説明

ヒ素含有水溶液からのヒ素除去方法

【課題】産業排水及び環境水等のヒ素含有溶液を処理し、該溶液中のヒ素濃度を効率的に低減する方法を提供する。
【解決手段】ヒ素含有溶液に接触させた吸着剤を磁気分離するヒ素除去方法において、該吸着剤が、金属イオンを担持したキレート基が有機ポリマーを介して導入された磁性キレート材料、又は、アミノポリオール基がヒ素に対するキレート基として、有機ポリマーを介して導入された磁性キレート材料であることを特徴とするヒ素除去方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒ素除去方法に関する。詳しくは、産業排水、鉱山廃水、温泉水等のヒ素含有溶液を処理し、該溶液中のヒ素を吸着除去する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ヒ素やその化合物は黄鉄石、リン鉱石等に含まれ、これらを原料として使用するリンやリン化合物の製造工場、硫酸製造工場等の廃水中に多く含まれる。またヒ素は半導体の原料の一部であるため、半導体製造・加工工場の廃水にも含まれることがある。さらに、鉱山廃水や温泉水等にも含有されていることがある。また、ヒ素を含む汚染土壌が各地に存在しており、例えば、この汚染土壌を噴射攪拌工法で浄化しようとすると、高濃度のヒ素を含む泥水が排出されてくる。近年、社会的要請から有害物質に対する排水処理基準が厳しくなり、中でもヒ素の排出については、0.1mg/リットル以下と厳しい規制が敷かれており、この規制に対応可能なヒ素除去方法が求められている。
【0003】
廃水等に含まれるヒ素の除去方法としては、ヒ素を鉄、アルミニウム、カルシウム、マグネシウム等の金属の水酸化物とともに沈殿させる共沈法(特許文献1〜3参照)が用いられてきた。しかしながら、共沈法によってヒ素を廃水基準値以下まで減少させるためには、大量の金属水酸化物を添加しなければならず、生成する大量のスラッジの後処理も容易でないという問題があった。
【0004】
ヒ素の除去方法としては、吸着剤を用いる方法も知られている。例えば、カチオン交換樹脂又はキレート樹脂に鉄とヒドロキシルイオン担持させた吸着剤(特許文献4参照)、稀土類元素の含水酸化物又はこれを有機高分子多孔質担体に担持させた吸着剤(特許文献5参照)、フェノール樹脂と金属水酸化物からなる吸着剤(特許文献6参照)、活性アルミナ、活性炭等が知られている。これらの方法は、いずれも、それぞれの吸着剤を吸着塔に充填する形態で使用する。したがって、使用に際しては、加圧送水のための設備が必要である。大量の排水を処理するためには大口径の吸着塔が必要となるが、口径が大きくなると液流が不均一になり、十分な吸着性能を発揮しにくくなるという問題がある。さらに、排水に含まれる微小な固形物や樹脂自体から経時によって徐々に発生する破砕物により、目詰まりが発生しやすく、その都度逆洗を実施する必要が出てくるという問題もある。ヒ素を含む汚染土壌の浄化工程で発生する、高濃度のヒ素を含む泥水の処理にこれらの吸着剤を用いようとすると、高度の固形物除去処理が必要となる。
【0005】
吸着剤が抱えるこれらの問題を解決する手段として、吸着剤と磁気分離技術を組み合わせた方法が提案されている。例えば、表面にアミノプロピル基等の基を備えた磁性粒子(特許文献7参照)や、ナトリウム等のイオンと硫酸塩が担持された磁性粒子(特許文献8参照)を吸着剤として用いる磁気分離によるヒ素の除去方法を挙げることができる。しかしながら、提案されている磁性粒子は、アミノプロピル基等がシランカップリング剤を用いて導入されているために加水分解を受けやすい構造であったり、磁性粒子表面に形成される弱い複合塩構造を利用するものであったりするため、湿潤状態での長期保存や多数回にわたる吸脱着繰り返しに耐えることのできない、脆弱なものであった。
【0006】
このように、排水中のヒ素に関しては厳しい規制が敷かれているにもかかわらず、この規制をクリアするための処理法としては、いまだに十分な方法が見出されていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−289805号公報
【特許文献2】特開平10−128396号公報
【特許文献3】特開平11−333468号公報
【特許文献4】特開平9−225298号公報
【特許文献5】特開昭61−187931号公報
【特許文献6】特開昭59−69151号公報
【特許文献7】特開2005−46728号公報
【特許文献8】特開2010−22888号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、産業排水、鉱山廃水、温泉水等のヒ素含有溶液からヒ素を効率的に除去し、除去に用いた吸着剤を繰り返し使用できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を鋭意研究し、ヒ素含有溶液に接触させた吸着剤を磁気分離するヒ素除去方法において、該吸着剤が、金属イオンに対するキレート基が有機ポリマーを介して導入された磁性キレート材料の該キレート基に金属イオンが担持されてなる磁性材料、又は、ヒ素に対するキレート基として、アミノポリオール基が有機ポリマーを介して導入されてなる磁性キレート材料であるヒ素除去方法が、前記課題の解決に極めて有効であることを見出した。特に、金属イオンとしては水酸化鉄イオン、セリウムイオン又はジルコニウムイオンが好ましいことを見出した。また、磁性キレート材料が、ストロンチウムフェライト又はバリウムフェライトを含有してなる疎水性樹脂粒子を活性基含有モノマーの重合膜で被覆し、次いで、金属イオンに対するキレート基又はアミノポリオール基を有する化合物と該活性基との反応により、金属イオンに対するキレート基又はアミノポリオール基を導入することによって製造されてなるものが好ましいことを見出した。
