説明

ビル・マンション用緊急時電源・水源システム

【課題】通常設備による給水が不可能な緊急時に、各世帯に不平等感を与えることなく緊急時対応の貯水槽から公平に給水することを可能とする。
【解決手段】ビル・マンション用緊急時電源・水源システムにおいて、緊急時に使用可能な水が貯留されている緊急貯水槽10と、該緊急貯水槽10に配管12を介して連結された給水ポンプ14と、該給水ポンプ14に駆動電力を供給する緊急発電機16と、緊急時に該緊急発電機16を起動させると共に、前記給水ポンプ14を含む付帯設備を監視・制御する制御手段(制御センタ18)と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビル・マンション用緊急時電源・水源システムに係り、特に通常の給水システムによる給水が不可能な緊急時に、敷地内に設置されている貯水槽の水を、集合住宅等のビル・マンションの居住者を含む各世帯に公平に給水する際に適用して好適なビル・マンション用緊急時電源・水源システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、震災時等の緊急時に、集合住宅等のビル・マンションのライフラインを確保することは極めて重要であるが、その技術としては、例えば特許文献1に、災害時でも一定時間だけは自立運転してライフラインを確保できる、集合住宅のセントラル給湯・暖房用コージェネレーションシステムが提案されている。
【0003】
また同様に、緊急時にライフラインを確保するために利用可能な自家発電設備に関する技術が、例えば特許文献2〜4に、分散型発電機に関する技術が特許文献5に、それぞれ開示されている。
【0004】
ところで、ビル・マンションでは重要なライフラインの一つとして給水設備が付帯されているが、このような設備も、緊急時に停電が発生すると、揚水ポンプ等が使えなくなって日常の給水設備が使用できなくなるため、各居住者への給水も断たれることになる。
【0005】
そこで、緊急時に断水が発生したとしても、電力供給が回復するまでの短期間でも最低限の生活を維持できるようにするために、敷地内に緊急用給水設備が設置されているビル・マンションもある。
【0006】
このような緊急用給水設備を使って、例えば水道管に接続されている貯水槽から緊急時にビル・マンション向けに給水する際、居住者に不平等感を与えることなく公平に給水することが重要となる。ところが、電力供給の制限については前記特許文献5に開示されているものの、緊急時に貯水槽から給水する際に供給水量の公平性を確保するための技術は、前記特許文献1〜5を含む従来技術には見当たらない。
【0007】
一般的には、ビル・マンションに付帯した緊急用給水設備を維持するための費用は、ビル・マンションの各世帯が負担することになるため、緊急時に各居室へ給水する際には、例えば負担額に見合った給水量が確保される等のように公平性が担保されるべきであると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−150682号公報
【特許文献2】特開2001−268799号公報
【特許文献3】特開2001−112176号公報
【特許文献4】特開2006−46070号公報
【特許文献5】特開2008−11612号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来、ビル・マンションの各居室への給水量をコントロールする設備システムがなかったため、緊急時にも拘らず、供給水量の公平性を担保できないことから、各世帯への精神的苦痛を助長するおそれがあるという問題があった。
【0010】
本発明は、前記従来の問題点を解決するべくなされたもので、通常設備による給水が不可能な緊急時に、各世帯に不平等感を与えることなく緊急時対応の緊急貯水槽から公平に給水することができるビル・マンション用緊急時電源・水源システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、ビル・マンション用緊急時電源・水源システムにおいて、緊急時に使用可能な水が貯留されている緊急貯水槽と、該緊急貯水槽に配管を介して連結された給水ポンプと、該給水ポンプに駆動電力を供給する緊急発電機と、緊急時に該緊急発電機を起動させると共に、前記給水ポンプを含む付帯設備を監視・制御する制御手段と、を備えることにより、前記課題を解決したものである。
【0012】
