説明

ビニル系ポリマーの製造方法及びビニル系ポリマー

【課題】 二次凝集物やビニル系単量体の残存量が少ない、低分子量で末端二重結合量の多いビニル系ポリマーを得るための製造方法を提供する。
【解決手段】 コバルト錯体の存在下で、熱分解により発生するカルボキシル基含有化合物が有機過酸化物1molあたり0.07mol以下である有機過酸化物を重合開始剤として用いて、下記式を満足する条件でビニル系単量体を懸濁重合するビニル系ポリマーの製造方法。
0.0002<コバルト錯体量(mol)/有機過酸化物量(mol)<0.01・・・(2)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビニル系ポリマーの製造方法及びビニル系ポリマーに関する。
【背景技術】
【0002】
懸濁重合は、ビニル系ポリマーの重合方法の一つであって、粒子径が10〜1000μm程度のビニル系ポリマーを固形で製造する方法として、良く知られている。
【0003】
従来、懸濁重合により重量平均分子量が20000以下のビニル系ポリマーを製造する際には、開始剤やメルカプタン系の連鎖移動剤を多量に使用し、重合温度を媒体の沸点以上に加熱し、加圧下で重合する方法が一般的であった。
【0004】
しかしこの方法では、発熱制御が困難といった課題や、多量の開始剤や連鎖移動剤を使用するため、開始剤分解物や残存連鎖移動剤、あるいは残存ビニル系単量体由来の臭気、得られたビニル系ポリマーを塗料化した場合の塗膜性能の悪化といった課題があった。
【0005】
このため、重量平均分子量が20000以下のビニル系ポリマーを製造する方法として、特定のコバルト錯体を連鎖移動剤として用いる方法が知られている。また、この方法で得られるポリマーは、末端に不飽和二重結合を有しているためマクロモノマーとして使用できる。マクロモノマーの用途としては、他のビニル系単量体と共重合して得られたポリマーを、塗料、インキ、接着剤等に用いることができる。
【0006】
このような方法として、例えば特許文献1には、コバルト錯体とアゾ系の開始剤を用いて重量平均分子量が20000以下のビニル系ポリマーを製造する方法が記載されている。
【0007】
また、特許文献2には、コバルト錯体を連鎖移動剤として用いる際に、開始剤として過酸化物を用いることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭61−241302号公報
【特許文献2】特表平10−508333号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献1に記載の方法では、重合開始剤としてアゾ系の開始剤を用いているため、開始剤由来の窒素が原因となり、比重の軽いビニル系ポリマーや二次凝集物が多量に発生し、収率が著しく低下する課題があった。さらに、ビニル系ポリマー中に二次凝集物やビニル系単量体が残存し、臭気や塗料用途に用いた場合、塗膜にした際の外観が不十分であった。
【0010】
また、特許文献2に記載の方法では、開始剤から発生するカルボキシル基含有化合物によりコバルト錯体が分解、失活し、重量平均分子量が20000以下で末端二重結合量の多いポリマーを得ることができないという問題があった。
【0011】
本発明はこれらの問題点を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の要旨は、下記一般式(1)に記載のコバルト錯体の存在下で、熱分解により発生するカルボキシル基含有化合物量が有機過酸化物1molあたり0.07mol以下である有機過酸化物を重合開始剤として用いて、下記式(2)を満足する条件でビニル系単量体を懸濁重合するビニル系ポリマーの製造方法にある。
【0013】
【化2】

〔式(1)中、R1〜R4は、それぞれ独立して、アルキル基、シクロアルキル基及びアリール基;Xは、それぞれ独立して、F原子、Cl原子、Br原子、OH基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキル基及びアリール基〕
0.0002<コバルト錯体量(mol)/有機過酸化物量(mol)<0.01・・・(2)
【発明の効果】
【0014】
