説明

ビットパターン記録媒体の情報再生方法及び装置

【課題】情報の記録ビットに応じて磁性体の有無が不連続に形成されたBPR−ROM方式において、固定ビットバターンに起因するアシンメトリや隣接トラックからのクロストークを改善する。
【解決手段】まず、ビットパターン記録媒体上の各セクタの平均磁化方向が第1及び第2の磁化方向にそれぞれ磁化させられた状態でセクタの再生が行われ、それぞれの再生特性が第1及び第2の再生特性として取得される(S501〜S507)。各セクタの平均磁化状態と第1及び第2の再生特性がセクタ管理情報として管理される。各セクタのうち、セクタエラーが発生するセクタについて、ビットパターン記録媒体上でのそのセクタの平均磁化方向が、そのセクタに対応するセクタ管理情報に含まれる第1の再生特性及び第2の再生特性のうち再生特性が良いほうに対応する磁化方向に磁化させられる(S508〜S510)。これにより再生特性が改善される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報の記録ビットに応じて磁性体の有無が不連続に形成された記録層を用いたビットパターン記録媒体における、情報の安定な再生技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ハードディスクは、図16に示されるように、一般に、ベース1601に設置されたスピンドルモータ1602によって駆動される円盤状の記録媒体1603に対して、ベース1601に設置されたボイスコイルモータ1604によって駆動されるサスペンション1605の先端に設置された磁気ヘッド1606により情報の記録及び再生を行う構成を有する。
【0003】
その記録容量は、年率2倍近いペースで増大し、近年では、図17に示されるような、垂直磁気記録方式により、更に記録密度が改善されてきている。この方式では、軟磁性裏打ち層1701及び磁性層1702からなり媒体進行方向1708に回転移動する記録媒体に対して、主磁極1703、リターンヨーク1704、及びコイル1705を有する磁気ヘッドが発生する記録磁界1707によって、磁性層1702に記録媒体の表面に対する垂直方向に磁気記録がなされる。再生時には、この磁気記録状態が、再生素子1706によって読み出され、情報信号が再生される。
【0004】
更に、将来の高密度磁気記録候補として、従来のような2次元的に連続な記録層ではなく、図18に示されるように、情報の記録ビットに応じて磁性体の有無がビットパターン1801として不連続に形成された記録層を用いたBPR方式(ビットパターン記録方式:Bit Patterned Recording)が注目されている。
【0005】
BPR媒体は、原盤に形成されたビットパターンを転写することにより作製されるため、大量に同じビットパターンを有する媒体を製造することが可能になる。この特徴を利用すると、図19に示されるように、ビットパターン1901の形状及び配置により情報を記録することで、BPR−ROM(ビットパターン記録方式リードオンリー記録媒体)として使用することができる。
【0006】
近年、OS(オペレーティングシステム)やソフトウェア、動画コンテンツ等の容量が数十ギガバイト近くまで増大している。特に動画に関しては、ハイビジョンテレビの普及等により、高品質の画像の保存が要求されるため、要求記録容量が増大している。しかしながら、これらのコンテンツをCD−ROMやDVDで配信するためには、必要とする枚数が多くなってしまう。そのような際に上述のBPR−ROM媒体を用いれば、ビットパターンの複製が容易であるため、コンテンツ配信には最適である。
【特許文献1】特開2006−031856号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、BPR−ROMは固定パターンであるが故に、再生波形のアシンメトリや、隣接トラックからのクロストークが問題となる。
まず、アシンメトリについて説明する。BPR媒体の再生において、異なるパターン、具体的には、記録ビットの長さの異なるパターンが再生された際に、図20(a)の2001及び2002として示されるように、異なる出力振幅を有する信号が現れる。この場合に、図20(a)の2003として示されるように、それぞれの出力振幅より算出された出力中心値がほぼ一致している場合には、そのような再生波形はアシンメトリが小さい
波形という。一方、図20(b)の2004及び2005として示されるように、上記出力中心値がずれている場合には、そのような再生波形はアシンメトリが大きい波形という。
【0008】
一方、クロストークとは、再生トラックに対して、隣接トラックがかなりオフセットして近づいている際に、隣接トラックからの信号が再生トラックに漏れ込み、例えば図21の2101として示されるようなクロストーク波形として観察される現象をいう。
【0009】
上述のようにアシンメトリが大きい波形においては、再生波形における情報のビット値を決定するための閾値(図20の2003、2004、2005等)の設定が困難になり、信号誤りを発生させるという問題点を有している。このアシンメトリは、ビットパターンの形状や、再生素子の有する非対称性及び検出回路の非線形性等に起因する現象である。この現象は、通常の連続磁気記録層を用いた場合には、情報の記録条件を調節する、具体的には記録ヘッドに流す電流波形に前述した再生特性と逆方向のアシンメトリをもたせて、記録し直すことで改善できる。
【0010】
また、クロストークに関しては、情報を記録する際に、前述した再生信号のクロストークを小さくする方向へトラックオフセットを加えて、情報を記録し直すことで改善できる。
【0011】
また、所謂書換え可能なBPR媒体の場合には、前述したアシンメトリやクロストークによるエラーが発生した情報セクタに対しては、交替セクタを用意し、そこに情報を記録することで、問題を回避することができる。
【0012】
ところが、BPR−ROMでは、予め工場にて固定的に記録されたパターンから情報が検出されるため、上述したような情報の書直しによる再生特性の改善や交替セクタへの追加記録が難しいという問題点を有していた。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の課題は、BPR−ROM方式において、固定ビットバターンに起因するアシンメトリや隣接トラックからのクロストークを改善することにある。
本発明は、情報の記録ビットに応じて磁性体の有無が不連続に形成された記録層を用いたビットパターン記録媒体からの情報再生を行う方法又は装置を前提とする。
【0014】
本発明の基本的な態様においては、ビットパターン記録媒体上の各セクタの平均磁化状態がセクタ管理情報として管理され、そのセクタ管理情報に基づいてそれに対応するビットパターン記録媒体上のセクタに対する情報再生条件が設定される。
【0015】
より具体的な態様は、以下の通りである。
まず、ビットパターン記録媒体上の各セクタの平均磁化方向が第1の磁化方向に磁化させられた状態でセクタの再生が行われ、その再生特性が第1の再生特性として取得される。
【0016】
次に、各セクタの平均磁化方向が第1の方向とは180度異なる第2の磁化方向に磁化させられた状態でそのセクタの再生が行われ、その再生特性が第2の再生特性として取得される。
【0017】
これらの第1及び第2の再生特性は、例えば、ビットパターン記録媒体上の各セクタからの情報再生時におけるエラーレート値、再生アンプのゲイン値及びオフセット値を含む。
【0018】
上述のようにして取得されたビットパターン記録媒体上の各セクタの第1の再生特性及び第2の再生特性が、そのセクタの平均磁化状態と共にセクタ管理情報として管理される。
【0019】
そして、そのセクタ管理情報に基づいてそれに対応するビットパターン記録媒体上のセクタに対する情報再生条件が設定される。具体的には、ビットパターン記録媒体上の各セクタのうち、セクタエラーが発生するセクタについて、ビットパターン記録媒体上でのそのセクタの平均磁化方向が、そのセクタに対応するセクタ管理情報に含まれる第1の再生特性及び第2の再生特性のうち再生特性が良いほうに対応する磁化方向に磁化させられる。
【0020】
上記態様において、ビットパターン記録媒体上の各セクタ間にバッファ領域が設けられ、その各セクタ間での平均磁化方向の切替え時には、バッファ領域のほぼ中心位置で切り替えられるように構成することができる。
【0021】
また、上記態様において、ビットパターン記録媒体上の各セクタに対応するセクタ管理情報として、そのセクタに対してビットパターン記録媒体上のトラックに交差する方向に隣接するセクタの平均磁化状態を含むように構成することができる。
【0022】
上記本発明の態様を実現するために、ビットパターン記録媒体上の各セクタのビットパターンを指定された磁化方向で磁化する磁界印加手段(例えば図3の303)、ビットパターン記録媒体上の各セクタのビットパターンの情報を再生する再生手段(例えば図3の304)、及びセクタ管理情報を取得するセクタ管理情報取得手段(例えば図4の407)、セクタ管理情報を記憶するセクタ管理情報記憶手段(例えば図4の409)、及び第1及び第2の再生特性を比較しながら各セクタを磁化する平均磁化方向制御手段(例えば図4の407)とからなる情報再生装置を構成することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係るセクタ毎の平均磁化状態及びその磁化状態での再生特性をセクタ管理情報として管理するとともに、それを再生条件の設定に利用することで、固定ビットバターンに起因したアシンメトリや隣接トラックからのクロストークを改善することで、情報を正確に且つ安定に再生することが可能になる。