ここで、前記給水ポンプには、ビル・マンションの各居室に給水する配管がそれぞれ連結され、該配管の各居室入側には、前記付帯設備として、前記制御手段から遠隔監視が可能な流量計と、該流量計の監視結果に基いて該当する居室への給水を遠隔制御することが可能な給水制御弁とを備えることができる。
【0013】
また、前記給水ポンプには、共用の給水端部が連結され、且つ、前記付帯設備として、該給水端部からの給水を予め設定された給水可能量に基いて制限する給水量制御装置が設置されているようにできる。その際、前記給水可能量が磁気カードに記載され、前記給水量制御装置が該磁気カードの磁気記録読取機能を有するようにすることができる。
【0014】
また、前記緊急貯水槽の水質を管理するための残留塩素センサと塩素注入手段とを更に備えることができる。
【0015】
また、前記制御手段を、外部より遠隔操作可能とすることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、通常設備による給水が不可能な緊急時に、制御手段により給水ポンプを制御することにより、各世帯に不平等感を与えることなく緊急時対応の貯水槽から公平に給水することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る第1実施形態のビル・マンション用緊急時電源・水源システムの要部を示す概略構成図
【図2】本実施形態のビル・マンション用緊急時電源・水源システムの全体の概要を示す説明図
【図3】本発明に係る第2実施形態のビル・マンション用緊急時電源・水源システムの要部を示す概略構成図
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0019】
本実施形態のビル・マンション用緊急時電源・水源システムは、緊急時に使用可能な水が貯留されている、地中に埋設された緊急貯水槽10と、該緊急貯水槽10に配管12を介して連結された給水ポンプ14と、該給水ポンプ14に駆動電力を供給する緊急発電機16と、緊急時に該緊急発電機16を起動させると共に、前記給水ポンプ14を含む付帯設備を外部より遠隔監視・制御する制御センタ18とを備えている。
【0020】
また、この緊急時電源・水源システムでは、図2にマンション(集合住宅)の概要と共に示すように、前記緊急発電機16からの電力は、常用の配電盤20を介してエレベータ22用のモータ23等のマンション全体の各設備に供給されると共に、地下に設置されている前記給水ポンプ14へも供給される。これによって、通常の外部電力系統に停電が発生する等の緊急時でも、配管12を介して各階の各世帯(居室)へそれぞれ給水することができるようになっている。
【0021】
前記緊急貯水槽10は、耐震設計されている上に、図示されているように敷地内の地中に埋設されている。また、バルブ10Aを介して通常の上水の水道管に接続され、マンションに対する日常的な給水は、この緊急貯水槽10を通して行われるため、常時新しい水に入れ替わるようになっている。具体的には、飲料水兼用耐震性貯水槽(JFEエンジニアリング株式会社製)を利用できる。
【0022】
前記給水ポンプ14は、浸水時にも動作するよう防水措置が施され、しかも防水措置が施された地下の部屋に設置されており、緊急時に前記緊急発電機16から給電されることにより、前記緊急貯水槽10から給水することが可能になっている。
【0023】
前記緊急発電機16は、例えばマイクロガスタービンとされ、浸水時にも動作するよう防水措置が施された上で、防水措置が施された部屋(図示せず)に設置されており、予め用意されているLPG等の非常用燃料により発電することが可能になっている。また、この緊急発電機16の動作は、前記給水ポンプ14の動作と共に、遠隔監視・操作するための情報通信線24を介して前記制御センタ18により遠隔操作され、これによりビル・マンション内のエネルギーマネジメントが行われるようになっている。
【0024】
前記制御センタ18は、1日の時間推移に伴い時系列で変動するデータを解析する機能を有しており、例えば業務用ビル等において、室内環境・エネルギー使用状況を把握し、且つ、室内環境に応じた機器又は設備等の運転管理によってエネルギー消費用の削減を図る機能を有するBEMS(Building Energy and Environmental Management System)により構築することができる。但し、これに限定されない。
【0025】
本実施形態の緊急時電源・水源システムは、緊急時に各世帯に給水する際の公平性を担保するための付帯設備として、前記制御センタ18により遠隔操作が可能な流量計26、警告・通知装置28及び給水制御弁30を備えている。