本発明の製造方法によれば、二次凝集物やビニル系単量体の残存量が少ない、重量平均分子量が20000以下で末端二重結合量の多いビニル系ポリマーが得られる。また、マクロモノマーとして、他のビニル系単量体と共重合させて得られるポリマーを塗料用樹脂として用いた場合、密着性、塗膜外観、塗膜着色、塗膜硬度、加工性に優れた塗膜が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明において使用されるコバルト錯体としては、式(1)に示されるコバルト錯体が使用でき、例えば、特許第3587530号公報、特公平6−23209号公報、特公平7−35411号公報、USP45269945号公報、USP4694054、USP4837326号公報、USP4886861号公報、USP5324879号公報、WO95/17435号公報、特表平9−510499号公報等に記載されているものを使用することができる。
【0016】
【化3】

〔式(1)中、R1〜R4は、それぞれ独立して、アルキル基、シクロアルキル基及びアリール基;Xは、それぞれ独立して、F原子、Cl原子、Br原子、OH基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキル基及びアリール基〕
具体的には、ビス(ボロンジフルオロジメチルジオキシイミノシクロヘキサン)コバルト(II)、ビス(ボロンジフルオロジメチルグリオキシメイト)コバルト(II)、ビス(ボロンジフルオロジフェニルグリオキシメイト)コバルト(II)、ビシナルイミノヒドロキシイミノ化合物のコバルト(II)錯体、テトラアザテトラアルキルシクロテトラデカテトラエンのコバルト(II)錯体、N,N’−ビス(サリチリデン)エチレンジアミノコバルト(II)錯体、ジアルキルジアザジオキソジアルキルドデカジエンのコバルト(II)錯体、コバルト(II)ポルフィリン錯体などがあげられる。
【0017】
これらは一種以上を適宜選択して使用することができる。中でも、水性媒体中に安定に存在し、連鎖移動効果が高いビス(ボロンジフルオロジフェニルグリオキシメイト)コバルト(II)(R1〜R4:フェニル基、X:F原子)が好ましい。
【0018】
コバルト錯体の使用量は、ビニル系単量体100gに対し20から350ppmが好ましい。コバルト錯体の使用量が20ppm未満であれば分子量の低下が不十分となりやすく、350を超えると得られるビニル系ポリマーが着色しやすい。
【0019】
本発明で用いる重合開始剤は、熱分解により発生するカルボキシル基含有化合物量が有機過酸化物1molあたり0.07mol以下である有機過酸化物を用いる。
【0020】
熱分解により発生するカルボキシル基含有化合物量が有機過酸化物1molあたり0.07mol以下であれば、コバルト錯体が有機過酸化物の熱分解により発生するカルボキシル基含有化合物により分解、失活することがなく、重量平均分子量が20000以下で末端二重結合量の多いポリマーを得ることができる。
【0021】
なお、重合開始剤から熱分解により発生するカルボキシル基含有化合物量は、以下の方法で測定を行う。
【0022】
撹拌機、冷却管、温度計を備えた装置中に、キシレン95部、有機過酸化物5部を入れて撹拌し、装置内を窒素置換しながら、100℃に昇温した。100℃に到達後、溶液を100℃で3時間保持した後、室温に冷却し、溶液を得た。
【0023】
得られた溶液1μlを使用して、50℃から240℃に10℃/minで昇温させながら、流量20ml/minで測定を行い、発生したカルボキシル基含有化合物の量を測定し、有機過酸化物1molから発生するカルボキシル基含有化合物の量を求めた。
【0024】
ガスクロマトグラフィー(GC)は「Agilent 6890N」(商品名、アジレント・テクノロジー株式会社製)を用い、カラムは、J&W DB−FFAP(商品名、アジレント・テクノロジー株式会社製)を使用した。また、検量線は、TSK標準ポリスチレンF288/F80/F40/F10/F4/F1/A5000/A1000/A500(商品名、東ソー株式会社製)及びスチレンを使用して作成した。
【0025】
本発明の有機過酸化物としては、
1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート、t−ヘキシルパーオキシ2−エチルヘキサノエート、t−アミルパーオキシ2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート、クミルパーオキシネオデカノエート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート、t−ヘキシルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシネオヘプタノエート、t−ヘキシルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシピバレート、ジ−t−ブチルパーオキシヘキサヒドロフタレート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(2−エチルヘキサノイルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(2−ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシラウレート、t−ヘキシルパーオキシベンゾアート、ジ(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシカーボネート、ジ(2−エチルヘキシル)パーオキシカーボネート、ジーn−プロピルパーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−3−メトキシブチルパーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルモノカーボネート、t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネートなどが挙げられる。
【0026】
なお、連鎖移動定数が高く、10時間半減期温度で懸濁重合をする際に、重合温度制御が容易であるという点で1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート、t−ヘキシルパーオキシ2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエートが好ましい。
【0027】
また本発明では、コバルト錯体量と有機過酸化物量が、式(2)を満足することが必要である。
0.0002<コバルト錯体量(mol)/有機過酸化物量(mol)<0.01・・・(2)
コバルト錯体量(mol)/有機過酸化物量(mol)が0.0002より多い場合、ビニル系ポリマーの末端二重結合量が多くなり、本発明のビニル系ポリマーをマクロモノマーとして用いて得られた塗料の塗膜の密着性が向上する。
【0028】
また、コバルト錯体量(mol)/有機過酸化物量(mol)が0.01より少ない場合、ビニル系ポリマーが着色せず、重合収率が高く、残存ビニル系単量体も減少する。
【0029】
コバルト錯体量(mol)/有機過酸化物量(mol)は、0.0004以上が好ましく、0.009以下が好ましい。
【0030】
また、同じ開始剤量でより分子量を低下させるためには、連鎖移動効果が高いことが好ましい。連鎖移動効果は、それぞれの開始剤を使用した際の連鎖移動定数Csを求めることによって定量的に表すことができる。
すなわち、
1/DPn=1/DPn,0+Cs〔Co(II)〕/〔M〕・・・式(3)
Dpn:連鎖移動剤存在下の重合で生成するビニル系ポリマーの重合度
Dpn,0:連鎖移動剤不存在下の重合で生成するビニル系ポリマーの重合度
Cs:連鎖移動定数
〔Co(II)〕/〔M〕:仕込みのコバルト錯体とビニル系単量体のmol比
(参考:ラジカル重合ハンドブック、蒲池幹治他監修、1999年、ティー・エヌ・エス株式会社出版、p38〜48)
式(3)により求められる連鎖移動定数Csが大きいほど、同じ開始剤量であってもより分子量を低下させることができる。好ましくはCsが2000以上であり、より好ましくは3000以上である。
【0031】
本発明のビニル系単量体としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−ラウリル(メタ)アクリレート、n−ステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、グリセロール(メタ)アクリレート等の水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシプロピルヘキサヒドロフタル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフタル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシプロピルフタル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルマレイン酸、2−(メタ)アクリロイルオキシプロピルマレイン酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルコハク酸、2−(メタ)アクリロイルオキシプロピルコハク酸、クロトン酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