説明

ビルトインセルフシーリング層および保護層を有する空気式タイヤ

外側ゴムトレッド、カーカス補強材、該カーカス補強材に対して内側に位置する気密層、最内部に位置する保護層および該保護層に隣接し且つ上記気密層に対して内側に位置するセルフシーリング層を含むビルトインセルフシーリング層を有する空気式タイヤであって、上記保護層が塩素化熱可塑性ポリマーフィルムであることを特徴とする上記空気式タイヤ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ内壁上に位置して稼働中のあらゆる穿孔を封鎖するためのセルフシーリング層を含む空気式タイヤに関し、さらに詳細には、上記セルフシーリング層を加硫前の空気式タイヤのブランク内に取付けるそのような空気式タイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
多くの文献が、セルフシーリング層をタイヤ内表面の全部または一部上に含むそのような空気式タイヤを開示している。
例えば、文献US 4418093号は、セルフシーリング材料の層を、加硫した空気式タイヤの内壁上に、空気式タイヤの回転およびその後の、上記セルフシーリング材を十分に架橋させてもはや流動しなくなるまでの揺動運動の組合せによって均一に位置付けする方法を提示している。
【0003】
セルフシーリング層を空気式タイヤの未硬化ブランク内で位置付けする場合、直面する1つの問題は、加硫段階における硬化用膜に強力に付着するセルフシーリング層の極めて粘着性の性質による。加硫させた空気式タイヤを硬化モールドから取出した後、セルフシーリング層の一部は、膜壁に接着結合したままであり、膜の急速な廃物化に至り得る。また、この高温加硫段階においては、上記セルフシーリング層の構成成分も硬化用膜中に移行して、硬化用膜の稼動寿命を短縮させ得る。修正液または液体シリコーンのような慣例的に使用される非粘着剤は、この問題を解決するためには全く不適切である。
【0004】
この問題を解決するために、文献US 2009/0084482 A1号は、タイヤの製造中に組込むセルフシーリング層を有する空気式タイヤを開示している。この空気式タイヤは、外側ゴムトレッド、カーカス補強材、該カーカス補強材に対して内側に位置する気密層および最内部に位置する保護層を含む。また、この空気式タイヤは、上記分離可能な保護層に隣接し且つ気密層に対して内側に位置するセルフシーリング層も含む。上記分離可能な保護層は、ナイロンのまたはナイロンとゴムの混合物の熱可塑性フィルムである。
【0005】
上記の保護層は、空気式タイヤの製造を、上記セルフシーリング層と空気式タイヤのブランクの組立用器具間の如何なる接触も回避することによって容易にしている。この層は、分離可能であると説明されている、即ち、この層は、タイヤの加硫後の上記セルフシーリング層の表面から、この層の全部または一部を切断することなくまた引き裂かれることもなく除去することが可能である。
【発明の概要】
【0006】
本発明の1つの主題は、上述した空気式タイヤと同様な空気式タイヤであり、その保護層が塩素化熱可塑性ポリマーから構成されるフィルムであり、該塩素化熱可塑性ポリマーがエチレン/酢酸ビニルコポリマー、ポリブテン、ポリエステル、塩化ビニル/酢酸ビニルコポリマー、メリテート、シアヌル酸トリアリル、架橋性アクリル化合物、エポキシ化オイルおよびこれらの混合物によって形成される群から選ばれる少なくとも1種の可塑化用添加剤を含むことを特徴とする。
【0007】
上記リストに包含させた可塑剤は、上記塩素化熱可塑性フィルムの良好な熱安定性に有利に作用する。
好ましくは、上記可塑化用添加剤は、エチレン/酢酸ビニルコポリマー、塩化ビニル/酢酸ビニルコポリマー、ポリブテン、ポリエステル、架橋性アクリル化合物およびこれらの混合物によって形成される群から選ばれるポリマーである。
そのようなポリマー可塑化用添加剤が、好ましくは、2000g/モルと10000g/モルの間の数平均分子量(Mn)を有する。
【0008】
加硫段階において、アジピン酸ジオクチル(または低分子量の他のアジペートまたはフタレート)を主要可塑剤として添加している塩素化熱可塑性フィルム、例えば、PVCフィルムの性質は、この可塑剤の隣接ゴムブレンド(一方のセルフシーリング層、他方の硬化用膜)への拡散によって大きく変化していることが観察されている。この変化は、上記熱可塑性フィルム中に極めて劣化性の亀裂の出現に至り得る。
【0009】
上記ポリマー可塑化用添加剤の分子量は、これらの可塑剤の硬化用膜および/または隣接セルフシーリング層への移行をタイヤの架橋段階において可能な限り抑制するように十分に高くなければならない。分子量が2000g/モルよりも高くなる場合、上記可塑化用添加剤の拡散は上記フィルムの機械的強度をもはや損なうことなく十分に遅く、他方で、分子量が10000g/モルよりも高くなる場合は、上記可塑化用添加剤は、その上記熱可塑性フィルムの可塑剤としての役割をもはや正確には満たさないことが観察されている。
【0010】
また、好ましくは、上記塩素化熱可塑性フィルムは、スズ塩、カルシウム塩、バリウム塩、亜鉛塩、過塩素酸塩、アミンおよびそれらの混合物の群から選ばれる少なくとも1種の二次添加剤も含む。
これらの二次添加剤は、上記熱可塑性フィルムの熱安定剤であり、上記塩素化フィルムの熱劣化速度を極めて実質的に遅らせる。上記の金属塩は、エポキシ化オイルと一緒に有利に使用し得る。
【0011】
また、上記塩素化熱可塑性フィルムは、フタレートおよびアジペートの群から選ばれる添加剤も含み得るが、これら添加剤の含有量は、低く、好ましくは2質量%未満でなければならない。
有利には、上記塩素化熱可塑性ポリマーの数平均分子量(Mn)は、50000g/モルよりも高い。従って、このポリマーは、極めて高い分子量を有し、不安定な官能基の数を減少させ、上記フィルムの高温耐性を改善する。
【0012】
上記塩素化熱可塑性ポリマーは、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)および塩素化ポリ塩化ビニル(CPVC)の群から選択し得る。
上記保護フィルムの厚さは、7マイクロメートルと50マイクロメートルの間、好ましくは10マイクロメートルと30マイクロメートルの間であり得る。
後者の論点は重要である。何故ならば、フィルムが、例えば、7μm未満の不十分な厚さを有する場合、亀裂の出現が、空気式タイヤの成形段階、即ち、タイヤ製造の最初の段階において観察され得ることを観察しているからである。そのような塩素化熱可塑性フィルムは、この第1製造段階に耐えるためには、10μm以上の厚さを有しなければならない。
【0013】
しかしながら、そのようなフィルムは、これらのフィルムをタイヤ製造の第2段階、即ち、加硫直前の仕上げ段階において適用することによって使用し得る。
上述したように、そのような熱可塑性フィルムは、空気式タイヤの構築を、本質的に極めて高粘度の上記セルフシーリング層に関連する問題の全てを排除しながら可能にする。上記保護フィルムは、一方のセルフシーリング層と、他方のアッセンブリドラム、その後の硬化用膜の間の隔離体として作用する。
【0014】
これらのフィルムの配合は、にもかかわらず、保護フィルムとして使用することができるためには、下記の特徴を有さなければならない:
・20MPaよりも低い、上記フィルムの100%歪みおよび周囲温度での一軸延伸における初期断面に対する応力;10〜30マイクロメートル程度の厚さにおいては、これらのフィルムは、周囲温度において容易に伸縮自在であり、従って、空気式タイヤの硬化用モールド内での成形および配置の工程を妨げない;
・一軸延伸中の90%よりも大きい、好ましくは周囲温度における150%よりも大きい破断点伸び;そのフィルムは、空気式タイヤの製造中の全ての応力に、引裂かれることまたは破断することなく耐え得る;そして、
・上記熱可塑性フィルムは、乗用車の空気式タイヤの場合にその役割を満たすために、その性質およびその組成を有意に変化させることなく、およそ170〜175℃までの温度上昇に約10分間耐えることができなければならない。
【0015】
当業者であれば、保護フィルムの組成を如何に調整して必要とする特性レベルを獲得するかは承知しているであろう。
1つの好ましい実施態様によれば、上記塩素化熱可塑性フィルムは、上記熱可塑性保護フィルムの唯一のポリマー構成成分である。
【0016】
本発明の1つの実施態様によれば、上記セルフシーリング層は、少なくとも1種の熱可塑性スチレン(TPS)エラストマーと200phrよりも多い該エラストマーの増量剤オイルとを含み得る(phrは固形エラストマー100質量部当りの質量部を示す)。
上記TPSは、セルフシーリング層の主要エラストマーであり得る。
【0017】
