説明

ビスオキサゾリニルアルカン化合物の精製方法

【課題】より高純度のビスオキサゾリニルアルカン化合物を得るための精製方法が必要とされていた。
【解決手段】式(1)


(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基、置換基を有していてもよいフェニル基、または置換基を有していてもよいアラルキル基を表す。RおよびRはそれぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜3のアルキル基を表わす。)
で示されるビスオキサゾリニルアルカン化合物を、ニトリル溶媒およびエステル溶媒からなる群より選ばれる1種の溶媒または2種以上の混合溶媒に溶解し、得られた溶液からビスオキサゾリニルアルカン化合物を析出させる、ビスオキサゾリニルアルカン化合物の精製方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビスオキサゾリニルアルカン化合物の精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビスオキサゾリニルアルカン化合物は不斉合成に用いられる触媒の配位子として知られており、特に、シクロプロパン環を有する光学活性な化合物を製造するのに有用である。
【0003】
ビスオキサゾリニルアルカン化合物の製造方法は、例えば非特許文献1において知られており、また、得られた2,2−ビス[2−[4(S)−tert−ブチルオキサゾリニル]]プロパンをペンタンより再結晶することが知られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Journal・of・Organic・Chemistry、1998年、第63巻、4541−4544頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、かかる方法では、得られるビスオキサゾリニルアルカン化合物の化学純度が必ずしも十分に高いものではなく、より高純度のビスオキサゾリニルアルカン化合物を得るための精製方法が必要とされていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような状況のもと、本発明者らは、より高純度のビスオキサゾリニルアルカン化合物を得るための精製方法について鋭意検討したところ、本発明に至った。
【0007】
すなわち本発明は、下記〔1〕〜〔14〕を提供するものである。
〔1〕式(1)
【0008】
【化1】

(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基、置換基を有していてもよいフェニル基、または置換基を有していてもよいアラルキル基を表す。RおよびRはそれぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜3のアルキル基を表わす。)
で示されるビスオキサゾリニルアルカン化合物を、ニトリル溶媒およびエステル溶媒からなる群より選ばれる1種の溶媒または2種以上の混合溶媒に溶解し、得られた溶液からビスオキサゾリニルアルカン化合物を析出させる、ビスオキサゾリニルアルカン化合物の精製方法。
〔2〕アラルキル基がフェニル基、1−ナフチル基または2−ナフチル基で置換された炭素数1〜6のアルキル基である〔1〕に記載される精製方法。
〔3〕フェニル基およびアラルキル基の置換基が、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数3〜6のシクロアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基および炭素数3〜6のシクロアルキルオキシ基から選ばれる1種以上の置換基である〔2〕に記載される精製方法。
〔4〕ビスオキサゾリニルアルカン化合物の溶液を冷却することにより析出させる〔1〕に記載される精製方法。
〔5〕式(1)で示されるビスオキサゾリニルアルカン化合物が光学活性体である〔1〕に記載される精製方法。
〔6〕ビスオキサゾリニルアルカン化合物を溶解する溶媒がアセトニトリルである〔1〕に記載される精製方法。
〔7〕ビスオキサゾリニルアルカン化合物を溶解する溶媒が酢酸エチルである〔1〕に記載される精製方法。
〔8〕Rがtert−ブチル基である〔1〕〜〔7〕のいずれかに記載される精製方法。
〔9〕RおよびRが共にメチル基である〔1〕〜〔7〕のいずれかに記載される精製方法。
〔10〕Rがtert−ブチル基、Rがメチル基、Rがメチル基である〔1〕〜〔7〕のいずれかに記載される精製方法。
〔11〕式(1)で示されるビスオキサゾリニルアルカン化合物が、2,2−ビス[2−[4(S)−tert−ブチル−1,3−オキサゾリニル]]プロパン、または2,2−ビス[2−[4(R)−tert−ブチル−1,3−オキサゾリニル]]プロパンである〔1〕〜〔7〕のいずれかに記載される精製方法。
〔12〕式(1)