、マレイン酸モノメチル、イタコン酸モノメチル等のカルボキシル基含有ビニル系単量体;無水マレイン酸、無水イタコン酸等の酸無水物基含有ビニル系単量体;(メタ)アクリル酸グリシジル、α−エチルアクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸3,4−エポキシブチル等のエポキシ基含有ビニル系単量体;ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のアミノ基含有(メタ)アクリル酸エステル系のビニル系単量体;(メタ)アクリルアミド、N−t−ブチル(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、ダイアセトンアクリルアミド、マレイン酸アミド、マレイミド等のアミド基を含有するビニル系単量体;スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、(メタ)アクリロニトリル、塩化ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニル系単量体ジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、N,N’−メチレンビス(メタ)アクリルアミド等の多官能性のビニル系単量体;などが挙げられる。これらは、1種以上を適宜選択して使用することができる。
【0032】
なお、「(メタ)アクリレート」は「アクリレート及び/またはメタクリレート」を意味し、「(メタ)アクリル酸」は「アクリル酸及び/またはメタクリル酸」を意味し、「(メタ)アクリロイル」は「アクリロイル及び/またはメタクリロイル」を意味し、「(メタ)アクリロニトリル」は「アクリロニトリル及び/またはメタクリロニトリル」を意味し、「(メタ)アクリルアミド」は「アクリルアミド及び/またはメタクリルアミド」を意味する。
【0033】
本発明では、懸濁重合は公知の方法で行えばよく、分散剤を含む水にビニル系単量体、連鎖移動剤、重合開始剤を添加し、懸濁化させ、その水性懸濁液を加熱することにより重合反応を進行させ、重合後の水性懸濁液を濾過、洗浄、脱水、乾燥する。
【0034】
分散剤としては、例えば、ポリ(メタ)アクリル酸アルカリ金属塩、(メタ)アクリル酸と(メタ)アクリル酸メチルの共重合物のアルカリ金属塩、ケン化度70〜100%のポリビニルアルコール、メチルセルロース等が使用できる。
【0035】
分散剤の量は、水性懸濁液中0.005〜5質量%であることが好ましく、0.01〜1質量%の範囲内であることが更に好ましい。分散剤の使用量が0.005質量%以上であると、懸濁重合液の分散安定性が良好であり、得られるビニル系ポリマーの洗浄性、脱水性、乾燥性及び流動性が良好となる傾向にある。 また、5質量%以下の場合に、重合時の泡立ちが少なく、重合安定性が良好となる傾向にある。なお、水性懸濁液の分散安定性向上を目的として、炭酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、硫酸マンガン等の電解質を使用しても良い。
【0036】
また重合温度は、重合開始剤の10時間半減期温度T℃として、重合温度がT−10℃以上、130℃以下であることが好ましい。重合温度がT−10℃以上である場合、重合開始剤である過酸化物量を低減させ、発生する酸化合物の量を低減させ、ビニル系ポリマーの末端二重結合量を増加させる傾向にある。また、比較的短時間で重合を終了させることができ、懸濁重合時に分散安定性が良好となる傾向にある。また、130℃以下である場合に、重合発熱が緩和され、重合温度制御が容易となる傾向にある。
【0037】
本発明の製造方法により得られるビニル系ポリマーは、低分子量であるため、有機溶剤やビニル系単量体に高濃度で溶解しても、低粘度を保持し、塗装性に優れるため、塗料用樹脂として、低VOCの環境配慮型塗料に適応可能である。
【0038】
本発明のビニル系ポリマーを含む塗料用樹脂組成物は、公知の方法で製造でき、必要に応じて着色剤、充填剤、顔料分散剤、ゲル化防止剤、酸化防止剤、ラジカル捕捉剤、光安定剤、紫外線吸収剤、レベリング剤、ハジキ防止剤、垂止め剤、表面調整剤、ワックス、硬化触媒等の各種添加剤を添加できる。さらに、その他の樹脂成分、光反応性単量体、オリゴマー等を添加することもできる。
【0039】
また本発明のビニル系ポリマーは、末端二重結合を有しているので、マクロモノマーとしてビニル系単量体と共重合させ、グラフト共重合体を得ることができる。共重合の方法は懸濁重合、溶液重合、塊状重合、乳化重合、微細懸濁重合等の公知の方法で行えばよい。
