一軸方向に引き延ばしつつ冷却ロールなどの冷却手段により冷却してもよく、ダイから押し出されたフィルム状溶融物を冷却し、所定の温度で延伸してもよい。また、フィルムは、少なくとも一方の方向(縦又は引き取り方向MD、又は幅方向TD)に配向していればよく、交差又は直交する方向に配向していてもよい。また、延伸処理は、一軸延伸又は二軸延伸のいずれであってもよく、二軸延伸の場合、逐次二軸延伸、同時二軸延伸のいずれであってもよい。
【0144】
フィルムの配向度(延伸倍率)は、少なくとも一方の方向(例えば、幅方向)に1.05〜8倍、好ましくは1.1〜4倍、さらに好ましくは1.2〜3倍、特に1.4〜2倍程度であってもよい。また、二軸延伸フィルムでは、MD方向に1.1〜8倍(例えば、1.1〜5倍、好ましくは1.1〜2倍、さらに好ましくは1.2〜1.5倍)程度、TD方向に1.0〜4倍(例えば、1.0〜3倍、好ましくは1.0〜2倍、さらに好ましくは1.1〜1.5倍)程度であってもよい。
【0145】
フィルム(未延伸フィルム)の延伸温度は、通常、ヒドロキシ酸変性グルカン誘導体のガラス転移温度以上の温度であって、融点未満の温度で選択できる。例えば、ヒドロキシ酸変性グルカン誘導体のガラス転移温度をA℃とするとき、延伸温度はA〜A+70(℃)、好ましくはA+3〜A+50(℃)、さらに好ましくはA+5〜A+30(℃)程度であってもよい。
【0146】
本発明では、幅広い範囲で所望のレタデーション値を有するフィルム(光学フィルム)を調製できる。例えば、本発明のフィルム(延伸フィルム又は未延伸フィルム)において、フィルム面内のレタデーション値Reおよびフィルムの厚み方向のレタデーション値Rthは、それぞれ、−250nm〜+500nm(例えば、−200nm〜+400nm)、好ましくは−100nm〜+350nm、さらに好ましくは−50nm〜+300nm程度である。なお、面内のレタデーション値Reは、通常、フィルムの中央付近(又は中央部)の値であってもよい。
【0147】
また、本発明のフィルムは、延伸処理により簡便に光学的特性を変化させることも可能であり、例えば、延伸処理(一軸又は二軸延伸処理など、例えば、幅方向の一軸延伸処理)されたフィルムにおいて、フィルム面内のレタデーション値Reは、0〜400nm(例えば、5〜350nm)、好ましくは10〜300nm、さらに好ましくは20〜300nm(例えば、25〜250nm)、特に30〜220nm(例えば、35〜200nm)程度であってもよい。また、延伸処理(一軸又は二軸延伸処理など、例えば、幅方向の一軸延伸処理)されたフィルムにおいて、フィルムの厚み方向のレタデーション値Rthは、−150nm〜+500nm(例えば、−100nm〜+450nm)、好ましくは−80nm〜+400nm、さらに好ましくは−60nm〜+350nm程度であってもよい。特に、延伸処理(一軸又は二軸延伸処理など、例えば、幅方向の一軸延伸処理)されたフィルムにおいて、フィルムの厚み方向のレタデーション値Rthは、−80nm〜+500nm(例えば、−60nm〜+450nm)、好ましくは−50nm〜+400nm、さらに好ましくは−45nm〜+350nm(例えば、−40nm〜+320nm)程度であってもよい。
【0148】
なお、本発明では、特定のヒドロキシ酸変性グルカン誘導体[例えば、平均置換度2.75以上(例えば、2.85〜2.95程度)のセルロースアセテートをグルカン誘導体とするヒドロキシ酸変性グルカン誘導体]でフィルムを形成することにより、光学的に等方なフィルム[例えば、面内のリタデーション値Reが0〜10nm(例えば、0〜3nm程度)程度であり、かつ厚み方向のレタデーション値Rthが−10nm〜+10nm(例えば、−5nm〜+5nm程度)程度の光学フィルム]を調製することもできる。このような光学的等方性を有するフィルムは、通常、延伸処理されていないフィルム(未延伸フィルム)である場合が多い。
