説明

ビフェニルテトラカルボン酸二無水物及びその製造方法、並びにこれを用いたポリイミド及びその製造方法

【課題】
高純度を維持しながら高生産性が達成されるBPDAの製造方法の提供。
【解決手段】
ビフェニルテトラカルボン酸を加熱処理してビフェニルテトラカルボン酸二無水物を製造するにあたり、前記加熱処理を、1×10Pa〜1.1×10Paの圧力下において、最高到達温度を210℃〜250℃の範囲内とし、60℃から210℃まで昇温する時間の1/4以上で昇温速度を50℃/hrより大きくし、かつ150℃〜250℃に0.5時間以上10時間以下保持することにより行う、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(以下BPDAと言う。)及びその製造方法、並びにこれを用いたポリイミド及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
BPDAは、耐熱性樹脂として注目されている芳香族ポリイミドの製造用原料として、有用な化合物である。BPDAを用いた芳香族ポリイミドは、BPDAと芳香族ジアミンとの重合反応によって製造する方法、BPDAと芳香族ジアミンの常温付近の低温での重合によって得られるポリアミック酸を閉環イミド化する方法、のいずれかによって製造することができる。
【0003】
BPDAは、ビフェニルテトラカルボン酸(以下BTCと言う。)を、窒素雰囲気下、常圧〜40mmHgの減圧下、100〜500℃に加熱し、脱水閉環反応させることによって得ることができる(特許文献1参照)が、芳香族ポリイミドを製造した場合、粘度が十分上がらない問題を検討した結果、製品に混在するビフェニルトリカルボン酸及び/又はその無水物(以下「トリ体」と言う。)を原因として捉え、この問題を解決するための手段として、BTCの加熱を特定条件下で行うことによって、トリ体の含有量が0.2重量%未満まで減少したBPDAを得る方法が提案されている(特許文献2参照)。
【0004】
すなわち、この提案は、BTCの結晶を、不活性気体の雰囲気下、250℃以上の無水化温度で加熱処理することにより無水化して、BPDAを生成させる際に、80℃から無水化温度にまで昇温する間の前加熱処理を、平均昇温速度が50℃/時間より高くならないようにしておこなって、前記結晶に付着している付着水および結晶水を除去し、続いて、前記加熱処理がなされた結晶を、250〜300℃の無水化温度で、少なくとも3時間加熱処理して無水化することを特徴とした。また、この提案は、上記特定条件での加熱を実現するために、加圧水蒸気または耐熱性熱媒体を流通することのできる空隙部が内部に形成されている水平回転軸の回転羽を有するディスク型攪拌装置を内蔵し、加圧水蒸気または耐熱性熱媒体を流通するためのジャケットで外壁がほぼ覆われている反応槽(乾燥機)を採用することをも提案している。
【0005】
しかし、特許文献2の実施例1〜3においても明らかなとおり、確かに、トリ体含有量0.06〜0.07重量%という、高純度のBPDAを得てはいるが、前加熱処理の所要時間だけでも9時間を超える長時間を要しており、脱水閉環反応に要する時間を加えるとさらに長時間を要することから、高純度を維持しながらプロセスの生産性を上げる解決策が、要望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公昭47−15098号公報
【特許文献2】特公平7−62013号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記要望に鑑み、本発明は、高純度を維持しながらプロセスの生産性を上げることのできるBPDAの製造方法、BPDA、並びにこれを用いたポリイミド及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、所定の加熱処理条件下で脱水反応させることにより高生産性を維持しながら高純度を達成できBPDAの着色を抑制できることを見出した。また所定の形状の中空回転加熱体群を適切に配置し、中空回転軸に固定した加熱装置を、加熱処理及び脱水反応に使用することにより、高生産性を維持しながら高純度を達成されることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
本発明の要旨とするところは、ビフェニルテトラカルボン酸を加熱処理してビフェニルテトラカルボン酸二無水物を製造するにあたり、前記加熱処理を、1×10Pa〜1.1×10Paの圧力下において、最高到達温度を210℃〜250℃の範囲内とし、60℃から210℃まで昇温する時間の1/4以上で昇温速度を50℃/hrより大きくし、かつ150℃〜250℃に0.5時間以上10時間以下保持することにより行うことを特徴とするビフェニルテトラカルボン酸二無水物の製造方法にある。
【0010】
一般にビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)は化合物名であるが、本発明においては、表記を簡潔にするため、実質的にビフェニルテトラカルボン酸二無水物からなり他の物質を微量含有するような結晶も、単にビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)と称する。
【0011】
本発明においては、加熱処理に続いて昇華精製処理を行うことが好ましく、その温度は250℃以上であることが好ましい。
【0012】
そして、昇華精製処理を行って得られたビフェニルテトラカルボン酸二無水物は、2規定のNaOH水溶液に0.05g/mLの濃度に溶解して得られた溶液の波長400nmの光透過率が90%以上であることが望ましい。より望ましくは光透過率が98%以上である。更に望ましくは、パラジウム含有量が0.2重量ppm以下である。