【発明の効果】
【0010】
本発明においては、吸着剤として、金属イオンに対するキレート基が有機ポリマーを介して導入された磁性キレート材料の該キレート基に金属イオンが担持されてなる磁性材料(以下、「金属イオン担持磁性キレート材料」と略す)、又は、ヒ素に対するキレート基として、アミノポリオール基が有機ポリマーを介して導入されてなる磁性キレート材料(以下、「アミノポリオール基を有する磁性キレート材料」と略す)を用いる。溶液中のヒ素は、担持された金属イオンとの錯体形成相互作用、又は、アミノポリオール基との錯体形成相互作用によって、吸着剤に固定化されるため、溶液中のヒ素濃度を極めて低いレベルに低減することができる。金属イオンが担持されたキレート基及びアミノポリオール基は、有機ポリマーを介して磁性キレート材料に導入されているので、加水分解等を受けにくく、湿潤状態での長期保存や多数回にわたる吸脱着繰り返しに耐えることができる。ヒ素を固定化した後の吸着剤は、外部磁場を加えることによって、容易に集めることができる。したがって、充填塔方式の使用形態や複雑な装置が不要となり、その結果、目詰まりに伴う流量低下や逆洗の必要といった問題を避けることができる。ヒ素を含む汚染土壌の浄化工程で発生する、高濃度のヒ素を含む泥水のような場合であっても、高度の固形物除去処理を施すことなく、大量の廃液を効率良く短時間で処理することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
金属イオン担持磁性キレート材料において、金属イオンとしては、ヒ素と安定な錯体を形成する任意の金属イオンを用いることができる。その具体例としては、例えば、アルミニウム、鉄、セリウム、ジルコニウム、ランタン、チタン等のイオンを挙げることができる。特に、ヒ素との錯体の安定性が高いために、ヒ素の除去率が高い水酸化鉄イオン、セリウムイオン又はジルコニウムイオンが好ましい。
【0012】
金属イオンに対するキレート基について特に制限はないが、グリシン、イミノジ酢酸、イミノジプロピオン酸等のアミノカルボン酸、アミノメチルホスホン酸、アミノエチルホスホン酸等のアミノアルキルホスホン酸、メチルホスホン酸、エチルホスホン酸等のホスホン酸、リン酸、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ポリエチレンイミン等の多価アミン類、ジエタノールアミン、ジプロパノールアミン等のアルコールアミン類、尿素、チオ尿素、アミドキシム等から誘導される基を挙げることができる。中でも、アミノカルボン酸、ホスホン酸、リン酸から誘導される基が、金属イオンを安定に担持できることから好ましい。
【0013】
ヒ素に対するキレート基として用いられるアミノポリオール基としては、エタノールアミン、イミノジエタノール、グルカミン、N−メチルグルカミン等から誘導される基を挙げることができる。中でもN−メチルグルカミンから誘導される基が好ましい。
【0014】
金属イオンに対するキレート基あるいはアミノポリオール基が有機ポリマーを介して導入された磁性キレート材料としては、金属イオンに対するキレート基あるいはアミノポリオール基を有するフェノール類、これらを有しないフェノール類及びアルデヒド類の初期縮合物に磁性粉を分散させ、有機溶媒中にて懸濁状態で重縮合させた磁性キレート材料を挙げることができる。また、スチレン等の活性基を有しないモノマー、グリシジルメタクリレート等の活性基を有するモノマー及び磁性粉から、水系溶媒における懸濁重合により磁性粒子を得て、この活性基にさらに金属イオンに対するキレート基を有する化合物あるいはアミノポリオール基を有する化合物を反応させた磁性キレート材料を挙げることができる。
【0015】
本発明において、ヒ素吸着後の吸着剤は、酸又はアルカリと接触させることによりヒ素イオンを脱着させることができる。多数回にわたる吸脱着の繰り返しを可能にするためには、磁性キレート材料が酸又はアルカリと接触しても磁性を失うことなく安定である必要がある。上述した磁性キレート材料の場合、耐酸性や耐アルカリ性が不十分な場合があり、繰り返し使用における耐久性に問題が生じる場合がある。これに対して、磁性粉としてストロンチウムフェライト又はバリウムフェライトを含む疎水性樹脂粒子が、活性基を有するモノマーの重合膜で被覆され、金属に対するキレート基を有する化合物あるいはアミノポリオール基を有する化合物と活性基との反応により、金属イオンに対するキレート基あるいはアミノポリオール基が導入されている磁性キレート材料は、耐酸性や耐アルカリ性が高く、繰り返し使用における耐久性の点から好ましい。
【0016】
磁性粉の粒径は0.1〜3.0μmが好ましい。0.1μm未満では取り扱いに困難が生じることがあり、3.0μmを超えると分散性が低下してくる場合がある。なお、この粒径は、マイクロトラック(登録商標)MT3300EX(製品名、日機装(株)製)を使用し、分散媒である水の屈折率を1.33、被測定物の屈折率を2.42として測定した。疎水性樹脂粒子中における磁性粉の配合量は5〜70質量%が好ましい。5質量%未満では、磁気に対する感応性が小さくなる場合があり、70質量%を超えると、樹脂粒子を製造するための懸濁重合工程に悪影響が出る場合がある。磁性粉を含有しなる疎水性樹脂粒子を製造する際には、磁性粉がモノマーに良好に分散することが好ましい。そのため、磁性粉の表面は親油化処理されていることが好ましい。親油化処理の方法としては、シランカップリング剤、チタンカップリング剤等の表面処理剤により処理する方法、脂肪酸塩等を吸着させる方法等があるが、特に限定されるものではない。