【0149】
なお、フィルムのレタデーション値(面内のレタデーション値Re、厚み方向のレタデーション値Rth)は、遅相軸方向の屈折率、進相軸方向の屈折率、および厚み方向の屈折率を測定し、これらの屈折率の値から、下記式で定義される式に基づいてそれぞれ算出できる。
【0150】
Re=(nx−ny)×d
Rth={(nx+ny)/2−nz}×d
(式中、nxはフィルム面内の遅相軸方向の屈折率、nyはフィルム面内の進相軸方向の屈折率、nzはフィルムの厚み方向の屈折率、dはフィルムの厚みを示す。)
なお、上記レタデーション値は、通常、可塑剤を含まないフィルムのレタデーション値であってもよい。
【0151】
また、本発明のフィルムは、前記のように、特にグラフト鎖がラクトン成分(例えば、ラクトン)由来のグラフト鎖(例えば、ポリカプロラクトン鎖など)である場合、ヒドロキシ酸変性グルカン誘導体のガラス域からゴム域に転移するいわゆる転移域における貯蔵弾性率の温度依存性が低いためか、成形温度(延伸温度)を精密に調整しなくても光学的特性を付与できる。すなわち、通常のグルカン誘導体(セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートなど)などでは、レタデーション値のような光学的特性は成形温度(延伸温度)に依存して敏感に変化しやすく、所望の光学的特性を得るためには精密な条件でフィルムを調製する必要があるが、本発明のフィルムは、比較的広い延伸温度範囲で延伸しても、光学的特性の変化が小さく、安定して所望の光学的特性を付与できる。
【0152】
例えば、本発明のフィルムにおいて、同一の延伸倍率で、フィルム(未延伸フィルム)の延伸温度を所定の温度B〜B+20(℃)まで変化させたとき、(i)面内レタデーション値Reの最大値と最小値との差(ΔRe)、は、例えば、0〜20nm、好ましくは0.5〜15nm、さらに好ましくは1〜10nm(例えば、1〜8nm)程度であり、かつ(ii)厚み方向のレタデーション値Rthの最大値と最小値との差(ΔRth)、は、例えば、0〜35nm、好ましくは1〜30nm(例えば、1.5〜25nm)、さらに好ましくは2〜20nm(例えば、3〜15nm)、通常2.5〜10nm程度であり、20℃もの広い延伸温度範囲で延伸してもレタデーション値の変化が著しく小さい。なお、延伸温度(B〜B+20℃)は、前記のような温度範囲から適宜選択できる。
【産業上の利用可能性】
【0153】
本発明のヒドロキシ酸変性グルカン誘導体は、成形性に優れ、種々の成形体(又は成形品、例えば、射出成形品)は、各種用途、例えば、オフィスオートメーション(OA)・家電機器分野、電気・電子分野、通信機器分野、サニタリー分野、自動車などの輸送車両分野、家具・建材などの住宅関連分野、雑貨分野などの各パーツ、ハウジングなどに好適に使用することができる。
【0154】
さらに、本発明のヒドロキシ酸変性グルカン誘導体は、透明性に優れており、かつ吸湿性が低いため、光学用途の成形体[例えば、液晶パネルなどの表示材料又は表示素子、レンズ(眼鏡用レンズ、コンタクトレンズなど)など]を形成するのに有用である。光学用途の成形体は、前記のように三次元的形態の成形体であってもよく、特に、フィルム状成形体に好適である。フィルム(光学フィルム)としては、付与する光学的特性に応じて、例えば、カラーフィルタ、写真感光材料の基材フィルム、表示装置用フィルム(例えば、液晶表示装置用光学補償フィルムなどの光学補償フィルム)、位相差フィルム、保護フィルム(偏光板用保護フィルムなど)、反射防止フィルムの基材フィルムなどとして利用できる。
【実施例】
【0155】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0156】
