説明

ヒートパイプを備えた培養装置

【課題】結露を防止して培養物に対する悪影響を抑制するとともに、製造コストが嵩まず経済的な培養装置の提供。
【解決手段】断熱部30の一端に入熱部31を備え、他端に放熱部32を備えるヒートパイプ35の放熱部32を培養装置1の外部に配置し、断熱部30を断熱箱本体2および内箱22を貫通して配置し、入熱部31をダクト11内の気体通路Kに配置するようにヒートパイプ35を装着し、入熱部31およびその近傍の断熱部30に結露した水分を下方に流下させて加湿皿15に入れ、加湿水16として繰り返し使用できるように構成したことを特徴とする培養装置1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒートパイプを備えた培養装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
細胞や微生物等の培養物を培養器内で培養する培養装置がある。この培養装置は、加湿皿が載置される培養器内を加熱するためのヒータを備えており、例えば、このヒータを制御して培養器内を所定温度(例えば、37℃)に維持するとともに、同器内をこの所定温度に応じた所定湿度(例えば、95%RH)に維持するようになっている。
【0003】
また、例えば、加湿皿の水を加熱するための底ヒータと、この加湿皿以外の培養器内を加熱するためのヒータと、断熱箱本体に開閉自在に取り付けられる断熱扉に取り付けられるヒータを備え、これら3種類のヒータを個別に制御して加湿皿の水の温度を培養器内の温度よりも低めに維持することによって、培養器内の過飽和分の水を加湿皿に戻して、結露を抑制する培養装置が開示されている(例えば、特許文献1参照)。この培養装置は、培養器内の温度を検出するための温度センサと外気温を検出するための温度センサを備えており、これら2つの温度センサの検出結果に基づいて、前記3種類のヒータをそれぞれ個別に制御するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−227942号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、一般にヒータの作用は冷却ではなく加熱のみであるため、前述した特許文献1に開示された培養装置のように、加湿皿の水の温度と培養器内の温度とをヒータのみの制御によって所定の関係に維持するためには、例えば各温度センサに対し相応の検出精度が要求される。ここで、2つの温度の所定の関係とは、培養器内における培養物に影響を及ぼす恐れのある場所での結露を抑制しつつ同器内を飽和水蒸気密度に近い湿度に維持できる程度に、加湿皿の水の温度が、培養器内の温度よりも低い、という関係である。しかし、これを実現するためには、加湿皿の温度が低くなるため、この周囲に結露が発生するという問題がある。
【0006】
前記の結露が生じた場合、この結露した水に雑菌が発生して、培養物に悪影響を及ぼすという問題が生じる。
【0007】
本発明の目的は、従来の問題を解決し、結露を防止して培養物に対する悪影響を抑制するとともに、製造コストが嵩まず経済的な培養装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために発明者は鋭意研究した結果、培養装置の所定の箇所に入熱部と放熱部を備えるヒートパイプを装着し、例えば、培養器内が過飽和水蒸気密度に近付くと入熱部およびその近傍の断熱部に結露し、結露した水分を下方に流下させて加湿皿に入れ、加湿水として繰り返し使用できるように構成することにより前記課題を解決できることを見いだし、本発明を成すに至った。
【0009】
前記課題を解決するための請求項1記載の発明は、前面に開口を有する断熱箱本体と、前記断熱箱本体に開閉自在に取り付けられる断熱扉と、前記開口を開閉自在に閉塞する透明内扉と、前記内扉と断熱箱本体とで囲まれ細胞や微生物等の試料の培養を行う培養器と、培養器に空気等の気体を強制対流させるためのダクト及び循環用送風機と、培養器の湿度を制御するための加湿水を貯溜し前記ダクト内で且つ培養器の底部に配置した加湿皿とを備え、前記断熱箱本体は、金属製の外箱と、金属製の内箱と、外箱と内箱の間で外箱の内側に配置される断熱材と、前記断熱材よりも内側に配置される空気層と、を備えた培養装置において、
