説明

ビシクロヘキサン構造を有する新規な(メタ)アクリル酸エステル

【課題】接着剤、塗料、プラスチック、フォトレジスト用樹脂等の改質剤、共重合成分として有用なエステル部位に嵩高く剛直な構造を有する新規な(メタ)アクリル酸エステル類を提供する。
【解決手段】下記式(1)で示される(メタ)アクリル酸エステル。


(式(1)において、R1は水素原子、またはメチル基を示す。R2は水素原子、アルキル基、アリール基またはハロゲン原子を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は接着剤、塗料、プラスチック、フォトレジスト用樹脂等の改質剤、共重合成分として有用な、新規な(メタ)アクリル酸エステル類に関する。
【背景技術】
【0002】
(メタ)アクリル酸エステルを構成単位とする(メタ)アクリル系樹脂は良好な光学特性を持ち、軽量かつ成型が容易なことより、多方面に使用されて、近年需要が増大しつつある。一方で、用途が広がるにつれて原料樹脂に要求される性能も高度化、多様化しており、これまでに無い特色を持った新規な(メタ)アクリル系樹脂の開発が望まれている。
【0003】
エステル部位に脂肪族環を有する(メタ)アクリル酸エステルとして、メタクリル酸ジシクロペンタニル(例えば特許文献1)やアダマンタン骨格を持つメタクリル酸エステル(例えば特許文献2)等が挙げられ、各種用途への適用が検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−258277号公報
【特許文献2】特許第3507024号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、エステル部位に嵩高く剛直な構造を有する新規な(メタ)アクリル酸エステル類を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の課題を解決するため、鋭意研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。即ち、本発明は下記式(1)で表わされるエステル部位にビシクロへキサン構造を有する(メタ)アクリル酸エステルを提供するものである。
【0007】
【化1】

(式(1)において、Rは水素原子、またはメチル基を示す。Rは水素原子、アルキル基、アリール基またはハロゲン原子を示す。)
【0008】
また、本発明は、下記式(2)で示されるメタクリル酸エステルを提供する。
【化2】

【発明の効果】
【0009】
本発明によりビシクロへキサン構造を有する(メタ)アクリル酸エステルが提供された。本化合物は接着剤、塗料、プラスチック、フォトレジスト用樹脂等の改質剤、共重合成分として好適に用いられ、かつ、低臭気で作業性に優れた工業的価値の高いものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例1における生成物のIRスペクトル測定結果
【図2】実施例1における生成物のH−NMR測定結果
【図3】実施例1における生成物の13C−NMR測定結果
【図4】実施例1における生成物の13C−NMR測定結果(DEPT135)
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の(メタ)アクリル酸エステルは下記式(1)に示されるものである。
【0012】
【化3】

(式(1)において、Rは水素原子、またはメチル基を示す。Rは水素原子、アルキル基、アリール基またはハロゲン原子を示す。)
【0013】
式(1)中のRは水素原子、アルキル基、アリール基またはハロゲン原子である。ここで、アルキル基は、直鎖、分岐のいずれでもよく、また、環式構造を有していてもよく、通常、炭素原子数は1〜10である。また、アリール基としては、フェニル基や、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アルコキシ基等によって置換されたフェニル基等が挙げられ、通常、炭素原子数は6〜10である。Rの具体例としては、水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、シクロヘキシル基、プロピルシクロヘキシル基、フェニル基、ヨードフェニル基、(ジ)ヒドロキシフェニル基、メトキシヒドロキシフェニル基、エトキシヒドロキシフェニル基、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基等が挙げられる。
【0014】
本発明のビシクロヘキシン構造を有する(メタ)アクリル酸エステルは、下記式(2)で示されるビシクロヘキサンモノメタノールメタクリレートであることが特に好ましい。
【0015】
【化4】

【0016】
本発明の(メタ)アクリル酸エステルは、公知のエステル化技術を用いて製造できる。すなわち下記式(3)で示されるアルコールと(メタ)アクリル酸化合物との反応、例えば(メタ)アクリル酸との脱水縮合反応や (メタ)アクリル酸エステルとのエステル交換反応により容易に合成できる。
【0017】
【化5】