なお、実施例において、各種特性は以下の条件で測定した。
【0157】
[組成分析]
(1)未反応モノマーおよび溶媒の残存量
グラフト反応後の反応混合物および抽出工程後の未反応モノマーおよび溶媒の残存量(重量%)は、各種クロマトグラフィー法から被測定物質の性質に合わせて適切な方法を選定して決定した。以下にヒドロキシ酸成分としてε−カプロラクトンを用いた場合と、グラフト反応溶媒としてシクロヘキサノン、抽出溶媒としてメタノールを用いた場合について例示する:
(a)未反応のε−カプロラクトン(モノマー)量の決定方法
(i)決定方法:高速液体クロマトグラフィー法による絶対検量線定量法
(ii)機器
ポンプ:(株)島津製作所製「LC−20A」
デガッサー:(株)島津製作所製「DGU−20A」
カラムオーブン:東ソー(株)製「CO−8020」
検出器:示差屈折率計[RI]、(株)島津製作所製「RID−10A」
(iii)測定条件
溶離液:クロロホルム
流量:1.0ml/min
カラム構成:昭和電工(株)製GPCカラム「GPCK−801」2本
および「GPCK−802」2本の計4本を連結して構成
カラム温度・検出器温度:40℃
(b)シクロヘキサノン量およびメタノール量の決定方法
(i)決定方法:キャピラリーガスクロマトグラフィー法による絶対検量線定量法
(ii)機器
GC本体:(株)島津製作所製「GC−2014」
検出器:水素炎イオン化検出器[FID]
カラム:アジレント・テクノロジー製「DB−1」
(長さ30m、直径0.25mm、膜厚0.25mm)
キャリアガス:ヘリウム
(iii)測定条件
注入方式:スプリット注入(スプリット比1:50)
注入部温度:250℃
検出器温度:280℃
カラム温度:40℃で3分保持後10℃/分の速度で210℃まで昇温。
【0158】
(2)モノマー転化率
モノマー転化率は、前記方法によって決定した未反応モノマーの残存量より算出した。
【0159】
(3)酸価
酸価は、JISK0070(1992年発行)に準拠し、フェノールフタレインを指示薬とした中和滴定法によって測定した。
【0160】
(4)ハーゼン単位色数
ハーゼン単位色数は、JIS K 0071−1(1998年発行)に準拠して判定した。すなわち、色数判定用の対象物質(ヒドロキシ酸変性グルカン誘導体など)を、塩化メチレン:メタノール=9:1(v/v)混合溶媒を用いて重量比で6%の均一な溶液とし、前記溶液の色味を標準比色液と比較した。対象物質がグラフト反応工程における反応混合物(又は反応混合液)である場合は、反応混合物中のヒドロキシ酸変性グルカン誘導体が重量比で6%含まれるように試料溶液を調製した。
【0161】
(5)水分
固体(粉体)の水分は、加熱式水分気化装置を備えたカールフィッシャー式電量法水分測定装置((株)ダイヤインスツルメンツ製)を用いて、JIS K 0113(2005年発行)に準拠して測定した。例えば、下記の実施例において原料として用いた酢酸セルロースの水分を測定する場合、気化装置の加熱炉の温度は200℃に設定した。
【0162】
(6)ヒドロキシ酸変性グルカン誘導体の特性値
実施例中で用いるヒドロキシ酸変性グルカン誘導体の特性値に関する用語を、グルカン誘導体として酢酸セルロース、ヒドロキシ酸成分(モノマー)としてε−カプロラクトンを使用して場合を例として、以下のように定義する:
(i)「CL/CA」は、脱揮精製後生成物中の酢酸セルロース(CA)由来構造成分と、ε−カプロラクトン(CL)由来構造成分(グラフト鎖および単独重合体)の重量比を表す。
【0163】
(ii)「CL単独重合体含有率」は、重合終了液を脱揮精製して得られた生成物中に残存するε−カプロラクトンの単独重合体(以下、「CL単独重合体」と略す)の重量分率[%]を表す。
【0164】
(iii)「MS(CL)」は、グルコース単位1モルあたりの、グルコース単位に結合したグラフト鎖を構成するε−カプロラクトン単位の平均総モル数(平均モル置換度)を表す。
