説明

ヒートポンプ

【課題】冷却側の需要と加熱側の需要とを同時に満足でき、圧縮機の消費動力が小さいヒートポンプを提供する。
【解決手段】ヒートポンプは、第1熱媒体が封入され、冷却対象流体と第1熱媒体との間で熱交換する第1蒸発器3、第1熱媒体を圧縮する第1圧縮機4、第1熱媒体と第2熱媒体との間で熱交換する中間熱交換器5、第1熱媒体と補助冷却流体との間で熱交換する補助凝縮器6、および、第1熱媒体を減圧する第1膨張弁7が介設された第1循環流路1と、第2熱媒体が封入され、中間熱交換器5、第2熱媒体を圧縮する第2圧縮機8、第2熱媒体と加熱対象流体との間で熱交換する第2凝縮器9、および、第2熱媒体を減圧する第2膨張弁10が介設された第2循環流路2と、第1圧縮機4の吐出圧力が所定の設定圧力になるように、補助凝縮器6に供給される補助冷却流体の流量を調整する第1流量制御装置13とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒートポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
ヒートポンプでは、熱媒体(冷媒)が、蒸発器において冷却対象物から温熱を受け取って、冷却対象物を冷却し、凝縮器において加熱対象物に温熱を放出して、加熱対象物を加熱する。つまり、ヒートポンプは、蒸発器では冷却を、凝縮器では加熱を行っている。
【0003】
例えば、特許文献1には、ヒートポンプの熱媒体が凝縮器で放出する温熱を暖房やプロセス加熱に用い、熱媒体が蒸発器で放出する冷熱を冷房やプロセス冷却に用いることが記載されている。また、非特許文献1には、90℃の温水と7℃の冷水とを同時に製造できるヒートポンプが記載されている。
【0004】
しかしながら、冷却と加熱とを同時に行うヒートポンプでは、冷却側の負荷(需要)と加熱側の負荷(需要)とがバランスしている必要がある。つまり、冷却側で要求される冷熱量が大きくても、加熱側で要求される温熱量が小さければ、冷却側に十分な冷熱を供給できない。しかしながら、実際には、加熱側の負荷と冷却側の負荷とは互いに関係がない場合が殆どである。
【0005】
そこで、例えば、加熱側の負荷が相対的に小さいと予想される場合、図9に示すように、凝縮器を、加熱したい対象流体によって熱媒体を冷却する熱交換器(主凝縮器)と、他の冷熱源によって熱媒体をさらに冷却する熱交換器(補助凝縮器)とに分けて構成することで、加熱側の需要と冷却側の需要の両方を同時に満足することができる。
【0006】
詳しく説明すると、図9に示したヒートポンプは、熱媒体(例えばR134a)が封入されており、熱媒体と冷却対象流体(冷却側負荷)との間で熱交換する蒸発器101と、熱媒体を圧縮する圧縮機102と、熱媒体と加熱対象流体(加熱側負荷)との間で熱交換する主凝縮器103と、加熱側負荷が小さい場合に熱媒体と補助冷却流体(例えばクーリングタワーの冷却水)との間で熱交換する補助凝縮器104と、熱媒体を減圧する減圧弁105とが介設されてなる。
【0007】
図10に、図9のヒートポンプにおける熱サイクルをp−i線図(モリエル線図)上に示す。このヒートポンプにおいて、主凝縮器103および補助凝縮器104における熱媒体の凝縮温度は70℃であり、蒸発器101における熱媒体の蒸発温度は0℃である。このヒートポンプは、加熱対象流体を主凝縮器103の出口において、63℃になるように加熱し、且つ、冷却対象流体を蒸発器101の出口において、7℃になるように冷却する。
【0008】
例えば、加熱対象流体に要求される温熱量(加熱負荷)が108.2kWであり、冷却対象流体に要求される冷熱量(冷却負荷)が94.3kWである場合、蒸発器101において94.3kWの冷却負荷を達成できるように、圧縮機102の回転数、つまり、熱媒体の循環流量が決定される。この流量の熱媒体を飽和蒸気温度が70℃となる圧力まで圧縮するために圧縮機102に必要とされる動力は41.0kWである。
【0009】