(式(3)において、Rは水素原子、アルキル基、アリール基またはハロゲン原子を示す。)
【0018】
式(3)中のRは式(1)のRと同様であり、水素原子、アルキル基、アリール基またはハロゲン原子である。ここで、アルキル基は、直鎖、分岐のいずれでもよく、また、環式構造を有していてもよく、通常、炭素原子数は1〜10である。また、アリール基としては、フェニル基や、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アルコキシ基等によって置換されたフェニル基等が挙げられ、通常、炭素原子数は6〜10である。Rの具体例としては、水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、シクロヘキシル基、プロピルシクロヘキシル基、フェニル基、ヨードフェニル基、(ジ)ヒドロキシフェニル基、メトキシヒドロキシフェニル基、エトキシヒドロキシフェニル基、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基等が挙げられる。
【0019】
式(3)のアルコールは、式(4)で示される芳香族アルデヒドを水素化することで得ることが出来る。式(4)中のRは式(1)のRと同様であり、水素原子、アルキル基、アリール基またはハロゲン原子である。ここで、アルキル基は、直鎖、分岐のいずれでもよく、また、環式構造を有していてもよく、通常、炭素原子数は1〜10である。また、アリール基としては、フェニル基や、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アルコキシ基等によって置換されたフェニル基等が挙げられ、通常、炭素原子数は6〜10である。Rの具体例としては、水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、シクロヘキシル基、プロピルシクロヘキシル基、フェニル基、ヨードフェニル基、(ジ)ヒドロキシフェニル基、メトキシヒドロキシフェニル基、エトキシヒドロキシフェニル基、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基等が挙げられる。
【0020】
【化6】

(式(4)において、Rは水素原子、アルキル基、アリール基またはハロゲン原子を示す。)
【0021】
(4)式で表される芳香族アルデヒドは公知の方法、例えば、Synlett, 6, 2000年, 856−858頁や、Bulletin of the Chemical Society of Japan, 67, 8, 1994年, 2329−2332頁に記載の方法で合成することができる。
【0022】
式(3)で示されるアルコールとエステル交換を行う際に用いる(メタ)アクリル酸エステルとしては、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチルが好適に用いられる。
【0023】
(メタ)アクリル酸化合物と式(3)で示されるアルコールとの脱水縮合反応やエステル交換反応の際には、原料アルコールに対する(メタ)アクリル酸化合物の割合は1〜100等量、好ましくは1〜10等量である。それより少ないと収率が低下し、それより多いと経済的ではない。
【0024】
本発明の(メタ)アクリル酸エステルを製造する反応は、種々の触媒の存在下に実施される。触媒は、特に限定されるものでないが、脱水縮合反応であれば、例えば、硫酸、パラトルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、強酸性イオン交換樹脂等が挙げられる。また、エステル交換反応であれば、例えば、ナトリウムメトキシド、カリウムブトキシド、テトラメチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、ジブチル錫オキシド、ジオクチル錫オキシド、亜鉛アセチルアセトナート、マグネシウムエトキシド等が挙げられる。本発明においてはテトライソプロピルチタネートが好ましい。
【0025】
(メタ)アクリル酸化合物と式(3)で示されるアルコールとの反応の際に用いる触媒の使用量は、式(3)で表される原料アルコール1モルに対して通常0.0001〜1モルであり、好ましくは0.001〜0.1モルである。
【0026】
(メタ)アクリル酸化合物と式(3)で示されるアルコールとの反応温度は、上記触媒の存在下、温度50〜160℃、好ましくは70〜140℃で、生成するアルコール、水などを除去しながら行う。反応温度が50℃より低いと反応速度が低下し、160℃より高いと反応液の重合や、副生成物の増加につながる恐れがある。反応圧力は大気圧以上でも大気圧以下でも行うことができる。
【0027】
(メタ)アクリル酸化合物と式(3)で示されるアルコールとの反応の際には、重合禁止剤を用いることが好ましい。重合禁止剤は、特に限定されるものでないが、例えば、ハイドロキノン、メトキノンのようなキノン系の重合禁止剤、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル等のN−オキシル系重合禁止剤、4−メトキシフェノール、4−t−ブチルカテコール、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノールといったフェノール系の重合禁止剤や、フェノチアジンやN,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミンといった芳香族アミン系の重合禁止剤、塩化第一銅などの銅化合物などが挙げられ、これらは単独または2種類以上を混合して用いることが出来る。
【0028】
(メタ)アクリル酸化合物と式(3)で示されるアルコールとの反応の際に用いる重合禁止剤の量は、生成する(メタ)アクリル酸エステルの重合を防止するとともに、得られる(メタ)アクリル酸エステル中に多量に残存することを防止する必要があり、好ましくは10〜2000ppmである。
【実施例】
【0029】
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、生成物の構造同定に際しては以下の分析機器を使用した。
核磁気共鳴装置:日本電子JNM−ECX500(内部標準物質:テトラメチルシラン(TMS))
赤外分光光度計:ThermoFischer Nicolet-6700
ガスクロマトグラフ質量分析装置:Shimadzu GCMS-QP2010 Plus