【0009】
【化2】

(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基、置換基を有していてもよいフェニル基、または置換基を有していてもよいアラルキル基を表す。RおよびRはそれぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜3のアルキル基を表わす。)
で示されるビスオキサゾリニルアルカン化合物を、ニトリル溶媒およびエステル溶媒からなる群より選ばれる1種の溶媒または2種以上の混合溶媒に溶解し、得られた溶液からビスオキサゾリニルアルカン化合物を析出させ、析出した精製ビスオキサゾリニルアルカン化合物を得る、式(1)で示される精製ビスオキサゾリニルアルカン化合物の製造方法。
〔13〕フェニル基およびアラルキル基の置換基が、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数3〜6のシクロアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基および炭素数3〜6のシクロアルキルオキシ基から選ばれる1種以上の置換基である〔12〕に記載される製造方法。
〔14〕Rがtert−ブチル基、Rがメチル基、Rがメチル基である〔12〕または〔13〕に記載される製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高純度の式(1)で示されるビスオキサゾリニルアルカン化合物が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0012】
式(1)で示されるビスオキサゾリニルアルカン化合物の式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基、置換基を有していてもよいフェニル基、置換基を有していてもよいアラルキル基を表す。
【0013】
で表わされる炭素数1〜4のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基の直鎖状または分枝状のアルキル基が挙げられる。
【0014】
で示される置換基を有していてもよいフェニル基において、置換基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基等の炭素数1〜6のアルキル基;シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基およびシクロヘキシル基の炭素数3〜6のシクロアルキル基;メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、n−ペンチルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基等の炭素数1〜6のアルコキシ基;シクロプロピルオキシ基、シクロブチルオキシ基、シクロペンチルオキシ基およびシクロヘキシルオキシ基の炭素数3〜6のシクロアルキルオキシ基等が挙げられる。置換基の数は2以上でもよく、その場合2以上の置換基は互いに異なっていてもよい。置換基を有していてもよいフェニル基の具体例としては、フェニル基、2−メチルフェニル基、3−メチルフェニル基、4−メチルフェニル基、2−メトキシフェニル基、3−メトキシフェニル基、4−メトキシフェニル基等が挙げられる。
【0015】
で示されるアラルキル基としては、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基等のアリール基と上述の炭素数1〜6のアルキル基とから構成されるものが挙げられ、これらは置換基を有していてもよく、置換基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基等の炭素数1〜6のアルキル基;シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基およびシクロヘキシル基の炭素数3〜6のシクロアルキル基;メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、n−ペンチルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基等の炭素数1〜6のアルコキシ基;シクロプロピルオキシ基、シクロブチルオキシ基、シクロペンチルオキシ基およびシクロヘキシルオキシ基の炭素数3〜6のシクロアルキルオキシ基等が挙げられる。置換基の数は2以上でもよく、その場合2以上の置換基は互いに異なっていてもよい。置換基を有していてもよいアラルキル基の具体例としては、ベンジル基、2−メチルベンジル基、3−メチルベンジル基、4−メチルベンジル基、2−メトキシベンジル基、3−メトキシベンジル基、4−メトキシベンジル基、1−ナフチルメチル基、2−ナフチルメチル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基等が挙げられる。
