説明

ビスカス・カップリング

【課題】ビスカス・カップリングの温度変化に係わらず、より安定した性能を得ることを可能とする。
【解決手段】相対回転可能なハウジング3及びハブ・シャフト5と、ハウジング3及びハブ・シャフト5間に形成されシリコーン・オイルが封入された作動室7と、作動室7内で回転軸芯方向に交互に配置されハウジング3の内周に結合されたアウター・プレート9及びハブ・シャフト5の外周に結合されたインナー・プレート11と、アウター・プレート9及びインナー・プレート11間の差動回転によるシリコーン・オイルの剪断抵抗によりアウター・プレート9及びインナー・プレート11間にトルクを発生させ得るビスカス・カップリング1であって、ハウジング3の熱膨張に起因する作動室7内の容積増を吸収する熱膨張ブロック13を内蔵させたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車などの動力伝達装置等に用いられるビスカス・カップリングに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ビスカス・カップリングとしてとして特許文献1に記載のものがある。
【0003】
このビスカス・カップリングは、例えば同軸上で相対回転する一対の回転体間に介設され、回転体間の回転速度差を、粘性流体であるシリコーン・オイル等の剪断抵抗により制限するように機能するものである。
【0004】
ビスカス・カップリングは、相対回転自在なハウジングとハブとを備えている。このハウジングとハブとの間に密閉形成された作動室内に粘性液体であるシリコーン・オイルが封入され、作動室内で交互に配置されたアウター・プレートとインナー・プレートとが、ハウジングとハブとにそれぞれ一体回転するようにスプライン係合されている。
【0005】
そして、ハウジングとハブとが相対回転するとアウター・プレートとインナー・プレートとが連動して相対回転し、シリコーン・オイルを剪断する。この剪断によりシリコーン・オイルがアウター・プレートとインナー・プレートとの間に剪断抵抗を与え、アウター・プレートとインナー・プレートとを介してハウジングとハブとの間の差動を制限する。
【0006】
このように、ビスカス・カップリングは、粘性液体の剪断によりトルクを発生する構造であるため、カップリング内に封入されたシリコーン・オイルの粘度と作動室内の充填率とでトルクの大きさが決定される。
【0007】
この場合、粘性液体は、その温度が高くなると粘度が低くなり発生するトルクも低下する。また、ビスカス・カップリングの温度が高くなるとはハウジング等の構成部品が熱膨張するため、作動室の内容積が変化する。特にハウジングの熱膨張に起因して内容積が大きくなれば作動室内の見かけ上の充填率が低下する。
【0008】
このため、ビスカス・カップリングの差動回転と発生トルクとの関係が温度に依存して変化することになり、安定した性能に限界があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平2−296017号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
解決しようとする問題点は、ビスカス・カップリングの差動回転と発生トルクとの関係が温度に依存して変化することになり、安定した性能に限界があった点である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、ビスカス・カップリングの温度変化に係わらず、より安定した性能を得ることを可能とするために、相対回転可能な外側回転部材及び内側回転部材と、前記外側回転部材及び内側回転部材間に形成され粘性液体が封入された作動室と、前記作動室内で回転軸芯方向に交互に配置され前記外側回転部材の内周に結合されたアウター・プレート及び前記内側回転部材の外周に結合されたインナー・プレートと、前記アウター・プレート及びインナー・プレート間の差動回転による前記粘性液体の剪断抵抗により前記外側回転部材及び内側回転部材間にトルクを発生させ得るビスカス・カップリングであって、前記外側回転部材の熱膨張による前記作動室の容積増を吸収する熱膨張体を内蔵させたことを主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、相対回転可能な外側回転部材及び内側回転部材と、前記外側回転部材及び内側回転部材間に形成され粘性液体が封入された作動室と、前記作動室内で回転軸芯方向に交互に配置され前記外側回転部材の内周に結合されたアウター・プレート及び前記内側回転部材の外周に結合されたインナー・プレートと、前記アウター・プレート及びインナー・プレート間の差動回転による前記粘性液体の剪断抵抗により前記外側回転部材及び内側回転部材間にトルクを発生させ得るビスカス・カップリングであって、前記外側回転部材の熱膨張による前記作動室の容積増を吸収する熱膨張体を内蔵させた。
【0013】
このため、ビスカス・カップリングの温度上昇により外側回転部材が熱膨張して作動室の容積が増加しても熱膨張体の熱膨張により作動室の容積増が吸収される。
【0014】
したがって、ビスカス・カップリングの温度変化に係わらず差動回転と発生トルクとの関係をより安定させた性能を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】ビスカス・カップリングの断面図である。(実施例1)