上記TPSエラストマーは、スチレン/ブタジエン/スチレン(SBS)、スチレン/イソプレン/スチレン(SIS)、スチレン/イソプレン/ブタジエン/スチレン(SIBS)、スチレン/エチレン/ブチレン/スチレン(SEBS)、スチレン/エチレン/プロピレン/スチレン(SEPS)およびスチレン/エチレン/エチレン/プロピレン/スチレン(SEEPS)の各ブロックコポリマー並びにこれらコポリマーの混合物によって構成される群から選択し得る。
有利には、上記TPSエラストマーは、SEBSコポリマー、SEPSコポリマーおよびこれらコポリマーの混合物によって構成される群から選ばれる。
【0018】
もう1つの実施態様によれば、上記セルフシーリング層は、少なくとも下記を含み得る:
(a) 主要エラストマーとしての、不飽和ジエンエラストマー;
(b) 30phrと90phrの間の量の炭化水素樹脂;
(c) 0phrと60phrの間の質量含有量の、Tg (ガラス転移温度)が−20℃よりも低い液体可塑剤;および、
(d) 0〜30phr未満の充填剤。
【0019】
上記不飽和ジエンエラストマーは、有利には、ポリブタジエン、天然ゴム、合成ポリイソプレン、ブタジエンコポリマー、イソプレンコポリマーおよびそのようなエラストマーの混合物によって構成される群から選択される。
上記不飽和ジエンエラストマーは、有利には、好ましくは天然ゴム、合成ポリイソプレンおよびそのようなエラストマーの混合物によって構成される群から選ばれるイソプレンエラストマーであり得る。
有利には、上記不飽和ジエンエラストマーの含有量は、50phrよりも多く、好ましくは70phrよりも多い。
実施態様の詳細は、全て以下の説明において提示し、図面1〜3によって補完する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の1つの実施態様に従う空気式タイヤの半径断面を極めて概略的に示す(明確な縮尺によっていない)。
【図2】部分半径断面において、本発明の1つの実施態様に従うタイヤブランクを示す。
【図3】配合用スクリュー押出機のダイアグラムを示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施態様の詳細な説明
図1は、本発明の1つの実施態様に従う保護層と一緒にセルフシーリング層を組込んでいる空気式タイヤまたはタイヤの半径断面を略図的に示している。
【0022】
このタイヤ1は、クラウン補強材即ちベルト6によって補強されたクラウン2、2つの側壁3および2つのビード4を有し、これらのビード4の各々は、ビードワイヤー5によって補強されている。クラウン補強材6は、その外側にゴムトレッド9が放射状に取付けられている。カーカス補強材7は、各ビード4内の2本のビードワイヤー5の周りに巻付けられており、この補強材7の上返し8は、例えば、タイヤ1の外側に向って位置している。カーカス補強材7は、それ自体知られている通り、“ラジアル”コードと称するコード、例えば、繊維または金属コードによって補強されている少なくとも1枚のプライからなる、即ち、これらのコードは、実際上、互いに平行に配置されて一方のビードから他方のビードに延びて円周正中面(2つのビード4の中間に位置しクラウン補強材6の中央を通るタイヤの回転軸に対して垂直の面)と80°と90°の間の角度をなしている。気密層10は、一方のビードから他方のビードへカーカス補強材7に対して内側に放射状に延びている。
【0023】
タイヤ1は、その内壁がセルフシーリング層11を含むようなタイヤである。本発明の好ましい実施態様によれば、上記セルフシーリング層11は、空気式タイヤのクラウン2の領域内で気密層10を被覆する。また、上記セルフシーリング層は、クラウン領域から空気式タイヤの側壁の中心点(赤道)までまたは越えてさえ伸びていてもよい。上記セルフシーリング層11は、その内側上で保護層12によって放射状に被覆されている。
【0024】
上記保護層12は、塩素化ポリマーから構成される熱可塑性フィルムである。例えば、そのようなフィルムは、Linpac社からの原材料Triolinから製造した8マイクロメートルの厚さを有するフィルムであり得る。
上記保護層12は、上記セルフシーリング層を、空気式タイヤの製造用のドラムとの、さらに、その後の加硫モールドの硬化用膜との如何なる接触からも隔離することを可能にする。
【0025】
上記保護層の熱可塑性フィルムの主要構成成分は、塩素化ポリマーである。これらのポリマーの最も知られているものは、ポリ塩化ビニル即ちPVCである。ポリ塩化ビニリデン(PVDC)は、塩化ビニリデンのホモポリマーであり、好ましくは、PVCとのブレンドとして適切であり得る。また、65%〜69%の塩素(PVCにおける56%の代りに)を含有する塩素化PV即ちCPVCを使用することも可能である。
保護層としての用途においては、特に50 000g/モルよりも高い高分子量のポリマーを使用することが好ましい。このことは、得られるフィルムの高温耐性を増進させる。
【0026】
純粋PVCのガラス転移温度は、等級に応じて、75℃〜105℃程度である。従って、可塑化用添加剤をPVCまたは他のポリマーに添加してこのガラス転移温度を室温よりも低く低下させ、そして、操作温度範囲全体に亘って伸長可能であるフィルムを取得することが必要である。
保護層としての使用は、高温、即ち、空気式タイヤ架橋の高温度での使用の可能性および数分間の持続時間を必要とする。
以下の可塑剤が、そのような高温での使用において好ましい:ポリマー添加剤、エポキシ化オイル、メリテートおよびシアヌル酸トリアリル。
【0027】
下記の幾つかのポリマー添加剤を、可塑剤として使用し得る。
特に、これら添加剤は、エチレン/酢酸ビニル即ちEVAコポリマーおよび塩化ビニル/酢酸ビニル即ちVC/VAコポリマーである。
使用することのできるVC/VAコポリマーの例は、良好な可撓性を得るための80〜90%程度の塩化ビニル含有量を有するコポリマーである。
また、イソプレンとイソブチレンのコポリマーであるポリブテンおよび脂肪酸をベースとするポリエステルの使用も可能である。
【0028】
これらのポリマー可塑化用添加剤は、好ましくは、良好な可塑化特性を保持すると共に高温での移行の影響を実質的に受け難いように、2000g/モルと10000g/モルの間の分子量を有する。これら添加剤の含有量は、塩素化ポリマーの100質量部当り5質量部と30質量部の間で変動し得る。
また、メリテート類も可塑化剤として使用し得、これらの中では、特に、トリメリテートおよびピロメリテートが挙げられる。これらメリテートの使用含有量は、120部までの範囲であり得る。
【0029】
また、シアヌル酸トリアリルも、その高温安定化特性のために使用し得る。
また、可塑剤として、エポキシ化オイル、特に、5部と15部の間の含有量のダイズ油またはアマニ油を使用することも可能である。
最後に、可塑剤としては、架橋性アクリル化合物を使用することが可能である。
【0030】
また、好ましくは、上記塩化熱可塑性フィルムは、スズ塩、カルシウム塩、バリウム塩、亜鉛塩、過塩素酸塩、アミン、およびこれらの混合物の群から選ばれる二次添加剤も含む。
これらの二次添加剤は、熱可塑性フィルムの熱安定剤であり、上記塩素化フィルムの熱劣化速度を極めて実質的に遅らせる。上述した金属塩は、有利には、エポキシ化オイルと一緒に使用し得る。
これらの二次添加剤は、0.1部と5部の間の含有量で使用する。
また、上記塩素化熱可塑性フィルムは、フタレートおよびアジペートの群から選ばれる標準の添加剤も含むが、これら添加剤の含有量は、空気式タイヤの架橋中の移行現象を抑制するために、低く、好ましくは、1質量%未満でなければならない。
【0031】
1つの実施態様によれば、上記セルフシーリング層11は、熱可塑性スチレン(TPS)エラストマーと200phrよりも多い該エラストマーの増量剤オイルを含む。上記熱可塑性スチレンエラストマーは、スチレンをベースとするブロックコポリマーの形にある熱可塑性エラストマーである。
熱可塑性ポリマーとエラストマーの間の中間の構造を有することによって、これらの熱可塑性スチレンエラストマーは、知られているとおり、可撓性エラストマー、例えば、ポリブタジエン、ポリイソプレンまたはポリ(エチレン/ブチレン)単位によって連結された硬質ポリスチレン単位からなる。これらのエラストマーは、多くの場合、軟質セグメントによって連結された2個の硬質セグメントを有するトリブロックエラストマーである。上記硬質および軟質セグメントは、線状に、星型状に或いは枝分れ形で配列させ得る。
【0032】
上記TPSエラストマーは、スチレン/ブタジエン/スチレン(SBS)、スチレン/イソプレン/スチレン(SIS)、スチレン/イソプレン/ブタジエン/スチレン(SIBS)、スチレン/エチレン/ブチレン/スチレン(SEBS)、スチレン/エチレン/プロピレン/スチレン(SEPS)およびスチレン/エチレン/エチレン/プロピレン/スチレン (SEEPS)の各ブロックコポリマー、並びにこれらのコポリマーの混合物によって構成される群から選ばれる。
さらに好ましくは、上記エラストマーは、SEBSコポリマー、SEPSコポリマーおよびこれらのコポリマー混合物によって構成される群から選ばれる。
