説明

ビレット調芯構造

【課題】押出加工時にビレットの偏芯を抑制することを可能とする。
【解決手段】コンテナ内に収納され、押圧部によってダイスの円錐孔から押出加工されるビレットと、前記ビレットと該ビレットを押圧するステムとの間の前記コンテナ内に介在し、前記ビレットの後端面に対する押出作用面を有するダミーブロックとを備え、前記ビレットの前端面に、前記ダイスの円錐孔面のテーパ角と同一のテーパ角が形成された円錐面を形成し、前記ビレットの後端面または前記ダミーブロックの押出作用面のいずれか一方の面に、中心が前記ビレットまたは前記ダミーブロックの中心軸と一致する凹部を形成し、いずれか他方の面に、中心が前記ダミーブロックまたは前記ビレットの中心軸と一致する前記凹部と嵌合する凸部を形成し、前記ダミーブロックを前記ビレットに当接させて、前記凹部と凸部を嵌合させることにより、前記ビレットの中心軸を前記ダイスの円錐孔の中心軸に調芯する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、押出機に挿入されるビレットを調芯するビレット調芯構造に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、超電導線は、強磁場発生装置のマグネット用巻線材料として用いられることが多い。このようなマグネット用の超電導線はビレットから作製する。ビレットは、安定化母材金属である銅中に複数本の超電導材料棒が埋設されたものである。このビレットを製造し、これを押出機で押出して押出加工材を作成する。その後、押出加工材をスエージング、引抜き等の伸線加工を施し、必要に応じて熱処理を施すことで所望の直径の超電導線が製造されている。
【0003】
超電導線用のビレットは、通常、安定化母材金属である銅の中に数百本の超電導材料棒が軸方向に埋設された構造になっている。ビレット内の超電導材料棒の配置は、外周部の切削量に影響する。外周部の切削量が少ない場合は、超電導材料の占有体積率の低下を招き、超電導線の超電導特性が低下する。従って、押出加工後におけるビレット内の超電導材料棒の配置を如何に制御するかが重要である。
【0004】
そこで、このような超電導材料の位置ずれを解消するために、従来、ビレットの先端部に、ダイスの貫通孔の内面に支持される突起部を設け、押出加工時にビレットの中心軸がダイスの貫通孔の中心に一致するような状態を維持するようにしている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−168325号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1のようなビレットとダイスを用いて押出加工材を作成しても、なお押出加工時にビレットの中心軸とダイスの中心軸がずれて、ビレット内の超電導材料の配置に偏芯が生じるという問題点があった。
すなわち、ダイスの貫通孔の内面でビレット先端部を前記突起によって支持させ、ビレットの中心軸と押出ダイスの中心軸とを一致させようとしても、ビレット後端部は押出機ラムの押出作用面によって面接触しているだけで、中心軸は支持されておらず、また、ビレットの中心軸と押出ダイスの中心軸が一致するように支持されてもいない。特許文献1のものは、ビレットを片持ち支持していることには変わりはない。従って、ビレットを押出機に挿入してビレット先端部を支持させても、コンテナとビレットとの間に隙間があり、ビレットの自重によりビレットの後端がコンテナの下部に下がった状態となるおそれがある。このため、ビレットの中心軸とダイスの中心軸とを一致させることは困難であり、押出加工を施した場合、超電導材料が所望の位置からずれて、偏芯を起こす。このような材料を用いて超電導線を形成した場合、超電導状態が不安定になったり、最悪の場合、超伝導状態を逸してしまったりする。なお、偏芯問題は、超電導線用ビレットに限らず、他のビレットにも共通する。
【0007】