【0016】
としては、メチル基、イソプロピル基、tert-ブチル基、フェニル基、ベンジル基が好ましく、tert-ブチル基がより好ましい。
【0017】
式(1)において、RおよびRはそれぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜3のアルキル基を表わす。RおよびRで示される炭素数1〜3のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基およびイソプロピル基が挙げられる。RおよびRは、共に水素原子であるか、共にメチル基であることが好ましく、特に、共にメチル基であることが好ましい。
【0018】
式(1)で示されるビスオキサゾリニルアルカン化合物の好ましい例としては、ビス[2−(4−イソプロピル−1,3−オキサゾリニル)]メタン、ビス[2−(4−tert−ブチル−1,3−オキサゾリニル)]メタン、2,2−ビス[2−[(4−イソプロピル−1,3−オキサゾリニル)]]プロパン、2,2−ビス[2−[(4−tert−ブチル−1,3−オキサゾリニル)]]プロパン等が挙げられ、特に、2,2−ビス[2−[(4−tert−ブチル−1,3−オキサゾリニル)]]プロパンが好ましい。
【0019】
式(1)で示されるビスオキサゾリニルアルカン化合物は、その分子内に少なくとも2つの不斉中心を有しており、少なくとも2種類の光学異性体が存在する。本発明で用いられるビスオキサゾリニルアルカン化合物は、光学異性体を任意の割合で含む光学活性体であってもラセミ体であってもよく、メソ異性体であってもよいが、光学活性体であることが好ましい。
【0020】
式(1)で示されるビスオキサゾリニルアルカン化合物の光学異性体としては、例えば、ビス[2−[4(S)−イソプロピル−1,3−オキサゾリニル]]メタン、ビス[2−[4(S)−tert−ブチル−1,3−オキサゾリニル]]メタン、2,2−ビス[2−[4(S)−イソプロピル−1,3−オキサゾリニル]]プロパン、2,2−ビス[2−[4(S)−tert−ブチル−1,3−オキサゾリニル]]プロパン、ビス[2−[4(R)−イソプロピル−1,3−オキサゾリニル]]メタン、ビス[2−[4(R)−tert−ブチル−1,3−オキサゾリニル]]メタン、2,2−ビス[2−[4(R)−イソプロピル−1,3−オキサゾリニル]]プロパン、2,2−ビス[2−[4(R)−tert−ブチル−1,3−オキサゾリニル]]プロパン等が挙げられる。なかでも、2,2−ビス[2−[4(S)−tert−ブチル−1,3−オキサゾリニル]]プロパン、2,2−ビス[2−[4(R)−tert−ブチル−1,3−オキサゾリニル]]プロパンが好ましい。
【0021】
式(1)で示されるビスオキサゾリニルアルカン化合物の製造方法は、例えば、特開2005−320304号公報、WO2007/130780明細書、オーガニック・レター,第9巻,4979−4982頁,2007年、シンレット,第15巻,2321−2324頁,2005年、オーガニック・レター,第7巻,1971−1974頁,2005年、ジャーナル・オブ・オーガニック・ケミストリー,第63巻,4541−4544頁,1998年、ジャーナル・オブ・アメリカン・ケミカル・ソサエティー,第120巻,5824−5825頁,1998年、ジャーナル・オブ・アメリカン・ケミカル・ソサエティー,第120巻,4895−4896頁,1998年等で知られている。
【0022】
こうした製造方法により得られるビスオキサゾリニルアルカン化合物の粗製物は本発明の精製方法に供されるが、一般に、化学純度が60%〜99%のものが供され、好ましくは80%〜98%のものが供される。尚、化学純度は高速液体クロマトグラフ分析の面積百分率法により決定され、式(1)で示されるビスオキサゾリニルアルカン化合物のピーク面積値/クロマトグラム中に検出されたピークの総面積値(ただし、溶媒のピーク面積値を除く)×100(%)により算出され、決定される。
【0023】
本発明の最初の段階では、式(1)で示されるビスオキサゾリニルアルカン化合物は、ニトリル溶媒およびエステル溶媒からなる群より選ばれる1種の溶媒または2種以上の混合溶媒に溶解される。
【0024】
ニトリル溶媒としては、例えば、アセトニトリル、プロピオニトリル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、ブチロニトリル、イソブチロニトリル等の炭素数2〜4の脂肪族ニトリル、ベンゾニトリル等の芳香族ニトリルが挙げられる。これらの中でも、アセトニトリルが好ましい。
【0025】