【0017】
疎水性樹脂とは、疎水性モノマーが51質量%以上含まれる組成物が重合された樹脂をいう。疎水性モノマーとは、25℃におけるイオン交換水に対する溶解度が1質量%未満のモノマーである。疎水性モノマーの具体例としては、例えばスチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、t−ブチルスチレン及びクロロメチルスチレン等のスチレン系モノマー、イソプロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、n−アミルアクリレート、イソアミルアクリレート、n−ヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、n−オクチルアクリレート、デシルアクリレート及びドデシルアクリレート等のアクリル酸エステル類、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、n−アミルメタクリレート、n−ヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、n−オクチルメタクリレート、デシルメタクリレート等のメタクリル酸エステル類等が挙げられる。上記の疎水性モノマーは、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。本発明における検討によれば、最終的に得られる磁性キレート材料の耐酸性が高くなることから、疎水性モノマーとしてはスチレンが含まれていることが好ましい。
【0018】
磁性粉を含有してなる疎水性樹脂粒子の機械的強度向上のため、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート等の多官能性モノマーを併用しても良い。
【0019】
磁性粉を含有してなる樹脂粒子は、重合開始剤を溶解したモノマーに磁性粉を分散させ、このモノマーを懸濁安定剤とよばれる分散剤含有の水の中に油滴として分散させた分散系で重合を進行させる懸濁重合法により得られる。重合開始剤は水不溶又は難溶のものが好ましい。具体的には、例えば、2,2′−アゾビスイソブチロニトリル、2,2′−アゾビス−(2−メチルプロパンニトリル)、2,2′−アゾビス−(2,4−ジメチルペンタンニトリル)、2,2′−アゾビス−(2−メチルブタンニトリル)、1,1′−アゾビス−(シクロヘキサンカルボニトリル)、2,2′−アゾビス−(2,4−ジメチル−4−メトキシバレロニトリル)等のアゾ系開始剤や、過酸化ベンゾイル、クメンヒドロペルオキシド、過酸化アセチル、過酸化ラウロイル、t−ブチルペルオクテート、α−クミルペルオキシピバレート等の過酸化物系開始剤が挙げられる。また、重合を進める温度は使用する重合開始剤の種類により定めればよい。例えば、2,2′−アゾビスイソブチロニトリルや過酸化ベンゾイル等では60℃以上の温度が適合し、過酸化物と還元剤とを組み合わせるレドックス系では60℃以下の温度でも重合を進めることができる。懸濁安定剤の例としては、ポリビニルアルコール、ヒドロキシエチルセルロース、ポリアクリル酸塩、カルボキシメチルセルロースの塩等の水溶性高分子を挙げることができる。
【0020】
磁性粉を含有してなる疎水性樹脂粒子は、次いで活性基を有するモノマーの重合膜で被覆される。活性基とは、金属イオンに対するキレート基あるいはアミノポリオール基を導入するための基であり、具体的には、エポキシ基、ビニル基、カルボキシル基、エステル基、ヒドロキシル基、アミノ基、ハロゲン原子等を挙げることができる。これらの活性基の中では、金属イオンに対するキレート基あるいはアミノポリオール基を有する化合物との反応性に優れるとともに、活性基自体の安定性が比較的良好であるエポキシ基が好ましい。
【0021】
エポキシ基を有するモノマーとしては、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、アリルグリシジルエーテル等;ビニル基を有するモノマーとしては、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ビニルピリジン等;カルボキシル基を有するモノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸等;エステル基を有するモノマーとしては、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート等;ヒドロキシル基を有するモノマーとしては、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、グリセロールアクリレート、グリセロールメタクリレート等;アミノ基を有するモノマーとしては、アミノメチルアクリレート、アミノメチルメタクリレート、アミノエチルアクリレート、アミノエチルメタクリレート等;ハロゲン原子を有するモノマーとしては、クロロメチルスチレン等を挙げることができる。これら活性基を有するモノマーは単独で用いても良いが、2種以上組み合わせて用いても良い。本発明における検討によれば、活性基を有するモノマーとしては、グリシジルアクリレート又はグリシジルメタクリレートが好ましい。また、架橋剤として、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート等の多官能性モノマーを併用しても良い。
【0022】