この発明の目的は、上述のような課題を解決するためになされたもので、押出加工時にビレットの偏芯を確実に抑制することが可能なビレット調芯構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一実施の態様によれば、コンテナ内に収納され、押圧部によってダイスの円錐孔から押出加工されるビレットと、前記ビレットと該ビレットを押圧するステムとの間の前記コンテナ内に介在し、前記ビレットの後端面に対する押出作用面を有するダミーブロックとを備え、前記ビレットの前端面に、前記ダイスの円錐孔面のテーパ角と同一のテーパ角が形成された円錐面を形成し、前記ビレットの後端面または前記ダミーブロックの押出作用面のいずれか一方の面に、中心が前記ビレットまたは前記ダミーブロックの中心軸と一致する凹部を形成し、いずれか他方の面に、中心が前記ダミーブロックまたは前記ビレットの中心軸と一致する前記凹部と嵌合する凸部を形成し、前記ダミーブロックを前記ビレットに当接させて、前記凹部と凸部を嵌合させることにより、前記ビレットの中心軸を前記ダイスの円錐孔の中心軸に調芯するようにしたビレット調芯構造を提供することにある。
【0009】
この場合、前記凹部および前記凸部が円錐面を有する円錐凹部および円錐凸部からそれぞれ構成され、前記円錐面の前記中心軸に対する角度αが
40°<α<70°
を満足することが好ましい。
【0010】
また、前記円錐凹部の開口部直径をD、前記ビレットの直径をD3、前記円錐凸部の付け根の直径をdとしたとき、
D≦d
d<0.25×D3
を満足することが好ましい。
【0011】
また、前記凸部および前記凹部が円錐面を有する円錐台凸部および円錐台凹部からそれぞれ構成され、前記円錐面の前記中心軸に対する角度をαとしたとき
40°<α<70°
を満足することが好ましい。
【0012】
また、前記円錐台凹部の開口部直径をD1、底部直径をD2、深さをHとし、前記ビレットの直径をD3とし、前記円錐台凸部の下面の直径をd1、上面の直径をd2、高さをhとしたとき、
D1≦d1
D2≦d2
H≦h
D2<0.25×D3
を満足することが好ましい。
【0013】
また、前記凸部および前記凹部が円錐面を有する円錐台および円錐台凹部からそれぞれ構成され、前記円錐面の前記中心軸に対する角度αが
40°<α<70°
を満足することが好ましい。
【0014】
また、前記円錐台凹部の開口部直径をD1、底部直径をD2、深さをHとし、前記ビレットの直径をD3とし、前記円錐台の下面の直径をd1、上面の直径をd2、高さをhとしたとき、
D1≦d1
D2≦d2
H≦h
D2<0.25×D3
を満足することが好ましい。
【0015】
また、前記ダミーブロックの押出作用面とビレット後端面の最大静止摩擦係数をμとすると、前記角度αが、
1>μ・tanα
を満足することが好ましい。
【0016】
また、前記ビレットは、複合金属材の製造用または超電導線材の製造用に提供することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、押出加工時にダイスの中心軸に対してビレットの中心軸を正確に位置決めすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第一の実施の形態における超電導線用のビレット調芯構造の断面図である。
【図2】本発明の第一の実施の形態のビレット構造が押出機にセットされた状態を示す断面図である。
【図3】本発明の第二の実施の形態における超電導線用のビレット調芯構造の断面図である。
【図4】本発明の第二の実施の形態のビレット構造が押出機にセットされた状態を示す断面図である。
【図5】本発明の第三の実施の形態における超電導線用のビレット調芯構造の断面図である。
【図6】本発明の一実施の態様のビレットとダミーブロックとの滑り条件を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に本発明の実施の形態について述べる。
【0020】
本実施の形態のビレット調芯構造は、ビレットとダミーブロックとを備える。