例えば、懸濁重合法の場合、ビニル系ポリマーをビニル系単量体に溶解させ、公知の方法で懸濁重合させることができる。また、溶液重合を実施する場合、ビニル系ポリマーをビニル系単量体と溶媒に溶解させ、公知の方法で溶液重合させることができる。使用する溶媒としては特に限定されず、ラジカル重合において一般的に使用されている溶媒を使用することができる。
【0040】
共重合するビニル系単量体としては、前記の本発明のビニル系ポリマーの単量体として挙げたものが使用できる。
【0041】
またマクロモノマーとして用いる場合、本発明により製造されるビニル系ポリマーの末端二重結合の含有量は、1ポリマー鎖あたり、0.7個以上が好ましく、0.8個以上であることが更に好ましい。末端二重結合の含有量が0.7個以上のとき、ビニル系単量体との共重合量が高く、共重合させて得られるポリマーを塗料用樹脂としてもちいた場合、密着性、塗膜外観、塗膜硬度、加工性に優れた塗膜が得られる。
【0042】
なお末端二重結合の含有量は、核磁気共鳴装置(NMR)「EXcalibur 270 超伝導FT−NMR」(商品名、日本電子製)を用いて測定した。得られたビニル系ポリマーを重水素化されたクロロホルムに溶解し、25℃で測定し、1ポリマー鎖あたりの末端二重結合量を算出した。
【0043】
本発明により製造されるビニル系ポリマーの重量平均分子(Mw)は、1000〜20000の範囲内が好ましく、より好ましくは、1000〜10000の範囲内である。ビニル系ポリマーのMwが1000以上であると、マクロモノマーとして用いた場合、重合安定性が良好となり、重合収率が向上する。ビニル系ポリマーのMwが20000以下であると、末端二重結合の反応性が向上する。
【0044】
また本発明により製造されるビニル系ポリマーのMw/Mn(重量平均分子量/数平均分子量)は、有機溶剤型塗料用樹脂として使用する場合、ビニル系ポリマーのMw/Mnが4以下であることが好ましく、3以下であることが更に好ましい。ビニル系ポリマーのMw/Mnが4以下である場合、種々の溶剤に対する溶解性が向上する傾向にある。
【実施例】
【0045】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。なお、以下において「部」は「質量部」を表す。また、本実施例及び比較例における各物性の測定及び評価は以下の方法で行った。
【0046】
(1)収率
得られた正常なビニル系ポリマーの質量を測定し、収率(%)を下記式(4)より算出した。なお、正常なビニル系ポリマーとは、正味の質量を意味し、重合中に重合装置に付着した凝集物や、空気を含んだ二次凝集物等を除いたものである。
収率(%)=正常なビニル系ポリマーの質量(g)/仕込みのビニル系単量体の質量(g)×100・・・(4)
(2)ガードナー色数
得られたビニル系ポリマー10gをガードナー試験管にとり、JIS K 5600に準拠して、ガードナー色数標準液と比色することにより測定した。
【0047】
(3)分子量(Mw、Mn及びMw/Mn)
ゲル透過クロマトグラフィー(GPC)「HLC−8120」(商品名、東ソー株式会社製)を用いて測定した。カラムは、TSKgel G5000HXL*GMHXL−L(商品名、東ソー株式会社製)を使用した。また、検量線は、TSK標準ポリスチレンF288/F80/F40/F10/F4/F1/A5000/A1000/A500(商品名、東ソー株式会社製)及びスチレンを使用して作成した。
得られたビニル系ポリマーをテトラヒドロフラン(THF)に0.4質量%になるように溶解した溶液100μlを使用して、40℃で測定を行った。標準ポリスチレン換算にて重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、重量平均分子量/数平均分子
量(Mw/Mn)を算出した。
【0048】
(4)連鎖移動定数
(3)で得られた分子量測定結果を元に、(式4)からそれぞれの開始剤を使用した際の連鎖移動定数Csを求めた。
1/DPn=1/DPn,0+Cs〔Co(II)〕/〔M〕・・・(式4)
Dpn:連鎖移動剤存在下の重合で生成するビニル系ポリマーの重合度
Dpn,0:連鎖移動剤不存在下の重合で生成するビニル系ポリマーの重合度
Cs:連鎖移動定数
〔Co(II)〕/〔M〕:仕込みのCo錯体とビニル系単量体のmol比
なお、本願ではそれぞれの開始剤につき、1/DPnと〔Co(II)〕/〔M〕の値をプロットし、その傾きからCsを求めた。
【0049】