【0013】
また、好ましくはBTCからBPDAへの転換率が99%以上である。
【0014】
本発明の別の要旨は、ビフェニルテトラカルボン酸を、加熱処理してビフェニルテトラカルボン酸二無水物を製造するにあたり、前記加熱処理を、複数の中空回転加熱体が設けられた中空回転軸を内蔵し、かつ、加温された加熱媒体を、該回転軸の中空部を経て該回転加熱体の中空部に、また必要に応じ装備される加熱用ジャケットにも送給することにより、反応に必要な熱量をこれら回転軸、回転加熱体及び必要に応じ加熱用ジャケットの各表面からの伝熱により供給可能な、加熱装置であって、該中空回転加熱体は、側面から見ると楔形の形状を有し、正面から見るとほぼ扇状の形状を有し、扇の要部分で中空回転軸に固定されており、しかも、該加熱装置の一端から原料ビフェニルテトラカルボン酸粉粒体を連続的に供給し、該粉粒体を回転している中空回転加熱体と接触させて加熱しつつ、該加熱装置内を軸方向に移送させる間に、脱水反応を行い、該加熱装置の他端から製品ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を連続的に排出させる加熱装置を用いて行うことを特徴とする、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物の製造方法にある。
【0015】
好ましくは加熱装置は、中空回転軸は水平方向に少なくとも2本平行に設置され、それぞれの回転軸には、正面から見ると、2つの点対称位置に配列された回転加熱体が交互に、軸方向に所定の数だけ等間隔に設置されており、また、隣り合う位置にある回転軸に設置された回転加熱体群は、両回転軸の回転に際して相互に全く接触しない立体的配置とされている。より好ましくは加熱装置は加熱用ジャケットを備えている。
【0016】
本発明の別の要旨は、2規定のNaOH水溶液に0.05g/mLの濃度に溶解して得られた溶液の波長400nmの光透過率が98%以上であることを特徴とする、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物にある。望ましくはパラジウム含有量が0.2重量ppm以下である。
【0017】
好ましくはこのビフェニルテトラカルボン酸二無水物は、ビフェニルテトラカルボン酸を加熱処理及び昇華精製処理して得られてなり、前記加熱処理は、1×10Pa〜1.1×10Paの圧力下において、最高到達温度を210℃〜250℃の範囲内とし、60℃から210℃まで昇温する時間の1/4以上で昇温速度を50℃/hrより大きくし、かつ150℃〜250℃に0.5時間以上10時間以下保持することにより行われてなる。
【0018】
本発明の更に別の要旨は、上記のようにして得られたビフェニルテトラカルボン酸二無水物と、芳香族ジアミンとを反応させることを特徴とする、ポリイミドの製造方法にある。好ましくはこのポリイミドは、厚さ11μmのフィルムとしたときの波長400nmの光透過率が20%以上である。
【0019】
本発明の更に別の要旨は、上記のようにして得られたビフェニルテトラカルボン酸二無水物と、芳香族ジアミンとを反応させて得られてなることを特徴とする、ポリイミドにある。好ましくはこのポリイミドは、厚さ11μmのフィルムとしたときの波長400nmの光透過率が20%以上である。
【発明の効果】
【0020】
本発明においては、加熱処理条件を特定の範囲とすることにより、及び/又は、特定の装置を、巧みに原料BTC粉粒体の加熱処理及び脱水反応に使用することにより、製品BPDAの高純度を維持しながら高生産性が達成されると言う、極めて顕著な効果が得られる。またBPDAの着色を抑制できる効果がある。更に、そのBPDAを用いることにより、耐熱性が良好な高重合度の、且つ着色度の小さいポリイミドが製造できる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】加熱装置の一部切り欠き側面図
【図2】該切り欠き部における概念的縦断正面図
【図3】中空回転加熱体及び中空回転軸の部分を示す図2の部分拡大図
【図4】中空回転加熱体の表面に対する被加熱物粉粒体の相互運動を説明する概念図
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0023】
本発明の原料ビフェニルテトラカルボン酸は、通常は、o−フタル酸ジメチルの脱水二量化反応で得られたビフェニルテトラカルボン酸テトラメチルを、酸触媒の存在下、水性媒体中で加水分解して調製することができる。また、無水フタル酸をハロゲン化して得られる4−ハロフタル酸を、水性媒体中で、アルカリ・還元剤・Pd触媒の存在下、脱ハロゲン二量化反応させ、ビフェニルテトラカルボン酸テトラアルカリ金属塩を得、これを鉱酸で中和することによっても調製することができる。このようにして調製されたビフェニルテトラカルボン酸は、実質上全て3,4,3’,4’−異性体である。
【0024】
上記のような方法により製造されたBTCは、適当な方法、例えば、無溶媒中で減圧下に加熱する方法、無水酢酸等のBTCを実質的に溶解しない液状媒体中にて加熱する方法等により脱水反応され、BPDAが製造される。なお、後者の方法によるBPDA及び芳香族ポリイミド樹脂の製造ルートを化学式で示せば次の通りである。
【0025】
【化1】


【0026】
上記方法で得られるBTCは、5〜30μmの大きさの不溶性微粒体の含有量が1g当り7×10個以下であることが好ましく、通常は1g当り5×10個ないし7×10個含有するBTCが使用される。そのためには、上記調製に際し使用する液体原料、溶媒は、フィルターを通し、不溶性微粒体を除去することが肝要である。また、固形の触媒等を除去した反応液も同様にフィルターを通し、不溶性微粒体の含有量が1g当り7×10個以下になるように、調整するのがよい。この目的に使用されるフィルターは、条件によっても異なるが、例えば孔径1μmフィルターを、1段または複数段直列に組合せて用いられる。