【0033】
上記TPSエラストマーは、エラストマーマトリックスの全体を、或いはエラストマーマトリックスが1種以上の他のエラストマー(熱可塑性または非熱可塑性エラストマー、例えば、ジエンタイプの)を含む場合のエラストマーマトリックスの質量による主要量(好ましくは50%よりも多く、より好ましくは70%よりも多く)を構成し得る。
【0034】
そのようなセルフシーリング層の例およびそれらの層の性質は、文献FR 2910382号、FR 2910478号およびFR 2925388号に記載されている。
そのようなセルフシーリング層は、平坦な形状要素の構築用ドラム上へのその適用に適する寸法への押出加工によって予備成形し得る。1つの典型的な実施態様は、文献FR 2925388号に示されている。
【0035】
もう1つの典型的な実施態様によれば、上記セルフシーリング層11は、主要エラストマーとしての(好ましくは50phrよりも多い含有量を有する)、不飽和ジエンエラストマー、30phrと90phrの間の量の炭化水素樹脂および0phrと60phrの間の含有量でもっての−20℃よりも低いTgを有する液体可塑剤を少なくとも含むエラストマー組成物からなる(phrは、100質量部の固形エラストマー当りの質量部を示す)。上記セルフシーリング層は、充填剤を含有しないか或いは多くても30phr未満の充填剤しか含有しないというもう1つの本質的な特徴を有する。
【0036】
用語“ジエン”エラストマーまたはゴムは、知られているとおり、ジエンモノマー(即ち、共役型であり得るまたはあり得ない2個の炭素‐炭素二重結合を含有するモノマー)から少なくとも一部得られるエラストマー(即ち、ホモポリマーまたはコポリマー)を意味するものと理解すべきである。
これらのジエンエラストマーは、2つのカテゴリー、即ち、飽和および不飽和に分類し得る。本出願においては、用語“不飽和”(または“本質的に不飽和”)のジエンエラストマーは、共役ジエンモノマーから少なくとも一部得られ、30モル%よりも多い共役ジエンから得られる単位含有量を有するジエンエラストマーを意味するものと理解されたい。従って、ブチルゴムまたはEPDMタイプのジエン類とα‐オレフィン類とのコポリマーのようなジエンエラストマーは、その低いジエン起源単位含有量(常に15モル%未満)故に、この定義からは除外され、“飽和”または“本質的に飽和”のジエンエラストマーと称し得る。
【0037】
好ましくは、50%よりも多いジエン起源(共役ジエン)単位含有量(モル%)を有する不飽和ジエンエラストマー使用する;そのようなジエンエラストマーは、さらに好ましくは、ポリブタジエン(BR)、天然ゴム(NR)、合成ポリイソプレン(IR)、ブタジエンコポリマー(例えば、スチレン‐ブタジエンゴム即ちSBR)、イソプレンコポリマー (勿論、ブチルゴム以外)およびそのようなエラストマーのブレンドによって形成される群から選ばれる。
【0038】
液体タイプのジエンエラストマーと比較して、上記組成物の不飽和ジエンエラストマーは、定義によれば、固体である。好ましくは、その数平均分子量(Mn)は、100000g/モルと5000000g/モルの間、より好ましくは200000g/モルと4000000g/モルの間である。Mn値は、例えば、SECにより、既知の方法で測定する:溶媒 テトラヒドロフラン;温度 35℃;濃度 1g/l;流量 1ml/分;注入前に0.45μmの有孔度を有するフィルターで濾過した溶液;標準(ポリイソプレン)を使用したムーア(Moore)較正;直列で4本のWATERSカラムセット(“STYRAGEL”HMW7、HMW6Eおよび2本のHT6E);示差屈折計(WATERS 2410)検出およびその関連操作ソフトウェア(WATERS EMPOWER)。
【0039】
さらに好ましくは、上記セルフシーリング層の組成物の不飽和ジエンエラストマーは、イソプレンエラストマーである。用語“イソプレンエラストマー”とは、知られているとおり、イソプレンホモポリマーまたはコポリマー、換言すれば、天然ゴム(NR)、合成ポリイソプレン(IR)、ブタジエン/イソプレンコポリマー(BIR)、スチレン/イソプレンコポリマー(SIR)、スチレン/ブタジエン/イソプレンコポリマー(SBIR)およびこれらのエラストマーのブレンドによって形成される群から選ばれるジエンエラストマーを意味するものと理解されたい。
【0040】
このイソプレンエラストマーは、好ましくは、天然ゴムまたは合成シス‐1,4‐ポリイソプレンである。これらの合成ポリイソプレンのうちでは、好ましくは90%よりも多い、より好ましくは95%よりも多い、特に98%よりも多いシス‐1,4結合含有量(モル%)を有するポリイソプレンを使用する。
上記不飽和ジエンエラストマー、特に、天然ゴムのようなイソプレンエラストマーは、エラストマーマトリックスの全てを或いはエラストマーマトリックスが1種以上の他のジエンエラストマーまたは非ジエンエラストマー(例えば、熱可塑性エラストマータイプの)を含有する場合はそのエラストマーマトリックスの質量による主要量(好ましくは50%より多く、より好ましくは70%よりも多くを含む)を構成し得る。換言すれば、また、好ましくは、上記組成物においては、不飽和(固形)ジエンエラストマー、特に、天然ゴムのようなイソプレンエラストマーの含有量は、50phrよりも多く、より好ましくは70phrよりも多い。さらにより好ましくは、不飽和ジエンエラストマー、特に、天然ゴムのようなイソプレンエラストマーのこの含有量は、80phrよりも多い。
【0041】
1つの特定の実施態様によれば、上記不飽和ジエンエラストマーは、特に天然ゴムのようなイソプレンジエンエラストマーである場合、セルフシーリング組成物中に存在する唯一のエラストマーである。しかしながら、上記不飽和ジエンエラストマーは、他の可能性ある実施態様によれば、小含有量(質量による)の他の(固形)エラストマーと組合せ得る;これらの他のエラストマーは、不飽和ジエンエラストマー(例えば、BRまたはSBR)、または飽和ジエンエラストマー(例えば、ブチル)、またはジエンエラストマー以外のエラストマー、例えば、例えばスチレン/ブタジエン/スチレン(SBS)、スチレン/イソプレン/スチレン(SIS)、スチレン/ブタジエン/イソプレン/スチレン(SBIS)、スチレン/イソブチレン/スチレン(SIBS)、スチレン/エチレン/ブチレン/スチレン(SEBS)、スチレン/エチレン/プロピレン/スチレン(SEPS)、スチレン/エチレン/エチレン/プロピレン/スチレン(SEEPS)の各ブロックコポリマー並びにこれらのコポリマーのブレンドによって形成される群から選ばれる熱可塑性スチレン(TPS)エラストマーのいずれかである。
【0042】
驚くべきことに、充填していない(または極めて軽度に充填した)この不飽和ジエンエラストマーは、熱可塑性炭化水素樹脂を推奨の狭い範囲で添加した後に、本説明の残余において詳細に説明するように、高度に有効なセルフシーリング組成物の機能を満たし得ることが判明している。
【0043】
上記セルフシーリング組成物の第2の本質的構成成分は、炭化水素樹脂である。
用語“樹脂”とは、本出願においては、当業者にとって既知であるように、定義によれば、オイルのような液体可塑剤化合物とは対照的に、室温(23℃)で固体である化合物に対して使用される。
【0044】
炭化水素樹脂は、炭素と水素を本質的にベースとする、当業者にとって周知のポリマーであり、特に、ポリマーマトリックス中で可塑剤または粘着付与剤として使用し得る。炭化水素樹脂は、使用する含有量において、真の希釈剤として作用するように、意図するポリマー組成物と本来混和性(即ち、相溶性)である。炭化水素樹脂は、例えば、R. Mildenberg、M. ZanderおよびG. Collin (New York, VCH, 1997, ISBN 3‐527‐28617‐9)による“Hydrocarbon Resins”と題した著作物に記載されており、その第5章は、炭化水素樹脂の特にゴムタイヤの用途に当てられている(5.5. "Rubber Tires and Mechanical Goods")。炭化水素樹脂は、脂肪族、脂環式、芳香族、水素化芳香族、または脂肪族/芳香族タイプであり得、即ち、脂肪族および/または芳香族モノマーをベースとし得る。炭化水素樹脂は、石油系(その場合、石油樹脂としても知られている)または石油系でない天然または合成樹脂であり得る。
【0045】
炭化水素樹脂のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは0℃よりも高く、特に20℃よりも高い(通常は、30℃と95℃の間)。
また、知られているとおり、これらの炭化水素樹脂は、これらの樹脂が加熱したときに軟化し、従って、成形することができる点で、熱可塑性樹脂とも称し得る。また、炭化水素樹脂は、例えば、軟化点または軟化温度(この温度において、例えば粉末形の樹脂生成物は一緒になってケーキ化する)によっても定義し得る。この軟化点は、概してかなり不十分に定義されている樹脂の融点と置き換わる傾向にある。炭化水素樹脂の軟化点は、一般に、Tg値よりも約50〜60℃高い。