そして、この流量の熱媒体からは、主凝縮器103および補助凝縮器104において、合計135.3kWの温熱が得られる。補助凝縮器104に供給される補助冷却流体の流量を調節することで、主凝縮器103において加熱対象流体が受け取る熱量と、補助凝縮器104において補助冷却流体が受け取る熱量との比がコントロールできる。上記条件では、主凝縮器103において108.2kWだけ加熱対象流体を加熱し、補助凝縮器104において残りの27.1kWの熱を補助冷却流体中に廃棄することになる。
【0010】
このヒートポンプにおける成績係数COPは(冷却負荷+加熱負荷)/(圧縮機動力)=(94.3kW+108.2kW)/(41.0kW)=4.94である。仮に、加熱負荷がヒートポンプサイクルにおいて冷却負荷とバランスする135.3kW(全負荷)であるとすると、成績係数COPは(94.3kW+135.3kW)/(41.0kW)=5.6となる。したがって、上記条件では、全負荷の場合よりも約12%も熱効率が低下している。省エネルギーの観点から、部分負荷においても高い成績係数COPを達成することが望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2005−315476号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】下田平修和、「超高効率温水ヒートポンプ「HEM−HR90」の開発」、建築電力懇話会誌「建築とエネルギー」、建築電力懇話会広報部会、平成23年3月、Vol.43、p.35−37
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
そこで、本発明は、冷却側の需要と加熱側の需要とを同時に満足でき、圧縮機の消費動力が小さいヒートポンプを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記課題を解決するために、本発明によるヒートポンプの第1の態様は、第1熱媒体が封入され、冷却対象流体と前記第1熱媒体との間で熱交換する第1蒸発器、前記第1熱媒体を圧縮する第1圧縮機、前記第1熱媒体と第2熱媒体との間で熱交換する中間熱交換器、前記第1熱媒体と補助冷却流体との間で熱交換する補助凝縮器、および、前記第1熱媒体を減圧する第1膨張弁が介設された第1循環流路と、前記第2熱媒体が封入され、前記中間熱交換器、前記第2熱媒体を圧縮する第2圧縮機、前記第2熱媒体と加熱対象流体との間で熱交換する第2凝縮器、および、前記第2熱媒体を減圧する第2膨張弁が介設された第2循環流路と、前記第1圧縮機の吐出圧力が所定の設定圧力になるように、前記補助凝縮器に供給される前記補助冷却流体の流量を調整する第1流量制御装置と、を有するものとする。
【0015】
また、本発明によるヒートポンプの第2の態様は、第1熱媒体が封入され、冷却対象流体と前記第1熱媒体との間で熱交換する第1蒸発器、前記第1熱媒体を圧縮する第1圧縮機、前記第1熱媒体と第2熱媒体との間で熱交換する中間熱交換器、および、前記第1熱媒体を減圧する第1膨張弁が介設された第1循環流路と、前記第2熱媒体が封入され、前記中間熱交換器、前記第2熱媒体と補助加熱流体との間で熱交換する補助蒸発器、前記第2熱媒体を圧縮する第2圧縮機、前記第2熱媒体と加熱対象流体との間で熱交換する第2凝縮器、および、前記第2熱媒体を減圧する第2膨張弁が介設された第2循環流路と、前記第2圧縮機の吸込圧力が所定の設定圧力になるように、前記補助蒸発器に供給される前記補助加熱流体の流量を調整する第2流量制御装置と、を有するものとする。
【0016】