【0024】
また、そのことにより、大容量コンテンツを歩留まり良く、安価で配信することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための最良の形態を詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態におけるBPR−ROM媒体の断面構成図である。また、図2は、BPR−ROM媒体の作製処理を示すフロー図である。以下、101〜108の各参照番号は図1の、S201〜S220の参照番号は図2の、各参照番号に対応している。
【0026】
ガラス基板101が研磨された後、その基板上に、下地層102として、NiCr合金層が形成される(S201、S202)。下地層としては、膜の密着性を高める金属で、耐食性があれば特にNiCr合金以外の材料も使用できる。
【0027】
下地層102の上には、FeCoCrB合金層の間にサブナノメータの厚みのRu合金層が挿入され、上下のFeCoCrB合金層の磁化がRu合金層を介して反平行にカップ
リングされた軟磁性裏打ち層(SUL:Soft Under Layer)103が成膜される(S203)。
【0028】
軟磁性裏打ち層103の上には、中間層104として、Ta合金層及びRu合金層が成膜される(S204)。
中間層104の上に、CoCrPt合金を用いた垂直磁気記録層106が成膜される(S205)。垂直磁気記録層106としては、Co/Ptの薄膜が多層に形成された人工格子膜が用いられても問題ない。
【0029】
垂直磁気記録記録層106の上には、保護層107として、カーボン(C)層が成膜される(S206)。
以上のようにして成膜媒体が作製される。
【0030】
一方、上記の処理とは独立して、原盤が、レジスト塗布(S216)、サーボパターン電子線露光(S217)、現像(S218)、洗浄(S219)、完成(S220)の各処理によって作製される。
【0031】
このようにして作製された原盤のパターンは、前述のS201〜S206によって作製され更にポリマー塗布が処理(S207)された成膜媒体に対して、転写され(S208)、定着される(S209)。
【0032】
続いて、ビットパターンが転写された成膜媒体において、反応性イオンエッチング(RIE:Reactive Ion Etching)法により、垂直磁気記録層106によるビットパターンが形成される。
【0033】
その後、残ポリマー等の除去のための洗浄が行われ(S211)、垂直磁気記録層106のビットパターンを覆うように、Ta合金等の耐食性に強い合金による非磁性層105が成膜され(S212)、その上に保護層107(S213)、潤滑層108(S214)が順に成膜され、ビットパターンメディア(BPM)が完成する(S215)。
【0034】
次に、上述のようにして作製されたBPR−ROM媒体を使った情報記録再生装置に関する、本発明の実施形態について説明する。
まず、図3は、BPR再生ヘッドとBPR−ROM媒体との関係を示す構成図である。図3に示されるように、磁界印加素子303及び再生素子304がスライダ302に取り付けられた構成を有する磁気ヘッドと、それを支持するサスペンション301とからなる部分が、上述のようにして作製されたBPR−ROM媒体305上に浮上して、情報の再生及び本発明に係るセクタ毎の管理情情報の取得を行う。
【0035】
図4は、図3の構成を含む本発明による情報再生装置の実施形態の構成図である。
BPR−ROM媒体401(図3の305と同じもの)は、スピンドルモータ402により所定の回転数で回転する。
【0036】
また、磁気ヘッド403とそれを支持するサスペンション404は、ボイスコイルモータ405により、所定の媒体半径位置へアクセスできる。
BPR−ROM媒体401には、予めサーボパターンも形成されており(図2のS217参照)、磁気ヘッド403により検出されたサーボ信号をもとに所定のトラックへのトラッキングが行われる。
【0037】
BPR−ROM媒体401の回転及び所定のトラック及びセクタへのアクセスは、メインコントローラユニット407の監視のもとで、サーボコントローラ410により、スピ
ンドルモータ402、並びに、ボイスコイルモータ405、サスペンション404、及び磁気ヘッド403を制御して行われる。
【0038】
磁気ヘッド403によりBPR−ROM媒体401から読み出された情報信号は、プリアンプ406を通してメインコントローラユニット407に入力される。
データバッファメモリ408は、再生された情報信号を一時的に記録し、必要に応じて外部機器にDMA転送等する。