上記セルフシーリング層の組成物においては、上記樹脂の軟化点は、好ましくは40℃よりも高く(特に40℃と140℃との間)、より好ましくは50℃よりも高い(特に50℃と135℃の間)。
【0046】
上記樹脂は、30phrと90phrの間の質量による量で使用する。30phrよりも低いと、パンク防止性能が、組成物の過剰の剛性のために、不十分であることが判明しており、一方、90phrよりも高いと、上記材料は、不十分な機械的強度を有し、しかも、その性能が高温(典型的には60℃よりも高い)において劣化するというリスクを伴う。これらの理由により、上記樹脂の含有量は、好ましくは40phrと80phrの間の、さらに好ましくは少なくとも45phrに等しい、特に45〜75phrの範囲内の量である。
【0047】
セルフシーリング層の好ましい実施態様によれば、上記炭化水素樹脂は、下記の特徴の少なくとも(いずれか)1つ、さら好ましくは全てを有する:
・25℃よりも高いTg
・50℃よりも高い(特に50℃と135℃の間の)軟化点;
・400g/モルと2000g/モルの間の数平均分子量(Mn);および、
・3よりも低い多分散性指数(Ip) (Ip = Mw/Mn、式中、Mwは質量平均分子量であること思い起こされたい)。
【0048】
さら好ましくは、この炭化水素樹脂は、下記の特徴の少なくとも(いずれか)1つ、より好ましくは全てを有する:
・25℃と100℃の間(特に30℃と90℃の間)のTg
・60℃よりも高い、特に60℃と135℃の間の軟化点;
・500g/モルと1500g/モルの間の数平均分子量Mn;および、
・2よりも低い多分散性指数Ip
【0049】
Tgは、ASTM D3418 (1999年)規格に従って測定する。軟化点は、ISO4625規格(“RingおよびBall”の方法)に従って測定する。マクロ構造(Mw、MnおよびIp)は、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によって測定する:溶媒 テトラヒドロフラン;温度 35℃;濃度 1g/l;流量 1ml/分;注入前に0.45μmの有孔度フィルターにより濾過した溶液;ポリスチレン標準を使用するムーア(Moore)較正;直列の3本WATERSカラムセット(“STYRAGEL”HR4E、HR1およびHR0.5);示差屈折計(WATERS2410)検出およびその関連操作ソフトウェア(WATERS EMPOWER)。
【0050】
そのような炭化水素樹脂の例としては、シクロペンタジエン(CPDと略記する)またはジシクロペンタジエン(DCPDと略記する)のホモポリマーまたはコポリマー樹脂、テルペンのホモポリマーまたはコポリマー樹脂、C5留分のホモポリマーまたはコポリマー樹脂、およびこれらの樹脂のブレンドによって形成される群から選ばれる炭化水素樹脂を挙げることができる。上記のコポリマー樹脂のうちでは、さらに詳細には、(D)CPD/ビニル芳香族コポリマー樹脂、(D)CPD/テルペンコポリマー樹脂、(D)CPD/C5留分コポリマー樹脂、テルペン/ビニル芳香族コポリマー樹脂、C5留分/ビニル芳香族コポリマー樹脂、およびこれらの樹脂のブレンドによって形成される群から選ばれるコポリマーを挙げることができる。
【0051】
用語“テルペン”は、この場合、知られている通り、アルファ‐ピネンモノマー、ベータ‐ピネンモノマーおよびリモネンモノマーを包含する。好ましくは、リモネンモノマーを使用する;この化合物は、知られている通り、3種の可能性ある異性体の形である:L‐リモネン(左旋性鏡像体)、D‐リモネン(右旋性鏡像体)或いはジペンテン(右旋性鏡像体と左旋性鏡像体のラセミ体混合物)。適切なビニル芳香族モノマーは、例えば、スチレン;アルファ‐メチルスチレン;オルソ‐メチルスチレン、メタ‐メチルスチレンおよびパラ‐メチルスチレン;ビニルトルエン;パラ‐tert‐ブチルスチレン;メトキシスチレン類;クロロスチレン類;ヒドロキシスチレン類;ビニルメシチレン;ジビニルベンゼン、ビニルナフタレンおよびC9留分(または、より一般的にはC8〜C10留分)に由来する任意のビニル芳香族モノマーである。
【0052】
さら詳細には、(D)CPDホモポリマー樹脂、(D)CPD/スチレンコポリマー樹脂、ポリリモネン樹脂、リモネン/スチレンコポリマー樹脂、リモネン/(D)CPDコポリマー樹脂、C5留分/スチレンコポリマー樹脂、C5留分/C9留分コポリマー樹脂、およびこれらの樹脂のブレンドによって形成された群から選ばれる樹脂を挙げることができる。
【0053】
上記樹脂は、全て、当業者にとって周知であり、例えば、ポリリモネン樹脂に関しては、DRT社から品名“Dercolyte”として販売されており;C5留分/スチレン樹脂またはC5留分/C9留分樹脂に関しては、Neville Chemical Company社から品名“Super Nevtac”として販売されており、またはKolon社から品名“Hikorez”として販売されており;或いは、Struktol社から品名“40 MS”または“40 NS”としてまたはExxon Mobil社から品名“Escorez”(これらは芳香族および/または脂肪族樹脂のブレンドである)として販売されている。
【0054】
上記セルフシーリング組成物は、60phrよりも少ない(換言すれば、0phrと60phrの間の)含有量でもって、“低Tg”可塑剤と称する液体(23℃で)である可塑剤をさらに含むという本質的な特徴を有し、この可塑剤の機能は、特に、上記ジエンエラストマーと炭化水素樹脂を希釈することによってマトリックスを軟質化させることであり、特に“低温”セルフシーリング性能 (即ち、典型的には0℃よりも低い温度における性能)を改良することである。そのTgは、定義によれば、−20℃よりも低く、好ましくは−40℃よりも低い。
【0055】
芳香族性または非芳香族性いずれかの任意の液体エラストマーまたは任意の増量剤オイル、即ち、より一般的にはエラストマー、特に、ジエンエラストマーに対するその可塑化特性について知られている任意の液体可塑剤を使用し得る。室温(23℃)において、これらの可塑剤またはオイル類は、比較的粘稠であり、特にその性質からして室温で固体である炭化水素樹脂と対比して液体(即ち、注釈すれば、最終的にその容器の形に適合する能力を有する物質)である。
【0056】
特に適するのは、例えば、上述した特許文献US 4913209号、US 5085942号およびUS 5295525号に記載されているような、例えば、液体BR、液体SBR、液体IRまたは解重合天然ゴムの形の、典型的には300と90000の間、より一般的には400と50000の間の低数平均分子量(Mn)を有する液体エラストマーである。また、そのような液体エラストマーと下記で説明するようなオイル類とのブレンドも使用することができる。
【0057】
また、増量剤オイル、特に、ポリオレフィンオイル(即ち、オレフィン、モノオレフィンまたはジオレフィンの重合から得られるオイル);パラフィン系オイル、ナフテン系オイル(低または高粘度を有し、水素化または非水素化の);芳香族またはDAE (留出物芳香族系抽出物(distillate aromatic extract))オイル、MES (中度抽出溶媒和物(medium extracted solvate))オイル、TDAE(処理留出物芳香族系抽出物(treated distillate aromatic extract))オイル、鉱油、植物油(およびそのオリゴマー、例えば、ナタネ油、ダイズ油またはヒマワリ油)およびこれらオイル類の混合物から形成される群から選ばれる増量剤オイルも適している。
【0058】
1つの特定の実施態様によれば、ポリブテンタイプのオイル、例えば、特にポリイソブチレン(PIB)オイルを使用し得る;PIBオイルは、試験した他のオイル類、特に、通常のパラフィン系オイルと比較して、諸性質の優れた妥協点を示す。例えば、PIBオイルは、特に、Univar社から品名“Dynapak Poly”(例えば“Dynapak Poly 190”)として、BASF社から品名“Glissopal”(例えば“Glissopal 1000”)または“Oppanol”(例えば、“Oppanol B12”)として販売されている;パラフィン系オイルは、例えば、Exxon社から品名“Telura 618”として或いはRepsol社から品名“Extensol 51”として販売されている。
【0059】
