説明

ビフェニル類の製造方法、及び製造用触媒

【課題】 本発明の課題は、分子状酸素が存在する雰囲気中、芳香族化合物特に置換基を有する芳香族化合物を触媒的に酸化二量化させてビフェニル類を効率的に製造する改良された方法を提供することである。
【解決手段】 芳香族化合物を、分子状酸素が存在する雰囲気中で、ヘテロ原子含有カルベン化合物が銅に結合してなる銅化合物を含む触媒を用いて酸化二量化することを特徴とするビフェニル類の製造方法に関する。特に芳香族化合物がフタル酸ジエステルであることに関し、ヘテロ原子含有カルベン化合物が銅に結合してなる銅化合物を含む触媒がパラジウム化合物を含んでいること、又はヘテロ原子含有カルベン化合物が銅に結合してなる銅化合物を含む触媒がロジウム化合物を含んでいることに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘテロ原子含有カルベン化合物が銅に結合してなる銅化合物を含む触媒の存在下に、分子状酸素が存在する雰囲気中、芳香族化合物特に置換基を有する芳香族化合物を酸化二量化させてビフェニル類を製造する方法に関する。とりわけ、本発明は、ヘテロ原子含有カルベン化合物が銅に結合してなる銅化合物を含む触媒の存在下に、分子状酸素が存在する雰囲気中、フタル酸ジエステルを酸化二量化反応させてビフェニルテトラカルボン酸テトラエステルを製造する製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属触媒により芳香環の炭素と水素間の結合を切断し新たに芳香環の炭素と芳香環の炭素間の結合を形成する二量化反応によって2分子の芳香族化合物から1分子のビフェニル類を製造する方法は、産業上有用なビフェニル類の製造方法として知られている。この製造方法の具体例には、フタル酸ジエステルを分子状酸素雰囲気下に高温高圧で触媒のパラジウム化合物の作用による酸化二量化反応によってビフェニルテトラカルボン酸テトラエステルを製造する方法がある。
【0003】
特許文献1には、オルト−フタル酸ジメチルを酸素雰囲気中でパラジウムの有機酸塩の存在下に高圧で酸化二量化反応し、得られた二量化物(ビフェニルテトラカルボン酸テトラメチルエステル)を加水分解してビフェニルテトラカルボン酸を製造する方法が記載されている。この反応には高圧の酸素を反応に用いるという問題があった。
【0004】
この問題を解決する方法として助触媒を用いる方法が検討された。これまでに、有機銅塩が助触媒能を有し、有機パラジウム塩と共に有機銅塩を触媒に用いることで常圧の分子状酸素雰囲気下で酸化二量化反応を行えることが公知になっている。
【0005】
例えば、特許文献2には、反応液中に有機パラジウム塩と有機銅塩とを存在させ、常圧の分子状酸素雰囲気下、ベンゼン系の芳香族化合物を酸化二量化させてビフェニル類を製造する方法が記載されている。この有機銅塩は、有機カルボン酸の銅塩またはβ−ジケトン類との銅キレート塩であった。
【0006】
特許文献3には、パラジウム化合物の代わりにロジウム化合物を触媒として用いた酸化二量化反応によるビフェニル類の製造方法が、本発明者らによって提案されている。ここでも、ロジウム化合物に銅化合物を組合せた触媒が用いられている。
【0007】
しかしながら、前記パラジウム化合物やロジウム化合物を触媒に用いた酸化二量化反応において示された有機銅塩などの銅化合物の助触媒能は不十分であり、パラジウム化合物やロジウム化合物基準の触媒回転数は決して高いものではなく、さらに改良の余地があった。酸化二量化反応の金属触媒として用いられるパラジウム化合物やロジウム化合物は高価な金属であるから、経済的観点からも銅化合物の助触媒能を向上させることによる反応の効率化が望まれていた。
【0008】
【特許文献1】特開昭48−52749号公報
【特許文献2】特開昭55−141417号公報
【特許文献3】特願2003−363188号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、分子状酸素が存在する雰囲気中、芳香族化合物特に置換基を有する芳香族化合物を触媒的に酸化二量化させてビフェニル類を効率的に製造する改良された方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、芳香族化合物を、分子状酸素が存在する雰囲気中で、ヘテロ原子含有カルベン化合物が銅に結合してなる銅化合物を含む触媒を用いて酸化二量化することを特徴とするビフェニル類の製造方法に関する。また、芳香族化合物がフタル酸ジエステルであることに関し、ヘテロ原子含有カルベン化合物が銅に結合してなる銅化合物を含む触媒がパラジウム化合物を含んでいること、又はヘテロ原子含有カルベン化合物が銅に結合してなる銅化合物を含む触媒がロジウム化合物を含んでいることに関する。
さらに、ヘテロ原子含有カルベン化合物が銅に結合してなる銅化合物を含有することを特徴とする芳香族化合物の酸化二量化反応用触媒に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、分子状酸素が存在する雰囲気中、芳香族化合物特に置換基を有する芳香族化合物を触媒的に酸化二量化させてビフェニル類を効率的に製造することができる。例えば、本発明を利用してフタル酸ジエステルから触媒的酸化二量化反応によりビフェニルテトラカルボン酸テトラエステルを効率よく製造することができる。ビフェニルテトラカルボン酸テトラエステルの4つのエステル基を加水分解し次いで無水化して得られるビフェニルテトラカルボン酸二無水物は、ジアミンと反応させることでポリイミドを製造することができる。ポリイミドは耐熱性、機械的強度及び電気的特性等が優れており、電子部品用の材料として用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明で使用する原料化合物は、芳香族化合物特に置換基を有する芳香族化合物であり、好ましくは下記化学式(1)で示される。
【0013】
【化1】

