説明

ビスカス・カップリング

【課題】圧力リリーフ・バルブを廃止しながら重量低減や車両他部材との干渉などの点で有利になることを可能にするビスカス・カップリングを提供する。
【解決手段】ハウジング3及びハブ・シャフト5間にXリング11,13により密閉形成されシリコーン・オイルが封入された作動室15と、作動室15内のアウター・プレート23及びインナー・プレート25間の差動回転によるシリコーン・オイルの剪断抵抗によりハウジング3及びハブ・シャフト5間にトルクを発生させ得るビスカス・カップリング1であって、ハウジング3をアルミ材による鍛造で形成し、ハウジング3は、本体部35及びカバー部37で構成し、カバー部37は、作動室15の回転軸芯方向の端部を閉じて外周部が本体部35に溶着結合され、シリコーン・オイルの作動室15に対する充填率を、作動室15の耐圧強度に安全率を見込んで設定することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車などの動力伝達装置等に用いられるビスカス・カップリングに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、圧力リミッタを備えたビスカス・カップリングとして特許文献1に記載のものがある。
【0003】
このビスカス・カップリングは、外側回転部材であるハウジングがアルミ・ダイキャストで形成され、このハウジングは、本体部及びカバー部を備え、カバー部の外周部が本体部に螺合結合されている。
【0004】
カバー部には、圧力リリーフ・バルブが設けられ、内圧がハウジングの耐圧強度に達する前に内圧を逃がす構成となっている。
【0005】
しかし、圧力リリーフ・バルブは、構造が複雑であると共に取り付けのための加工工数が多くなり、コスト低減に限界を招いていた。
【0006】
これに対し、ハウジングをアルミ材による鍛造やフロー・フォーミングで形成し、カバー部を本体部に結合して強度アップを図り、圧力リリーフ・バルブを廃止することが考えられる。
【0007】
しかし、単に圧力リリーフ・バルブを廃止するとハウジングの肉厚を増大しなければならず、重量低減や車両他部材との干渉などの点で不利となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010−90909号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
解決しようとする問題点は、カバー部を本体部に結合して単に圧力リリーフ・バルブを廃止すると重量低減や車両他部材との干渉などの点で不利となる点である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、カバー部を本体部に結合して圧力リリーフ・バルブを廃止しながら重量低減や車両他部材との干渉などの点で有利になることを可能とするために、相対回転可能な外側回転部材及び内側回転部材と、前記外側回転部材及び内側回転部材間に密閉形成され粘性液体が封入された作動室と、前記作動室内で回転軸芯方向に交互に配置され前記外側回転部材の内周に結合されたアウター・プレート及び前記内側回転部材の外周に結合されたインナー・プレートと、前記アウター・プレート及びインナー・プレート間の差動回転による前記粘性液体の剪断抵抗により前記外側回転部材及び内側回転部材間に伝達トルクを発生させ得るビスカス・カップリングであって、前記外側回転部材をアルミ材による鍛造又はフロー・フォーミングで形成し、この外側回転部材は、前記作動室を前記内側回転部材と共に区画する本体部及びカバー部で構成し、前記カバー部は、前記作動室の回転軸芯方向の端部を閉じて外周部が前記本体部に溶着結合され、前記粘性液体の前記作動室に対する充填率を、前記作動室の耐圧強度に安全率を見込んで設定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、相対回転可能な外側回転部材及び内側回転部材と、前記外側回転部材及び内側回転部材間に密閉形成され粘性液体が封入された作動室と、前記作動室内で回転軸芯方向に交互に配置され前記外側回転部材の内周に結合されたアウター・プレート及び前記内側回転部材の外周に結合されたインナー・プレートと、前記アウター・プレート及びインナー・プレート間の差動回転による前記粘性液体の剪断抵抗により前記外側回転部材及び内側回転部材間に伝達トルクを発生させ得るビスカス・カップリングであって、前記外側回転部材をアルミ材による鍛造又はフロー・フォーミングで形成し、この外側回転部材は、前記作動室を前記内側回転部材と共に区画する本体部及びカバー部で構成し、前記カバー部は、前記作動室の回転軸芯方向の端部を閉じて外周部が前記本体部に溶着結合され、前記粘性液体の前記作動室に対する充填率を、前記作動室の耐圧強度に安全率を見込んで設定する。