活性基を有するモノマーの重合膜により、磁性粉を含有してなる疎水性樹脂粒子を被覆する方法としては、磁性粉を含有してなる疎水性樹脂粒子と界面活性剤の存在下に活性基を有するモノマーを重合させ、重合と同時に磁性粉を含有してなる疎水性樹脂粒子表面に沈着させる方法が好ましい。活性基を有するモノマーの重合膜の厚みは、磁性粉を含有してなる疎水性樹脂粒子に対するモノマーの仕込み比率によって制御され、質量比で、磁性粉を含有してなる疎水性樹脂粒子1質量部に対してモノマーを0.5〜10質量部の範囲とすることが好ましい。0.5質量部未満では重合膜が薄くなり、機械的な強度が不足して、磁性キレート材料から重合膜が剥がれてくる場合がある。10質量部を超えると、磁気に対する感応性が小さくなる場合がある。
【0023】
重合開始剤としては、2,2′−アゾビスイソブチロニトリル、2,2′−アゾビス−(2−メチルプロパンニトリル)、2,2′−アゾビス−(2,4−ジメチルペンタンニトリル)、2,2′−アゾビス−(2−メチルブタンニトリル)、1,1′−アゾビス−(シクロヘキサンカルボニトリル)、2,2′−アゾビス−(2,4−ジメチル−4−メトキシバレロニトリル)、アゾビスシアノバレリアン酸、アゾビスシアノペンタン酸等のアゾ系開始剤や、過酸化ベンゾイル、クメンヒドロペルオキシド、過酸化アセチル、過酸化ラウロイル、t−ブチルペルオクテート、α−クミルペルオキシピバレート、過酸化水素等の過酸化物系開始剤、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム等の過硫酸塩系開始剤が挙げられる。また、重合を進める温度は使用する重合開始剤の種類により定めればよい。例えば、過硫酸アンモニウム等熱分解により重合を進める場合は60℃以上の温度が適合し、過酸化物と還元剤とを組み合わせるレドックス系では60℃以下の温度でも重合を進めることができる。
【0024】
使用する界面活性剤について、特に制限はなく、公知のアニオン性、カチオン性、両性及び非イオン性の界面活性剤を用いることができる。具体的な例としては、アニオン性界面活性剤としては、脂肪酸石鹸、N−アシル−N−メチルグリシン塩、N−アシルグルタミン酸塩、アルキルエーテルカルボン酸塩、アルキルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸エステル塩、アルキルスルホ酢酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、高級アルコール硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩、アルキルエーテルリン酸エステル塩、アルキルリン酸エステル塩等が挙げられる。カチオン性界面活性剤としては、脂肪族アミン塩、脂肪族4級アンモニウム塩、ベンザルコニウム塩、塩化ベンゼトニウム、ピリジニウム塩、イミダゾリウム塩等が挙げられる。両性界面活性剤としては、カルボキシベタイン型、スルホベタイン型、アミノカルボン酸塩、イミダゾリウムベタイン等が挙げられる。非イオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、脂肪酸モノグリセリド、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、ポリオキシエチレンアルキルアミン等が挙げられる。これらは単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0025】
金属イオンに対するキレート基を有する化合物と活性基との反応、又は、アミノポリオール基と活性基との反応を行わせる条件について、特に制限はなく、それらの組み合わせに応じて必要な反応条件を用いればよい。例えば、イミノジ酢酸、ジエチレントリアミン、N−メチルグルカミンのようなアミノ基を有する化合物の場合、エポキシ基、エステル基、ハロゲン原子等に対しては、必要に応じて炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム等の塩基を併用して加熱することにより導入することができる。反応溶媒としては水が好ましく、必要に応じて、メタノールやエタノール等のアルコール類や、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の助溶媒を併用することができる。
【0026】
磁性キレート材料に導入される金属イオンに対するキレート基の量は、キレート吸着される金属イオン量から間接的に求められる。また、アミノポリオール基の導入量については、アミノポリオール基がホウ素に対する吸着作用を持っていることを利用して、ホウ素の吸着量をもとに間接的に求めることができる。あるいは、アミノポリオール基のアミノ基部分に注目し、これを酸塩基滴定によって求めることによっても知ることができる。これらの基の導入量は、磁性キレート材料1g当たり0.5〜2.5mmolとすることが好ましい。0.5mmol未満では、吸着処理に多量の磁性キレート材料が必要になることがある。2.5mmolを超えるキレート基を導入するためには、活性基を有するモノマーを大量に使用する必要があり、磁気に対する感応性が小さくなる場合がある。
【0027】
本発明において用いられる磁性キレート材料の粒径は1〜100μmとすることが好ましい。磁性キレート材料に大きな比表面積を持たせて、ヒ素の捕集能力を高めることができる。1μm未満では、磁性キレート材料に含まれる磁性成分の含有量が少なくなるため、磁気に対する感応性が小さくなることがある。100μmを超えると、磁性キレート材料の比表面積が小さくなるため、単位質量あたりのヒ素の捕集能力が小さくなってくる場合がある。なお、この粒径は、マイクロトラック(登録商標)MT3300EX(製品名、日機装(株)製)を使用し、分散媒である水の屈折率を1.33、被測定物の屈折率を1.50として測定して求めた。
【0028】