断熱部の一端に入熱部を備え、他端に放熱部を備えるヒートパイプの放熱部を培養装置の外部に配置し、断熱部を前記断熱箱本体および内箱を貫通して配置し、入熱部を前記ダクト内の気体通路に配置するようにヒートパイプを装着し、入熱部およびその近傍の断熱部に結露した水分を下方に流下させて加湿皿に入れ、加湿水として繰り返し使用できるように構成したことを特徴とする培養装置である。
【0010】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の培養装置において、前記ダクト内の気体通路に達した断熱部を下方に曲折し、曲折部から入熱部に到るヒートパイプの部分が対応する前記ダクトと平行になるように構成したことを特徴とする。
【0011】
請求項3記載の発明は、請求項1あるいは請求項2記載の培養装置において、断熱部が内箱を貫通する部分の断熱部と内箱とが断熱性シール材を介して配置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の請求項1記載の発明は、前面に開口を有する断熱箱本体と、前記断熱箱本体に開閉自在に取り付けられる断熱扉と、前記開口を開閉自在に閉塞する透明内扉と、前記内扉と断熱箱本体とで囲まれ細胞や微生物等の試料の培養を行う培養器と、培養器に空気等の気体を強制対流させるためのダクト及び循環用送風機と、培養器の湿度を制御するための加湿水を貯溜し前記ダクト内で且つ培養器の底部に配置した加湿皿とを備え、前記断熱箱本体は、金属製の外箱と、金属製の内箱と、外箱と内箱の間で外箱の内側に配置される断熱材と、前記断熱材よりも内側に配置される空気層と、を備えた培養装置において、
断熱部の一端に入熱部を備え、他端に放熱部を備えるヒートパイプの放熱部を培養装置の外部に配置し、断熱部を前記断熱箱本体および内箱を貫通して配置し、入熱部を前記ダクト内の気体通路に配置するようにヒートパイプを装着し、入熱部およびその近傍の断熱部に結露した水分を下方に流下させて加湿皿に入れ、加湿水として繰り返し使用できるように構成したことを特徴とするものであり、
培養装置の所定の箇所に入熱部と放熱部を備えるヒートパイプを装着し、例えば、培養器内が過飽和水蒸気密度に近付くと入熱部に結露し、結露した水分を下方に流下させて加湿皿に入れ、加湿水として繰り返し使用できるように構成したので、結露を防止して培養物に対する悪影響を抑制するとともに、前記ダクト内の循環用送風機を作動して培養器内に温度、湿度のむらが発生しないように運転することができ、しかも製造コストが嵩まず経済的な培養装置を提供できる、という顕著な効果を奏する。
【0013】
本発明の請求項2記載の発明は、請求項1記載の培養装置において、前記ダクト内の気体通路に達した断熱部を下方に曲折し、曲折部から入熱部に到るヒートパイプの部分が対応する前記ダクトと平行になるように構成したことを特徴とするものであり、
曲折部から入熱部に到るヒートパイプの部分によく結露し、結露した水分が重力によって下方に流下して飛散することなく加湿皿に入る、というさらなる顕著な効果を奏する。
【0014】
請求項3記載の発明は、請求項1あるいは請求項2記載の培養装置において、断熱部が内箱を貫通する部分の断熱部と内箱とが断熱性シール材を介して配置されていることを特徴とするものであり、
ヒートパイプの断熱部と内箱との間に断熱性シール材を介在させたので、気体通路を流れる気体が漏洩せず、培養器が悪影響を受けなくなり、かつ断熱部と内箱との接触部に結露しなくなる、というさらなる顕著な効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明のヒートパイプを備えた培養装置の断熱扉を開いた状態を説明する斜視図である。
【図2】本発明のヒートパイプを備えた培養装置の培養器とダクトを中心として空気循環を説明するインキュベータを右側から見た状態の断面説明図である。
【図3】本発明で使用するヒートパイプを説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面に基づき本発明の実施例を詳述する。
本発明の実施形態における培養装置1は、図1および図2に示すように、左開き式の扉(詳しくは外扉と内扉)及び観音開き式の小扉を備えるものであり、前面に開口2Aを有する断熱箱本体2と、この開口2Aを開閉自在に閉塞する内扉としての透明扉3とで囲まれる空間により培養器4を形成している。この透明扉3は、その左側をヒンジにより断熱箱本体2に開閉自在に保持されており、培養器4の間口部分に設けられたガスケット2Bによって気密的に開口2Aを閉塞している。断熱箱本体2の間口には、透明内扉3と断熱箱本体2とをシールするシール部材2Bを備えている。