(5)カルボキシル基含有化合物の発生量
撹拌機、冷却管、温度計を備えた装置中に、キシレン95部、有機過酸化物5部を入れて撹拌し、装置内を窒素置換しながら、100℃に昇温した。100℃に到達後、溶液を100℃で3時間保持した後、室温に冷却し、溶液を得た。
【0050】
得られた溶液1μlを使用して、50℃から240℃に10℃/minで昇温させながら、流量20ml/minで測定を行い、発生したカルボキシル基含有化合物の量を測定し、有機過酸化物1molから発生するカルボキシル基含有化合物の量を求めた。
【0051】
ガスクロマトグラフィー(GC)は「Agilent 6890N」(商品名、アジレント・テクノロジー株式会社製)を用い、カラムは、J&W DB−FFAP(商品名、アジレント・テクノロジー株式会社製)を使用した。また、検量線は、TSK標準ポリスチレンF288/F80/F40/F10/F4/F1/A5000/A1000/A500(商品名、東ソー株式会社製)及びスチレンを使用して作成した。
【0052】
(6)末端二重結合の量
核磁気共鳴装置(NMR)「EXcalibur 270 超伝導FT−NMR」(商品名、日本電子製)を用いて測定した。得られたビニル系ポリマーを重水素化されたクロロホルムに溶解し、25℃で測定し、1ポリマー鎖あたりの末端二重結合量を算出した。
【0053】
(7)残存ビニル系単量体量
高速液体クロマトグラフィー(HPLC)「Agilent 1200SL HPLC」(商品名、アジレント・テクノロジー株式会社製)を用いて測定を行った。カラムは、Develogil ODS−5(商品名、野村化学株式会社製)を使用した。
得られたビニル系ポリマーをTHFに溶解させた溶液5μlを使用して、40℃で測定を行った。
【0054】
<塗膜物性評価>
得られたビニル系ポリマーの塗膜物性は、以下の方法で行った。
【0055】
撹拌機、冷却管、温度計を備えた重合装置中に、脱イオン水145部、硫酸ナトリウム0.1部及び分散剤1(固形分10質量%)0.25部を入れて撹拌し、均一な水溶液とした。次に、得られたビニル系ポリマー50部、n−ブチルアクリレート100部、ラウロイルパーオキサイド0.5部を加え、水性懸濁液とした。
【0056】
次に、重合装置内を窒素置換し、80℃に昇温して約1時間反応し、さらに重合率を上げるため、後処理温度として90℃に昇温して1時間保持した。その後、反応液を40℃に冷却して水性懸濁液を得た。この水性懸濁液を目開き45μmのナイロン製濾過布で濾過し、濾過物を脱イオン水で洗浄し、脱水し、40℃で16時間乾燥して、共重合ポリマーを得た。
【0057】
得られた共重合ポリマー50部をトルエン50部に溶解し、ABS板上にバーコーターNo.20で塗布し、室温で0.5時間保持した後、80℃で1時間加熱をして塗膜を得た。塗膜密着性、塗膜外観、塗膜硬度について評価した。更に、PET製フィルムにバーコーターNo.14で塗布し、室温で0.5時間保持した後、60℃で1時間加熱をして塗膜を得た後、加工性について評価した。各評価方法は以下示す方法で行った。
【0058】
(8)密着性
塗膜の密着性について、JIS K 5600−5−6:1999に準じたクロスカット法により測定し、下記基準にて判定した。
「○」:剥離面積が全体の5%未満。
「△」:剥離面積が全体の5%以上、30%未満。
「×」:剥離面積が全体の30%以上。
【0059】
(9)塗膜外観
試験板の塗膜表面を目視観察し、下記基準にて判定した。
「○」:つやむら、ブツに異常がないもの。
「×」:つやむら、ブツの何れかに異常があるもの。
【0060】
(10)塗膜着色
試験板の塗膜表面を目視観察し、下記基準にて判定した。
「○」:無色に近い。
「△」:黄色味がある。
「×」:かなり黄色味がある。
【0061】
(11)塗膜硬度
塗膜の鉛筆硬度をJIS K 5600−5−4:1999に準じた手かき法により測定した。鉛筆硬度は、B以上を合格とし、2B以下を不合格とした。
【0062】
(12)加工性
PET製フィルムにバーコーターNo.14で塗布し、室温で0.5時間保持した後、60℃で1時間加熱をして塗膜を得た後、試験片(10mm×10mm×0.5mm)を180℃に曲げたときの塗膜の割れを観察した。
「○」:割れない
「×」:割れる
<分散剤1の製造>
撹拌機、冷却管、温度計を備えた重合装置中に、脱イオン水900部、メタクリル酸2−スルホエチルナトリウム60部、メタクリル酸カリウム10部及びメチルメタクリレート12部を入れて撹拌し、重合装置内を窒素置換しながら、50℃に昇温した。その中に、重合開始剤として2,2'−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩0.08部を添加し、更に60℃に昇温した。昇温後、滴下ポンプを使用して、メチルメタクリレートを0.24部/分の速度で75分間連続的に滴下した。反応溶液を60℃で6時間