【0012】
このため、圧力リリーフ・バルブを不要とし、加工工数を抑制して簡単な構造により温度変化による破壊を防止することができる。加工工数を抑制して簡単な構造によりコスト低減を図ることができる。
【0013】
しかも、粘性液体の充填率を考慮してハウジングの肉厚増大を抑制し、重量低減や車両他部材との干渉などの点で有利になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】ビスカス・カップリングの断面図である。(実施例1)
【図2】図1の左側面図である。(実施例1)
【図3】発生圧力と充填率との関係のグラフである。(実施例1)
【発明を実施するための形態】
【0015】
カバー部を本体部に結合して圧力リリーフ・バルブを廃止しながら重量低減や車両他部材との干渉などの点で有利になることを可能にするという目的を、ハウジングの溶着構造と粘性流体の充填率の考慮とにより実現した。
【実施例1】
【0016】
図1は、ビスカス・カップリングの断面図、図2は、図1の左側面図である。
【0017】
図1、図2のように、ビスカス・カップリング1は、外側回転部材であるハウジング3及び内側回転部材であるハブ・シャフト5を備えている。ハウジング3及びハブ・シャフト5は、ブッシュ7,9を介して相対回転自在となっている。ハウジング3側には、Xリング11,13が支持され、このXリング11,13がハブ・シャフト5に密接して作動室15が密閉形成され、作動室15内に粘性液体として、例えばシリコーン・オイルが封入されている。このシリコーン・オイルの作動室15に対する充填率は、図3により後述する。
【0018】
ハウジング3の内周及びハブ・シャフト5の外周には、作動室15内においてインナー・スプライン17,スプライン19が形成されている。ハブ・シャフト5には、入出力用のスプライン21が形成されている。
【0019】
作動室15内には、複数枚のアウター・プレート23及びインナー・プレート25が回転軸芯方向に交互に配置されている。
【0020】
アウター・プレート23は、インナー・スプライン17にスプライン係合し、このアウター・プレート23間には、スペーサー・リング27が介設されている。インナー・プレート25は、スプライン19にスプライン係合している。
【0021】
ハウジング3には、一側内周に軸支持用のボール・ベアリング29が設けられ、ハウジング3に係合したスナップ・リング30により抜け止めが行われている。ハウジング3の他側には、摺動リング31及びダスト・カバー33が取り付けられている。摺動リング31には、図示外のオイル・シールのリップが摺接し、ダスト・カバー33は、オイル・シールを塵埃等から保護するものである。
【0022】
ハウジング3は、例えばアルミ合金材により鍛造形成され、本体部35及びカバー部37からなり、この本体部35及びカバー部37は、嵌め合いセンタリング部36を備え、この嵌め合いセンタリング部36の軸方向外側に嵌め合いセンタリング部36よりもやや大径の軸方向に沿った環状の内周面及び外周面からなる溶接部39において溶着結合されている。
【0023】
図1,図2のように、本体部35には、雌ねじ部41が設けられ、図外のフランジ部材に結合可能となっている。
【0024】
図1のように、カバー部37には、シリコーン・オイルを内部の作動室15へ充填するために用いる一対の孔43(但し、図1では周方向の1箇所のみ示す。)が形成されている。一方の孔43からシリコーン・オイルを注入し、他方の孔43から作動室15内の空気抜きをする。各孔43には、閉止体としてスチール・ボール45が圧入により組み付けられ、孔43の開放端をカシメることでスチール・ボール45の抜け止めが行われている。
【0025】
図3は、発生圧力と充填率との関係のグラフである。
【0026】
シリコーン・オイルの作動室15に対する充填率は、作動室15の耐圧強度に安全率を見込んで設定している。
【0027】