また、本発明によるヒートポンプの第3の態様は、第1熱媒体が封入され、冷却対象流体と前記第1熱媒体との間で熱交換する第1蒸発器、前記第1熱媒体を圧縮する第1圧縮機、前記第1熱媒体と第2熱媒体との間で熱交換する中間熱交換器、前記第1熱媒体と補助冷却流体との間で熱交換する補助凝縮器、および、前記第1熱媒体を減圧する第1膨張弁が介設された第1循環流路と、前記第2熱媒体が封入され、前記中間熱交換器、前記第2熱媒体と補助加熱流体との間で熱交換する補助蒸発器、前記第2熱媒体を圧縮する第2圧縮機、前記第2熱媒体と加熱対象流体との間で熱交換する第2凝縮器、および、前記第2熱媒体を減圧する第2膨張弁が介設された第2循環流路と、前記第1圧縮機の吐出圧力が所定の設定圧力になるように、前記補助凝縮器に供給される前記補助冷却流体の流量を調整する第1流量制御装置と、前記第2圧縮機の吸込圧力が所定の設定圧力になるように、前記補助蒸発器に供給される前記補助加熱流体の流量を調整する第2流量制御装置と、を有するものとする。
【0017】
これらの構成によれば、第1循環流路における熱媒体の循環流量を冷却負荷に対して最適化し、第2循環流路における熱媒体の循環流量を加熱負荷に対して最適化することで、1つのサイクルにおいて冷却負荷および加熱負荷の相対的に大きい方に合わせた熱媒体の循環流量とするよりも、系外に廃棄する熱量を小さくすることができ、第1圧縮機および第2圧縮機の動力消費の合計も、1つのサイクルにおける動力消費よりも小さくなる。これにより、冷却負荷と加熱負荷とがアンバランスでも、高い成績係数を実現できる。
【0018】
また、本発明のヒートポンプは、前記第1蒸発器の出口における前記冷却対象流体の温度が所定の設定温度になるように、前記第1圧縮機の回転数を制御する第1回転数制御装置を有してもよい。さらに、本発明のヒートポンプは、前記第2凝縮器の出口における前記加熱対象流体の温度が所定の設定温度になるように、前記第2圧縮機の回転数を制御する第2回転数制御装置を有してもよい。
【0019】
この構成によれば、第1循環流路と第2循環流路との運転が安定して行え、且つ、冷却負荷および/または加熱負荷の変動に対しても通常のヒートポンプと同様の応答が得られる。
【発明の効果】
【0020】
以上のように、本発明によれば、ヒートポンプを、冷却負荷に最適な流量で運転をする第1循環流路と加熱負荷に対して最適な流量で運転をする第2循環流路との2段に分けたことで、系外に廃棄する熱量を小さくし、高い成績係数を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第1実施形態のヒートポンプの構成図である。
【図2】図1のヒートポンプにおける理想負荷におけるモリエル線図である。
【図3】図1のヒートポンプにおける部分負荷におけるモリエル線図である。
【図4】本発明の第2実施形態のヒートポンプの構成図である。
【図5】本発明の第3実施形態のヒートポンプの構成図である。
【図6】図5のヒートポンプにおける部分負荷におけるモリエル線図である。
【図7】本発明の第4実施形態のヒートポンプの構成図である。
【図8】本発明の第5実施形態のヒートポンプの構成図である。
【図9】従来技術から導かれるヒートポンプの構成図である。
【図10】図9のヒートポンプにおけるモリエル線図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
これより、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。図1に、本発明の第1実施形態であるヒートポンプの構成を示す。本実施形態のヒートポンプは、冷却負荷源である冷却対象流体(循環冷水)を所定の設定温度(例えば7℃)に冷却し、同時に、加熱負荷源である加熱対象流体(循環温水)を所定の設定温度(例えば63℃)に加熱するために用いられる。
【0023】
本実施形態のヒートポンプは、第1熱媒体(例えばR134a)が封入された第1循環流路1と、第2熱媒体(例えばR134a)が封入された第2循環流路2を有する。本実施形態では、第1熱媒体と第2熱媒体とは同じ冷媒であるが、異なる熱媒体であってもよい。
【0024】