また、液体可塑剤としては、エーテル、エステル、ホスフェートおよびスルホネート可塑剤、特に、エステルおよびホスフェートから選ばれる可塑剤が適している。好ましいホスフェート可塑剤としては、12個と30個の間の炭素原子を含むホスフェート可塑剤、例えば、リン酸トリオクチルを挙げることができる。好ましいエステル可塑剤としては、特に、トリメリテート、ピロメリテート、フタレート、1,2‐シクロヘキサンジカルボキシレート、アジペート、アゼレート、セバケート、グリセリントリエステルおよびこれらの化合物の混合物によって形成される群から選ばれる化合物を挙げることができる。上記トリエステルのうちでは、好ましいグリセリントリエステルとして、C18不飽和脂肪酸、即ち、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸およびこれらの酸の混合物によって形成された群から選ばれる脂肪酸を主として(50質量%よりも多く、より好ましくは80質量%よりも多くにおいて)含むグリセリントリエステルを挙げることができる。さらに好ましくは、合成起原または天然起原(この場合は、例えば、ヒマワリまたはナタネ植物油)のいずれであれ、使用する脂肪酸は、50質量%よりも多くの、さらにより好ましくは80質量%よりも多くのオレイン酸を含む。高オレイン酸含有量を有するそのようなトリエステル(トリオレート)は、タイヤトレッドにおける可塑剤として周知である(例えば、トリエステル類は、出願WO 02/088238号(またはUS 2004/0127617号)に記載されている)。
【0060】
上記液体可塑剤の数平均分子量(Mn)は、好ましくは400g/モルと25000g/モルの間、さらにより好ましくは800g/モルと10000g/モルの間である。過度に低いMn値においては、可塑剤が組成物の外に移行するリスクが存在し、一方、過度に高いMn値は、この組成物においては硬質になり過ぎる結果となり得る。1000g/モルと4000g/モルの間のMn値が、意図する用途、特に、空気式タイヤにおける使用において優れた妥協点であることが判明している。
【0061】
上記可塑剤の数平均分子量(Mn)は、特にSECにより、既知の方法で測定する;試験標本を、先ず、約1g/lの濃度でもってテトラヒドロフラン中に溶解し、その後、溶液を、注入前に、0.45μmの有孔度を有するフィルターで濾過する。装置は、WATERS Allianceクロマトグラフである。溶出溶媒はテトラヒドロフランであり、流量は1ml/分であり、系の温度は35℃であり、分析時間は30分である。商品名“STYRAGEL HT6E”を有する2本のWATERSカラムセットを使用する。ポリマー試験標本溶液の注入容量は、100μlである。検出器は、WATERS 2410示差屈折計であり;クロマトグラフデータを処理するその関連ソフトウェアは、WATERS MILLENNIUMシステムである。算出した平均分子量を、ポリスチレン標準によって得られた較正曲線と対比する。
【0062】
要するに、上記液体可塑剤は、好ましくは、液体エラストマー、ポリオレフィンオイル、ナフテン系オイル、パラフィン系オイル、DAEオイル、MESオイル、TDAEオイル、鉱油、植物油、エーテル可塑剤、エステル可塑剤、ホスフェート可塑剤、スルホネート可塑剤およびこれらの化合物の混合物から形成される群から選択する。さらに好ましくは、この液体可塑剤は、液体エラストマー、ポリオレフィンオイル、植物油およびこれらの化合物の混合物から形成される群から選択する。
【0063】
当業者であれば、以下の説明および実施態様に照らして、上記セルフシーリン組成物の特定の使用条件、特に、使用することを意図する空気式タイヤの使用に応じて液体可塑剤の量を調整することは可能であろう。
好ましくは、上記液体可塑剤含有量は、5phr〜40phrの範囲内、より好ましくは10phr〜30phrの範囲内である。上記の最低値よりも低いと、上記エラストマー組成物は、ある種の用途において高過ぎる剛性を有するリスクに至り、一方、推奨する最高値よりも高いと、上記組成物の凝集力の不十分さおよびセルフシーリング特性の悪化のリスクが存在する。
【0064】
上記セルフシーリング層組成物は、充填していないまたはほんの極めて僅かにしか充填していない、即ち、0〜30phr未満の充填剤を含有するという本質的特徴を有する。
用語“充填剤”とは、この場合、補強用である(典型的には、好ましくは500nm未満、特に20nmと200nmの間の質量平均粒度を有するナノ粒子)或いは非補強用または不活性である(典型的には、1μmよりも大きい、例えば、2μmと200μmの間の質量平均粒度を有するマイクロ粒子)のいずれかの任意のタイプの充填剤を意味することを理解されたい。
【0065】
これらの充填剤は、補強用であるまたは補強用ではないのいずれであっても、本質的には、最終組成物に寸法安定性、即ち、必要とする最低の機械的一体性を付与するためのみである。充填剤が、エラストマー、特に、天然ゴムのようなイソプレンエラストマーに対して補強性であることが分っている場合は、上記組成物においては、幾分少なめの充填剤量を使用することが好ましい。
多過ぎる、特に、30phrよりも多い量は、もはや、最低限必要とする可撓性、変形性および流動特性を達成することを不可能にする。これらの理由により、上記組成物は、好ましくは0〜20phr未満、より好ましくは0〜10phr未満の充填剤を含有する。
【0066】
補強用充填剤として当業者に知られている充填剤の例としては、特に、カーボンブラックナノ粒子もしくは補強用無機充填剤、またはこれら2つのタイプの充填剤のブレンドを挙げることができる。
例えば、カーボンブラックとしては、タイヤにおいて一般的に使用される全てのカーボンブラック類、特に、HAF、ISAF、SAFおよびGPFタイプのブラック類(これらはタイヤ級ブラック類と称している)が適している。そのようなブラック類のうちでは、さらに詳細には、以下を挙げることができる:300、600または700(ASTM)等級のカーボンブラック類(例えば、ブラック類N326、N330、N347、N375、N683またはN772)。適切な補強用無機充填剤は、特に、シリカ(SiO2)タイプの鉱質充填剤、特に、450m2/g未満、好ましくは30〜400m2/gのBET表面積を有する沈降または焼成シリカである。
【0067】
非補強用または不活性充填剤として当業者に知られている充填剤の例としては、特に、以下が挙げられる:天然炭酸カルシウム(チョーク)または合成炭酸カルシウム、合成または天然ケイ酸塩(例えば、カオリン、タルクまたは雲母)、粉砕シリカ、酸化チタン、アルミナまたはアルミノケイ酸塩のマイクロ粒子。また、板状充填剤の例としては、グラファイト粒子を挙げることができる。着色用充填剤または着色充填剤は、上記組成物を所望の色合に応じて着色するのに有利に使用し得る。
【0068】
充填剤の物理的状態は、重要ではない;充填剤は、粉末、微小球、顆粒またはビーズ、或いは任意の他の適切な濃密形の形状であり得る。勿論、用語“充填剤”は、種々の補強用および/または非補強用充填剤の混合物を意味することも理解されたい。
当業者であれば、本説明に照らして、上記セルフシーリング組成物の配合を如何にして調整して所望の特性レベルを達成し且つその配合を想定する特定の用途に適応化するかは、承知していることであろう。
【0069】
本発明の1つの特定の有利な実施態様によれば、補強用充填剤がセルフシーリング組成物中に存在する場合、その含有量は、好ましくは5phr未満(即ち、0phrと5phrの間)、特に2phr未満(即ち、0phrと2phrの間)である。そのような含有量は、組成物の製造方法にとって特に好ましいとともに、本発明のセルフシーリング組成物に優れたセルフシーリング性能を依然として付与していることが判明している。さらに好ましくは、0.5phrと2phrの間の含有量を、特に充填剤がカーボンブラックである場合に使用する。
【0070】
上述したセルフシーリング層のベース構成成分、即ち、不飽和ジエンエラストマー、炭化水素可塑化用樹脂、液体可塑剤および任意構成成分としての充填剤は、それら自体で、上記セルフシーリング組成物が、上記セルフシーリング組成物を使用する空気式タイヤ内でそのパンク防止機能を完全に満たすのに十分である。
【0071】
しかしながら、例えば、UV安定剤、酸化防止剤またはオゾン劣化防止剤、各種他の安定剤のような保護剤;および、上記セルフシーリング組成物を着色するのに有利に使用することのできる着色剤のような種々の他の添加剤を、典型的には少量で(好ましくは20phr未満、より好ましくは15phr未満の含有量でもって)添加し得る。意図する用途次第では、短繊維またはパルプの形の繊維を必要に応じて添加して、上記セルフシーリング組成物により大きな固着力を付与することもできる。
【0072】
本発明の好ましい実施態様によれば、上記セルフシーリング組成物は、不飽和ジエンエラストマーを架橋するための系をさらに含む。この架橋系は、好ましくは、イオウ系の架橋系、換言すれば、“加硫”系と称する架橋系である。
好ましくは、上記イオウ系加硫系は、加硫活性化剤として、グアニジン誘導体、即ち、置換グアニジンを含む。置換グアニジンは、当業者にとっては周知であり(例えば、WO 00/05300号参照)、挙げることのできる非限定的な例としては、N,N'‐ジフェニルグアニジン(DPGと略記する)、トリフェニルグアニジンまたはジ‐o‐トリルグアニジンがある。好ましくは、DPGを使用する。