【0017】
培養器4の内部は、複数の棚5により上下に(ここでは4枚の棚で5つに)区画されている。尚、培養装置1は、例えば、COインキュベータであれば、COの濃度を5%程度に設定・維持するケースが多く、COの濃度制御に扉の閉塞後にCOガスを培養器4内に供給するようにしている。このため、内扉3を開放しても複数に区画された培養器4全体に外気進入が為されないように、内扉3よりも器内側に、観音開き式の小扉6A,6Bを各区画に対応して複数(ここでは5対)設けている。7は断熱箱本体2にヒンジによって開閉自在に支持され、培養器4の開口2Aからの熱進入を防止する外扉としての断熱扉であり、その裏面周囲に磁石入りのガスケット8を設けている。
【0018】
培養器4には、その背面及び底面に、それぞれCO等の気体通路Kを形成するための間隔を存して背面ダクト11A及び底面ダクト11Bからなるダクト11が配置され、背面ダクト11Aの上部に形成した吸込口12から培養器4内のCO等の気体を吸い込み、底面ダクト11Bの前部及び側面に設けた吹出口13から培養器4内に吹き出す空気の強制循環を行う。ダクト11内(ここでは上部)には、このCO等の気体の強制循環のために循環用送風機14を配置している。この送風機14は、ファンとモータと軸とで構成されており、モータは後述する培養庫4の外側背面の機械室19に配置され、軸はこの機械室19のモータから断熱箱本体2の背面を貫通してCO等の気体通路Kまで延びてファンに接続されている。
【0019】
培養器4の底面で且つダクト11内には、加湿用の水(即ち加湿水)16を貯溜する加湿皿15が配置され、金属例えばステンレス製の内箱22の底面外側に配置されたヒータ32により加熱されて水を蒸発させる。尚、加湿皿15をダクト11内で且つ培養器4の底部に配置することにより、循環用送風機14及びダクト11にて形成される培養器4へのCO等の気体通路Kに加湿されたガスを効率よく吹き出すことが可能となる。
【0020】
断熱箱本体2の外箱21の背面には、循環用送風機14の駆動手段たるモータや、培養器4にCOガスを供給するためのガス供給手段17、及び図示しない制御基板等の電装部品を配置するための機械室19が形成される。
【0021】
ガス供給手段17は、ガス供給管17Aと、開閉弁17Bと、フィルタ17C等で構成され、ガス供給管17Aの先端部分は、気体通路Kに臨むようになっている。
【0022】
培養器4のガス濃度を制御するためにガス出口17Aから供給されるCOガスを噴射させることができる。
【0023】
断熱箱本体2は、金属製の外箱21と、ステンレス製の内箱22と、外箱21と内箱22の間で外箱21の内側に配置される断熱材24と、前記断熱材24よりも内側に配置される空気層(所謂エアージャケット)25とを備える。培養器4を形成する内箱22の左右両側面、天面及び背面には、培養器を加熱するための加熱ヒータ(図示せず)が配置される。
【0024】
本発明の培養装置1は、図2に示したように培養装置1の所定の箇所に、断熱部30の一端に入熱部31を備え、断熱部30の他端に放熱部32を備えるヒートパイプ35が装着されている。
ヒートパイプ35の放熱部32を培養装置1の外部に配置し、断熱部30を断熱箱本体2および内箱22を貫通して配置し、入熱部31をダクト11A内の気体通路Kに配置するようにヒートパイプ35が装着されている。
入熱部21およびその近傍の断熱部30に結露した水分は下方に流下して加湿皿15に入り、加湿水16として繰り返し使用できるように構成してある。
【0025】
ヒートパイプ35は、ダクト11A内の気体通路Kに達した断熱部30が下方に曲折されて、曲折部34が形成されており、曲折部34から入熱部31に到るヒートパイプ35の部分が対応するダクト11Aと平行になるように構成してある。
曲折部34から入熱部31に到るヒートパイプ35の部分によく結露し、結露した水分が重力によって下方に流下して飛散することなく加湿皿15に入る。
【0026】
断熱部30が内箱22を貫通する部分の断熱部30と内箱22とが断熱性シール材36を介して配置されている。
断熱性シール材36を介在させたので、気体通路Kを流れる気体が漏洩せず、培養器4が悪影響を受けなくなり、かつ断熱部30と内箱22との接触部に結露しなくなる。
【0027】