(式中、Rは置換基であり、mは0〜4好ましくは1〜4特に1〜3のいずれかの整数を示す。)
【0014】
前記化学式(1)において、Rで示された置換基としては、アルキル基(特に炭素数1〜5のアルキル基)、アルコキシ基(特に炭素数1〜5のアルコキシ基)、アリールオキシ基、アルコキシカルボニル基(特に炭素数1〜5のアルコキシカルボニル基)、アリールオキシカルボニル基、アルカノイルオキシ基(特に炭素数1〜5のアルカノイルオキシ基)などを好適に挙げることができる。これらの置換基は置換基が有する水素原子がアセチル基又はハロゲン原子で置換されていても構わない。更に、前記化学式(1)において、Rで示された置換基としては、ニトロ基、ハロゲン原子を好適に挙げることができる。
【0015】
前記化学式(1)で示される芳香族化合物の具体例としては、トルエン、エチルベンゼン、オルトキシレン、メタキシレン、パラキシレン、1,2,4−トリメチルベンゼン、アニソール、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸ブチル、トルイル酸メチル、アセチルベンゼン、2,6−ジメチルベンジルアセテート、キシリレンジアセテート、ニトロベンゼン、オルトクロルメチルベンゼン、クロルベンゼン、フッ化ベンゼン、オルトクロルベンゼン、トリフルオロメチルベンゼン、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジプロピル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジフェニル、イソフタル酸ジメチル、イソフタル酸ジエチル、イソフタル酸ジプロピル、イソフタル酸ジブチル、テレフタル酸ジメチル、テレフタル酸ジエチル、テレフタル酸ジプロピル、テレフタル酸ジブチルなどを好適に挙げることができる。
【0016】
なかでもフタル酸ジエステルは、得られるビフェニルテトラカルボン酸テトラエステルがポリイミドを製造する原料になるので特に有用である。なお、フタル酸ジエステルは、フタル酸、その酸無水物又は酸ハロゲン化物と、末端に水酸基を有する化合物例えば低級脂肪族アルコールや芳香族アルコールなどとの反応によって容易に得ることができる。
【0017】
本発明において、ヘテロ原子含有カルベン化合物が銅に結合してなる銅化合物とは、下記化学式(2)、又は下記化学式(3)で示される錯体を好適に挙げることができる。
【0018】
【化2】

(式中、R、R、Rは置換基であり、Lは銅のアニオン性配位子であり、nは1〜4のいずれかの整数であり好ましくは1〜2のいずれかの整数であり特に1であり、nは1〜2のいずれかの整数である。)
【0019】
前記化学式(2)のR、Rで示された置換基は、それぞれ互いに独立して、水素原子又は炭化水素基であり、前記炭化水素基はその水素原子がハロゲン原子、含酸素官能基、含硫黄官能基又は含窒素官能基により置換されたものであってもよい。R、Rで示された置換基は、炭素数1〜20のアルキル基、アリール基、アラルキル基、ヘテロ環基などが好適であり、反応促進効果が高いことからメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、アダマンチル基、フェニル基、(ジイソプロピル)フェニル基、メシチル基を特に好適に挙げることができる。
【0020】
前記化学式(2)のRで示された置換基は、炭素数が1〜3のアルキレン基、1,2−エテンジイル基、1,2−メチリデンアミンジイル基を好適に挙げることができる。これらの置換基はその水素原子が炭素数1〜20のアルキル基、アリール基、ハロゲン原子、含酸素官能基、含硫黄官能基、含窒素官能基によって置換されたものでも構わない。Rで示された置換基は、酸化二量化反応の促進効果が高くなるから1,2−エタンジイル基、1,2−エテンジイル基を特に好適に挙げることができる。
【0021】
【化3】