エステル溶媒としては、例えば、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、ギ酸イソプロピル、ギ酸ブチル等のギ酸の炭素数1〜4アルキルエステル;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル等の酢酸の炭素数1〜4アルキルエステル;プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、プロピオン酸イソプロピル、プロピオン酸ブチル等のプロピオン酸の炭素数1〜4アルキルエステル;酪酸メチル、酪酸エチル等の酪酸の炭素数1〜4アルキルエステル;イソ酪酸メチル、イソ酪酸エチル等のイソ酪酸の炭素数1〜4アルキルエステルが挙げられる。これらの中でも、酢酸エステル、特に酢酸エチルが好ましい。
【0026】
溶媒は、式(1)で示されるビスオキサゾリニルアルカン化合物の粗製物を溶解させることができる量で使用され、該粗製物1gに対して、例えば0.5〜20mL、好ましくは1〜10mL、より好ましくは1.5〜5mLの範囲内である。
【0027】
式(1)で示されるビスオキサゾリニルアルカン化合物を溶媒に加えるか又は式(1)で示されるビスオキサゾリニルアルカン化合物に溶媒を加え、必要により攪拌することで溶液が調製される。溶液の調製は、室温から溶媒の沸点までの任意の温度で行えるが、好ましくは35〜120℃、より好ましくは40〜90℃、さらに好ましくは45〜80℃の範囲内である。溶媒を予め加温しておき、式(1)で示されるビスオキサゾリニルアルカン化合物と混合してもよいが、操作性の点からは、室温で混合した後に加温するのが好ましい。溶液の調製に要する時間は、例えば1分〜12時間程度である。
【0028】
次の段階では、調製した溶液からビスオキサゾリニルアルカン化合物を析出させる。析出させる方法としては、例えば、冷却晶析法、蒸発晶析法、真空晶析法等が挙げられ、冷却晶析法および蒸発晶析法が好ましく、特に操作性の面から冷却晶析法が好ましい。その場合、好ましくは−20〜30℃の範囲内、より好ましくは−10〜15℃の範囲内、さらに好ましくは−5〜10℃の範囲内に溶液を冷却して析出させる。また、必要により、精製されたビスオキサゾリニルアルカン化合物を種晶として添加してもよい。種晶は小片1つで十分であり、例えばビスオキサゾリニルアルカン化合物の粗製物1重量部に対して、0.001〜0.1重量部程度の割合である。
【0029】
析出したビスオキサゾリニルアルカン化合物は、濾過等の分離方法により単離し、乾燥することで、精製されたビスオキサゾリニルアルカン化合物を取得することができる。
【0030】
このようにして得られる式(1)で示されるビスオキサゾリニルアルカン化合物の精製品の化学純度は例えば96%〜100%である。
【実施例】
【0031】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明する。
【0032】
以下の実施例および比較例において、2,2−ビス[2−[(4S)−tert−ブチル−1,3−オキサゾリニル]]プロパンの化学純度は、以下の方法により求めた。
【0033】
高速液体クロマトグラフ分析
装置: アジレント1100シリーズ
カラム:SUMIPAX ODS A−210EC
3.0mm×150mm,5μm
カラム温度:40℃
移動相:A液 水、B液 アセトニトリル
グラジエント条件
時間(分) 0 15 20 30
B液濃度(%) 70 80 70 70
流量:0.8mL/min
検出波長:210nm
測定時間:30分
算出方法:面積百分率法=2,2−ビス[2−[(4S)−tert−ブチル−1,3−オキサゾリニル]]プロパンのピーク面積値/クロマトグラム中に検出されたピークの総面積値(ただし、溶媒のピーク面積値を除く)×100(%)
【0034】
製造例1:ジメチルマロン酸
窒素雰囲気下、濃硝酸750gにジメチルプロパンジオール10gを、0〜20℃で添加した。そこへ、別途ジメチルプロパンジオール40gと水12mLとを混合し20〜30℃に調整した混合物を加えた。室温で終夜攪拌し、析出した固形物を濾取した。得られた固形物を冷水で洗浄した後、乾燥してジメチルマロン酸51.8g(収率86%)を白色固体として得た。融点188〜191℃。
【0035】
製造例2:ジメチルマロン酸ジクロライド
水素化カルシウムで乾燥し蒸留して精製した塩化メチレン650g、ジメチルマロン酸46g(0.35mol)およびN,N−ジメチルホルムアミド2g(0.027mol)を混合し、混合物を−10℃に冷却した。混合物に、オキザリルクロライド115g(0.9mol)を0.5時間以上かけて滴下した。滴下の際、ガスが発生した。得られた黄色混合物を25℃で18時間攪拌した後、減圧濃縮した。窒素雰囲気下、濃縮された残渣を常圧で蒸留して100〜110℃の留分を採取し、ジメチルマロン酸ジクロライド50.3g(収率85%)を無色透明液体として得た。
【0036】
製造例3:(S)−tert−ロイシノール