ビレットは、コンテナ内に収納されてステムによってダイスの円錐孔から押出加工される。前記コンテナ、前記ステム、および前記ダイスは押出機を構成する要素である。コンテナは内部に空間を有し、その空間にビレットを収納する。前記ステムは、ビレットに押出力を印加してダイスからビレットを押し出すものである。前記ダイスは円錐孔を有し、この円錐孔からビレットが押し出される。
【0021】
前記ビレットの前端面に、前記ダイスの円錐孔面のテーパ角と同一のテーパ角が形成された円錐面を有し、前記ビレットを前記ダイスに当接させて、前記円錐孔にビレット前端面を嵌合させることにより、前記ビレットの前端部の中心軸を前記ダイスの円錐孔の中心軸に調芯する。
【0022】
ダミーブロックは、前記ビレットと該ビレットを押圧するステムとの間の前記コンテナ内に介在し、前記ビレットの後端面に対する押出作用面を有する。すなわち、ダミーブロックはステムからの力をビレットの後端面へ伝達させる。ダミーブロックの外径は、ダミーブロックがコンテナ内に介在したとき、ダミーブロックの中心軸がダイスの円錐孔の中心軸と一致するように、前記コンテナの内径と等しいかやや大きく設定される。
【0023】
前記ビレットの後端面または前記ダミーブロックの押出作用面のいずれか一方の面に、
凹部中心が前記ビレットまたは前記ダミーブロックの中心軸と一致する凹部を形成し、いずれか他方の面に、凸部中心が前記ダミーブロックまたは前記ビレットの中心軸と一致する前記凹部と嵌合する凸部を形成する。前記ダミーブロックを前記ビレットに当接させて、前記凹部と凸部を嵌合させることにより、前記ビレットの後端部の中心軸を前記ダイスの円錐孔の中心に調芯する。
【0024】
前記ビレットは、例えば、シングルビレットでもよいがマルチビレットでもよい。また、ビレットは複合金属材の製造用でもよいし、超電導線材の製造用であってもよい。これらの材料が挿入されたコンテナの前端部と後端部はシール材で封止される。
【0025】
ダミーブロックの押出作用面に凸部を設けた場合には、ビレットの後端面には凹部を設ける。逆に、ダミーブロックの押出作用面に凹部を設けた場合には、ビレットの後端面には凸部を設ける。これら凹部凸部の形状は、例えば円錐面を有する円錐形や円錐台形とすることができる。円錐の中心軸とビレットの中心軸またはダミーブロックの中心軸とは一致している構成となっている。
【0026】
このように、ビレットの後端面とダミーブロックの押出作用面とのいずれか一方の面に凹部を、いずれか他方の面に凸部を形成し、凹部および凸部の中心軸をビレット又はダミーブロックの中心軸と一致させているので、コンテナ内に収容したビレットをダミーブロックによって押圧すると、一方で、ビレットの前端部はダイスとの円錐面接触により支持されて調芯される。また、他方で、ビレットの後端部はダミーブロックとの凹凸嵌合により支持されて調芯される。従って、ビレットはその両端部で調芯支持されるので、押出加工時にダイスの円錐孔中心軸に対してビレットの中心軸を正確に位置決めすることができる。その結果、加工精度が高く、特にビレットが超電導線材の製造用である場合には、押出加工後におけるビレット内の超電導材料棒の配置が正確に制御されていることとなるため、良好な超電導性を有する超電導線を製造することが可能となる。
【0027】
[第一の実施の形態]
次に本発明の第一の実施の形態を図を用いて説明する。
(ビレット調芯構造の構成)
図1は、本発明の第一の実施の形態におけるビレット調芯構造の断面図である。ビレット1は、例えば複合金属材や超電導線材の製造用である。ビレット調芯構造は、ビレット1とダミーブロック20とから構成される。ビレット1とダミーブロック20は別体で構成される。
【0028】
ビレット1は、例えば、安定化母材金属である無酸素銅製の銅管2の中に複数本のCu単芯線3と、多数本のCu/NbTi単芯線4とが挿入される。ここでCu/NbTi単芯線4は超電導材料であるNbTiの棒に安定化母材金属である無酸素銅を被覆したものである。
【0029】
