説明

ビス−DMTDの製造方法

【課題】ビス−DMTD(5,5−ジチオ−ビス−(1,3,4−チアジアゾール−2−チオール))の新規な製造方法の提供。
【解決手段】式(2)


(式中、Xは保護基を表す。)の化合物中の基Xの水素原子への転化を含む方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、式(1)
【0002】
【化14】

のビス−DMTD(5,5’−ジチオビス−(1,3,4−チアジアゾール−2−チオール))(以下、主としてビス−DMTDのみとして記載する)の新規な製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
ビス−DMTDは、特に、滑剤極限圧力特性を与えるための滑剤用に使用される化合物として公知である(特に、特許文献1を対照)。
【0004】
ビス−DMTDの製造方法として、特許文献1には、特許文献2にも開示されているような、2,5−ジメルカプト−1,3,4−チオジアゾール(DMTD)の、ヨウ素による酸化方法が記載されている。しかしながら、この方法は、これが高腐食性のヨウ素の使用を必要とするので、極めて不利である。また、特許文献2には、この製造方法が、式
【0005】
【化15】

(式中、n>1である)
のポリマー性酸化生成物に関係する更なる生成物の生成に至ることが既に記載されている。これらのポリマー性酸化生成物は、これらの存在が、所望の二量体の更なる使用に不利な影響を与えるので、徹底的に除去しなくてはならない。
【0006】
この公知の製造方法は、ヨウ素又は塩化鉄(III)によるアルコール溶液中のチアジアゾール−2、5−ジチオールの酸化による、二量体の製造を記載している、非特許文献1にまで遡る。しかしながら、塩化鉄(III)の使用もまた、ハロゲン化物の存在のために不利である。更に、またおそらく前記のポリマー性酸化生成物に関係する不溶性残渣が得られる。
【0007】
非特許文献2に於いて、S.M.Losanitchは、DMTDのアルコール溶液中で過剰のヨウ素による酸化を実施している。彼は、彼の情報によれば、Ziegeleによって見出されたポリマー性化合物と同一ではなく、組成Cを有する化合物を得ている。
【0008】
特許文献3から、2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾールと過酸化水素との反応は、下記の式:
【0009】
【化16】

の二量体生成物(ビス−[2,5−ジチオ−1,3,4−チアジアゾール])の生成に至ることが知られている。
【0010】
DMTDのHによる酸化は、これまでは、追加の反応相手の存在でのみ記載されている。従って、特許文献4及び特許文献5には、DMTDの油溶性誘導体が、DMTD、過酸化水素及びメルカプタンの転化によって得られることが記載されている。しかしながら、これらの生成物は、均一ではなく、部分的に追加の再加工を必要とする。塩素を使用する同様の化合物の製造方法は、特許文献6から公知である。
【0011】
1,2,4−チアゾールのポリマーは、例えば、特許文献7から公知である。
【0012】
DMTDの過酸化水素による転化は、特許文献8によれば、特に特徴付けられない物質に至る。
【0013】
特許文献9に於いて、水酸化ナトリウムの存在下でのDMTDのジクロロスルファンによる転化が記載されている。
【特許文献1】欧州特許第0 122 317号明細書
【特許文献2】米国特許第3,161,575号明細書
【特許文献3】欧州特許第0 135 152号明細書
【特許文献4】米国特許第3,087,932号明細書
【特許文献5】米国特許第3,663,561号明細書
【特許文献6】米国特許第3,821,236号明細書
【特許文献7】米国特許第4,107,059号明細書
【特許文献8】米国特許第4,246,126号明細書
【特許文献9】米国特許第5,563,240号明細書
【非特許文献1】E.Ziegele、J.Prakt.Chem.、第16巻、第40頁(1899年)
【非特許文献2】Soc.、第121巻、第1542頁(1921年)
【発明の開示】
【0014】
工業的標準のために満足できるビス−DMTDの製造方法は、これまでは得られていない。
【0015】
従って、本発明者らは、高収率及び高選択率のビス−DMTDの生成に至る、DMTDで出発するビス−DMTDの工業的に満足できる製造方法の案出に注力した。特に、この方法は、高腐食性のハロゲン含有酸化剤を使用することなく、有利に実施されなければならない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
この問題は、驚くべきことに、下記の式(2)
【0017】
【化17】