保持した後、室温に冷却して、透明な水溶液である固形分10質量%の分散剤1を得た。
<連鎖移動剤1の製造>
撹拌装置を備えた合成装置中に、窒素雰囲気下で、酢酸コバルト(II)四水和物1.00gおよびジフェニルグリオキシム1.93g、あらかじめ窒素バブリングにより脱酸素したジエチルエーテル80mlを入れ、室温で30分間攪拌した。ついで、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体10mlを加え、さらに6時間攪拌した。混合物をろ過し、固体をジエチルエーテルで洗浄し、15時間真空乾燥して、赤褐色固体である連鎖移動剤1を2.12g得た。
【0063】
(実施例1)
撹拌機、冷却管、温度計を備えた重合装置中に、脱イオン水145g、硫酸ナトリウム0.1g及び分散剤1(固形分10質量%)0.25gを入れて撹拌し、均一な水溶液とした。次に、メチルメタクリレートを100g、連鎖移動剤1を0.008g(ビニル系単量体100gに対し80ppm)及び1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート(カルボキシル基含有化合物の発生量:0.031mol)0.004molを加え、水性懸濁液とした。
【0064】
次に、重合装置内を窒素置換し、80℃に昇温して約1時間反応し、さらに重合率を上げるため、後処理温度として90℃に昇温して1時間保持した。その後、反応液を40℃に冷却して、ポリマーを含む水性懸濁液を得た。この水性懸濁液を目開き45μmのナイロン製濾過布で濾過し、濾過物を脱イオン水で洗浄し、脱水し、40℃で16時間乾燥して、ビニル系ポリマーを得た。このビニル系ポリマーは、Mw4700、Mn=2000、Mw/Mn2.4であった。評価結果を表1に示す。
【0065】
(実施例2〜11、比較例1〜7)
重合開始剤の種類、添加量、単量体組成を表1に示されるものとしたこと以外は、実施例1と同様にしてビニル系ポリマーを得た。評価結果を表1に示す。
【0066】
(実施例12)
撹拌機、冷却管、温度計を備えた重合装置中に、脱イオン水145g、硫酸ナトリウム0.1g及び分散剤1(固形分10質量%)0.25gを入れて撹拌し、均一な水溶液とした。次に、メチルメタクリレートを100g、連鎖移動剤1を0.01g及び1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエートカルボキシル基含有化合物の発生量:0.031mol)0.005molを加え、水性懸濁液とした。
【0067】
次に、重合装置内を窒素置換し、80℃に昇温して約1時間反応し、さらに重合率を上げるため、後処理温度として90℃に昇温して1時間保持した。その後、反応液を40℃に冷却して、ポリマーを含む水性懸濁液を得た。この水性懸濁液を目開き45μmのナイロン製濾過布で濾過し、濾過物を脱イオン水で洗浄し、脱水し、40℃で16時間乾燥して、ビニル系ポリマーを得た。このビニル系ポリマーは、末端二重結合の量は1、Mw3200、Mn=1600、Mw/Mn2.0であった。
次に、得られたビニル系ポリマーとn−ブチルアクリレートの共重合を行った。撹拌機、冷却管、温度計を備えた重合装置中に、脱イオン水145部、硫酸ナトリウム0.1部及び分散剤1(固形分10質量%)0.25部を入れて撹拌し、均一な水溶液とした。次に、得られたビニル系ポリマー50部、n−ブチルアクリレート50部、ラウロイルパーオキサイド0.5部を加え、水性懸濁液とした。次に、重合装置内を窒素置換し、80℃に昇温して約1時間反応し、さらに重合率を上げるため、後処理温度として90℃に昇温して1時間保持した。その後、反応液を40℃に冷却して、ポリマーを含む水性懸濁液を得た。この水性懸濁液を目開き45μmのナイロン製濾過布で濾過し、濾過物を脱イオン水で洗浄し、脱水し、40℃で16時間乾燥して、共重合体を得た。
得られた共重合体50部をトルエン50部に溶解し、ABS板上にバーコーターNo.20で塗布し、室温で0.5時間保持した後、80℃で1時間加熱をして塗膜を得た。塗膜密着性、塗膜外観、塗膜硬度について評価した。更に、PET製フィルムにバーコーターNo.14で塗布し、室温で0.5時間保持した後、60℃で1時間加熱をして塗膜を得た後、加工性について評価した。評価結果を表2に示す。