【0027】
[加熱処理]
本発明においては、原料BTCを、1×10Pa〜1.1×10Paの範囲内の圧力下において、150〜250℃の温度に通常0.5時間以上10時間以下保持することにより加熱処理する。その際、加熱処理の最高到達温度は210℃〜250℃の範囲内とし、かつ60℃から210℃まで昇温する時間の1/4以上で、昇温速度を50℃/hrより大きくする。
【0028】
従来は、250〜300℃の無水化温度で3時間以上加熱処理して無水化するのが一般的であり、高温で長時間加熱するため、BPDAが熱により変質して着色する虞が大きかった。本発明者らは、条件を選ぶことで250℃以下の加熱処理でもBTCの無水化が可能であることを見出した。しかも、昇温速度も従来より速くでき短時間で加熱処理を終えることができる。このため熱によるBPDAの着色を抑制でき、光透過度が高く着色度が極めて小さいBPDAを得ることができる。
【0029】
本発明において、原料BTCは、水湿潤状態のものも使用でき、その際には、昇温途中で付着水が、さらには結晶水も蒸発によって除かれ、続いて、脱水閉環反応が起こる。これら一連の反応は、付着水、結晶水および脱水閉環反応によって生成する水を、反応系外にパージしながら行なうと、反応速度が向上するので、常圧で不活性ガスを通しながら、または、減圧下で行なうのが好ましい。脱水閉環反応に要する時間は、加熱速度、加熱温度、減圧度および付着水の有無等によって異なるが、通常、0.5〜10時間の範囲で選ぶことができる。
【0030】
本発明所定の加熱処理条件のうち、圧力範囲は1×10Pa〜1.1×10Paとする。圧力が高すぎると脱水反応が進行しにくくなり、圧力が低すぎると減圧状態を維持するコストが高くなる。圧力範囲は好ましくは1×10Pa〜1×10Paである。
【0031】
最高到達温度は210℃〜250℃の範囲内とする。より好ましくは220℃〜250℃、更に好ましくは225℃〜250℃とする。あまり低いと脱水反応が進行しにくくなり、250℃より高いとBTCやBPDAが熱により変質して着色する。好ましくは248℃以下とする。
【0032】
また、60℃から210℃まで昇温する時間(以下、単に昇温時間と称する。)の1/4以上で、昇温速度を50℃/hr(1時間当たり50℃)より大きくする。なお昇温時間において昇温速度は任意に変化させてよい。昇温速度が50℃/hrより大きい領域が不連続に存在する場合は、その合計時間が、昇温時間の1/4以上であればよい。当該領域の合計時間が長いほど迅速に昇温されるため、BTCやBPDAが熱に曝される時間を短縮することができ、変質による着色を抑えることができる。更には製造時間の短縮化や熱源の節約にもつながる。好ましくは昇温時間の1/3以上で昇温速度を50℃/hrより大きくする。昇温時間全てで昇温速度を50℃/hrより大きくしてもよい。
より好ましくは昇温時間の1/4以上で昇温速度を60℃/hrより大きくし、更に好ましくは昇温時間の1/4以上で昇温速度を70℃/hrより大きくする。昇温速度が大きすぎると内部で温度分布が生じ加熱ムラが生じたり、脱水反応が不均一になったりする虞があり、通常、400℃/hr以下とし、好ましくは300℃/hr以下とし、より好ましくは250℃/hr以下とする。
また、60℃から210℃までの昇温時間全体の平均昇温速度が50℃/hrより大きいことが望ましい。
【0033】
さらに、150℃〜250℃に保持するのは、昇温だけでなく、恒温や降温の時間も含めて0.5時間以上、10時間以下とする。すなわち、BTCを加熱処理してBPDAに転換する際に、この特定温度範囲内での保持時間が長すぎるとBTCやBPDAの熱による劣化が進む傾向があり、あまり短いと脱水反応が不十分となる虞がある。好ましくは1時間以上、より好ましくは2時間以上、更に好ましくは3時間以上とする。
好ましくは、BTCからBPDAへの転換率を99%以上とする。
【0034】
[加熱装置]
次に、本発明に好ましく用いられる加熱装置について添付図面に基づき説明する。
【0035】
図1は、本発明の実施に好ましく用いられる、加熱装置の一部切り欠き側面図である。図2は、該切り欠き部における概念的縦断正面図であり、図3は、中空回転加熱体及び中空回転軸の部分を示す図2の部分拡大図であり、図4は、中空回転加熱体の表面に対する被加熱物粉粒体の相互運動を説明する概念図である。
【0036】
図中、1は加熱装置、2は中空回転加熱体、3は中空回転軸、5は加熱用ジャケット、20は中空回転加熱体の中空部、21は中空回転加熱体の扇形外表面、22は中空回転加熱体の補助掻き上げ面、23は加熱媒体の中空回転加熱体への入口、24は加熱媒体の中空回転加熱体からの出口、30は中空回転軸の中空部、31は加熱媒体の中空回転軸への入口、32は加熱媒体の中空回転からの出口、41は原料粉粒体の入口、42は製品粉粒体の出口、51は加熱媒体の加熱用ジャケットへの入口、32は加熱媒体の加熱用ジャケットからの出口、61は不活性ガス媒体の入口、62は不活性ガス媒体の出口を、それぞれ示す。
【0037】
本装置を用いて、BTCの加熱処理を行い脱水反応させてBPDAを製造するには、まず、原料BTC粉粒体を入口(41)から、図1に示した加熱装置(1)に供給する。この加熱装置(1)の内部には、同図の切り欠き部に示されているように、また、図2にも示されるように、複数の中空回転加熱体(2)が設けられた中空回転軸(3)が内蔵される。この中空回転加熱体(2)は、正面から見ると、図2及び図3に示されたように、ほぼ扇形の形状を有し、該扇の要部分で中空回転軸(3)に固定されている。この加熱体(2)は、しかし、側面から見ると、図1及び図4に示されたように、楔形の形状を有する立体である。また、図1及び2に示した加熱装置(1)では、水平方向に2本の中空回転軸(3)が平行に設置され、それぞれの回転軸(3)には、正面から見ると、2つの点対称位置に配列された回転加熱体(2)が交互に、軸方向に所定の数だけ等間隔に設置されている。このような回転加熱体(2)の形状及び配置は、伝熱面附近の粉粒体の運動を助長し、伝熱係数を増大するのに有効と考えられる。また、隣り合う位置にある回転軸(3)に設置された回転加熱体(2)群は、両回転軸の回転に際して相互に全く接触しない立体的配置とされている。