【0026】
前記流量計26は、配管12の需要端(各世帯居室の直前)に設置され、給水量の遠隔監視を可能とするための通信機能を有している。
【0027】
前記警告・通知装置28は、この流量計26から収集した各世帯の水需要データを基に、予め定められた緊急時の給水可能量を、実際の需要量がオーバーする際等に、前記制御センタ18から当該世帯に需要過多を警告すると共に、給水停止を通知するために用いられる。ここで使用される給水可能量は、貯水量を世帯数で割った値、占有面積や共益費に比例した値等で設定することができる。
【0028】
前記給水制御弁30は、予め定められた前記緊急時の給水可能量を、実際の需要量がオーバーする際等に、前記制御センタ18から遠隔制御で給水量を制御するために用いられる。
【0029】
更に、この電源・水源システムには、付帯設備として給水の水質管理のために前記制御センタ18により遠隔監視することが可能な残留塩素センサ32と、このセンサ32による監視結果に基いて、遠隔制御により塩素注入するための塩素注入装置34とが、前記緊急貯水槽10に設置されている。
【0030】
前記残留塩素センサ32によっては、緊急貯水槽10内の水の残留塩素濃度をリアルタイムに計測することが可能であり、前記制御センタ18により情報通信線24を介して前記残留塩素センサ32により槽内水の残留塩素濃度を遠隔監視すると共に、その監視結果に基いて前記塩素注入装置34を遠隔操作し、槽内水の残留塩素濃度を目標値に遠隔制御することが可能になっている。
【0031】
また、前記緊急貯水槽10に連結され、空気吸込口35を介して大気開放されている配管12Aには、給水時に該緊急貯水槽10の内部圧力が負圧になって円滑な給水ができなくなることを防止するために、前記制御センタ18により遠隔制御して空気吸込口35から空気を導入するための空気制御弁36が設置されている。
【0032】
また、前記空気吸込口35には、外気中の埃などを緊急貯水槽10内へ吸い込むことを防止するために、微細フィルタを備えた除塵装置や活性炭を収容した脱臭装置、ゼオライトを収容した放射能除去装置(いずれも図示せず)が具備されていると共に、この空気吸込口35は、津波により浸水したとしても水面下にならない高さ、例えばマンションの最上階に空気用の配管12Aを介して設置されている。更に、この空気吸込口35は、緊急時にバルブ(遮断弁)10Aが閉じて給水ポンプ14が起動する際に、緊急貯水槽10への空気吸込量を自動制御する機能を有している。
【0033】
従って、緊急時に前記緊急貯水槽10と水道管との間のバルブ10Aが遮断されて緊急貯水槽10内が気密状態になったとしても、前記制御センタ18により前記空気制御弁36を遠隔操作して開状態にすることにより、該緊急貯水槽10から円滑に給水することが可能となる。
【0034】
以上詳述した本実施形態においては、震災時等の緊急時に外部電力系統に停電が発生した場合には、前記制御センタ18は遠隔制御により前記緊急発電機16の運転を開始させ、マンションの内部電力系統に給電してエレベータ22等の運転を確保する共に、前記給水ポンプ14に給電して各世帯への給水を確保する。
【0035】
また、上記のように各世帯への給水を確保すると同時に、前記制御センタ18は各世帯の流量計26を遠隔監視し、その給水使用量が公平性を考慮して予め設定してある給水可能量に近づいた場合には、該当する世帯の警告・通知装置28にその旨の警告をし、給水可能量を超えた場合には、遠隔制御により給水制御弁30を閉鎖すると共に給水を停止した旨の通知をする。
【0036】
従って、本実施形態によれば、緊急時に緊急貯水槽10内の限られた量の貯水を各世帯に平等に分配供給することが可能となる。
【0037】
また、前記緊急貯水槽10に塩素を注入し、残留塩素センサ32により塩素濃度をリアルタイムに管理できるようにしたので、仮に緊急事態が長期間続いたとしても、各世帯への給水に対する水質管理を実現することができる。
【0038】
更に、前記緊急貯水槽10には空気制御弁36を設置し、前記制御センタ18から遠隔制御により、槽内に空気を導入できるようにしたので、各世帯への給水を円滑に且つ確実に行うことができる。
【0039】
図3には、本発明に係る第2実施形態のビル・マンション用緊急時電源・水源システムの要部を示す。
【0040】
本実施形態のビル・マンション用緊急時電源・水源システムは、緊急貯水槽10、給水ポンプ14、緊急発電機16及び制御センタ18を含む基本的な構成は、前記図1に示した第1実施形態と実質的に同一である。従って、共通する部分の説明は省略する。