【0039】
フラッシュメモリ409は、本発明に係るセクタ管理情報を記録する。このセクタ管理情報は、情報の再生時に、制御情報としてフラッシュメモリ409からメインコントローラユニット407に読み出される。
【0040】
図5は、本発明に係るセクタ管理情報の取得と設定の処理を示す動作フローチャートである。この動作は、メインコントローラユニット407が、それに内蔵されたプログラムを実行しながら、図4の各部を制御する動作として実現される。
【0041】
まず、BPR−ROM媒体401上の所望のセクタ(第mセクタ)へアクセスして情報の再生が行われ(S501)、セクタエラーが発生しているか否かが確認される(S502)。
【0042】
セクタエラーが発生しておらず、ステップS502の判定がNOならば、セクタ番号mがプラス1され(S503),次のセクタへのアクセスが行われる(S503−>S501)。
【0043】
第mセクタにてエラーが発生しステップS502の判定がYESとなった場合には、再生特性パラメータとして、バイトエラーレイト(BER:Byte Error Rate)が取得され、それをDA(デジタルアナログ)変換された値がBER0として、メインコントローラユニット407内の特には図示しないレジスタ等に保持される(S504)。
【0044】
その後、スピンドルモータ402が1回転又は整数倍回転するのを待って、再び第mセクタにアクセスされ、磁気ヘッド403内の磁界印加素子303(図3参照)を用いて、第mセクタ内の全てのビットパターンの垂直磁化極性(磁化の方向)が反転させられる(S505)。極性としては、例えば図1に示されるように、BPR−ROM媒体401の表面方向に磁化された極性をPolarity0、裏面方向に磁化された極性をPolarity1とし、BPR−ROM媒体401の初期状態としては、予めPolarity0又はPolarity1の何れかの極性に、媒体全体を磁化させておくことが望ましい。初期状態として、媒体全体が例えばPolarity0に磁化されているとすれば、ステップS505では、第mセクタ内の全てのビットパターンの垂直磁化極性が、Polarity1に反転させられる。
【0045】
これに続いて、再び第mセクタにアクセスされ(S506)、BERが測定される。この極性反転後のBERは、DA変換されてBER1として、メインコントローラユニット407内の特には図示しないレジスタ等に保持される(S507)。
【0046】
上述の処理によって取得された第mセクタに関するセクタ管理情報は、フラッシュメモリ409内に格納される例えば図6に示されるセクタ管理テーブルに、ゾーン番号(Zone No.)、セクタ番号(Sector No.)、現在の極性(Current Polarity setting)、BER0(BER@Polarity=0)、BER1(BER@Polarity=1)として記録される。
【0047】
また、第mセクタの情報の再生時における、プリアンプ406のゲイン(Gain(dB))及びオフセット値(Offset(mV))も、図6に示されるように、上記セクタ管理情報の一部として記録することができる。
【0048】
なお、図6では全てのセクタ(セクタエラーが発生していないセクタについても)に関するセクタ管理情報が記録されているが、セクタ管理情報の取得の条件は、使用用途により任意に設定すればよい。即ち、セクタエラーが発生したセクタのみについて上記セクタ管理情報が記録されるようにしてもよい。なお、図5の動作フローチャートは、セクタエラーが発生したセクタについてのみ、セクタ管理情報がフラッシュメモリ409に記録される構成となっている。
【0049】
なお、セクタ管理情報は、必ずしもフラッシュメモリ409に記録して管理する必要はなく、場合によっては、BPR−ROM媒体401上に情報記録が可能な領域を設けてそこに記録して管理してもよい。
【0050】
フラッシュメモリ409へのセクタ管理情報の記録に続いて、前述のPolarity(極性)=0に関するBER0値がPolarity=1に関するBER1値よりも大きいかが判定される(S508)。
【0051】
BER0>BER1でステップS508の判定がYESならば、ステップS505で設定された現在のPolarity=1の極性状態のほうがエラーレートが小さいため、Polarity=1が、フラッシュメモリ409内の図6に示されるセクタ管理テーブル(第mセクタ)に、セクタ管理情報の一部である現在の極性(Current Polarity setting)として記録される(S508−>S510)。
【0052】