第1循環流路1は、冷却対象流体と第1熱媒体との間で熱交換する第1蒸発器3と、第1熱媒体を圧縮する第1圧縮機4と、第1熱媒体と第2熱媒体との間で熱交換する中間熱交換器5と、系外に熱を廃棄するための補助冷却流体(例えばクーリングタワーで製造した冷却水)と第1熱媒体との間で熱交換する補助凝縮器6と、第1熱媒体を減圧する第1膨張弁7とが介設されてなる。
【0025】
第2循環流路2は、中間熱交換器5と、第2熱媒体を圧縮する第2圧縮機8と、第2熱媒体と加熱対象流体との間で熱交換する第2凝縮器9と、第2熱媒体を減圧する第2膨張弁10とが介設されてなる。
【0026】
また、第1循環流路1は、第1圧縮機4の吐出圧力を検出する圧力検出器11を備え、補助凝縮器6に供給される補助冷却流体の流量は、第1流量調節弁12によって調整できるようになっている。そして、このヒートポンプは、圧力検出器11の検出値に基づいて、第1圧縮機4の吐出圧力を所定の設定圧力(例えば0.7MPa)に保つように第1流量調節弁12の開度を、例えばPID制御によって調節する第1流量制御装置13を備える。尚、この所定の設定圧力(例えば0.7MPa)は、第1圧縮機4の圧縮比と、第2圧縮機8の圧縮比を同じ値、あるいはほぼ同等の値とした場合に想定される圧力に基づいて決定されるのが良い。こうすることによって、第1圧縮機4と第2圧縮機8の各々の運転に係る負担をほぼ均等に配分することができる。
【0027】
第1圧縮機4および第2圧縮機8は、それぞれ、インバータ14,15によって周波数制御されるモータ16,17によって駆動される。また、このヒートポンプは、冷却対象流体の第1凝縮器3の出口における温度を検出する冷却温度検出器18を有する。そして、このヒートポンプは、冷却温度検出器18の検出値に基づいて、第1蒸発器3の出口における冷却対象流体の温度を所定の設定温度(例えば7℃)に保つように、インバータ14を介して第1圧縮機4の回転数、つまり、第1循環流路1における熱媒体の循環流量を、例えばPID制御によって制御する第1回転数制御装置19を備える。
【0028】
また、このヒートポンプは、加熱対象流体の第2凝縮器9の出口における温度を検出する加熱温度検出器20を有する。そして、このヒートポンプは、加熱温度検出器20の検出値に基づいて、加熱対象流体の出口温度を所定の設定値(例えば63℃)に保つように、インバータ15を介して第2圧縮機8の回転数、つまり、第2循環流路2における熱媒体の循環流量を、例えばPID制御によって制御する第2回転数制御装置21を備える。
【0029】
図2に、本実施形態のヒートポンプの第1循環流路1および第2循環流路2のそれぞれの熱サイクルをp−i線図(モリエル線図)上に示す。点Aは、第1蒸発器3の出口における第1熱媒体の状態、点Bは、中間熱交換器5の入口における第1熱媒体の状態、点Cは、補助凝縮器6の出口における第1熱媒体の状態、点Dは、第1蒸発器3の入口における第1熱媒体の状態を示す。点Eは、中間熱交換器5の出口における第2熱媒体の状態、点Fは、第2凝縮器9の入口における第2熱媒体の状態、点Gは、第2凝縮器9の出口における第2熱媒体の状態、点Hは、中間熱交換器5の入口における第2熱媒体の状態を示す。
【0030】
この図には、併せて、第1蒸発器3、中間熱交換器5、第2凝縮器9における交換熱量を示している。尚、この交換熱量は、P−i線図上における比エンタルピの変化量に熱媒体の流量を乗じて算出される値である。そして、この例において、第1蒸発器3における交換熱量(冷却負荷)が、定格値、つまり、第1圧縮機4の回転数が最大値になる負荷である94.3kWであり、第2凝縮器9における交換熱量(加熱負荷)が、定格値、つまり、第2圧縮機8の回転数が最大値になる負荷である135.3kWである場合を示している。
【0031】