水素化ホウ素ナトリウム47g(1.25mol)をテトラヒドロフラン440g中に懸濁させ、そこへ、(S)−tert−ロイシン65g(0.5mol)を加えた。混合物の温度を10〜20℃に調節し、そこへ、同温度に保ったまま、濃硫酸60g(612mmol)とジエチルエーテル63mLとから得た溶液を加えた。混合物を30〜35℃に調節して終夜攪拌した後、氷水浴により冷却し、冷却した混合物にメタノール50mLを加えて攪拌した。得られた混合物をその体積が250mLになるまで濃縮し、残渣に5規定水酸化ナトリウム水250mLを加え、加熱還流下で3時間攪拌した。混合物を氷水浴により冷却し、そこへ、6規定塩酸(40mL)を加えてpH9に調整した。混合物を濾過し、濾液を分液して得た水層をその体積が120mLになるまで濃縮した。前記濾過時に得られた固形物をn−ブタノール150mLで3回洗浄し、得られた洗浄液と濃縮した水層とを合わせた。合わせた混合物を、その体積が200mLになるまで濃縮した。残渣を冷却して析出した固形物を濾過し、得られた固形物をn−ブタノールで洗浄した。洗浄液と濾液を合わせて濃縮し、(S)−tert−ロイシノール48.7g(収率83.2%)を淡黄色油状物として得た。旋光度[α]D20=+34° (c=1、エタノール)。
【0037】
製造例4:(S)−N,N’−ビス[1−(ヒドロキシメチル)−2,2−ジメチルプロピル]−2,2−ジメチル−1,3−プロパンジアミド
(S)−tert−ロイシノール7.4g(63mmol)およびトリエチルアミン15.3g(151mmol)を塩化メチレン65mLに溶解し、−10〜0℃に冷却した。そこへ、ジメチルマロン酸ジクロライド5.1g(30mmol)を塩化メチレン10mLに溶解して得た溶液を、20分間かけて滴下した。混合物を室温で2時間攪拌した後、そこへ塩化メチレン50mLを加えた。さらに食塩水を加えて攪拌し、分液した。水層に塩化メチレンを加え、攪拌した後、分液した。有機層を合わせ、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧濃縮した。濃縮残渣を酢酸エチルから再結晶し、(S)−N,N’−ビス[1−(ヒドロキシメチル)−2,2−ジメチルプロピル]−2,2−ジメチル−1,3−プロパンジアミド9.1g(収率87%)を白色結晶として得た。融点160〜162℃。旋光度[α]D25=+4° (c=1、エタノール)。
【0038】
製造例5:2,2−ビス[2−[4(S)−tert−ブチル−1,3−オキサゾリニル]]プロパン
(S)−N,N’−ビス[1−(ヒドロキシメチル)−2,2−ジメチルプロピル]−2,2−ジメチル−1,3−プロパンジアミド9.0g(27mmol)および七モリブテン酸二アンモニウム5.4g(4.4mmol)をトルエン60mLに溶解し、ディーンスターク装置を用いて、加熱還流下、水を除去しながら攪拌した。6時間後、反応液を室温まで冷却し、減圧濃縮した。濃縮残渣をn−ヘキサンから結晶化し、2,2−ビス[2−[4(S)−tert−ブチル−1,3−オキサゾリニル]]プロパン6.8g(収率85%)を白色固体として得た。化学純度は90%であった。融点88〜90℃。
【0039】
実施例1:
製造例5に準じて得られた化学純度91%の2,2−ビス[2−[4(S)−tert−ブチル−1,3−オキサゾリニル]]プロパン15.0g(純分13.7g)をアセトニトリル45mLと混合し、50〜55℃に加熱して溶液を調製した。次いで、溶液を冷却し、固形物を析出させた。さらに0〜5℃まで冷却し、析出した固形物を濾過により採取し、乾燥して、2,2−ビス[2−[4(S)−tert−ブチル−1,3−オキサゾリニル]]プロパン12.7g(収率84.7%)を白色固体として得た。化学純度は99.4%であった。旋光度[α]D25=+112° (c=1、塩化メチレン)。
【0040】
実施例2:
製造例5に準じて得られた化学純度89%の2,2−ビス[2−[4(S)−tert−ブチル−1,3−オキサゾリニル]]プロパン20.0g(純分17.8g)を酢酸エチル40mLと混合し、加熱して溶液を調製した。次いで、溶液を冷却し、固形物を析出させた。さらに0〜5℃まで冷却し、析出した固形物を濾過により採取し、乾燥して、2,2−ビス[2−[4(S)−tert−ブチル−1,3−オキサゾリニル]]プロパン19.0g(収率95.0%)を白色固体として得た。化学純度は97%であった。
【0041】
比較例1:
製造例5に準じて得られた化学純度89%の2,2−ビス[2−[4(S)−tert−ブチル−1,3−オキサゾリニル]]プロパン10.0g(純分8.9g)をn−ヘキサン60mLと混合し、混合物を加熱して溶液を調製した。その後、溶液を冷却し、固形物を析出させた。混合物を0〜5℃までさらに冷却し、析出した固形物を濾過により採取し、乾燥して、2,2−ビス[2−[4(S)−tert−ブチル−1,3−オキサゾリニル]]プロパン8.9g(収率89.0%)を白色固体として得た。化学純度は95.3%であった。
【0042】
参考例1:
製造例5に準じて得られた化学純度85%の2,2−ビス[2−[4(S)−tert−ブチル−1,3−オキサゾリニル]]プロパン2.0g(純分1.7g)を95%エタノール4mLと混合し、混合物を加熱して溶液を調製した。その後、溶液を冷却して固形物を析出させ、析出した固形物を濾過により採取し、乾燥することで、2,2−ビス[2−[4(S)−tert−ブチル−1,3−オキサゾリニル]]プロパン0.7g(収率35.0%)の白色固体を得た。化学純度は96%であった。
【産業上の利用可能性】
【0043】
式(1)で示されるビスオキサゾリニルアルカン化合物は不斉合成に用いられる触媒の配位子として知られており、特に、シクロプロパン環を有する光学活性な化合物を製造するのに有用である。本発明は、該化合物を精製する方法として利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)
【化1】

(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基、置換基を有していてもよいフェニル基、または置換基を有していてもよいアラルキル基を表す。RおよびRはそれぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜3のアルキル基を表わす。)
で示されるビスオキサゾリニルアルカン化合物を、ニトリル溶媒およびエステル溶媒からなる群より選ばれる1種の溶媒または2種以上の混合溶媒に溶解し、得られた溶液からビスオキサゾリニルアルカン化合物を析出させる、ビスオキサゾリニルアルカン化合物の精製方法。
【請求項2】
アラルキル基がフェニル基、1−ナフチル基または2−ナフチル基で置換された炭素数1〜6のアルキル基である請求項1に記載される精製方法。
【請求項3】
フェニル基およびアラルキル基の置換基が、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数3〜6のシクロアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基および炭素数3〜6のシクロアルキルオキシ基から選ばれる1種以上の置換基である請求項2に記載される精製方法。
【請求項4】
ビスオキサゾリニルアルカン化合物の溶液を冷却することにより析出させる請求項1に記載される精製方法。
【請求項5】
式(1)で示されるビスオキサゾリニルアルカン化合物が光学活性体である請求項1に記載される精製方法。
【請求項6】
ビスオキサゾリニルアルカン化合物を溶解する溶媒がアセトニトリルである請求項1に記載される精製方法。
【請求項7】
ビスオキサゾリニルアルカン化合物を溶解する溶媒が酢酸エチルである請求項1に記載される精製方法。
【請求項8】
がtert−ブチル基である請求項1〜7のいずれかに記載される精製方法。
【請求項9】
およびRが共にメチル基である請求項1〜7のいずれかに記載される精製方法。
【請求項10】
がtert−ブチル基、Rがメチル基、Rがメチル基である請求項1〜7のいずれかに記載される精製方法。
【請求項11】
式(1)で示されるビスオキサゾリニルアルカン化合物が、2,2−ビス[2−[4(S)−tert−ブチル−1,3−オキサゾリニル]]プロパン、または2,2−ビス[2−[4(R)−tert−ブチル−1,3−オキサゾリニル]]プロパンである請求項1〜7のいずれかに記載される精製方法。
【請求項12】
式(1)
【化2】

(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基、置換基を有していてもよいフェニル基、または置換基を有していてもよいアラルキル基を表す。RおよびRはそれぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜3のアルキル基を表わす。)
で示されるビスオキサゾリニルアルカン化合物を、ニトリル溶媒およびエステル溶媒からなる群より選ばれる1種の溶媒または2種以上の混合溶媒に溶解し、得られた溶液からビスオキサゾリニルアルカン化合物を析出させ、析出した精製ビスオキサゾリニルアルカン化合物を得る、式(1)で示される精製ビスオキサゾリニルアルカン化合物の製造方法。
【請求項13】
フェニル基およびアラルキル基の置換基が、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数3〜6のシクロアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基および炭素数3〜6のシクロアルキルオキシ基から選ばれる1種以上の置換基である請求項12に記載される製造方法。
【請求項14】
がtert−ブチル基、Rがメチル基、Rがメチル基である請求項12または13に記載される製造方法。

【公開番号】特開2011−51968(P2011−51968A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−16529(P2010−16529)
【出願日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】