【0165】
(iv)「DS(PCL)」は、グルコース単位1モルあたりの、グルコース単位に結合したグラフト鎖の平均総モル数(平均置換度)を表す。
【0166】
(v)「DP(PCL)」は、グラフト鎖およびCL単独重合体全体のε−カプロラクトンの数平均重合度である。
【0167】
上記(i)〜(v)の特性値はH−NMR測定により求めた。
【0168】
なお、CL単独重合体およびグラフト鎖におけるカプロラクトン単位は、H−NMRスペクトルにおいて同一の化学シフトを示すが、CL単独重合体の末端基がカルボキシル基であることを利用してCL単独重合体とグラフト鎖とを区別できる。また、上記特性値(i)〜(v)は、(1)酢酸セルロースのアセチル基の平均置換度は反応前後において実質的に変わらず、かつ(2)グラフト鎖とCL単独重合体とは、数平均重合度において同じであるとして算出した。
【0169】
(7)レタデーション値
自動複屈折計(王子計測機器(株)製、「KOBRA−21ADH」)を用いて、23℃、50%RHの環境下で、波長590nmにおいて、得られたフィルムの3次元屈折率測定を行い、遅相軸方向の屈折率nx、進相軸方向の屈折率ny、および厚み方向の屈折率nzを求め、これらの値から、フィルムの面内のレタデーション値Re、およびフィルムの厚み方向のレタデーション値Rthを、下記式で定義される式に基づいて算出した。なお、面内のレタデーション値Reは、フィルムの中央付近の値である。
【0170】
Re=(nx−ny)×d
Rth={(nx+ny)/2−nz}×d
(式中、nxはフィルム面内の遅相軸方向の屈折率、nyはフィルム面内の進相軸方向の屈折率、nzはフィルムの厚み方向の屈折率、dはフィルムの厚みを示す)。
【0171】
(8)全光線透過率
得られたフィルム(未延伸フィルム)を、23℃、相対湿度50%の恒温、恒湿室で48時間放置し、濁度計(日本電色工業(株)、「NDH5000W」)を用い、JIS K7361−1に準じて、全光線透過率を測定した。
【0172】
また、実施例で得られたフィルムの配向複屈折(レタデーション値)の温度依存性は以下のように評価した。
【0173】
(9)ヘーズ
得られたフィルムを、23℃、相対湿度50%の恒温、恒湿室で48時間放置し、同環境下で、濁度計(日本電色工業(株)、「NDH5000W」)を用い、JIS K7136に準じて、ヘーズを測定した。
【0174】
(10)YI値
得られたフィルムのYI値は、JIS K7105に準じて、色差計(日本電色工業(株)製、NDJ300A)を用いて測定した。
【0175】
(11)密度(真比重)
ヒドロキシ酸変性グルカン誘導体又はグラフト反応工程の反応混合物の密度(真比重)は、JIS K 7112(1999年発行)に記載のA法(水中置換法)に準拠し、ミラージュ貿易(株)製電子比重計SD−200Lを使用して測定した。
【0176】
(12)嵩密度
ペレットの嵩比重は、簡易的に次の方法で求めた:すなわち、容積100mlの容器に、すりきり一杯に、適度に振とうしながら、対象のペレットを密に充填した。充填することのできたペレットの重量(W[g])を計量し、W/100[g/ml]を対象ペレットの嵩密度とした。
【0177】
(合成例1)