点Aは、第1蒸発器3における第1熱媒体の蒸発圧力(例えば0℃)で、飽和蒸気線上の点である。点Bは、点Aから、中間熱交換器5および補助凝縮器6における凝縮温度(例えば25℃)に応じて定められる第1圧縮機4の吐出圧力(例えば0.7MPa)まで所定のポリトロープ変化をした点である。点Cは、中間熱交換器5および補助凝縮器6における凝縮圧力で飽和液線上の点である。点Dは、点Cから第1蒸発器3における蒸発圧力まで断熱膨張(等エンタルピ変化)した点である。このため、第1蒸発器3における交換熱量と圧縮機4の圧縮仕事(圧縮機4の効率を無視して消費動力と考える)との合計は、中間熱交換器5および補助凝縮器6における交換熱量と等しい。また、第1蒸発器3における交換熱量と中間熱交換器5および補助凝縮器6における交換熱量との比は、第1蒸発器3における蒸発圧力と中間熱交換器5および補助凝縮器6における凝縮圧力とに依存するため、第1圧縮機4の回転数に拘わらず一定である。
【0032】
同様に、第2循環流路2においても、第2熱媒体の中間熱交換器5(点H−点E間)における交換熱量と第2圧縮機8(点E−点F間)の消費動力との合計は、第2凝縮器9における交換熱量と等しい。また、中間熱交換器5における交換熱量と第2凝縮器9における交換熱量との比は、中間熱交換器5における第2熱媒体の蒸発温度(例えば20℃)および第2凝縮器9における第2熱媒体の凝縮温度(例えば70℃)によって定められる。
【0033】
図示するように、冷却負荷が94.3kWである場合、中間熱交換器5および補助凝縮器6における交換熱量は、108.0kWとなる。また、加熱負荷が135.3kWである場合、中間熱交換器5における交換熱量は、108.0kWである。つまり、この条件では、中間熱交換器5において、冷却負荷と加熱負荷とがバランスしている。このため、補助凝縮器6における交換熱量はゼロでなければならず、第1流量制御装置13は第1流量調節弁12を全閉にする。また、第1圧縮機4の消費動力は、13.7kWであり、第2圧縮機8における消費動力は、27.3kWである。この場合の成績係数COPは、(冷却負荷+加熱負荷)/(第1圧縮機動力+第2圧縮機動力)=(94.3kW+135.3kW)/(13.7kW+27.3kW)=5.61である、これは、図9に示した従来技術から導かれるヒートポンプと同じである。
【0034】
さらに、図3に、本実施形態のヒートポンプにおいて、加熱負荷が減少した場合を示す。本実施形態のヒートポンプでは、加熱負荷が減少(加熱対象流体の流量が減少または入り口温度が上昇)すると、第2回転数制御装置21が循環流路2の熱媒体の循環量を減少させて、加熱対象流体の第2凝縮器9出口における温度上昇を防止する。これにより、中間熱交換器5において第1熱媒体が第2熱媒体へ受け渡すことが可能な熱量が減少するので、凝縮圧力を維持するために、第1流量制御装置13は、第1流量調節弁12を開いて、補助凝縮器6によって中間熱交換器5における交換熱量の不足分だけ第1熱媒体から補助冷却流体に熱を放出(廃棄)させる。
【0035】
この場合、中間熱交換器5と補助凝縮器6との間における第1熱媒体の状態は、図3において点C’である。この点C’は、第2循環流路2における第2熱媒体の循環流量、つまり、加熱負荷に応じて移動する。加熱負荷がゼロである場合、点C’は、点Bに一致し、点Bと点Cとの間の熱量差を全て、補助冷却流体を介して系外に廃棄する。
【0036】
具体的には、図3では、加熱負荷が定格値の80%の108.2kWである場合を示している。この場合、中間熱交換器5において第2熱媒体が第1熱媒体から受け取ることができる熱量は、85.6kWである。しかしながら、第1循環流路1において中間熱交換器5および補助凝縮器6で放出すべき熱量は図2と同じ108.0kWである。このため、第1流量制御装置13は、第1熱媒体から残りの熱量22.4kWを補助凝縮器6において補助冷却流体に放出させるように、第1流量調節弁12の開度を調整する。
【0037】
このように、加熱負荷の減少にあわせて、第2循環流路2における第2熱媒体の循環流量を低下させたことにより、第2圧縮機8の消費動力も22.6kWに低減されている。したがって、この運転条件におけるヒートポンプの成績係数COPは、(94.3kW+108.2kW)/(13.7kW+22.6kW)=5.58であり、全負荷時の99%と、僅かな低下に留まっている。これは、図9の従来技術によるヒートポンプよりも、COPで0.64高く、電力にして4.7kWも省エネルギーである。