【0038】
しかして、このような加熱装置(1)の中空回転軸(3)に動力を与え、該回転軸及びそれに固定されている多数の中空回転加熱体(2)を回転させると、該加熱装置の一端にある原料の入口(41)に連続的に供給されたBTCの粉粒体は、該装置内の空間を上下に移動させられるだけでなく、図4に示すように、回転運動をしている回転加熱体の表面(21)との接触により、該空間内を順次前進させられ、その間の回転軸(3)、回転加熱体(2)及び加熱用ジャケット(5)表面からの伝熱により、脱水反応を完結し出口(42)から、製品BDPAの粉粒体が連続的に排出される。一方、乾燥、脱水反応中に蒸発した水蒸気は、入口(61)より導入された不活性ガス媒体が、加熱撹拌されている粉粒体の上部空間を流れる間に、該ガス媒体に同伴されて出口(62)より排気される。
【0039】
なお、粉粒体と接触して伝熱を行う回転加熱体の扇形表面(21)に熱を供給する加熱媒体は、図1に示した場合は、入口(31)から加熱装置の中空回転軸(3)に供給される。該回転軸の中空部(30)から中空回転加熱体(2)へは、図3に示す場合、各加熱体ごとに設けられた入口(23)を経て導入され、各加熱体ごとに設けられた出口(24)を経て排出されて、中空回転軸の中空部(30)に返送される。図3の場合は、新規供給される加熱媒体の通路と、返送される加熱媒体の通路とを分けるために、回転軸の中空部(30)には隔壁を設けた例である。
【0040】
しかして、このような加熱装置は、例えば、(株)奈良機械製作所から、パドルドライヤー、シングルパドルドライヤー、マルチフィンプロセッサー等の製品名で、多種市販されているので、中空回転軸の軸数、回転数、中空回転加熱体数、伝熱面積等を選定することができる。また、脱水反応の温度と滞留時間のコントロールが容易である。
【0041】
本発明の実施態様に従い、特定の形状を有する中空回転加熱体群を適切に配置し、中空回転軸に固定した加熱装置を、原料BTC粉粒体の加熱処理に使用して、脱水反応を行った結果、高純度を維持しながら高生産性が達成されることが明らかとなった。
【0042】
[昇華精製処理]
上記のBTCの加熱処理によって得られるBPDAは、光透過率が高く着色度が低く、Pd含有量も少なく、未反応の原料BTC残存量が極めて少なく、副反応によるハーフ体やトリ体の生成量も極めて少ないので、十分高純度のものではある。しかし、加熱処理に続いて、さらに、昇華精製処理を行い、加熱し揮発させたBPDAを冷却すれば、Pd含有量及び不溶性微粒体含有量の極めて少ない高純度BPDAが結晶として析出し、容易に回収することができる。
【0043】
この昇華精製処理は、減圧下で、加熱しつつ行うのが好ましい。加熱温度が低すぎるとBPDAを効率よく揮発させることができず、高すぎるとBPDAが熱分解するので、いずれも好ましくない。好ましくは250℃以上の温度とし、より好ましくは300℃以上である。ただし好ましくは400℃以下、より好ましくは350℃以下とするのがよい。また圧力は4000Pa以下の減圧下、好ましくは2700Pa以下の減圧下であるのが好ましい。
【0044】
なお、加熱処理と昇華精製処理とを連続して行い、かつ昇華精製処理を250℃以上で行う場合には、250℃までを加熱処理、250℃以上を昇華精製処理とみなすことができる。
【0045】
[BPDA]
本発明において、BPDAは、前記昇華精製処理を経た後の状態で、2規定のNaOH水溶液に0.05g/mLの濃度に溶解して得られた溶液の、波長400nmの光透過率が90%以上のものが容易に得られ、ポリイミド製造原料として優れる。好ましくは光透過率が98%以上である。ポリイミドは高い耐熱性、低誘電率、高寸法安定性、高機械強度、耐薬品性等の優れた性質を有することから、マイクロエレクトロニクス関連分野で様々な用途に用いられており、液晶ディスプレイの配向膜、光導波路や光部品等の光学用途への適用も検討されている。しかしながら、ポリイミド製造時に高温に曝されること等から、従来、淡黄色系の着色が避けられず、光学用途への適用の阻害要因となっていた。
【0046】
本発明者らの検討によれば、原料となるBPDAの着色がポリイミドの着色原因の一つであることが判った。すなわち、2規定のNaOH水溶液に0.05g/mLの濃度に溶解して得られた溶液の波長400nmの光透過率が90%以上であるBPDAを原料とすることで、ポリイミドの着色を抑制できるのである。好ましくは光透過率が98%以上のBPDAを用いる。
【0047】
従来から、BPDAの精製方法は幾つか提案されている。例えば、特公平4−37078号公報には、BPDAの精製方法として、BTCを減圧下、150〜230℃の温度に加熱して脱水反応を行わせた後、生成したBPDAを30mmHg(4000Pa)以下の減圧下、250〜400℃の温度に引き続き加熱して揮発させ、次いで、その揮発したBPDAの蒸気を冷却して精製結晶として回収する方法が記載されている。また、特開平8−143480号公報には、高融点有機化合物を溶融・蒸発させ、次いで、冷却して高融点有機化合物を精製するにあたり、当該高融点有機化合物蒸発時の蒸気の線速を制御することにより、当該高融点有機化合物中に含有される不溶性微粒体量を低減させる方法が記載されている。しかし、これらの方法によっても、BPDAの着色低減は不十分であった。