(式中、R、R、R、R、Rは置換基であり、Lは銅のアニオン性配位子であり、nは1〜2のいずれかの整数であり特に1であり、nは1〜2のいずれかの整数である。)
【0022】
前記化学式(3)のR、Rで示された置換基は、それぞれ互いに独立して、水素原子又は炭化水素基であり、前記炭化水素基はその水素原子がハロゲン原子、含酸素官能基、含硫黄官能基又は含窒素官能基により置換されたものであってもよい。R、Rで示された置換基は、炭素数1〜20のアルキル基、アリール基、アラルキル基、ヘテロ環基などが好適であり、反応促進効果が高いことからメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、アダマンチル基、フェニル基、(ジイソプロピル)フェニル基、メシチル基を特に好適に挙げることができる。
【0023】
前記化学式(3)のR、Rで示された置換基は、炭素数が1〜3のアルキレン基、1,2−エテンジイル基、1,2−メチリデンアミンジイル基を好適に挙げることができる。これらの置換基はその水素原子が炭素数1〜20のアルキル基、アリール基、ハロゲン原子、含酸素官能基、含硫黄官能基、含窒素官能基によって置換されたものでも構わない。R、Rで示された置換基は、酸化二量化反応の促進効果が高くなるから1,2−エタンジイル基、1,2−エテンジイル基を特に好適に挙げることができる。
で示された置換基は、炭素数が1〜20のアルキレン基、アルキリデン基が好適に挙げられる。これらの置換基はその水素原子がアリール基、ハロゲン原子、含酸素官能基、含硫黄官能基、含窒素官能基によって置換されたものでも構わない。Rで示された置換基は、酸化二量化反応の促進効果が高くなるからメチレン基、1,2−エテンジイル基を特に好適に挙げることができる。
【0024】
前記化学式(2)、(3)のLで示された銅のアニオン性配位子としては、塩化物イオン、臭化物イオン、沃化物イオンなどのハロゲン化物イオンや、酢酸イオン、プロピオン酸イオン、ノルマルブチル酸イオン、2−メチルプロピオン酸イオン、乳酸イオン、酪酸イオン、安息香酸イオン、トリフルオロ酢酸イオンなどのカルボン酸イオンや、アセチルアセトナトイオン、1,1,1,5,5,5−ヘキサフルオロアセチルアセトナトイオン、硝酸イオン、亜硝酸イオン、硫酸イオン、リン酸イオン、酸素イオン、水酸化物イオン、シアン化物イオン、テトラフルオロホウ素イオン、テトラアリールホウ素イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、パラトルエンスルホン酸イオン、過塩素酸イオン等が挙げられる。中でも前記化学式(2)、(3)のLで示された銅のアニオン性配位子が塩化物イオン、臭化物イオン、沃化物イオン、酢酸イオン、トリフルオロ酢酸イオン、プロピオン酸イオン、ノルマルブチル酸イオン、アセチルアセトナトイオン、硝酸イオン、水酸化物イオンのときに、特に塩化物イオン、酢酸イオン、トリフルオロ酢酸イオンのときに、得られるヘテロ原子含有カルボン化合物が銅に結合してなる銅化合物は反応促進効果が大きくなるので好適である。
【0025】
さらに、ヘテロ原子含有カルベン化合物が銅に結合してなる銅化合物は、水等で溶媒和されたものも好適に用いることができる。
【0026】
本発明において、ヘテロ原子含有カルベン化合物が銅に結合してなる銅化合物は、原料の芳香族化合物に対して0.00001〜0.01倍モル、特に0.00005〜0.001倍モルの割合で好適に用いられる。ヘテロ原子含有カルベン化合物が銅に結合してなる銅化合物が原料の芳香族化合物に対して0.00001倍モル未満でも反応は進行するが助触媒の効果が小さくなり二量化生成物の収率が低くなるので好ましくない。また、ヘテロ原子含有カルベン化合物が銅に結合してなる銅化合物が原料の芳香族化合物に対して0.01倍モルを越えて用いてもよいが、触媒コストを考慮すると経済的ではなくなる。
【0027】
ヘテロ原子含有カルベン化合物が銅に結合してなる銅化合物は、既に公知のヘテロ原子含有カルベンを配位子とする金属錯体化合物を合成する方法によって製造できる。特に限定するものではないが、例えば前記化学式(2)、(3)で示される銅化合物は、以下の方法(A)〜(C)によって製造できる。なお、式中のR、R、R、R、R、R、R、R、n、n、n、n、Lは前述のとおりのものである。
【0028】
(A)遊離カルベンを用いる方法
【0029】
【化4】

【0030】
【化5】

【0031】
(B)系中でのヘテロ原子含有カルベン配位子前駆体の脱プロトン化反応を経る方法
【0032】
【化6】

(式中、Xはアニオンであり、nは1〜3のいずれかの整数特に1を示す。)
【0033】
【化7】

(式中、Xはアニオンであり、nは1〜3のいずれかの整数特に1を示す。)
【0034】
ここで、化学式(6)、(7)中のXで示されるアニオンとしては、塩化物イオン、臭化物イオン、沃化物イオンなどのハロゲン化物イオンや、酢酸イオン、トリフルオロ酢酸イオンなどのカルボン酸イオンや、テトラフルオロホウ素イオン、テトラアリールホウ素イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、パラトルエンスルホン酸イオン、過塩素酸イオン等が好適に挙げることができる。また、化学式(6)、(7)の反応は塩基により促進されることがあることから、化学式(6)、(7)の反応に塩基を加えて反応を行うことが好ましい。用いる塩基として、アルカリ金属アルコラート、アルカリ金属炭酸塩、水素化アルカリ金属を好適に挙げることができる。
【0035】
(C)ヘテロ原子含有カルベン配位子前駆体の脱プロトン化反応によるアルコキシド付加物の生成を経る方法
【0036】
【化8】