磁性キレート材料に金属イオンを担持させる方法について、特に制限はないが、金属含有イオンを含む水溶液に磁性キレート材料を添加し、攪拌後、単離、洗浄する方法が操作の簡便性から好ましい。水溶液中の金属イオン量は、添加する磁性キレート材料の金属イオンに対するキレート基に対して、等量〜500倍量とすることが好ましい。等量未満では金属イオンの担持量が低いレベルにとどまることがある。500倍量を超えた場合には、キレート基に担持されないまま磁性キレート材料に残留している金属イオンを除くため、単離後の洗浄に多くの労力を必要とすることがある。攪拌時間は5分〜2時間とすることが好ましい。5分未満では、金属イオンの担持量が低いレベルにとどまることがある。2時間を超える攪拌は、吸着がすでに平衡に達しているため作業効率上好ましくないうえに、磁性キレート材料の機械的な強度に悪影響を与えることがある。磁性キレート材料に金属イオンを担持させた後、金属イオンにハロゲン原子、硫酸イオン、硝酸イオン等の基が残っている場合、アルカリ処理を施すことによって、これらの残留基を水酸基に変えることができる。用いられるアルカリとしては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等を挙げることができる。磁性キレート材料のキレート基がアミノカルボン酸やアミノアルキルホスホン酸から誘導される基である場合、カルボン酸部分やホスホン酸部分の塩型に制限はないが、金属イオンを担持させる際の液pH低下を防げることから、Na型が好ましい。
【0029】
吸着剤をヒ素含有溶液と接触させる方法について、特に制限はないが、タンク中にヒ素含有溶液と吸着剤を添加し、攪拌後、磁気分離する方法が操作の簡便性から好ましい。吸着剤の添加量は、金属イオン量又はアミノポリオール基の総量が、ヒ素含有溶液中のヒ素量に対して等モル〜500倍モルとなるように設定することが好ましい。等モル未満では、ヒ素除去が低いレベルにとどまることがある。500倍モルを超えた場合には、攪拌や磁気分離の負担が過大になることがある。攪拌時間は5分〜2時間とすることが好ましい。5分未満ではヒ素除去が低いレベルにとどまることがある。2時間を超える攪拌は、吸着がすでに平衡に達しているため、作業効率上好ましくないうえに、吸着剤の機械的な強度に悪影響を与えることがある。ヒ素含有溶液のpHは特に制限されないが、ヒ素吸着に最適なpH値は、吸着部位の構造によって異なる。例えば、金属イオンとして水酸化鉄イオンを担持させた場合、溶液はpH4〜10程度が好ましく、中性付近の溶液が最も好適に処理される。ジルコニウムイオンを担持させた場合には、溶液はpH1〜8程度が好ましく、pH2付近の溶液が最も好適に処理される。アミノポリオール基をヒ素に対するキレート基として用いる場合には、pH4〜8程度が好ましい。pHがこの領域をはずれた溶液の場合には、ヒ素除去が低いレベルにとどまることがある。
【0030】
磁気分離工程においては、タンク内あるいはタンクの側面や底面に磁石を取り付けて吸着剤を集磁し、処理の済んだ水をタンク外に排出する。あるいは、タンク外に連続式の磁気分離機を設け、ヒ素を吸着した吸着剤と処理済みの水を分離する。磁石としては、永久磁石、電磁石、超電導磁石等好適なタイプを選択して使用することができる。超電導磁石の磁力は他磁石に比べて著しく強いため、磁気分離機を小型化するうえでは有利である。
【0031】
ヒ素吸着後の吸着剤からは、酸又はアルカリでヒ素イオンを脱離させることができる。また、この際に、金属イオン担持磁性キレート材料の場合には、金属イオンの一部が溶出するが、再度金属イオンを含む溶液と磁性キレート材料とを接触させることによって、元の性能に回復させ再使用することができる。酸としては、例えば、硫酸、塩酸、硝酸等、アルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等を用いることができるが、これらに制限されるわけではない。溶出に必要な時間は、5分ないし1時間が好ましい。5分より短いと、溶出が不十分となることがあり、1時間より長いと、装置類に腐食が発生するおそれがある。
【0032】
本発明によるヒ素除去方法は、例えば鉄、アルミニウム、カルシウム、マグネシウム等の金属の水酸化物とともに沈殿させる共沈法などの既知の処理方法と組み合わせて用いることもできる。
【実施例】
【0033】
以下に本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明は実施例に限定されるものでない。なお、実施例中の部数や百分率は、特にことわりのない場合、質量基準である。実施例における金属イオン及びヒ素の分析には誘導結合プラズマ発光分析(ICP−AES)を用いた。
【0034】
<バリウムフェライトを含有してなる疎水性樹脂粒子1の合成>
ボールミルにて予め混練しておいた、スチレン(水に対する溶解度0.03%)45部、ブチルアクリレート(水に対する溶解度0.14%)5部、ジビニルベンゼン(水に対する溶解度<0.01%)1部、表面疎水化処理したバリウムフェライト15部(粒径0.7μm)、過酸化ベンゾイル1部の混合物を、ポリビニルアルコール(ケン化度98%、重合度1700)5部を溶解したイオン交換水500部に添加し、ホモミキサーで6000rpm×10分間の分散を行った。このものをフラスコに移し、窒素気流下にて80℃、8時間加熱攪拌した。生成物は、水洗後、磁石により集めて乾燥し、疎水性樹脂粒子1を得た。
【0035】
<ストロンチウムフェライトを含有してなる疎水性樹脂粒子2の合成>
表面疎水化処理したバリウムフェライトの替わりに、表面疎水化処理したストロンチウムフェライト(粒径0.7μm)を用いるほかは、疎水性樹脂粒子1の合成と同様に操作して、疎水性樹脂粒子2を得た。