【0073】
この加硫系においては、最適なセルフシーリング性能を得るためには、イオウ含有量は、好ましくは0.1phrと1.5phrの間、特に0.2phrと1.2phrの間(例えば、0.2phrと1.0phrの間)であり;グアニジン誘導体の含有量は、それ自体で、0phrと1.5phrの間、特に0phrと1.0phrの間(特に、0.2〜0.5phrの範囲内)である。
【0074】
上記の系は、加硫促進剤が存在する必要はない。従って、好ましい実施態様によれば、上記組成物は、そのような促進剤を含有しないか、或いは、せいぜい1phr未満、より好ましくは0.5phr未満の促進剤を含有し得る。そのような促進剤を使用する場合、挙げることのできる例としては、イオウの存在下にジエンエラストマーにおける加硫促進剤として作用し得る任意の化合物 (一次または二次促進剤)、特に、チアゾールタイプの促進剤およびその誘導体、チウラムタイプおよびジチオカルバミン酸亜鉛タイプの促進剤がある。もう1つの有利な実施態様によれば、上記加硫系は、亜鉛または酸化亜鉛(これらは加硫活性化剤として知られている)を含有しなくてもよい。
【0075】
また、セルフシーリング層のもう1つの可能性ある実施態様によれば、イオウ供与体もイオウ自体の代りに使用し得る。イオウ供与体は、当業者にとって周知である。典型的には、そのようなイオウ供与体の量は、好ましくは0.5phrと10phrの間、より好ましくは1phrと5phrの間であるように調整して、上記の好ましい等価のイオウ含有量を得るようにする。
【0076】
硬化後、上述したような加硫系は、上記組成物に十分な固着力を与えるが、上記組成物を真に加硫させない:当業者にとって既知の通常の膨潤方法を使用して測定することができるその架橋量は、事実上、検出閾値に近い。
上述したエラストマーとは別に、上記セルフシーリング組成物は、不飽和ジエンエラストマーと対比してこの場合も少質量画分として、例えば、不飽和ジエンエラストマーと相溶性の熱可塑性ポリマーのようなエラストマー以外のポリマーも含有し得る。
【0077】
上述したセルフシーリング層組成物は、任意の適切な手段によって、例えば、ブレードミキサーまたは開放ミル内で、組成物の各種成分の緊密な均質混合物が得られるまで配合および/または混錬することによって製造し得る。
しかしながら、以下の製造上の問題が生じ得る:充填剤の不存在または少なくとも認知し得る程度の充填剤量においては、上記組成物は、あまり凝集性でない。この凝集性の欠如は、比較的高い炭化水素樹脂含有量の存在のため、組成物の粘着性が相殺されず、組成物の幾分かが持ち去られることのようであり得る(その組成物が配合器具に不都合に粘着するリスクが存在する結果となり、この状況は、工業的操作条件下においては許容し得ない)。
【0078】
上記問題を軽減するために、本発明のセルフシーリング組成物は、加硫系を含む場合、下記の工程を含む方法を使用して製造し得る:
a) 先ず、少なくとも不飽和ジエンエラストマーと、30phrと90phrの間の炭化水素樹脂とを含むマスターバッチを、これらの各種成分を、ミキサー内で、上記炭化水素樹脂の軟化点よりも高い“高温配合温度”または“第1温度”と称する温度においてまたはこの温度に達するまで配合することによって製造する工程;および、
b) 次いで、少なくとも架橋系を、上記マスターバッチ中に、全てを同じミキサーまたは異なるミキサー内で、100℃よりも低く維持する“第2温度”と称する温度においてまたはその温度に達するまで配合することによって混入して、上記セルフシーリング組成物を得る工程。
上記第1および第2温度は、勿論、上記マスターバッチおよびセルフシーリング組成物それぞれの温度であり、これらの温度は、その場で測定可能な温度であり、ミキサー自体の設定温度ではない。
【0079】
用語“マスターバッチ”とは、この場合、定義すれば、少なくとも上記ジエンエラストマーと上記炭化水素樹脂を含むコンパウンド、即ち、即使用可能な最終セルフシーリング組成物用のプレカーサーコンパウンドを意味するものと理解すべきである。
【0080】
上記液体可塑剤は、任意の時点で、特に、マスターバッチ自体の“高温” (即ち、樹脂の軟化点よりも高い温度)または低めの温度での製造中に(この場合、炭化水素樹脂のジエンエラストマー中への混入前、混入中または混入後)、或いは、例えばマスターバッチの製造後(この場合、架橋系の添加前、添加中または添加後)に、全部または一部を混入し得る。
【0081】
必要に応じて、各種添加剤をこのマスターバッチに混入してもよいが、これら添加剤が、マスターバッチにおいて適切であるか(例えば、安定剤、着色剤、UV安定剤、酸化防止剤等)、或いはマスターバッチの使用をもくろむ最終セルフシーリング組成物において適切であるかによる。
そのような方法は、工業的に許容し得る操作条件下に、特に高含有量の液体可塑剤の使用を特に必要としないで、高炭化水素樹脂含有量を有し得る有効なセルフシーリング組成物を迅速に製造するのに特に適していることが判明している。
【0082】
ジエンエラストマーを炭化水素樹脂と接触させてマスターバッチを製造するのは、上記高温配合工程a)においてである。初期状態においては、即ち、エラストマーと接触させる前では、上記樹脂は、固形状態または液体状態であり得る。好ましくは、より良好な配合処理においては、固形ジエンエラストマーを液体状態の炭化水素樹脂と接触させる。この接触を実施するためには、上記樹脂をその軟化点よりも高い温度に加熱することで十分である。使用する炭化水素樹脂のタイプによるが、上記高温配合温度は、典型的には70℃よりも高く、通常は90℃よりも高く、例えば、100℃と150℃の間である。
【0083】
好ましくは、上記液体可塑剤は、マスターバッチ自体の製造中の工程a)において、この場合、より好ましくは、上記炭化水素樹脂を導入するのと同時にまたは導入した後に少なくとも1部導入する。1つの特に有利な実施態様によれば、上記炭化水素樹脂と上記液体可塑剤は、上記ジエンエラストマー中に混入する前に、一緒にブレンドしていてもよい。
【0084】
架橋系を混入する工程b)は、好ましくは80℃よりも低い、さらに好ましくは上記樹脂の軟化点よりも低い温度で実施する。従って、使用する炭化水素樹脂のタイプによるが、工程b)の配合温度は、好ましくは50℃よりも低く、より好ましくは20℃と40℃の間である。
必要に応じて、マスターバッチを冷却する中間工程を上記工程a)とb)の間に加えて、架橋系を上記事前製造したマスターバッチに導入する(工程b)の前に、マスターバッチ温度を100℃よりも低く、好ましくは80℃よりも低く、特に上記樹脂の軟化点よりも低い値にする。
【0085】
カーボンブラックのような充填剤を使用する場合、その充填剤は、工程a)において、即ち、不飽和ジエンエラストマーおよび炭化水素樹脂と同時に、或いは、工程b)において、即ち、架橋系と同時に導入し得る。極めて小割合の、好ましくは0.5phrと2phrの間のカーボンブラックは、上記組成物の配合および製造を、さらにまた、上記組成物の最終押出加工性をさらに改良することを見出している。
【0086】
マスターバッチを製造するための工程a)は、好ましくは、例えば、図3において簡易化した形で略図的に示しているような配合用スクリュー押出機内で実施する。
【0087】
図3は、押出スクリュー21(例えば、シングルスクリュー配合用押出機)、ジエンエラストマー(固形である)用の第1定量ポンプ22および樹脂(固形または液体である)および液体可塑剤用の少なくとも第2定量ポンプ23を本質的に含む配合用スクリュー押出機20を示す。炭化水素樹脂および液体可塑剤は、炭化水素樹脂と液体可塑剤を既に前以って混合している場合は、例えば1基の定量ポンプによって導入し得、或いは炭化水素樹脂と液体可塑剤は、それぞれ、第2ポンプと第3ポンプによって別個に導入してもよい(第3ポンプは、図面を単純化するために図3には示していない)。上記定量ポンプ22、23は、材料の計量および初期特性、計量機能(エラストマー、樹脂および液体可塑剤のための)の配合機能からの切り離しを常に制御してより良好なプロセス制御をさらにもたらしながら、圧力を上昇させるのにも使用する。
【0088】
上記押出スクリューによって押し進められる生産物は、スクリュー回転によってもたらされる極めて高い剪断下に緊密に配合され、そのようにして配合機を通って、例えば、“チョッパー・ホモジナイザー(chopper‐homogenizer)”と称する部分24まで前進し、このゾーンの後、そのようにして得られた最終マスターバッチ25は、矢印方向(F)に進行し、最後に、生産物を所望寸法に押出加工するためのダイ26によって押出される。
【0089】