図3に示すように、本発明で使用するヒートパイプは、密閉容器内に少量の液体(作動液)を真空封入し、内壁に毛細管構造(ウイック)33を備えたものであり、入熱部31で作動液が蒸発(蒸発潜熱の吸収)し、蒸発した蒸気は放熱部32の方向に移動する。蒸気は放熱部32で凝縮して蒸発潜熱を放出する。そして凝縮した液は毛細管現象で入熱部31還流する。このような一連の相変化が連続的に生じ、熱が素早く移動するようになっている。
本発明においては市販品のヒートパイプや銅、アルミニウム、銀などの金属棒を使用することも可能である。
なお、器内の湿度が低下するのを抑制するために、ヒートパイプの放熱部32に放熱を高めるヒートシンクや、ヒートパイプの温度を適正に維持するための加熱用ヒータを取り付けることもある。
【0028】
本発明で使用するヒートパイプの容量、形状、寸法、個数などは培養装置の容量、形状、大きさ、培養物などによって異なる。
【0029】
なお、上記実施形態の説明は、本発明を説明するためのものであって、特許請求の範囲に記載の発明を限定し、或は範囲を減縮するものではない。又、本発明の各部構成は上記実施形態に限らず、特許請求の範囲に記載の技術的範囲内で種々の変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明の培養装置は、所定の箇所に入熱部と放熱部を備えるヒートパイプを装着し、例えば、培養器内が過飽和水蒸気密度に近付くと入熱部に結露し、結露した水分を下方に流下させて加湿皿に入れ、加湿水として繰り返し使用できるように構成したので、結露を防止して培養物に対する悪影響を抑制するとともに、前記ダクト内の循環用送風機を作動して培養器内に温度、湿度のむらが発生しないように運転することができ、しかも製造コストが嵩まず経済的な培養装置を提供できる、という顕著な効果を奏するので、産業上の利用価値は甚だ大きい。
【符号の説明】
【0031】
1 培養装置
2 断熱箱本体
2A 開口
3 透明内扉
4 培養器
5 棚
6A,6B 小扉
7 断熱扉
8 ガスケット
11 ダクト
11A 背面ダクト
11B 底面ダクト
14 循環用送風機
15 加湿皿
16 加湿水
17 ガス供給手段
17A ガス出口
21 外箱
22 内箱
24 断熱材
25 空気層(エアージャケット)
30 断熱部
31 入熱部
32 放熱部
33 毛細管構造(ウイック)
34 曲折部
35 ヒートパイプ
36 断熱性シール材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前面に開口を有する断熱箱本体と、前記断熱箱本体に開閉自在に取り付けられる断熱扉と、前記開口を開閉自在に閉塞する透明内扉と、前記内扉と断熱箱本体とで囲まれ細胞や微生物等の試料の培養を行う培養器と、培養器に空気等の気体を強制対流させるためのダクト及び循環用送風機と、培養器の湿度を制御するための加湿水を貯溜し前記ダクト内で且つ培養器の底部に配置した加湿皿とを備え、前記断熱箱本体は、金属製の外箱と、金属製の内箱と、外箱と内箱の間で外箱の内側に配置される断熱材と、前記断熱材よりも内側に配置される空気層と、を備えた培養装置において、
断熱部の一端に入熱部を備え、他端に放熱部を備えるヒートパイプの放熱部を培養装置の外部に配置し、断熱部を前記断熱箱本体および内箱を貫通して配置し、入熱部を前記ダクト内の気体通路に配置するようにヒートパイプを装着し、入熱部およびその近傍の断熱部に結露した水分を下方に流下させて加湿皿に入れ、加湿水として繰り返し使用できるように構成したことを特徴とする培養装置。
【請求項2】
前記ダクト内の気体通路に達した断熱部を下方に曲折し、曲折部から入熱部に到るヒートパイプの部分が対応する前記ダクトと平行になるように構成したことを特徴とする請求項1記載の培養装置。
【請求項3】
断熱部が内箱を貫通する部分の断熱部と内箱とが断熱性シール材を介して配置されていることを特徴とする請求項1あるいは請求項2記載の培養装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−66435(P2013−66435A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−207836(P2011−207836)
【出願日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【出願人】(592031097)パナソニックヘルスケア株式会社 (28)
【Fターム(参考)】