【0036】
<マグネタイトを含有してなる疎水性樹脂粒子3の合成>
表面疎水化処理したバリウムフェライトの替わりに、表面疎水化処理したマグネタイト(粒径0.4μm)を用いるほかは、疎水性樹脂粒子1の合成と同様に操作して、疎水性樹脂粒子3を得た。
【0037】
<磁性キレート材料1の合成>
水180ml、グリシジルメタクリレート5.2g、ソルビタンモノオレエート(商品名;Span(登録商標)80、東京化成工業(株)製)0.26g、硫酸アンモニウム鉄(II)六水和物0.35gの混合物に3gの疎水性樹脂粒子1を加え、窒素気流下にて1時間攪拌した。ここへ、30%過酸化水素0.61gを水4mlに溶かした溶液を室温で加え、さらに2時間攪拌した。生成物は水200mlで希釈し、反応容器の底に磁石を当てた状態で、非感磁性分をデカンテーションによって除去した。水200mlを加えてはデカンテーションを行う操作をさらに3回繰り返し、最後に磁石を当てて容器内に残った成分を濾取した。収量は4.9gであった。このもの1.0gをイミノジ酢酸ナトリウム2.0g、エタノール8.6ml、水18mlとともに4時間還流した。生成物は水50mlで希釈し、反応容器の底に磁石を当てた状態で、上澄みをデカンテーションによって除去した。水50mlを加えてはデカンテーションを行う操作をさらに2回繰り返し、最後に磁石を当てて容器内に残った成分を濾取して、磁性キレート材料1を得た。収量は1.2gであった。磁性キレート材料1を走査型電子顕微鏡で観察したところ、球状構造であることが分かった。マイクロトラック(登録商標)MT3300EX(製品名、日機装(株)製)を使用し、分散媒である水の屈折率を1.33、被測定物の屈折率を1.50として測定して求めた平均粒径は12μmであった。
【0038】
<磁性キレート材料2の合成>
磁性キレート材料1の途中工程において、イミノジ酢酸ナトリウム2.0gのかわりに(アミノメチル)ホスホン酸二ナトリウム塩1.5gを用いるほかは、磁性キレート材料1の合成と同様に操作して、磁性キレート材料2を得た。このものの平均粒径は11μmであり、球状構造であった。
【0039】
<磁性キレート材料3の合成>
疎水性樹脂粒子1の替わりに、疎水性樹脂粒子2を用いるほかは、磁性キレート材料1の合成と同様に操作して、磁性キレート材料3を得た。このものの平均粒径は11μmであり、球状構造であった。
【0040】
<磁性キレート材料4の合成>
疎水性樹脂粒子1の替わりに、疎水性樹脂粒子3を用いるほかは、磁性キレート材料1の合成と同様に操作して、磁性キレート材料4を得た。このものの平均粒径は10μmであり、球状構造であった。
【0041】
<鉄イオン担持磁性キレート材料1(Fe−1)の合成>
塩化第二鉄を用いて、鉄イオン200ppmを含む水溶液400mlを調製し、ここへ磁性キレート材料1の2gを加えた。室温で1時間攪拌したのち容器の底に磁石を当てた状態で、上澄みをデカンテーションによって除去した。残渣に蒸留水150mlを加えてすすいだのち、同様にしてデカンテーションで洗浄水を除き、同じ操作をもう1回繰り返した後、乾燥させ、鉄イオン担持磁性キレート材料1(Fe−1)を得た。最初の水相に残留している鉄イオン濃度をICP−AESによって求めた結果から、Fe−1に担持された鉄イオンは磁性キレート材料1g当たり1.23mmolであることが分かった。
【0042】
<水酸化鉄イオン担持磁性キレート材料1(Fe(OH)−1)の合成>
Fe−1の0.4gを1規定水酸化ナトリウム水溶液20mlに加え、室温にて30分攪拌したのち容器の底に磁石を当てた状態で、上澄みをデカンテーションによって除去した。残渣に蒸留水150mlを加えてすすいだのち、同様にしてデカンテーションで洗浄水を除き、同じ操作をもう1回繰り返した後、乾燥させ、水酸化鉄イオン担持磁性キレート材料1(Fe(OH)−1)を得た。デカンテーションで除いた上澄みとすすぎ液のいずれにも鉄イオンが含まれていないことがICP−AESにより確認できたので、Fe(OH)−1に担持された水酸化鉄イオンは、磁性キレート材料1g当たり1.23mmolであることが分かった。
【0043】
<ジルコニウムイオン担持磁性キレート材料1(Zr−1)の合成>
塩化酸化ジルコニウムを用いて、ジルコニウムイオンを730ppm含む水溶液500mlを調製し、ここへ磁性キレート材料1の2gを加えた。室温で30分攪拌した後、2規定水酸化ナトリウム水溶液によりpHを6とし、さらに30分攪拌した。容器の底に磁石を当てた状態で、上澄みをデカンテーションによって除去した。残渣に蒸留水150mlを加えてすすいだ後、同様にしてデカンテーションで洗浄水を除き、同じ操作をもう1回繰り返した後、乾燥させ、ジルコニウムイオン担持磁性キレート材料1(Zr−1)を得た。最初の水相に残留しているジルコニウムイオン濃度をICP−AESによって求めた結果から、Zr−1に担持されたジルコニウムイオンは磁性キレート材料1g当たり1.87mmolであることが分かった。
【0044】
<セリウムイオン担持磁性キレート材料1(Ce−1)の合成>
塩化酸化ジルコニウムの替わりに硝酸セリウムアンモニウムを用いて、セリウムイオンを1,100ppm含む水溶液を調製してこれを用いる点を除いては、Zr−1の合成と同様に操作して、セリウムイオン担持磁性キレート材料(Ce−1)を得た。Ce−1に担持されたセリウムイオンは磁性キレート材料1g当たり1.68mmolであることが分かった。
【0045】
<ジルコニウムイオン担持磁性キレート材料2(Zr−2)の合成>