そのように押出加工され、即使用可能なマスターバッチは、その後、架橋系および任意構成成分としての充填剤を導入するための、例えば、開放ミルタイプの開放ミキサーに移し、冷却する;上記開放ミキサー内の温度は、100℃よりも低く、好ましくは80℃よりも低く、さら好ましくは上記樹脂の軟化点よりも低く保つ。有利には、上記開放ミルのロールを、例えば、循環水によって40℃よりも低い、好ましくは30℃よりも低い温度に冷却して、上記組成物のミル壁へのあり得る望ましくない粘着を回避する。
【0090】
押出装置20によるマスターバッチ生産物を直接成形して、上記開放ミキサーへの輸送および/または上記開放ミキサー内への導入を容易にすることは可能である。また、開放ミルタイプの開放ミキサーに連続供給することも可能である。
上述した好ましい方法および特定の装置によって、セルフシーリング層組成物は、満足し得る工業的条件下に、組成物のミキサー壁への望ましくない粘着によって器具を汚染するリスクを犯すことなく製造することが可能である。
【0091】
1つの特定の実施態様における気密層10 (0.7〜0.8mmの厚さを有する)は、ブチルゴムをベースとし、“内部ライナー”用の通常の配合を有する;上記内部ライナーは、通常、通常の空気式タイヤにおいて、カーカス補強材を空気式タイヤの内部空間から発生する空気の拡散から保護することを意図する上記タイヤの半径内面を形成している。従って、この気密層10は、空気式タイヤ1を膨張させ圧力下に保つのを可能にしている。その漏れ防止特性は、比較的低い圧力損失係数を担保するのを可能にしており、タイヤの膨張を、正常な操作状態において、十分な時間、通常は数週間または数ヶ月間保つのを可能にしている。
【0092】
図1からの空気式タイヤは、図2に示すように、セルフシーリング層11を、構築用ドラムおよび空気式タイヤの製造における他の標準的技法を使用して、空気式タイヤ1の未加硫ブランク内に組込むことによって製造し得る。さらに詳細には、半径方向最内部に位置させる上記保護層12を、構築用ドラム15に最初に適用する。この保護層12は、構築用ドラム15の周囲全体に巻付け、その後、溶接し得る。また、前以って溶接した保護スリーブを取付けることも可能である。その後、空気式タイヤの他の全ての標準部品を連続して適用する。
【0093】
図2に関して、上記セルフシーリング層11は、上記保護層12上に直接配置する。この層は、先ず、任意の既知の方法、例えば、押出またはカレンダー加工によって予備成形する。その厚さは、好ましくは0.3mmよりも大きく、より好ましくは0.5mmと10mmの間(特に、乗用車の空気式タイヤにおいては1mmと5mmの間)である。その後、気密層10をセルフシーリング層上に配置し、次いで、カーカースプライ8を配置する。
【0094】
2工程製造方法においては、その後、上記空気式タイヤブランクを、トーラス(torus)の形を取るように成形する。塩素化熱可塑性ポリマーフィルムをベースとする組成物からなる上記保護層12は、十分に低い剛性、十分な一軸および二軸伸長性を有し、上記セルフシーリング層の表面にこの層の粘着性によって十分に結合して、剥離したりまた引裂かれることなく空気式タイヤブランクの動きに従う。
【0095】
成形後、クラウンプライおよびトレッドを、空気式タイヤブランクに配置する。そのような最終ブランクを、硬化用モールドに入れ、加硫する。加硫中は、上記保護層が、上記モールドの硬化用膜をセルフシーリング層との如何なる接触からも保護する。
硬化用モールドを出る時点では、上記保護層12は、上記セルフシーリング層11に付着したままである。この保護層は、如何なる亀裂または引裂きも有しておらず、容易に硬化用膜から剥離する。
【0096】
また、図1からの空気式タイヤは、タイヤの内部空洞の形状を付与する硬質コアを使用しても製造し得る。この方法においては、上記保護層を、先ずは、上記コアの表面に適用し、その後、空気式タイヤの全ての他の構成成分を適用する。上記コアへの適用は、最終構造が必要とする順序で実施する。空気式タイヤの各構成成分は、構築操作の如何なる時点においても成形することなく、その最終位置に直接配置する。このタイヤ構築操作は、特に、カーカス補強材のスレッドの位置合せを目的とする特許EP 0 243 851号、クラウン補強材の位置合わせを目的とするEP 0 248 301号およびゴムコンパウンドの位置合せを目的とするEP 0 264 600号に記載されている装置を使用し得る。タイヤは、特許US 4 895 692号に記載されているようにして成形し、加硫し得る。上記保護層の存在は、上記の硬化膜の場合と同様に、空気式タイヤを加硫段階の終了時に上記コアから容易に分離することを可能にする。
【0097】
図1に示すセルフシーリング層10は、上述した第2の実施態様に相応する。この層は、3種の本質的構成成分、即ち、天然ゴム(100phr)、約50phrの炭化水素樹脂(約90℃の軟化点を有するExxon Mobil社からの“Escorez 2101”)および約15phrの液体ポリブタジエン(約5200のMnを有する、Sartomer Cray Valley社からの“Ricon 154”)を含むセルフシーリング組成物からなる;また、この層は、極めて少量(1phr)のカーボンブラック(N772)も含有する。
【0098】
上記セルフシーリング組成物は、図3に略図的に示しているようなシングルスクリュー(L/D = 40)押出機(既に上記で説明している)を使用して製造した。上記3種のベース構成成分(NR、樹脂および液体可塑剤)を、上記樹脂の軟化点よりも高い温度(100℃と130℃の間の)で配合した。使用した押出機は、2つの異なる供給口(ホッパー) (NR用の1つと、約130℃〜140℃の温度で前以って一緒に混合した樹脂と液体可塑剤用の他の1つ)および樹脂/液体可塑剤ブレンド用の加圧液体注入ポンプ(約100〜110℃の温度で注入する)を有していた。従って、エラストマー、樹脂および液体可塑剤を緊密に配合し終わったとき、上記組成物の望ましくない粘着は極めて有意に低減されていることが判明した。
同様な結果は、セルフシーリング層として、上述したような熱可塑性スチレン(TPS)エラストマーを含む組成物を使用しても得られた。
【0099】
上記押出機は、上記マスターバッチを所望寸法に押出加工して、他の構成成分、即ち、イオウ(例えば0.5phrまたは1.2phr)とDPG(例えば0.3phr)をベースとする加硫系およびカーボンブラック(1phrの含有量を有する)の、+30℃よりも低く維持した低温(ロールを循環水で冷却することにより)での最終混入のための開放ミル内に入れるためのダイを備えていた。
【0100】
従って、気密層10とタイヤの空洞との間に置かれたセルフシーリング層11は、タイヤに、偶発的穿孔による圧力減に対する有効な保護を与え、これらの穿孔を自動的に封鎖するのを可能にしている。
【0101】
クギのような異物が空気式タイヤの構造体、例えば、空気式タイヤ1の側壁3のような壁またはクラウン6を貫通する場合、セルフシーリング層として機能する上記組成物は、種々のストレスを受ける。これらのストレスに反応して、また、その有利な変形性および弾力特性のために、上記組成物は、異物の周りに的確な気密接触領域を産み出す。上記異物の輪郭または外形が均一または規則的であるかどうかは重要ではなく、上記セルフシーリング組成物の可撓性が極めて小さいサイズの開口中に浸透するのを可能にする。この上記セルフシーリング組成物と異物との相互作用により、上記の異物が侵襲した領域を密封する。
【0102】
異物が、偶発的であれ或いは意図的であれ、除去された場合、穿孔は残存し、その大きさによるが、比較的大きな漏れを生じやすい。静水圧に曝された上記セルフシーリング組成物は、十分に軟質で且つ変形性であり、変形することによって穿孔を閉鎖して、膨張ガスが漏出するのを防止する。特に空気式タイヤの場合、上記セルフシーリング組成物の可撓性は、荷重空気式タイヤが走行時に変形する段階においてさえも、周囲壁の力に何の問題もなく耐え得ることが判明している。
【0103】
比較的長時間の走行後の異物の除去中に、特有の問題に直面し得る。そのような場合、走行時、クギ即ち異物は、空気式タイヤ壁の最初の裂け目の大きさを拡大する大きなストレスを受ける。結果として、異物が除去されたとき、空気式タイヤの膨張圧によって押されたセルフシーリング層の材料は、空気式タイヤの壁を貫通して、外側に突出物即ちプラグを形成する。このプラグは、通常、漏れ口を満足に封鎖するが、空気式タイヤの外側にかなり露出し、その剥離は、空気式タイヤの漸次的または瞬時のパンクに至り得る。プラグ形成のもう1つの結果は、空気式タイヤの内側のこのセルフシーリング層の材料量を減少させることであり、この材料減少は、この層の有効性にとって有害である。
【0104】
塩素化熱可塑性ポリマーを含むフィルムのような熱可塑性フィルムを空気式タイヤの内部空洞の側面上のセルフシーリング層の表面上に配置する場合、この熱可塑性フィルムは、セルフシーリング層を機械的に補強し、セルフシーリング材料を空気式タイヤ壁の内側に収容する助けとなる。裂け目は、その場合、セルフシーリング層の材料が完全に貫通することはなく、外側でのプラグの形成はない。この保護フィルムの伸長中の極めて低い剛性は、これらの保護フィルムが、セルフシーリング層の有効性を低下させることなく、開孔異物を包み込むことを可能にする。従って、真の相乗作用が、上記セルフシーリング層と上記塩素化熱可塑性ポリマーを含む保護フィルムとの間で観察されている。