のビス−DMTD誘導体中の保護基Xを、好ましくはブレンステッド酸を使用して、水素で置換することによって解決できる。原理的に、基Xは、メルカプト基を、ジチオ基(−S−S−)の生成下で、ハロゲン非含有酸化剤、特に過酸化物による更なる酸化(この結果としてポリマー性副生物)から保護するために適しており、例えば、酸加水分解によりメルカプト基に再び移すことができる全ての保護基である。これらの必要条件は、驚くべきことに、特に、アルカリ金属、例えばナトリウム、カリウムなどによって適合される。基Xの中で特に好ましいものは、ナトリウムである。次いで、特に、塩含有チオ化合物(−S−M、Mは金属である)が関係している。式(2)の化合物の製造は、特に、式(3)
【0018】
【化18】

(式中、Xは上記定義された通りである)
のモノマー化合物の、少なくとも1種の過酸化物との反応により、特に好ましくは、それぞれ式(3’)
【0019】
【化19】

の化合物の、少なくとも1種の過酸化物との反応により成功する。驚くべきことに、それぞれ保護されたメルカプト基−S−X、特に−SNaは酸化を受けず、−S−H基のみが、ジチオ基(−S−S−)の生成下で選択的に酸化される。従って、酸化を式(1)の二量体化合物の段階で保持すること並びに式(1)の化合物を高収率及び高純度で得ることが、成功裡に管理される。従って、本発明は、特に、式(1)の化合物の製造方法であって、下記の工程、即ち、
工程(a)式(3)
【0020】
【化20】

(式中、Xは、特に、過酸化物との更なる反応による、これが結合している硫黄原子の酸化を防止する基である)
の化合物の生成下に、式(4)
【0021】
【化21】

のDMTD中の−SH−基を反応させること、
工程(b)式(2)
【0022】
【化22】

(式中、Xは上記定義された通りである)
の化合物の生成下で、式(3)の化合物を、少なくとも1種のハロゲン非含有酸化剤、特に過酸化物に付すこと並びに
工程(c)式(2)の化合物の式(1)
【0023】
【化23】

の化合物への転化
を含む方法に関する。
【0024】
過酸化物は、全ての適切な過酸化物化合物、例えば有機過酸化物又は無機過酸化物であってよい。しかしながら、過酸化水素が特に好ましい。過酸化水素は、好ましくは、約30から40%、特に35%H溶液の形で使用される。式(3)の化合物とHとの反応は、好ましくは、僅かに高い温度(30から80℃、好ましくは50から60℃)で水溶液中で実施される。
【0025】
式(3)の化合物の製造は、DMTDと等モル量の、保護基を導入する化合物との反応によって特によく行われる。これによって保護基が導入される化合物は、特に、無機塩基、好ましくは水酸化ナトリウムである。約1:1のモル比が保持される限り、式(3)のモノ保護化合物を、選択的に得ることができる。この化学量論的比が守られていることは、簡単な電位差測定によって工業的規模でモニターすることができる。
【0026】
従って、本発明の目的は、また、式(2)
【0027】
【化24】