アルミ鍛造のハウジング3を持ったビスカス・カップリング1(アルミ鍛造VC)の本体部35の開口部35aの肉厚tが、圧力リリーフ・バルブを備えた場合と同程度であるとして、耐圧強度の実測値が、図3のSになるとする。
【0028】
安全率Aの場合は、発生圧力をS1以下とするために充填率は、79.5%以下、76%以上とする。
【0029】
安全率Bの場合は、発生圧力をS2以下とするために充填率は、75.5%以下、72%以上とする。
【0030】
図3では、発生圧力のばらつきを±3σの範囲で見込んでおり、充填率の上限は、プラス側のばらつきにより設定している。
【0031】
充填率の下限は、アウター・プレート23及びインナー・プレート17間の差動回転による粘性液体の剪断抵抗によりハウジング3及びハブ・シャフト5間に設定の伝達トルクを発生させ得る範囲とした。
【0032】
一般に、ビスカス・カップリングはトルクを発生し続けると内部圧力が上昇し、ハウジングの耐圧強度を上回ることになる。
【0033】
しかし、前記溶着構造と充填率の設定とにより、温度上昇による内圧上昇は、アルミ鍛造のハウジング3を持ったビスカス・カップリング1の耐圧強度を下回ることができる。
【0034】
したがって、圧力リリーフ・バルブを不要とし、加工工数を抑制して簡単な構造により温度変化による破壊を防止することができる。加工工数を抑制して簡単な構造によりコスト低減を図ることができる。
【0035】
しかも、粘性液体の充填率を考慮してハウジングの肉厚増大を抑制し、重量低減や車両他部材との干渉などの点で有利になる。
【0036】
内圧上昇が過上昇になると温度が高くなり、Xリング11,13の耐熱温度を越えるとシリコーン・オイルが漏れだす。この漏れにより圧力過上昇がなくなり、溶接部39の破損が防止される。
【0037】
ハウジング3をアルミ鍛造で形成することで、製造が容易となる。
【0038】
また、充填率の下限値の考慮により、設定した伝達トルクの発生にも問題がない。
[その他]
ハウジングは、アルミ材のフロー・フォーミングで形成することもでき、この場合、本体部に対するカバー部の結合は、溶接結合となる。なお、ハウジング3を構成する本体部35及びカバー部37は、アルミ材の鍛造とアルミ材のフロー・フォーミングとの何れかを選択して組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0039】
1 ビスカス・カップリング
3 ハウジング
5 ハブ・シャフト
15 作動室
23 アウター・プレート
25 インナー・プレート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
相対回転可能な外側回転部材及び内側回転部材と、
前記外側回転部材及び内側回転部材間に密閉形成され粘性液体が封入された作動室と、
前記作動室内で回転軸芯方向に交互に配置され前記外側回転部材の内周に結合されたアウター・プレート及び前記内側回転部材の外周に結合されたインナー・プレートと、
前記アウター・プレート及びインナー・プレート間の差動回転による前記粘性液体の剪断抵抗により前記外側回転部材及び内側回転部材間に伝達トルクを発生させ得るビスカス・カップリングであって、
前記外側回転部材をアルミ材による鍛造又はフロー・フォーミングで形成し、
この外側回転部材は、前記作動室を前記内側回転部材と共に区画する本体部及びカバー部で構成し、
前記カバー部は、前記作動室の回転軸芯方向の端部を閉じて外周部が前記本体部に溶着結合され、
前記粘性液体の前記作動室に対する充填率を、前記作動室の耐圧強度に安全率を見込んで設定する、
ことを特徴とするビスカス・カップリング。
【請求項2】
請求項1記載のビスカス・カップリングであって、
前記粘性液体の前記作動室に対する充填率は、前記アウター・プレート及びインナー・プレート間の差動回転による前記粘性液体の剪断抵抗により前記外側回転部材及び内側回転部材間に設定の伝達トルクを発生させ得る範囲で79.5%以下とした、
ことを特徴とするビスカス・カップリング。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−237376(P2012−237376A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−106654(P2011−106654)
【出願日】平成23年5月11日(2011.5.11)
【出願人】(000225050)GKNドライブラインジャパン株式会社 (409)