【0105】
試験においては、205/55R16サイズを有する乗用車タイプの空気式タイヤ(Michelin、“Energy 3”ブランド)を試験した。これらの空気式タイヤは、上述したように、添加剤タイプのPVCを含有する熱可塑性ポリマーを含む保護フィルム12で覆われたビルトインセルフシーリング層11を有する。そのセルフシーリング層は、3mmの厚さを有する。
【0106】
装着し、膨張させたときの空気式タイヤの1本に、8個の直径5mmの開孔を、ポンチを使用して、一方ではトレッドとクラウンブロックを貫通して、他方では側壁を貫通して生じさせ、ポンチは直ぐに取除いた。
予期に反して、このタイヤは、400kgの公称荷重下の回転ドラム上での150km/時の回転に、1500kmよりも長く圧力を損失することなく耐えていた;この距離以降は、回転を中止した。
【0107】
もう1本の空気式タイヤにおいて、試験を同じ方法で実施したが、今度は、開孔事物を1週間その場に放置した。同じ優れた結果が得られた。
セルフシーリング組成物を有してなく、また、上記と同じ条件下においては、そのようにして開孔させた空気式タイヤは、1分未満でその圧力を喪失し、回転するのに完全に不適切となった。
【0108】
また、耐久試験を、上述のタイヤと同一であるが、750kmを150km/時の速度で走行させ、今回はポンチをその開孔内に残存させた本発明に従う空気式タイヤにおいて実施した。ポンチを取除いた後(或いは回転の結果としてポンチが排出された後)、本発明のこれらの空気式タイヤは、上記と同じ条件(移動距離:1500km、速度:150km/時、公称荷重:400kg)において、回転ドラム上での回転に圧力低下なしに耐えていた。
【0109】
本発明は、説明し提示した実施例に限定されない;本発明に対する種々の修正は、特許請求の範囲において定義した本発明の範囲を逸脱することなくなし得る。
【符号の説明】
【0110】
1 空気式タイヤ
2 クラウン
3 側壁
4 ビード
5 ビードワイヤー
6 クラウン補強材(ベルト)
7 カーカス補強材
8 カーカス補強材の上返し
9 トレッド
10 気密層
11 セルフシーリング層
12 保護層
15 構築用ドラム
20 配合用スクリュー押出機
21 押出スクリュー
22 第1定量ポンプ
23 第2定量ポンプ
24 チョッパー・ホモジナイザー
25 最終マスターバッチが得られる領域
26 ダイ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外側ゴムトレッド、カーカス補強材、該カーカス補強材に対して内側に位置する気密層、最内部に位置する保護層および該保護層に隣接し且つ前記気密層に対して内側に位置するセルフシーリング層を含むビルトインセルフシーリング層を有する空気式タイヤであって、前記保護層が塩素化熱可塑性ポリマーから構成されるフィルムであること、並びに前記塩素化熱可塑性ポリマーが、エチレン/酢酸ビニルコポリマー、ポリブテン、ポリエステル、塩化ビニル/酢酸ビニルコポリマー、メリテート、シアヌル酸トリアリル、エポキシ化オイル、架橋性アクリル化合物およびこれらの混合物によって形成される群から選ばれる少なくとも1種の可塑化用添加剤を含むことを特徴とする前記空気式タイヤ。
【請求項2】
前記可塑化用添加剤が、エチレン/酢酸ビニルコポリマー、塩化ビニル/酢酸ビニルコポリマー、ポリブテン、ポリエステル、架橋性アクリル化合物およびこれらの混合物の群から選ばれるポリマーである、請求項1記載の空気式タイヤ。
【請求項3】
前記ポリマー可塑化用添加剤が、2000g/モルと10 000g/モルの間の数平均分子量(Mn)を有する、請求項2記載の空気式タイヤ。
【請求項4】
前記塩素化熱可塑性ポリマーが、スズ塩、カルシウム塩、バリウム塩、亜鉛塩、過塩素酸塩、アミンおよびこれらの混合物の群から選ばれる二次添加剤も含む、請求項1〜3のいずれか1項記載の空気式タイヤ。
【請求項5】
前記塩素化熱可塑性ポリマーが、アジペート、フタレートの群から選ばれる添加剤も含む、請求項1〜4のいずれか1項記載の空気式タイヤ。
【請求項6】
アジペートおよびフタレートの群から選ばれる前記添加剤の含有量が、2質量%未満である、請求項5記載の空気式タイヤ。
【請求項7】
前記塩素化熱可塑性ポリマーの数平均分子量加剤(Mn)が、50000g/モルよりも高い、請求項1〜6のいずれか1項記載の空気式タイヤ。
【請求項8】
前記塩素化熱可塑性ポリマーが、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)および塩素化ポリ塩化ビニル(CPVC)の群から選ばれる、請求項1〜7のいずれか1項記載の空気式タイヤ。
【請求項9】
前記保護熱可塑性フィルムの厚さが、7マイクロメートルと50マイクロメートルの間である、請求項1〜8のいずれか1項記載の空気式タイヤ。
【請求項10】
前記フィルムの厚さが、10マイクロメートルと30マイクロメートルの間である、請求項9記載の空気式タイヤ。
【請求項11】
100%一軸性歪みおよび周囲温度での伸びにおける初期断面に対する応力が、20MPaよりも低い、請求項1〜10のいずれか1項記載の空気式タイヤ。
【請求項12】
前記熱可塑性フィルムの一軸延伸中および周囲温度での破断点伸びが、90%よりも大きい、請求項1〜11のいずれか1項記載の空気式タイヤ。
【請求項13】
前記保護熱可塑性フィルムの一軸延伸中および周囲温度での破断点伸びが、150%よりも大きい、請求項12記載の空気式タイヤ。
【請求項14】
前記セルフシーリング層が、少なくとも1種の熱可塑性スチレン(TPS)エラストマーと200phrよりも多い前記エラストマーの増量剤オイルを含む(phrはエラストマーの100質量部当りの質量部を示す)、請求項1〜13のいずれか1項記載の空気式タイヤ。
【請求項15】
前記TPSが、前記セルフシーリング層の主要エラストマーである、請求項14記載の空気式タイヤ。
【請求項16】
前記TPSエラストマーが、スチレン/ブタジエン/スチレン(SBS)、スチレン/イソプレン/スチレン(SIS)、スチレン/イソプレン/ブタジエン/スチレン (SIBS)、スチレン/エチレン/ブチレン/スチレン(SEBS)、スチレン/エチレン/プロピレン/スチレン(SEPS)およびスチレン/エチレン/エチレン/プロピレン/スチレン(SEEPS)ブロックコポリマーおよびこれらコポリマーの混合物によって構成される群から選ばれる、請求項14および15のいずれか1項記載の空気式タイヤ。
【請求項17】
前記TPSエラストマーが、SEBSコポリマー、SEPSコポリマーおよびこれらコポリマーの混合物によって構成される群から選ばれる、請求項16記載の空気式タイヤ。
【請求項18】
前記セルフシーリング層が、少なくとも下記の成分を含む(phrは固形エラストマーの100質量部当りの質量部を示す)、請求項1〜17のいずれか1項記載の空気式タイヤ:
(a) 主要エラストマーとしての、不飽和ジエンエラストマー;
(b) 30phrと90phrの間の量の炭化水素樹脂;
(c) 0phrと60phrの間の質量含有量の、Tg (ガラス転移温度)が−20℃よりも低い液体可塑剤;および、
(d) 0から30phr未満までの充填剤。
【請求項19】
前記不飽和ジエンエラストマーが、ポリブタジエン、天然ゴム、合成ポリイソプレン、ブタジエンコポリマー、イソプレンコポリマーおよびそのようなエラストマーの混合物によって構成される群から選ばれる、請求項18記載の空気式タイヤ。
【請求項20】
前記不飽和ジエンエラストマーが、好ましくは天然ゴム、合成ポリイソプレンおよびそのようなエラストマーの混合物によって構成される群から選ばれるイソプレンエラストマーである、請求項19記載の空気式タイヤ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2013−504481(P2013−504481A)
【公表日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−529219(P2012−529219)
【出願日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【国際出願番号】PCT/EP2010/063274
【国際公開番号】WO2011/032886
【国際公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(512068547)コンパニー ゼネラール デ エタブリッスマン ミシュラン (169)
【出願人】(508032479)ミシュラン ルシェルシュ エ テクニーク ソシエテ アノニム (499)