ビレット1は、その銅管2が前蓋5と後蓋6とにより封止された構造となっている。前蓋5の前面がビレット1の前端面を構成し、後蓋6の後面がビレット1の後端面を構成する。前蓋5の前面には、ビレット1の中心軸1aをダイスの円錐孔の中心軸と一致させるためのテーパ面5aが形成されている。後蓋6の後面には、ビレット1を調芯するための円錐面を有する円錐凹部6aが形成されている。円錐凹部6aの中心軸はビレット1の中心軸1aと一致させている。
【0030】
ダミーブロック20は円板状に形成されている。ダミーブロック20は、ビレット1とビレットを押圧する後述するステムとの間に介在する。ダミーブロック20のビレット1に対する押出作用面に、ビレット1を調芯するための円錐面を有する円錐凸部20aが形
成されている。円錐凸部20aの中心軸はビレット1の中心軸1aと一致させている。
【0031】
(ビレットおよびダミーブロックの製造方法)
まず、ビレット1を製造するために、無酸素銅製の銅管2を用意する。この銅管2に、断面が六角形をした無酸素銅のCu単芯線3を中央部に複数本挿入し、このCu単芯線3の周囲にCu/NbTi単芯線4を多数本挿入する。挿入後、銅管2中の空気を排除し、銅管2の前端部と後端部とを、テーパ50aを有する前蓋5と円錐凹部6aを有する後蓋6とで溶接することにより、ビレット1内を封止した。円錐凸部20aを有するダミーブロック20は、ビレット1をシールすべく後述するコンテナ8の内径と同径で、しかも円錐凸部20aの中心軸がビレット1の中心軸1aと同心状になるように形成する。このようにしてビレット1とダミーブロック20を製造した。
【0032】
このようにして製造されたビレット1において、前記後蓋6の後面に形成された円錐凹部6aの寸法は次の通りである。
ビレット1の中心軸1aに対する円錐面の角度(テーパ角度)をαとしたとき、
40°<α<70° ・・・(1)
とする。また、前記円錐凹部6aの最大開口部直径をD、前記ビレット1の直径をD3、前記ダミーブロック20の円錐凸部20aの底面の直径をdとしたとき、さらに次の2条件
D≦d ・・・(2)
d<0.25×D3 ・・・(3)
を満たすように構成する。
【0033】
ここで、40°<α<70°としたのは次の理由からである。角度αが40°より大きいと、円錐凸部20aおよび円錐凹部6aの加工がしやすく、ビレット有効部も長くなる。角度αが70°より小さいと、ダミーブロック20がビレット1にぶつかって凹凸接触した時、滑りが大きくなり、円錐凸部20aがより密に円錐凹部6aに嵌合するため、コンテナ内でのビレット配置の偏心は一層改善される。
【0034】
すなわち、角度αが小さいとビレット有効部が短くなって不利となる。可能な限り角度αを大きくした方がビレット有効部が長くなるので有利となる。因みに、従来のビレットの場合、後蓋の後面は垂直(α=90°)面である。α=45°以上であると工作加工が簡易となり、製造コスト低減の観点から有利である。従って、ここでは工作加工が簡易となる角度45°を寸法誤差内で実現容易な条件として、α<40°としている。
【0035】
また、円錐凹凸嵌合は、力学的に捉えると、ビレット1の円錐凹部6aとダミーブロック20の円錐凸部20aとの円錐面がぶつかった時に、ビレット1に対してダミーブロック20が相対的に滑る条件が存在する。それは
1>μ・tanα ・・・(4)
と表現できる。
ここでμはダミーブロック20の円錐凸部20aの円錐面とビレット1の円錐凹部6a円錐面との最大摩擦係数である。例えば金属と金属の場合、μは0.1〜0.35相当である。式(4)から、μ=0.1の時はα<84.3°、μ=0.35の時はα<71°である。ダミーブロック20とビレット1のμは既知ではないので、μ=0.35相当と考え、ここでは、α<70°とした。但し、μが既知である場合は、1>μ・tanαにその既知のμを代入して得られるαを使うのが好ましい。
【0036】
なお、ビレットの円錐凹部とダミーブロックの円錐凸部との円錐面が滑る条件式1の算出方法は、図6を用いて説明すれば次の通りである。ここでは、便宜上、ビレット14の凹部の形状を円錐台凹部とし、ダミーブロック21の凸部の形状を円錐台凸部としている