高粘度液用ねじり格子型撹拌翼及びコンデンサーを備えた縦型反応機((株)日立プラントテクノロジー社製)に、予め棚式熱風乾燥機にて90℃で10時間以上予備乾燥した酢酸セルロース(ダイセル化学工業(株)製、L−20、置換度2.41、グルコース単位あたりの分子量263.2、比重1.33、重合度140)18.2kgを投入した。ここで使用した酢酸セルロースの予備乾燥前の水分は3.5重量%であり、予備乾燥後、投入直前の水分は0.8重量%であった。系を窒素置換した後、反応槽を120℃に加温しつつ1Torrで2時間の減圧乾燥を酢酸セルロースにさらに施した。減圧乾燥後の酢酸セルロースの一部を抜取って水分を確認すると0.053重量%であった。次に、溶媒(シクロヘキサノン)36.0kgを投入し、反応槽を140℃に昇温後保持しながら、乾燥窒素気流下、常圧で撹拌し、酢酸セルロースを溶解させた。続いて、残留する水分を溶媒と共に共沸脱水させる目的で、反応系を250Torrに減圧し、シクロヘキサノン溶媒を50分かけて11kg留出させた。その後モノマー(ε−カプロラクトン)7.8kg、触媒(モノブチルスズトリオクチレート)26gを溶解させたシクロヘキサノン0.8kgを投入し、反応系を160℃に昇温して4時間重合反応を行った。モノマー転化率は、3時間で92.6%に到達した。重合反応開始後3時間を経過した時点で175℃に昇温し、徐々にシクロヘキサノンを留出させた。4時間後重合終了時点の反応液組成は、酢酸セルロース−{ポリ(ε−カプロラクトン)}グラフト重合体74.8重量%、ε−カプロラクトンの単独重合体(副生物)6.3重量%、ε−カプロラクトンモノマー0.5重量%、シクロヘキサノン溶媒18.5重量%であった。
【0178】
前記組成の反応混合液はこのままストランド状に排出し、水槽で固化させてペレタイザーでペレット化した。得られたペレット(直径約20mm,厚み約3mmの円盤状ペレット、嵩密度0.64g/ml)の酸価は、3.7mgKOH/g、グラフト重合体の特性値は、MS(CL)0.79、DS(PCL)0.10、DP(PCL)8.2であった。また、得られたペレットのハーゼン色数は、150であった。
【0179】
(実施例1)
合成例1で得られたペレット0.5gを試料ビンにとり、40mLのメタノールを追加してそのまま室温で放置した。3日後、ペレットを試料ビンから取り出し、60℃で一昼夜真空乾燥し、抽出処理されたペレットを得た。
【0180】
このペレットについて、H−NMR測定にて組成を確認した。ペレットの組成は、グラフト重合体97.6重量%、ε−カプロラクトンの単独重合体1.2重量%、シクロヘキサノン1.2重量%であり、ε−カプロラクトンモノマーの残留は認められなかった。また、ペレットの酸価は0.8mgKOH/g、グラフト重合体の特性値は、MS(CL)0.89、DS(PCL)0.12、DP(PCL)7.6であった。
【0181】
(比較例1)
実施例1において、40mLのメタノールに代えて、40mLのn−ヘキサンを使用したこと以外は実施例1と同様にして浸漬処理されたペレットを得た。
【0182】
このペレットについて、H−NMR測定にて組成を確認した。ペレットの組成は、グラフト重合体77.7重量%、ε−カプロラクトンの単独重合体5.7重量%、シクロヘキサノン16.1重量%であり、ε−カプロラクトンモノマー0.5重量%であった。また、ペレットの酸価は3.4mgKOH/g、グラフト重合体の特性値は、MS(CL)0.83、DS(PCL)0.10、DP(PCL)8.2であった。
【0183】
(比較例2)
実施例1において、40mLのメタノールに代えて、40mLの水を使用したこと以外は実施例1と同様にして浸漬処理されたペレットを得た。
【0184】
このペレットについて、H−NMR測定にて組成を確認した。ペレットの組成は、グラフト重合体76.4重量%、ε−カプロラクトンの単独重合体5.9重量%、シクロヘキサノン17.2重量%であり、ε−カプロラクトンモノマー0.5重量%であった。また、ペレットの酸価は3.3mgKOH/g、グラフト重合体の特性値は、MS(CL)0.81、DS(PCL)0.10、DP(PCL)8.5であった。
【0185】
(比較例3)
実施例1において、40mLのメタノールに代えて、40mLの2−ブタノンを使用したこと以外は実施例1と同様にして実験を行ったところ、ペレットが溶解し、全体が均一な溶液となった。すなわち、2−ブタノンは本発明の抽出溶媒として不適当であった。