(式中、Mはアルカリ金属であり、Rは炭化水素基を示す。)
【0037】
【化9】

(式中、Mはアルカリ金属であり、Rは炭化水素基を示す。)
【0038】
ここで、化学式(8)、(9)中のMで示されたアルカリ金属としては、ナトリウムイオン、カリウムイオンが安価であることから好ましい。また、Rで示された炭化水素基としてはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などの低級アルキル基が合成が容易であるので好適である。
【0039】
本発明において、ヘテロ原子含有カルベン化合物が銅に結合してなる銅化合物は、予め前述のような方法によって調製したものを触媒として用いても構わないし、芳香族化合物を分子状酸素が存在する雰囲気中で酸化二量化反応する本発明の反応系中で、反応原料である芳香族化合物の存在下に前述のような方法によって調製したものを触媒として用いても構わない。
【0040】
本発明において、ヘテロ原子含有カルベン化合物が銅に結合してなる銅化合物を含む触媒の一つの実施態様としては、ヘテロ原子含有カルベン化合物が銅に結合してなる銅化合物とパラジウム化合物との組合せ、又はヘテロ原子含有カルベン化合物が銅に結合してなる銅化合物とパラジウム化合物と配位子との組合せからなる触媒を好適に用いることができる。特にヘテロ原子含有カルベン化合物が銅に結合してなる銅化合物とパラジウム化合物と配位子との組合せからなる触媒は、酸化二量化反応生成物の収率が高いので好適である。
【0041】
本発明でヘテロ原子含有カルベン化合物が銅に結合してなる銅化合物との組合せで使用するパラジウム化合物としては、塩化パラジウム、臭化パラジウム、沃化パラジウム、硝酸パラジウム、硫酸パラジウム、水酸化パラジウム、酢酸パラジウム、トリフルオロ酢酸パラジウム、プロピオン酸パラジウム、ピバル酸パラジウム、トリフルオロメタンスルホン酸パラジウム、ビス(アセチルアセトナト)パラジウム、及びビス(1,1,1,5,5,5−ヘキサフルオロアセチルアセトナト)パラジウムなどを挙げることができるが、特に酢酸パラジウム、プロピオン酸パラジウム、ピバル酸パラジウム、トリフルオロ酢酸パラジウム、及び硝酸パラジウムが高い触媒活性を示すことから好適である。
【0042】
本発明において、パラジウム化合物は原料の芳香族化合物に対して0.00001〜0.01倍モル、特に0.00005〜0.001倍モルの割合で好適に用いられる。パラジウム化合物が原料の芳香族化合物に対して0.00001倍モル未満でも反応は進行するが反応速度が遅くなるので好ましくない。また、パラジウム化合物が原料の芳香族化合物に対して0.01倍モルを越えて用いてもよいが、触媒コストを考慮すると経済的ではなくなる。
【0043】
本発明でヘテロ原子含有カルベン化合物が銅に結合してなる銅化合物とパラジウム化合物と組合せて使用する配位子としては、パラジウムと二座で配位して錯体形成をすることができる二座配位子が好ましく、特に、2個の窒素原子によりパラジウムと錯体形成をすることができる二座配位子、2個の酸素原子によりパラジウムと錯体形成をすることができる二座配位子、及び窒素原子と酸素原子とによりパラジウムと錯体形成をすることができる二座配位子が好適である。
【0044】
前記2個の窒素原子によりパラジウムと錯体形成をすることができる二座配位子としては、例えば、化学式(10)、(11)で示される二座配位子を好適に用いることができる。
【0045】
【化10】

(式中、R10は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、ニトロ基、アミノ基、アルキル基、アルコキシ基、又はアリール基である。アルキル基、アルコキシ基、及びアリール基は置換基を有することもできる。)
【0046】
【化11】