磁性キレート材料1の替わりに磁性キレート材料2を用いるほかは、Zr−1の合成と同様に操作して、ジルコニウムイオン担持磁性キレート材料2を得た。最初の水相に残留しているジルコニウムイオン濃度から、磁性キレート材料2に担持されたジルコニウムイオンは磁性キレート材料1g当たり1.72mmolであることが分かった。
【0046】
<水酸化鉄イオン担持磁性キレート材料2(Fe(OH)−2)の合成>
磁性キレート材料1の替わりに磁性キレート材料2を用いるほかは、Fe(OH)−1の合成と同様に操作して、水酸化鉄イオン担持磁性キレート材料2(Fe(OH)−2)を得た。(Fe(OH)−2)に担持された鉄イオンは磁性キレート材料1g当たり1.17mmolであることが分かった。
【0047】
<水酸化鉄イオン担持磁性キレート材料3(Fe(OH)−3)の合成>
磁性キレート材料1の替わりに磁性キレート材料3を用いるほかは、Fe(OH)−1の合成と同様に操作して、水酸化鉄イオン担持磁性キレート材料3(Fe(OH)−3)を得た。(Fe(OH)−3)に担持された鉄イオンは磁性キレート材料1g当たり1.25mmolであることが分かった。
【0048】
<水酸化鉄イオン担持磁性キレート材料4(Fe(OH)−4)の合成>
磁性キレート材料1の替わりに磁性キレート材料4を用いるほかは、Fe(OH)−1の合成と同様に操作して、水酸化鉄イオン担持磁性キレート材料4(Fe(OH)−4)を得た。(Fe(OH)−4)に担持された鉄イオンは磁性キレート材料1g当たり1.12mmolであることが分かった。
【0049】
<アミノポリオール基を有する磁性キレート材料1(NMG−1)の合成>
水180ml、グリシジルメタクリレート5.2g、ソルビタンモノオレエート(商品名;Span(登録商標)80、東京化成工業(株)製)0.26g、硫酸アンモニウム鉄(II)六水和物0.35gの混合物に3gの疎水性樹脂粒子1を加え、窒素気流下にて1時間攪拌した。ここへ、30%過酸化水素0.61gを水4mlに溶かした溶液を室温で加え、さらに2時間攪拌した。生成物は水200mlで希釈し、反応容器の底に磁石を当てた状態で、非感磁性分をデカンテーションによって除去した。水200mlを加えてはデカンテーションを行う操作をさらに3回繰り返し、最後に磁石を当てて容器内に残った成分を濾取した。収量は4.9gであった。このもの1.0gをN−メチルグルカミン2.7g、エタノール8.6ml、水18mlとともに4時間還流した。生成物は水50mlで希釈し、反応容器の底に磁石を当てた状態で、上澄みをデカンテーションによって除去した。水50mlを加えてはデカンテーションを行う操作をさらに2回繰り返し、最後に磁石を当てて容器内に残った成分を濾取して、NMG−1を得た。収量は1.2gであった。NMG−1を走査型電子顕微鏡で観察したところ、球状構造であることが分かった。マイクロトラックMT3300EX(製品名、日機装(株)製)を使用し、分散媒である水の屈折率を1.33、被測定物の屈折率を1.50として測定して求めた平均粒径は12μmであった。ホウ酸を用いて、ホウ素イオン40ppmを含む水溶液100mlを調整し、ここへ磁性キレート材料NMG−1の0.5gを加えた。室温で1時間攪拌したのち容器の底に磁石を当てた状態で、上澄みをデカンテーションによって除去した。残渣に蒸留水100mlを加えてすすいだのち、同様にしてデカンテーションで洗浄水を除き、同じ操作をもう1回繰り返した後、乾燥させた。最初の水相に残留しているホウ素イオン濃度をICP−AESによって求めた結果から、NMG−1に導入されたアミノポリオール基は磁性キレート材料1g当たり1.48mmolであることが分かった。
【0050】
<アミノポリオール基を有する磁性キレート材料2(NMG−2)の合成>
疎水性樹脂粒子1の替わりに、疎水性樹脂粒子2を用いるほかは、NMG−1の合成と同様に操作して、NMG−2を得た。このものの平均粒径は11μmであり、球状構造であった。導入されたアミノポリオール基は、磁性キレート材料1g当たり1.51mmolであることが分かった。
【0051】
<シランカップリング剤でキレート基を導入した磁性キレート材料(Si−1)の合成>
マグネタイト(粒径0.4μm)10gとトルエン20mlの混合物に、アミノプロピルトリメトキシシラン1mlを添加し、5時間還流した。反応後、トルエン、アセトンにより生成物を洗浄し、乾燥後に乳鉢で粉砕して、Si−1を得た。
【0052】
<水酸化鉄イオン担持キレート樹脂(Fe(OH)−5)の合成>
塩化第二鉄を用いて、鉄イオン200ppmを含む水溶液400mlを調製し、ここへキレート樹脂(商品名:アンバーライト(登録商標)IRC748、オルガノ(株)製)2gを加えた。室温で24時間攪拌したのち、上澄みを濾別した。残渣に蒸留水150mlを加えてすすいだのち、濾過により洗浄水を除いた。同じ操作をもう1回繰り返した後、乾燥させた。最初の水相に残留している鉄イオン濃度をICP−AESによって求めた結果から、キレート樹脂に担持された鉄は樹脂1g当たり1.32mmolであることが分かった。この樹脂0.4gを1規定水酸化ナトリウム水溶液20mlに加え、室温にて30分攪拌したのち濾過した。残渣に蒸留水150mlを加えてすすいだのち濾過した。同じ操作をもう1回繰り返した後、乾燥させ、水酸化鉄担持キレート樹脂Fe(OH)−5を得た。
【0053】
≪高濃度ヒ素含有水溶液を用いたヒ素吸着能評価≫
実施例1〜10