【0048】
しかして、本発明者らは、前記特定条件で加熱処理によりBTCからBPDAへの転換を行い、次いで昇華精製処理を行って得られたBPDAが、極めて高純度で着色が少なく透明性が高いことを見出した。但し本発明の透明性の高いBPDAを得る方法は、これに限定されるものではない。
【0049】
本発明のBPDAは、好ましくは、前記昇華精製処理を経た後の状態で、パラジウム含有量を0.2重量ppm以下とする。Pdは一般にBTC製造の際に触媒として用いられているため、BPDAには通常、微量のPdが残留する。しかし、PdがBPDAやポリイミド中に含まれると、触媒作用によりBPDAやポリイミドが徐々に分解されて、経時的な着色を起こす原因となることが判った。
【0050】
また、ポリイミドを精密な電子回路基板用の部材等に用いる場合には、Pd等の金属元素が含まれると、電子回路の特性に悪影響を与えることがあることからも好ましくない。
【0051】
このため本発明のBPDAは、好ましくはPd含有量を0.2重量ppm以下とする。より好ましくは0.1重量ppm以下であり、更に好ましくは0.05重量ppm以下である。Pd含有量は少ないほど好ましいが、完全に除去することは困難であるため、通常0.05ppb以上である。
【0052】
Pd含有量を低減させる方法は特に限定されないが、例えば、前記昇華精製処理等を用いうる。
【0053】
本発明のBPDAは、また前記昇華精製処理を経た後の状態で、好ましくは、ビフェニルトリカルボン酸及びその無水物(トリ体)並びにビフェニルテトラカルボン酸一無水物(ハーフ体)の含有量の総和が0.3重量%以下である。また好ましくは、BTCからBPDAへの転換率を99%以上とする。ポリイミドは一般的に、重合度が高いほど優れた耐熱性及び機械強度を示すが、発明者らの検討によれば、原料となるBPDAに高純度のものを使うと、重合度が高いポリイミドが得られることが判った。従って、トリ体やハーフ体の含有量、及びBTC残存量の少ないBPDAは、ポリイミド原料として好適に用いることができる。
【0054】
[ポリイミド]
本発明のBPDAを芳香族ジアミンと反応させることで、優れた性質を持つポリイミドを得ることができる。
【0055】
ポリイミドは、一般的に、重合度が高いほど優れた耐熱性及び機械強度を示すが、発明者らの検討によれば、原料となるBPDAに高純度のものを使うと、重合度が高いポリイミドが得られることが判った。また、ポリイミド樹脂は高耐熱性、高寸法安定性等の特長から精密な電子回路基板用の部材として用いられることも多いため、原料となるBPDAにも、不純物、特に金属含有量の少ないものを用いることが望ましい。更に、原料となるBPDAに着色が少なく透明性が高いものを用いることで、淡黄色系の着色が少なく透明性に優れたポリイミドが得られることが判った。
【0056】
従って、本発明の高純度でPd含有量が少なく透明性が高いBPDAをジアミンと反応させることで、重合度が高く耐熱性及び機械強度に優れ、金属含有量が少なく、かつ淡黄色系の着色が少なく透明性に優れたポリイミドを得ることができる。
【0057】
そして、得られたポリイミドをフィルムとした場合にも、表面粗度が小さく、加工性の良好なものとなる。好ましくは、得られたポリイミドは、厚さ11μmのフィルムとしたときの波長400nmの光透過率が20%以上である。より好ましくは25%以上であり、更に好ましくは30%以上である。光透過率は高いほど好ましいが、通常90%以下程度である。
【0058】
BPDAと反応させるジアミン成分は特に限定されないが、例えば、ジアミノジフェニルエーテル、p−フェニレンジアミン、ビスアミノフェノキシフェニルプロパン、o−トリジン等の公知の芳香族ジアミン成分が挙げられる。2種以上を併用してもよい。BPDAに対するジアミン成分の量は特に限定されないが、通常、BPDAとジアミン成分とを等モル前後で反応させる。なおジアミン成分も着色の少ないものを用いることが好ましい。
【0059】
BPDAとジアミン成分とは、有機溶媒中で反応させて、先ず、ポリアミック酸を製造する。使用される有機溶媒は特に限定されないが、通常、N−メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等のジアミン成分を溶解し得るものが好適に用いられる。反応温度は通常、0〜50℃である。また反応時間は通常、1〜50時間程度である。
【0060】
かくして得られたポリアミック酸溶液は、用途に応じて種々の方法でイミド化することができる。その方法は特に限定されないが、例えば、ポリアミック酸溶液をそのまま100〜500℃で数分〜1時間程度加熱脱水してイミド化する方法を用いうる。また、ポリアミック酸溶液をガラス板等の上に流延した後、100〜500℃で数分〜1時間程度加熱脱水してイミド化する方法も用いうる。
【0061】
更に、ポリアミック酸溶液にトリエチルアミン、ピリジン、イソキノリン、N,N−ジメチルアミノピリジン等の第3級アミン等の脱水触媒及び無水酢酸、無水プロピオン酸、無水安息香酸等の酸無水物等の脱水剤をイミド化触媒として添加混合した後、ガラス板等の上に流延し、通常、室温(20℃程度)〜500℃で、通常、1時間〜1昼夜加熱脱水してイミド化する方法も用いうる。
【0062】
また、ポリアミック酸溶液を大量のアセトン、トルエン、メタノール、ベンゼン等のポリアミック酸に対する貧溶媒に投入して析出、濾別した粉末を100〜500℃で1時間〜一昼夜加熱乾燥させてイミド化する方法も用いうる。更に、ポリアミック酸溶液をトリエチルアミン、ピリジン、イソキノリン、N,N−ジメチルアミノピリジン等の第3級アミン等の脱水触媒及び無水酢酸、無水プロピオン酸、無水安息香酸等の酸無水物等の脱水剤からなるイミド化触媒中またはそれらを含む有機溶媒中(ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒等)で室温(20℃程度)〜200℃で1時間〜一昼夜加熱脱水してイミド化する方法も用いうる。