【0041】
本実施形態では、前記給水ポンプ14が、共用部に設けられている配水ステーション40に設置され、該給水ポンプ14に連結された蛇口42からなる給水端部から住民50に給水することができるようになっている。
【0042】
また、前記給水ポンプ14には、例えば磁気カード(図示せず)による給水制限装置44が設置され、この装置44に、各世帯に予め配布されている、緊急時の給水可能量が記録された磁気カードを差し込む等により、前記蛇口42からの給水量を制限することができるようになっている。
【0043】
本実施形態によれば、同一世帯の住民が複数回給水する等により、使用可能量以上に給水することを防止できる。なお、給水量を制限する手段は磁気カードに限定されない。
【0044】
また、前記第1実施形態のように各居室の個別給水を行う場合には、設備費用の負担が大きくなるのに対し、共同の給水設備とすることにより、費用負担を小さくした上で給水の公平性を確保することができる。
【0045】
前記実施形態においては、いずれも外部の制御センタからの遠隔操作が可能とされていたので、迅速な対応が可能である。なお、管理人が常駐している場合など、外部からの遠隔操作機能を省略することも可能である。
【0046】
また、緊急貯水槽としては、前記実施形態に示したものに限定されず、例えば密閉型でなくとも、緊急時に使用可能な水を貯留できるものであれば任意である。また、緊急貯水槽の水質に問題がなければ、残留塩素の制御を省略することができる。
【符号の説明】
【0047】
10…緊急貯水槽
10A…バルブ
12、12A…配管
14…給水ポンプ
16…緊急発電機
18…制御センタ
20…配電盤
22…エレベータ
24…情報通信線
26…流量計
28…警告・通知装置
30…給水制御弁
32…残留塩素センサ
34…塩素注入装置
35…空気吸込口
36…空気制御弁
40…配水ステーション
42…蛇口(給水端部)
44…給水制御装置
50…住民

【特許請求の範囲】
【請求項1】
緊急時に使用可能な水が貯留されている緊急貯水槽と、
該緊急貯水槽に配管を介して連結された給水ポンプと、
該給水ポンプに駆動電力を供給する緊急発電機と、
緊急時に該緊急発電機を起動させると共に、前記給水ポンプを含む付帯設備を監視・制御する制御手段と、
を備えたことを特徴とするビル・マンション用緊急時電源・水源システム。
【請求項2】
前記給水ポンプには、ビル・マンションの各居室に給水する配管がそれぞれ連結され、該配管の各居室入側には、前記付帯設備として、前記制御手段から遠隔監視が可能な流量計と、該流量計の監視結果に基いて該当する居室への給水を遠隔制御することが可能な給水制御弁とを備えていることを特徴とする請求項1に記載のビル・マンション用緊急時電源・水源システム。
【請求項3】
前記給水ポンプには、共用の給水端部が連結され、且つ、前記付帯設備として、該給水端部からの給水を予め設定された給水可能量に基いて制限する給水量制御装置が設置されていることを特徴とする請求項1に記載のビル・マンション用緊急時電源・水源システム。
【請求項4】
前記給水可能量が磁気カードに記載され、前記給水量制御装置が該磁気カードの磁気記録読取機能を有していることを特徴とする請求項3に記載のビル・マンション用緊急時電源・水源システム。
【請求項5】
前記緊急貯水槽の水質を管理するための残留塩素センサと塩素注入手段とを更に備えたことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のビル・マンション用緊急時電源・水源システム。
【請求項6】
前記制御手段が、外部より遠隔操作可能とされていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載のビル・マンション用緊急時電源・水源システム。

【図1】
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【図3】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−60724(P2013−60724A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−198890(P2011−198890)
【出願日】平成23年9月12日(2011.9.12)
【出願人】(000004123)JFEエンジニアリング株式会社 (1,044)