和光純薬製ヒ素標準液(1,000ppm)を用いて、ヒ素イオン濃度40ppmの水溶液を調製し、pHを5.0とした。この液50mlに、表1に示した吸着剤0.1gを加え、室温で10分攪拌した後、表面磁束密度0.45Tの永久磁石を容器の外に当てて吸着剤を集磁し、デカンテーションにより水相を取り出した。水相のヒ素イオン濃度をICP−AESにより求め、初期濃度40ppmとの差が吸着されたとして、吸着剤のヒ素吸着能を求めた。結果を表1の(初回)の欄に示す。次に、磁石に引きつけられた吸着剤を再生して使うため、1規定硫酸50mlを加えて30分攪拌し、磁石を使って硫酸を分離した。同様の操作を50mlの蒸留水を用いてさらに2回行った。金属イオン担持磁性キレート材料の場合には、それぞれの合成法に準じて金属イオン溶液と再度接触させることにより、吸着剤を再生した。このものを用いて、ヒ素イオン濃度40ppmの上記水溶液からのヒ素除去を再度行った。この吸着と再生をさらに4回繰り返し、最終回でのヒ素吸着能を表1の(再生後)の欄に示す。
【0054】
【表1】

【0055】
比較例1〜4
表1に示したように、吸着剤として、磁性キレート材料1〜4を用いるほかは、実施例1〜10と同様に操作した。結果を表1に示す。
【0056】
比較例5
Fe(OH)−5を吸着剤として用いる以外は、実施例1〜10と同様に操作した。ただし、Fe(OH)−5と水相の分離は磁石を当ててのデカンテーションでは実施できないので、濾過によった。結果を表1に示す。
【0057】
比較例6
Si−1を吸着剤として用いる以外は、実施例1〜10と同様に操作し、Si−1のヒ素吸着能(初回)を求めた。次に、Si−1を再生して使うため、1規定水酸化ナトリウム水溶液50mlを加えて30分攪拌し、磁石を使って分離した。同様の操作を50mlの蒸留水を用いてさらに2回行った。再生後のSi−1を用いて、ヒ素イオン濃度40ppmの上記水溶液からのヒ素除去を初回と同じように再度行った。この吸着と再生をさらに4回繰り返し、最終回でのヒ素吸着能(再生後)を求めた。結果を表1に示す。
【0058】
≪低濃度ヒ素含有水を用いたヒ素除去≫
実施例11〜20
和光純薬製ヒ素標準液(1,000ppm)を用いて、ヒ素イオン濃度2ppmの水溶液を調製し、pHを6.7とした。この液50mlに、表2に示した吸着剤3gを加え、室温で10分攪拌した。表面磁束密度0.45Tの永久磁石を容器の外に当てて吸着剤を集磁し、デカンテーションにより水相を取り出し、水相のヒ素イオン濃度をICP−AESにより求めた。結果を表2に示す。
【0059】
【表2】

【0060】
比較例7
表2に示したように、吸着剤として、磁性キレート材料1を用いる以外は、実施例11〜20と同様に操作して、水相のヒ素イオン濃度を求めた。結果を表2に示す。
【0061】
比較例8
表2に示したように、吸着剤としてFe(OH)−5を用いる以外は、実施例11〜20と同様に操作して、水相のヒ素イオン濃度を求めた。ただし、Fe(OH)−5と水相の分離は磁石を当ててのデカンテーションでは実施できないので、濾過によった。結果を表2に示す。
【0062】
比較例9
表2に示したように、吸着剤としてSi−1を用いる以外は、実施例11〜20と同様に操作して、水相のヒ素イオン濃度を求めた。結果を表2に示す。
【0063】
表1及び2の結果から、吸着剤として、金属イオン担持磁性キレート材料又はアミノポリオール基を有する磁性キレート材料を用いる本発明によれば、ヒ素含有溶液からごく短時間にヒ素を除くことが可能であり、また、ヒ素含有溶液と吸着剤の分離も磁気分離を使うことにより、効率良く実施できることが分かる。
【0064】
シランカップリング剤でキレート基を導入したSi−1との比較から、金属イオン担持磁性キレート材料又はアミノポリオール基を有する磁性キレート材料を用いる本発明によれば、ヒ素除去能に大きな性能劣化がない状態で、繰り返し実施することが可能であることが分かる。
【0065】
実施例1と実施例2〜8との比較及び実施例11と実施例12〜18との比較から、金属イオンとしては、水酸化鉄イオン、セリウムイオン又はジルコニウムイオンが好ましいことが分かる。再生後のヒ素吸着能において、実施例2及び7と実施例8との比較から、ストロンチウムフェライト又はバリウムフェライトを含有してなる疎水性樹脂粒子を活性基含有モノマーの重合膜で被覆し、次いで、キレート基を導入することによって製造されてなる磁性キレート材料を用いた方が好ましいことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明によれば、産業排水及び環境水等のヒ素含有溶液を処理し、該溶液中のヒ素濃度を効率的に低減することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒ素含有溶液に接触させた吸着剤を磁気分離するヒ素除去方法において、該吸着剤が、金属イオンに対するキレート基が有機ポリマーを介して導入されてなる磁性キレート材料の該キレート基に金属イオンを担持されてなる磁性材料、又は、ヒ素に対するキレート基として、アミノポリオール基が有機ポリマーを介して導入されてなる磁性キレート材料であることを特徴とするヒ素除去方法。
【請求項2】
金属イオンが、水酸化鉄イオン、セリウムイオン又はジルコニウムイオンである請求項1記載のヒ素除去方法。
【請求項3】
磁性キレート材料が、ストロンチウムフェライト又はバリウムフェライトを含有してなる疎水性樹脂粒子を活性基含有モノマーの重合膜で被覆し、次いで、金属イオンに対するキレート基又はアミノポリオール基を有する化合物と該活性基との反応により、金属イオンに対するキレート基又はアミノポリオール基を導入することによって製造されてなる請求項1又は2記載のヒ素除去方法。

【公開番号】特開2012−16667(P2012−16667A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−156072(P2010−156072)
【出願日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)
【Fターム(参考)】