一方、BER0≦BER1でステップS508の判定がNOならば、ステップS501の最初の時点でのPolarity=0の極性状態のほうがエラーレートが小さいため、スピンドルモータ402が1回転又は整数倍回転するのを待って、再び第mセクタにアクセスされ、磁気ヘッド403内の磁界印加素子303(図3参照)を用いて、第mセクタ内の全てのビットパターンの垂直磁化極性が、Polarity=0に戻され(S509)、そのPolarity=0が、フラッシュメモリ409内の図6に示されるセクタ管理テーブル(第mセクタ)に、セクタ管理情報の一部である現在の極性(Current
Polarity setting)として記録される(S509−>S510)。
【0053】
その後、セクタ番号mがプラス1され(S511),次のセクタへのアクセスが行われる(S503−>S501)。
以上のようにして、BERをもとにエラー特性が良好な方に垂直磁化極性を変えることで、次に同じセクタが再生される際の再生特性を向上させることが可能となる。
【0054】
図7及び図8は、BPR−ROM媒体401上での極性配置例を示した図である。
図7は、隣接トラック702の再生トラック701側へのオフセット量が大きかったり、周囲のPolarity=0のビットパターンの形状等の影響により、再生トラック701上のビットパターン703は、Polarity=1に磁化されたほうがBERの特性が良好になることを示している。
【0055】
また、図8において、BPR−ROM媒体401において同心円上で区切られた各区画がセクタ領域を示しており、白い区画801はPolarity=0に磁化されているセクタ、黒い区間802はPolarity=1に磁化されているセクタを示している。
【0056】
このようにして、セクタによって極性が変えられることにより、「発明が解決しようとする課題」において説明したアシンメトリが改善される理由としては、次の2つのが考えられる。
【0057】
第1の理由としては、極性の反転により信号検出回路の非線形性とビットパターンによるアシンメトリが打ち消される場合があるからである。
また、第2の理由としては、実際に再生素子304(図3参照)が受ける磁界としては、周囲のビットパターンからの磁束の影響もあるため、該当セクタの極性を反転されることで、アシンメトリが低減される場合があるからである。
【0058】
上述した本発明の実施形態において、図9に示されるように、再生セクタ901に隣接する第1の隣接セクタ902及び第2の隣接セクタ903の極性情報も更に管理することで、再生特性の更なる改善を図ることが可能である。
【0059】
図10は、図4のフラッシュメモリ409に格納される、上記隣接セクタの極性も含めたセクタ管理情報が記録されるセクタ管理テーブルの例を示す。図10において、「Inner Adjacent Polarity」は、図9の再生セクタ901に対して内側の第1の隣接セクタ902の極性を示し、「Outer Adjacent Polarity」は、同じく外側の第2の隣接セクタ903の極性を示している。
【0060】
そもそも、「発明が解決しようとする課題」にて前述したBPR−ROM媒体の問題点の一つであるクロストーク現象は、隣接トラックからの影響によるものである。そこで、図10に示されるセクタ管理テーブルを管理しながら、各セクタごとに、隣接トラックの極性を変更しながらBERを判定することにより、再生特性を改善できる場合がある。
【0061】
図11は、隣接トラックの磁化状態が再生トラックに及ぼす影響を示す説明図である。隣接トラック1102の磁化状態により、磁束の流れ1103が発生し、再生トラック1101から再生素子304に流れ込む磁束の量が変化する。特に、図11に示されるように、隣接トラック1102が再生トラック1101に近づく方向にオフセット(オフトラック)して形成されている場合には、再生トラック1101に対して、隣接トラック1102の極性が逆にされることで、クロストークが抑制される場合がある。
【0062】
上述したようにして、セクタ毎の平均磁化状態とその際の再生特性、検出系のゲイン、オフセット等をセクタ管理情報として管理し、次にそのセクタを再生する際にそのセクタ管理情報を用いることで、大幅な再生特性の改善を図ることが可能となる。
【0063】
その際に、極性の反転により問題が発生する場合がある。それは、極性の反転位置で急激に信号出力が変化することにより、例えば図12の1201として示されるように、検出回路で信号の貼付き現象が生じてしまうことである。この貼付き現象とは、信号の変化が急激であるが故に、出力値が一瞬検出回路のダイナミックレンジを超えて飽和してしまい、再び正常な出力値に戻るまでに時間を要する現象である。
【0064】
この現象を避けるために、本発明の実施形態では、図13に示されるように、セクタ間にバッファ領域1301が設けられるとともに、極性の切り替えはバッファー領域のほぼ中心1302で行われる。