【0186】
(比較例4)
実施例1において、40mLのメタノールに代えて、40mLのシクロヘキサノンを使用したこと以外は実施例1と同様にして実験を行ったところ、ペレットが溶解し、全体が均一な溶液となった。すなわち、シクロヘキサノンは本発明の抽出溶媒として不適当であった。
【0187】
比較例1,2から分かるように、n−ヘキサンや水では抽出効果が得られなかった。また、2−ブタノン(比較例3)やシクロヘキサノン(比較例4)のように反応混合物を溶解(又は希釈)する溶媒は不用成分を区別して取り出す(抽出する)ことができず、抽出溶媒として不適当であった。
【0188】
(実施例2)
合成例1で得られたペレット50gを、還流管を取り付けた300mL丸底フラスコにとり、室温のメタノール100gを追加し、すぐさま温浴に浸して60℃に温調した(浸漬1回目)。メタノールを追加した時点から1時間後、フラスコ内のメタノールを捨て、その後新しい室温のメタノール100gを投入し、再び60℃に温調した(浸漬2回目)。同様の操作を1時間毎に繰り返して10回目の浸漬を終えた後、ペレットをフラスコから取り出し、60℃で一昼夜真空乾燥し、抽出処理されたペレットを得た。抽出溶媒として使用したメタノールの総量は1000gであった。
【0189】
このペレットについて、H−NMR測定にて組成を確認した。ペレットの組成は、グラフト重合体99.3重量%、ε−カプロラクトンの単独重合体0.5重量%、シクロヘキサノン0.1重量%であり、ε−カプロラクトンモノマーの残留は認められなかった。メタノール(抽出溶媒)の含有量は0.08重量%であった。また、ペレットの酸価は0.8mgKOH/g、グラフト重合体の特性値は、MS(CL)0.93、DS(PCL)0.11、DP(PCL)8.4であった。
【0190】
また、得られたペレットのハーゼン色数は、60〜80であった。
【0191】
(実施例3)
合成例1で得られたペレット7.5kgを、30Lのステンレス容器にとり、メタノール7.5kgを投入してそのまま室温で12時間放置した(浸漬1回目)。12時間経過後ステンレス容器内のメタノールを廃棄し、その後新しいメタノール7.5kgを抽出対象のペレットを貯えたステンレス容器に再び投入し、さらに12時間放置した(浸漬2回目)。同様の操作を12時間毎に繰り返して11回目の浸漬を終えた後、ペレットをフラスコから取り出し、60〜80℃で230時間程度真空乾燥し、抽出処理されたペレットを得た。抽出溶媒として使用したメタノールの総量は82.5kgであった。
【0192】
このペレットについて、H−NMR測定にて組成を確認した。ペレットの組成は、グラフト重合体99.3重量%、ε−カプロラクトンの単独重合体0.6重量%、シクロヘキサノン0.02重量%であり、ε−カプロラクトンモノマーの残留は認められなかった。メタノール(抽出溶媒)の含有量は0.06重量%であった。また、ペレットの酸価は0.8mgKOH/g、グラフト重合体の特性値は、MS(CL)0.80、DS(PCL)0.11、DP(PCL)7.6、密度(真比重)1.26g/mlであった。
【0193】
(実施例4)
実施例3で得られたペレット(抽出処理されたペレット)15重量部、塩化メチレン78重量部、およびメタノール7重量部を密閉容器に入れ、混合物をゆっくり撹拌しながら24時間かけて溶解した。このドープを加圧ろ過した後、さらに24時間静置しドープ中の泡を除いた。
【0194】