。ダミーブロック21がビレット14を押し出す押出力F、ビレット14の重量Mg、テーパ角αとすると、最大摩擦力は、ビレット14にダミーブロック21の円錐面(斜面)から働く押出力およびビレット重力の垂直抗力に比例するから
Fsinα+mgcosα
となり、ビレット14がダミーブロック21の斜面を滑る力は、
Fcosα−Mgsinα
となる。従って、ビレット14が滑るときの条件は、
Fcosα−Mgsinα>μ(Fsinα+mgcosα)
となる。これを整理すると
F>mg(μ+tanα)/(1−μtanα)
となる。これより、上式(4)が得られる。
【0037】
また、D≦dとした理由は、D>dであると凹凸接触の際に、凹凸面の隙間が発生し、ステム移動によりビレット移動が幾何学的に起こりえなくなるからである。さらに、d<0.25×D3とした理由は、d≧0.25×D3となると凹凸部を単に無駄に大きくするだけでコスト高となるからである。
【0038】
なお、上述した第一の実施の形態の条件式(1)および式(4)は、後述する第二の実施の形態にも共通する。
【0039】
次に、図1で説明したビレット1をダミーブロック20を介して押出加工する押出機について説明する。図2は、本発明の第一の実施の形態におけるビレット1およびダミーブロック20がセットされた状態の押出機の断面図である。
【0040】
押出機は、コンテナ8と、ダイス7と、ステム9とを備える。超電導線材の材料となるビレット1を格納するコンテナ8は円筒状に形成されている。ダイス7はコンテナ8の一端の開口部側に、その開口を塞ぐようにダイス7が固定されている。ダイス7には、円錐孔(押出孔)17が形成され、その円錐孔17の中心軸をコンテナ8の軸心に一致させている。コンテナ8の軸心はビレット1の中心軸でもある。ダイス7の押出孔17は、円筒部17bとこれに連接する円錐部17aとからなる。円筒部17bに形成されている押出孔17の径は、製造する線材の外径と同じ大きさである。円錐部17aの内面には、ビレット1の前蓋5と接触してビレット1の前端をダイス7の中心軸と一致させるためのテーパ面5aが形成されている。
【0041】
コンテナ8の他端の開口部側には、ステム9が配置されている。ステム9は、その前端面がダミーブロック20の押出作用面と反対側の後端面に当接され、ダミーブロック20を介してビレット1に押圧力を印加するようになっている。ここで、ダイス7の円錐孔17、ステム9、及びダミーブロック20の各中心軸はそれぞれビレット1の中心軸1aに一致するように設置されている。
【0042】
(作用)
上記のような構成において、コンテナ8内に超電導線材の原材料となるビレット1とダミーブロック20とを供給し、コンテナ8の開口部からステム9をダミーブロック20に向かって挿入する。このとき、ダミーブロック20は、ステム9の内部にその中心軸を一致させて納められている。また、コンテナ8とビレット1との隙間10は数mm程度である。
【0043】
まず、ステム9によってダミーブロック20をビレット1に押し付け、ビレット1を加圧する。この加圧によって、ビレット1は塑性変形よってダイス7とダミーブロック20の間のコンテナ8内に充満する。この状態で、さらにステム9をコンテナ8内に挿入し、
次いで、ダミーブロック20は、ステム9からの加圧によって、ビレット1を円錐孔(押出孔)17から押し出しながらビレット1の押出加工を行う。ステム9が前進(図左方向に移動)してダミーブロック20を加圧し、ビレット1を塑性変形によって、円錐孔17から押し出し、超電導線材用の押出加工材が製造される。上述のようにして、本発明の一実施の形態の押出機によって、押出加工材が製造されることとなる。
【0044】
本実施の形態によれば、ビレット1の前蓋5前面はダイス7との円錐面接触により支持される。また、ビレット1の後蓋6後面はステム9のダミーブロック20の押出作用面との円錐凹凸嵌合により支持される。従って、ビレット1は前端部と後端部の2点で支持されることになり、ビレット前端部の1点で支持されるものと比べて、押出加工時にダイス7の中心軸に対してビレット1の中心軸1aをより正確に位置決めすることができる。
【0045】