【0065】
更に、この実施形態では、図14に示されるように、磁気ヘッド403及びプリアンプ406(図4参照)からの信号の検出系として、第1の再生処理系1401と第2の再生処理系1402が設けられて、セクタの磁化極性に応じて、使用する再生処理系が選択される。その際、フラッシュメモリ409(図4参照)に格納されたセクタ管理情報により
、メインコントローラユニット407が、前述した図5の動作フローチャート等に基づいて、再生を行うセクタの再生処理系を、図14の1401及び1402の何れかより選択する。その際、選択しなかった他方の再生処理系に対しては、入力信号をホールドさせておくことで、図12で示した貼付き現象を回避することができる。
【0066】
図15は、図14に示される再生処理系の選択とホールドのタイミングを模式的に示した動作タイミング図である。第m−1セクタで極性(Polarity)が0であったものが、第mセクタで反転するにあたり、Read Channel 1=第1の再生処理系1401はバッファ領域に入るとともにホールドし(t1)、Read Channel 2=第2の再生処理系1402は、バッファ領域のほぼ中心(t2)を少し過ぎた位置で再生を開始する(t3)。これにより、再生信号の貼付き現象を回避できる。
【0067】
以上説明した実施形態に関して、更に以下の付記を開示する。
(付記1)
情報の記録ビットに応じて磁性体の有無が不連続に形成された記録層を用いたビットパターン記録媒体からの情報再生を行う方法であって、
前記ビットパターン記録媒体上の各セクタの平均磁化状態をセクタ管理情報として管理するステップと、
該セクタ管理情報に基づいてそれに対応する前記ビットパターン記録媒体上のセクタに対する情報再生条件を設定するステップと、
を含むことを特徴とするビットパターン記録媒体の情報再生方法。
(付記2)
情報の記録ビットに応じて磁性体の有無が不連続に形成された記録層を用いたビットパターン記録媒体からの情報再生を行う方法であって、
前記ビットパターン記録媒体上の各セクタの平均磁化方向を第1の磁化方向に磁化させた状態で該セクタの再生を行い、その再生特性を第1の再生特性として取得するステップと、
前記各セクタの平均磁化方向を前記第1の方向とは180度異なる第2の磁化方向に磁化させた状態で該セクタの再生を行い、その再生特性を第2の再生特性として取得するステップと、
前記ビットパターン記録媒体上の各セクタの平均磁化状態、前記第1の再生特性、及び前記第2の再生特性をセクタ管理情報として管理するステップと、
該セクタ管理情報に基づいてそれに対応する前記ビットパターン記録媒体上のセクタに対する情報再生条件を設定するステップと、
を含むことを特徴とするビットパターン記録媒体の情報再生方法。
(付記3)
前記ビットパターン記録媒体上の各セクタのうち、セクタエラーが発生するセクタについて、前記ビットパターン記録媒体上での該セクタの平均磁化方向を、該セクタに対応する前記セクタ管理情報に含まれる前記第1の再生特性及び前記第2の再生特性のうち再生特性が良いほうに対応する磁化方向に磁化させるステップを更に含む、
ことを特徴とする付記2に記載のビットパターン記録媒体の情報再生方法。
(付記4)
前記ビットパターン記録媒体上の各セクタ間にバッファ領域を設け、該各セクタ間での前記平均磁化方向の切替え時には、前記バッファ領域のほぼ中心位置で切り替えるステップを更に含む、
ことを特徴とする付記3に記載のビットパターン記録媒体の情報再生方法。
(付記5)
前記第1及び第2の再生特性は、前記ビットパターン記録媒体上の各セクタからの情報再生時におけるエラーレート値、再生アンプのゲイン値及びオフセット値を含む、
ことを特徴とする付記2乃至4の何れか1項に記載のビットパターン記録媒体の情報再
生方法。
(付記6)
前記ビットパターン記録媒体上の各セクタに対応する前記セクタ管理情報として、該セクタに対して前記ビットパターン記録媒体上のトラックに交差する方向に隣接するセクタの平均磁化状態を含む、
ことを特徴とする付記2乃至5の何れか1項に記載のビットパターン記録媒体の情報再生方法。
(付記7)
情報の記録ビットに応じて磁性体の有無が不連続に形成された記録層を用いたビットパターン記録媒体からの情報再生を行う装置であって、
前記ビットパターン記録媒体上の各セクタのビットパターンを指定された磁化方向で磁化する磁界印加手段と、
前記ビットパターン記録媒体上の各セクタのビットパターンの情報を再生する再生手段と、
前記ビットパターン記録媒体上の各セクタの平均磁化方向を前記磁界印加手段を介して第1の磁化方向に磁化させ、該磁化状態で前記再生手段を介して該セクタの再生を行い、その再生特性を第1の再生特性として取得すると共に、該セクタの平均磁化方向を前記磁界印加手段を介して前記第1の方向とは180度異なる第2の磁化方向に磁化させ、該磁化状態で前記再生手段を介して該セクタの再生を行い、その再生特性を第2の再生特性として取得するセクタ管理情報取得手段と、