上記ドープを、ガラス板上にバーコーターを用いてドープ温度30℃で流延した。流延したガラス板を密閉し、表面を均一にする(レベリングする)ために2分間静置した。レベリング後、40℃の温風乾燥機で8分間乾燥させた後、ガラス板からフィルムを剥離した。次いでフィルムをステンレス製の枠に支持し、100℃の温風乾燥機で20分間乾燥させて膜厚124μmのフィルムを得た。得られたフィルム(未延伸フィルム)のReは12nmであり、Rthは207nmであった。なお、得られたフィルムの厚みを100μmに換算した場合のReは10nmであり、Rthは167nmである。また、得られたフィルムの全光線透過率は92.4%、ヘーズは0.2%、YI値は1.1であった。
【0195】
(合成例2)
撹拌機およびダブルヘリカル型撹拌翼を備えた反応器に、酢酸セルロース(ダイセル化学工業(株)製、L−20、置換度2.41、グルコース単位あたりの分子量263.2、比重1.33、重合度140)7.0kgを投入し、反応器を120℃に加温しつつ乾燥窒素気流下で撹拌しながら酢酸セルロースにさらに2時間乾燥を施した。乾燥終了後の酢酸セルロースの水分量は0.30重量%であった。そして、反応器にモノマー(εーカプロラクトン)3.0kg、溶媒(シクロヘキサノン)5.7kgを投入し、反応器を140℃に加温しながら乾燥窒素雰囲気の密閉系で2時間撹拌し、内容物を均一な溶液状態とした。その後、反応器を常圧に戻し、触媒(モノブチルスズトリオクチレート)10gを溶解させたシクロヘキサノン1.0kgを投入し、反応系を再び密閉し160℃に昇温して5時間重合反応を行った。モノマー転化率は、2時間で53%、5時間で97.7%であった。
【0196】
重合反応終了後、反応液を脱揮装置を備えた押出機に導入し、190℃で揮発成分を留去しながらストランド状に押出し、ペレタイザーで切断して透明感のあるペレット状の生成物を得た。生成物中の残存モノマー量は0.11重量%、残存シクロヘキサノン量は1.8重量%であった。
【0197】
脱揮後ペレット(直径約3mm,長さ約4mmの円柱状ペレット、嵩密度0.76g/ml)の酸価は6.0mgKOH/g、残存するε−カプロラクトンの単独重合体、すなわちCL単独重合体の含有率は13.0重量%、グラフト重合体の特性値は、MS(CL)0.59、DS(PCL)0.06、DP(PCL)10.5であった。
【0198】
(実施例5)
合成例2で得られたペレット20gを、還流管を取り付けた200mL丸底フラスコにとり、室温のメタノール60gを追加し、すぐに温浴に浸して50℃に温調した(浸漬1回目)。メタノールを追加した時点から1時間後、フラスコ内のメタノールを捨て、その後新しい室温のメタノール60gを投入し、再び50℃に温調した(浸漬2回目)。同様の操作を1時間毎に繰り返して10回目の浸漬を終えた後、ペレットをフラスコから取り出し、60℃で一昼夜真空乾燥し、抽出処理されたペレットを得た。抽出溶媒として使用したメタノールの総量は600gであった。
【0199】
このペレットについて、H−NMR測定にて組成を確認した。ペレットの組成は、グラフト重合体98.8重量%、ε−カプロラクトンの単独重合体0.5重量%、シクロヘキサノン0.6重量%であり、ε−カプロラクトンモノマーの残留は認められなかった。メタノール(抽出溶媒)の含有量は0.1重量%であった。また、ペレットの酸価は0.7mgKOH/g、グラフト重合体の特性値は、MS(CL)0.78、DS(PCL)0.08、DP(PCL)9.9、密度(真比重)1.24g/mlであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グルカン誘導体のヒドロキシル基にヒドロキシ酸成分がグラフト重合したヒドロキシ酸変性グルカン誘導体を製造する方法であって、(1)グルカン誘導体とヒドロキシ酸成分とを反応させてヒドロキシ酸変性グルカン誘導体を含む反応混合物を得るグラフト反応工程と、(2)前記反応混合物を、抽出溶媒により抽出処理する抽出工程とを少なくとも含むヒドロキシ酸変性グルカン誘導体の製造方法。
【請求項2】