の化合物及び式(3)
【0028】
【化25】

(両式に於いて、Xは前記の通りである)
の化合物である。Xは、好ましくは、アルカリ金属であり、特に好ましくはナトリウムである。
【0029】
式(3)の化合物の製造は、好ましくは、水中又は水とアルコール、例えばメチルアルコール若しくはエチルアルコールとの混合物中で実施される。
【0030】
式(3)の保護された化合物のために、アルカリ金属塩が好ましいので、この化合物はそれぞれ水及び水性溶液中に可溶性であり、続いて、得られる透明溶液を、好ましくは過酸化物による酸化に付すことができる。
【0031】
本発明を下記の実施例によって更に例示する。
【実施例】
【0032】
65.1g(0.5モル)のDMTDを、400mLの水の中に、30分間以上かけて攪拌する。続いて、水冷却下で、80.0gの25重量%の水酸化ナトリウム水溶液(0.5モルのNaOHに等価)の計量した添加を続ける。この後、これを、更に約1時間室温で攪拌する。モノ塩の生成は、酸価の決定によって制御される。必要な場合に、更なるDMTDを添加することができる。35重量%の過酸化水素水溶液(12.1g)を、得られた溶液に約30分間で添加する。次いで、これを更に半時間攪拌する。過酸化水素の添加の直後に、塩酸溶液(0.32重量%)(28.5g)の添加を開始することができる。所望の生成物であるビス−DMTDが、実際的に純粋な黄色粉末として沈殿する。これを濾別し、濾液が中性で反応するまで洗浄し、次いでロータリーエバポレーター内で乾燥させる。
【0033】
収率は理論収率の>95%であり、分光的特徴は、公知の製品のものに対応する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)
【化1】

のビス−DMTD(5,5−ジチオ−ビス−(1,3,4−チアジアゾール−2−チオール))の製造方法であって、工程C:式(1)のビス−DMTDの生成下での、式(2)
【化2】

(式中、Xは保護基を表す)
の化合物中の基Xの水素原子への転化を含む方法。
【請求項2】
工程(b)式(2)
【化3】

(式中、Xは上記定義された通りである)
の化合物の生成下で、式(3)
【化4】

(式中、Xは保護基を表す)
の化合物を、少なくとも1種の酸化剤による酸化に付すこと並びに
工程(c)式(1)のビス−DMTDの生成下での、式(2)
【化5】

(式中、Xは上記定義された通りである)
の化合物中の基Xの、水素原子への転化を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
酸化剤にハロゲンが含有されていない、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
酸化剤が過酸化物から選択される、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
過酸化物が無機又は有機過酸化物から選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
酸化剤が、それぞれ過酸化水素又はこれからの水溶液である、請求項2から5の何れか1項に記載の方法。
【請求項7】
工程(a)式(3)
【化6】

(式中、Xは保護基を表す)
の化合物の生成下で、式(4)
【化7】

の化合物中に保護基Xを挿入すること、
工程(b)式(2)
【化8】

の化合物の生成下で、式(3)
【化9】

(式中、Xは保護基を表す)
の化合物を、少なくとも1種の酸化剤による酸化に付すこと
並びに
工程(c)式(1)のビス−DMTDの生成下での、式(2)
【化10】

(式中、Xは上記定義された通りである)
の化合物中の基Xの、水素原子への転化を含む、請求項1から6の何れか1項に記載の方法。
【請求項8】
Xが、基−S−Xを、酸化剤、特に過酸化物による酸化から保護する保護基である、請求項1から7の何れか1項に記載の方法。
【請求項9】
Xが金属である、請求項1から8の何れか1項に記載の方法。
【請求項10】
Xがアルカリ金属である、請求項1から9の何れか1項に記載の方法。
【請求項11】
Xがナトリウムである、請求項1から10の何れか1項に記載の方法。
【請求項12】
工程(c)に於いて、保護基Xの水素原子への転化を、加水分解によって実施する、請求項1から11の何れか1項に記載の方法。
【請求項13】
工程(c)に於いて、保護基Xの水素原子への転化を、鉱酸による処理によって実施する、請求項1から12の何れか1項に記載の方法。
【請求項14】
式(2)
【化11】

(式中、Xは、これと結合している硫黄原子を、酸化剤、特に過酸化物による酸化から保護するために適している保護基である)
の化合物。
【請求項15】
式(3)
【化12】

(式中、Xは、これと結合している硫黄原子を、酸化剤、特に過酸化物による酸化から保護するために適している保護基である)
の化合物。
【請求項16】
Xが金属である、請求項14又は15に記載の化合物。
【請求項17】
Xがアルカリ金属である、請求項14から16の何れか1項に記載の化合物。
【請求項18】
Xがナトリウムである、請求項14から17の何れか1項に記載の化合物。
【請求項19】
式(1)
【化13】

のビス−DMTD(5,5’−ジチオビス−(1,3,4−チアジアゾール−2−チオール))の製造のための、式(2)又は(3)の化合物の使用。