【図2】ビスカス・カップリングの断面図である。(実施例2)
【図3】ビスカス・カップリングの断面図である。(実施例3)
【図4】ビスカス・カップリングの断面図である。(実施例4)
【発明を実施するための形態】
【0016】
ビスカス・カップリングの温度変化に係わらずより安定した性能を得るという目的を、熱膨張体を内蔵させることにより実現した。
【実施例1】
【0017】
図1は、ビスカス・カップリングの断面図である。
【0018】
図1のように、ビスカス・カップリング1は、外側回転部材であるハウジング3及び内側回転部材であるハブ・シャフト5とを備え、ハウジング3及びハブ・シャフト5は相対回転自在となっている。本実施例において、ハウジング3及びハブ・シャフト5は、例えばスチールで形成されている。ハウジング3は、図面上一体の形状となっているが、実際には一方の側壁がカバーとして螺合、或いは溶着により一体的に結合された構造となっている。
【0019】
ハウジング3及びハブ・シャフト5間には、作動室7が形成され、粘性液体として、例えばシリコーン・オイルが封入されている。
【0020】
作動室7内には、アウター・プレート9及びインナー・プレート11が回転軸芯方向に交互に配置されている。アウター・プレート9間には、スペーサー・リング12が配置されている。アウター・プレート9は、ハウジング3の内周にスプライン係合され、インナー・プレート11は、ハブ・シャフト5の外周にスプライン係合されている。
【0021】
したがって、アウター・プレート9及びインナー・プレート11間の差動回転によるシリコーン・オイルの剪断抵抗によりハウジング3及びハブ・シャフト5間にトルクを発生させることができる。
【0022】
本発明の実施例では、ハウジング3の熱膨張に起因する作動室7の容積増を吸収する熱膨張体として熱膨張ブロック13が内蔵されている。
【0023】
具体的には、作動室7に連通して拡張室15が形成されている。拡張室15は、ハウジング3及びハブ・シャフト5を回転軸芯方向に一体に拡大して形成されたものであり、作動室7に隣接して連通している。この拡張室15は、ハウジング3の外周囲に形成することも可能である。この場合ハウジング3を円筒部材で覆い、側壁側で径方向の孔により連通させることができる。ただし、連通箇所は、軸方向の中間部でも良い。
【0024】
拡張室15内にもシリコーン・オイルが充填されており、このシリコーン・オイルは、作動室7内のシリコーン・オイルと一体となり、作動室7内の充填率が保持されている。
【0025】
熱膨張ブロック13は、拡張室15内に周回状に配置された断面ドーナツ形状であり、ハウジング3よりも熱膨張係数の高い材質のアルミ合金等で形成されている。ハウジング3もアルミ合金等で形成し、軽量化を図ることもできる。
【0026】
熱膨張ブロック13の熱膨張による増加体積は、ハウジング3の熱膨張に起因する作動室7及び拡張室15内の容積増加量に等しく、或いは近い量に設定されている。
【0027】
さらに、熱膨張ブロック13の熱膨張による増加体積が、ハウジング3の熱膨張に起因する作動室7及び拡張室15内の容積増加量を上回るように設定し、温度上昇に応じて充填率を高めるようにすることも可能である。
【0028】
この熱膨張ブロック13の熱膨張による増加体積の設定は、計算或いは実験により得ることができる。計算による場合は、各部の熱膨張係数と各部の形状とから設定することができる。実験による場合は、各部の熱膨張実測値から求めることができる。
【0029】
具体的には、ハウジング3の熱膨張による内容積の増加量からハブ・シャフト5、アウター・プレート9及びインナー・プレート11、スペーサー・リング12、後述するスナップ・リング17の熱膨張による内容積の減少量を差し引くことで求めることができる。シリコーン・オイルの熱膨張も考慮することができる。
【0030】
ハウジング3の内周には、ストッパとしてスナップ・リング17が取り付けられ、拡張室15から作動室7への熱膨張ブロック13の移動を規制する。
【0031】
かかるビスカス・カップリング1は、ハウジング3とハブ・シャフト5とが相対回転するとアウター・プレート9とインナー・プレート11とが連動して相対回転し、シリコーン・オイルを剪断する。この剪断によりシリコーン・オイルがアウター・プレート9とインナー・プレート11との間に剪断抵抗を与え、アウター・プレート9とインナー・プレート11とを介してハウジング3とハブ・シャフト5との間にトルクを発生する。
【0032】
このトルク発生時にビスカス・カップリング1の温度が高くなり、ハウジング3の熱膨張に起因して作動室7及び拡張室15内の容積が増加する。この増加に併せて熱膨張ブロック13が熱膨張して体積が増加し、ハウジング3の熱膨張に起因した作動室7及び拡張室15内の容積増加を吸収する。
【0033】
このため、作動室7内の充填率に変化はなく、ビスカス・カップリング1の温度変化に係わらず差動回転と発生トルクとの関係をより安定させた性能を得ることができる。
【実施例2】
【0034】
図2は、本発明の実施例2に係り、ビスカス・カップリングの断面図である。
【0035】
図2のように、本実施例のビスカス・カップリング1Aでは、熱膨張ブロック13Aが、ハウジング3Aに一体に固定されたものである。