また、ビレット1の円錐凹部6aの円錐面に、ダミーブロック20の円錐凸部20aの円錐面がぶつかったとき、ビレット1の円錐凹部6aがダミーブロック20の円錐凸部20aの円錐面を滑り、凹凸部が密に嵌合する方向にビレット位置を補正するので、ビレット1の後端部が自重で下がったとしても、ビレット1の中心軸1aを常にダイス7の押出孔17の中心軸に一致するよう確実に安定して支持できる。
【0046】
また、ビレット1とステム9との間に介在させたダミーブロック20に、ビレット1の後端部と嵌合する凹凸嵌合部の一方を設けているので、ダミーブロック20を介在させずに前記凹凸嵌合部の一方を直接ステム9に設ける場合に比して、ビレット1に対する緩衝機能が高くなるので、より確実に調芯が行える。
【0047】
また、押出加工中、ビレット1の後端部でビレット1を支持し続けているので、ビレット1がコンテナ8から押し出されるまで、ビレット1を安定して支持できる。
【0048】
[第二の実施の形態]
図3および図4に示す第二の実施の形態は、第一の実施の形態を変形したもので、凹部および凸部を円錐台で構成し、円錐台を面の略全面に設けた点である。なお、図3および図4において、先の図1および図2と同じ部分には、同一符号を付して又は付さずして説明を省略する。又、変形した部分であるビレット14、中心軸14a、後蓋16、円錐台凹部16a、ダミーブロック21、円錐台凸部20aは符号を改めてある。
【0049】
図3および図4に示すように、後蓋16の後端面の略全面を円錐台凹部16aで構成している。また、ダミーブロック21の押出作用面全面を円錐台凸部21aで構成し、ダミーブロック本体の最大外径d1と円錐台凸部21aの底面の径とを一致させている。
【0050】
本実施の形態において、前記円錐台凹部16aの最大開口部直径をD1、底部直径をD2、深さをHとし、前記ビレットの直径をD3とし、前記円錐台の底面の直径をd1、上面の直径をd2、高さをhとしたとき、次の3条件
D1≦d1 ・・・(5)
D2≦d2 ・・・(6)
H≦h ・・・(7)
を満足するように構成する。なお、h=(d1−d2)cotα/2である。
【0051】
D1≦d1としたのは、D1>d1であると凹凸接触の際に隙間が発生し、ステム移動によりビレット移動が幾何学的に起こりえなくなるからである。また、D2≦d2としたのは、D2>d2であると凹凸接触の際に隙間が発生し、押出ステム移動によりビレット移動が幾何学的に起こりえなくなるからである。H≦hとしたのは、H>hであると凹凸接触の際に隙間が発生し、ステム移動によりビレット移動が幾何学的に起こりえなくなる
からである。
【0052】
第二の実施の形態によっても、押出加工時にダイスの中心軸に対してビレットの中心軸を正確に位置決めすることができる。
【0053】
[第三の実施の形態]
図5に示す第三の実施の形態は、第二の実施の形態を変形したもので、円錐台を面の全面ではなく一部に設けた点である。なお、図5において、先の図3と同じ部分には、同一符号を付して説明を省略する。又、変形した部分であるビレット18、中心軸18a、後蓋26、円錐台凹部26a、ダミーブロック22、円錐台凸部22aは符号を改めてある。
【0054】
図5に示すように、円錐台凹部26aは後蓋26の後面の一部に設けられ、円錐台凸部22aはダミーブロック22の押出作用面の一部に設けられている。
本実施の形態において、前記円錐台凹部26aの最大開口部直径をD1、底部直径をD2、深さをHとし、前記ビレット18の直径をD3とし、前記円錐台凸部22aの底面の直径をd1、上面の直径をd2、高さをhとしたとき、上記3条件式(5)〜(7)に加えて
D2<0.25×D3 ・・・(8)
を満たすように構成する。D2<0.25×D3としたのは、D2≧0.25×D3であると、凹凸部を単に無駄に大きくするだけで、コスト高を招くからである。
【0055】
第三の実施の形態によっても、押出加工時にダイスの中心軸に対してビレットの中心軸を正確に位置決めすることができる。
【0056】