【0063】
本発明のポリイミドは、高い耐熱性、低誘電率、高寸法安定性、高機械強度、耐薬品性等に加えて、着色が少なく透明性が高いという優れた性質を備えることから、液晶ディスプレイの配向膜、光導波路や光部品等様々な光学用途に好適に用いられる。その他にも例えば高密度電子回路基板用の部材、半導体集積回路の応力緩和膜(バッファーコート膜)や表面保護膜、各種センサーの保護膜、光導波路や光部品、マイクロマシンの構造材料等、マイクロエレクトロニクス関連分野で種々の用途に用いうる。
【実施例】
【0064】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、これのみに限定されるものではない。なお、実施例中、%、ppm、ppb等は、特に断りがない限り質量基準で示した。
[評価方法]
<水分>
三菱化学(株)製微量水分測定装置CA−100型を用い、試料1gを計量し、装置の陽極セルにセット後、水分値を測定した。
<BTC>
BPDA中のBTCは高速液体クロマトグラフィー(以下LC)法にて分析した。測定に先立ち、試料をエステル化することにより、LC上のピークの位置を決め、定量した。
<トリ体>
BPDA中のトリ体はLC法にて分析した。測定に先立ち、試料をアルカリ溶解することにより、LC上のピークの位置を決め、定量した。
<ハーフ体>
BPDA中のハーフ体はLC法にて分析した。測定に先立ち、試料をエステル化することにより、LC上のピークの位置を決め、定量した。
<光透過率>
BPDAの着色度の指標として、BPDAの溶液の光透過率を測定した。具体的には、先ず、2規定のNaOH水溶液に試料を0.05g/mLの濃度で溶解した溶液を調製した。次いで、内径10mmの石英セルを使用し、水を対照液とし、分光光度計(島津製作所製「UV−265FW型」)で波長400nmの光を用いて測定した。NaOHとしては試薬特級品を使用し、サンプル溶液の調製や対照液のための水は、蒸留水またはイオン交換樹脂処理水を使用した。
<Pd>
Pd含有量は、誘導結合プラズマ質量分析法(ICP−MS)にて測定した。BPDA1gに硫酸2mL添加後、乾式分解し(燃焼しないように注意して、300℃からは徐々に昇温して炭化させ、600℃で30分かけて完全に灰化させ)て、得られた残渣に塩酸を加え、塩酸を蒸発させて乾固後、硝酸で加温分解して25mLに定容したものを試料とし、測定した。
【0065】
[実施例1]
図1〜4に示す、複数の中空回転加熱体(2)が設けられた中空回転軸(3)を内蔵し、かつ、加温された加熱媒体を、該回転軸の中空部(30)を経て該回転加熱体の中空部(20)に、また加熱用ジャケット(5)にも送給することにより、反応に必要な熱量をこれら回転軸、回転加熱体及び必要に応じ加熱用ジャケットの各表面からの伝熱により供給可能な、加熱装置(1)であって、該中空回転加熱体(2)は、側面から見ると楔形の形状を有し、正面から見ると、ほぼ扇状の形状を有し扇の要部分で中空回転軸(3)に固定されている、(株)奈良機械製作所製、商品名パドルドライヤーNPD−1.6W−G(有効容積65L)に、BTC(水分18.31%)を7.8kg/時の割合で、原料の入口(41)から連続的に供給し、装置内滞留時間7.3時間、常圧(1.01325×10Pa)で、脱水反応を行わせ、製品の出口(42)から、BPDAを連続的に排出させた。得られたBPDA中のトリ体含有量は0.036%、BTC残存量は0.004%であった。なお、運転に際し、窒素ガスを70L/時の割合で、入口(61)から導入し、出口(62)から排出した。また、反応に必要な熱量は、加熱媒体の温度及び流速を調節することにより、所定の運転条件が達成されるように供給した。
装置の運転条件及び実験成績は、下表の通りであった。
【0066】
【表1】



上記の表から、本発明に係わる、BPDAの製造方法は、滞留時間7.3時間で99.996%の転換率を達成して生産性に優れ、しかも、トリ体の含有率を0.036%と言う高純度水準を維持することを可能にしたことが判明する。
【0067】
[実施例2]
実施例1と同じ装置を用いて、連続操作によるBTCの加熱処理を行った。装置の原料入口(41)から、BTC(水分18.31%)を7.4kg/時の割合で連続的に供給し、装置内滞留時間7.7時間、常圧で、脱水反応を行わせ、製品の出口(42)から、BPDAを連続的に排出させた。なお、運転に際し、窒素ガスを70L/分の割合で、入口(61)から導入し、出口(62)から排出した。また、反応に必要な熱量は、加熱媒体の温度及び流速を調節することにより、所定の運転条件が達成されるように供給した。原料の加熱処理条件を表2に示す。
【0068】
【表2】



なお、昇温に要した時間及び装置内各箇所のBTC温度を測定し、昇温速度を算出した。つまり本実施例では連続法で加熱処理を行うため、加熱装置内の入口から出口までに温度分布を持たせ、該装置内でBTCを移動させることにより、BTCの温度を変化させた。従って加熱装置内の温度分布及びBTCの移動速度によってBTCの昇温速度が決定される。
【0069】
すなわち、昇温速度は、20℃から110℃までは180℃/hrで、110℃から176℃までは132℃/hrで、176℃から210℃までは57℃/hrで、続いて210℃から248℃までは35℃/hrであった。更に248℃で5時間保持した。なお各温度範囲内での昇温速度は一定(以下の実施例・比較例でも、特にことわらないかぎり同様である。)とした。例えば20℃から昇温を開始して約0.22時間後に60℃となる。
【0070】