【0038】
さらに、図4に、本発明の第2実施形態であるヒートポンプの構成を示す。以降の実施形態に関し、先に説明した実施形態と同じ構成要素には同じ符号を付して、重複する説明を省略する。
【0039】
本実施形態は、第1実施形態の中間熱交換器5と補助凝縮器6との位置を入れ替えたものである。このような構成によっても、第1実施形態と同様に、第1循環流路1における第1熱媒体の循環流量を冷却負荷に合わせて最適化し、第2循環流路2における第2熱媒体の循環流量を加熱負荷に合わせて最適化することで、系外に廃棄する熱量を低減し、高い成績係数を実現できる。
【0040】
本発明において、第1圧縮機4の吐出圧力の設定値によって、中間熱交換器5および補助凝縮器6における第1熱媒体の凝縮温度、および、中間熱交換器5における第2熱媒体の蒸発温度が決定され、ひいては、第1圧縮機4と第2圧縮機8との動力負担の割合が決定される。つまり、第1圧縮機4の吐出圧力が低いほど、第1圧縮機4の動力の負担割合が小さくなる。
【0041】
また、第1循環流路1においては、中間熱交換器5における凝縮温度が低いほど、第1蒸発器3において冷却対象流体から受け取る熱量(点D−点A間)に対する中間熱交換器5において第2循環流路2に受け渡す熱量(点B−点C間)の熱量の比が小さくなる。そこで、第1圧縮機4の吐出圧力を第2凝縮器9における凝縮圧力よりも十分に低い圧力とすることで、全負荷における第2圧縮機8の動力負担割合をある程度大きくし、加熱負荷が減少したときに、第2循環流路2の循環流量を低減することによる第2圧縮機8の消費動力の低減効果が得られるようになる。
【0042】
さらに、図5に、本発明の第3実施形態のヒートポンプの構成を示す。本実施形態において、第1循環流路1には補助凝縮器6が設けられていないが、第2循環流路2の中間熱交換器5と第2圧縮機8との間に、補助蒸発器22が介設されている。補助蒸発器22は、系外から熱を供給するための補助加熱流体と第2熱媒体との間で熱交換する。補助蒸発器22に供給される補助加熱流体の流量は、第2流量調節弁23によって調整できるようになっている。
【0043】
また、本実施形態のヒートポンプは、第2循環流路2に、第2圧縮機8の吸込圧力を検出するための吸込圧力検出器24と、吸込圧力検出器24の検出値に基づいて、第2圧縮機8の吸込圧力を所定の設定圧力(例えば2.1MPa)に保つように第2流量調節弁23の開度を、例えばPID制御によって調節する第2流量制御装置25とを備える。
【0044】
図6に、本実施形態のヒートポンプの第1循環流路1および第2循環流路2のそれぞれの熱サイクルを示す。この例において、冷却負荷は、定格値(94.3kW)の80%(75.4kW)であり、加熱負荷は、定格値(135.3kW)である。尚、当業者には自明であるため、詳細には説明しないが、本実施形態のヒートポンプが全負荷(冷却負荷および加熱負荷が共に定格値)である場合の熱サイクルは、第1実施形態について示した図2と等しくなる。
【0045】
図6に示す部分負荷の場合、熱サイクルE−F−G−Hが示すように、第2凝縮器9において135.3kWの熱を放出し得る流量の第2熱媒体は、中間熱交換器5および補助蒸発器22において合計108kWの熱を受け取る必要がある。一方、熱サイクルA−B−C−Dが示すように、第1蒸発器3において94.3kWの熱を吸収し得る流量の第1熱媒体は、中間熱交換器5において第2熱媒体に対して86.4kWしか熱を供給できない。したがって、中間熱交換器5の出口における第2熱媒体は、点E’上にあり、湿り蒸気の状態である。尚、点E’は、第1熱媒体の循環流量、つまり、冷却負荷に応じて変動し、冷却負荷がゼロである場合には点Hに一致する。
【0046】