(式中、R11は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、ニトロ基、アミノ基、アルキル基、アルコキシ基、又はアリール基である。アルキル基、アルコキシ基、及びアリール基は置換基を有することもできる。)
【0047】
本発明の酸化二量化反応に、このような2個の窒素原子によりパラジウムと錯体形成をすることができる二座配位子を使用すると、例えば原料としてフタル酸ジエステルを用いた場合、対称性のビフェニルテトラカルボン酸テトラエステルを選択的に得ることが可能になる。具体的には、非対称生成物である2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸テトラエステルの生成を抑制し、対称生成物である3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸テトラエステルを選択的に生成させることができる。
【0048】
化学式(10)、(11)で示される二座配位子の具体例としては、1,10−フェナントロリン、2,2’−ビピリジルを好適に挙げることができる。特に、1,10−フェナントロリンは酸化二量化反応を促進する効果が高いので好ましい。
【0049】
また、前記2個の酸素原子によりパラジウムと錯体形成をすることができる二座配位子としては、例えばアセチルアセトン、ベンゾイルアセトン、1,3−ジフェニル‐1,3−プロパンジオン、1,1,1−トリフルオロアセチルアセトン、2,4−ヘキサンジオン、2,4−ヘプタンジオン、1,1,1−トリフルオロ−2,4−ヘキサンジオン、1,1,1,5,5,5−ヘキサフルオロアセチルアセトンなどのβ−ジケトン類を好適に挙げることができる。
【0050】
また、前記窒素原子と酸素原子とによりパラジウムと錯体形成をすることができる二座配位子化合物としては、例えばピリジンカルボン酸、ピリジンカルボン酸メチルエステル、ピリジンカルボン酸エチルエステル、ピラジンカルボン酸、ピラジンカルボン酸メチルエステル、ピラジンカルボン酸エチルエステル、キノリンカルボン酸、イソキノリンカルボン酸、ヒドロキシキノリン、2−ベンゾイルピリジン、2−ピリジルアミドなどの置換基に酸素原子を持つ含窒素ヘテロ環化合物や、N,N−ジメチルグリシン、N,N−ジメチルアセトアミドなどの置換基に酸素原子を持つ脂肪鎖アミン類を好適に挙げることができる。
【0051】
本発明の酸化二量化反応に、前記2個の酸素原子によりパラジウムと錯体形成をすることができる二座配位子化合物、又は窒素原子と酸素原子とによりパラジウムと錯体形成をすることができる二座配位子化合物を使用すると、例えば原料としてフタル酸ジエステルを用いた場合、非対称性のビフェニルテトラカルボン酸テトラエステルを選択的に得ることが可能になる。具体的には、対称生成物である3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸テトラエステルの生成を抑制し、非対称生成物である2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸テトラエステルを選択的に生成させることができる。
【0052】
本発明において、これらの二座配位子化合物は、パラジウム化合物に対して0.1〜5倍モルの割合で用いることが好ましく、特に0.5〜1.5倍モルの割合で用いることが好ましい。0.1倍モル未満では二量化生成物の選択性が十分でなくなる。5倍モルを超える量では触媒活性が低下する場合がある。
【0053】
本発明において、ヘテロ原子含有カルベン化合物が銅に結合してなる銅化合物を含む触媒の別の実施態様としては、ヘテロ原子含有カルベン化合物が銅に結合してなる銅化合物とロジウム化合物との組合せ、又はヘテロ原子含有カルベン化合物が銅に結合してなる銅化合物とロジウム化合物と二座配位子化合物特にβ−ジケトンとの組合せからなる触媒を好適に用いることができる。ヘテロ原子含有カルベン化合物が銅に結合してなる銅化合物とロジウム化合物とβ−ジケトンとの組合せからなる触媒を用いると、触媒の失活を抑制できる場合があるから好適である。
【0054】
前記ロジウム化合物としては、例えば塩化ロジウム、臭化ロジウム、沃化ロジウム、ジ−μ−クロロテトラ(カルボニル)二ロジウム、ジ−μ−クロロテトラ(エチレン)二ロジウム、ジ−μ−クロロテトラ(シクロオクテン)二ロジウム、ジ−μ−クロロビス(1,5−シクロオクタジエン)二ロジウムなどのハロゲン化ロジウム類、ドデカカルボニル四ロジウム、ヘキサカルボニル六ロジウム、ヒドリドテトラカルボニルロジウム、アセチルアセトナトビス(カルボニル)ロジウムなどのカルボニル化ロジウム類、酢酸ロジウム、トリフルオロ酢酸ロジウムなどのカルボン酸ロジウム類、及びアセチルアセチナトビス(エチレン)ロジウム等の無水物及び含水物を挙げることができる。
【0055】
さらに、下記化学式(12)で示される化合物及び含水物が、高い触媒活性を示すことから特に好適である。
【0056】
【化12】

(式中、R12,R13はそれぞれ独立にアルキル基又はアリール基を示し、前記アルキル基又はアリール基は置換基を有しても良い。L’はF、Cl、Br又はIのいずれかの原子を示す。また、nは1〜3のいずれかの整数を示す。)
【0057】
前記化学式(12)で示されるロジウム化合物の具体的としては、トリス(アセチルアセトナト)ロジウム、クロロビス(アセチルアセトナト)ロジウム、トリ(1,1,1,5,5,5−ヘキサフルオロアセチルアセトナト)ロジウム、トリス(1,3−ジフェニル−1,3−プロパンジオネイト)ロジウムなどの無水物及び含水物を好適に挙げることができる。
【0058】
本発明において、ロジウム化合物は原料の芳香族化合物に対して0.00001〜0.01倍モル、特に0.00005〜0.001倍モルの割合で好適に用いられる。ロジウム化合物が原料の芳香族化合物に対して0.00001倍モル未満でも反応は進行するが反応速度が遅くなるので好ましくない。また、ロジウム化合物が原料の芳香族化合物に対して0.01倍モルを越えて用いてもよいが、触媒コストを考慮すると経済的ではなくなる。
【0059】
本発明において、ヘテロ原子含有カルベン化合物が銅に結合してなる銅化合物とロジウム化合物と組合せるβ−ジケトンとしては、下記化学式(13)で示される化合物を好適に用いることができる。
【0060】
【化13】