昇温時間(60℃から210℃まで昇温する時間。以下同じ)は1.38時間で、その1/4以上である1.38時間は昇温速度が50℃/hrより大きかった。また150℃〜250℃には約7時間保持されていた。
【0071】
得られたBPDAのトリ体含有量は0.05%、ハーフ体含有量は0.1%未満、BTC残存量は0%であった。また、BPDAの光透過率は86%、BPDA中のPd含有量は0.5ppmであった。
【0072】
続いてこのようにして得られたBPDAを、ジャケットを備えた縦型筒状蒸発釜に移送し、305℃、203Paの蒸発釜の気相部に直結するガス配管先端に配したドラム式回転冷却器表面に接触させ、冷却析出させた(昇華精製工程)。ドラム表面に付着するBPDAの結晶は、かきとり装置によって連続的にかきとり、フレークとして回収した。
【0073】
このフレークを粉砕して得られたBPDAのトリ体含有量は0.05%、ハーフ体含有量は0.1%未満、BTC残存量は0%であった。また、光透過率は98%であり、Pd含有量は0.7ppbであった。
【0074】
[実施例3]
実施例1と同じ装置を用いて、バッチ操作によるBTCの加熱処理を行った。
BTC(水分18.31%)35kgを原料の入口(41)から予め装置に仕込んだ。原料の加熱処理条件を表3に示す。なお、BTCの昇温は、ジャケット(5)に送給する加熱媒体の温度を上げることによって行うが、昇温時にBTCの移動は行わなかった(以下の実施例・比較例でも、特にことわらないかぎり同様である。)。
【0075】
【表3】



すなわち、昇温速度は、60℃から100℃までは80℃/hrで、100℃から180℃までは160℃/hrで、続いて180℃から230℃までは100℃/hrであった。更に230℃で7時間保持して、BTCを無水化してBPDA25.5kgを生成させた。昇温時間は1.3時間で、その1/4以上である1.3時間は昇温速度が50℃/hrより大きかった。また150℃〜250℃には約7.7時間保持されていた。なお、運転に際し、窒素ガスを20L/分の割合で、入口(61)から導入し、出口(62)から排出した。
【0076】
得られたBPDAのトリ体含有量は0.05%、ハーフ体含有量は0.1%未満、BTC残存量は0%であった。また、BPDAの光透過率は91%、BPDA中のPd含有量は0.5ppmであった。
続いてこのようにして得られたBPDAを実施例2と同様に昇華精製処理し、BPDAの結晶をフレークとして回収した。このフレークを粉砕して得られたBPDAのトリ体含有量は0.05%、ハーフ体含有量は0.1%未満、BTC残存量は0%であった。また、光透過率は99%であり、Pd含有量は0.3ppbであった。
【0077】
[実施例4]
加熱処理条件を表3のように変更した以外は実施例3と同じ条件で加熱処理及び昇華精製処理を行った。昇温時間は2.8時間で、その1/4以上である0.8時間は昇温速度が50℃/hrより大きかった。また150℃〜250℃には約7.7時間保持されていた。
【0078】
[実施例5]
加熱処理条件を表3のように変更した以外は実施例3と同じ条件で加熱処理及び昇華精製処理を行った。昇温時間は2.2時間で、その1/4以上である1.0時間は昇温速度が50℃/hrより大きかった。また150℃〜250℃には約9.2時間保持されていた。
【0079】
[実施例6]
加熱処理条件を表4のように変更した以外は実施例3と同じ条件で加熱処理及び昇華精製処理を行った。
【0080】
【表4】



昇温時間は1.23時間で、その1/4以上である1.23時間は昇温速度が50℃/hrより大きかった。また150℃〜250℃には約5.7時間保持されていた。
【0081】
[比較例1]
実施例1の装置とは加熱器内の中空回転加熱体の形状が円盤状である点が異なる装置を用いて、バッチ操作によるBTCの加熱処理を行った。
BTC(水分18.31%)35kgを原料の入口(41)から予め装置に仕込んだ。原料の加熱処理条件を表5に示す。
【0082】
【表5】


【0083】
すなわち、80℃から100℃までの昇温を30℃/hrで行った後、100℃の温度に1時間保持し、続いて100℃から130℃までの昇温を25℃/hrで行った後、130℃の温度に2時間保持し、更に130℃から280℃までの昇温を35℃/hrで行った後、280℃の温度に20時間保持し、BPDA25.5kgを生成させた。昇温時間のうち昇温速度が50℃/hrより大きい時間は無かった。尚、運転に際し、窒素ガスを20L/分の割合で、入口(61)から導入し、出口(62)から排出した。
【0084】
得られたBPDA中のトリ体含有量は0.06%、ハーフ体含有量は0.1%以下、BTC残存量は0%であった。また、BPDAの光透過率は59%、BPDA中のPd含有量は0.5ppmであった。
【0085】
続いてこのようにして得られたBPDAを実施例2と同様に昇華精製処理し、BPDAの結晶をフレークとして回収した。このフレークを粉砕して得られたBPDAのトリ体含有量は0.06%、ハーフ体含有量は0.1%未満、BTC残存量は0%であった。また、光透過率は89%であり、Pd含有量は2ppbであった。
【0086】
以上、実施例2〜6及び比較例1で得られたBPDAの評価結果を表6に示す。
【0087】
【表6】


【0088】
実施例2〜6で得られた昇華精製処理後のBPDAは、光透過率がいずれも98%以上と着色度は極めて低く、またPd含有量も0.3〜0.7ppbと極めて少なく、純度が高い高品質のBPDAであることが判る。
【0089】
[実施例7:ポリイミドフィルムの調製]