そして、中間熱交換器5から流出した第2熱媒体は、さらに、補助蒸発器22において補助加熱流体により、点Eと点E’との熱量差である21.6kWだけ加熱されることによって、初めて、点Eの飽和蒸気の状態となることができ、第2圧縮機8において圧縮できるようになる。第2流量制御装置25は、吸込圧力検出器24の検出値を設定圧力に維持するように第2流量調節弁23の開度を調節する。第2圧縮機8の吸込量は、加熱負荷に応じた循環流量と等しいため、第2圧縮機8の吸込圧力を所定の設定圧力に維持することは、補助蒸発器22において加熱負荷に応じた循環流量分だけ、第2熱媒体を点Eの飽和蒸気の状態に加熱することを意味する。
【0047】
また、図6の例では、冷却負荷が定格負荷の80%であるため、第1圧縮機4の消費動力も定格動力(13.7kW)の80%の11.0kWまで低減されている。したがって、この運転条件におけるヒートポンプの成績係数COPは、(75.4kW+135.3kW)/(11.0kW+27.3kW)=5.51であり、全負荷時の98%と、僅かな効率低下に留まっている。これは、図9に示した従来技術から導かれるヒートポンプにおいて同じ加熱負荷および冷却負荷を充足する場合と比べて、COPで0.54高く、電力にして2.74kWの省エネとなる。
【0048】
図7に、本発明の第4実施形態であるヒートポンプの構成を示す。本実施形態は、図5の第3実施形態の中間熱交換器5と補助蒸発器22との位置を入れ替えたものである。このような構成によっても、第3実施形態と同様に、第1循環流路1における第1熱媒体の循環流量を冷却負荷に合わせて最適化し、且つ、第2循環流路2における第2熱媒体の循環流量を加熱負荷に合わせて最適化することで、第2熱媒体から系外に廃棄する冷熱量を低減し、高い成績係数を実現するともに、補助加熱流体の消費量を低減できる。
【0049】
さらに、図8に、本発明の第5実施形態であるヒートポンプの構成を示す。本実施形態は、第1循環流路1に補助凝縮器6を有するとともに、第2循環流路2に補助蒸発器22を有する。本実施形態では、相対的に加熱負荷が小さいときには、第2流量調節弁23を全閉にすることで、図1に示した第1実施形態のヒートポンプと同じ動作をし、相対的に冷却負荷が小さいときは、第1流量調節弁12を全閉にすることで、図5に示した第3実施形態のヒートポンプと同じ動作をする。換言すると、加熱負荷が冷却負荷に対して相対的に大きくならない場合には、本実施形態から補助蒸発器22を省略して、第1実施形態と同じ構成にすることができ、加熱負荷が冷却負荷に対して相対的に小さくならない場合には、本実施形態から補助凝縮器6を省略して、第3実施形態と同じ構成にすることができる。
【0050】
図4の第2実施形態および図7の第4実施形態が示唆するように、本実施形態においても、補助凝縮器6は中間熱交換器5の上流側の第1循環流路1に配置してもよく、補助蒸発器22は中間熱交換器5の上流側の第2循環流路2に配置してもよい。
【0051】
尚、上述の各実施形態では、第1圧縮機4の回転数を第1回転数制御装置19によって制御し、第2圧縮機8の回転数を第2回転数制御装置21によって制御している。しかしながら、コストダウンや省スペース化のために、冷却負荷が一定と見なせる場合には、第1回転数制御装置19やインバータ14等を省略して第1圧縮機4の回転数を固定してもよく、加熱負荷が一定と見なせる場合には、第2回転数制御装置21やインバータ15等を省略して第2圧縮機8の回転数を固定してもよい。
【符号の説明】
【0052】
1…第1循環流路
2…第2循環流路
3…第1蒸発器
4…第1圧縮機
5…中間熱交換器
6…補助凝縮器
7…第1膨張弁
8…第2圧縮機
9…第2凝縮器
10…第2膨張弁
11…吐出圧力検出器
12…第1流量調節弁
13…第1流量制御装置
14,15…インバータ
16,17…モータ
18…冷却温度検出器
19…第1回転数制御装置
20…加熱温度検出器
21…第2回転数制御装置