(式中、R14、R15はそれぞれ独立にアルキル基又はアリール基を示し、前記アルキル基又はアリール基は置換基を有しても良い。R16は水素原子、アルキル基又はアリール基を示し、前記アルキル基又はアリール基は置換基を有しても良い。)
【0061】
前記β−ジケトンの具体例としては、アセチルアセトン、1,1,1,5,5,5−ヘキサフルオロアセチルアセトン、1,3−ジフェニル−1,3−プロパンジオンなどが挙げられる。
【0062】
本発明において、これらのβ−ジケトンは、ロジウム化合物に対して0.01〜50当量、特に0.01〜10当量の割合で用いることが好ましい。0.01当量以下では二量化生成物の選択性が十分でなくなる場合がある。50当量以上用いても差し支えないが、過剰量のβ-ジケトンは触媒反応を阻害する場合があるため好ましいとは言えない。
【0063】
本発明の酸化二量化反応は、無溶媒で反応を行うことができるが、溶媒を用いても構わない。工業的には実質的に反応溶媒を用いないで反応させることが好ましい。溶媒を用いる場合の具体例としては、エチレングリコールジアセテート、アジピン酸ジメチルなどのカルボン酸エステル、ノルマルブチルメチルケトン、メチルエチルケトン、イソプロピルエチルケトンなどのケトン化合物を好適に挙げることができる。また溶媒の使用量は原料の芳香族化合物に対して1〜10000容量倍、好ましくは1〜1000容量倍である。
【0064】
本発明の酸化二量化反応は、反応温度は50〜300℃で行うことが好ましい。さらに好ましくは100〜250℃である。反応温度が50℃以下の温度では反応速度が遅くなり経済的でなく、300℃以上ではビフェニル類以外の三量体などの副生成物の生成が顕著となり、目的化合物の生成量が低下する場合があるため好ましくない。
【0065】
本発明の酸化二量化反応は、分子状酸素が存在する雰囲気中で行われる。分子状酸素は純酸素ガスを供給しても良いが、爆発の危険性を考慮すると窒素ガスや炭酸ガスなどの不活性ガスで希釈した酸素含有ガス(好ましくは、酸素ガス含有量が約5〜50体積%)、又は空気を用いることが安全上好適である。本発明の酸化二量化反応の反応圧力は限定されるものではないが、酸素分圧として0.2〜5気圧程度、空気圧として常圧〜25気圧程度が好適である。また、分子状酸素は反応装置内に封じ込めても良いし、反応装置内特に反応混合物中へ供給して反応装置内を流通させても構わない。
【0066】
本発明では、回分操作、連続操作、半回分操作のいずれの操作法も用いることができる。また反応装置は前記反応操作に対応してどんな形態のものでも構わないが、例えば槽型反応装置、管型反応装置、塔型反応装置などの反応装置を好適に用いることができる。反応器の材質は特に制限されるものではなく、例えばガラス製、ステンレス製などの反応器を好適に用いることができる。
【実施例】
【0067】
以下、本発明を実施例によって更に詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0068】
以下の実施例では、反応原料としてフタル酸ジメチルエステルを用いて、酸化二量化反応の生成物であるビフェニルテトラカルボン酸テトラメチルエステル(以下、BPTTと略記することもある。)を製造している。ここで、酸化二量化反応生成物であるBPTTの収率、触媒回転率(以下、TONと略記することもある。)、及び、酸化二量化反応生成物中の異性体である3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸テトラメチルエステル(以下、s−BPTTと略記することもある。)と2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸テトラメチルエステル(以下、a−BPTTと略記することもある。)の生成量の比(以下、S/Aと略記することもある。)は、次の計算式に従って算出した。
【0069】
【数1】