【0036】
熱膨張ブロック13Aのハウジング3Aに対する固定箇所は、側壁3Aaとなっている。側壁3Aaは、ハウジング3A本体に一体のものとして構成でき、またハウジング3A本体に対し螺合或いは溶着するカバーとしても構成できる。カバーの場合は、熱膨張ブロック13Aを一体に備えたカバーを数種類備えることで、ビスカス・カップリング1Aの熱特性を設定することができる。特に、カバーをハウジング3A本体に対し螺合させる場合は、カバーの交換によりビスカス・カップリング1Aの熱特性を変更することができる。
【0037】
ハウジング3A及び熱膨張ブロック13Aは、アルミ合金等で形成している。したがって、全体的に軽量化を図ることができる。
【0038】
本実施例では、実施例1で示したスナップ・リング17を省くことができる。
【実施例3】
【0039】
図3は、本発明の実施例3に係り、ビスカス・カップリングの断面図である。
【0040】
図3のように、本実施例のビスカス・カップリング1Bでは、アウター・プレート9B及びインナー・プレート11Bを熱膨張材、例えばアルミ合金等で形成し、熱膨張体とした。
【0041】
なお、アウター・プレート9B及びインナー・プレート11Bの何れか一方のみをアルミ合金で形成し、熱膨張体とすることもできる。アウター・プレート9B及びインナー・プレート11Bの何れか一方の一部のプレートをアルミ合金で形成し、熱膨張体とすることもできる。アウター・プレート9B及びインナー・プレート11Bの双方の各一部のプレートをアルミ合金で形成し、熱膨張体とすることもできる。一部のプレートをアルミ合金で形成し、熱膨張体とする場合に、一枚のプレート全体をアルミ合金で形成し、熱膨張体とするものに限らず、一枚のプレートの一部をアルミ合金で形成し、熱膨張体とすることもできる。
【0042】
本実施例では、実施例1、2で示した拡張室15を省くことができる。
【実施例4】
【0043】
図4は、本発明の実施例4に係り、ビスカス・カップリングの断面図である。
【0044】
図4のように、本実施例のビスカス・カップリング1Cでは、ハブ・シャフト5Cを熱膨張材、例えばアルミ合金等で形成し、熱膨張体とした。
【0045】
本実施例では、実施例1、2で示した拡張室15を省くことができる。
【符号の説明】
【0046】
1,1A,1B,1C ビスカス・カップリング
3,3A ハウジング
5 ハブ・シャフト
5C ハブ・シャフト(熱膨張体)
7 差動室
9 アウター・プレート
9B アウター・プレート(熱膨張体)
11 インナー・プレート
11B インナー・プレート(熱膨張体)
13,13A 熱膨張ブロック(熱膨張体)
15 拡張室
17 スナップ・リング(ストッパ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
相対回転可能な外側回転部材及び内側回転部材と、
前記外側回転部材及び内側回転部材間に形成され粘性液体が封入された作動室と、
前記作動室内で回転軸芯方向に交互に配置され前記外側回転部材の内周に結合されたアウター・プレート及び前記内側回転部材の外周に結合されたインナー・プレートと、
前記アウター・プレート及びインナー・プレート間の差動回転による前記粘性液体の剪断抵抗により前記外側回転部材及び内側回転部材間にトルクを発生させ得るビスカス・カップリングであって、
前記外側回転部材の熱膨張による前記作動室の容積増を吸収する熱膨張体を内蔵させた、
ことを特徴とするビスカス・カップリング。
【請求項2】
請求項1記載のビスカス・カップリングであって、
前記作動室に連通して拡張室が形成され、
前記熱膨張体は、前記拡張室内に周回状に配置された断面ドーナツ形状の熱膨張ブロックであり、
前記外側回転部材の内周に前記拡張室から前記作動室への前記熱膨張ブロックの移動を規制するストッパを備えた、
ことを特徴とするビスカス・カップリング。
【請求項3】
請求項1記載のビスカス・カップリングであって、
前記作動室に連通して拡張室が形成され、
前記熱膨張体は、前記拡張室内に周回状に配置された断面ドーナツ形状の熱膨張ブロックであり、
前記熱膨張ブロックは、前記外側回転部材に一体に固定された、
ことを特徴とするビスカス・カップリング。
【請求項4】
請求項1記載のビスカス・カップリングであって、
前記アウター・プレート及びインナー・プレートの少なくとも一方の少なくとも一部を、前記外側回転部材の熱膨張に起因する前記作動室の容積増を吸収する熱膨張材により形成して前記熱膨張体とした、
ことを特徴とするビスカス・カップリング。
【請求項5】
請求項1記載のビスカス・カップリングであって、
前記内側回転部材を、前記外側回転部材の熱膨張に起因する前記作動室の容積増を吸収する熱膨張材により形成して前記熱膨張体とした、
ことを特徴とするビスカス・カップリング。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−144838(P2011−144838A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−4363(P2010−4363)
【出願日】平成22年1月12日(2010.1.12)
【出願人】(000225050)GKNドライブラインジャパン株式会社 (409)