22…補助蒸発器
23…第2流量調節弁
24…吸込圧力検出器
25…第2流量制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1熱媒体が封入され、冷却対象流体と前記第1熱媒体との間で熱交換する第1蒸発器、前記第1熱媒体を圧縮する第1圧縮機、前記第1熱媒体と第2熱媒体との間で熱交換する中間熱交換器、前記第1熱媒体と補助冷却流体との間で熱交換する補助凝縮器、および、前記第1熱媒体を減圧する第1膨張弁が介設された第1循環流路と、
前記第2熱媒体が封入され、前記中間熱交換器、前記第2熱媒体を圧縮する第2圧縮機、前記第2熱媒体と加熱対象流体との間で熱交換する第2凝縮器、および、前記第2熱媒体を減圧する第2膨張弁が介設された第2循環流路と、
前記第1圧縮機の吐出圧力が所定の設定圧力になるように、前記補助凝縮器に供給される前記補助冷却流体の流量を調整する第1流量制御装置と、を有することを特徴とするヒートポンプ。
【請求項2】
第1熱媒体が封入され、冷却対象流体と前記第1熱媒体との間で熱交換する第1蒸発器、前記第1熱媒体を圧縮する第1圧縮機、前記第1熱媒体と第2熱媒体との間で熱交換する中間熱交換器、および、前記第1熱媒体を減圧する第1膨張弁が介設された第1循環流路と、
前記第2熱媒体が封入され、前記中間熱交換器、前記第2熱媒体と補助加熱流体との間で熱交換する補助蒸発器、前記第2熱媒体を圧縮する第2圧縮機、前記第2熱媒体と加熱対象流体との間で熱交換する第2凝縮器、および、前記第2熱媒体を減圧する第2膨張弁が介設された第2循環流路と、
前記第2圧縮機の吸込圧力が所定の設定圧力になるように、前記補助蒸発器に供給される前記補助加熱流体の流量を調整する第2流量制御装置と、を有することを特徴とするヒートポンプ。
【請求項3】
第1熱媒体が封入され、冷却対象流体と前記第1熱媒体との間で熱交換する第1蒸発器、前記第1熱媒体を圧縮する第1圧縮機、前記第1熱媒体と第2熱媒体との間で熱交換する中間熱交換器、前記第1熱媒体と補助冷却流体との間で熱交換する補助凝縮器、および、前記第1熱媒体を減圧する第1膨張弁が介設された第1循環流路と、
前記第2熱媒体が封入され、前記中間熱交換器、前記第2熱媒体と補助加熱流体との間で熱交換する補助蒸発器、前記第2熱媒体を圧縮する第2圧縮機、前記第2熱媒体と加熱対象流体との間で熱交換する第2凝縮器、および、前記第2熱媒体を減圧する第2膨張弁が介設された第2循環流路と、
前記第1圧縮機の吐出圧力が所定の設定圧力になるように、前記補助凝縮器に供給される前記補助冷却流体の流量を調整する第1流量制御装置と、
前記第2圧縮機の吸込圧力が所定の設定圧力になるように、前記補助蒸発器に供給される前記補助加熱流体の流量を調整する第2流量制御装置と、を有することを特徴とするヒートポンプ。
【請求項4】
前記第1蒸発器の出口における前記冷却対象流体の温度が所定の設定温度になるように、前記第1圧縮機の回転数を制御する第1回転数制御装置を有することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のヒートポンプ。
【請求項5】
前記第2凝縮器の出口における前記加熱対象流体の温度が所定の設定温度になるように、前記第2圧縮機の回転数を制御する第2回転数制御装置を有することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のヒートポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−68409(P2013−68409A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−183172(P2012−183172)
【出願日】平成24年8月22日(2012.8.22)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)