グラフト反応工程(1)において、グルカン誘導体としてセルロースアシレートを使用し、ヒドロキシ酸成分として、C4−10ラクトンおよびC4−10環状ジエステルから選択された少なくとも1種を使用する請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
グラフト反応工程(1)において、溶媒を使用し、かつ単独でヒドロキシ酸成分の重合を開始しない金属錯体を触媒として使用する請求項1記載の製造方法。
【請求項4】
グラフト反応工程(1)が、(1A)溶媒中、グルカン誘導体とヒドロキシ酸成分とを反応させて液体状の反応混合物を得る反応工程と、(1B)前記液体状の反応混合物を、固体状の反応混合物に変化させる固化工程とで構成されている請求項1記載の製造方法。
【請求項5】
固化工程(1B)において、液体状の反応混合物から再沈殿させることなく固体状の反応混合物を調製する請求項4記載の製造方法。
【請求項6】
固化工程(1B)において、液体状の反応混合物を脱揮処理したのち、固体状の反応混合物を調製する請求項4記載の製造方法。
【請求項7】
固化工程(1B)において、固体状の反応混合物の形状がペレット状である請求項4記載の製造方法。
【請求項8】
ペレット状の反応混合物の嵩密度が0.4〜1.0g/mlである請求項7記載の製造方法。
【請求項9】
抽出工程(2)において、抽出溶媒が、ヒドロキシ酸変性グルカン誘導体を膨潤させる溶媒である請求項1記載の製造方法。
【請求項10】
抽出工程(2)において、抽出溶媒が、非ハロゲン系溶媒である請求項1記載の製造方法。
【請求項11】
抽出工程(2)において、抽出溶媒が、C1−3アルカノールおよびC6−10アレーンから選択された少なくとも1種である請求項1記載の製造方法。
【請求項12】
抽出工程(2)において、抽出処理を加熱下で行う請求項1記載の製造方法。
【請求項13】
抽出工程(2)において、抽出処理が、浸漬抽出、カラム抽出、及び向流抽出から選択された少なくとも一種である請求項1記載の製造方法。
【請求項14】
抽出工程(2)において、複数回に分割して回分的に浸漬抽出することにより抽出処理する請求項1記載の製造方法。
【請求項15】
ヒドロキシ酸変性グルカン誘導体全体に対して、ヒドロキシ酸成分の単独重合体の割合が2重量%以下およびヒドロキシ酸成分の割合が0.5重量%以下であり、かつ酸価が2mgKOH/g以下であるヒドロキシ酸変性グルカン誘導体を製造する請求項1記載の製造方法。
【請求項16】
ハーゼン色数が100以下のヒドロキシ酸変性グルカン誘導体を製造する請求項1記載の製造方法。
【請求項17】
グルカン誘導体のヒドロキシル基にヒドロキシ酸成分がグラフト重合したヒドロキシ酸変性グルカン誘導体であって、グラフト重合したヒドロキシ酸成分の割合が、グルカン誘導体のグルコース単位1モルに対して、ヒドロキシ酸換算で平均0.001〜5モルであり、ヒドロキシ酸変性グルカン誘導体全体に対して、ヒドロキシ酸成分の単独重合体の割合が2重量%以下およびヒドロキシ酸成分の割合が0.5重量%以下であり、かつ酸価が2mgKOH/g以下であるヒドロキシ酸変性グルカン誘導体。
【請求項18】
ハーゼン色数が100以下である請求項17記載のヒドロキシ酸変性グルカン誘導体。
【請求項19】
光学用途に用いる請求項17記載のヒドロキシ酸変性グルカン誘導体。
【請求項20】
請求項17記載のヒドロキシ酸変性グルカン誘導体で形成された光学用成形体。
【請求項21】
光学フィルムである請求項20記載の光学用成形体。

【公開番号】特開2008−280419(P2008−280419A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−125032(P2007−125032)
【出願日】平成19年5月9日(2007.5.9)
【出願人】(000002901)ダイセル化学工業株式会社 (1,236)
【Fターム(参考)】