【0030】
<実施例1>
ビシクロヘキサンモノメタノールメタクリレートの合成
5000mlオートクレーブ内に、溶媒として2−プロパノール(IPA、和光純薬、特級)910g、三菱ガス化学製ビフェニルアルデヒド364g(2.0mol)および5%Ru/Al(N.E.CHEMCAT製)7.3gを投入後、水素で10MPaに加圧し、150℃で8h攪拌した。冷却後、窒素雰囲気下で触媒を濾過した。ロータリーエバポレーターで溶媒除去後、減圧蒸留を行い、目的化合物である4−ヒドロキシメチルビシクロヘキサンを得た(収率80%、純度99%)。続いて、充填塔、空気吹き込み管を備えた500ml4口セパラブルフラスコに4−ヒドロキシメチルビシクロヘキサン185g(0.94モル)、メタクリル酸メチル287g(2.87モル)、重合禁止剤として4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル74mgを仕込み、オイルバスで釜温度を110℃に加熱し、空気を吹き込みながら撹拌を行った。充填部の重合防止を目的として塔頂から330ppm 4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシルのメタクリル酸メチル溶液を2.0g/hrで滴下した。触媒としてチタンテトライソプロポキシド270mg(4−ヒドロキシメチルビシクロヘキサンに対して0.1モル%)を加え、エステル交換反応を開始した。反応によって生成したメタノールはメタクリル酸メチルとの共沸により系外へ除去しながら行った。触媒投入後2hrで反応は完結し、その際の釜温度は116℃であった。反応終了後は反応液を放冷し、釜温度が90℃になったところで水38gを加え1時間加熱撹拌し、触媒を失活させた。続いて分液操作により水層を除去し、残った油層は減圧濾過を行い、失活した触媒を除去した。得られたろ液は常圧、次いで減圧で未反応のメタクリル酸メチル及びメタノール、水を留去し目的物であるビシクロヘキサンモノメタノールメタクリレートを247g得た(ガスクロマトグラフィーによる純度は99.4重量%)
【0031】
生成物の構造同定は以下の手法で行った。まず生成物をガスクロマトグラフ質量分析装置(GC−MS)によりEI法で調べたところ、分子イオンピークm/z=264は極弱く観測された他、下記(2)式を支持するフラグメントm/z=178,149,95,81,69,55,41等が認められた。
【0032】
【化7】

【0033】
生成物のIRスペクトルをATR法で測定した結果を図1に示した。シクロヘキサン環を示す2920cm−1,2850cm−1,1448cm−1の吸収とエステル結合を示す1717cm-1,1321m−1,1295m−1,1161m−1の吸収の他、1638m−1にオレフィンの吸収が認められた。
【0034】
生成物のH−NMRおよび13C−NMRの測定結果をそれぞれ図2,3に示した(CDCl溶媒)。図2の1.9ppmにメチル基のシングレットが認められる。5.5,6.1ppmにはメタクリル基のオレフィンを示すピークが認められる。4.0、4.1ppmにメチレンを示すダブレットのシグナルが2本、積分比5:3で認められる。式(2)で表記されるビシクロヘキサンモノメタノールメタクリレートはトランス、シスの2異性体よりなるが、この2本のシグナルはそれぞれの異性体に帰属され、その積分比が異性体比率となる。0.8〜2.0ppmにシクロヘキサン環由来のシグナルが認められるが、ブロードでカップリングも複雑であり、解析は困難である。1H−NMRのケミカルシフト値は
(σppm,TMS基準)0.8−2.0(m,24H)、1.9(s,3H)、3.95−4.09(d,2H)、5.5(s,1H)、6.1(s,1H)。
図3の13C−NMRに加え、DEPT135での測定結果から、167.5ppmのシグナルがカルボニル基、136.5,125.1ppmのシグナルがオレフィン、69.8,67.1ppmのシグナルがメチレン、34〜43ppmがメチン、25〜30ppmがシクロヘキサン環由来のメチレン,18.4ppmがメチルをそれぞれ示しており、式(2)の構造を支持することがわかった。またシクロヘキサン環に置換基がある場合エクアトリアルの方が、アキシャルよりもシグナルが低磁場シフトする傾向にある。1,4−位置換シクロヘキサン環の場合、トランス(エクアトリアル、エクアトリアル)、シス(アキシャル、エクアトリアル)であることから、生成物の異性体組成はシス:トランス=5:3であると考えられる。
以上、GC−MS,IR,NMRの結果より生成物は目的とする式(2)で示されるビシクロヘキサンモノメタノールメタクリレートであると同定された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で示される(メタ)アクリル酸エステル。
【化1】

(式(1)において、Rは水素原子、またはメチル基を示す。Rは水素原子、アルキル基、アリール基またはハロゲン原子を示す。)
【請求項2】
下記式(2)で示されるメタクリル酸エステル。
【化2】


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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