【0070】
H−NMRは、日本電子社製のAL−300(300MHz)により、CDClを溶媒に用いて室温で測定した。測定結果は、各々のピークについて、(化学シフト(ppm)、分裂パターン(s=singlet,d=doublet,br=broad,m=multiplet)、積分値)の順で表記した。
元素分析は、ジェイ・サイエンス・ラボ社製のマイクロコーダーJM10型を用いて測定した。数値は%表示である。
【0071】
〔参考例1〕
[1,3−ビス(2,6−ジイソプロピルフェニル)イミダゾリウム]塩化銅(I)の合成
25ミリリットルのシュレンク管に1,3−ビス(2,6−ジイソプロピルフェニル)イミダゾリウム クロライド298mg(0.70ミリモル)、ナトリウムt−ブトキシド67.6mg(0.70ミリモル)、及び塩化銅(I)73.4mg(0.74ミリモル)を加え、系内のArガス置換を3回おこなった。これに注射器で溶媒の無水のテトラヒドロフラン5ミリリットルを加え、室温で4時間撹拌した。反応後、セライト濾過により不溶物を除き、溶媒を濃縮した。塩化メチレンとジエチルエーテル混合溶媒系で再沈殿することで、[1,3−ビス(2,6−ジイソプロピルフェニル)イミダゾリウム]塩化銅(I)246mg(0.50ミリモル、収率71%)を白色固体として得た。
得られた白色個体のNMR分析及び元素分析結果は次のとおりであった。
H−NMR(CDCl)の測定結果は、(1.23、d、12H)、(1.28、d、12H)、(2.52−2.62、m、4H)、(7.18、s、2H)、(7.34、d、4H)、(7.53、dd、2H)であった。
元素分析の測定値は、C66.44、H7.28、N5.77(C2736ClCuNとして計算値はC66.51、H7.44、N5.75)であった。
【0072】
〔参考例2〕
[1,3−ビス(2,4,6−トリメチルフェニル)イミダゾリウム]塩化銅(I)の合成
25ミリリットルのシュレンク管に1,3−ビス(2,4,6−トリメチルフェニル)イミダゾリウム クロライド239mg(0.70ミリモル)、ナトリウムt−ブトキシド69.6mg(0.72ミリモル)、及び塩化銅(I)71.3mg(0.72ミリモル)を加え、系内のArガス置換を3回おこなった。これに注射器で溶媒の無水のテトラヒドロフラン5ミリリットルを加え、室温で4時間撹拌した。反応後、反応液を濃縮し、温トルエンで抽出をおこなった。トルエン相をセライト濾過により不溶物を除き、溶媒を濃縮した。塩化メチレンとジエチルエーテル混合溶媒系で再沈殿することで、[1,3−ビス(2,4,6−トリメチルフェニル)イミダゾリウム]塩化銅(I)88.9mg(0.22ミリモル、収率32%)を白色固体として得た。
得られた白色個体のNMR分析及び元素分析結果は次のとおりであった。
H−NMR(CDCl)の測定結果は、(2.12、s、12H)、(2.37、s、6H)、(7.062、s、2H)、(7.064、s、2H)、(7.10、s、2H)であった。
元素分析の測定値は、C62.32、H6.00、N6.87(C2124ClCuNとして計算値はC62.52、H6.00、N6.94)であった。
【0073】
〔参考例3〕
[1.3−ジ−1−アダマンチル−イミダゾリウム]塩化銅(I)の合成
25ミリリットルのシュレンク管に1,3−ジ−1−アダマンチル−イミダゾリウム クロライド201mg(0.54ミリモル)、ナトリウムt−ブトキシド54.6mg(0.57ミリモル)、及び塩化銅(I)56.4mg(0.57ミリモル)を加え、系内のArガス置換を3回おこなった。これに注射器で溶媒の無水のテトラヒドロフラン5ミリリットルを加え、室温で4時間撹拌した。反応後、反応液を濃縮し、温トルエンで抽出をおこなった。トルエン相をセライト濾過により不溶物を除き、溶媒を濃縮した。トルエンで再結晶することで、[1,3−ジ−1−アダマンチル−イミダゾリウム]塩化銅(I)153mg(0.35ミリモル、収率65%)を白色固体として得た。
得られた白色個体のNMR分析及び元素分析結果は次のとおりであった。
H−NMR(CDCl)の測定結果は、(1.77−1.79、br、12H)、(2.26−2.30、br、6H)、(2.39−2.40、br、12H)、(7.07、s、2H)であった。
元素分析の測定値は、C63.45、H7.29、N6.38(C2332ClCuNとして計算値はC63.43、H7.41、N6.43)であった。
【0074】
〔実施例1〕
フタル酸ジメチルエステル238g(1.23モル)、[1,3−ビス(2,6−ジイソプロピルフェニル)イミダゾリウム]塩化銅(I)97.2mg(0.199ミリモル)とを300ミリリットルセパラブルフラスコに加え、温度計、ジムロート冷却管、メカニカルスターラー及びボールフィルターを取り付けた。攪拌しながら、ボールフィルターより空気を130ミリリットル/分で吹き込み、冷却管に冷却水を循環させながらシリコンオイルバスにフラスコを浸けて室温より昇温させた。反応液温80℃で、原料のフタル酸ジメチルエステル1.79g(9.22ミリモル)と触媒成分の酢酸パラジウム30.0mg(0.134ミリモル)と1,10−フェナントロリン26.5mg(0.147ミリモル)とから調製したペースト状黄色溶液である触媒混合物(一段目)を添加し、240℃まで昇温した。その温度で2時間撹拌を続け、次いで同じ組成からなる触媒混合物(二段目)を添加し更に2時間撹拌を続けた後で、更に同じ組成からなる触媒混合物(三段目)を加えて4時間撹拌した。反応後フラスコを空冷した。反応混合物をメタノール及び水で希釈した後、液体クロマトグラフィーで定量分析した。