尚、本明細書に記載したビレットに関しては、超電導材料及び安定化銅の組成等は問わない。すなわち、複数の芯状の材料を束ねる、若しくは、筒状に管の中に複数の材料を挿入して構成される超電導用ビレットであれば、どんな材料でも適応できることに注意されたい。
【符号の説明】
【0057】
1 ビレット
1a ビレットの中心軸
5 前蓋(ビレットの前端面)
5a ビレット前端面に形成された円錐面
6 後蓋(ビレットの後端面)
6a 円錐凹部
20a 円錐凸部
7 ダイス
8 コンテナ
9 ステム(押圧部)
17a ダイスの円錐面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンテナ内に収納され、押圧部によってダイスの円錐孔から押出加工されるビレットと、
前記ビレットと該ビレットを押圧するステムとの間の前記コンテナ内に介在し、前記ビレットの後端面に対する押出作用面を有するダミーブロックとを備え、
前記ビレットの前端面に、前記ダイスの円錐孔面のテーパ角と同一のテーパ角が形成された円錐面を形成し、
前記ビレットの後端面または前記ダミーブロックの押出作用面のいずれか一方の面に、中心が前記ビレットまたは前記ダミーブロックの中心軸と一致する凹部を形成し、いずれか他方の面に、中心が前記ダミーブロックまたは前記ビレットの中心軸と一致する前記凹部と嵌合する凸部を形成し、
前記ダミーブロックを前記ビレットに当接させて、前記凹部と凸部を嵌合させることにより、前記ビレットの中心軸を前記ダイスの円錐孔の中心軸に調芯するようにしたビレット調芯構造。
【請求項2】
前記凹部および前記凸部が円錐面を有する円錐凹部および円錐凸部からそれぞれ構成され、
前記円錐面の前記中心軸に対する角度αが
40°<α<70°
を満足する請求項1に記載のビレット調芯構造。
【請求項3】
前記円錐凹部の開口部直径をD、前記ビレットの直径をD3、前記円錐凸部の付け根の直径をdとしたとき、
D≦d
d<0.25×D3
を満足する請求項2に記載のビレット調芯構造。
【請求項4】
前記凸部および前記凹部が円錐面を有する円錐台凸部および円錐台凹部からそれぞれ構成され、
前記円錐面の前記中心軸に対する角度をαとしたとき
40°<α<70°
を満足する請求項1に記載のビレット調芯構造。
【請求項5】
前記円錐台凹部の開口部直径をD1、底部直径をD2、深さをHとし、前記ビレットの直径をD3とし、前記円錐台凸部の下面の直径をd1、上面の直径をd2、高さをhとしたとき、
D1≦d1
D2≦d2
H≦h
D2<0.25×D3
を満足する請求項4に記載のビレット調芯構造。
【請求項6】
前記凸部および前記凹部が円錐面を有する円錐台および円錐台凹部からそれぞれ構成され、
前記円錐面の前記中心軸に対する角度αが
40°<α<70°
を満足する請求項1に記載のビレット調芯構造。
【請求項7】
前記円錐台凹部の開口部直径をD1、底部直径をD2、深さをHとし、前記ビレットの
直径をD3とし、前記円錐台の下面の直径をd1、上面の直径をd2、高さをhとしたとき、
D1≦d1
D2≦d2
H≦h
D2<0.25×D3
を満足する請求項6に記載のビレット調芯構造。
【請求項8】
前記ダミーブロックの押出作用面とビレット後端面の最大静止摩擦係数をμとすると、前記角度αが、
1>μ・tanα
を満足する請求項2ないし請求項7のいずれかに記載のビレット調芯構造。
【請求項9】
前記ビレットが複合金属材の製造用である請求項1ないし請求項8のいずれかに記載のビレット調芯構造。
【請求項10】
前記ビレットが超電導線材の製造用である請求項1ないし請求項8のいずれかに記載のビレット調芯構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−35271(P2012−35271A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−174744(P2010−174744)
【出願日】平成22年8月3日(2010.8.3)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】