前記ビットパターン記録媒体上の各セクタの平均磁化状態、前記第1の再生特性、及び前記第2の再生特性をセクタ管理情報として記憶するセクタ管理情報記憶手段と、
前記ビットパターン記録媒体上の各セクタのうち、セクタエラーが発生するセクタについて、前記ビットパターン記録媒体上での該セクタを、該セクタに対応する前記セクタ管理情報に含まれる前記第1の再生特性及び前記第2の再生特性のうち再生特性が良いほうに対応する磁化方向に前記磁界印加手段を介して磁化させる平均磁化方向制御手段と、
ことを特徴とするビットパターン記録媒体の情報再生装置。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】BPR媒体の断面構成図である。
【図2】BPR媒体の作製処理を示すフロー図である。
【図3】BPR再生ヘッドとBPR−ROM媒体との関係を示す構成図である。
【図4】本発明による情報再生装置の実施形態の構成図である。
【図5】セクタ管理情報の取得と設定の処理を示す動作フローチャートである。
【図6】セクタ管理テーブルの構成図である。
【図7】BPR−ROM媒体上の極性配置例を示した図(その1)である。
【図8】BPR−ROM媒体上の極性配置例を示した図(その2)である。
【図9】BPR−ROM媒体上の極性配置例を示した図(その3)である。
【図10】隣接セクタ情報を含むセクタ管理テーブルの構成図である。
【図11】隣接トラックの磁化状態が再生トラックに及ぼす影響を示す説明図である。
【図12】極性反転部の信号波形を示す図である。
【図13】バッファ領域を有するBPR−ROM媒体の構成図である。
【図14】バッファ領域制御を行う再生処理系の構成図である。
【図15】バッファ領域制御を行う再生処理系の動作タイミング図である。
【図16】ハードディスクの一般的な模式図である。
【図17】垂直磁気記録方式の模式図である。
【図18】BPR方式の模式図である。
【図19】BPR−ROMの模式図である。
【図20】再生波形におけるアシンメトリの説明図である。
【図21】再生波形におけるクロストークの説明図である。
【符号の説明】
【0069】
101 ガラス基板
102 下地層
103、1701 軟磁性裏打ち層
104 中間層
105 非磁性層
106 垂直磁気記録層
107 保護層
108 潤滑層
301、404、1605 サスペンション
302 スライダ
303 磁界印加素子
304、1706 再生素子
305、401 BPR−ROM媒体
402、1602 スピンドルモータ
403、1606 磁気ヘッド
405、1604 ボイスコイルモータ
406 プリアンプ
407 メインコントローラユニット
408 データバッファメモリ
409 フラッシュメモリ
410 サーボコントローラ
701、1101 再生トラック
702、1102 隣接トラック
703 Polarity1
704 Polarity0
801 Polarity0のセクタ
802 Polarity1のセクタ
901 再生セクタ
902 第1の隣接セクタ
903 第2の隣接セクタ
1103 磁束の流れ
1201 信号の貼付き現象
1301 バッファ領域
1401 第1の再生処理系
1402 第2の再生処理系
1403 復調回路
1601 ベース
1603 記録媒体
1607 制御回路
1702 磁性層
1703 主磁極
1704 リターンヨーク
1705 コイル
1707 記録磁界
1708 媒体進行方向
1801、1901 ビットパターン
2001 第1の出力振幅
2002 第2の出力振幅
2003 第1の出力中心≒第2の出力中心
2004 第1の出力中心
2005 第2の出力中心
2101 クロストーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
情報の記録ビットに応じて磁性体の有無が不連続に形成された記録層を用いたビットパターン記録媒体からの情報再生を行う方法であって、
前記ビットパターン記録媒体上の各セクタの平均磁化状態をセクタ管理情報として管理するステップと、
該セクタ管理情報に基づいてそれに対応する前記ビットパターン記録媒体上のセクタに対する情報再生条件を設定するステップと、
を含むことを特徴とするビットパターン記録媒体の情報再生方法。
【請求項2】
情報の記録ビットに応じて磁性体の有無が不連続に形成された記録層を用いたビットパターン記録媒体からの情報再生を行う方法であって、
前記ビットパターン記録媒体上の各セクタの平均磁化方向を第1の磁化方向に磁化させた状態で該セクタの再生を行い、その再生特性を第1の再生特性として取得するステップと、