攪拌機及び加熱器を備えた500mL反応器に、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(以下、DDEと称する。)9.66g及びN−メチルピロリドン(以下、NMPと称する。)175.0gを仕込み均一溶液とした後、これに実施例3で得た昇華精製後のBPDA結晶14.20gを添加し、攪拌下、25℃の温度で24時間反応を行い、粘稠なポリアミック酸溶液を得た。得られた溶液をNMPにより希釈し、粘度が300ポイズの溶液としたのち、ガラス板上にキャスティングし、これを熱風乾燥機中で100℃から300℃まで段階的に加熱し厚さ11μmのポリイミドフィルムを得た。得られたポリイミドフィルムの400nmにおける光透過率を分光光度計(島津製作所製「UV−265FW型」)を用いて測定したところ、30%であった。
【0090】
[比較例2]
BPDAとして比較例1の昇華精製前のBPDAを使用した以外は実施例7と同様にしてポリイミドフィルムを得た。得られたポリイミドフィルムの400nmにおける光透過率は7%であった。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明のBPDAは、純度が高く、芳香族ポリイミドの重合度にも優れているので、高度な機能を有するガス分離膜、フレキシブルプリント基板への利用をはじめとして、さまざまな他用途にも広く利用可能である。
【符号の説明】
【0092】
1 加熱装置
2 中空回転加熱体
3 中空回転軸
5 加熱用ジャケット
20 中空回転加熱体の中空部
21 中空回転加熱体の扇形外表面
22 中空回転加熱体の補助掻き上げ面
23 加熱媒体の中空回転加熱体への入口
24 加熱媒体の中空回転加熱体からの出口
30 中空回転軸の中空部
31 加熱媒体の中空回転軸への入口
32 加熱媒体の中空回転からの出口
41 原料粉粒体の入口
42 製品粉粒体の出口
51 加熱媒体の加熱用ジャケットへの入口
52 加熱媒体の加熱用ジャケットからの出口
61 不活性ガス媒体の入口
62 不活性ガス媒体の出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビフェニルテトラカルボン酸を加熱処理してビフェニルテトラカルボン酸二無水物を製造するにあたり、前記加熱処理を、
1×10Pa〜1.1×10Paの圧力下において、最高到達温度を210℃〜250℃の範囲内とし、60℃から210℃まで昇温する時間の1/4以上で昇温速度を50℃/hrより大きくし、かつ150℃〜250℃に0.5時間以上10時間以下保持することにより行う、
ことを特徴とするビフェニルテトラカルボン酸二無水物の製造方法。
【請求項2】
前記加熱処理に続いて昇華精製処理を行う、請求項1に記載のビフェニルテトラカルボン酸二無水物の製造方法。
【請求項3】
前記昇華精製処理を250℃以上で行う、請求項2に記載のビフェニルテトラカルボン酸二無水物の製造方法。
【請求項4】
前記昇華精製処理を行って得られたビフェニルテトラカルボン酸二無水物は、2規定のNaOH水溶液に0.05g/mLの濃度に溶解して得られた溶液の波長400nmの光透過率が90%以上である、請求項2又は3に記載のビフェニルテトラカルボン酸二無水物の製造方法。
【請求項5】
前記昇華精製処理を行って得られたビフェニルテトラカルボン酸二無水物は、2規定のNaOH水溶液に0.05g/mLの濃度に溶解して得られた溶液の波長400nmの光透過率が98%以上である、請求項2又は3に記載のビフェニルテトラカルボン酸二無水物の製造方法。
【請求項6】
前記昇華精製処理を行って得られたビフェニルテトラカルボン酸二無水物は、パラジウム含有量が0.2重量ppm以下である、請求項2乃至5のいずれか1項に記載のビフェニルテトラカルボン酸二無水物の製造方法。
【請求項7】
前記加熱処理を、
複数の中空回転加熱体が設けられた中空回転軸を内蔵し、かつ、加温された加熱媒体を、該回転軸の中空部を経て該回転加熱体の中空部に、また必要に応じ装備される加熱用ジャケットにも送給することにより、反応に必要な熱量をこれら回転軸、回転加熱体及び必要に応じ加熱用ジャケットの各表面からの伝熱により供給可能な、加熱装置であって、
該中空回転加熱体は、側面から見ると楔形の形状を有し、正面から見るとほぼ扇状の形状を有し、扇の要部分で中空回転軸に固定されており、
しかも、該加熱装置の一端から原料ビフェニルテトラカルボン酸粉粒体を連続的に供給し、該粉粒体を回転している中空回転加熱体と接触させて加熱しつつ、該加熱装置内を軸方向に移送させる間に、脱水反応を行い、該加熱装置の他端から製品ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を連続的に排出させる加熱装置を用いて行う、
請求項1乃至6のいずれか1項に記載のビフェニルテトラカルボン酸二無水物の製造方法。
【請求項8】
前記加熱装置は、中空回転軸は水平方向に少なくとも2本平行に設置され、それぞれの回転軸には、正面から見ると、2つの点対称位置に配列された回転加熱体が交互に、軸方向に所定の数だけ等間隔に設置されており、また、隣り合う位置にある回転軸に設置された回転加熱体群は、両回転軸の回転に際して相互に全く接触しない立体的配置とされている、請求項7に記載のビフェニルテトラカルボン酸二無水物の製造方法。
【請求項9】
前記加熱装置は加熱用ジャケットを備えている、請求項7又は8に記載のビフェニルテトラカルボン酸二無水物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−17339(P2012−17339A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−218932(P2011−218932)
【出願日】平成23年10月3日(2011.10.3)
【分割の表示】特願2005−187065(P2005−187065)の分割
【原出願日】平成17年6月27日(2005.6.27)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)