【0068】
(実施例13,14)
ビニル系ポリマーと共重合する単量体の種類を表2に示すように変更した以外は、実施例12と同様に重合を行った。評価結果を表2に示す。
【0069】
【表1】

【0070】
【表2】

なお、表中の記号は以下の通りである。
MMA:メチルメタアクリレート
i−BMA:i−ブチルメタアクリレート
n−BA:n−ブチルアクリレート
EHA:エチルヘキシルアクリレート
パーオクタO:1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート(日本油脂株式会社製、10時間半減期温度65.3℃)(カルボキシル基含有化合物の発生量:0.031mol)
パーヘキシルO:t−ヘキシルパーオキシ2−エチルヘキサノエート(日本油脂株式会社製、10時間半減期温度69.9℃)(カルボキシル基含有化合物の発生量:0.022mol)
パーブチルO:t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート(日本油脂株式会社製、10時間半減期温度72.1℃)(カルボキシル基含有化合物の発生量:0.003mol)
LPO:ラウロイルパーオキサイド(10時間半減期温度61.6℃)(カルボキシル基含有化合物の発生量:0.1mol)
BPO:ベンゾイルパーオキサイド(10時間半減期温度73.6℃)(カルボキシル基含有化合物の発生量:0.45mol)
AIBN:2,2'−アゾビスイソブチロニトリル(10時間半減期温度65℃)
比較例1では、コバルト錯体と重合開始剤のモル比が高いため、ビニル系ポリマーの収率が低く、着色に課題があり、残存ビニル系単量体量が高く、更に共重合体による塗膜の塗膜外観、塗膜着色が悪く、塗膜硬度が低くなった。
【0071】
比較例2では、コバルト錯体と重合開始剤のモル比が低いため、ビニル系ポリマーの末端二重結合量が低く、更に共重合体による塗膜の加工性に課題があった。
【0072】
比較例3では、コバルト錯体と重合開始剤のモル比が高いため、ビニル系ポリマーの収率が低く、着色に課題があり、残存ビニル系単量体量が高く、更に得られたビニル系ポリマーをマクロモノマーとして使用した共重合体による塗膜の塗膜外観、塗膜着色が悪く、塗膜硬度が低くなった。
【0073】
比較例4では、コバルト錯体と重合開始剤のモル比が低いため、ビニル系ポリマーの末端二重結合量が低く、更に得られたビニル系ポリマーをマクロモノマーとして使用した共重合体による塗膜の加工性に課題があった。
【0074】
比較例5では、カルボキシル基含有化合物の発生量が高い開始剤を使用しているため、ビニル系ポリマーの分子量が高く、末端二重結合量が低く、着色に課題があり、更に得られたビニル系ポリマーをマクロモノマーとして使用した共重合体による塗膜の密着性、塗膜着色が悪く、塗膜硬度が低く、加工性に課題があった。
【0075】
比較例6では、カルボキシル基含有化合物の発生量が高い開始剤を使用しているため、ビニル系ポリマーの末端二重結合量が低く、着色に課題があり、更に得られたビニル系ポリマーをマクロモノマーとして使用した共重合体による塗膜の塗膜着色が悪く、加工性に課題があった。
【0076】
比較例7では、アゾ系重合開始剤を使用しているため、ビニル系ポリマーの収率が低く、残存ビニル系単量体量が高く、更に得られたビニル系ポリマーをマクロモノマーとして使用した共重合体による塗膜の塗膜外観が不良であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)に記載のコバルト錯体の存在下で、
熱分解により発生するカルボキシル基含有化合物量が有機過酸化物1molあたり0.07mol以下である有機過酸化物を重合開始剤として用いて、
下記式(2)を満足する条件でビニル系単量体を懸濁重合するビニル系ポリマーの製造方法。
【化1】

〔式(1)中、R1〜R4は、それぞれ独立して、アルキル基、シクロアルキル基及びアリール基;Xは、それぞれ独立して、F原子、Cl原子、Br原子、OH基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキル基及びアリール基〕
0.0002<コバルト錯体量(mol)/有機過酸化物量(mol)<0.01・・・(2)
【請求項2】
請求項1記載の製造方法により得られる末端二重結合を有するビニル系ポリマー。
【請求項3】
請求項2記載の末端二重結合を有するビニル系ポリマーとビニル系単量体を共重合するビニル系ポリマーの製造方法。
【請求項4】
請求項3記載の製造方法により得られるビニル系ポリマー。