前記各セクタの平均磁化方向を前記第1の方向とは180度異なる第2の磁化方向に磁化させた状態で該セクタの再生を行い、その再生特性を第2の再生特性として取得するステップと、
前記ビットパターン記録媒体上の各セクタの平均磁化状態、前記第1の再生特性、及び前記第2の再生特性をセクタ管理情報として管理するステップと、
該セクタ管理情報に基づいてそれに対応する前記ビットパターン記録媒体上のセクタに対する情報再生条件を設定するステップと、
を含むことを特徴とするビットパターン記録媒体の情報再生方法。
【請求項3】
前記ビットパターン記録媒体上の各セクタのうち、セクタエラーが発生するセクタについて、前記ビットパターン記録媒体上での該セクタの平均磁化方向を、該セクタに対応する前記セクタ管理情報に含まれる前記第1の再生特性及び前記第2の再生特性のうち再生特性が良いほうに対応する磁化方向に磁化させるステップを更に含む、
ことを特徴とする請求項2に記載のビットパターン記録媒体の情報再生方法。
【請求項4】
前記ビットパターン記録媒体上の各セクタ間にバッファ領域を設け、該各セクタ間での前記平均磁化方向の切替え時には、前記バッファ領域のほぼ中心位置で切り替えるステップを更に含む、
ことを特徴とする請求項3に記載のビットパターン記録媒体の情報再生方法。
【請求項5】
前記第1及び第2の再生特性は、前記ビットパターン記録媒体上の各セクタからの情報再生時におけるエラーレート値、再生アンプのゲイン値及びオフセット値を含む、
ことを特徴とする請求項2乃至4の何れか1項に記載のビットパターン記録媒体の情報再生方法。
【請求項6】
前記ビットパターン記録媒体上の各セクタに対応する前記セクタ管理情報として、該セクタに対して前記ビットパターン記録媒体上のトラックに交差する方向に隣接するセクタの平均磁化状態を含む、
ことを特徴とする請求項2乃至5の何れか1項に記載のビットパターン記録媒体の情報再生方法。
【請求項7】
情報の記録ビットに応じて磁性体の有無が不連続に形成された記録層を用いたビットパターン記録媒体からの情報再生を行う装置であって、
前記ビットパターン記録媒体上の各セクタのビットパターンを指定された磁化方向で磁化する磁界印加手段と、
前記ビットパターン記録媒体上の各セクタのビットパターンの情報を再生する再生手段と、
前記ビットパターン記録媒体上の各セクタの平均磁化方向を前記磁界印加手段を介して第1の磁化方向に磁化させ、該磁化状態で前記再生手段を介して該セクタの再生を行い、その再生特性を第1の再生特性として取得すると共に、該セクタの平均磁化方向を前記磁界印加手段を介して前記第1の方向とは180度異なる第2の磁化方向に磁化させ、該磁化状態で前記再生手段を介して該セクタの再生を行い、その再生特性を第2の再生特性として取得するセクタ管理情報取得手段と、
前記ビットパターン記録媒体上の各セクタの平均磁化状態、前記第1の再生特性、及び前記第2の再生特性をセクタ管理情報として記憶するセクタ管理情報記憶手段と、
前記ビットパターン記録媒体上の各セクタのうち、セクタエラーが発生するセクタについて、前記ビットパターン記録媒体上での該セクタを、該セクタに対応する前記セクタ管理情報に含まれる前記第1の再生特性及び前記第2の再生特性のうち再生特性が良いほうに対応する磁化方向に前記磁界印加手段を介して磁化させる平均磁化方向制御手段と、
ことを特徴とするビットパターン記録媒体の情報再生装置。

【図2】
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【図5】
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【図12】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図20】
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【図21】
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【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図13】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2009−187602(P2009−187602A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−23488(P2008−23488)
【出願日】平成20年2月4日(2008.2.4)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】