その結果、酸化二量化反応生成物が収率16.9%(TON=265)で得られた。この生成物の生成量の比(S/A)は91/9であった。
【0075】
〔比較例1〕
フタル酸ジメチルエステル238g(1.23モル)、ビス(アセチルアセトナト)銅(II)31.4mg(0.120ミリモル)とを300ミリリットルセパラブルフラスコに加え、温度計、ジムロート冷却管、メカニカルスターラー及びボールフィルターを取り付けた。攪拌しながら、ボールフィルターより空気を130ミリリットル/分で吹き込み、冷却管に冷却水を循環させながらシリコンオイルバスにフラスコを浸けて室温より昇温させた。反応液温80℃で、原料のフタル酸ジメチルエステル1.79g(9.22ミリモル)と触媒成分の酢酸パラジウム30.0mg(0.134ミリモル)と1,10−フェナントロリン26.5mg(0.147ミリモル)とから調製したペースト状黄色溶液である触媒混合物(一段目)を添加し、240℃まで昇温した。その温度で2時間撹拌を続け、次いで同じ組成からなる触媒混合物(二段目)を添加し更に2時間撹拌を続けた後で、更に同じ組成からなる触媒混合物(三段目)を加えて4時間撹拌した。反応後フラスコを空冷した。反応混合物をメタノール及び水で希釈した後、液体クロマトグラフィーで定量分析した。
その結果、酸化二量化反応生成物が収率11.3%(TON=178)で得られた。この生成物の生成量の比(S/A)は92/8であった。
【0076】
〔実施例2〕
[1,3−ビス(2,6−ジイソプロピルフェニル)イミダゾリウム]塩化銅(I)の使用量を58.9mg(0.121ミリモル)に減らし、且つ触媒混合物(三段目)を加えた後の撹拌時間を3時間に短縮したこと以外は、実施例1と同様に反応及び分析をおこなった。
その結果、酸化二量化反応生成物が収率13.0%(TON=204)で得られた。この生成物の生成量の比(S/A)は92/8であった。
【0077】
〔実施例3〕
[1,3−ビス(2,4,6−トリメチルフェニル)イミダゾリウム]塩化銅(I)48.3mg(0.120ミリモル)を使用したこと以外は、実施例1と同様に反応及び分析をおこなった。
その結果、酸化二量化反応生成物が収率12.4%(TON=195)で得られた。この生成物の生成量の比(S/A)は92/8であった。
【0078】
〔実施例4〕
[1,3−ジ−1−アダマンチル−イミダゾリウム]塩化銅(I)52.4mg(0.120ミリモル)を使用し、且つ触媒混合物(三段目)を加えた後の撹拌時間を3時間に短縮したこと以外は、実施例1と同様に反応及び分析をおこなった。
その結果、酸化二量化反応生成物が収率11.8%(TON=186)で得られた。この生成物の生成量の比(S/A)は92/8であった。
【0079】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明により、従来公知の銅化合物を用いた酸化二量化反応よりも高収率(高TON)で目的生成物を得ることができる。例えばフタル酸ジエステルを原料にして従来よりも高効率(高TON)で、従ってより経済的に、ビフェニルテトラカルボン酸テトラエステルを得ることができる。ビフェニルテトラカルボン酸テトラエステルは電子材料として有用なポリイミドの原料として用いられることから本発明は経済的観点から有用性が高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族化合物を、分子状酸素が存在する雰囲気中で、ヘテロ原子含有カルベン化合物が銅に結合してなる銅化合物を含む触媒を用いて酸化二量化することを特徴とするビフェニル類の製造方法。
【請求項2】
芳香族化合物がフタル酸ジエステルであることを特徴とする請求項1に記載のビフェニル類の製造方法。
【請求項3】
ヘテロ原子含有カルベン化合物が銅に結合してなる銅化合物を含む触媒が、パラジウム化合物を含んでいることを特徴とする前記請求項1〜2のいずれかに記載のビフェニル類の製造方法。
【請求項4】
ヘテロ原子含有カルベン化合物が銅に結合してなる銅化合物を含む触媒が、ロジウム化合物を含んでいることを特徴とする前記請求項1〜2のいずれかに記載のビフェニル類の製造方法。
【請求項5】
ヘテロ原子含有カルベン化合物が銅に結合してなる銅化合物を含有することを特徴とする芳香族化合物の酸化二量化反応用触媒。


【公開番号】特開2006−36643(P2006−36643A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−214286(P2004−214286)
【出願日】平成16年7月22日(2004.7.22)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】